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特開2024-155234医療用ゴム組成物および医療用ゴム製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155234
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】医療用ゴム組成物および医療用ゴム製品
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/02 20060101AFI20241024BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241024BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20241024BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L15/02
C08K3/22
A61J1/05 315A
A61M5/315 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069790
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻平
(72)【発明者】
【氏名】松谷 雄一朗
【テーマコード(参考)】
4C047
4C066
4J002
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB26
4C047CC04
4C047DD03
4C047FF05
4C066BB01
4C066CC01
4C066EE14
4C066HH14
4C066NN04
4J002AC121
4J002DA047
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE106
4J002DE146
4J002DE166
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002EK007
4J002EK017
4J002EK037
4J002EK057
4J002EU187
4J002FD018
4J002FD036
4J002FD090
4J002FD147
4J002FD170
4J002FD206
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】ハロゲンガスによる設備の腐食を抑制しながら、薬剤のpHを維持することができる医療用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の医療用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーと受酸剤とを含有し、前記受酸剤の含有量が、基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部であり、前記受酸剤のBET比表面積が、150m/g~200m/gであることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーと受酸剤とを含有し、
前記受酸剤の配合量が、基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部であり、前記受酸剤のBET比表面積が、150m/g~200m/gであることを特徴とする医療用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムである請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項3】
前記受酸剤は、酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛を含む請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項4】
前記受酸剤の最大粒子径は、20μm未満である請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項5】
さらに、加硫剤を含有する請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項6】
さらに、充填剤を含有する請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項7】
ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、60~75である請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム製品。
【請求項9】
シリンジ用ストッパーである請求項8に記載の医療用ゴム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ゴム組成物および医療用ゴム製品に関するものであり、より詳しくは、医療用ゴム製品の非溶出性を改良する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品用容器に適用される医療用ゴム製品には、高度の品質特性および物理的特性が要求される。例えば、抗生物質などの製剤を保存するバイアル瓶の開口部を密封または止栓する医療用ゴム栓に要求される品質特性は、その用途上、第17改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験に準拠すべきである。さらに、バイアル瓶の開口部を密封などする医療用ゴム栓には、耐ガス透過性、非溶出性、高清浄性、耐薬品性、耐針刺性、自己密封性、高摺動性など多くの項目が必須とされている。
【0003】
医療用ゴム栓などの医療用ゴム製品には、耐ガス(空気、水蒸気)透過性に優れる点からハロゲン化ブチルゴムが用いられる。ハロゲン化ブチルゴムの混練、成形工程中に熱がかかるとハロゲンガスが発生して、設備の腐食を引き起こすという問題がある。そのハロゲンガスを受酸するために、ハロゲン化ブチルゴムに受酸剤を配合することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと(b)液状ポリマーとを含有し、さらに受酸剤としてハイドロタルサイトや酸化マグネシウムを含有する医療用ゴム組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム及びクロロプレンゴムから選ばれる少なくとも何れかのゴム成分と、フィラーと、加硫剤と、加硫助剤と、さらに酸化マグネシウムや酸化亜鉛、及び天然又は合成のハイドロタルサイトから選ばれる受酸剤とを含有してなるゴム製品、及び前記ゴム製品を覆っており、アミノ変性シリコーン化合物を含有してなり及び/又は前記ゴム製品の表面分子に反応してなる界面改質層を有しているシリコーンゴム上塗りコーティング層担持摺動性ゴム材用前駆材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-80370号公報
【特許文献2】特開2021-53988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハロゲン化ブチルゴムを使用した医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム製品を、薬剤(例えば、生理食塩水)と接触した状態で保管すると、保管期間が長くなるにつれて薬剤(例えば、生理食塩水)のpHを上昇させるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン化ブチルゴムに受酸剤を配合した医療用ゴム組成物であって、ハロゲンガスによる設備の腐食を抑制しながら、薬剤のpHを維持することができる医療用ゴム組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、優れた非溶出性を備える医療用ゴム製品を提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の医療用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーと受酸剤とを含有し、前記受酸剤の配合量が、基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部であり、前記受酸剤のBET比表面積が、150m/g~200m/gであることを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、ハロゲン化ブチルゴムに受酸剤を配合した従来の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム製品が、保管期間が長くなるにつれて薬剤のpHを上昇させる原因を探求したところ、受酸剤が薬剤に溶出してpHに影響することを見出した。そして、受酸剤のBET比表面積を150m/g~200m/gと規定するとともに、その配合量を基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部することにより、得られる医療用ゴム組成物が、ハロゲンガスによる設備の腐食を抑制しながら、薬剤のpHを維持することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハロゲンガスによる設備の腐食を抑制しながら、薬剤のpHを維持することができる医療用ゴム組成物が得られる。また、本発明によれば、優れた非溶出性を備える医療用ゴム製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の医療用ゴム製品の一実施形態(ストッパー)の説明図。
図2】本発明の医療用ゴム製品の一実施形態(ゴム栓)の説明図。
図3】本発明の医療用ゴム製品の一実施形態(バイアル瓶用ゴム栓)の説明図。
図4】本発明の医療用ゴム製品の一実施形態(真空採血管用ゴム栓)の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<医療用ゴム組成物>
本発明の医療用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーと受酸剤とを含有し、前記受酸剤の配合量が、基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部であり、前記受酸剤のBET比表面積が、150m/g~200m/gであることを特徴とする。
【0014】
(基材ポリマー)
まず、本発明で使用するハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーについて説明する。ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム、および、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物などが挙げられる。前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが好ましい。前記塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムは、例えば、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させたものである。なお、ブチルゴムは、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体である。
【0015】
ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
前記塩素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のCHLOROBUTYL1066〔安定剤:NS、ハロゲン含有率:1.26%、ムーニー粘度:38ML1+8(125℃)、比重:0.92〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL CB1240等の少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
前記臭素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のBROMOBUTYL2255〔安定剤:NS、ハロゲン含有率:2.0%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL BBX2、X_BUTYL BB 2030等の少なくとも1種が挙げられる。
【0018】
本発明において、前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムを使用することが好ましい。
【0019】
前記基材ポリマーは、ハロゲン化ブチルゴム以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、例えば、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
【0020】
他のゴム成分を使用する場合、基材ポリマー中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。また、基材ポリマーがハロゲン化ブチルゴムのみからなることも好ましい態様である。
【0021】
(受酸剤)
次に、本発明で使用する受酸剤について説明する。受酸剤は、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時に発生するハロゲンガス(例えば、塩化水素ガスや臭化水素ガス)を吸収するために配合されるものである。前記受酸剤としては、医療用ゴム組成物に配合可能なものであれば特に限定されず、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、ハイドロタルサイトなどがある。
【0022】
前記金属酸化物の具体例としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。前記金属水酸化物の具体例としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))等が挙げられる。前記ハイドロタルサイトの具体例としては、例えば、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、Mg4.5Al(OH)13CO、MgAl(OH)12CO・3.5HO、MgAl(OH)16CO・4HO、MgAl(OH)14CO・4HO、MgAl(OH)10CO・1.7HO等のMg-Al系ハイドロタルサイト等が挙げられる。天然又は合成のハイドロタルサイトのいずれも使用することができる。これらの受酸剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明において、前記受酸剤としては、金属酸化物および/または金属水酸化物が好ましく、MgO、ZnO、Ca(OH)、Al(OH)よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、MgO、ZnOが特に好ましい。
【0024】
前記受酸剤として使用される酸化マグネシウムの具体例としては、例えば、神島化学工業社製の「スターマグR」などの市販品が挙げられる。
【0025】
本発明で使用する受酸剤のBET比表面積は、150m/g以上であることが好ましく、160m/g以上であることがより好ましく、170m/g以上であることがさらに好ましく、200m/g以下であることが好ましく、190m/g以下であることがより好ましく、180m/g以下であることがさらに好ましい。受酸剤のBET比表面積が前記範囲内であれば、加工時に発生したハロゲンガスが適切に受酸剤に吸収される。なお、受酸剤のBET比表面積は、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定される値である。例えば、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」所載の測定方法に則って測定することができる。
【0026】
本発明で使用する受酸剤の最大粒子径は、20μm未満であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。受酸剤の最大粒子径が20μm未満であれば、原料自体が白点異物となる不具合を減らすことができ、製品の外観がより良好となる。なお、受酸剤の最大粒子径は、例えば、レーザー回析・散乱法(超音波処理法)で測定することができる。
【0027】
本発明で使用する受酸剤の平均粒子径は、2.0μm以上であることが好ましく、3.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましい。受酸剤の平均粒子径が前記範囲内であれば、基材ポリマーに受酸剤を分散させる際に、受酸剤が凝集して白点不良になることはなく、より均一に分散することができる。なお、受酸剤の平均粒子径は、例えば、レーザー回析・散乱法(超音波処理法)で測定することができる。なお、平均粒子径は、体積基準のD50値を平均粒子径(μm)とした。
【0028】
本発明の医療用ゴム組成物中の前記受酸剤の配合量は、基材ポリマー100質量部に対して、1.0質量部以上であることが好ましく、1.2質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましく、3.0質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。受酸剤の含有量が1.0質量部以上であれば、ゴムの混練や成形工程で発生するハロゲンガスへの受酸効果が高くなり、これらの工程で用いる設備のハロゲンガスによる腐食を抑制することができる。また、受酸剤の含有量が3.0質量部以下であれば、受酸剤の医療用ゴム製品から薬剤への溶出が抑制され、また成形時の加工性(ムーニー粘度の適切さ)もより良好となる。
【0029】
ハロゲン化ブチルゴムが含有するハロゲンと受酸剤とのモル比(ハロゲン/受酸剤)は、1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましく、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。モル比(ハロゲン/受酸剤)が1.0以下であれば、ゴムの混練や成形工程で発生するハロゲンガスへの受酸効果がより高くなり、これらの工程で用いる設備のハロゲンガスによる腐食を一層抑制することができる。また、モル比(ハロゲン/受酸剤)が0.3以上であれば、受酸剤の医療用ゴム製品から薬剤への溶出がより抑制され、また成形時の加工性(ムーニー粘度の適切さ)もより良好となる。なお、前記モル比(ハロゲン/受酸剤)は、下記式により算出することができる。
モル比(ハロゲン/受酸剤)={(ハロゲン化ブチルゴムの質量部×ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率)/ハロゲンの分子量}/{受酸剤の質量部/受酸剤の分子量}
【0030】
(加硫剤)
本発明の医療用ゴム組成物は、さらに加硫剤を含有することが好ましい。加硫剤は、基材ポリマーが含むハロゲン化ブチルゴム成分を加硫させるために配合される。前記加硫剤としては、ハロゲン化ブチルゴムを加硫させることが可能な加硫剤であれば特に限定されない。前記加硫剤としては、例えば、硫黄、有機過酸化物、トリアジン誘導体などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上併用して用いることができる。
【0031】
前記硫黄としては、例えば粉末硫黄、微粉硫黄、沈降性硫黄、コロイド硫黄、塩化硫黄などを挙げることができる。
【0032】
前記有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシ、ジ-t-ヘキシルペルオキシ、ジ-t-ブチルペルオキシ、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3などが挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば、t-ブチルペルオキシマレエート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエートなどが挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ジ(4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0033】
前記トリアジン誘導体としては、例えば一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
[式中、Rは、-SH、-OR、-SR、-NHRまたは-NR(R、R、R、RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基またはシクロアルキル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。)である。MおよびMは、H、Na、Li、K、1/2Mg、1/2Ba、1/2Ca、脂肪族1級アミン、2級アミンもしくは3級アミン、第4級アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。MおよびMは、同一または異なってもよい。]
【0034】
一般式(1)において、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1,1-ジメチルプロピル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、またはドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、または2-ペンテニル基等の炭素数1~12のアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、単環式または縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられ、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはアセナフチレニル基等の炭素数6~14のアリール基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2,2-ジフェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、2-ビフェニリルメチル基、3-ビフェニリルメチル基または4-ビフェニリルメチル基等の炭素数7~19のアラルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えばトリル基、キシル基またはオクチルフェニル基等の炭素数7~19のアルキルアリール基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基またはシクロノニル基等の炭素数3~9のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0035】
一般式(1)で表されるトリアジン誘導体の具体例としては、例えば2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-メチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-(n-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-オクチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-プロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジアリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジメチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(iso-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジプロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(2-エチルヘキシル)アミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジオレイルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ラウリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンもしくは2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、またはこれらのナトリウム塩もしくはジナトリウム塩が挙げられる。
【0036】
本発明において、前記加硫剤としては、硫黄またはトリアジン誘導体を使用することが好ましい。
【0037】
本発明の医療用ゴム組成物中の前記加硫剤の含有量は、基材ポリマー100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましく、5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましい。加硫剤の含有量が前記範囲内であれば、良好なゴム物性(硬度、引張、Cset)と加工性の良い(ヤケの少ない)ゴムを得ることができる。
【0038】
本発明の医療用ゴム組成物は、加硫促進剤を含まないことが好ましい。最終製品のゴム製品中に加硫促進剤が残存して、シリンジやバイアル瓶中の薬液へ溶出する場合があるからである。前記加硫促進剤としては、例えば、グアニジン系促進剤(例:ジフェニルグアニジン)、チウラム系促進剤(例:テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド)、ジチオカルバミン酸塩系促進剤(例:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、チアゾール系促進剤(例:2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド)、スルフェンアミド系促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)が挙げられる。
【0039】
(充填剤)
本発明の医療用ゴム組成物は、さらに充填剤を含有してもよい。前記充填剤としては、例えば、例えば、クレー、タルクなどの無機充填剤、オレフィン系樹脂、スチレン系エラストマー、または超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の樹脂粉末が挙げられる。これらの中でも、前記充填剤としては、無機充填剤が好ましく、クレーまたはタルクがさらに好ましい。前記充填剤は、医療用ゴム製品のゴム硬さを調整するために機能するとともに、増量材として医療用ゴム製品の生産コストを低減させるためにも機能する。
【0040】
前記クレーとしては、焼成クレーやカオリンクレーを挙げることができる。前記クレーの具体例としては、例えばHOFFMANN MINERAL(ホフマンミネラル)社製のSILLITIN(登録商標)Z、ENGELHARD(エンゲルハード)社製のSATINTONE(登録商標)W、土屋カオリン工業社製のNNカオリンクレー、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のPoleStar200Rなどが挙げられる。
【0041】
前記タルクの具体例としては、例えば竹原化学工業社製のハイトロンA、日本タルク社製のMICRO ACE(登録商標)K-1、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のImerFlex T20(登録商標)等が挙げられる。
【0042】
本発明の医療用ゴム組成物中の前記充填剤の含有量は、目的とする医療用ゴム製品のゴム硬さ等に応じて適宜設定することが好ましい。本発明の医療用ゴム組成物中の前記充填剤の含有量は、例えば、基材ポリマー100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。
【0043】
(その他の成分)
本発明の医療用ゴム組成物は、上記の各成分に加えて、さらに、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤、ステアリン酸、低密度ポリエチレン(LDPE)の滑剤、加工助剤や、架橋活性剤としてのポリエチレングリコール等を適宜の割合で配合してもよい。
【0044】
本発明の医療用ゴム組成物は、基材ポリマーと受酸剤と、その他、必要に応じて加える配合材料とを混練することにより得られる。混練は、例えば、オープンロール、密閉式ニーダーなどを用いて行うことができる。混練物は、リボン状、シート状、ペレット状などに成形することが好ましく、シート状に成形することがより好ましい。
【0045】
本発明の医療用ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、60以上であることが好ましく、62以上であることがより好ましく、75以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましい。ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が前記範囲内であれば、医療用ゴム組成物の混練性がより良好となり、加工性が一層向上する。
【0046】
<医療用ゴム製品>
本発明には、本発明の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム製品が含まれる。本発明の医療用ゴム製品は、従来の製造方法により製造することができる。例えば、リボン状、シート状、ペレット状などに成形した医療用ゴム組成物をプレス成型することにより、所望の形状の医療用ゴム製品が得られる。プレス時に医療用ゴム組成物の架橋反応(加硫反応)が進行する。成形温度は、例えば、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。成形時間は、2分間以上が好ましく、3分間以上がより好ましく、60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。成形圧力は、0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましく、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0047】
プレス成型後の成形品から、不要部分を切除、除去して所定の形状にする。得られた成形品を、洗浄、減菌、乾燥、および、包装して、医療用ゴム製品が製造される。
【0048】
また本発明の医療用ゴム製品には、従来同様に樹脂フィルムが積層され、一体化されていてもよい。樹脂フィルムとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、およびこれらの変性体や、超高密度ポリエチレン(UHMWPE)等の不活性樹脂のフィルムが挙げられる。
【0049】
樹脂フィルムは、例えばシート状としたゴム組成物上に重ねた状態でプレス成形することにより、プレス成形後によって形成される医療用ゴム製品と一体化すればよい。
【0050】
本発明の医療用ゴム製品は、特に薬剤や血液などに接触しうる医療用ゴム製品として好適に使用することができる。本発明の医療用ゴム製品の具体例としては、例えば、液剤、粉末製剤、凍結乾燥製剤等の各種薬剤用の容器のゴム栓や真空採血管用ゴム栓などの医療用ゴム栓、シリンジ用のストッパーなどの摺動もしくはシール部品等が挙げられる。
【0051】
図1は、本発明の医療用ゴム製品が使用される医療用注射器、いわゆるプレフィラブル注射器と呼ばれる注射器を分解状態で示す図である。図1において、シリンジ11およびストッパー13は、半分が断面で表わされている。プレフィラブル注射器10は、円筒形状のシリンジ11と、シリンジ11と組み合わされ、シリンジ11内を往復移動し得るプランジャ12と、プランジャ12の先端に装着されるストッパー13とを含んでいる。ストッパー13は、本発明の医療用ゴム組成物から成形される。ストッパー13の表面には、摺動性を改善するためのラミネートフィルムが積層されていてもよい。
【0052】
プランジャ12は、たとえば横断面が十文字状の樹脂製板片で構成され、その先端部にはストッパー13が取り付けられるヘッド部18が備えられている。ヘッド部18は、プランジャ12と一体に形成された樹脂製で、雄ねじ形状に加工されている。ストッパー13は、短軸の略円柱形状で、その先端面は、たとえば軸中心部が突出する鈍角の山形形状をしている。そして後端面から軸方向に彫り込まれた雌ねじ形状の嵌合凹部15が形成されている。プランジャ12のヘッド部18が、ストッパー13の嵌合凹部15にねじ込まれることにより、プランジャ12の先端にストッパー13が装着される。
【0053】
図2は、本発明の医療用ゴム製品であるゴム栓20の一具体例の概略断面図である。図3は、医薬品を充填した容器24の開口部24bをゴム栓20で封止した状態を示している。
【0054】
ゴム栓20は、天板21と栓脚22とを備えて構成される。天板21は、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部23と医療用容器24の容器口の上縁面24aに接するフランジ部21bとを有する。栓脚22は、天板21の下面に突出し、医療用容器口内に嵌入される。また、栓脚22は略円筒状形状を有し、切り欠き27が設けられている。ゴム栓20の天板21の天面部にはナイロンフィルム層26が設けられている。ゴム栓20の天面部にナイロンフィルム層26を設けることで、医薬品製造時の機械的搬送性を担保できる。また、ゴム栓20の天面部にナイロンフィルム層26を設けることで天面部の表面滑性度を上昇させることができ、注射針の穿刺時に針刺フラグメントの発生を防止できる。
【0055】
図3に示した態様では、容器24として、凍結乾燥製剤を保存するバイアルを使用している。容器24内に収容する液体医薬品が注射用薬液の場合には、天板21の穿刺部23に注射器の注射針を刺し、ゴム栓20を開けずに注射器に注射用薬液を吸入するようにしている。このように、ゴム栓20を開けないのは、容器24内の注射用薬液に異物が混入するのを避けるためである。
【0056】
天板21の上には、容器24の開口部24bとゴム栓20とを覆うことができる金属製または樹脂性のキャップ25が設けられている。ゴム栓20を、開口部24bを含んでキャップ25で密閉するのは、注射器の注射針を刺す場所の穿刺部23に黴菌が付着して注射針から黴菌が注射用薬液に混入するのを防止するためである。キャップ25の種類として、フリップオフキャップやプルトップキャップやクリーンキャップなどを使用することができる。病院のように注射用薬液を多量に使用する場合には、片手で開封できしかも操作が容易なクリーンキャップを用いることが好適である。
【0057】
図4は、真空採血管の一例を示す説明図である。真空採血管50は、有底管51と有底管51の開口を封止するゴム栓53とからなる。斯かるゴム栓53が、本発明の医療用ゴム組成物から形成される。採血管内を減圧にすることにより自動的に血液を採取できるように設計されている。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0059】
[医療用ゴム組成物の調製]
表1に示した材料を混練して医療用ゴム組成物を調製した。混練は、密閉式加圧ニーダーを用いて、80℃~140℃で5分間~30分間行った。
【0060】
【表1】
【0061】
使用した配合材料の詳細は以下の通りである。
臭素化ブチルゴム:日本ブチル社製のBROMOBUTYL2255〔臭素含有率:2.0%〕
受酸剤1:神島化学工業社製のスターマグ(登録商標)R(酸化マグネシウム、BET比表面積178m/g、最大粒子径13μm、平均粒子径3.5μm)
受酸剤2:協和化学工業社製のマグサラット(登録商標)150ST(酸化マグネシウム、BET比表面積65m/g、最大粒子径20μm、平均粒子径4.8μm)
受酸剤3:神島化学工業社製のスターマグ(登録商標)M(酸化マグネシウム、BET比表面積47m/g、最大粒子径262μm、平均粒子径3.5μm)
硫黄:鶴見化学工業社製の5%油入り硫黄
タルク:イメリススペシャリティーズ社製のImerFlex T20(登録商標)
酸化チタン:石原産業社製のタイペーク(登録商標)A-100
カーボンブラック:Cancarb Limited社製のサーマックスMT
【0062】
[評価方法]
(1)ムーニー粘度
医療用ゴム組成物のムーニー粘度は、JIS K6300-1:2013「ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」所載の測定方法に則って測定した。
【0063】
(2)受酸剤のBET比表面積(m/g)
BET比表面積の測定は、下記条件により行った。
測定装置:Macsorp HM model(株式会社マウンテック製)
前処理条件:160℃、1時間
吸着ガス量の測定方法:キャリヤガス法
吸着データの解析方法:一点法
【0064】
(3)受酸剤の粒子径(μm)
エタノール50mLを100mL容量のビーカーに採り、約0.2gの試料粉末を入れ、3分間の超音波処理(トミー精工社製 UD-201)を施して分散液を調製した。この調製液をレーザー回折法-粒度分布計(日機装株式会社製 Microtrac HRA Model 9320-X100)を用いて測定した。得られた粒度分布から、体積基準のD50値と最大粒子径とを求めた。
【0065】
(4)外観検査
前記調製した医療用ゴム組成物を15気圧~20気圧、165℃~190℃で7分間~20分間プレス成型して、スラブ(長さ225mm、幅60mm、厚み2mm)を作製した。スラブの表面を目視で観察して受酸剤による白点異物を確認し、下記の評価基準により外観を評価した。
〇:受酸剤による白点異物が確認されなかった。
△:受酸剤による白点異物が1個のみ確認された。
×:受酸剤による白点異物が2個以上確認された。
【0066】
(5)溶出物試験
前記調製した医療用ゴム組成物を15気圧~20気圧、165℃~190℃で7分間~20分間プレス成型して、溶出物試験用の測定サンプル(φ17mm、厚み2mmのサンプル)を作製した。作製した測定サンプルについて、オートクレーブを用いて、水、または、炭酸ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液で121℃、30分洗浄した後、水に浸漬させる水洗を3回行った。ガラス瓶に200gの生理食塩水をいれて、洗浄後のサンプルを浸漬した試験液を、40℃のオーブンで所定期間(0h、6h、24h、48h、72h、96h、168h、336h、504h)保管した。また、ガラス瓶に生理食塩水200gのみをいれたブランク試験液についても、同様に40℃のオーブンで所定期間保管した。一定期間経過後、試験液及びブランク試験液をオーブンから取り出し、室温に冷却した後、それぞれのpHをpH測定機(堀場製作所製のLAQUA D-210P型)で測定し、それらのpH差を算出した。前記所定期間において、試験液とブランク試験液とのpH差のうちの最大値(ピーク値)を用いて、下記の評価基準により受酸剤の非溶出性を評価した。pH差が小さいほど、受酸剤が溶出していないことを意味する。
〇:試験液とブランク試験液との最大pH差が1.05未満である。
×:試験液とブランク試験液との最大pH差が1.05以上である。
【0067】
(6)設備の腐食
医療用ゴム組成物を80℃~140℃で5分間~30分間混練した後、混練機の金属表面を目視で確認し、下記の評価基準により設備の腐食を評価した。
〇:金属が腐食されておらず表面の光沢が維持されている。
△:金属がわずかに腐食されて、表面の光沢が減少している。
×:金属が腐食されて、表面の光沢が失われ、使用し続けると汚れが付着して褐色に変色する。
【0068】
各項目についての評価結果を、表1に示した。
【0069】
表1の結果から明らかなように、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーと受酸剤とを含有し、前記受酸剤の含有量が、基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部であり、前記受酸剤のBET比表面積が、150m/g~200m/gである本発明の医療用ゴム組成物は、ハロゲンガスによる設備の腐食を抑制しながら、受酸剤の薬剤への溶出を低減する(薬剤のpHを維持する)ことができる。
【符号の説明】
【0070】
10:注射器、11:シリンジ、12:プランジャ、13:ストッパー、15:嵌合凹部、18:ヘッド部、20:ゴム栓、21:天板、21b:フランジ部、22:栓脚、23:穿刺部、24:医療容器、24a:上縁面、24b:開口部、25:キャップ、26:ナイロンフィルム層、27:切り欠き、50:真空採血管、51:有底管、53:ゴム栓
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、医療用ゴム組成物および医療用ゴム製品に好適に適用できる。
【0072】
本発明の好ましい態様(1)は、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ポリマーと受酸剤とを含有し、前記受酸剤の配合量が、基材ポリマー100質量部に対して、1質量部~3質量部であり、前記受酸剤のBET比表面積が、150m/g~200m/gであることを特徴とする医療用ゴム組成物である。
【0073】
本発明の好ましい態様(2)は、前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムである態様(1)に記載の医療用ゴム組成物である。
【0074】
本発明の好ましい態様(3)は、前記受酸剤は、酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛を含む態様(1)または(2)に記載の医療用ゴム組成物である。
【0075】
本発明の好ましい態様(4)は、前記受酸剤の最大粒子径は、20μm未満である態様(1)~(3)のいずれか一つに記載の医療用ゴム組成物である。
【0076】
本発明の好ましい態様(5)は、さらに、加硫剤を含有する態様(1)~(4)のいずれか一つに記載の医療用ゴム組成物である。
【0077】
本発明の好ましい態様(6)は、さらに、充填剤を含有する態様(1)~(5)のいずれか一つに記載の医療用ゴム組成物である。
【0078】
本発明の好ましい態様(7)は、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、60~75である態様(1)~(6)のいずれか一つに記載の医療用ゴム組成物である。
【0079】
本発明の好ましい態様(8)は、態様(1)~(7)のいずれか一つに記載の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム製品である。
【0080】
本発明の好ましい態様(9)は、シリンジ用ストッパーである態様(8)に記載の医療用ゴム製品である。
図1
図2
図3
図4