(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155302
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】貫通孔へのめっき方法及び回路基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/42 20060101AFI20241024BHJP
H05K 1/11 20060101ALI20241024BHJP
H05K 3/40 20060101ALI20241024BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H05K3/42 610B
H05K1/11 H
H05K1/11 N
H05K3/40 K
H05K3/40 E
H05K3/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069921
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】599141227
【氏名又は名称】学校法人関東学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】梅田 泰
(72)【発明者】
【氏名】本間 英夫
【テーマコード(参考)】
5E317
5E343
【Fターム(参考)】
5E317AA24
5E317BB02
5E317BB04
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5E343AA17
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5E343DD33
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5E343DD48
5E343ER53
5E343FF17
5E343GG06
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】本件発明は、絶縁性基材の高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を充填して、貫通孔の空洞部分をボイドの発生無く埋めることが短時間で可能な貫通孔へのめっき方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、絶縁性基材の一方の面Aの表面における貫通孔の少なくとも周囲と貫通孔とを覆う導電性金属層Aを形成する工程1と、電解めっき法を用いて、導電性金属層Aを通電層として、面Aとは異なる絶縁性基材の面B方向に導電性金属層Bを析出させて貫通孔を埋める工程2とを含み、工程2における電解めっき法は、電解めっき法に用いる電解めっき液が貫通孔内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行いながら、電流密度を低電流密度から開始し、導電性金属層Bの析出が進むのに応じて、電流密度を段階的に増加させる方法を用いることを特徴とする貫通孔へのめっき方法を採用した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材に設けられた貫通孔に金属を充填して前記貫通孔の空洞部分を埋める前記貫通孔へのめっき方法であって、
前記貫通孔のアスペクト比は、前記貫通孔の径を1としたとき、前記絶縁性基材の厚さが10以上であり、
前記絶縁性基材の一方の面Aの表面における前記貫通孔の少なくとも周囲と前記貫通孔とを覆う導電性金属層Aを形成する工程1と、
電解めっき法を用いて、前記導電性金属層Aを通電層として、前記面Aとは異なる前記絶縁性基材の面B方向に導電性金属層Bを析出させて前記貫通孔を埋める工程2とを含み、
前記工程2における前記電解めっき法は、前記電解めっき法に用いる電解めっき液が前記貫通孔内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行いながら、電流密度を低電流密度から開始し、前記導電性金属層Bの析出が進むのに応じて、前記電流密度を段階的に増加させる方法を用いることを特徴とする貫通孔へのめっき方法。
【請求項2】
前記電解めっき液は、硫酸銅5水和塩と硫酸とを含有する電解銅めっき液であり、前記電解銅めっき液は添加剤としてジチオビス(1-プロパンスルホン酸)2ナトリウムを含有し、前記ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)2ナトリウムの含有量は50ppm以上である請求項1に記載の貫通孔へのめっき方法。
【請求項3】
前記工程1は、
前記面Aの表面における前記貫通孔の少なくとも周囲に導電性金属層Aaを成膜する工程1aと、
前記導電性金属層Aaの表面と前記導電性金属層Aaの孔とを覆う導電性金属層Abを形成する工程1bとを含み、
前記導電性金属層Aaと前記導電性金属層Abとからなる前記導電性金属層Aを形成する請求項1に記載の貫通孔へのめっき方法。
【請求項4】
前記工程1は、
金属箔膜を貼り合わせることによって前記導電性金属層Aを形成する請求項1に記載の貫通孔へのめっき方法。
【請求項5】
前記工程1と前記工程2との間に、前記貫通孔内の空気を脱気する工程を有する請求項1に記載の貫通孔へのめっき方法。
【請求項6】
前記工程2の後に、前記面Bの方向に析出した前記導電性金属層Bの不要部分を除去するエッチング工程を有する請求項1に記載の貫通孔へのめっき方法。
【請求項7】
請求項1に記載の貫通孔へのめっき方法を用いて前記貫通孔の空洞部分に金属を充填して埋めた絶縁性基材を用いたことを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、絶縁性基材の貫通孔に金属を充填して貫通孔の空洞部分を埋める貫通孔へのめっき方法、及び当該貫通孔へのめっき方法によって貫通孔の空洞部分に金属を充填して埋めた絶縁性基材を用いた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路基板では実装密度を向上させるために積層された多層基板が用いられている。この積層された複数の絶縁基板間を電気的に接続するために、各基板に基板の上下を貫く貫通孔を設け、コンフォーマルめっきなどの技術を用いて貫通孔の表面に銅などの導電性金属を成膜する技術が用いられてきた。このコンフォーマルめっきは、貫通孔の表面に導電性金属を成膜するものであることから、貫通孔には空隙が残ることになる。貫通孔に空隙が残っていた場合、当該回路基板に電子部品を接続するためのハンダリフローなどの熱工程時に、コンフォーマルめっき後に残った貫通孔の空隙内の空気が膨張することによってめっき皮膜のクラックや回路基板の破壊といった製品品質の低下を招く不具合が発生してしまう。そこで、コンフォーマルめっき後の貫通孔の空隙内に樹脂などを充填して、貫通孔の空隙を埋めて無くす技術が採用されてきた。
【0003】
しかしながら、電子回路基板の実装密度をより一層向上させるために、電子部品の小型化や電子回路基板の配線幅や配線間隔の微細化に伴い、貫通孔においても貫通孔の長さに対する貫通孔の径が小さくなる高アスペクト化が進んでいる。そして、高アスペクト比の貫通孔に、空隙無く樹脂を充填することが困難になってきている。
【0004】
そこで特許文献1や特許文献2では、貫通孔の一方に設けた電極を給電層とした電解めっき法を用いて、導電性金属を析出積層させて貫通孔を埋めた貫通ビアを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-126865号
【特許文献2】特開2006-210369号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示される一般的な電解めっき法を用いて高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を析出積層させる場合、ボイド(析出させた導電性金属で埋めきれずに残った空隙)の発生を抑えて導電性金属を析出積層させるには、低電流で長時間電解めっきを行う必要があり、工程が長時間化するという問題がある。
【0007】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本件発明は、絶縁性基材の高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を充填して、貫通孔の空洞部分をボイドの発生無く埋めることが短時間で可能な貫通孔へのめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の貫通孔へのめっき方法に想到した。
【0009】
本件発明に係る貫通孔へのめっき方法は、絶縁性基材に設けられた貫通孔に金属を充填して前記貫通孔の空洞部分を埋める前記貫通孔へのめっき方法であって、前記貫通孔のアスペクト比は、前記貫通孔の径を1としたとき、前記絶縁性基材の厚さが10以上であり、前記絶縁性基材の一方の面Aの表面における前記貫通孔の少なくとも周囲と前記貫通孔とを覆う導電性金属層Aを形成する工程1と、電解めっき法を用いて、前記導電性金属層Aを通電層として、前記面Aとは異なる前記絶縁性基材の面B方向に導電性金属層Bを析出させて前記貫通孔を埋める工程2とを含み、前記工程2における前記電解めっき法は、前記電解めっき法に用いる電解めっき液が前記貫通孔内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行いながら、電流密度を低電流密度から開始し、前記導電性金属層Bの析出が進むのに応じて、前記電流密度を段階的に増加させる方法を用いることを特徴とする貫通孔へのめっき方法を採用した。
【0010】
本件発明に係る回路基板は、上述の貫通孔へのめっき方法によって前記貫通孔の空洞部分に金属を充填して埋めた絶縁性基材を用いたことを特徴とする回路基板を採用した。
【発明の効果】
【0011】
本件発明の貫通孔へのめっき方法を採用することによって、絶縁性基材の高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を充填して、貫通孔の空洞部分をボイドの発生無く埋めることが短時間で可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】各工程時点での絶縁性基材に設けられた貫通孔部分の断面状態を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法及び回路基板の実施の形態に関して述べる。なお、以下に説明するものは、単に一態様を示したものであり、以下の記載内容に限定解釈されるものではない。
【0014】
1.貫通孔へのめっき方法の実施形態
本件発明に係る貫通孔へのめっき方法は、絶縁性基材に設けられた貫通孔に金属を充填して貫通孔の空洞部分を埋める貫通孔へのめっき方法である。このとき、当該貫通孔のアスペクト比は、貫通孔の径を1としたとき、絶縁性基材の厚さが10以上である。そして、当該貫通孔へのめっき方法は、絶縁性基材の一方の面Aの表面における貫通孔の少なくとも周囲と貫通孔とを覆う導電性金属層Aを形成する工程1と、電解めっき法を用いて、導電性金属層Aを通電層として、面Aとは異なる絶縁性基材の面B方向に導電性金属層Bを析出させて貫通孔を埋める工程2とを含んでいる。
【0015】
そして、工程2における電解めっき法は、電解めっき法に用いる電解めっき液が貫通孔内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行いながら、電流密度を低電流密度から開始し、導電性金属層Bの析出が進むのに応じて、電流密度を段階的に増加させる方法を用いるものである。このように、電解めっき法の電流密度を低電流密度から開始することによって、高アスペクト比の貫通孔の深部にボイドを発生させることなく導電性金属層Bを析出させる。そして、導電性金属層Bの析出が進み貫通孔が徐々に浅くなるのに応じて電流密度を段階的に増加させることによって、導電性金属層Bの析出を加速し、貫通孔へのめっきを短時間で完了させることができる。電流密度の段階的な増加は、導電性金属層Bの析出が進み貫通孔が徐々に浅くなるのに応じて行う。すなわち、電流密度の段階的な増加のタイミング時点では、導電性金属層Bの析出が行われる部分におけるアスペクト比が、電解めっき法を開始した時点よりも小さくなっている。したがって、電流密度を増加して導電性金属層Bの析出を加速したとしても、ボイドの発生を抑えることができる。
【0016】
このようにして、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法は、絶縁性基材の高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を充填して、貫通孔の空洞部分をボイドの発生無く埋めることが短時間で可能となる。この貫通孔へのめっき方法について、以下に詳細に述べる。
【0017】
図1に、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法における各工程時点での絶縁性基材に設けられた貫通孔部分の断面状態を拡大した模式図を示す。
図1ではNo1からNo4に向かって工程が進んだときの、貫通孔部分の断面状態を拡大した模式図を示している。なお、
図1において、No1からNo4に図示した状態以外の状態がNo1からNo4の間に含まれることを妨げていない。
【0018】
図1のNo1の状態は、絶縁性基材10に貫通孔11を設けた状態を示している。そして、No1の断面の下側が面A12であり、No1の断面の上側が面B13である。絶縁性基材10の素材は、絶縁性を有するものであれば使用することができ、例えば、ガラスエポキシやフェノール樹脂などの樹脂基材、ガラスやセラミックといった基材などを用いることができる。また、アルマイト処理などの方法を用いて、アルミニウムなどの導電性基材の表面及び導電性基材に設けた貫通孔の表面を電気的に絶縁した基材を、絶縁性基材10として用いることもできる。貫通孔11の形成方法は、貫通孔11を形成することができる方法であれば使用することができ、例えば、レーザー法や、ドリルによる穿孔、エッチングによる方法などを用いることができる。そして、
図1の貫通孔11は円筒状であるが、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法における貫通孔の形状は、円柱状のものに限定されず、例えば四角柱状や多角柱状であっても良い。そしてそれぞれの形状がテーパ形状を有するものであっても良い。
【0019】
そして、当該貫通孔のアスペクト比は、貫通孔の径を1としたとき、絶縁性基材の厚さが10以上を対象としているが、特に、貫通孔の径が10μm以下の場合に、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法を好適に採用することができる。そして、貫通孔の径を1としたとき、絶縁性基材の厚さの上限は特に限定されないが、例えば絶縁性基材の厚さは250といった高アスペクト比の貫通孔を対象にすることができる。
【0020】
〔工程1〕
次に工程1について説明する。工程1は、絶縁性基材の一方の面Aの表面における貫通孔の少なくとも周囲と貫通孔とを覆う導電性金属層Aを形成する工程である。
図1のNo2は、工程1で、絶縁性基材10の面A12の表面における貫通孔11の少なくとも周囲と貫通孔11とを覆う導電性金属層A20を形成した状態を示している。
【0021】
工程1は、絶縁性基材10の面A12の表面における貫通孔11の少なくとも周囲と貫通孔11とを覆う導電性金属層A20を形成することができる方法であれば、どのような方法でも用いることができる。例えば、工程1の実施形態1として、工程1は、面A12の表面における貫通孔11の少なくとも周囲に導電性金属層Aaを成膜する工程1aと、導電性金属層Aaの表面と導電性金属層Aaの孔(すなわち貫通孔11部)とを覆う導電性金属層Abを形成する工程1bとを含み、導電性金属層Aaと導電性金属層Abとからなる導電性金属層A20を形成する方法が挙げられる。
【0022】
上述の工程1aとしては、例えば、次のように行うことができる。TiO2および銅を含む金属錯体を面A12にコーティングし、200-300℃で加熱後、還元剤等を用いてコーティング表面を還元する。その後、コーティング表面にパラジウム触媒を付与し、無電解ニッケルめっきを行い導電性金属層Aaを形成する。あるいは、コーティング表面を活性化した後、無電解銅めっきを行い導電性金属層Aaを形成する。次に、工程1bとしては、例えば、電解銅めっきの厚付けを行うことによって、導電性金属層Aaの表面と導電性金属層Aaの孔とを覆う導電性金属層Abを形成することができる。このようにして、導電性金属層Aaと導電性金属層Abとからなる導電性金属層A20を形成することができる。
【0023】
また、工程1の実施形態2としては、面A12に、金属箔膜を貼り合わせることによって導電性金属層A20を形成することもできる。例えば、膜厚が5-30μmの銅箔を、面A12に熱圧着することで導電性金属層A20を形成することができる。
【0024】
また、工程1の実施形態3としては、面A12にスパッタ法を用いて導電性金属層A20を形成することもできる。例えば、面A12を真空中でイオンバンバード法によって活性化したのち、面A12の表面にチタンや銅をスパッタリングすることによって導電性金属層A20を形成することができる。ここで、イオンバンバード法とは、絶縁性基材10を入れた容器を0.1Pa以下まで脱気した後に、当該容器にアルゴンガスを20-30Paまで充填し、アルゴンガスをプラズマ化することによって絶縁性基材10の表面を清浄し活性化する方法である。
【0025】
〔工程2〕
次に、工程2について説明する。工程2は、電解めっき法を用いて、導電性金属層Aを通電層として、面Aとは異なる絶縁性基材の面B方向に導電性金属層Bを析出させて貫通孔を埋める工程である。そして、当該電解めっき法は、電解めっき法に用いる電解めっき液が貫通孔内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行いながら、電流密度を低電流密度から開始し、導電性金属層Bの析出が進むのに応じて、電流密度を段階的に増加させる方法を用いるものである。
図1のNo3は、工程2で、面A12とは異なる絶縁性基材10の面B13方向に導電性金属層B21を析出させて貫通孔11を埋めた状態を示している。
【0026】
工程2は、次のように行うことができる。先ず導電性金属層A20を活性化する。そして、導電性金属層A20を形成した絶縁性基材10を電解めっき液に浸漬し、導電性金属層A20を通電層として、電解めっき液が貫通孔11内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行いながら、電流密度を低電流密度から開始し、導電性金属層B21の析出が進むのに応じて、電流密度を段階的に増加させる方法を用いる。
【0027】
このように、電解めっき法の電流密度を低電流密度から開始することによって、貫通孔11の径を1としたとき、絶縁性基材10の厚さが10以上というような高アスペクト比の貫通孔11の深部にボイドを発生させることなく導電性金属層B21を析出させることができる。そして、導電性金属層B21の析出が進み貫通孔11が徐々に浅くなるのに応じて電流密度を段階的に増加させることによって、導電性金属層B21の析出を加速し、貫通孔11へのめっきを短時間で完了させることができる。すなわち、電流密度の段階的な増加のタイミング時点では、導電性金属層B21の析出が行われる部分におけるアスペクト比が、電解めっき法を開始した時点よりも小さくなっている。したがって、電流密度を増加して導電性金属層B21の析出を加速したとしても、ボイドの発生を抑えることができる。
【0028】
電解めっき法における電流密度は低電流密度から高電流密度へ連続的に増加させることも可能である。しかしながら、導電性金属層B21の析出量に応じて段階的に増加させたほうが制御が比較的に容易であるので好ましい。このとき、電流密度を段階的に増加させる段階数は、段階数の上限は限定しないものの、2段階が好ましく、3段階がより好ましい。
【0029】
2段階の方法における1段階目は、高アスペクト比の貫通孔11の深部において導電性金属層B21の析出を行うものであることから、電解めっき液の循環が困難でありボイドが発生しやすい。そのため、ボイドが発生しないようを導電性金属層B21の析出速度を抑えるために低電流密度とする。そして、1段階目の析出量は、特に限定されないものの、貫通孔11の長さの1/10程度までとすることができる。2段階の方法における2段階目は、特に限定されないものの、1段階目の電流密度の5-50倍に増加させた電流密度で貫通孔11をすべて埋めるまで導電性金属層B21を析出させるものである。このように、2段階目は、導電性金属層B21の析出が行われる部分におけるアスペクト比が小さくなっていることから、電流密度を増加させてもボイドの発生が無く、導電性金属層B21の析出を高速に行うことができる。
【0030】
3段階の方法における1段階目は、高アスペクト比の貫通孔11の深部において導電性金属層B21の析出を行うものであることから、電解めっき液の循環が困難でありボイドが発生しやすい。そのため、ボイドが発生しないようを導電性金属層B21の析出速度を抑えるために低電流密度とする。そして、1段階目の析出量は、特に限定されないものの、貫通孔11の長さの1/10程度までとすることができる。3段階の方法における2段階目は、特に限定されないものの、1段階目の電流密度の50倍程度に増加させた電流密度とし、導電性金属層B21の析出量は貫通孔11の長さの5/10-6/10程度までとすることができる。3段階の方法における3段階目は、特に限定されないものの、1段階目の電流密度の80-150倍に増加させた電流密度とし、貫通孔11をすべて埋めるまで導電性金属層B21を析出させるものである。このように、2段階目及び3段階目は、導電性金属層B21の析出が行われる部分におけるアスペクト比が小さくなっていることから、電流密度を増加させてもボイドの発生が無く、導電性金属層B21の析出を高速に行うことができる。そして3段階の方法における3段階目は、2段階の方法における2段階目の電流密度よりも大きくすることができることから、3段階の方法は2段階の方法よりも貫通孔11へのめっきを短時間で完了させることができる。
【0031】
なお、電流密度の段階的な増加量や増加回数や増加タイミングは限定されるものではなく、電流密度を段階的に増加させる段階数を4段階以上とすることも可能である。貫通孔11の形状やアスペクト比、導電性金属層B21の析出が進み具合に応じて、ボイドの発生を抑え析出を高速化できる適切な方法を適宜用いることができ、上述は一例を示したに過ぎない。
【0032】
また、電解めっき液が貫通孔内に循環するよう強力な噴流により撹拌を行う方法は、電解めっき液が貫通孔内に循環させることができる方法であれば、どのような方法も用いることができる。例えば電解めっき液浴中において、絶縁性基材10を一定の速度で縦横に移動させる揺動を行いながら、電解めっき液が貫通孔11内に循環するように貫通孔11の導電性金属層B21の析出面に向けて、吹き出し部の近傍にドレン構造を有するノズルから電解めっき液を噴出することによって、電解めっき液を4L/minというような流速で高速ジェット状の噴流にして撹拌を行うなどの方法を用いることができる。
【0033】
〔電解めっき液〕
次に、工程2における電解めっきで用いる電解めっき液について説明する。工程2における電解めっきで用いる電解めっき液は、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法に用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、導電性金属層B21の構成金属として銅を採用した場合、以下に示すような組成の電解銅めっき液を用いることができる。この場合、例えば含リン銅アノードを使用し、特に限定されないが浴温度25±5℃で電解めっきを行うことができる。ここで、浴温度が高温であると、電解銅めっき液の分解が助長され、浴安定性が低下する。浴温度は高温であるほうが、銅の析出が促進されるものの、浴安定性を確保するための添加剤をより多く投入する必要があり、工程2のコストが増加する。そのため、適切な浴温度を選択すれば良い。
【0034】
硫酸銅5水和塩:200-300g/L。
硫酸:50-100g/L。
Cl-:50ppm。
添加剤。
【0035】
ここで、当該電解銅めっき液の添加剤として、重合度2000-20000のポリエチレングリコール(PEG)、ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)2ナトリウム(SPS)、ヤヌスグリーンB(JGB)から選択される少なくとも1種を当該電解銅めっき液に予め投入して用いることが好ましい。PEGなどの非イオン系界面活性剤は、絶縁性基材10において貫通孔11の位置における導電性金属層B21の析出量のばらつきを無くすために添加するものであり、絶縁性基材10の大きさに応じて添加量を選択すれば良いが、当該電解銅めっき液にPEGを用いる場合は、PEGの含有量が10ppm以下で添加するのが好ましい。SPSなどの硫黄系有機化合物は、一般的には電解めっき法における電流密度が例えば200A/dm2以上といった高電流の場合に添加してめっき皮膜の表面を平滑化するなどの効果をもたらすためのものである。しかし、当該電解銅めっき液においては、200A/dm2以下の低電流密度であってもSPSを用いることが好ましく、SPSの含有量が50ppm以上で添加することが好ましい。導電性金属層B21である銅の品質が良く、平滑化されて光沢を有するものになるからである。なお、SPSの含有量の上限は特に限定されないが、100ppm以下で添加するのが好ましい。JGBなどの染料は、めっき皮膜の表面を平滑化するなどの効果をもたらすためのものであるが、過剰な添加はめっき皮膜を脆くすることから、適切な添加量を選択すれば良いが、当該電解銅めっき液にJGBを用いる場合は、含有量が30ppm以下で添加するのが好ましい。
【0036】
〔電解銅めっき方法〕
上述の電解銅めっき液を用いて、例えば、貫通孔11の径が10μmであり、絶縁性基材10の厚さが100μmであった場合、すなわち、貫通孔の径を1としたとき、絶縁性基材の厚さが10以上である場合について、工程2の電解めっき方法の例について説明する。このとき、アノードには、例えば含リン銅を使用できる。このとき、導電性金属層A20の面A12と接している側の反対側方向に析出が進まないよう、例えば、導電性金属層A20の面A12と接している側の反対側に絶縁性の樹脂などを塗布する。次に、希硫酸を用いて導電性金属層A20の面B13側を活性化する。そして、導電性金属層A20を通電層とし、電流密度は、貫通孔11のアスペクト比にもよるが、電解めっきの電流密度を例えば1A/dm2で開始し、導電性金属層B21(この場合銅)を例えば10μm析出する。その後、電流密度を例えば50A/dm2に増加して導電性金属層B21(この場合銅)をさらに例えば45μm析出する。さらにその後、電流密度を例えば100A/dm2に増加して導電性金属層B21(この場合銅)をさらに例えば45μm析出する。このようにして、貫通孔11の内部に絶縁性基材の厚さ方向に100μmの導電性金属層B21を形成することができる。
【0037】
なお、上述した工程2の電解めっき方法の例は、一例であり、貫通孔のアスペクト比や形状などに応じて、電解めっきの開始時電流密度や、電流密度を段階的に増加させる増加量及び増加タイミング、添加剤は、適切なものを適宜選択することができる。このようにして、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法を採用することによって、絶縁性基材の高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を充填して、貫通孔の空洞部分をボイドの発生無く埋めることが短時間で可能となる。
【0038】
〔脱気工程〕
上述した工程1と工程2との間に、貫通孔11内の空気を脱気する脱気工程を有することが好ましい。工程1を経た絶縁性基材10は、絶縁性基材10の面A12の表面における貫通孔11の少なくとも周囲と貫通孔11とを覆う導電性金属層A20を形成した状態になっている。すなわち、貫通孔11は面A12側を塞がれた状態になっており、貫通孔11内の空気が容易には抜けない。そこで、脱気工程を行って貫通孔11内の空気を脱気することによって、電解めっきで用いる電解めっき液が貫通孔11内に循環できるようになるからである。
【0039】
脱気する方法は、貫通孔11内の空気を脱気することができる方法であれば採用することができる。例えば、工程1を経た絶縁性基材10を水に浸漬した状態で絶縁性基材10又は水に超音波による振動を与えることによって、貫通孔11内の空気を脱気する方法が挙げられる。また、工程1を経た絶縁性基材10を水に浸漬した状態で水温を上げたり下げたりすることによって、貫通孔11内の空気の膨張により貫通孔11内の空気を脱気する方法が挙げられる。また、工程1を経た絶縁性基材10を水に浸漬した状態で当該水の入った容器を真空にすることで、貫通孔11内の空気を脱気する方法などが挙げられる。
【0040】
〔エッチング工程〕
上述した工程2の後に、絶縁性基材10の面B13の方向に析出した導電性金属層B21の不要部分を除去するエッチング工程を有することが好ましい。
図1のNo3は、工程2で、面A12とは異なる絶縁性基材10の面B13方向に導電性金属層B21を析出させて貫通孔11を埋めた状態を示しているが、導電性金属層B21が面B13の上部に盛り上がった状態になっている。このような導電性金属層B21の盛り上がった部分が不要だった場合、エッチング工程で除去することができるからである。
図1のNo4は、導電性金属層B21における面B13の上部に盛り上がった部分を、エッチング工程で除去した状態を示している。
【0041】
エッチング方法は、導電性金属層B21の不要部分を除去することができる方法であれば採用することができる。例えば、工程2で上述した電解銅めっきを行った場合、導電性金属層B21は銅であることから、次のような組成のエッチング液を用いて導電性金属層B21の不要部分を除去することができる。この場合、浴温度20-30℃とし、エッチングを行う絶縁性基材10を200-1200rpmで回転させながらエッチングを行うことができる。
【0042】
硫酸:5g/L。
H2O2:50-150g/L。
ポリエチレングリコール(安定剤):5-15g/L。
【0043】
2.回路基板の実施形態
本件発明に係る回路基板は、上述の貫通孔へのめっき方法によって貫通孔の空洞部分に金属を充填して埋めた絶縁性基材を用いた回路基板を採用したものである。そして、上述の貫通孔へのめっき方法の工程の前、又は途中、又は後で絶縁性基材の表面に導電性金属層による回路パターンを形成したものを用いることができる。本件発明に係る回路基板は、上述の貫通孔へのめっき方法を採用することによって、高アスペクト比の貫通孔を採用することができ、かつ、高アスペクト比の貫通孔に導電性金属を充填して、貫通孔の空洞部分をボイドの発生無く埋めることが短時間で可能となる。
【0044】
また、本件発明に係る回路基板は、
図1に示すような絶縁性基材10を1枚で用いても良いし、本件発明に係る貫通孔へのめっき方法を用いて制作した絶縁性基材10を複数枚積層させて張り合わせた多層の回路基板としても良い。
【0045】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0046】
実施例1では、径が10μmの貫通孔11を設けた厚さ100μmのガラス製絶縁性基材10を用いた。そしてガラス製絶縁性基材10を脱脂後、上述した工程1aとして、TiO2および銅を含む金属錯体を面A12にコーティングし、200-300℃で加熱後、還元剤を用いてコーティング表面を還元した。その後、コーティング表面にパラジウム触媒を付与し、無電解ニッケルめっきを行い導電性金属層Aaを形成した。次に、上記で説明した工程1bとして、以下に示す電解銅めっき液を用いて、アノードに含リン銅を使用し、電解電流密度:150A/dm2で電解銅めっきの厚付けを行うことによって、導電性金属層Aaの表面と導電性金属層Aaの孔とを覆う膜厚が約10μmの導電性金属層Abを形成した。このようにして、導電性金属層Aaと導電性金属層Abとからなる導電性金属層A20を形成した。
【0047】
硫酸銅5水和塩:250g/L。
硫酸:50g/L。
PEG:0ppm。
SPS:50ppm。
JGB:30ppm。
Cl-:50ppm。
浴温度:25±5℃。
攪拌方法:高速ジェット攪拌。
【0048】
次に、工程2として、以下に示す電解銅めっき液を用いて、アノードに含リン銅を使用し、電解銅めっきを行った。このとき、電流密度を段階的に増加させる段階数は、2段階の方法を用い、1段階目の電流密度を1A/dm2とし、1段階目の析出量は10μmとした。次に、2段階目の電流密度を5A/dm2とし、2段階目の析出量は90μmとした。
【0049】
硫酸銅5水和塩:250g/L。
硫酸:50g/L。
PEG:0ppm。
SPS:50ppm。
JGB:30ppm。
Cl-:50ppm。
浴温度:25±5℃。
撹拌方法:揺動、及び高速ジェット撹拌(流速4L/min)。
次に、工程2として、実施例1と同じ電解銅めっき液を用いて、アノードに含リン銅を使用し、電解銅めっきを行った。このとき、電流密度を段階的に増加させる段階数は、2段階の方法を用い、1段階目の電流密度を1A/dm2とし、1段階目の析出量は10μmとした。次に、2段階目の電流密度を50A/dm2とし、2段階目の析出量は90μmとした。