(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155308
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20241024BHJP
C25D 7/10 20060101ALI20241024BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F16C33/12 A
C25D7/10
C25D5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069931
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】城谷 友保
【テーマコード(参考)】
3J011
4K024
【Fターム(参考)】
3J011BA02
3J011BA13
3J011DA01
3J011KA02
3J011LA04
3J011MA02
3J011QA03
3J011SB04
3J011SB05
3J011SB15
3J011SB20
4K024AA03
4K024AA05
4K024AA10
4K024AA14
4K024AB03
4K024BA06
4K024BB05
4K024BC10
4K024GA01
(57)【要約】
【課題】Al合金製のライニング層を有するメタル部材に、Znを主成分として含む接着層を設けた摺動部材において、メタル部材に対する中間層及び被覆層の接着性を向上すること。
【解決手段】本発明によれば、半円環形状のメタル部材であって、外周面側に配置された裏金層及び内周面側に配置されたAl合金製のライニング層を有するメタル部材と、メタル部材の内周面上に積層された、Znを主成分として含む接着層と、接着層の上に積層された、Ag、Ni又はCoを主成分として含む中間層と、中間層の上に積層された、Bi、Pb又はSnを主成分として含む被覆層とを有する摺動部材であって、メタル部材の内周面上の接着層は、メタル部材の軸線方向端面をさらに覆うように連続して延び、軸線方向端面の表面積に対する、軸方向端面を覆う接着層の表面積の割合が30%以上である、摺動部材が提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半円環形状のメタル部材であって、外周面側に配置された裏金層及び内周面側に配置されたAl合金製のライニング層を有するメタル部材と、
前記メタル部材の内周面上に積層された、Znを主成分として含む接着層と、
前記接着層の上に積層された、Ag、Ni又はCoを主成分として含む中間層と、
前記中間層の上に積層された、Bi、Pb又はSnを主成分として含む被覆層と
を有する摺動部材であって、
前記メタル部材の前記内周面上の前記接着層は、前記メタル部材の軸線方向端面をさらに覆うように連続して延び、前記軸線方向端面の表面積に対する、前記軸方向端面を覆う前記接着層の表面積の割合が30%以上である、摺動部材。
【請求項2】
前記メタル部材の前記軸線方向端面の表面積に対する、前記軸方向端面を覆う前記接着層の表面積の割合が70%以上である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記軸線方向端面を覆う前記接着層は、前記メタル部材の前記外周面をさらに覆うように連続して延び、前記メタル部材の前記外周面の表面積に対する、前記外周面を覆う前記接着層の表面積の割合が30%以上である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記中間層及び前記被覆層は、前記メタル部材の前記軸線方向端面を覆う前記接着層の上にも積層され、前記メタル部材の前記軸線方向端面の表面積に対する、前記軸線方向端面を覆う前記接着層の上に積層された前記中間層及び前記被覆層の表面積の割合が30%以上である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記メタル部材の前記軸線方向端面の表面積に対する、前記軸線方向端面を覆う前記接着層の上に積層された前記中間層及び前記被覆層の表面積の割合が70%以上である、請求項4に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記中間層及び前記被覆層は、前記メタル部材の前記外周面を覆う前記接着層の上にも積層されており、前記メタル部材の前記外周面の表面積に対する、前記外周面を覆う前記接着層の上に積層された前記中間層及び前記被覆層の表面積の割合が30%以上である、請求項4に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記メタル部材の前記軸線方向端面を覆う前記接着層の上に積層された前記中間層及び前記被覆層の厚さの合計が、前記メタル部材の前記内周面を覆う前記接着層の上に積層された前記中間層及び前記被覆層の厚さの合計以下である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項8】
半円環形状のメタル部材であって、第1の軸線方向端面側に配置された裏金層及び第2の軸線方向端面側に配置されたAl合金製のライニング層を有するメタル部材と、
前記メタル部材の前記第2の軸線方向端面の上に積層された、Znを主成分として含む接着層と、
前記接着層の上に積層された、Ag、Ni又はCoを主成分として含む中間層と、
前記中間層の上に積層された、Bi、Pb又はSnを主成分として含む被覆層と
を有する摺動部材であって、
前記メタル部材の前記第2の軸線方向端面上の前記接着層は、前記メタル部材の内周面及び外周面をさらに覆うように連続して延び、前記内周面又は前記外周面の表面積に対する、前記内周面又は前記外周面を覆う前記接着層の表面積の割合が30%以上である、摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における摺動部材に関し、特に基材上に中間層を介して被覆層を積層した摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関における摺動部材として、例えば自動車用内燃機関のクランクシャフトやコネクティングロッドに使用される半割軸受や半割スラスト軸受といったすべり軸受が知られている。従来、半割軸受では、鋼製の裏金の表面にAl合金製の軸受合金(基材)をライニングし、次いで軸受合金が内周面側に位置するように半円環形状としたメタル部材が使用され、軸受合金の上には、中間層を介して被覆層が電気めっき等によって被覆される。被覆層は相手材とのなじみ性等を向上させるために、また中間層は軸受合金と被覆層の間の接着性を向上させるためにそれぞれ採用される。
【0003】
しかし、摺動部材において、Al合金製の軸受合金の上に、Agを主成分とする中間層を介して被覆層を被覆すると、軸受合金と中間層の間で剥離が生じるという問題があった。特許文献1では、この問題に対処するため、軸受合金(ライニング)の上にCuを主成分とする第1中間層を設け、さらにこの第1中間層1の上にAgを主成分とする第2中間層を設けることで、ライニングと第2中間層との間の剥離の可能性を低減するとともに、第1中間層から被覆層へCuが拡散して耐疲労性を低下させる可能性を低減している。
【0004】
また特許文献2では、摺動部材において、Cu合金又はAl合金からなる軸受合金に対する被覆層の接着性を向上するために、中間層の結晶粒が軸受合金側から被覆層側に向って大きくなるように制御すること、及び中間層をAg、Cu又はCoの単体金属から形成することを提案している。特許文献2はまた、耐疲労性を向上するために、被覆層の結晶粒の成長を制御して、結晶粒が被覆層の厚さ方向に長い柱状晶になるようにすることも提案している。
【0005】
近年では軸受合金にAl合金を使用した摺動部材が多く採用されているが、最近の自動車用内燃機関ではさらなる高出力化が進み、摺動部材に対してより高い耐疲労性が要求されており、現在提案されている中間層では接着性が不十分であった。一方、Al材料に対してZn処理を行うことによって接着力を向上することが主流となってきており、Zn処理は、自動車の軽量化のために使用されるAl材料の表面加工や半導体加工にも使用されている。しかし、摺動部材には高負荷がかかるため、Zn処理では必要な性能に対して十分な接着力が確保できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-132924号公報
【特許文献2】特開2006-266445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、Al合金製のライニング層を有するメタル部材に、Znを主成分として含む接着層を設けた摺動部材において、メタル部材に対する中間層及び被覆層の接着性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図1に、円環形状の従来の摺動部材101の、軸線を含む平面に沿った断面の一部を示す。理解されるように、摺動部材101は、鋼製の裏金層111及びAl合金製のライニング層112を含有するメタル部材110と、ライニング層112の表面に被覆されたZnを主成分とする接着層120と、接着層の上に積層された中間層130と、中間層の上に積層された被覆層140とを有する。発明者らは、従来の摺動部材101において、摺動面140aに高負荷を受けたとき、メタ部材110に対して接着層120が途切れる、軸線方向端面上の箇所Aで剥離が生じ、十分な接着力が得られていないことを見出した。
【0009】
したがって上記目的を達成するために、本発明の第一の観点によれば、
半円環形状のメタル部材であって、外周面側に配置された裏金層及び内周面側に配置されたAl合金製のライニング層を有するメタル部材と、
メタル部材の内周面上に積層された、Znを主成分として含む接着層と、
接着層の上に積層された、Ag、Ni又はCoを主成分として含む中間層と、
中間層の上に積層された、Bi、Pb又はSnを主成分として含む被覆層と
を有する摺動部材であって、
メタル部材の内周面上の接着層は、メタル部材の軸線方向端面をさらに覆うように連続して延び、軸線方向端面の表面積に対する、軸方向端面を覆う接着層の表面積の割合が30%以上である、摺動部材が提供される。
この摺動部材は、例えば半割軸受として使用されることができる。
裏金には、Fe基の金属や合金を用いることが好ましいが、Fe基に限らず、使用の用途により、Cu基、Al基、Ti基などの金属や合金を用いてもよい。また裏金にFe基の金属や合金を用いる場合、めっき処理の際の電流密度は、背面側を高く設定することが好ましい。
メタル部材の裏金層とライニング層の間には、Cuめっき層等が設けられていてもよい。
接着層は、メタル部材の内周面上において、少なくとも中間層の下に形成されていれていることが好ましく、必ずしもメタル部材の内周面全体を覆っていなくてもよい。例えば、メタル部材の内周面上において、孔や溝等を設けてもよい。また、接着層は、メタル部材の少なくとも一方の軸線方向端面を覆うように延びていればよく、しかし、両方の軸方向端面を覆うように延びていてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態では、メタル部材の軸線方向端面の表面積に対する、軸方向端面を覆う接着層の表面積の割合が70%以上であることができる。
【0011】
本発明の他の実施形態では、軸線方向端面を覆う接着層は、メタル部材の外周面をさらに覆うように連続して延び、このときメタル部材の外周面の表面積に対する、外周面を覆う接着層の表面積の割合が30%以上であることができる。
【0012】
本発明のさらに他の実施形態では、中間層及び被覆層は、メタル部材の軸線方向端面を覆う接着層の上にも積層され、メタル部材の軸線方向端面の表面積に対する、軸線方向端面を覆う接着層の上に積層された中間層及び被覆層の表面積の割合が30%以上であることができる。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態では、メタル部材の軸線方向端面の表面積に対する、軸線方向端面を覆う接着層の上に積層された中間層及び被覆層の表面積の割合が70%以上であることができる。
【0014】
本発明のさらに他の実施形態では、中間層及び被覆層は、メタル部材の外周面を覆う接着層の上にも積層され、メタル部材の外周面の表面積に対する、外周面を覆う接着層の上に積層された中間層及び被覆層の表面積の割合が30%以上であることができる。
【0015】
本発明のさらに他の実施形態では、メタル部材の軸線方向端面を覆う接着層の上に積層された中間層及び被覆層の厚さの合計が、メタル部材の内周面を覆う接着層の上に積層された中間層及び被覆層の厚さの合計以下であることができる。
【0016】
また本発明の第二の観点によれば、
半円環形状のメタル部材であって、第1の軸線方向端面側に配置された裏金層及び第2の軸線方向端面側に配置されたAl合金製のライニング層を有するメタル部材と、
メタル部材の第2の軸線方向端面の上に積層された、Znを主成分として含む接着層と、
接着層の上に積層された、Ag、Ni又はCoを主成分として含む中間層と、
中間層の上に積層された、Bi、Pb又はSnを主成分として含む被覆層と
を有する摺動部材であって、
メタル部材の第2の軸線方向端面上の接着層は、メタル部材の内周面及び外周面をさらに覆うように連続して延び、内周面又は外周面の表面積に対する、内周面又は外周面を覆う接着層の表面積の割合が30%以上である、摺動部材が提供される。
この摺動部材は、例えば半割スラスト軸受として使用されることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、メタル部材の内周面のみならず軸方向端面にもZn処理を行うことにより、メタル部材に対して広範囲に、すなわち高負荷を受けない領域まで延びる接着層が形成される。これにより、負荷を受ける中間層の下に接着層の端部(途切れる箇所)が存在しないので、剥離の起点となる接着の弱い箇所が出来なくなる。特に、メタル部材の軸方向端面の表面積に対して、軸方向端面上に形成された接着層の表面積が70%以上存在する場合には、接着に関してより十分な能力を得ることができる。
【0018】
尚、メタル部材の軸方向端面において、接着層が存在しないと被覆層及び中間層は接着しにくいことから、軸方向端面に被覆層及び中間層が被覆されている場合には、その下に接着層も存在すると判断することができる。
【0019】
また負荷を受ける摺動面の下の領域以外での剥離の起点として、メタル部材の軸方向端面の、金属種が変わるライニング層と裏金層の境目辺りからの剥離が生じる可能性がある。軸線方向端面の厚さ(径方向長さ)に対するライニング層の厚さ(径方向長さ)は約20%であるため、軸線方向端面の表面積に対して、軸線方向端面に形成された中間層及び被覆層の表面積が30%以上存在している場合には、裏金層の軸方向端面まで接着層が延びて形成されていると考えることができる。
【0020】
軸線方向端面上に堆積した被覆層及び中間層の厚さ(軸線方向長さ)は、軸受特性に直接影響するものではないが、軸受ハウジングへの組付けをより適切にできるように、内周面上での被覆層及び中間層の厚さ(径方向長さ)よりも薄いことが望ましい。
【0021】
本発明の他の目的、特徴および利点は、添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来の円環形状の摺動部材101の、軸線を含む平面に沿った断面の一部を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る摺動部材1の斜視図である。
【
図4】
図3の線B-Bに沿った断面図を誇張して示した模式図である。
【
図6】接着層20のみが積層された状態のメタル部材10を示す図である。
【
図8】Zn処理時のメタル部材10の組み付け状態を示す図である。
【
図10】疲労試験における、軸受に対する荷重パターンを示す図である。
【
図11】試験軸受501における疲労面積率の算出手順を示す図である。
【
図12】本発明の他の実施例に係る摺動部材1の、軸線を含む平面に沿った断面の一部を示す模式図である。
【
図13】本発明のさらに他の実施例に係る摺動部材1の、軸線を含む平面に沿った断面の一部を示す模式図である。
【
図14】本発明のさらに他の実施例に係る摺動部材1の、軸線を含む平面に沿った断面の一部を示す模式図である。
【
図15】本発明のさらに他の実施例に係る摺動部材1の、接着層20のみが積層された状態のメタル部材10を示す図である。
【
図16】本発明の他の観点による実施例に係る半割スラスト軸受810を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0024】
(摺動部材の構造)
図2は、本実施例に係る摺動部材1の斜視図であり、
図3は、摺動部材1の平面図である。理解されるように、摺動部材1は半円環形状を有し、内周面側の摺動面2と、外周面側の背面3とを規定している。
【0025】
図4は、
図3の線B-Bに沿った断面図を誇張して示した模式図であり、
図5は、メタル部材10の斜視図である。摺動部材1は、半円環形状に形成されたメタル部材10を有する。メタル部材10は、内周面15、外周面16及び軸方向端面17を規定している。メタル部材10は、外周側のFe合金製の裏金層11と内周側のAl合金製のライニング層12とを含有する積層構造である。
【0026】
図4に示すように、メタル部材10の内周面15の上に覆うように、Znを主成分とする接着層20が積層されている。接着層20はさらに、メタル部材10の内周面15側から軸方向端面17側へと連続して(すなわち、軸方向端面17の内径側領域を覆うように)延び、それにより、軸方向端面17の表面積の少なくとも30%を覆っている。理解を容易にするために、
図6に、接着層20のみをめっきした状態のメタル部材10を示す。特に、
図6の(b)は、メタル部材10の軸方向端面17を切り取った図であり、(a)は、この軸方向端面17の上に形成された接着層20の部分20aの図である。したがって本実施例において、(b)に示す軸方向端面17の面積に対する、(a)に示す接着層20aの面積の比率が30%以上である。
【0027】
尚、本実施例では、接着層20は軸方向端面17の周方向にわたって内径側端部13から一定の径方向長さLだけ延びて、軸方向端面17の内径側領域を覆っているが、本発明によれば、接着層20は、軸方向端面17の表面積の少なくとも30%を覆っていれば、長さLは周方向にわたって必ずしも一定でなくてもよい。
【0028】
さらに、
図4に示すように、接着層20の上には、Ag、Ni又はCoを主成分として含む中間層30が、接着層20の上に形成される。したがって本実施例において、中間層30もまた、メタル部材10の軸方向端面17上において内径側端部13から一定の径方向長さLだけ延びている。
【0029】
中間層30の上にも同様に、Bi、Pb又はSnを主成分として含む被覆層40が、中間層30の上に形成される。したがって本実施例において、被覆層40もまた、メタル部材10の軸方向端面17上において内径側端部13から一定の径方向長さLだけ延びている。
【0030】
尚、本実施例では、中間層30及び被覆層40は、メタル部材10の軸方向端面17上において内径側端部13から一定の径方向長さLだけ延びているが、必ずしも接着層20と同じでなくてもよく、接着層20の径方向長さLより長くてもよく、又は短くてもよい。
【0031】
(摺動部材の製造方法)
まず、裏金層11を構成する鋼板上に軸受合金(ライニング層12)をライニングしてバイメタルを製作する。次に、このバイメタルを半円環形状に加工してメタル部材10を得る。
【0032】
その後、このメタル部材10のライニング層12に、下記手順でオーバーレイを被着する。尚、以下のめっき処理条件は、被覆層の厚さが2~10μmであり、中間層の厚さが2~10μmであり、接着層の厚さが0.7μm以下である場合の例である。
(1)接着層(Zn)
Zn液には酸化亜鉛40~80g/L、苛性ソーダを400~500g/L、ロシェル塩を25~30g/L、塩化第二鉄を2~9g/L使用する。電流密度は、内面側は0.1~2A/dm
2、背面側は0.1~2A/dm
2に設定する。すなわち、電流密度は、背面側を高く設定している(
図7)。
(2)中間層(Ag)
シアン化銀を30~60g/L、シアン化ナトリウムを100~200g/L、炭酸ナトリウムを10~30g/L使用する。電流密度は、1.5~3A/dm
2に設定する。
(3)被覆層(Bi)
酸化ビスマスを10~70g/L、メタンスルホン酸を30~150mL/L、HS-220Sを20~60mL/L使用する。電流密度は、1~6A/dm
2に設定する。
【0033】
まためっき処理は、
図8に示すようにメタル部材10同士の間に隙間81が形成されるようにスペーサー80を配置した形に組み付けて作業を行う。隙間81がある状態でめっき処理をすることにより、メタル部材10の軸方向端面17にも被膜を形成することができる。
一例として、メタル部材とスペーサーとの接触率、及び、軸方向端面を覆う接着層の表面積の割合との関係は、以下の式で設定することができる。
y=-x+100(±10%)
ここで、
y(%)は、軸線方向端面の表面積に対する軸方向端面を覆う接着層の表面積の割合の値であり、
x(%)は、メタル部材とスペーサーとの接触率の値である。
但し、スペーサーの芯ずれや劣化などによって、スペーサーに接触している部分でも被膜される可能性ある。その場合、テープなどで覆うことにより被膜を防ぐことができる。
また、軸方向端面を覆う接着層と中間層との所望の表面積を得るために、上記の式と同様にメタル部材とスペーサーとの接触率を設定することができる。その場合、y(%)は、軸線方向端面の表面積に対する軸方向端面を覆う接着層と中間層との表面積の割合の値であり、x(%)は、メタル部材とスペーサーとの接触率の値である。
但し、上記の比率は一例であり、本発明の接着層及び/又は中間層と被覆層との表面積の割合を得るために、上記の製造方法、式に限定しない。
【0034】
(確認試験)
軸受性能の評価のため、本発明の実施例1~10に係る摺動部材を用意して疲労試験を行った。以下、試験条件と結果について説明する。
【0035】
疲労試験は、
図9に示す試験装置500を使用して行った。試験装置500において、試験軸受501は、複数の支持軸受510で支持された支持軸520に取り付けられ、支持軸520を回転させながら、負荷装置530を用いて油圧により試験軸受501に荷重をかけることにより、摺動面のBi、Pb被膜に疲労を発生させた。疲労試験条件は表1に記載の通りである。
【表1】
【0036】
表1に記載の面圧に関して、試験軸受501には、
図10に示す荷重パターンで荷重をかけた。具体的には、負荷装置530の圧力調整バルブ531を用いて段階的に規定面圧である120Mpaまで荷重を調整した。
【0037】
耐疲労性の評価は、試験後に外観により目視で剥離や疲労の有無を確認することにより行った。具体的には、疲労面積は、
図11に示すように、試験軸受501の摺動面2に発生した疲労部を楕円Cで近似して測定した。そして、摺動面2の投影面積と近似楕円Cの面積との比を計算することによって疲労面積率を算出し、評価を行った。
【0038】
実施例1~10及び比較例1~4に係る摺動部材の組成及び寸法条件と、試験結果(投影面積と疲労面積の比)を表2に示す。尚、表中の「接着層/軸方向端面 面積比(%)」は、メタル部材の軸方向端面の全表面積に対する軸方向端面に形成された接着層の面積比を表し、同様に「接着層/外周面 面積比(%)」は、メタル部材の外周面の全表面積に対する外周面に形成された接着層の面積比を表し、「被覆層+中間層/軸方向端面 面積比(%)」は、メタル部材の軸方向端面の全表面積に対する軸方向端面に形成された被覆層及び中間層の重複部分の面積比を表し、「外周面被覆層+外周面中間層 軸方向端面 面積比(%)」は、メタル部材の外周面の全表面積に対する、メタル部材の外周面に形成された被覆層及び中間層の重複部分の面積比を表し、「疲労面積/投影面積比」は、上述した外観確認による、摺動面2の投影面積と近似楕円Cの面積との比を表す。
【0039】
試験結果から、軸方向端面における接着層の被覆率が30%を超えると比較例に比べて疲労面積率が減少すること、また外周面まで接着層が延びている場合により疲労面積率がより減少することが理解される。さらに、接着層の上に形成される中間層及び被覆層が多いほど、疲労面積率がより減少する。
【表2】
【0040】
尚、本発明によれば、摺動部材は様々な実施形態を有することができる。例えば
図12に示すように、摺動部材1において接着層20はメタル部材10の内周面、軸方向端面及び外周面にわたって形成されていてもよく、この場合に、中間層30及び被覆層40は、メタル部材10の内周面上にのみ積層されていてもよい。あるいは、
図13に示すように、接着層20がメタル部材10の内周面、軸方向端面及び外周面にわたって形成され、また中間層30及び被覆層40が接着層20の上に積層されていてもよい。
【0041】
本発明によれば、接着層20は、メタル部材10の軸方向端面17に占める面積が30%以上であればよく、軸方向端面17の全体を覆っていなくてもよい。
図14および15に示すように、メタル部材17の周方向端面17において、接着層20は、メタル部材10の内周面15側から軸方向端面17側へと連続して延びている部分20aと、メタル部材10の外周面16側に形成された部分20bとを有していてもよい。この場合、
図15の(b)に示す軸方向端面17の表面積に対して、(a)に示す部分20aと部分20bの表面積の和が70%以上であることが好ましい。
【0042】
本発明の別の観点では、本発明の摺動部材は、
図16に示すように半割スラスト軸受(スラストワッシャ)801として形成されてもよい。この場合に、半割スラスト軸受801の摺動面802が、半割軸受1の内周面2に相当し、半割スラスト軸受801の摺動面802とは反対の面803が、半割軸受1の外周面3に相当し、半割スラスト軸受801の内周面804及び外周面805が、半割軸受1の軸方向端面に相当する。
【0043】
以上、図面を参照して、また性能評価試験に関連して、本発明の実施形態および実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない程度の変更は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1 摺動部材
2 摺動面
3 背面
10 メタル部材
11 裏金層
12 ライニング層
13 内径側端部
15 内周面
16 外周面
17 軸方向端面
20 接着層
20a 接着層の部分
20b 接着層の部分
30 中間層
40 被覆層
80 スペーサー
81 隙間
500 試験装置
501 試験軸受
510 支持軸受
520 支持軸
530 負荷装置
531 圧力調整バルブ