(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155272
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】電力変換装置及びそれを備えた車載用電動コンプレッサ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241024BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20241024BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20241024BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/493
H02P27/08
B60H1/32 613G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069868
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
3L211
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
3L211DA30
5H505AA06
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE32
5H505EE41
5H505EE49
5H505HA05
5H505HA10
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505KK05
5H505LL22
5H770BA01
5H770BA05
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA30
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA11
5H770EA19
5H770EA21
5H770EA27
5H770HA02Y
(57)【要約】
【課題】部品実装面積を増やすこと無く、低コストで入力電圧の変化に対する駆動可能領域の拡大を図ることができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】第1のインバータ回路20の正側入力端が直流電源29の正側電源ライン31に接続され、第1のインバータ回路20の負側入力端が直流電源29の負側電源ライン32に接続され、第1のインバータ回路20の出力端がモータ8の固定子巻線9U~9Wの一端に接続され、第2のインバータ回路21の出力端がモータ8の固定子巻線の他端に接続され、第2のインバータ回路21の正側入力端と負側入力端間にはコンデンサ36が接続されている。第2のインバータ回路21の正側入力端は直流電源29の正側電源ライン31に接続されておらず、第2のインバータ回路21の負側入力端は直流電源29の負側電源ライン32に接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開放された複数の固定子巻線を備えるモータに、それぞれ複数のスイッチング素子から構成された第1のインバータ回路、及び、第2のインバータ回路を接続し、前記各スイッチング素子を制御装置によりスイッチングすることにより、直流電源から交流出力を生成して前記モータに印加する電力変換装置において、
前記第1のインバータ回路の正側入力端が前記直流電源の正側電源ラインに接続され、前記第1のインバータ回路の負側入力端が前記直流電源の負側電源ラインに接続され、前記第1のインバータ回路の出力端が前記モータの固定子巻線の一端に接続されており、
前記第2のインバータ回路の出力端が前記モータの固定子巻線の他端に接続され、前記第2のインバータ回路の正側入力端と負側入力端間にはコンデンサが接続されていると共に、
前記第2のインバータ回路の正側入力端は前記直流電源の正側電源ラインに接続されておらず、前記第2のインバータ回路の負側入力端は前記直流電源の負側電源ラインに接続されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記第1のインバータ回路のスイッチング素子と、前記第2のインバータ回路のスイッチング素子を、共通のゲート駆動用電源によりスイッチングすることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記直流電源から前記モータを介して前記第2のインバータ回路により前記コンデンサに充電すると共に、
前記第2のインバータ回路のスイッチング素子をスイッチングすることにより、前記コンデンサに充電された電圧を用いて前記モータに交流出力を印加することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記コンデンサの充電電圧が所定の定電圧となるように前記各インバータ回路のスイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1のインバータ回路のスイッチング素子を、ゼロ電圧ベクトル、及び/又は、電気角一回転中に6回のみ電圧ベクトルを変更する6ステップ制御でスイッチングすることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の電力変換装置と、前記モータを備えて圧縮機構を駆動することを特徴とする車載用電動コンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両端が開放された固定子巻線を有するモータに、二つのインバータ回路を用いて交流出力を印加する電力変換装置、及び、それを備えた車載用電動コンプレッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路で駆動されるモータは、入力電圧が低下した場合、駆動可能な回転数が低下し、或いは、高い回転数にて出力可能トルクが低下するため、高速の駆動可能範囲が狭くなる傾向がある。ハウジング内に収納されたモータにより圧縮機構を駆動する車載用電動コンプレッサでは、従来入力電圧の要求範囲は広くなかった(例えば、500Vプラスマイナス100V)。
【0003】
しかしながら、近年電動コンプレッサでも入力電圧の変化に対する駆動可能領域の要求が厳しくなってきている。これについて、
図13、
図14のグラフを用いてより具体的に説明する。
図13、
図14はインバータで駆動されるモータのNT特性を示しており、横軸は回転数[rpm]、縦軸は圧力条件を意味するトルク[Nm]である。各図中の黒丸は回転数の値に対してモータに要求されるトルクの値(要求駆動点)であり、モータはこの要求駆動点より高いトルクの出力が求められ、それを満たすことができるか否かで能力を評価することができる。
【0004】
尚、縦軸の縮尺を明瞭にするために、要求駆動点の最大トルク値を、描画する最大のトルク値として制限している。即ち、実際には要求駆動点の最大トルク値よりも高いトルクを出力可能な場合であっても、出力可能なトルクが要求駆動点の最大トルク値であるように制限している。
【0005】
図13において、実線は通常の入力電圧のとき、点線は入力電圧が低下したときのNT特性を示している。モータやインバータ回路を設計する場合、通常の入力電圧のときに駆動範囲(回転数)の全てで要求駆動点よりも高いトルクを出力でき、要求駆動点を満たすことができるように設計する(実線)。
【0006】
しかしながら、車載用電動コンプレッサでは、車両のバッテリを直流電源として使用するため、入力電圧が低下する場合があり、入力電圧が低下した場合は、回転数が高い領域では要求駆動点よりも出力可能なトルクが低くなってしまう(点線)。
【0007】
このように入力電圧が低下すると、駆動範囲が狭くなることが一般的であるが、入力電圧が低下した場合でも、
図14に示すように高速領域の駆動を可能としたい(
図14では点線が全駆動範囲で要求駆動点(黒丸)を満たしている)。
【0008】
図14のように高い回転数を駆動するためには、昇圧コンバータを配置してモータに印加する電圧を高くする方法が考えられるが、昇圧コンバータは大型であるため、車載用電動コンプレッサ等に搭載することは難しい。
【0009】
そこで、入力電圧に対してモータへの出力電圧を大きくとる方法として、両端が開放された複数の固定子巻線を備えた所謂オープンエンド巻線型のモータ(モータの中性点を接続せずに外側に出したモータ)を、二つのインバータ回路で挟み込んで駆動するデュアルインバータ方式の電力変換装置が種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4122458号公報
【特許文献2】特開2005-33984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような電力変換装置は、大別すると
図15と
図16に示すものに分けられる。
図15は一般的な所謂電圧共通型の電力変換装置で、特許文献1はこの部類に入る。
図15において、Mは上記オープンエンド巻線型のモータ、INV1は第1のインバータ回路、INV2は第2のインバータ回路であり、これらでモータMの固定子巻線を挟み込んでいる。
【0012】
電圧共通型の電力変換装置では、二つのインバータ回路INV1、INV2で共通の直流電源を使用する。そのため、入力電圧が500Vの場合には、例えばU相で見た場合、プラスマイナス500VをモータMに印加することができ、正弦波電圧を利用できるのはプラスマイナス500Vとなる。尚、通常の三相インバータ回路の場合には、線間変調を利用した場合に正弦波電圧を利用できるのはプラスマイナス500V/ルート3のため、ルート3倍大きくなる。
【0013】
一方、
図16は一般的な所謂フローティングキャパシタ方式の電力変換装置であり、特許文献2はこの部類に入る。
図16においては第2のインバータ回路INV2はキャパシタ(コンデンサC)に接続されている。そして、コンデンサCには第2のインバータ回路INV2によりモータMを介して充電することになる。そして、第1のインバータ回路INV1が力行運転をし、第2のインバータ回路INV2が回生運転と力行運転の両方を行うことで、コンデンサCに充電しながら、モータMに高電圧を印加できるようにしていた。この方式であれば、第2のインバータ回路INV2側に備えるコンデンサCを昇圧しながらモータMを駆動することができるため、モータMに印加できる電圧を電圧共通型よりも更に高くすることができる。
【0014】
ここで、各インバータ回路INV1、INV2のスイッチング素子をON/OFFするためには、ゲート駆動用電源が必要となる。しかしながら、
図16のようなフローティングキャパシタ方式の電力変換装置では、第2のインバータ回路INV2が浮遊電位となるため、第1のインバータ回路INV1のスイッチング素子のゲート駆動用電源とは別に、基準電位の異なる第2のインバータ回路INV2のスイッチング素子のゲート駆動用電源(絶縁電源)を作る必要があり、車載用電動コンプレッサのように基板面積が限られる電力変換装置では、部品実装面積、及び、コスト面で採用することが困難であった。
【0015】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、部品実装面積を増やすこと無く、低コストで入力電圧の変化に対する駆動可能領域の拡大を図ることができる電力変換装置、及び、それを備えた車載用電動コンプレッサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の電力変換装置は、両端が開放された複数の固定子巻線を備えるモータに、それぞれ複数のスイッチング素子から構成された第1のインバータ回路、及び、第2のインバータ回路を接続し、各スイッチング素子を制御装置によりスイッチングすることにより、直流電源から交流出力を生成してモータに印加するものであって、第1のインバータ回路の正側入力端が直流電源の正側電源ラインに接続され、第1のインバータ回路の負側入力端が直流電源の負側電源ラインに接続され、第1のインバータ回路の出力端がモータの固定子巻線の一端に接続されており、第2のインバータ回路の出力端がモータの固定子巻線の他端に接続され、第2のインバータ回路の正側入力端と負側入力端間にはコンデンサが接続されていると共に、第2のインバータ回路の正側入力端は直流電源の正側電源ラインに接続されておらず、第2のインバータ回路の負側入力端は直流電源の負側電源ラインに接続されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明において第1のインバータ回路のスイッチング素子と、第2のインバータ回路のスイッチング素子を、共通のゲート駆動用電源によりスイッチングすることを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明の電力変換装置は、請求項1の発明において制御装置は、直流電源からモータを介して第2のインバータ回路によりコンデンサに充電すると共に、第2のインバータ回路のスイッチング素子をスイッチングすることにより、コンデンサに充電された電圧を用いてモータに交流出力を印加することを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明の電力変換装置は、上記発明において制御装置は、コンデンサの充電電圧が所定の定電圧となるように各インバータ回路のスイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明の電力変換装置は、請求項1に発明において制御装置は、第1のインバータ回路のスイッチング素子を、ゼロ電圧ベクトル、及び/又は、電気角一回転中に6回のみ電圧ベクトルを変更する6ステップ制御でスイッチングすることを特徴とする。
【0021】
請求項6の発明の車載用電動コンプレッサは、上記各発明の電力変換装置と、モータを備えて圧縮機構を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、両端が開放された複数の固定子巻線を備えるモータに、それぞれ複数のスイッチング素子から構成された第1のインバータ回路、及び、第2のインバータ回路を接続し、各スイッチング素子を制御装置によりスイッチングすることにより、直流電源から交流出力を生成してモータに印加する電力変換装置であって、第1のインバータ回路の正側入力端が直流電源の正側電源ラインに接続され、第1のインバータ回路の負側入力端が直流電源の負側電源ラインに接続され、第1のインバータ回路の出力端がモータの固定子巻線の一端に接続されており、第2のインバータ回路の出力端がモータの固定子巻線の他端に接続され、第2のインバータ回路の正側入力端と負側入力端間にはコンデンサが接続されている構成としたので、請求項3の発明の如く制御装置が、直流電源からモータを介して第2のインバータ回路によりコンデンサに充電し、第2のインバータ回路のスイッチング素子をスイッチングすることにより、コンデンサに充電された電圧を用いてモータに交流出力を印加することで、入力電圧の変化に対する駆動可能領域の拡大を図ることができるようになる。
【0023】
特に、本発明では第2のインバータ回路の正側入力端を直流電源の正側電源ラインに接続せず、第2のインバータ回路の負側入力端を直流電源の負側電源ラインに接続するようにしたので、第2のインバータ回路が浮遊電位とならず、第1のインバータ回路と第2のインバータ回路の基準電圧をそろえることができるようになる。それにより、第1のインバータ回路のスイッチング素子のゲート駆動用電源(絶縁電源)とは別に、第2のインバータ回路のスイッチング素子のゲート駆動用電源(絶縁電源)を作る必要が無くなり、請求項2の発明の如く第1のインバータ回路のスイッチング素子と、第2のインバータ回路のスイッチング素子を、共通のゲート駆動用電源によりスイッチングすることができるようになる。
【0024】
以上により、別途昇圧コンバータ等を用いずに入力電圧の変化に対する駆動可能領域の拡大を図ることが可能となると共に、ゲート駆動用電源を各インバータ回路毎に作る必要が無くなることから、部品実装面積の増加を抑制し、コストダウンを実現することができるようになる。このことは、特に請求項6の発明のように入力電圧が大きく変化すると共に、コスト低減の要求も強く、且つ、基板面積が限られて電力変換装置の小型化が要求される車載用電動コンプレッサにおいては極めて有効なものとなる。
【0025】
また、請求項4の発明の如く制御装置が、コンデンサの充電電圧が所定の定電圧となるように各インバータ回路のスイッチング素子のスイッチングを制御することで、入力電圧が変化する場合にも、第2のインバータ回路のスイッチング素子として、第1のインバータ回路のスイッチング素子よりも耐圧が低いものを使用することが可能となり、部品コストの著しい削減を図ることができるようになる。
【0026】
更に、請求項5の発明の如く制御装置が、第1のインバータ回路のスイッチング素子を、ゼロ電圧ベクトル、及び/又は、電気角一回転中に6回のみ電圧ベクトルを変更する6ステップ制御でスイッチングすることで、電力変換装置から直流電源に流れ込む電流のリプルを大幅に抑制し、ノイズの低減を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施例の電力変換装置の電気回路図である。
【
図2】本発明を適用した一実施例の車載用電動コンプレッサの概略縦断面図である。
【
図3】
図1の電力変換装置の動作を説明する図である(始動時)。
【
図4】
図3の場合の各部の電圧/電流を説明する図である。
【
図5】
図1の電力変換装置の動作を説明するもう一つ図である(定常運転時)。
【
図6】
図5場合の各部の電圧/電流を説明する図である。
【
図8】
図7の場合の各部の電圧を説明する図である。
【
図9】
図1の電力変換装置のもう一つの電気回路図である。
【
図10】
図9の場合の各部の電圧を説明する図である。
【
図11】
図9の場合のモータに印加する正弦波電圧の振幅を説明する図である。
【
図12】
図1の電力変換装置のゲートドライバの内部構成を示す図である。
【
図14】モータのNT特性を説明するもう一つの図である。
【
図15】一般的な電圧共通型の電力変換装置の電気回路図である。
【
図16】一般的なフローティングキャパシタ方式の電力変換装置の電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。先ず、
図2を用いて本発明を適用した一実施例の電動コンプレッサ16について説明する。尚、
図2の電動コンプレッサ16は、電動車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成する車載用電動コンプレッサである。
【0029】
(1)電動コンプレッサ16の構成
図2において、電動コンプレッサ16の金属性の筐体2(ヒートシンク)内は、当該筐体2の軸方向に交差する仕切壁3(筐体2の一部)により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。実施例のモータ8は筐体2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0030】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。筐体2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14から筐体2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0031】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口より筐体2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0032】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明の電力変換装置1が収容される。この場合、電力変換装置1は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0033】
(2)電力変換装置1の構造
実施例の場合、電力変換装置1は、基板17と、この基板17の一面側に配線された12個の上下アームスイッチング素子18A~18F、18A1~18F1と、基板17の他面側に配線された制御装置22と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている。各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1は、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)から構成されている。
【0034】
電力変換装置1は、各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1がある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0035】
このように電力変換装置1が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1は仕切壁3に密着し、筐体2の仕切壁3と熱交換関係となる。そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1は仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3を介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。
【0036】
(3)電力変換装置1の回路構成
次に、
図1において電力変換装置1は、何れも三相の第1のインバータ回路20、及び、第2のインバータ回路21と、制御装置22を備えている。この発明では、第1及び第2のインバータ回路20、21により、直流電源(電動車両の高電圧バッテリ)29の直流電圧(例えば、DC500V。但し、125V~500Vの範囲で変動する)を三相交流電圧(交流出力)に変換してモータ8のステータ9の固定子巻線9U、9V、9Wに印加する。ここで、モータ8のステータ9の固定子巻線9U、9V、9Wは中性点で束ねられていない。
【0037】
(3-1)第1のインバータ回路20
第1のインバータ回路20は、U相のハーフブリッジ回路19U、V相のハーフブリッジ回路19V、W相のハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相のハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ前述した上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fは、それぞれ逆並列に接続されたフライホイールダイオードを内蔵する。
【0038】
そして、第1のインバータ回路20の正側入力端である上アームスイッチング素子18A~18Cのコレクタ電極は、直流電源29の正側電源ライン31(HV+)に接続されている。一方、第1のインバータ回路20の負側入力端である下アームスイッチング素子18D~18Fのエミッタ電極は、直流電源29の負側電源ライン32(HV-)に接続されている。
【0039】
尚、図中33は正側電源ライン31に接続されたインダクタ、34は正側電源ライン31と負側電源ライン32間に接続されたコンデンサであり、インダクタ33とコンデンサ34でノイズフィルタを構成している。
【0040】
第1のインバータ回路20は、U相のハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aのエミッタ電極と下アームスイッチング素子18Dのコレクタ電極が接続され、それらの接続点(アーム中点:第1のインバータ回路20の出力端)はモータ8のU相の固定子巻線9Uの一端に接続されている。また、V相のハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bのエミッタ電極と下アームスイッチング素子18Eのコレクタ電極が接続され、それらの接続点(アーム中点:第1のインバータ回路20の出力端)はモータ8のV相の固定子巻線9Vの一端に接続されている。更に、W相のハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cのエミッタ電極と下アームスイッチング素子18Fのコレクタ電極が接続され、それらの接続点(アーム中点:第1のインバータ回路20の出力端)はモータ8のW相の固定子巻線9Wの一端に接続されている。
【0041】
(3-2)第2のインバータ回路21
第2のインバータ回路21も、UVWの各相に対応する3個のハーフブリッジ回路19U1、19V1、19W1を備えている。そして、モータ8の各相の中性点は束ねられずに、第1のインバータ回路20のハーフブリッジ回路19U~19Wと、第2のインバータ回路のハーフブリッジ回路19U1~19W1で、モータ8の固定子巻線9U~9Wを挟んだ構成とされている。即ち、本発明の電力変換装置1は、所謂デュアルインバータ方式の電力変換装置である。
【0042】
第2のインバータ回路21のハーフブリッジ回路19U1~19W1も、それぞれ上アームスイッチング素子18A1~18C1と、下アームスイッチング素子18D1~18F1を個別に有している。また、各スイッチング素子18A1~18F1も、それぞれ逆並列に接続されたフライホイールダイオードを内蔵する。
【0043】
そして、第2のインバータ回路の21の正側入力端である上アームスイッチング素子18A1~18C1のコレクタ電極と、第2のインバータ回路21の負側入力端である下アームスイッチング素子18D1~18F1のエミッタ電極間には、コンデンサ36(キャパシタ)が接続されている。
【0044】
但し、第2のインバータ回路の21の正側入力端である上アームスイッチング素子18A1~18C1のコレクタ電極は、直流電源29の正側電源ライン31に接続していない。一方、本発明では第2のインバータ回路21の負側入力端である下アームスイッチング素子18D1~18F1のエミッタ電極を、直流電源29の負側電源ライン32に接続している。
【0045】
そして、U相のハーフブリッジ回路19U1の上アームスイッチング素子18A1のエミッタ電極と下アームスイッチング素子18D1のコレクタ電極が接続され、それらの接続点(アーム中点:第2のインバータ回路21の出力端)はモータ8のU相の固定子巻線9Uの他端に接続されている。また、V相のハーフブリッジ回路19V1の上アームスイッチング素子18B1のエミッタ電極と下アームスイッチング素子18E1のコレクタ電極が接続され、それらの接続点(アーム中点:第2のインバータ回路21の出力端)はモータ8のV相の固定子巻線9Vの他端に接続されている。更に、W相のハーフブリッジ回路19W1の上アームスイッチング素子18C1のエミッタ電極と下アームスイッチング素子18F1のコレクタ電極が接続され、それらの接続点(アーム中点:第2のインバータ回路21の出力端)はモータ8のW相の固定子巻線9Wの他端に接続されている。
【0046】
(3-3)制御装置22
次に、制御装置22はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、電動車両ECUから回転数指令値を入力し、図示しない電流センサからモータ8の相電流を入力して、これらに基づき、第1及び第2のインバータ回路20、21の各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1のON/OFF状態を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1のゲートに印加するゲート電圧を制御する。
【0047】
この制御装置22は、相電圧指令演算部41と、線間変調演算部42と、PWM信号生成部43と、ゲートドライバ44を有している。相電圧指令演算部41は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流に基づいてモータ8の各相の固定子巻線9U~9Wに印加する相電圧指令値Vu(U相の相電圧指令値)、Vv(V相の相電圧指令値)、Vw(W相の相電圧指令値)を演算する。
【0048】
線間変調演算部42は、相電圧指令演算部41により演算され、算出された相電圧指令値Vu、Vv、Vwに基づき、第1のインバータ回路20の相電圧指令値Vu1(U相の相電圧指令値)、Vv1(V相の相電圧指令値)、Vw1(W相の相電圧指令値)、及び、第2のインバータ回路21の相電圧指令値Vu2(U相の相電圧指令値)、Vv2(V相の相電圧指令値)、Vw2(W相の相電圧指令値)を生成する。ここで、これらのパルス幅指令値は以下の数式(I)~(III)の関係となるように設定する。
Vu=Vu1-Vu2 ・・・(I)
Vv=Vv1-Vv2 ・・・(II)
Vw=Vw1-Vw2 ・・・(III)
【0049】
そのため、例えば第1のインバータ回路20を電気角一回転中に6回のみ電圧ベクトルを変更する6ステップ制御で駆動するように第1のインバータ回路20側の相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1を与えた場合には、相電圧指令演算部41が生成した相電圧指令値Vu、Vv、Vwとなるように、第2のインバータ回路21側の相電圧指令値Vu2、Vv2、Vw2を調整することができる。更には、上記数式(I)~(III)を満たすように相電圧を選択することで、第2のインバータ回路21側の相電圧指令値を二相変調のようにして、スイッチング損失の低減を図ることもできる。
【0050】
次に、PWM信号生成部43は、線間変調演算部42により演算され、算出された第1のインバータ回路20の相電圧指令値Vu1、Vv1、Vw1に基づき、第1のインバータ回路20のU相のハーフブリッジ回路19U、V相のハーフブリッジ回路19V、W相のハーフブリッジ回路19Wの駆動指令信号となるPWM信号vu、vv、vwを、キャリア三角波と大小を比較することにより発生させると共に、算出された第2のインバータ回路21の相電圧指令値Vu2、Vv2、Vw2に基づき、第2のインバータ回路21のU相のハーフブリッジ回路19U1、V相のハーフブリッジ回路19V1、W相のハーフブリッジ回路19W1の駆動指令信号となるPWM信号vu1、vv1、vw1を、キャリア三角波と大小を比較することにより発生させる。
【0051】
ゲートドライバ44は、PWM信号生成部43から出力されるPWM信号vu、vv、vw、vu1、vv1、vw1に基づき、第1のインバータ回路20のU相のハーフブリッジ回路19Uのスイッチング素子18A、18Dのゲート電圧と、V相のハーフブリッジ回路19Vのスイッチング素子18B、18Eのゲート電圧と、W相のハーフブリッジ回路19Wのスイッチング素子18C、18Fのゲート電圧と、第2のインバータ回路21のU相のハーフブリッジ回路19U1のスイッチング素子18A1、18D1のゲート電圧と、V相のハーフブリッジ回路19V1のスイッチング素子18B1、18E1のゲート電圧と、W相のハーフブリッジ回路19W1のスイッチング素子18C1、18F1のゲート電圧を発生させる。
【0052】
そして、第1のインバータ回路20の各スイッチング素子18A~18Fと、第2のインバータ回路21の各スイッチング素子18A1~18F1は、ゲートドライバ44から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。このゲートドライバ44は、スイッチング素子18A~18F、18A1~18F1が前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、後述するブートストラップ回路58の他、絶縁回路やプッシュプル回路(フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等)から成る上アームのゲートドライブ回路59及び下アームのゲートドライブ回路61を有する(
図12に示す)。尚、ブートストラップ回路58や各ゲートドライブ回路59、61、ゲート駆動用電源62については後に詳述する。
【0053】
(4)電力変換装置1の動作
次に、
図3~
図11を参照しながら、デュアルインバータ方式の本発明の電力変換装置1の動作について説明する。
(4-1)始動時の充電動作
先ず、
図3、
図4を参照して制御装置22による電力変換装置1の始動時の動作について説明する。各図においてVu1は第1のインバータ回路20のU相のハーフブリッジ回路19Uのアーム中点の電圧(中間電圧)、Vv1は第1のインバータ回路20のV相のハーフブリッジ回路19Vのアーム中点の電圧(中間電圧)、Vw1は第1のインバータ回路20のW相のハーフブリッジ回路19Wのアーム中点の電圧(中間電圧)である。
【0054】
上アームスイッチング18AがONのとき中間電圧Vu1は高くなり、実施例のように直流電源29の電圧が125Vのときは125Vとなる。下アームスイッチング素子18DがONのとき中間電圧Vu1は0Vとなる。V相とW相の中間電圧Vv1、Vw1も同様である。
【0055】
図中Vu2は第2のインバータ回路21のU相のハーフブリッジ回路19U1のアーム中点の電圧(中間電圧)、Vv2は第2のインバータ回路21のV相のハーフブリッジ回路19V1のアーム中点の電圧(中間電圧)、Vw2は第2のインバータ回路21のW相のハーフブリッジ回路19W1のアーム中点の電圧(中間電圧)である。
【0056】
第2のインバータ回路21の中間電圧Vu2、Vv2、Vw2も第1のインバータ回路20の場合と同様のことが云えるが、第2のインバータ回路21は直流電源29では無く、コンデンサ36に接続されているため、始動時の充電動作中は各中間電圧Vu2、Vv2、Vw2は徐々に上昇している。
【0057】
図中Vdc2はコンデンサ36の電圧(充電電圧)である。また、iu、iv、iwはモータ8のUVW各相の固定子巻線9U、9V、9Wに流れる相電流(U相電流iu、V相電流iv、W相電流iw)であり、
図3の左から右に向かって流れるときの値を正としている。また、idc1はコンデンサ34の正極から第1のインバータ回路20に流れ出る電流を示しており、第1のインバータ回路20が力行運転時にはコンデンサ34の正極から第1のインバータ回路20に電流が流れ込み、idc1は正であり、回生運転時には第1のインバータ回路20からコンデンサ34の正極に電流が流れ込み、idc1は負である。第2のインバータ回路21でも同様に、idc2はコンデンサ36の正極から第2のインバータ回路21に流れ出す電流を示しており、第2のインバータ回路21の力行運転時にはコンデンサ36の正極から第2のインバータ回路21に電流が流れ込み、idc2は正であり、回生運転時には第2のインバータ回路21からコンデンサ36の正極に電流が流れ込み、idc2は負である。
【0058】
図3は
図4の破線枠部分の電流の流れを示している。ハーフブリッジ回路ではスイッチング素子がONしている側に電流が流れるため、
図4では各相の電流経路で考えると、idc2が負となっており、回生されている。その結果、Vdc2が充電されている。
図4の区間全体で見たときには、idc2が負の区間が長いことが分かり、即ち、コンデンサ36は力行運転よりも回生運転の方が多く、充電できていることが分かる。その結果、Vdc2(コンデンサ36の充電電圧)を上昇(昇圧)させることができる。
【0059】
(4-2)定常運転時の動作
次に、
図5、
図6は電力変換装置1の定常運転時の動作を示している。ここで、制御装置22の相電圧指令演算部41は、前述した始動時の動作でコンデンサ36の電圧(充電電圧)Vdc2を250Vまで上昇(昇圧)させ、250Vの定電圧に保つスイッチング制御を実行する。ここで、直流電源29は前述した如く125V~500Vの範囲で変動するが、相電圧指令演算部41はコンデンサ36の電圧Vdc2を直流電源29の最も低い電圧(125V)より高い一定の250V(定電圧)に維持する。
【0060】
尚、
図5、
図6は直流電源29の電圧が125Vの場合である。また、相電圧指令演算部41は第1のインバータ回路20の各スイッチング素子18A~18Fを、電気角一回転中に6回のみ電圧ベクトルを変更する6ステップ制御でスイッチングする。尚、スイッチング素子18A~18Fのスイッチングは、それに限らず、ゼロ電圧ベクトルと6ステップ制御を組み合わせて制御してもよく、また、二相変調や三相変調などの方法で制御してもよい。
【0061】
図5は
図6中の或る時点の電流の流れを示している。第1のインバータ回路20のW相のハーフブリッジ回路19Wの下アームスイッチング素子18Dと第2のインバータ回路21のW相のハーフブリッジ回路19W1の下アームスイッチング素子18D1がONしているため、第1のインバータ回路20のW相の中間電圧Vw1と第2のインバータ回路21のW相の中間電圧Vw2は0Vになっている。
【0062】
また、第2のインバータ回路21に流れ込む電流idc2は、正と負の両方に電流が流れているが、平均電流で見れば0(ゼロ)となるようになっており、そのためコンデンサ36の電圧Vdc2は250Vに維持される(定電圧)。
【0063】
この実施例では第1のインバータ回路20が6ステップ制御されており、第1のインバータ回路20のU相のハーフブリッジ回路19Uの中間電圧Vu1は、上アームスイッチング素子18AをONに固定しているため125V、V相のハーフブリッジ回路19Vの中間電圧Vv1とW相のハーフブリッジ回路19Wの中間電圧Vw1は下アームスイッチング素子18E、18FがONに固定されるため0Vである。
【0064】
この場合でも、第2のインバータ回路21の各ハーフブリッジ回路19U1~19W1の中間電圧Vu2、Vv2、Vw2をPWM制御することにより、モータ8には任意の正弦波の電圧を印加することができる。尚、
図6では第2のインバータ回路21は二相変調駆動しているため、W相のハーフブリッジ回路19W1はスイッチングを停止している。
【0065】
ここで、通常の三相のインバータ回路の場合(
図7に示す)、PWMによりモータ8に任意の電圧を印加するために、インバータ回路には
図6のidc2のような不連続なパルス電流が流れることになる。このパルス電流でインバータ回路INVから直流電源側にノイズ成分が流出することになる。
【0066】
それに対して、本発明の電力変換装置1の構成で、実施例の如く第1のインバータ回路20を6ステップ制御でスイッチング駆動し、第2のインバータ回路21を正弦波で駆動する場合には、idc2にのみが高周波電流となり、idc1は高周波電流とならない。そして、idc2は回路内(電力変換装置1内)で還流する電流であり、直流電源29まで流出せず、直流電源29まで流出するノイズはidc1の成分のみとなるため、これにより、ディファレンシャルモードノイズを大幅に低減することができるようになる。
【0067】
ここで、固定子巻線が中性点で束ねられたモータMを通常のインバータINVで駆動する
図7の回路と本発明の電力変換装置1を比較する。入力電圧が125Vの三相インバータINVの場合、各ハーフブリッジ回路の中間電圧をVu1、Vv1、Vw1として、モータMの中性点電圧をVmidとすると、Vmidの大きさは、(Vu+Vv+Vw)/3で与えられ、モータMのU相に対して中性点電圧vmidからインバータINVのU相のハーフブリッジ回路の中間電圧Vu1までの電位Vusetを考えると、vset=Vu1-vmidで求められる。V相、W相の電位Vvset、Vwsetも同様に求められる。
【0068】
中間電圧Vu1、Vv1、Vw1はそれぞれ上アームスイッチング素子がONのときに125Vで、下アームスイッチング素子がONのときは0Vとなる。この各条件のときの電位Vuset、Vvset、Vwsetを計算すると
図8のようになる。また、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβは、電位Vuset、Vvset、Vwsetから数式(IV)で算出することができ、これらも
図8に示す。尚、ここでは印加電圧の振幅の評価を行いたいために相対変換にて計算を行っている。
【0069】
【0070】
ここで、UVW軸の電位(相印加電圧)Vuset、Vvuset、Vwsetと、αβ軸のα軸電圧Vα、β軸電圧Vβの関係は
図11のようになり、
図8V1~V6は
図11に示す電圧ベクトルと対応している。
図11では、UVW軸を一点鎖線で、αβ軸を点線で記載しており、軸の正方向を矢印で示している。このように電圧ベクトルV1~V6の電圧を出力でき、モータ8に印加できる正弦波電圧の振幅は、線間変調を利用することで
図11の六角形の内接円となる。
【0071】
また、このときの六角形の内接円の振幅は、電圧ベクトルV2のβ軸の長さと一致するため、プラスマイナス72.17Vとなる。これは、入力電圧振幅に対してルート3で除算した値となる。尚、線間変調を利用しない場合には、モータ8に印加できる正弦波電圧の振幅は、入力電圧振幅に対して2で除算したプラスマイナス62.5Vとなり、線間変調を利用した場合と比較して、2/ルート3で除算した値となる。
【0072】
これに対して、デュアルインバータ方式の本発明の電力変換装置1の場合の相印加電圧を
図9と
図10で説明する。尚、
図9は定常運転の状態を示している(直流電源29は125V、コンデンサ36の電圧Vdcは250V)。この場合にモータ8のU相の固定子巻線9Uに印加される電圧(相印加電圧)Vusetは、Vuset=Vu1-Vu2となる。第1のインバータ回路20の上アームスイッチング素子18AがONで、第2のインバータ回路21の下アームスイッチング素子18D1がONの場合、Vuset=125-0=125Vとなるが、逆に第1のインバータ回路20の下アームスイッチング素子18DがONで、第2のインバータ回路21の上アームスイッチング素子18A1がONの場合、Vuset=0-250=-250Vとなる。
【0073】
この二つの電圧を利用して、印加電圧の振幅を確認したものが
図10である。前述した
図7、
図8の通常の三相インバータ回路と比較して、α軸電圧Vαとβ軸電圧Vβを大きくすることができることが分かる。具体的には、電圧ベクトルV1~V6のα軸電圧Vαとβ軸電圧Vβは全て3倍になっている。そのため、
図11の電圧ベクトルの振幅は3倍となる。但し、デュアルインバータ方式の場合には、線間変調は利用できないため、出力できる正弦波電圧の振幅は2/ルート3で除算した大きさになるものの、通常の三相インバータ回路よりも大きな振幅である3/(2/ルート3)倍の正弦波電圧をモータ8に印加することができる。
【0074】
前述したように、直流電源29からの入力電圧は125V~500Vの範囲で変動するが、上記のようにコンデンサ36の電圧Vdc2を250Vで一定に制御することで、直流電源29からの入力電圧が125Vのときは昇圧しながら駆動することができるようになり、入力電圧が低い場合でも高い電圧をモータ8に印加することができるようになる。
【0075】
また、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18Fは、入力電圧が500Vのときに対応するため、サージ電圧等を考慮して600V耐圧のものが必要となるが、上述したようにコンデンサ36の電圧Vdc2を250Vの一定に制御すれば、第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A1~18F1としては、300V耐圧(コンデンサ36の電圧250Vの電圧に耐えられれば良いという意味)のものを採用することができるようになり、コストダウンにつながる。
【0076】
(5)ブートストラップ回路58とゲート駆動用電源62
次に、
図12を参照しながら、ゲートドライバ44の前述したブートストラップ回路58について説明する。尚、
図12において
図1と同一符号で示すものは同一とする。また、
図12では第1のインバータ回路20のU相のみを示しているが、第1のインバータ回路20のV相及びW相、第2のインバータ回路21のUVW各相についても同様の回路構成であるものとする。
【0077】
図中において、58は前述したブートストラップ回路、59は第1のインバータ回路20のU相のハーフブリッジ回路19Uを構成する上アームスイッチング素子18Aのゲートドライブ回路、61は下アームスイッチング素子18Dのゲートドライブ回路である。また、62はDC+15Vのゲート駆動用電源(絶縁電源)であり、基板17に構成される。
【0078】
ゲートドライブ回路59は、ゲートドライバ44内部で生成されるU相上ゲート指令に基づき、前述したゲート電圧を生成して上アームスイッチング素子18Aのゲートに印加するもので、ブートストラップ回路58を介してDC15Vのゲート駆動電源62に接続されている。また、ゲートドライブ回路61はゲートドライバ44内部で生成されるU相下ゲート指令に基づき、前述したゲート電圧を生成して下アームスイッチング素子18Dのゲートに印加するもので、ゲート駆動用電源62に接続されている。尚、ここでは標準的なIGBTを例として示しているため、DC15Vをゲート駆動電圧として設定しているが、この電圧は使用するスイッチング素子により異なる。
【0079】
一方、ブートストラップ回路58は、ブートストラップコンデンサ63(上アームスイッチング素子をスイッチングするためのブートストラップコンデンサ)と、ダイオード64と、電流制限抵抗66から構成されており、上アームのゲートドライブ回路59とゲート駆動用電源62の間に
図12のように接続されている。ここで、上下アームスイッチング素子18A、18Dはゲート電圧が15V必要なIGBTであるものとすると、下アームスイッチング素子18Dを駆動するためのゲート電圧は、HVGND(筐体2)に対して+15Vでよいため、特に特殊な対策を施すことなく駆動可能である。
【0080】
他方、上アームスイッチング素子18Aを駆動するためには、上アームスイッチング素子18Aのゲート電圧は、モータ8に接続されているアーム中点に対して+15Vである必要がある。そこで、ブートストラップ回路58を用いて上アームスイッチング素子18Aを駆動するための+15Vを作る。
【0081】
図12で下アームスイッチング素子18DがONし、上アームスイッチング素子18AがOFFした状態の場合、アーム中点の中間電圧Vu1はHVGNDになり、図中破線矢印の経路で電流が流れ、ブートストラップコンデンサ63に充電が行われる。次に、下アームスイッチング素子18DをOFFし、上アームスイッチング素子18AをONする。こうすることで、アーム中点の電圧に対して上アームスイッチング素子18Aのゲート電圧は、15V高い電位に保たれる。
【0082】
上記のようなブートストラップ回路58は、第1のインバータ回路20及び第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A~18F1のゲートに対してそれぞれ設けられるものであるが、本発明では前述した如く、第2のインバータ回路21の負側入力端である下アームスイッチング素子18D1~18F1のエミッタ電極を、直流電源29の負側電源ライン32に接続しているので、第2のインバータ回路21が浮遊電位とならず、第1のインバータ回路20と第2のインバータ回路21の基準電圧をHVGND(筐体2)の電位にそろえることができるようになる。
【0083】
それにより、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18F用のブートストラップ回路58と、第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A1~18F1用のブートストラップ回路58で、共通のゲート駆動用電源62を使用することができるようになる。
【0084】
即ち、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18Fのゲート駆動用電源(絶縁電源)とは別に、第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A1~18F1のゲート駆動用電源(絶縁電源)を基板17上に作る必要が無くなる。
【0085】
以上詳述した如く、本発明のデュアルインバータ方式の電力変換装置1によれは、コンデンサ36に充電された電圧を用いてモータ8に交流出力を印加することで、入力電圧の変化に対する駆動可能領域の拡大を図ることができるようになる。
【0086】
特に、本発明では第2のインバータ回路21の正側入力端を直流電源29の正側電源ライン31に接続せず、第2のインバータ回路21の負側入力端を直流電源29の負側電源ライン32に接続するようにしたので、第2のインバータ回路21が浮遊電位とならず、第1のインバータ回路20と第2のインバータ回路21の基準電圧をそろえることができるようになる。それにより、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18Fのゲート駆動用電源(絶縁電源)62とは別に、第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A1~18F1のゲート駆動用電源(絶縁電源)を作る必要が無くなり、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18Fと、第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A1~18F1を、共通のゲート駆動用電源62によりスイッチングすることができるようになる。
【0087】
以上により、別途昇圧コンバータ等を用いずに入力電圧の変化に対する駆動可能領域の拡大を図ることが可能となると共に、ゲート駆動用電源62を各インバータ回路20、21毎に作る必要が無くなることから、部品実装面積の増加を抑制し、コストダウンを実現することができるようになる。このことは、特に実施例のように入力電圧が大きく変化すると共に、コスト低減の要求も強く、且つ、基板17の面積が限られて電力変換装置1の小型化が要求される車載用電動コンプレッサ16においては極めて有効なものとなる。
【0088】
また、実施例の如く制御装置22が、コンデンサ36の充電電圧が所定の定電圧(250V)となるように各インバータ回路20、21のスイッチング素子18A~18F1のスイッチングを制御することで、入力電圧が125V~500Vの範囲で変化する場合にも、第2のインバータ回路21のスイッチング素子18A1~18F1として、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18Fよりも耐圧が低いものを使用することが可能となり、部品コストの著しい削減を図ることができるようになる。
【0089】
更に、実施例の如く制御装置22が、第1のインバータ回路20のスイッチング素子18A~18Fを、ゼロ電圧ベクトル、及び/又は、電気角一回転中に6回のみ電圧ベクトルを変更する6ステップ制御でスイッチングすることで、電力変換装置1から直流電源29に流れ込む電流のリプルを大幅に抑制することができるようになり、ノイズフィルタを構成するインダクタ33やコンデンサ34の容量を小型化しながら、ノイズの低減を図ることができるようになる。
【0090】
尚、実施例ではIGBTから成るスイッチング素子で説明したが、MOSFETでもよい。また、実施例では電力変換装置1を車載用電動コンプレッサ16に適用したが、請求項6の発明ではそれに限らず、モータを備える各種機器に本発明の電力変換装置1は有効である。更に、各実施例で示した具体的構成や数値は、それらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 電力変換装置
2 筐体
6 インバータ収容部
7 圧縮機構
8 モータ
9 ステータ
9U、9V、9W 固定子巻線
16 電動コンプレッサ
17 基板
18A~18H、 18A1~18F1 スイッチング素子
19U、19U1 U相のハーフブリッジ回路
19V、19V1 V相のハーフブリッジ回路
19W、19W1 W相のハーフブリッジ回路
20 第1のインバータ回路
21 第2のインバータ回路
22 制御装置
29 直流電源
31 正側電源ライン
32 負側電源ライン
36 コンデンサ
58 ブートストラップ回路
62 ゲート駆動用電源