(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155239
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ワイヤレス給電システム、および、ワイヤレス給電システムの給電側で実行されるインバータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20241024BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241024BHJP
【FI】
H02J50/12
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069823
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】522355547
【氏名又は名称】Wireless Power Transfer 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167276
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100165331
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 智昭
(72)【発明者】
【氏名】大矢根 蒼
(72)【発明者】
【氏名】石本 誠人
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770DA01
5H770DA11
5H770DA18
5H770DA41
5H770HA05Y
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ワイヤレス給電システムにおいて、高効率な大電力の伝送を可能とし、かつ、給電側のインバータでの電力損失を低減するワイヤレス給電システム及びワイヤレス給電システムの給電側で実行するインバータの制御方法を提供する。
【解決手段】ワイヤレス給電システム100は、PT(Parity-Time)対称性を保存する給電部20と受電部10と、を備える。給電部は、入力される駆動信号に応じて複数のスイッチング素子の開閉状態を切り替えることにより、給電部の共振周波数を制御するインバータ23と、インバータから給電側共振回路に入力される入力電流を表す検出信号を出力する電流検出部29と、現周期より所定の周期だけ遅延させたときの検出信号に現れている入力電流が負から正に切り替わるタイミングに合わせて、スイッチング素子の開閉状態が切り替わるように生成された駆動信号をインバータに出力する位相検出部30と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤレス給電システムであって、
受電側コイルを含む受電側共振回路を有し、負荷に接続される受電部と、
給電側コイルを含む給電側共振回路を有し、前記受電部との間の磁気共鳴により前記受電部に給電する給電部と、
を備え、
前記給電部と前記受電部とはPT対称性が保存されるように構成されており、
前記給電部は、
スイッチング素子を有し、入力される駆動信号に応じて前記複数のスイッチング素子の開閉状態を切り替えることにより、前記給電部の共振周波数を制御するインバータと、
前記インバータから前記給電側共振回路に入力される入力電流を検出し、前記入力電流を表す検出信号を出力する電流検出部と、
現周期より所定の周期だけ遅延させたときの前記検出信号に現れている前記入力電流が負から正に切り替わるタイミングに合わせて、前記スイッチング素子の開閉状態が切り替わるように生成された前記駆動信号を前記インバータに出力する位相検出部と、
を備える、ワイヤレス給電システム。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤレス給電システムであって、
前記位相検出部は、入力された信号の位相を前記所定の周期だけ遅延させる位相遅延部を有し、前記位相検出部を用いて、現周期よりも前記所定の周期だけ前の前記入力電流の位相を基準にした前記駆動信号を生成する、ワイヤレス給電システム。
【請求項3】
請求項2記載のワイヤレス給電システムであって、
前記位相遅延部は、入力された信号の位相を3/4周期以上遅延させる、ワイヤレス給電システム。
【請求項4】
請求項3記載のワイヤレス給電システムであって、
前記位相遅延部は、複数の位相遅延回路が直列に接続された構成を有する、ワイヤレス給電システム。
【請求項5】
請求項4記載のワイヤレス給電システムであって、
前記位相遅延回路は、CR回路によって構成されている、ワイヤレス給電システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のワイヤレス給電システムであって、
前記電流検出部は、前記入力電流とは正負が反転している前記検出信号を出力する、ワイヤレス給電システム。
【請求項7】
受電側コイルを含む受電側共振回路を有し、負荷に接続された受電部と、給電側コイルを含む給電側共振回路を有し、前記受電部との間の磁気共鳴により前記受電部に給電する給電部と、を備え、前記給電部が、スイッチング素子を有し、前記スイッチング素子の開閉状態を切り替えることによって前記給電部の共振周波数を制御するインバータを有し、前記給電部と前記受電部とがPT対称性が保存されるように構成されているワイヤレス給電システムにおいて前記給電部が実行する、前記インバータの制御方法であって、
前記インバータから前記給電側コイルに入力される入力電流を表す検出信号を取得する工程と、
現周期より所定の周期だけ遅延させたときの前記検出信号に現れている前記入力電流が負から正に切り替わるタイミングに合わせて前記スイッチング素子の開閉状態が切り替わるように前記インバータを駆動する工程と、
を備える、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ワイヤレス給電システム、および、ワイヤレス給電システムの給電側で実行されるインバータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤレス給電の一例としては、電磁気の作用を利用して、受電側のコイルと給電側のコイルとの間で無線での電力の伝送を可能にする結合型(非放射型)がある。結合型のワイヤレス給電の中でも、磁気共鳴方式によれば、電磁誘導方式に比較して、受電側のコイルと給電側のコイルとの間の距離や位置ずれが大きくなっても電力の高い伝送効率が得られることが知られている。
【0003】
磁気共鳴方式では、通常、伝送電力は、受電側と給電側のコイル間の距離である伝送距離に大きく影響される。これは、共振周波数が伝送距離によって変化するためである。そのため、磁気共鳴方式を採用している従来のワイヤレス給電システムでは、伝送距離が変化しても伝送電力が一定に維持されるように、受電側と給電側とが互いに通信して、協同して共振状態を維持するための制御を行なう構成が採用される場合があった。しかしながら、そのような構成は、ワイヤレス給電を行うシステムや装置の大型化や複雑化の原因となっていた。
【0004】
このような課題に対して、PT(Parity-Time)対称性を利用した、磁気共鳴方式のワイヤレス給電の技術が提案されている。PT対称性は、パリティ対称性(Parity symmetry)と時間反転対称性(Time-reversal symmetry)とが組み合わされた対称性を意味する。PT対称性を利用したワイヤレス給電の技術の一例は、例えば、下記の特許文献1に開示されている。
【0005】
PT対称性を利用したワイヤレス給電の技術によれば、受電側のコイルと給電側のコイルの間の距離が変動しても、PT対称性の原理に従って、伝送電力およびシステム全体での電力の伝送効率が一定に維持されるように受電側と給電側の共振状態が自然に調整される。そのため、上述したような共振状態を維持するための制御を行なう装置構成を省略することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気共鳴方式のワイヤレス給電システムでは、通常、給電側の共振周波数が、インバータのスイッチング周波数によって制御される。上記の特許文献1等の従来のPT対称性を利用したワイヤレス給電システムでは、インバータによる高周波域での周波数の制御の精度が十分ではなく、例えば、1kW以上の大電力の伝送効率が十分に確保されていなかった。また、大電力の伝送の際には、ハードスイッチングの発生により、インバータのスイッチング動作の際の電力損失が無視できないほど大きくなり、発熱量の増大やシステム全体での電力の伝送効率の低下が発生するという課題もあった。
【0008】
本願は、ワイヤレス給電システムにおいて、高効率な大電力の伝送を可能とし、かつ、給電側のインバータでの電力損失を低減できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
本願発明の一形態は、ワイヤレス給電システムとして提供される。この形態のワイヤレス給電システムは、受電側コイルを含む受電側共振回路を有し、負荷に接続される受電部と、給電側コイルを含む給電側共振回路を有し、前記受電部との間の磁気共鳴により前記受電部に給電する給電部と、を備え、前記給電部と前記受電部とはPT対称性が保存されるように構成されており、前記給電部は、スイッチング素子を有し、入力される駆動信号に応じて前記複数のスイッチング素子の開閉状態を切り替えることにより、前記給電部の共振周波数を制御するインバータと、前記インバータから前記給電側共振回路に入力される入力電流を検出し、前記入力電流を表す検出信号を出力する電流検出部と、前記検出信号の現周期より所定の周期だけ遅延させたときの前記入力電流が負から正に切り替わるタイミングに合わせて前記スイッチング素子の開閉状態が切り替わるように生成された前記駆動信号を前記インバータに出力する位相検出部と、を備える。
この形態のワイヤレス給電システムによれば、受電側コイルと給電側コイルの間の距離が変動した場合でも、PT対称性の原理によって、受電側と給電側の共振状態が維持され、伝送電力およびシステム全体での電力の伝送効率が変動することが抑制される。また、インバータのスイッチング素子の開閉周期を給電部での共振の周期に精度よく一致させることができる。そのため、大電力を伝送する場合でも、インバータの駆動制御の精度不足に起因して電力の伝送効率が低下してしまうことを抑制できる。また、給電部でのインバータの駆動において、ソフトスイッチングであるゼロボルトスイッチング(ZVS)を実現することができ、インバータのスイッチング動作に起因する電力損失を大幅に低減することができる。
【0011】
本願発明は、ワイヤレス給電システムや、ワイヤレス給電システムの給電側で実行されるインバータの制御方法以外の種々の形態で実現することが可能である。本願発明は、例えば、ワイヤレス給電システムを構成する給電部や受電部を構成する装置や、ワイヤレス給電システムで実行されるワイヤレス給電の方法、給電側のインバータの駆動を制御する制御回路等の形態で実現することができる。本願発明は、その他に、例えば、ワイヤレス給電システムの給電方法や、インバータの駆動制御をコンピュータに実行させるためのプログラム、そのプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態のワイヤレス給電システムの構成を示す概略図。
【
図3】インバータの出力電圧の位相と駆動信号の位相との関係を示す説明図。
【
図4】第2実施形態の位相検出部が出力する駆動信号を説明するための説明図。
【
図5】第3実施形態のワイヤレス給電システムの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しながら、ワイヤレス給電システム、および、ワイヤレス給電システムの給電側で実行されるインバータの制御方法の実施形態の一例を説明する。
【0014】
1.第1実施形態:
図1は、第1実施形態のワイヤレス給電システム100の構成を示す概略図である。本実施形態のワイヤレス給電システム100は、PT対称性の原理を利用した磁気共鳴方式のワイヤレス給電を実行する。以下、ワイヤレス給電システム100を単に、「給電システム100」とも呼ぶ。
【0015】
給電システム100は、外部の負荷LDに接続された受電部10と、外部の直流電源に接続された給電部20と、を備える。給電システム100では、給電部20と受電部10のそれぞれが備える共振回路が磁界共鳴することにより、給電部20から受電部10へと無線で電力が伝送される。
【0016】
受電部10は、受電側共振回路10cを構成する、受電側コイル11と、受電側コンデンサ12と、を備える。本実施形態では、受電側コイル11と受電側コンデンサ12とは負荷LDに対して直列に接続されている。受電側コイル11は、給電部20からのワイヤレス給電を受けるときには、給電部20の給電側コイル21と互いに電気的導通を伴う直接的な接触をしない状態で隣り合う位置に配置される。
【0017】
給電部20は、給電側共振回路20cを構成する、給電側コイル21と、給電側コンデンサ22と、を備える。本実施形態では、給電側コイル21と給電側コンデンサ22とは直列に接続されている。給電部20は、さらに、インバータ23と、電流検出部29と、位相検出部30と、を備える。
【0018】
インバータ23は、スイッチング素子25を有し、位相検出部30から入力される駆動信号Sd,rSdに応じてスイッチング素子25の開閉状態を切り替えることにより、給電部20の共振周波数を制御する。スイッチング素子25は、例えば、MOSFETによって構成される。本実施形態のインバータ23は、複数のスイッチング素子25によって構成された、第1スイッチ回路24aと第2スイッチ回路24bとを有する。
【0019】
第1スイッチ回路24aは、一対のスイッチング素子25f,25sと、ゲート駆動回路26と、を備える。一対のスイッチング素子25f,25sは、電圧VPPの直流電源に対して直列に接続されている。また、一対のスイッチング素子25f,25sのそれぞれは、給電側共振回路20cの一方の端子に対して並列に接続されている。本実施形態では、第1スイッチ回路24aの一対のスイッチング素子25f,25sは、給電側コンデンサ22を介して給電側コイル21に接続されている。
【0020】
ゲート駆動回路26の入力端子は、位相検出部30に接続されている。ゲート駆動回路26には、入力端子を通じて位相検出部30から駆動信号Sdが入力される。ゲート駆動回路26は、2つの出力端子を有しており、それぞれの出力端子に、一対のスイッチング素子25f,25sのうちの対応する1つが接続されている。ゲート駆動回路26は、一対のスイッチング素子25のそれぞれに、位相が互いに反転している信号を並列に出力する。ゲート駆動回路26は、第1スイッチング素子25fに第1駆動信号Sdfを出力し、第2スイッチング素子25sに第2駆動信号Sdsを出力する。後述するように、第1駆動信号Sdfと第2駆動信号Sdsの間には、適切なデッドタイムが設けられている。
【0021】
第2スイッチ回路24bは、第1スイッチ回路24と同様に、一対のスイッチング素子25f,25sと、ゲート駆動回路26と、を備えている。第2スイッチ回路24bの回路構成は、第1スイッチ回路24と同様であるため、詳細な説明は省略する。なお、第2スイッチ回路24bの一対のスイッチング素子25f,25sはそれぞれ、第1スイッチ回路24aの一対のスイッチング素子25f,25sが接続されているのとは反対の、給電側共振回路20cの他方の端子に並列に接続されている。また、第2スイッチ回路24bの各スイッチング素子25f,25sには、ゲート駆動回路26から、第1スイッチ回路24aの各スイッチング素子25f,25sに入力される駆動信号Sdf,Sdsを反転させた駆動信号rSdf,rSdsが入力される。
【0022】
第1スイッチ回路24aと第2スイッチ回路24bのいずれにおいても、一対のスイッチング素子25f,25sのそれぞれの開閉状態は、ゲート駆動回路26から出力される駆動信号Sdf,Sdsの位相に応じて切り替わる。一対のスイッチング素子25f,25sのそれぞれの開閉状態は、基本的には、一方が開状態のときには他方が閉状態となるように制御される。
【0023】
電流検出部29は、インバータ23から給電側共振回路20cに入力される入力電流Itを検出し、その入力電流Itを表す検出信号DSを位相検出部30に出力する。電流検出部29は、例えば、電流センサによって構成される。本実施形態では、電流検出部29は、インバータ23の第1スイッチ回路24aと給電側コンデンサ22との間に設置されている。また、本実施形態では、電流検出部29は、入力電流Itと正負の方向が一致する検出信号DSを出力するように構成されている。
【0024】
位相検出部30は、位相遅延部31と、コンパレータ33と、信号反転素子34と、を備えている。位相遅延部31は、入力された信号の位相を所定の周期だけ遅延させる。本実施形態では、位相遅延部31は、電流検出部29が出力した検出信号DSの位相を遅延させる。位相遅延部31の入力側は、電流検出部29に接続されており、出力側がコンパレータ33に接続されている。位相遅延部31の構成や動作、検出信号DSの位相を遅延させる理由などの詳細については後述する。
【0025】
コンパレータ33の非反転入力端子は、位相遅延部31に接続されている。また、図示は省略されているが、コンパレータ33の反転入力端子はアース、または、固定電位に接続されている。コンパレータ33の出力端子は、インバータ23の第1スイッチ回路24aが有するゲート駆動回路26の入力端子と、信号反転素子34と、に接続されている。コンパレータ33は、位相遅延部31から入力される周期波形を矩形波に変換した駆動信号Sdをインバータ23の第1スイッチ回路24に入力するとともに、同じ駆動信号Sdを信号反転素子34に出力する。
【0026】
信号反転素子34の入力端子は、コンパレータ33の出力端子に接続されている。信号反転素子34の出力端子は、インバータ23の第2スイッチ回路24bが有するゲート駆動回路26の入力端子に接続されている。信号反転素子34は、コンパレータ33が出力した矩形波の位相を反転させてインバータ23の第2スイッチ回路24bのゲート駆動回路26に入力する。これにより、インバータ23の第2スイッチ回路24には、位相検出部30から、駆動信号Sdが反転された駆動信号rSdが入力される。
【0027】
ワイヤレス給電システム100では、受電部10と給電部20とはPT対称性が保存されるように構成されている。給電部20の電流検出部29と位相検出部30とインバータ23とで構成される回路は、受電部10に接続された負荷LDに対応する負性抵抗として振る舞う負性抵抗回路として機能するように構成されている。これにより、受電側コイル11と給電側コイル21との間の距離が変動した場合であっても、PT対称性の原理に従って、受電部10と給電部20の共振周波数が自然と調整され、伝送電力が一定に維持される。
【0028】
図2および
図3を参照して、位相遅延部31の詳細を説明する。
【0029】
図2は、位相遅延部31を構成する位相遅延回路31cの一例を示す概略図である。本実施形態では、位相遅延部31は、複数の位相遅延回路31cによって構成されている。位相遅延回路31cは、コンデンサ32cと抵抗32rとを備えるCR回路によって構成されている。本実施形態では、位相遅延部31は、複数の位相遅延回路31cが直列に接続された構成を有している。位相遅延部31は、例えば、それぞれが位相をπ/2以上遅延させる2つの位相遅延回路31cを直列に接続することにより構成されてもよい。
【0030】
図3には、給電側共振回路20cの入力電流Itと駆動信号Sd,Sdf,Sdsと第1スイッチ回路24aの第1スイッチ素子25fの電圧Vfと給電側共振回路20cの入力電圧Vtのタイミングチャートが図示されている。また、
図3には、入力電流Itと駆動信号Sdの間に、理想的駆動信号Sdiと、比較例としての駆動信号Sdcとが図示されている。比較例の駆動信号Sdcは、位相遅延部31で検出信号DSの位相が遅延されなかった場合に生成される信号に相当する。なお、
図3において、駆動信号Sdfは、第1スイッチ回路24aにおける第1スイッチング素子25fの開閉状態を示しており、駆動信号Sdsは、第1スイッチ回路24aにおける第2スイッチング素子25sの開閉状態を示している。
【0031】
給電部20では、位相検出部30が出力する駆動信号Sdは、理想的駆動信号Sdiが示すように、入力電流Itに対する位相差がゼロであることが好ましい。しかしながら、位相検出部30に位相遅延部31が設けられていなかった場合には、比較例の駆動信号Sdcに示すように、入力電流Itと駆動信号Sdcとの間には位相の遅れDLが生じる。この位相の遅れDLが生じると、スイッチング素子25が閉状態になる前にスイッチング素子25に電流が流入する状態となり、ハードスイッチングが発生する。ハードスイッチングの発生は、ワイヤレス給電における大きな電力損失や伝送効率の低下の原因となる。この位相の遅れDLは、現実の電子回路では不可避的に生じるものである。
【0032】
そこで、給電部20では、位相検出部30は、入力電流Itの現周期での位相を基準とした駆動信号ではなく、入力電流Itの現周期より前の位相を基準とした駆動信号Sdを生成して、インバータ23に出力する。位相検出部30は、現周期より所定の周期だけ遅延させたときの検出信号DSに現れている入力電流Itが負から正に切り替わるタイミングに合わせてスイッチング素子25の開閉状態が切り替わるように駆動信号Sdを生成する。この駆動信号Sdによれば、現周期において入力電流Itが負から正に切り替わるタイミングの直前にスイッチング素子25の開閉状態が切り替わるようにすることができる。
【0033】
そのような駆動信号Sdを生成するために、本実施形態では、位相検出部30は、位相遅延部31によって、検出信号DSの位相を位相の遅れDLより大きく遅延させ、検出信号DSの現周期より前の周期の位相を用いて駆動信号Sdを生成する。位相遅延部31は、実験等により予め定められた周期だけ、検出信号DSの位相を遅延させる。位相遅延部31が遅延させる周期は、スイッチング素子25の開閉状態が切り替わるタイミングが、検出信号DSが表す入力電流Itが負から正に切り替わるタイミングの直前となるように設定される。具体的な数値範囲で表せば、位相遅延部31は、検出信号DSの位相を3/4周期以上、1周期未満の範囲で遅延させるように構成されているとしてよい。位相遅延部31は、検出信号DSの位相を5/6周期以上、1周期未満の範囲で遅延させるように構成されているとしてもよい。この結果、位相検出部31は、スイッチング素子25の開閉状態が切り替わるタイミングが、入力電流Itが負から正に切り替わるタイミングの直前となる駆動信号Sdを生成する。
【0034】
上述したように、位相遅延部31では、ゲート駆動回路26は、第1スイッチング素子25fに入力される駆動信号Sdf,rSdfと第2スイッチング素子25sに入力される駆動信号Sds,rSdsとの間に所定のデッドタイムDTを形成する。デッドタイムDTは、第1スイッチング素子25fを閉じるタイミングと第2スイッチング素子25sを開くタイミングとの間における微小なタイムラグである。デッドタイムDTは、インバータ23の入力電圧Vtが上限値から下限値、または、下限値から上限値へと変化する過渡期に相当する。
【0035】
この構成によれば、インバータ23のスイッチング素子25の開閉周期と給電部20での共振の周期とを精度よく一致させることができる。そのため、受電部10と給電部20との間で、例えば、1kW以上の大電力を伝送する場合でも、インバータ23の駆動制御の精度不足に起因して伝送電力やシステム全体での電力の伝送効率が低下してしまうことを抑制できる。
【0036】
また、上記のような位相遅延部31によって検出信号DSの位相を遅延させる構成によれば、入力電流Itが負から正に切り替わるタイミングに合わせて、インバータ23のスイッチング素子25の開閉状態が切り替わる。これによって、スイッチング素子25を閉じる前の負の電流によってスイッチング素子25の寄生容量に蓄積されていた電荷を排除することができ、ゼロボルトスイッチング(ZVS)を実現できる。よって、電圧と電流の過渡交差が発生することが抑制され、インバータ23におけるスイッチング素子25の駆動による電力損失が低減される。このインバータ23での電力損失の低減効果は、インバータ23が高周波の領域で駆動するほど高くなる。
【0037】
上述したように、本実施形態の位相遅延部31を構成する位相遅延回路31cは、複数の位相遅延回路31cが直列に接続された構成を有する。複数の位相遅延回路31cを組み合わせれば、
図2に示すような簡素な回路構成によって、上述したような、検出信号の現周期より前の周期の位相を用いて駆動信号Sdを生成できるほどの位相の遅延を実現することができる。
【0038】
また、上述したように、本実施形態の位相遅延回路31cは、CR回路によって構成されている。これにより、位相遅延回路31cでの信号の減衰やノイズの発生を、より一層、抑制することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態の給電システム100によれば、受電側コイル11と給電側コイル21の間の距離が変動した場合でも、PT対称性の原理により、伝送電力およびシステム全体での電力の伝送効率の変動が抑制される。また、本実施形態の給電システム100によれば、給電部20の構成により、ハードスイッチングの発生を抑制でき、ZVSを実現することができる。よって、高効率な大電力の伝送が可能であり、かつ、インバータ23のスイッチング素子25の開閉駆動に起因する電力損失の低減が可能である。
【0040】
2.第2実施形態:
図4を参照して、第2実施形態の給電システムにおいて位相検出部30が出力するインバータ23の駆動信号Sdを説明する。
図4には、入力電流Itと検出信号DSと駆動信号Sdのタイミングチャートが図示されている。
【0041】
第2実施形態の給電システムの構成は、電流検出部29の接続の仕方が異なっている点以外は、第1実施形態の給電システム100の構成とほぼ同じである。第2実施形態の給電システムでは、電流検出部29は、入力電流Itとは正負の方向が反転する検出信号DSを出力するように、第1実施形態のときとは極性を反転させた状態で接続されている。
【0042】
第2実施形態の給電システムでは、電流検出部29が出力する検出信号DSは、位相を1/2周期だけ遅延させた入力電流Itを表す。この構成であれば、第1実施形態の場合より、1/2周期前の位相において検出信号DSに現れる入力電流Itが正から負に切り替わるタイミングを基準として、駆動信号Sdを生成することができる。よって、第1実施形態の場合よりも、位相遅延部31によって遅延させる周期を短く設定することができる。例えば、第2実施形態では、位相遅延部31は、位相を、3/8周期以上1/2周期未満遅延させるものとしてもよい。
【0043】
3.第3実施形態:
図5は、第3実施形態の給電システム100Bの構成を示す概略図である。第3実施形態の給電システム100Bは、位相検出部30Bにおいて、コンパレータ33と位相遅延部31の配置が入れ替えられ、コンパレータ33が位相遅延部31の前段に設けられている点以外は、第1実施形態の給電システム100の構成とほぼ同じである。
【0044】
第3実施形態の給電システム100Bでは、位相検出部30Bは、位相遅延部31によって検出信号DSの位相を直接的には遅延させることなく、入力電流Itよりも位相が遅延された駆動信号Sdを生成する。この駆動信号Sdは、第1実施形態と同様に、現周期より所定の周期だけ遅延させたときの検出信号DSに現れている入力電流Itの正負が切り替わるタイミングに合わせてスイッチング素子25の開閉状態が切り替わるように生成されたものに相当する。よって、第3実施形態の給電システム100Bによれば、第1実施形態で説明したのと同様な、インバータ23の駆動におけるZVSの実現を始めとする種々の効果を奏することができる。
【0045】
4.他の実施形態:
本願発明は、上述の実施形態の構成に限定されることはなく、例えば、以下のような形態で実現することもできる。以下において、他の実施形態として説明する構成はいずれも、上記の実施形態と同様に、本願発明を実施するための一形態例として位置づけられる。
【0046】
4-1.他の実施形態1:
上記の各実施形態において、受電部10と給電部20のそれぞれの共振回路10c,20cは、コイルとコンデンサが並列に接続された構成であってもよい。
【0047】
4-2.他の実施形態2:
上記の各実施形態において、位相遅延部31による信号の位相の遅延は、
図2に例示したような多段構成の回路構成によって実現される代わりに、他の回路構成によって実現されていてもよい。また、位相遅延部31を構成する位相遅延回路31cは、CR回路によって実現される代わりに、例えば、RC回路によって実現されるものとしてもよい。
【0048】
4-3.他の実施形態3:
上記の第3実施形態の給電システムに、上記第2実施形態で説明した位相検出部30Bの構成が適用されてもよい。つまり、第3実施形態の給電システムにおいて、電流検出部29が、入力電流Itとは正負の方向が反転する検出信号DSを出力するように接続されていてもよい。これによって、第2実施形態で説明したように、1/2周期前の位相において検出信号DSに現れる入力電流Itが正から負に切り替わるタイミングを基準として、駆動信号Sdを生成することが可能である。
【0049】
4-4.他の実施形態4:
上記の各実施形態の給電部20では、電流検出部29が、インバータ23から給電側コイル21に入力される入力電流の位相を表す検出信号DSを取得する工程を実行し、位相検出部30が、検出信号DSの現周期より前の周期の位相に現れている検出信号DSの正負が切り替わるタイミングに合わせてスイッチング素子25の開閉状態が切り替わるようにインバータ23を駆動する工程を実行する、インバータ23の制御方法が実行されていると解釈することができる。これらの工程は、上記実施形態で説明したような回路構成によって実行される代わりに、例えば、コンピュータによって実行されるように構成されてもよい。
【0050】
5.形態例:
本願発明は、以下のような形態によって実現することが可能である。
【0051】
[第1形態]第1形態は、ワイヤレス給電システムとして提供される。第1形態のワイヤレス給電システムは、ワイヤレス給電システムとして提供される。この形態のワイヤレス給電システムは、受電側コイルを含む受電側共振回路を有し、負荷に接続される受電部と、給電側コイルを含む給電側共振回路を有し、前記受電部との間の磁気共鳴により前記受電部に給電する給電部と、を備え、前記給電部と前記受電部とはPT対称性が保存されるように構成されており、前記給電部は、スイッチング素子を有し、入力される駆動信号に応じて前記複数のスイッチング素子の開閉状態を切り替えることにより、前記給電部の共振周波数を制御するインバータと、前記インバータから前記給電側コイルに入力される入力電流を検出し、前記入力電流を表す検出信号を出力する電流検出部と、現周期より所定の周期だけ遅延させたときの前記検出信号に現れている前記入力電流が負から正に切り替わるタイミングに合わせて、前記スイッチング素子の開閉状態が切り替わるように生成された前記駆動信号を前記インバータに出力する位相検出部と、を備える。
第1形態のワイヤレス給電システムによれば、受電側コイルと給電側コイルの間の距離が変動した場合でも、PT対称性の原理によって、受電側と給電側の共振状態が維持され、伝送電力およびシステム全体での電力伝送効率が変動することが抑制される。また、インバータのスイッチング素子の開閉周期を給電部での共振の周期に精度よく一致させることができる。そのため、大電力を伝送する場合でも、インバータの駆動制御の精度不足に起因して電力の伝送効率が低下してしまうことを抑制できる。また、給電部でのインバータの駆動において、ソフトスイッチングであるゼロボルトスイッチング(ZVS)を実現することができ、インバータのスイッチング動作に起因する電力損失を大幅に低減することができる。
【0052】
[第2形態]上記第1形態のワイヤレス給電システムの構成において、前記位相検出部は、入力された信号の位相を前記所定の周期だけ遅延させる位相遅延部を有し、前記位相遅延部を用いて、現周期よりも前記所定の周期だけ前の前記入力電流の位相を基準にした前記駆動信号を生成してよい。
第2形態のワイヤレス給電システムによれば、入力電流の現周期より前の周期の位相を基準とした駆動信号を容易に生成することができる。
【0053】
[第3形態]上記第2形態のワイヤレス給電システムの構成において、前記位相遅延部は、入力された信号の位相を3/4周期以上遅延させてもよい。
第3形態のワイヤレス給電システムによれば、インバータによる周波数制御の精度を、より一層高めることができる。
【0054】
[第4形態]上記第2形態または第3形態に記載のワイヤレス給電システムの構成において、前記位相遅延部は、複数の位相遅延回路が直列に接続された構成を有してよい。
第3形態のワイヤレス給電システムによれば、位相遅延部による検出信号の位相の遅延を簡易な回路構成で実現することができる。
【0055】
[第5形態]上記第2形態、第3形態、第4形態のいずれかに記載のワイヤレス給電システムの構成において、前記位相遅延回路は、CR回路によって構成されていてもよい。
第5形態のワイヤレス給電システムによれば、位相遅延回路での信号の減衰やノイズの発生を、より抑制することができる。
【0056】
[第6形態]上記第1形態、第2形態、第3形態、第4形態、および、第5形態のいずれかに記載のワイヤレス給電システムの構成において、前記電流検出部は、前記入力電流とは正負が反転している前記検出信号を出力してよい。
第3形態のワイヤレス給電システムによれば、電流検出部が入力電流と正負が一致する検出信号を出力する場合よりも、入力電流が負から正に切り替わるタイミングを1/2周期だけ早い周期で検出することができる。
【0057】
[第7形態]第7形態は、ワイヤレス給電システムの給電側で実行されるインバータの制御方法として提供される。第5形態は、受電側コイルを含む受電側共振回路を有し、負荷に接続された受電部と、給電側コイルを含む給電側共振回路を有し、前記受電部との間の磁気共鳴により前記受電部に給電する給電部と、を備え、前記給電部が、スイッチング素子を有し、前記スイッチング素子の開閉状態を切り替えることによって前記給電部の共振周波数を制御するインバータを有し、前記給電部と前記受電部とがPT対称性が保存されるように構成されているワイヤレス給電システムの前記給電部が実行する、前記インバータの制御方法であって、前記インバータから前記給電側コイルに入力される入力電流を表す検出信号を取得する工程と、現周期より所定の周期だけ遅延させたときの前記駆動信号に現れている前記入力電流が負から正に切り替わるタイミングに合わせて前記スイッチング素子の開閉状態が切り替わるように前記インバータを駆動する工程と、を備える、制御方法として提供される。
第5形態のインバータの制御方法によれば、インバータのスイッチング素子の開閉周期を給電側での共振の周期に精度よく一致させることができる。そのため、大電力を伝送する場合でも、インバータの駆動制御の精度不足に起因して電力の伝送効率が低下してしまうことを抑制できる。また、給電部でのインバータの駆動において、ZVSを実現することができ、インバータのスイッチング動作に起因する電力損失を大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0058】
100…ワイヤレス給電システム、10…受電部、10c…受電側共振回路、11…受電側コイル、12…受電側コンデンサ、20…給電部、20c…給電側共振回路、21…給電側コイル、22…給電側コンデンサ、23…インバータ、24a…第1スイッチ回路、24b…第2スイッチ回路、25f…第1スイッチング素子、25s…第2スイッチング素子、26…ゲート駆動回路、29…電流検出部、30…位相検出部、31…位相遅延部、31c…位相遅延回路、32c…コンデンサ、32r…抵抗、33…コンパレータ、34…信号反転素子、DL…位相の遅れ、DT…デッドタイム、DS…検出信号、It…入力電流、LD…負荷、Sd,Sdf,Sds,rSd,rSdf,rSds…駆動信号、Sdc…比較例の駆動信号、Sdi…理想的駆動信号、Vf…第1スイッチング素子の電圧、Vt…入力電圧