(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155225
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】蒸気タービン翼及び蒸気タービン
(51)【国際特許分類】
F01D 9/02 20060101AFI20241024BHJP
F01D 25/32 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F01D9/02 103
F01D9/02 102
F01D25/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069732
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田畑 創一朗
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202GA08
3G202GA09
3G202GA10
3G202GB04
(57)【要約】
【課題】蒸気タービン翼の翼面から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制する。
【解決手段】本開示の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービン翼は、翼形部、を備え、蒸気タービンに用いられる蒸気タービン翼である。翼形部は、背側翼面における上流側の第1領域と、背側翼面において第1領域の後縁側で隣り合い、第1領域よりも親水性が低い第2領域と、を有する。第1領域と第2領域との境界位置は、前縁から最大キャンバ位置に対応する背側翼面上の第1位置までの範囲内に存在する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼形部、を備え、蒸気タービンに用いられる蒸気タービン翼であって、
前記翼形部は、
背側翼面における上流側の第1領域と、
前記背側翼面において前記第1領域の後縁側で隣り合い、前記第1領域よりも親水性が低い第2領域と、
を有し、
前記第1領域と前記第2領域との境界位置は、前縁から最大キャンバ位置に対応する前記背側翼面上の第1位置までの範囲内に存在する、
蒸気タービン翼。
【請求項2】
前記境界位置は、前記翼形部の最大翼厚位置に対応する前記背側翼面上の第2位置から前記翼形部のコード長の10%の長さの分だけ前縁側に向かってコード方向に離れた位置と、前記第2位置から前記コード長の10%の長さの分だけ前記後縁側に向かって前記コード方向に離れた位置との間に存在する、
請求項1に記載の蒸気タービン翼。
【請求項3】
前記蒸気タービン翼は、タービン静翼であり、
前記境界位置は、前記背側翼面における接線であって前記蒸気タービンのロータの軸方向に延在する仮想直線と前記背側翼面との接点よりも前記後縁側に存在する、
請求項1又は2に記載の蒸気タービン翼。
【請求項4】
前記第2領域は、前記第1領域よりも前記親水性を低下させるための施工が施されている、
請求項1又は2に記載の蒸気タービン翼。
【請求項5】
前記親水性を低下させるための施工は、撥水性被膜の形成である、
請求項4に記載の蒸気タービン翼。
【請求項6】
前記背側翼面において前記第2領域の前記後縁側で隣り合い、前記第2領域よりも前記親水性が高い第3領域、
を備える、
請求項1又は2に記載の蒸気タービン翼。
【請求項7】
前記第1領域は、前記第2領域よりも前記親水性を向上させるための施工が施されている、
請求項1又は2に記載の蒸気タービン翼。
【請求項8】
前記親水性を向上させるための施工は、親水性被膜の形成である、
請求項7に記載の蒸気タービン翼。
【請求項9】
前記翼形部は、腹側翼面における液相の水を回収するためのスリットが形成されている、
請求項1又は2に記載の蒸気タービン翼。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の蒸気タービン翼を備える蒸気タービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蒸気タービン翼及び蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン内を通過する蒸気は、上流側から下流側に向かうにつれてエネルギーを失い、温度と圧力が低下する。そのため、蒸気タービンの下流段では、蒸気の一部が凝縮して微細な水滴として気流中に存在しており、その水滴の一部はタービン静翼の表面に付着して翼面上ですぐに成長して液膜となる。この液膜がさらに成長して厚みが増すと、その一部が蒸気流によってちぎれて粗大液滴の状態で飛散する。飛散した液滴がタービン動翼に衝突すると、タービン動翼の回転が阻害されて制動損失が生じたり、エロージョンを発生させたりすることがある。
【0003】
そのため、例えば中空状の静翼の翼面に、静翼内部の内部空間と静翼の外部とを連通する微細なスリットを形成し、このスリットを介して、静翼の表面に付着した水分(液相)を圧力差によって内部空間に吸い込むことで、水滴の飛散を抑制することも行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静翼の腹側と背側の両面にスリットを設ける場合、スリット位置の圧力が背側と腹側で等しくないと、腹側のスリットから静翼の内部空間に吸引された水滴が背側のスリットから噴出するという事象が発生する。このため、スリットは静翼の腹側のみに施工される場合が多い。
静翼の背側にスリットが施工されていない場合、背側の翼面にて成長した液膜(水膜)は静翼の後縁まで到達し、そこから離脱した水滴は動翼に衝突し、エロージョン及び制動損失を発生させてしまう。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、蒸気タービン翼の翼面から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービン翼は、
翼形部、を備え、蒸気タービンに用いられる蒸気タービン翼であって、
前記翼形部は、
背側翼面における上流側の第1領域と、
前記背側翼面において前記第1領域の後縁側で隣り合い、前記第1領域よりも親水性が低い第2領域と、
を有し、
前記第1領域と前記第2領域との境界位置は、前縁から最大キャンバ位置に対応する前記背側翼面上の第1位置までの範囲内に存在する。
【0008】
(2)本開示の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービンは、上記(1)の構成の蒸気タービン翼を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、蒸気タービン翼の翼面から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る蒸気タービンの軸方向に沿った概略断面図である。
【
図2】周方向に間隔を空けて配置された複数の静翼について周方向に展開した図であり、翼高さ方向から見た各静翼の翼形部の断面の外形形状を示している。
【
図3】翼高さ方向から見た翼形部の断面の外形形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
まず、幾つかの実施形態に係る蒸気タービンの全体構成について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る蒸気タービンの軸方向に沿った概略断面図である。
図1に示すように、蒸気タービン1は、軸受6により中心軸Oを中心として回転自在に支持されるロータ2と、ロータ2に取付けられた複数段の動翼8と、ロータ2及び動翼8を収容する内側ケーシング10と、動翼8に対向するように内側ケーシング10に取付けられた複数段の静翼9と、を備えている。また、内側ケーシング10の外側には、外側ケーシング12が設けられている。このような蒸気タービン1は、蒸気入口3から内側ケーシング10に蒸気が導入されると、蒸気が静翼9を通過する際に膨張して増速されて、動翼8に対して仕事をしてロータ2を回転させるようになっている。
【0013】
また、蒸気タービン1は、排気室14を備えている。排気室14は、
図1に示すように、動翼8及び静翼9の下流側に位置している。内側ケーシング10内にて動翼8及び静翼9を通過した蒸気(蒸気流れFs)は、排気室入口11から排気室14に流入し、排気室14の内部を通り、排気室14の下方側に設けられた排気室出口13から蒸気タービン1の外部に排出される。幾つかの実施形態では、排気室14の下方には、不図示の復水器が設けられている。この場合には、蒸気タービン1で動翼8に対して仕事をし終えた蒸気は、排気室14から排気室出口13を介して復水器に流入するようになっている。
【0014】
各段に配置された各静翼9は、中心軸Oを中心とする周方向に間隔を空けて複数配置されている。各静翼9は、翼高さ方向、すなわち中心軸Oを中心とする径方向に延在する翼形部101を有する。
以下の説明では、中心軸Oを中心とする周方向を単に周方向とも称し、中心軸Oを中心とする径方向を単に径方向とも称し、中心軸Oを中心とする軸方向を単に軸方向とも称する。
図2は、周方向に間隔を空けて配置された複数の静翼9について周方向に展開した図であり、翼高さ方向から見た各静翼9の翼形部101の断面の外形形状を示している。
図3は、翼高さ方向から見た翼形部101の断面の外形形状を示す図である。
なお、
図2及び
図3は、翼形部101を翼高さ方向に直交する方向に沿った断面に表れる翼形部101の外形形状であってもよく、周方向に間隔を空けて複数配置される静翼9同士の間を通過する蒸気流れFsの流通方向に平行に周方向に沿って切断した断面に表れる翼形部101の外形形状であってもよい。
図3では、後述する各部の説明のために翼形部101のコード線、及びキャンバも図示している。
【0015】
以下の説明では、特に断りがない限り、静翼9は複数段の静翼9の内、下流側の段落における静翼9である。
幾つかの実施形態に係る静翼9は、翼形部101を有する。翼形部101は、背側翼面103と腹側翼面104とを有する。
【0016】
上述したように、背側翼面103にて成長した液膜(水膜)は静翼9の後縁106まで到達し、そこから離脱した水滴は静翼9の下流側に配置された動翼8に衝突し、エロージョン及び制動損失を発生させてしまう。
このようなエロージョン及び制動損失を抑制するため、幾つかの実施形態に係る静翼9は、以下で説明するような構成を有する。
【0017】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、翼形部101は、背側翼面103において、第1領域111と、第1領域111よりも相対的に親水性が低い第2領域112とを有する。
具体的には、幾つかの実施形態に係る静翼9では、翼形部101は、背側翼面103における上流側の第1領域111と、背側翼面103において第1領域111の後縁106側で隣り合い、第1領域111よりも親水性が低い第2領域112と、を有する。
図2及び
図3に表れる翼形部101の外形形状に関し、第1領域111と第2領域112との境界115が存在する境界位置Bは、前縁105から最大キャンバ位置Pcmaxに対応する背側翼面103上の第1位置P1までの範囲内に存在する。なお、最大キャンバ位置Pcmaxは、コード線を基準とするキャンバの高さが最大(最大キャンバCmax)となる位置である。
【0018】
幾つかの実施形態に係る静翼9の背側翼面103は、翼高さ方向(径方向)から見たときに凸形状を有しているため、上記構成のように第1領域111と第1領域111よりも親水性が低い第2領域112を設けることで第1領域111から境界位置Bを超えて第2領域112に到達した背側翼面103上の水が第2領域112で背側翼面103の凸形状に追従できなくなって背側翼面103から離脱し易くなる。
幾つかの実施形態に係る静翼9によれば、上記境界115が前縁105から第1位置P1までの範囲内に存在するので、上記境界115が第1位置P1よりも後縁106側に存在している場合と比べて、背側翼面103に付着している水膜が背側翼面103から離脱する位置(離脱位置)を前縁105側に近づけることができる。そのため、上記境界115が第1位置P1よりも後縁106側に存在している場合と比べて、該離脱位置から静翼9の下流側に位置する動翼8までの距離、すなわち離脱した水滴の移動距離を長くすることができる。これにより、上記境界115が第1位置P1よりも後縁106側に存在している場合と比べて、離脱した水滴の移動方向と気相(蒸気流れFs)の流れ方向との差を小さくすることができるので、静翼9の背側翼面103から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制できる。
【0019】
幾つかの実施形態に係る蒸気タービン1は、上述した静翼9を備えるので、静翼9の背側翼面103から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制でき、蒸気タービン1の耐久性及び効率を向上できる。
【0020】
なお、第1領域111及び第2領域112は、静翼9の背側翼面103において翼高さ方向の全域に設けられていてもよいし、翼高さ方向の一部の領域に設けられていてもよい。
また、第1領域111は、前縁105から境界位置Bまでの範囲であってもよく、前縁105から背側翼面103に沿って規定の距離だけ後縁106側に離れた位置から境界位置Bまでの範囲であってもよい。
第2領域112は、境界位置Bから後縁106までの範囲であってもよく、後述するように境界位置Bから後縁106よりも前縁105側の位置までの範囲であってもよい。
【0021】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、境界位置Bは、翼形部101の翼厚が最大翼厚Tmaxとなる最大翼厚位置Ptmaxに対応する背側翼面103上の第2位置P2から翼形部101のコード長Lcの10%の長さ(0.1Lc)の分だけ前縁105側に向かってコード方向に離れた位置と、第2位置P2からコード長の10%の長さ(0.1Lc)の分だけ後縁106側に向かってコード方向に離れた位置との間に存在するとよい。
第2位置P2を中心として上述した範囲内(±0.1Lc)に境界位置Bを設定することで水膜が離脱し易くなり、当該境界位置近傍から背側翼面103に付着している水膜が離脱すると、離脱した水滴の移動方向と気相(蒸気流れFs)の流れ方向との差を小さくすることができるので、エロージョン及び制動損失を低減することができる。
【0022】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、境界位置Bは、背側翼面103における接線であって軸方向に延在する仮想直線Lvと背側翼面103との接点TPよりも後縁106側に存在するとよい。
静翼9の上流側から静翼9に向かって流入する蒸気流れFsは、静翼9の腹側翼面104に近い角度で流入する。そのため、背側翼面103に付着している水膜は上記接点TPよりも後縁106側の領域において背側翼面103から離脱し易い。したがって、境界位置Bを接点TPよりも後縁106側に設定することで、背側翼面103に付着している水膜が上記接点TPよりも後縁106側の領域において背側翼面103からさらに離脱し易くなる。
【0023】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、第2領域112は、第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施されているとよい。これにより、第2領域112における親水性を第1領域111よりも低下させることができる。
親水性を低下させるための施工は、撥水性被膜の形成であってもよい。これにより、比較的容易に第2領域112における親水性を第1領域111よりも低下させることができる。
撥水性被膜としては、例えば揮発性、界面活性作用、及び防食性を有する揮発性アミン化合物(被膜性アミン)や、揮発性非アミン化合物が好適に用いられる。
なお、第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施された後の第2領域112における水の接触角は、100度以上であるとよい。
【0024】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、背側翼面103において第2領域112の後縁106側で隣り合い、第2領域112よりも親水性が高い第3領域113を備えていてもよい。これにより、第2領域112の範囲を狭めることができるので、第2領域112を設けるためのコスト、すなわち上述した、親水性を低下させるための施工に要するコストを抑制できる。
【0025】
なお、上述したように第1領域111から境界位置Bを超えて第2領域112に到達した背側翼面103上の水は、第2領域112で背側翼面103の凸形状に追従できなくなって背側翼面103から離脱する。そのため、上記境界115から第2領域112と第3領域113との境界までの背側翼面103上の距離は、第1領域111から境界位置Bを超えて第2領域112に到達した背側翼面103上の水が第2領域112内で背側翼面103から離脱するような距離に設定されるとよい。
【0026】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、第1領域111は、第2領域112よりも親水性を向上させるための施工が施されていてもよい。これにより、第1領域111における親水性を第2領域112よりも向上できる。
親水性を向上させるための施工は、親水性被膜の形成であってもよい。これにより、比較的容易に第1領域111における親水性を第2領域112よりも向上できる。
なお、親水性被膜は、例えばSiO2やTiO2等による薄い皮膜を第1領域111に形成することで得られる。
また、親水性を向上させるための施工は、第1領域111における背側翼面103に対する微細な凹凸をレーザエッチング等で形成する加工であってもよい。
第2領域112よりも親水性を向上させるための施工が施された後の第1領域111における水の接触角は、90度以下であるとよく、90度以下であれば70度以上であってもよい。
【0027】
幾つかの実施形態に係る静翼9では、翼形部101は、腹側翼面104における液相の水を回収するためのスリット107が形成されていてもよい。これにより、腹側翼面104から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制できる。
【0028】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
なお、第1領域111に親水性を向上させるための施工が施されている場合には、第2領域112には、第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施されていてもよく、施されていなくてもよい。
同様に、第2領域112に第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施されている場合には、第1領域111には親水性を向上させるための施工が施されていてもよく、施されていなくてもよい。
すなわち、相対的に第1領域111の方が第2領域112よりも親水性が高くなっていればよい。
【0029】
第3領域113が設けられている場合、第2領域112に第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施されている場合には、第3領域113には親水性を向上させるための施工が施されていてもよく、施されていなくてもよい。
第3領域113が設けられている場合、第2領域112に第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施されていない場合には、第3領域113には親水性を向上させるための施工が施されているとよい。
すなわち、相対的に第3領域113の方が第2領域112よりも親水性が高くなっていればよい。
【0030】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービン翼(静翼9)は、翼形部101、を備え、蒸気タービン1に用いられる蒸気タービン翼である。翼形部101は、背側翼面103における上流側の第1領域111と、背側翼面103において第1領域111の後縁106側で隣り合い、第1領域111よりも親水性が低い第2領域112と、を有する。第1領域111と第2領域112との境界位置Bは、前縁105から最大キャンバ位置Pcmaxに対応する背側翼面103上の第1位置P1までの範囲内に存在する。
【0031】
蒸気タービン翼(静翼9)の背側翼面103は、翼高さ方向から見たときに凸形状を有しているため、上記(1)の構成のように第1領域111と第1領域111よりも親水性が低い第2領域112を設けることで第1領域111から境界位置Bを超えて第2領域112に到達した背側翼面103上の水が第2領域112で背側翼面103の凸形状に追従できなくなって背側翼面103から離脱し易くなる。
上記(1)の構成によれば、上記境界位置Bが前縁105から第1位置P1までの範囲内に存在するので、上記境界位置Bが第1位置P1よりも後縁106側に存在している場合と比べて、背側翼面103に付着している水膜が背側翼面103から離脱する位置(離脱位置)を前縁105側に近づけることができる。そのため、上記境界位置Bが第1位置P1よりも後縁106側に存在している場合と比べて、離脱位置から蒸気タービン翼(静翼9)の下流側に位置する他の蒸気タービン翼(動翼8)までの距離、すなわち離脱した水滴の移動距離を長くすることができる。これにより、上記境界位置Bが第1位置P1よりも後縁106側に存在している場合と比べて、離脱した水滴の移動方向を気相(蒸気流れFs)の流れ方向との差を小さくすることができるので、蒸気タービン翼(静翼9)の背側翼面103から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制できる。
【0032】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、境界位置Bは、翼形部101の最大翼厚位置Ptmaxに対応する背側翼面103上の第2位置P2から翼形部101のコード長Lcの10%の長さ(0.1Lc)の分だけ前縁105側に向かってコード方向に離れた位置と、第2位置P2からコード長Lcの10%の長さ(0.1Lc)の分だけ後縁106側に向かってコード方向に離れた位置との間に存在するとよい。
【0033】
上記(2)の構成のように境界位置Bを設定することで、水膜が離脱し易くなり、当該境界位置近傍から背側翼面103に付着している水膜が離脱すると、離脱した水滴の移動方向と気相(蒸気流れFs)の流れ方向との差を小さくすることができるので、エロージョン及び制動損失を低減することができる。
【0034】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、蒸気タービン翼(静翼9)は、タービン静翼(静翼9)である。境界位置Bは、背側翼面103における接線であって蒸気タービン1のロータ2の軸方向に延在する仮想直線Lvと背側翼面103との接点TPよりも後縁106側に存在するとよい。
【0035】
タービン静翼(静翼9)の上流側からタービン静翼(静翼9)に向かって流入する気流(蒸気流れFs)は、静翼9の腹側翼面104に近い角度で流入する。そのため、背側翼面103に付着している水膜は上記接点TPよりも後縁106側の領域において背側翼面103から離脱し易い。
上記(3)の構成によれば、背側翼面103に付着している水膜が上記接点TPよりも後縁106側の領域において背側翼面103からさらに離脱し易くなる。
【0036】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、第2領域112は、第1領域111よりも親水性を低下させるための施工が施されているとよい。
【0037】
上記(4)の構成によれば、第2領域112における親水性を第1領域111よりも低下させることができる。
【0038】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、親水性を低下させるための施工は、撥水性被膜の形成であるとよい。
【0039】
上記(5)の構成によれば、比較的容易に第2領域112における親水性を第1領域111よりも低下させることができる。
【0040】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの構成において、背側翼面103において第2領域112の後縁106側で隣り合い、第2領域112よりも親水性が高い第3領域113を備えていてもよい。
【0041】
上記(6)の構成によれば、第2領域112の範囲を狭めることができる。これにより、第2領域112を設けるためのコストを抑制できる。
【0042】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの構成において、第1領域111は、第2領域112よりも親水性を向上させるための施工が施されていてもよい。
【0043】
上記(7)の構成によれば、第1領域111における親水性を第2領域112よりも向上できる。
【0044】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、親水性を向上させるための施工は、親水性被膜の形成であるとよい。
【0045】
上記(8)の構成によれば、比較的容易に第1領域111における親水性を第2領域112よりも向上できる。
【0046】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの構成において、翼形部101は、腹側翼面104における液相の水を回収するためのスリット107が形成されていてもよい。
【0047】
上記(9)の構成によれば、腹側翼面104から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制できる。
【0048】
(10)本開示の少なくとも一実施形態に係る蒸気タービン1は、上記(1)乃至(9)の何れかの構成の蒸気タービン翼(静翼9)を備える。
【0049】
上記(10)の構成によれば、蒸気タービン翼(静翼9)の背側翼面103から離脱した水滴によるエロージョン及び制動損失を抑制できるので、蒸気タービン1の耐久性及び効率を向上できる。
【符号の説明】
【0050】
1 蒸気タービン
2 ロータ
8 動翼
9 静翼
101 翼形部
103 背側翼面
104 腹側翼面
105 前縁
106 後縁
107 スリット
111 第1領域
112 第2領域
113 第3領域
115 境界