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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155233
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】固体酸化物型電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20241024BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04694 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20241024BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/12 101
H01M8/04537
H01M8/04694
H01M8/04664
H01M8/04313
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B15/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069788
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼耒 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】角谷 篤宏
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA15
4K021DB36
4K021DB53
5H126BB06
5H127AA07
5H127AC05
5H127DA20
5H127DB42
5H127DB49
5H127DB53
5H127DC41
5H127EE27
(57)【要約】
【課題】電気化学セルに生じる構造劣化を、経時劣化と区別して検出可能な固体酸化物型電池システムを提供する。
【解決手段】固体酸化物型電池システム1は、固体酸化物セラミックスを用いた電解質層20と、その第1面20aに設けた第1電極21及び反対側の第2面20bに設けた第2電極22とを有する電気化学セル2と、電気化学セル2の構造劣化を検出する劣化検出部10と、を備える。劣化検出部10は、第1電極21と第2電極22との間の電位差を検出する電位差検出部11と、検出された電位差の時間変化の傾向を監視する電位差監視部12と、電位差の時間変化の増減傾向に基づいて、電気化学セルの構造劣化の有無を判定する劣化判定部13と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物セラミックスを用いた電解質層(20)と、該電解質層の第1面(20a)に設けた第1電極(21)と、上記電解質層の上記第1面と反対側の第2面(20b)に設けた第2電極(22)と、を有する電気化学セル(2)と、
上記電気化学セルの構造劣化を検出する劣化検出部(10)と、を備える、固体酸化物型電池システム(1)であって、
上記劣化検出部は、
上記第1電極と上記第2電極との間の電位差を検出する電位差検出部(11)と、
検出された上記電位差の時間変化の傾向を監視する電位差監視部(12)と、
上記電位差の時間変化の増減傾向に基づいて、上記電気化学セルの構造劣化の有無を判定する劣化判定部(13)と、を有する、固体酸化物型電池システム。
【請求項2】
上記電位差監視部は、検出された上記電位差の時間変化の増減傾向を示すパラメータ値を算出し、
上記劣化判定部は、算出された上記パラメータ値が、正負反転傾向を示すときに、上記電気化学セルが構造劣化モードにあると判定する、請求項1に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項3】
上記電位差監視部は、上記パラメータ値として、検出された上記電位差の時間に対する二階微分値(d2V/d2t)を算出し、
上記劣化判定部は、上記電気化学セルの構造劣化による上記電位差の時間変化の増減傾向と、上記電気化学セルの経時劣化による上記電位差の時間変化の増減傾向との比較に基づいて、劣化判定のための閾値を設定する、請求項2に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項4】
上記劣化判定部は、上記パラメータ値が、負側の第1閾値(TH1)よりも小さい値となった後に、正側の第2閾値(TH2)よりも大きい値となったときに、上記電気化学セルが上記構造劣化モードにあると判定する、請求項3に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項5】
上記劣化判定部は、上記構造劣化モードにあると判定された回数をカウントするカウント部(132)を備え、上記カウント部によるカウント数(n)が、カウント閾値(THn)を超えたときに、上記電気化学セルが上記構造劣化モードにあると判定する、請求項3に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項6】
上記電気化学セルの経時劣化の状態を検出する経時劣化検出装置と、
上記劣化判定部の判定結果に基づいて、劣化異常の有無を判定する異常判定部(103)と、をさらに備え、
上記異常判定部は、上記劣化判定部において、上記電気化学セルが上記構造劣化モードにあると判定されており、かつ、上記経時劣化検出装置の検出結果から、上記電気化学セルが経時劣化の状態にないと判断されるときに、構造劣化による異常と判定して異常検出信号を出力する、請求項3又は4に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項7】
上記経時劣化検出装置は、導電性の被毒物を検出するための検出部(83)を備える被毒検出センサ(S1)であり、上記検出部は、絶縁性基板(84)に設けられた一対の電極(85)間における電気抵抗の変化を検出する、請求項6に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項8】
上記電気化学セルの構造劣化に伴う振動状態を検出する振動検出装置と、
上記劣化判定部の判定結果に基づいて、劣化異常の有無を判定する異常判定部(103)と、をさらに備え、
上記異常判定部は、上記劣化判定部において、上記電気化学セルが上記構造劣化モードにあると判定されており、かつ、上記振動検出装置の検出結果から、上記電気化学セルが構造劣化に伴う振動状態にあると判断されるときに、構造劣化による異常と判定して異常検出信号を出力する、請求項3又は4に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項9】
上記振動検出装置は、アコースティックエミッション法による検出部を備える振動検出センサ(S2)である、請求項8に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項10】
上記電位差監視部は、上記電位差検出部(11)において検出された上記電位差を、上記電気化学セルの経時劣化の基準プロフィールに基づく基準補正値(Vref)を用いて補正する、請求項3又は4に記載の固体酸化物型電池システム。
【請求項11】
上記電気化学セルは、発電動作又は電解動作が可能な可逆セルである、請求項3又は4に記載の固体酸化物型電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型の電気化学セルを用いた電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出量の削減やエネルギの安定供給といった観点から、可逆作動固体酸化物型セルを備える電池システムが検討されている。可逆作動固体酸化物型セルは、固体酸化物を電解質とし、電気化学プロセスを利用する電気化学セルであり、発電動作を行う固体酸化物型燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell;以下、SOFC)、あるいは、電解動作を行う固体酸化物型電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell;以下、SOEC)として機能する。
【0003】
このような電池システムは、電解質層の両側に燃料極と空気極とを接合した単セルを、セパレータを介して積層したセルスタックを備え、燃料極側の流路に水素を含む燃料ガスを供給し、空気極側の流路に酸素を含む酸化剤ガスを供給して、発電反応させる。また、その逆反応として、燃料極側へ供給される原料ガスの電解反応を生起させ、例えば、水蒸気の電気分解によって燃料ガスとなる水素を生成することができる。
【0004】
セルスタック内の流路へのガス供給や、排出ガス又は生成ガスの回収は、制御装置によって制御され、排熱や回収ガスを利用することによって、可逆作動型の電池システムを、効率よく運転することが可能になる。一方、電池システムは、比較的高温(例えば、600℃以上)で稼働されることから、セルスタックや配管等を構成する導電性部材には、例えば、Crを含む耐熱合金や耐熱鋼が用いられる。その場合に、高温の酸化雰囲気にて、Crの一部が蒸発すると、空気極に付着して電極反応を阻害するCr被毒を起こすことが知られている。
【0005】
経年により被毒物の付着が進むと、電池システムの性能が次第に低下し、所望の出力を効率よく得られなくなる。特許文献1には、このような電池特性の変化に対して、燃料電池発電システムに用いられる燃料電池の状態をリアルタイムで監視し、長期的な操作性を確保するための方法及び装置が開示されている。具体的には、複数のセルスタックを含む燃料電池モジュールの動作特性や、燃料処理モジュール等を含むシステム構成に応じて、システム各部が安定して動作するように制御しつつ、システムの構成要素から得られる動作データを受信する。そして、リアルタイムの運転データや、先行する運転データを用いて、潜在的な故障状態にあるか否かを判断し、その結果に応じて、アラートの発信又は故障状態を解消するための指示の送信といった対応が取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第10461347号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可逆作動固体酸化物型セルにおいて、燃料極には、例えば、Niを含むサーメット電極が用いられ、空気極には、例えば、ペロブスカイト型複合酸化物が用いられる。発電環境下において、燃料極は還元雰囲気となり、Niは還元されているが、運転停止時等に酸化剤ガスが混入すると、酸化されてNiOとなりやすい。そのためNi酸化が進むと、燃料極の体積膨張による応力が電解質層に加わり、微小な亀裂や層界面における剥離をまねくおそれがある。
【0008】
被毒物の付着等による劣化は、経時的に進行する性能低下であるのに対し、亀裂や剥離といった構造的な劣化は、電解質層の破損によるガス漏れ等につながる懸念がある。そのため、セルスタックの安全性を高める観点から、電気化学セルの構造的な劣化を、速やかに精度よく検出することが望まれている。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、電気化学セルに生じる構造劣化を、経時劣化と区別して検出可能な固体酸化物型電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、固体酸化物セラミックスを用いた電解質層(20)と、該電解質層の第1面(20a)に設けた第1電極(21)と、上記電解質層の上記第1面と反対側の第2面(20b)に設けた第2電極(22)と、を有する電気化学セル(2)と、
上記電気化学セルの構造劣化を検出する劣化検出部(10)と、を備える、固体酸化物型電池システム(1)であって、
上記劣化検出部は、
上記第1電極と上記第2電極との間の電位差を検出する電位差検出部(11)と、
検出された上記電位差の時間変化の傾向を監視する電位差監視部(12)と、
上記電位差の時間変化の増減傾向に基づいて、上記電気化学セルの構造劣化の有無を判定する劣化判定部(13)と、を有する、固体酸化物型電池システムにある。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の固体酸化物型電池システムにおいて、劣化検出部は、電位差検出部によって、電気化学セルの第1電極と第2電極との間の電位差を随時検出し、電位差監視部によって、その時間変化の傾向を監視する。被毒等による経時劣化では、徐々に出力が低下することから、その時間変化の大きさも連続的に推移するのに対し、構造劣化では、亀裂や剥離等の進展に伴い断続的な出力低下を示す。その場合には、電位差の時間変化の大きさが階段状に変化することから、その増減傾向に基づいて、通常の劣化との区別が可能な閾値等を予め設定し、劣化判定部により、構造劣化の有無を判定することができる。それにより、構造劣化の発生を早期に検出して、安全性を向上させることができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、電気化学セルに生じる構造劣化を、経時劣化と区別して検出可能な固体酸化物型電池システムを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における、固体酸化物型電池システムの全体構成を示す概略図。
図2】実施形態1における、セルスタックの概略構成を示す積層方向の模式的な断面図。
図3】実施形態1における、電気化学セルの発電動作を説明するための模式的な断面図。
図4】実施形態1における、電気化学セルの電解動作を説明するための模式的な断面図。
図5】実施形態1における、電気化学セルの劣化状態を説明するための模式的な断面図。
図6】実施形態1における、電気化学セルの劣化モードによる電圧特性の時間変化の傾向を比較して示す図。
図7】実施形態1における、電気化学セルの劣化モードによる電圧特性の時間変化の傾向と、dV/dt及びd2V/d2tに基づく劣化判定手法を説明するための図。
図8】実施形態1における、異常検出部による異常検出処理の手順を示すフローチャート図。
図9】実施例における、劣化検出部の構成を示すブロック図。
図10】実施形態2における、異常検出部による異常検出処理の手順を示すフローチャート図。
図11】実施形態3における、固体酸化物型電池システムの主要部構成を示す概略図。
図12】実施形態3における、被毒検出センサの全体構成を示す断面図及びその要部拡大断面図。
図13】実施形態3における、被毒検出センサによる被毒物の付着量と電流との関係を示すグラフ図。
図14】実施形態3における、異常検出部による異常検出処理の手順を示すフローチャート図。
図15】実施形態4における、セルスタックの全体構成を示す分解斜視図。
図16】実施形態4における、異常検出部による異常検出処理の手順を示すフローチャート図。
図17】実施形態5における、異常検出部による異常検出処理の手順を示すフローチャート図。
図18】実施形態5における、経時劣化試験による電圧の時間変化を示すグラフ図。
図19】実施形態5における、経時劣化試験と構造劣化試験による電圧の時間変化を比較して示す図。
図20】実施形態5における、劣化判定における反転回数を経時劣化と構造劣化とで比較して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
固体酸化物型電池システム(以下、適宜、電池システムと略称する)に係る実施形態について、図1図8を参照して説明する。図1図2に示されるように、電池システム1は、電気化学セル2を備えるセルスタックSと、電気化学セル2の構造劣化を検出する劣化検出部10と、を備える。電気化学セル2は、固体酸化物セラミックスを用いた電解質層20と、その両面に設けられた第1電極としての燃料極21と、第2電極としての空気極22と、を有する。劣化検出部10は、後述する異常検出部100の一部を構成している。
【0015】
本形態の電気化学セル2は、固体酸化物セラミックスを平板状に形成した電解質層20を備えており、その一方の板面である第1面20aに設けた燃料極21と、第1面20aと反対側の第2面20bに設けた空気極22とが、電解質層20を挟んで対向配置されている。セルスタックSは、このような構造の電気化学セル2を最小構成単位(以下、単セルと称する)として、複数の単セルを電気的に直列に接続することにより、所定の電力が得られるように構成されている。
【0016】
電気化学セル2は、燃料極21に燃料ガスを供給し、空気極22に供給される酸化剤ガスとの反応により、電気エネルギを発生させる発電動作を行うことができる。また、発電動作の逆動作として、電気エネルギによって、燃料極21に供給される原料ガスから燃料ガスを生成する電解動作を行うことができる。電気化学セル2は、発電動作時には、SOFCとして機能し、電解動作時には、SOECとして機能する。
【0017】
燃料ガスは、水素(H2)や水素を含有するガス等であり、例えば、原燃料を水蒸気改質して得られる改質ガスを用いることができる。原燃料としては、メタン(CH4)を主成分とする天然ガス、都市ガス、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)等の炭化水素系燃料を用いることができる。酸化剤ガスは、酸素(O2)や酸素を含有するガス等であり、例えば、空気を用いることができる。
【0018】
電気化学セル2は、燃料極21と空気極22との間の酸素分圧差を駆動力として、酸化剤ガス中の酸素がイオン化し、電解質層20を透過して、燃料ガス中の水素と反応する際に、電子を放出することで発電する。発電動作の全反応は、下記式(1)のようになる。
(発電反応)2H2+O2→H2+2H2O・・・(1)
また、電解動作の全反応は、下記式(2)のようになり、外部エネルギを与えて水蒸気(H2O)を分解することで、燃料極21側において水素を生成すると共に、空気極22側において酸素を生成する。
(電解反応)H2O→H2+1/2O2・・・(2)
【0019】
劣化検出部10は、電位差検出部11と、電位差監視部12と、劣化判定部13と、を有する。電位差検出部11は、燃料極21と空気極22との間の電位差を検出しており、電位差監視部12において、検出された電位差の時間変化の傾向を監視することができる。そして、劣化判定部13において、電位差の時間変化の増減傾向に基づいて、電気化学セル2の構造劣化の有無を判定する。
【0020】
具体的には、電位差監視部12は、電位差検出部11にて検出された電位差から、その時間変化の増減傾向を示すパラメータ値を算出する。その場合には、劣化判定部13において、電位差監視部12にて算出されたパラメータ値が、正負反転する傾向を示すときに、電気化学セル2の構造劣化が生じていると判定することができる。
【0021】
好適には、電位差監視部12は、パラメータ値として、検出された電位差の時間に対する二階微分値(d2V/d2t)を算出することができる。また、劣化判定部13は、電気化学セル2の構造劣化による電位差の時間変化の増減傾向と、電気化学セル2の経時劣化による電位差の時間変化の増減傾向との比較に基づいて、劣化判定のための閾値TH1、TH2を予め設定しておくことができる。これにより、算出されたパラメータ値と、閾値TH1、TH2とを比較して、電気化学セル2の構造劣化による異常の有無を、経時劣化と区別して判定することができる。
【0022】
このようにして、電池システム1の主要部を構成する電気化学セル2の状態を、劣化検出部10において常時監視し、構造的な劣化の発生を早期に検出することができる。また、電位差の変化の傾向の違いに基づいて、経時的な劣化と区別して精度よい検出が可能であり、システムの停止や報知といった適切な対応により、システムの安全性を高めることができる。
【0023】
以下、本形態の電池システム1の全体構成と各部の詳細について、説明する。
図1において、本形態の電池システム1は、発電動作と電解動作とを切り替えて運転することができる燃料電池モジュールMと、燃料電池モジュールMの作動を制御する電池制御部Cと、を有する。燃料電池モジュールMは、第1ポンプP1を介して、燃料ガスの供給源Fと接続されると共に、第2ポンプP2を介して、酸化剤ガスの供給源Aと接続されている。燃料電池モジュールMの排出側には、燃料回収部3が接続される。
【0024】
電池制御部Cは、燃料電池モジュールMの異常を検出するための異常検出部100を有する。電池制御部Cには、報知部ALが設けられ、異常検出部100から異常検出信号が出力されたときに、例えば、警告灯の点灯や警告音により、異常の発生を外部へ知らせることができる。電池システム1は、例えば、商用又は家庭用の定置式コージェネレーションシステム等に適用されて、燃料電池モジュールMにおいて発電を行うと共に発電に使用される燃料を製造することができる。
【0025】
(燃料電池モジュールM)
燃料電池モジュールMは、電気化学セル2を備えるセルスタックSと、電気化学セル2の燃料極21へ燃料ガスを供給する第1供給流路201と、空気極22へ酸化剤ガスを供給する第2供給流路202と、を有する。第1供給流路201には、水蒸気を生成する蒸発器203を配置することができ、蒸発器203は、第3ポンプP3及び第3供給流路204を介して、水の供給源Wに接続される。燃料ガスは、蒸発器203にて生成した水蒸気と共に、第1供給流路201からセルスタックSへ導入される。
【0026】
セルスタックSに供給される燃料ガスが、水素を含む改質ガスである場合には、燃料電池モジュールMに、図示しない改質部が設けられる。蒸発器203は、改質部の一部を構成し、第3供給流路204から供給される水を蒸発させて生成した水蒸気を用いて、原燃料に含まれるメタン等の炭化水素を改質反応させて、水素リッチな改質ガスを生成し、燃料ガスとすることができる。
メタンと水との改質反応は、一般に、下記式(3)のようになる。
(改質反応)CH4+H2O→3H2+CO・・・(3)
【0027】
セルスタックSにおいて、発電動作により発生する電力は、図示しない電力変換回路へ出力され、外部負荷への給電に用いることができる。セルスタックSには、燃料極21における第1供給流路201と反対側に、第1排出流路211が設けられ、第1オフガスが排出される。空気極22における第2供給流路202と反対側には、第2排出流路212が設けられ、第2オフガスが排出される。燃料電池モジュールMにおいて、蒸発器203よりも上流側の第1供給流路201に、原燃料から硫黄成分を除去するための水添脱硫器を設けることもできる。
【0028】
第2供給流路202には、電気化学セル2の経時劣化の状態を検出する経時劣化検出装置として、被毒検出センサS1が設けられており、セルスタックSの空気極22側へ供給される燃料ガス中の被毒物を検出することができる。また、セルスタックSには、電気化学セル2の構造劣化に伴う振動状態を検出する振動検出装置として、振動検出センサS2が設けられており、セルスタックSの内部において生じる振動を検出することができる。これら検出結果は、異常検出部100における異常判定の確度を高めるために用いられる。被毒検出センサS1又は振動検出センサS2を設けない構成とすることもできる。
【0029】
(燃料回収部3)
燃料回収部3は、回収流路301と、熱交換器31及びセパレータ32と、圧縮機33と、バッファタンク34と、を備える。セルスタックSの燃料極21側に設けられる第1排出流路211は、回収流路301の一部をなしており、燃料極21から排出される高温の第1オフガスは、熱交換器31において冷却され、セパレータ32にて気液分離される。気相である水素は、圧縮機33で圧縮されて、バッファタンク34に回収される。
【0030】
バッファタンク34は、循環流路302により、第1供給流路201に接続されており、バッファタンク34に貯蔵された水素を、第1供給流路201に循環させることができる。セパレータ32にて分離された液相の水は、図示しない流路から排水されるか回収して再利用することができる。熱交換器31における排熱を、燃料電池モジュールMの各部の加熱又は保温等に利用することもできる。
【0031】
(被毒検出センサS1、振動検出センサS2)
被毒検出センサS1は、空気極22の経時劣化の要因となり得るCr等の被毒物を検出する。被毒検出センサS1の構成は、特に制限されないが、例えば、第2供給流路202を流通する酸化剤ガスに含まれるCrを捕捉し、その量に応じたセンサ信号を出力可能な検出部を備えるものが用いられる。
【0032】
振動検出センサS2は、電気化学セル2の構造劣化に伴って発生する振動を検出する。振動検出センサS2の構成は、特に制限されないが、例えば、公知のアコースティック・エミッション(Acoustic Emission;以下、AEと称する)法を利用した検出部を備えるものが用いられる。AEは、材料の変形又は破壊により、内部に蓄えられていた弾性エネルギがAE波として放出される現象であり、振動検出センサS2の検出部は、放出されるエネルギに応じたセンサ信号を出力可能な構成とすることができる。
【0033】
被毒検出センサS1及び振動検出センサS2からのセンサ信号は、電池制御部Cの異常検出部100に入力される。被毒検出センサS1又は振動検出センサS2を用いた異常検出の手順については、後述する。
【0034】
(電池制御部C)
電池制御部Cは、CPU、ROM、RAM等からなる公知のマイクロコンピュータにて構成されている。電池制御部Cには、被毒検出センサS1及び振動検出センサS2の他、電池システム1の各部に設けられる図示しない各種センサからの信号が入力される。電池制御部Cは、これら信号や外部からの運転指令に基づいて、第1~第3ポンプP1~P3を駆動し、燃料電池モジュールMに供給される流体の流量や温度等を調整し、セルスタックSにおける発電動作及び電解動作を制御する。また、燃料電池モジュールMに接続される燃料回収部3の各部や、図示しない補機類を駆動して、電池システム1の全体を制御する。
【0035】
電池制御部Cの異常検出部100には、劣化検出部10の信号が入力される異常判定部103を設けることができる。また、被毒検出センサS1からの信号に基づく被毒判定部101と、振動検出センサS2からの信号に基づく振動判定部102とを設けることができる。その場合には、異常判定部103に、劣化検出部10からの信号の他、被毒判定部101と振動判定部102からの信号が入力され、異常判定部103はこれら信号に基づいて、劣化異常の有無を判定することができる。劣化検出部10を含む異常検出部100の詳細と作動については、後述する。
【0036】
(セルスタックS)
次に、セルスタックSの構造の一例について、説明する。図2に示すように、セルスタックSは、単セルである電気化学セル2と、セパレータ4とが、交互に積層された積層体構造を有する。積層体の積層方向を以降、X方向とし、X方向と直交する方向を、Y方向と称するものとする。X方向において、電気化学セル2の両側には、セパレータ4との間に、第1流路221又は第2流路222が形成されている。セルスタックSの両端には、一対のエンドプレートPが配置されて、所定数の電気化学セル2及びセパレータ4を含む積層体を、X方向から挟持している。
【0037】
X方向において、電気化学セル2の燃料極21側には、燃料ガスが供給される第1流路221が形成されており、空気極22側には、酸化剤ガスが供給される第2流路222が形成される。第1流路221及び第2流路222において、燃料ガス又は酸化剤ガスは、Y方向、すなわち、燃料極21又は空気極22の表面と平行な方向に流れる。なお、図2に矢印で示す第1流路221及び第2流路222へのガス導入方向は、ガス流れを模式的に説明するためのもので、同一方向である必要はない。
【0038】
セパレータ4は、隣り合う単セル同士を電気的に接続すると共に、隣り合う単セルの第1流路221と第2流路222との間を区画し、燃料ガスと酸化剤ガスとを分離する隔壁を構成している。セパレータ4は、例えば、ステンレス鋼、耐熱Cr合金、耐熱NiCr合金等の耐熱性の金属板材にて構成することができる。単セルの第1流路221は、第1供給流路201及び第1排出流路211に連通し、第2流路222は、第2供給流路202及び第2排出流路212に連通する。
【0039】
(電気化学セル2)
電気化学セル2は、電解質層20の第1面20a(図2における下面)側に、燃料極21が積層され、X方向において反対側に位置する第2面20b(図2における上面)側に空気極22が積層されている。燃料極21の外側には、電気化学セル2を支持する支持体層5が配置される。
【0040】
電気化学セル2の各層を構成する材料は、必ずしも限定されるものではなく、公知の材料から適宜選択することができる。例えば、電解質層20となる固体酸化物セラミックスとしては、Y、Sc、Sm、Gd、Ce及びZrのうち少なくとも1つを含む複合酸化物が挙げられる。好適には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の酸化物イオン伝導性を有するジルコニア系酸化物や、Smをドープしたサマリアドープドセリア(SDC)、Gdをドープしたガドリアドープドセリア(GDC)等のセリア系酸化物等を用いることができる。燃料極21の材料としては、例えば、Ni、NiO等の触媒と、YSZ又はSDC等との混合物を用いることができる。空気極22の材料としては、例えば、La-Sr-Co系酸化物(LSC)、La-Sr-Co-Fe系酸化物(LSCF)等の遷移金属ペロブスカイト型複合酸化物を用いることができる。
【0041】
燃料極21及び空気極22は、多孔質に形成され、供給される燃料ガスや酸化剤ガスを拡散させつつ、十分な電子伝導性やイオン伝導性を有して、電極反応が良好に進行するように、材料の配合や気孔率等が適宜調整される。その場合には、各極は一層又は複層構造とすることができ、例えば、燃料極21において、電極反応が主に生じる反応層の外側に拡散層が配置された構成としてもよい。
【0042】
また、空気極22において、電解質層20と空気極22との間に、材料の異なる中間層を配置する構成とすることもできる。中間層と電解質層20との間に接合層を介在させた構成としてもよい。これら各層の材料は、適宜選択することができる。
【0043】
電気化学セル2の各層は、多孔質の膜状又は板状に形成される。支持体層5は、多数の貫通孔を有する金属板材にて構成され、電解質層20の第1面20a側を支持すると共に、貫通孔を介して燃料ガスを供給する。支持体層5の材料としては、例えば、ステンレス鋼、耐熱Cr合金、耐熱CrNi合金等が挙げられる。
【0044】
具体的には、電気化学セル2は、例えば、支持体層5を一部とするセルフレームにて外周が支持される構成とすることができる。その場合には、X方向において、セルフレームの両側に配置されるセパレータ4との間に、第1流路221又は第2流路222が形成される。空気極22は、第2流路222に配置される集電体を介して、セパレータ4と電気的に接続される構成とすることができる。
【0045】
セルスタックSは、このような単セルと流路を含む積層パターンが、一対のエンドプレートPの間に順次繰り返されることにより、構成される。セルスタックSの構成部材には、図示しないボルト挿通孔が設けられ、ボルト及びナットを用いて締付固定される。
【0046】
(発電動作、電解動作)
図1において、上記構成のセルスタックSを備える燃料電池モジュールMは、SOFCとSOECの両方の動作が可能であり、電気化学セル2は、図3図5に示すように、SOFCによる発電動作とSOECによる電解動作を切り替え可能な固体酸化物型可逆セル( Solid Oxide Reversible Cell;以下、SORCと称する)として機能する。SORCは、SOFCにより発電した電力を外部へ供給すると共に、SOECにより発電用の燃料ガスを製造することができる。
【0047】
なお、図示の構成例では、電解質層20の空気極22側に中間層23が介在し、燃料極21は反応層21aの外側に拡散層21bが配置された複層構造となっている。
【0048】
図3図5に示すように、SOFCによる発電動作を行う場合には、電気化学セル2の第1流路221に水素を含む燃料ガスが供給され、第2流路222に酸化剤ガスとして空気が供給される。燃料ガス中の水素は、支持体層5の貫通孔を通過して、燃料極21の拡散層21bを拡散し、反応層21aへ移動する。
【0049】
一方、空気中の酸素は、空気極22において、集電体51(例えば、図5参照)を介して電子(e-)を受け取って、酸化物イオン(O2-)となり、酸化物イオン伝導性を有する中間層23及び電解質層20を経て、燃料極21へ移動する。酸化物イオンは、反応層21aにおいて水素と反応し、水を生成すると共に電子を放出する。生成された水は、拡散層21b及び支持体層5を経て、第1流路221へ排出される。
【0050】
このとき、燃料極21及び空気極22における反応は、それぞれ、下記式(11)、式(12)のようになり、発電動作の全反応は、上述したように、式(1)で表される。
(燃料極21) 2H2+2O2-→2H2O+4e-・・・(11)
(空気極22) O2+4e-→2O2-・・・(12)
(発電反応) 2H2+O2→H2+2H2O・・・(1)
水の生成に伴い、放出された電子は、支持体層5を介して外部回路へ取り出され、燃料極21から空気極22へ向かう方向(電流Iと逆の方向)に流れる。燃料極21と空気極22の間に生じる電位差(発電電圧)Vは、電圧計7により測定される。
【0051】
図4に示すように、SOECによる電解動作を行う場合には、電気化学セル2の第1流路221に水を含む原料ガスが供給される。原料ガス中の水蒸気は、支持体層5の貫通孔を通過して、燃料極21の拡散層21bを拡散し、反応層21aへ移動する。一方、燃料極21と空気極22の間には電源Bが接続されており、負極となる燃料極21の反応層21aにおいて、水の電気分解により、水素と酸化物イオンが生成する。生成された水素は、拡散層21b及び支持体層5を経て、第1流路221へ排出される。また、酸化物イオンは、電解質層20及び中間層を経て、空気極22へ移動し、電子を放出して酸素を生成する。
【0052】
このとき、燃料極21及び空気極22における反応は、それぞれ、下記式(21)、式(22)のようになり、電解動作の全反応は、上述したように、式(2)で表される。
(燃料極21) H2O+2e-→H2+O2-・・・(21)
(空気極22) O2-→1/2O2+2e-・・・(22)
(電解反応) H2O→H2+1/2O2・・・(2)
【0053】
ここで、電池システム1の運転時には、上記反応を効率よく進めるために、セルスタックSの作動温度が、例えば、600℃以上、好適には、700℃~1000℃程度の高温となる。また、定置式のシステムに利用される場合には、比較的長期にわたり連続運転されることになる。その場合には、運転中の安全性を確保することが重要であり、劣化等により安全性が懸念される場合には、システムを停止させる等の機能を設けることが望ましい。そのため、電池システム1は、電池制御部Cを用いて運転を適切に制御しつつ、運転状態を監視し、劣化等の異常を検出可能とするために、異常検出部100を設けている。
【0054】
(異常検出部100、劣化検出部10)
図5に示すように、燃料電池モジュールMにおけるセルスタックSの劣化モードとしては、被毒物の付着による劣化である経時劣化モード(I)と、電気化学セル2の構造的な劣化である構造劣化モード(II)とがある。経時劣化モード(I)は、空気極22のCr被毒として知られており、高温での運転により金属部材に含まれるCrが酸化して蒸散することにより生じる。図示する発電環境下で、第2流路222に供給される空気と共に、Crを含む蒸気が空気極22に到達し、空気極22にCr酸化物(Cr23)が付着すると、空気極22の機能が阻害されるおそれがある。
【0055】
構造劣化モード(II)は、電気化学セル2の構成層に生じる割れaや層間の剥離bといった劣化であり、燃料極21の材料に含まれるNiの酸化による燃料極21の体積膨張に起因していると考えられる。発電環境下では、燃料極21側の第1流路221に燃料ガスが供給されて還元雰囲気となっているものの、運転停止時等に何らかの理由で酸化雰囲気となると、還元されていたNiが酸化されて、燃料極21の体積膨張が生じるおそれがある。この体積膨張による応力が電解質層20に加わると、微小な亀裂aが生じたり、隣り合う層の間で剥離bが生じたりすることで、性能が低下しやすくなり、亀裂aや剥離bがさらに進展して、電解質層20の破損等につながる懸念がある。
【0056】
経時劣化モード(I)は、経年による劣化であり、通常は報知等の対応はなされない。あるいは、高温での運転時間が多くなるほど被毒物の付着量が増加することから、運転期間や条件等から劣化の進行を予測し、制御条件を調整する対応も可能である。これに対して、構造劣化モード(II)は、劣化の発生や進行を予測することが難しく、また、劣化の発生状態によっては、安全性の低下が懸念されることから、速やかな報知やシステム停止が望ましい場合がある。そのため、電池制御部Cには、構造劣化モード(II)を、経時劣化モード(I)と区別して検出するための劣化検出部10が設けられる。
【0057】
図6中に破線で示すように、通常の経時劣化モード(I)による発電電圧Vの時間推移は、運転開始からしばらくの間、比較的大きな電圧低下を示し、その後、時間経過に伴う電圧低下は徐々に小さくなって、緩やかに収束に向かう。そのため、図6中に実線で示すように、運転初期に、構造劣化モード(II)による電圧低下が生じたとしても、経時劣化モード(I)との区別は容易でない。その結果、電解質層20の破損等の重大な劣化につながるおそれがある。その場合には、発電性能が低下するだけでなく、破損部を介して燃料ガス側と酸化剤ガス側が連通し、安全性を低下させる懸念があることから、重大な劣化に至る前に、異常を検出することが重要となる。
【0058】
ここで、図6における運転初期の一部期間を、図7の(a)に拡大して示すように、経時劣化モード(I)の場合は、発電電圧Vが時間と共に連続的に降下するなだらかな曲線状の特性線となるのに対し、構造劣化モード(II)の場合は、発電電圧Vが断続的に降下する階段状の特性線となる。劣化検出部10は、このような電圧特性の時間変化の傾向の違いから、劣化モードを区別するものであり、具体的には、図7の(b)、(c)に示すように、発電電圧Vの時間変化を示す時間微分値dV/dtと、その増減傾向を示す二階微分値d2V/d2tを算出して、その推移を監視することにより、異常の有無を判定することができる。
【0059】
図8は、異常検出部100による異常検出処理の手順を示すフローチャートである。劣化検出部10は、図1における電位差検出部11により、電圧計7から出力される電圧信号を取り込んで、電気化学セル2の燃料極21と空気極22の間の電位差Vを随時検出している。ステップS101、S102は、劣化検出部10の電位差監視部12に対応し、ステップS103~S105は、劣化判定部13に対応する。また、ステップS106は、異常判定部103に対応する。
【0060】
本処理が開始されると、まず、ステップS101において、検出された電位差Vに基づいて、検出された区間内における電位差Vの時間微分値dV/dtを算出し、次いで、ステップS102に進んで、区間内における電位差Vの二階微分値d2V/d2tを算出する。時間微分値dV/dtは、図7の(a)に示される特性線の傾きに相当し、図7の(b)に示すように、経時劣化モード(I)の場合は、時間微分値dV/dtが連続的に増加している。これに対し、構造劣化モード(II)の場合は、時間微分値dV/dtが階段状に断続的に増加して、経時劣化モード(I)の値を上回るようになる。ただし、時間微分値dV/dtの値のみで2つの劣化モードを区別することは容易でない。
【0061】
一方、図7の(c)に示すように、二階微分値d2V/d2tは、時間微分値dV/dtの値の変化を示し、経時劣化モード(I)の場合は、ほぼ略0で一定であるのに対し、構造劣化モード(II)の場合は、発電電圧Vの降下に伴い増減する。具体的には、階段状に立ち下がる時点で、二階微分値d2V/d2tが負側に変化した後、正側へ転じる正負反転傾向を示す。そこで、二階微分値d2V/d2tの負側における第1閾値TH1と、正側における第2閾値TH2(すなわち、TH1<TH2)を予め設定し、二階微分値d2V/d2tを、時間微分値dV/dtの増減傾向を示すパラメータ値として用いて、発電電圧Vの階段状の降下を検出する。
【0062】
ステップS103では、所定の区間に算出された二階微分値d2V/d2t(Δ2(t))を、第1閾値TH1と比較し、第1閾値TH1よりも小さいか否かを判定する。ステップS103が肯定判定された場合には、ステップS104へ進み、否定判定された場合には、ステップS101へ戻る。ステップS104では、続く区間における二階微分値d2V/d2t(Δ2(t+Δt))を、ステップS101、S102と同様にして算出し、第2閾値TH2と比較して、第2閾値TH2よりも大きいか否かを判定する。ステップS104が肯定判定された場合には、ステップS105へ進み、否定判定された場合には、ステップS101へ戻る。
【0063】
ステップS105では、二階微分値d2V/d2tが、第1閾値TH1を下回った後、第2閾値TH2を上回ったとして、構造劣化モード(II)に相当する警戒モードにあると判断し、異常判定部103へ劣化検出信号を出力する。これに基づいて、ステップS106において、異常判定部103から異常検出信号を出力し、報知部ALを用いてユーザに警告することができる。その後、本処理を終了する。
【0064】
異常検出信号の出力に先立ち、異常判定部103において、劣化検出信号に被毒判定部101又は振動判定部102の判定結果を組み合わせて、異常判定を行うこともできる。例えば、被毒検出センサS1から経時劣化モード(I)を示す被毒検出信号が入力されている場合には、被毒劣化による電圧降下分を考慮して、構造劣化の可能性が高い場合のみ、異常検出信号を出力するようにしてもよい。あるいは、振動検出センサS2から構造劣化モード(II)を示す振動検出信号が入力されている場合には、構造劣化の可能性が高いと判断し、システム停止するようにしてもよい。
【0065】
このように、本形態によれば、二階微分値d2V/d2tを、電位差Vの時間変化の傾向を示すパラメータ値として用い、第1閾値TH1及び第2閾値TH2と比較することにより、階段状の電圧降下を検出することができる。そして、構造劣化モード(II)の有無を、経時劣化モード(I)と区別して、精度よく検出することができる。
【0066】
(実施形態2)
本形態は、図9に示すように、電池制御部Cにおける劣化検出部10の構成を変更し、劣化判定部13に、二階微分値d2V/d2tを用いた劣化モードの判定を行う劣化モード判定部131と、その判定回数をカウントするカウント部132を設けた形態である。電池制御部Cのその他の構成、電池システム1の基本構成は、実施形態1と同様である。 なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0067】
劣化モード判定部131は、電位差監視部12で算出された二階微分値d2V/d2tと、2つの閾値TH1、TH2との比較に基づいて、構造劣化モード(II)と判定されたときに、判定信号を出力する。カウント部132は、判定信号に基づいて、構造劣化モード(II)と判定された回数をカウントする。劣化判定部13は、この判定とカウントを繰り返し行い、カウント数Nが、予め設定されたカウント閾値THnを超えたときに、構造劣化モード(II)に相当する警戒モードにあると判断して、劣化検出信号を出力することができる。
【0068】
図10は、本形態による異常検出処理の手順を示すフローチャートであり、このステップS201、S202は、図8におけるステップS101~S104に相当する。まず、ステップS201において、電位差Vの二階微分値d2V/d2tを、時間変化の傾向を示すパラメータ値として、上述したステップS101、S102と同様に算出する。次いで、ステップS202において、算出された二階微分値d2V/d2tを用いて、上述したステップS103、S104と同様に劣化モード判定を行う。
【0069】
ステップS202~S204は、劣化判定部13に対応する処理であり、ステップS202は、劣化モード判定部131に対応する。ステップS202では、二階微分値d2V/d2tと2つの閾値TH1、TH2との比較により、構造劣化モード(II)か否かが判定される。ステップS202が肯定判定された場合には、ステップS203へ進み、否定判定された場合には、ステップS201へ戻る。
【0070】
ステップS203は、カウント部132に対応する処理であり、ステップS202において肯定判定された回数を、カウント数Nとして記憶する。具体的には、前回のカウント数N+1を、今回のカウント数Nとして更新する。次いで、ステップS204に進み、今回のカウント数Nが、カウント閾値THnを超えたか否かを判定する。ステップS204が肯定判定された場合には、異常判定部103へ劣化検出信号を出力して、ステップS205へ進み、否定判定された場合には、ステップS201へ戻る。
【0071】
カウント閾値THnは、特に限定されないが、図7(d)に示されるカウント数Nと二階微分値d2V/d2tとの関係から、例えば、4回以上の任意の数とすることができる。カウント閾値THnの設定によっては、警戒モードの報知に加えて、システムの緊急停止等の対応を取るようにすることもできる。
【0072】
ステップS205は、図8におけるステップS106に相当する処理であり、異常判定部103において、劣化判定部13からの劣化検出信号に基づいて、報知部ALへ異常検出信号が出力され、ユーザに報知される。さらに、続くステップS206において、システム停止信号が出力され、電池制御部Cによる燃料電池モジュールMの運転が停止される。その後、本処理を終了する。
【0073】
本形態によれば、二階微分値d2V/d2tを用いた構造劣化モード(II)の判定回数に基づいて、異常の有無を判定するので、誤検出のおそれが小さくなり、精度よい検出が可能になる。また、カウント閾値THnを適正に設定し、安全性が懸念される場合に、速やかに電池システム1を停止させることで、システムの信頼性が向上する。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0074】
(実施形態3)
本形態は、図11に示すように、燃料電池モジュールMに被毒検出センサS1を設けた電池システム1の具体的な構成例を示す形態である。被毒検出センサS1は、図12に示すように、被毒物の付着による電気抵抗の変化を検出する抵抗検出型の検出部を備えるセンサとすることができる。
その他の電池システム1の構成は、実施形態1と同様である。
【0075】
図11において、被毒検出センサS1は、電気化学セル2の空気極22側に接続される第2供給流路202において、セルスタックSへの入口部に近い配管部に取り付けられる。取り付け位置の上流側には、導入される空気を予熱するための予熱器205が設けられる。また、第2供給流路202において、蒸発器203の上流側に脱硫器206が配置され、下流側に、エジェクタ207、改質器208が配置される。
【0076】
セルスタックSの出口側には、燃焼器35が設けられ、第1、第2排出流路211、212が接続される。燃焼器35は、燃料回収部3の一部を構成し、第1排出流路211からの第1オフガスに含まれる燃料ガスを燃焼させることにより、高温の燃焼ガスを改質器208及び予熱器205へ導入される。また、第1オフガスの一部は、回収流路301からエジェクタ207へ導入され、第1供給流路201への燃料ガスの一部は、アシスト流路231から第1ポンプP1の上流側へ導入される。アシスト流路231には、流量調整弁232が設けられ、エジェクタ207における駆動流をアシストする。この駆動流により第1オフガスが回収流路301から吸引され、エジェクタ207に設けられるノズルから噴射される駆動流と混合される。
【0077】
図12において、被毒検出センサS1は、第2供給流路202となる配管部の管壁に固定されるハウジング81と、ハウジング81の内側に保持されるセンサ素子8と、ハウジングHの軸方向の両側に固定されるカバー82とを有する。カバー82は、第2供給流路202内に突出するセンサ素子8の先端側を覆っており、カバー側面に設けた通孔82a及び先端面に設けた通孔82bを介して、セルスタックSに供給される空気が導入されるようになっている。センサ素子8の出力は、外部の異常検出部100に随時入力される。
【0078】
図12中に拡大して示すように、センサ素子8の先端部には、絶縁性基板84の表面に、一対の電極85を平行配置した検出部83が形成されている。絶縁性基板84は、例えば、アルミナ(Al23)等の絶縁性セラミックスからなり、一対の電極85は、例えば、白金(Pt)等の金属からなる。空気と共に導入されるCr酸化物等の導電性の被毒物80が検出部83に徐々に付着して、一対の電極85の間が導通すると、被毒物の付着量に応じて一対の電極85間の電気抵抗が低下し、一対の電極85間を流れる電流iが変化する。この電気抵抗の低下又は電流iの増加を検出することで、被毒劣化の程度を知ることができる。
【0079】
図13は、上記構成の検出部83を用いて、被毒物による電流特性変化を調べた結果を示しており、一対の電極85間に、電流検出用の抵抗Rを設けた回路を接続し、Cr酸化物を含む雰囲気中に、所定の素子温度としたセンサ素子8を晒した状態で、所定の電圧を印加したときに流れる電流を測定した。図示されるように、運転時間T1(例えば、3000時間)からT2(例えば、9000時間)を超える範囲において、付着量の増加にほぼ比例して電流が増加していることが確認された。
【0080】
したがって、この関係に基づく演算式やマップ等を予め記憶しておき、被毒判定部101において、被毒検出センサS1からの検出信号に基づいて、被毒物の付着量を検出することができ、被毒劣化の程度を判定することが可能になる。具体的には、被毒による経時劣化と判定可能となるように、被毒判定閾値THps(例えば、運転時間T1に相当する付着量又は電流値)を予め設定し、測定結果と比較することができる。また、その結果を異常判定部103へ出力し、劣化判定部13における判定結果と組み合わせて、異常検出信号の出力の要否を判断することができる。
【0081】
図14は、本形態による異常検出処理の手順を示すフローチャートである。ステップS301、S302は、図11におけるステップS201、S202に相当し、同様にして、時間変化の傾向を示すパラメータ値として、二階微分値d2V/d2tを算出し、劣化モード判定を行う。ステップS302が肯定判定され、構造劣化モード(II)と判定された場合には、劣化検出信号を出力して、ステップS303へ進み、否定判定された場合には、ステップS301へ戻る。
【0082】
ステップS303~S304は、被毒判定部101に対応する処理であり、ステップS303において、被毒検出センサS1からの信号を読み込み、上記関係式等に基づく被毒検出センサ値PSを算出する。次いで、ステップS304において、被毒検出センサ値PSが被毒判定閾値THpsよりも小さいか否かを判定する。ステップS304が肯定判定された場合には、経時劣化モード(I)ではないと判断されるため、何らかの対策が必要として、ステップS305へ進む。ステップS304が否定判定された場合には、ステップS301へ戻る。この場合は、経時劣化モード(I)にあると判断されるが、通常は、報知等の対応はなされない。あるいは、被毒検出センサ値PSを電池制御部Cへ出力して適時監視するようにしてもよい。
【0083】
ステップS305、306は、図11におけるステップS205、206に相当する処理である。異常判定部103は、ステップS305において、ユーザに報知するために異常検出信号を出力する。さらに、ステップS306において、システム停止のためにシステム停止信号を出力し、本処理を終了する。
【0084】
本形態によれば、二階微分値d2V/d2tを用いた構造劣化モード(II)の判定と、被毒検出センサS1を用いた被毒判定の結果を組み合わせているので、構造劣化モード(II)を経時劣化モード(I)と区別して、より精度よく検出することができ、電池システム1の安全性、信頼性が向上する。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0085】
(実施形態4)
本形態は、図15に示すように、振動検出センサS2を設けたセルスタックSの具体的な構成例と作動を示す形態である。振動検出センサS2は、上述したAE法を用いたセンサとすることができ、セルスタックSの外表面に取り付けられる検出部を備える。
その他の電池システム1の構成は、実施形態1と同様である。
【0086】
X方向において、セルスタックSは、一対のエンドプレートPの間に、電気化学セル2を支持するセルフレーム50等の積層体が挟持される構造となっている。ここでは、一層構造の例を示しているが、上述したように複層構造であってもよい。セルスタックSには、一方(図の上方)のエンドプレートP側に、振動検出センサS2が固定されている。
【0087】
セルスタックSには、燃料ガス用の第1供給流路201又は酸化剤ガスである空気供給用の第2供給流路202となる、図示しない配管部等が取り付けられる。ここでは、Y方向におけるセルスタックSの一方の端面側に、第1供給流路201が接続され、もう一方の端面側に、第2供給流路202が接続される構成としているが、配管部等の接続構造や、セルスタックSの内部の流路構造は、特に限定されるものではない。
【0088】
振動検出センサS2は、荷重負荷ロッドS21と、振動を伝達するためのウェーブガイドS22と、検出部S23とを有する。荷重負荷ロッドS21は、エンドプレートPに対してX方向に突設され、図示しない締結部材を締結することにより、所定の負荷を与えている。ウェーブガイドS22の先端は、荷重負荷ロッドS21の側面に固定され、セルスタックSに生じる振動を、基端側に設けられる検出部S23に取り込むようになっている。
【0089】
振動検出センサS2は、セルスタックSからの振動を検出し、異常検出部100の振動判定部102へ出力する。振動判定部102は、予め試験等を行って設定した振動閾値THnsと、振動検出センサ値NSとを比較し、振動閾値THnsを超える振動が検出されたときに、振動検出信号を出力することができる。振動閾値THnsは、電気化学セル2の構成層に生じる亀裂や剥離等の構造劣化と、その際に放出されるAE波の関係に基づいて、安全性を低下につながる破損の兆候を検出可能となるように、適宜設定することができる。
【0090】
図16は、本形態による異常検出処理の手順を示すフローチャートである。ステップS401、S402は、図14におけるステップS301、S302に相当し、同様にして、時間変化の傾向を示すパラメータ値として、二階微分値d2V/d2tを算出し、劣化モード判定を行う。ステップS402が肯定判定され、構造劣化モード(II)と判定された場合には、劣化検出信号を出力して、ステップS403へ進み、否定判定された場合には、ステップS401へ戻る。
【0091】
ステップS403~S404は、振動判定部102に対応する処理であり、ステップS403において、振動検出センサS2からの信号に基づく振動検出センサ値NSを読み込む。次いで、ステップS404において、振動検出センサ値NSが振動判定閾値THnsを超えているか否かを判定する。ステップS404が肯定判定された場合には、構造劣化モード(II)にあると判断されるため、ステップS305へ進み、否定判定された場合には、ステップS301へ戻る。
【0092】
ステップS405、406は、図14におけるステップS305、306に相当する。異常判定部103は、劣化判定部13からの劣化検出信号と振動判定部102からの振動検出信号に基づいて、ステップS405において、ユーザに報知するために異常検出信号を出力する。さらに、ステップS406において、システム停止のためにシステム停止信号を出力し、本処理を終了する。
【0093】
本形態によれば、二階微分値d2V/d2tを用いた構造劣化モード(II)の判定と、振動検出センサS2を用いた振動判定の結果を組み合わせているので、構造劣化モード(II)を経時劣化モード(I)と区別して、より精度よく検出することができ、電池システム1の安全性、信頼性が向上する。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0094】
(実施形態5)
本形態は、図17に示すように、異常検出部100における異常検出処理において、劣化検出部10の電位差監視部12におけるパラメータ値の算出手順を変更した形態である。本形態では、実施形態4と同様の振動検出センサS2を用いた異常検出を行う際に、劣化検出のためのパラメータ値の算出に先立ち、経時劣化モード(I)による電圧特性変化の基準プロフィールに基づく補正を行っている。
その他の電池システム1の構成は、実施形態1と同様である。
【0095】
図18に示されるように、運転時間の経過に伴う電気化学セル2の電圧特性変化は、運転初期に比較的大きな電圧降下を示す一方、運転中期においては、時間変化は比較的緩やかとなる。そこで、この関係に基づく演算式やマップ等を用いて、電位差監視部12において、運転時間に応じた基準補正値Vrefを算出し、時間変化量の補正を行うことが可能になる。
【0096】
なお、図18に示す経時劣化モード(I)の基準プロフィールは、図15に示したフルセル構造のセルスタックSを備える評価装置を用いて、経時劣化試験を行って得られたものである。電気化学セル2は、電解質層20をYSZ、燃料極21をNi/YSZ、空気極22をLSCにて構成した。また、空気極22と電解質層20の間に、接合層(GDC-LSC)を介してGDCからなる中間層23を配置した。
【0097】
図17は、本形態による異常検出処理の手順を示すフローチャートであり、ステップS501は、劣化検出部10の電位差検出部11に対応し、ステップS502、S503は、電位差監視部12に対応する。ステップS503以降は、図16におけるステップS402以降と同様に、パラメータ値に基づく劣化モード判定と、振動検出センサS2に基づく振動判定を組み合わせて、異常検出を行っている。
【0098】
まず、ステップS501において、電気化学セル2の燃料極21と空気極22の間の電位差Vを検出する。続くステップS502では、運転時間に応じた基準補正値Vrefを算出すると共に、検出された電位差Vから基準補正値Vrefを減算して、補正された電位差Vを算出する。そして、ステップS503において、補正された電位差Vを用いて、パラメータ値となる二階微分値d2V/d2tを算出する。
【0099】
ステップS504~S508は、図16におけるステップS402~S506に相当し、同様にして劣化モード判定を行うと共に、振動検出センサ値NSを用いた判定と組み合わせて、構造劣化モード(II)の判定を行うことができる。
なお、振動検出センサ値NSに代えて、上記実施形態4における被毒検出センサ値PSを用いた判定と組み合わせるようにしてもよい。
【0100】
このように、本形態によれば、劣化モード判定のためのパラメータ値を、経年による時間変化の影響を差し引いて算出することができる。これにより、可逆作動型の電池システム1に生じやすい初期の電圧降下等の影響を排除することができ、経時劣化モード(I)と区別して、構造劣化モード(II)をより精度よく検出することができるので、電池システム1の安全性、信頼性が向上する。
【0101】
図19は、図18に示した経時劣化モード(I)による電圧特性変化と対比させるため、構造劣化モード(II)による劣化試験を行って電圧特性変化を取得し、電圧特性線の電圧勾配レンジを、電圧の時間変化の対数を用いて比較したものである。図19中に示されるように、経時劣化モード(I)では、Log(dV/dt)が、-5.3~3.7[V/h]の範囲にあるのに対し、構造劣化モード(II)では、0.2~0.7[V/h]の範囲となっており、大きな差があることがわかる。
【0102】
図20に示すように、このような違いを利用して、経時劣化モード(I)と区別して、構造劣化モード(II)を検出することが可能になる。図20は、上記実施形態1に示した手順により、パラメータ値として、電位差Vの二階微分値d2V/d2tを用い、閾値TH1、TH2と順次比較したときの反転回数を示しており、経時劣化モード(I)では、反転が見られない(反転回数0回/h)。これに対して、構造劣化モード(II)では、十分な反転回数が確認されており、例えば、上記実施形態2に示したカウント閾値THnを適宜設定することで、より精度よい検出が可能である。
【0103】
上記各実施形態によれば、電池システム1に用いられる電気化学セル2の劣化モードの検出を精度よく行うことができる。なお、電気化学セル2が複数積層されたセルスタックSを構成する場合、さらに、複数のセルスタックSを組み合わせて燃料電池モジュールMが構成される場合には、単セル毎に劣化モードの検出を行うようにしてもよいし、複数の単セルについて劣化モードの判定を行って、構造劣化モード(II)による劣化が生じている部位を検出するようにしてもよい。
【0104】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、被毒検出装置は、セルスタックSの入口となる配管部に被毒検出センサS1を設けた構成を示したが、セルスタックSの内部に設けた検出部に一対の電極が配置され、被毒物が付着可能とした装置としてもよい。電気化学セル2を用いたセルスタックSの構成や、燃料電池モジュールMの構成は、上述した構成に限らず、電池システム1の用途等に応じて変更することができる。また、上記各実施形態に示した異常検出部100による異常検出処理の手順の一部を変更してもよいし、組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 固体酸化物型電池システム
100 異常検出部
10 劣化検出部
11 電位差検出部
12 電位差監視部
13 劣化判定部
2 電気化学セル
20 電解質層
21 燃料極(第1電極)
22 空気極(第2電極)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20