(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155309
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極、二次電池、および、蓄電デバイス用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241024BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241024BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241024BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/139
H01G11/36
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069934
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】516341888
【氏名又は名称】NU-Rei株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167276
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】小田 修
(72)【発明者】
【氏名】ノ・ヴァン・ノン
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
【テーマコード(参考)】
5E078
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB02
5E078BA15
5E078BA54
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB16
5H017BB17
5H017BB19
5H017CC01
5H017DD01
5H017EE01
5H017EE06
5H017EE09
5H017HH03
5H017HH05
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050DA04
5H050FA15
5H050FA16
5H050FA17
5H050GA24
5H050GA27
5H050GA29
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA12
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの性能を向上させることができる新規な構成の活物質層を有する蓄電デバイス用電極を提供する。
【解決手段】蓄電デバイス用電極は、集電体を構成する金属基板と、前記金属基板の表面に形成されている複数の凸部と、グラフェンを主成分とし、前記金属基板の厚み方向に見たときに、前記金属基板の表面上で線状に延びており、前記金属基板の表面に分布している複数のカーボンナノ構造体と、を備える。この蓄電デバイス用電極によれば、金属基板の表面の複数の凸部と、その間に配置されている線状のカーボンナノ構造体とによって活物質層が構成されおり、蓄電デバイスの電池性能を高めることが可能である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス用電極であって、
集電体を構成する金属基板と、
前記金属基板の表面に形成されている複数の凸部と、
グラフェンを主成分とし、前記金属基板を厚み方向に見たときに、前記金属基板の表面上で線状に延びており、前記金属基板の表面に分布している、複数のカーボンナノ構造体と、
を備える、蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電デバイス用電極であって、
前記カーボンナノ構造体の直径は、1nm以上15nm以下であり、前記カーボンナノ構造体の長さは、100nm以上1000nm以下である、蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
請求項1記載の蓄電デバイス用電極であって、
前記凸部の高さは、5nm以上300nm以下である、蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
請求項1記載の蓄電デバイス用電極であって、
前記凸部は、微細な金属粒子によって構成されている、蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
請求項4記載の蓄電デバイス用電極であって、
前記金属基板の厚み方向に見たときの前記金属粒子の粒子径は、5nm以上55nm以下である、蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
請求項4記載の蓄電デバイス用電極であって、
前記金属基板の厚み方向に見たときの前記金属粒子の平均粒子径は、15nm以上30nm以下である、蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
二次電池であって、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用電極によって構成された第1電極と、
イオン化して前記第1電極に移動する金属原子を含む第2電極と、
を備える、二次電池。
【請求項8】
蓄電デバイス用電極の製造方法であって、
金属基板の表面に、微細な金属粒子によって構成された複数の凸部を形成する工程と、
反応室に前記金属基板を配置し、前記反応室の圧力を30Pa以上50Pa以下に制御しながら、炭素を含む原料ガスを供給して、プラズマCVD法によって、グラフェンを主成分とし、前記金属基板を厚み方向に見たときに前記金属基板の表面上で線状に延び、前記金属基板の表面に分布する、複数のカーボンナノ構造体を生成する工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、蓄電デバイス用電極、二次電池、および、蓄電デバイス用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電可能な蓄電デバイスとしては、例えば、二次電池や、電気二重層キャパシタ等が知られている。それら蓄電デバイス用電極では、集電体表面に配置される活物質としてカーボンが用いられる場合がある。例えば、下記の特許文献1,2には、リチウムイオン二次電池の負極の活物質層をグラファイトやカーボンナノウォールによって構成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2668678号公報
【特許文献2】特開2010-9980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、活物質層にグラファイトを適用した電極では、依然として、蓄電デバイスに求められている高い電池性能の目標を十分に達成できていない。また、カーボンナノウォールを活物質層に適用した電極については、グラファイトよりも電池性能を向上できる点では優れているが、依然としてその量産化には至っていない。そのため、蓄電デバイスの技術分野においては、グラファイトやカーボンナノウォールを活物質として利用する構成以外の新規な活物質層の開発も期待されている。本願は、蓄電デバイスの性能を向上させることができる新規な構成の活物質層を有する蓄電デバイス用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の発明者らは、カーボンを活物質として用いる蓄電デバイス用電極の研究を重ねるうちに、従来のグラファイトやカーボンナノウォールを用いた活物質層とは異なる新規な構成の活物質層の開発に成功した。本願発明は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本願発明の第1形態は、蓄電デバイス用電極として提供される。この形態の蓄電デバイス用電極は、集電体を構成する金属基板と、微細な金属粒子によって構成され、前記金属基板の表面に形成されている複数の凸部と、グラフェンを主成分とし、前記金属基板の厚み方向に見たときに、前記金属基板の表面上で線状に延びており、前記金属基板の表面に分布している複数のカーボンナノ構造体と、を備える。
【0007】
この形態の蓄電デバイス用電極によれば、金属基板の表面の複数の凸部と、金属基板の表面に分布している線状の複数のカーボンナノ構造体とによって活物質層が構成されている。この活物質層によれば、蓄電デバイスの電池性能を高めることが可能である。
【0008】
本願発明は、蓄電デバイス用電極以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、蓄電デバイス用電極を備える二次電池等の蓄電デバイス、蓄電デバイス用電極の製造方法、蓄電デバイスの製造方法、活物質層の製造方法、それらの製造方法の実行に適した製造装置、その製造装置を制御するための制御プログラム、その制御プログラムが記録された記録媒体等の形態で実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】蓄電デバイス用電極を備える二次電池の構成を示す概略図。
【
図7】実施例の凸部を構成する金属粒子の粒度分布を示す説明図。
【
図8】実施例の電池性能の評価試験結果を示す説明図。
【
図9】第1の比較例の電池性能の評価試験結果を示す説明図。
【
図10】第2の比較例の電池性能の評価試験結果を示す説明図。
【
図11】実施例と比較例の電池性能の評価試験結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照しながら、本願発明に係る蓄電デバイス用電極の実施形態を説明する。なお、本明細書において、「蓄電デバイス」とは、例えば、二次電池や電気二重層キャパシタ等、充放電可能な蓄電体、および、その蓄電体を備える装置を意味する。
【0011】
1.実施形態:
1-1.二次電池の構成:
図1は、本実施形態の二次電池10の構成を示す概略図である。本実施形態の二次電池10は、リチウムイオン二次電池であり、その充放電に関与する金属イオンはリチウム(Li)イオンである。
【0012】
二次電池10は、容器11と、電解液12と、セパレータ15と、第1電極20と、第2電極30と、を備える。
図1では、便宜上、容器11を一点鎖線で図示し、セパレータ15を破線で図示してある。
【0013】
容器11は、電解液12が満たされた内部空間を有している。容器11は、電解液12に対して反応しにくい材質の材料によって液密に構成されている。容器11の内部空間は、セパレータ15によって、第1電極20が収容される第1電極室16と、第2電極30が収容される第2電極室17と、に区画されている。
【0014】
電解液12は、第1電極20と第2電極30との間で、充放電に関与する金属イオンを伝達可能な性質を有する。本実施形態では、電解液12は、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた溶液によって構成され、第1電極20と第2電極30との間でリチウムイオンを伝達可能である。電解液12のリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用いることができる。また、有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)や、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を用いることができる。
【0015】
セパレータ15は、電気絶縁性とイオン伝導性とを有し、第1電極20と第2電極30とを電気的に絶縁するとともに、電解液12を介して伝達されるリチウムイオンを透過する。セパレータ15は、例えば、多孔質構造を有する樹脂フィルムや不織布などによって構成される。
【0016】
第1電極20は、本実施形態の蓄電デバイス用電極に相当する。本実施形態の二次電池10では、第1電極20は負極を構成する。第1電極20は、集電体を構成する金属基板21を備える。本実施形態では、金属基板21は、銅(Cu)の金属箔によって構成される。金属基板21は、Cu以外の金属によって構成されてもよい。他の実施形態では、金属基板21は、例えば、Cu合金や、アルミニウム(Al)、Al合金のうちのいずれか1つによって構成されてもよい。金属基板21は、金属箔によって構成されていなくてもよく、例えば、金属薄板によって構成されてもよい。金属基板21は、平板状に構成されていなくてもよく、例えば、筒状や波状など、様々な形状に曲げ加工されていてもよい。
【0017】
金属基板21の表面には、複数の凸部22が形成されており、凸部22の間には、カーボンナノ構造体が配置されている。
図1では、カーボンナノ構造体の図示は省略されている。カーボンナノ構造体は、活物質としてカーボン(C)を含んでおり、金属基板21の凸部22とカーボンナノ構造体26とは、第1電極20の活物質層25を構成する。本実施形態では、活物質層25は、金属基板21の第1面21aと第2面21bの両方に設けられている。活物質層25の構成の詳細、および、製造方法については後述する。なお、以下の説明においては、第1電極20を、単に「電極20」とも呼ぶ。
【0018】
第2電極30は、二次電池10の正極を構成する。第2電極30は、正極集電体31と、正極活物質層32と、を有する。正極集電体31は、例えば、Alやチタン(Ti)等の金属箔によって構成される。正極集電体31は、他の金属によって構成されてもよいし、金属箔以外の形態を有していてもよい。正極集電体31は、平坦な形状で構成されていなくてもよく、筒状や波状など、様々な形状に曲げ加工されていてもよい。
【0019】
正極活物質層32は、正極集電体31の第1面31aと第2面31bのそれぞれに形成されている。正極活物質層32は、Li原子を含む正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含有する。正極活物質層32は、増粘剤を含んでいてもよい。正極活物質としては、例えば、三元系の物質を用いることができ、コバルト酸リチウム(LiCoO2)や、マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケル酸リチウム(NCA)を用いることができる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラックやカーボンブラックを用いることができる。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。
【0020】
図2を参照して、本実施形態の電極20の活物質層25の構成を説明する。
図2は、金属基板21の活物質層25を、金属基板21の厚み方向に直交する方向に見たときの模式図である。
【0021】
上述したように、金属基板21の表面には、複数の凸部22が形成されている。本実施形態では各凸部22は、微細な金属粒子22pによって構成されている。本明細書において、「粒子」とは、様々な形状の微小な塊を意味する概念であり、必ずしも略球形状に限定されることはなく、表面にランダムな凹凸構造を有する異形な形状も含む概念である。
【0022】
凸部22には、1つの金属粒子22pによって構成されたものと、複数の金属粒子22pが密集することによって構成されたものとが含まれる。金属粒子22pおよび凸部22は、金属基板21と同種の金属によって構成されている。金属基板21の表面上には、凸部21が密に集まった領域と凸部21の数が少ない領域とが全体に分布している。本実施形態では、凸部22は、プラズマCVD(checmical vapor desposition)法によって形成される。凸部22の形成方法については後述する。
【0023】
後述するように、凸部22は、カーボンナノ構造体26の生成に寄与するとともに、二次電池10の電池性能に寄与する。そのため、凸部22は、適切な寸法や分布密度で形成されることが好ましい。
【0024】
適切な寸法の凸部22を得るためには、金属基板21の厚み方向に見たときの金属粒子22pの粒子径は、5nm以上55nm以下であることが好ましい。また、金属粒子22pの平均粒子径は、8nm以上30nm以下であることが好ましい。本明細書において、「粒子径」は、例えば、走査型電子顕微鏡等を用いて金属基板21に正対して撮影した複数の画像において測定される、あらゆる方向の粒子の直径のうちの最大値を意味する。
【0025】
適切な凸部22の分布密度を実現するためいは、活物質層25における金属粒子22pの分布密度は、1個/μm2以上1000個/μm2以下であることが好ましい。ここでの「金属粒子22pの分布密度」は、金属基板21の厚み方向に見たときに観察できる、活物質層25の単位面積あたりに分布する金属粒子22pの個数に相当する。
【0026】
また、金属基板21の厚み方向に直交する方向に見たときの凸部22の高さは、5nm以上300nm以下であることが好ましい。凸部22の高さは、例えば、走査型電子顕微鏡等を用いて、金属基板21の任意の領域の厚み方向に直交する方向から撮影した画像上で、凸部22の下端にある平坦面から凸部22の上端までの距離として計測される。
【0027】
金属基板21の表面には、グラフェンを主成分として構成され、金属基板21の表面上でに線状に延びている複数のカーボンナノ構造体26が配置されている。ここで、「線状」とは、繊維状や、糸状、紐状と言い換えてもよく、その径よりも少なくとも7~8倍以上の長さを有していることが好ましい。また、「主成分」は、例えば、全体の中で占める含有量割合が、50質量%以上である成分であるとしてもよい。
【0028】
カーボンナノ構造体26は、後に参照する
図6の実施例の撮影画像において示されるように、金属基板21の厚み方向に見たときに金属基板21の表面上において線状に延びており、金属基板21の表面に全体的に分布している。カーボンナノ構造体26は、金属基板21の表面にランダムに分布している。カーボンナノ構造体26は、凸部22同士の間を縫うように延びていると解釈することもできる。ただし、カーボンナノ構造体26には、凸部22より上方の領域を通るように延びているものが含まれていてもよい。
【0029】
カーボンナノ構造体26は、グラフェンシートが筒状に丸められたカーボンナノチューブ状の構成を含むことが好ましい。カーボンナノ構造体26は、グラファイト様の物質であるため、活性炭等の炭素材料に比べて高い電気伝導率を有する。カーボンナノ構造体26は、後述するプラズマCVD法によって生成される。
【0030】
カーボンナノ構造体26の直径は、例えば、1nm以上15nm以下としてよい。また、カーボンナノ構造体26をまっすぐに伸ばしたときの長さは、例えば、100nm以上2000nm以下としてよい。この寸法のカーボンナノ構造体26であれば、二次電池10の電池性能をより向上させることができる。また、後述する製造方法によって容易に生成することが可能である。
【0031】
カーボンナノ構造体26は、金属基板21の表面における凸部22が分布している領域全体に渡ってランダムに配置されている。カーボンナノ構造体26は、上述したように、金属基板21の凸部22とともに電極20の活物質層25を構成する。以下では、活物質層25での電池反応について説明する。
【0032】
1-2.二次電池での電池反応:
二次電池10での充放電の際の化学反応は、例えば、以下のような反応式により表すことができる。上述したように、二次電池10において、充放電に関与する金属イオンは、リチウムイオンである。
【0033】
正極物質がLiCoO2である場合、正極である第2電極30での反応式は、下記の式(1)で表される。xは、反応する原子の割合を表し、0より大きく1未満の実数である。
Li1-xCoO2 + xLi+ + xe- ⇔ LiCoO2 …(1)
【0034】
これに対して、負極である電極20での反応式は、下記の式(2)で表される。
Li+ + e- ⇔ Li …(2)
【0035】
本実施形態の二次電池10によれば、充電の際に、上記の式(2)の反応によって、電極20の活物質層25の表層にリチウムが析出し、リチウム層が形成される。これは、カーボンナノ構造体26が活物質として機能し、電極20の表層でのリチウムの析出が促進されるためである。また、金属基板21の凸部22が起点となって、電極20表面でのLiの析出が促進されるためでもある。これは、本願発明の発明者が、核生成理論に基づいて実験結果から導き出した知見に基づく。
【0036】
ここで、平坦な金属基板の表面に活物質としてグラファイトを配置した従来の負極の構成の場合、充電の際には、原理的に、炭素原子6個に対してリチウムイオン1個が吸蔵され、炭化リチウム(LiC6)が形成される。そのため、比較例としてのその従来構成での反応式は、下記の式(3)のように表される。
従来構成での反応式: xLi+ + C6 + xe- ⇔ LixC6 …(3)
【0037】
上記の式(3)が示すように、負極活物質としてグラファイトを用いている従来構成の電極の場合には、充電によって吸蔵できるリチウムイオンの数が、活物質層に含まれる炭素原子の数によって定まってくる。
【0038】
これに対して、本実施形態の二次電池10に用いられている電極20の場合には、上記の式(2)で示されているように、理論的には、活物質層25での炭素原子の数の制限を受けることなく、リチウムを析出させることができる限り、充電が可能である。つまり、本実施形態の電極20によれば、1度の充電または放電において、炭素原子1個あたり2個以上のリチウムイオンを充放電反応に関与させることができる。よって、本実施形態の二次電池10は、電極20を負極として備えていることにより、充電容量が高められている。
【0039】
また、本実施形態の二次電池10によれば、凸部22やカーボンナノ構造体26が金属基板21の表面に一様に分布しているため、充電の際には、電極20の表層にリチウム層が一様に形成され、安定した円滑な充放電反応が可能になる。また、リチウムの析出量が局所的に多くなることが抑制されるため、デンドライトの発生を抑制できる。
【0040】
ここで、カーボンナノウォールの活物質層を有する二次電池の製造工程では、カーボンナノウォールが表面に形成されている電極を、運搬や保管等のためにロール状に丸めた場合に、カーボンナノウォールの一部が損傷したり、脱落したりする場合があった。このことが、カーボンナノウォールを活物質層に有する二次電池の量産化を困難にする原因の1つとなっていた。
【0041】
これに対して、本実施形態の電極20によれば、二次電池10の製造工程において、ロール状に丸められて運搬や保管がされたとしても、凸部22は潰れにくく、凸部22の隙間に配置されているカーボンナノ構造体26は脱落しにくい。よって、本実施形態の電極20によれば、二次電池10への組付けの際の取り回しが容易であり、二次電池10の量産化を容易化できる。
【0042】
1-3.二次電池の製造方法:
図3は、二次電池10の製造工程を示す工程フロー図である。工程P1,P2は、電極20の製造工程である。
【0043】
工程P1では、金属基板21の表面に複数の凸部22が形成される。上述したように、本実施形態では、各凸部22は金属粒子22pによって構成されており、プラズマCVD法によって形成される。
【0044】
図4は、工程P1で用いられる第1処理装置40の構成を示す概略図である。本実施形態では、第1処理装置40は、ラジカル注入型プラズマ(Radical-Injection Plasma-Enhanced;RI-PE)CVD装置である。
【0045】
第1処理装置40は、上段に、プラズマ生成室41と、導波路42と、石英窓43と、スロットアンテナ44と、マイクロ波発生部45と、ラジカル源供給部46と、を備える。また、第1処理装置40は、プラズマ生成室41の下段に、反応室50と、隔壁51と、原料ガス供給部54と、電源部55と、支持基台56と、ヒーター57と、排気部58と、を備える。
【0046】
プラズマ生成室41は、マイクロ波により表面波プラズマ(Surface Wave Plasma;SWP)が生成される空間である。導波路42は、プラズマ生成室41にマイクロ波を伝達するための空間である。導波路42は、プラズマ生成室41の上段に石英窓43によって区画されている。石英窓43には、スロットアンテナ44が配列されている。
【0047】
マイクロ波発生部45は、導波路42にマイクロ波MWを導入する。マイクロ波発生部45は、例えば、300~500Wの電力で、2.00~3.00GHzの周波数のマイクロ波を発生可能である。導波路42に導入されたマイクロ波MWは、スロットアンテナ44によってプラズマ生成室41へと導入される。
【0048】
プラズマ生成室41にマイクロ波MWが導入されると、石英窓43に高密度プラズマ(High Density Plasma;HDP)が発生する。高密度プラズマHDPは、プラズマ生成室41内に拡散し、表面波プラズマSWPとなる。
【0049】
ラジカル源供給部46は、プラズマ生成室41にラジカル源となるガスを供給する。ラジカル源としては、例えば、水素を用いることができる。なお、ラジカル源となるガスは、水素には限定されず、例えば、酸素や窒素、その他の気体であってもよい。プラズマ生成室41の表面波プラズマSWPには、ラジカル源のガスのイオンが混入する。
【0050】
ラジカル源供給部46は、ラジカル源となるガスとともに、ラジカル源となるガスのイオン化を促進させるための反応寄与ガスを供給する。反応寄与ガスとしては、例えば、アルゴンを用いることができる。
【0051】
反応室50は、金属製の隔壁51によってプラズマ生成室41の下段に区画されている。隔壁51には、プラズマ生成室41で生成された表面波プラズマSWPを反応室50に流入させるための複数の貫通孔52が設けられている。
【0052】
上述した通り、プラズマ生成室41では、表面波プラズマSWPにラジカル源のイオンが混入する。ラジカル源のイオンの多くは、反応室50との間に設けられた隔壁51に衝突して中性化することによってラジカルとなり、表面波プラズマSWPとともに反応室50に導入される。
【0053】
電源部55は、隔壁51に接続されており、隔壁51にプラズマ処理のための高周波電圧を印加する。電源部55は、300~400Wの電力、かつ、80~120MHzの周波数の高周波電圧を印加可能である。隔壁51は、プラズマ処理のための電極として機能する。
【0054】
支持基台56は、隔壁51の下方に設けられており、隔壁51と面する載置面56sを有する。載置面56sには、金属基板21が配置される。支持基台56は、アースされており、プラズマ処理のための電極として機能する。ヒーター57は、支持基台56の内部に設けられており、支持基台56の載置面56s上に配置された金属基板21を所定の温度で加熱する。
【0055】
排気部58は、反応室50に接続されている。排気部58は、真空ポンプを備えており、真空ポンプによって、プラズマ処理中の反応室50内を所定の圧力に制御する。なお、第1処理装置40は、上述した各構成部の他に、後で参照する
図5に示す第2処理装置60の真空計81や熱電対82に相当する計測部を備えているものとしてもよい。
【0056】
工程P1では、まず、第1処理装置40の反応室50に金属基板21が配置される。金属基板21は、支持基台56の載置面56s上に配置される。ヒーター57は、例えば、600~800℃程度の温度で、金属基板21を加熱する。
【0057】
また、工程P1では、マイクロ波発生部45は、例えば、300~500Wの電力で、2.00~3.00GHzの周波数のマイクロ波を発生させる。マイクロ波は、導波路42及びスロットアンテナ44を通じてプラズマ生成室41に導入される。プラズマ生成室41には、ラジカル源供給部46からプラズマ生成室41にラジカル源となるガスも供給される。これにより、上記のように、プラズマ生成室41において、ラジカルを含む表面波プラズマSWPが生成され、隔壁51の貫通孔52を介して反応室50に導入される。反応室50内の圧力は、排気部58によって、例えば、1.0~3.0Pa程度に制御される。
【0058】
反応室50に原料ガスを供給されている間に、電源部55は、隔壁51に高周波電圧を印加する。電源部55は、例えば、300~500Wの電力で、80~120MHzの周波数の高周波電圧を印加する。第1処理装置40でのプラズマ処理は、例えば、5~15分程度継続される。
【0059】
プラズマ処理では、隔壁51と、支持基台56上の金属基板21との間に、容量結合型プラズマCCPが発生する。容量結合型プラズマCCP中には、ラジカルが存在している。容量結合型プラズマCCPが金属基板21に接すると、金属基板21を構成する金属の粒子が飛散し、再び、金属基板21に付着する。これによって、上述した金属粒子22pによって構成された凸部22が形成される。工程P1は、金属基板21の第1面21aと第2面21bのそれぞれに対して実行される。
【0060】
図3を参照する。工程P2は、金属基板21の表面にカーボンナノ構造体26を生成する工程に相当する。カーボンナノ構造体26は、プラズマCVD法によって生成される。本実施形態では、カーボンナノ構造体26は、容量結合型プラズマ(Capacitivery Coupled Plasma;CPP)CVD法によって生成される。
【0061】
図5は、工程P2で用いられるCCP-CVD装置である第2処理装置60の構成を示す概略図である。第2処理装置60は、反応室61と、排気部62と、原料ガス供給部65と、支持基台70と、上部電極75と、電源部76と、を備える。第2処理装置60は、さらに、計測部として、真空計81と、熱電対82と、を備える。
【0062】
反応室61は、真空に保持可能な気密構造を有する。反応室61には、排気部62と原料ガス供給部65とが接続されている。排気部62は、真空ポンプを備えており、プラズマ処理中に、反応室61を所定の圧力(真空度)に制御する。反応室61の真空度は、真空計81により測定される。
【0063】
原料ガス供給部65は、反応室61に、原料ガスを供給する。原料ガスは、カーボンナノ構造体26を構成するカーボンを含む炭素系ガスと、カーボンナノ構造体26の成長に寄与する反応寄与ガスと、を含む。
【0064】
炭素系ガスとしては、例えば、メタン(CH4)や、六フッ化エタン(C2F6)を用いることができる。反応寄与ガスとしては、例えば、水素(H2)や、アルゴン(Ar)を用いることができる。反応寄与ガスは、プラズマ処理において、ぺニング効果により、炭素系ガスのプラズマ化を促進する。また、反応寄与ガスは、プラズマ処理において、イオン化して処理対象である金属基板21に衝突することにより、カーボンナノ構造体26の成長起点となる核を形成する。
【0065】
原料ガス供給部65は、貯留部66と、流量制御部67と、導入配管68と、を備える。貯留部66は、原料ガスを構成する複数種類のガスが、種類ごとに、図示しないタンクに貯留されている。
【0066】
流量制御部67は、ガス送出装置67aと、流量調整弁67bと、を備える。ガス送出装置67aと流量調整弁67bとは、貯留部66に接続された複数種類のガスごとの配管にそれぞれ設けられている。
【0067】
ガス送出装置67aは、例えば、エジェクタやポンプによって構成され、貯留部66からガスを所定の圧力で送り出す。ガス送出装置67aにより送り出されたガスは、流量調整弁67bによってその流量が制御される。
【0068】
流量調整弁67bで流量が調整された各種のガスは、導入配管68において合流する。導入配管68は、それら複数種類のガスが所定の割合で混合された原料ガスを反応室61内に導入する。
【0069】
反応室61内には、支持基台70が設けられている。支持基台70は、サセプター71と、石英カバー72と、ヒーター73と、を備える。サセプター71は、金属基板21の載置面を構成する。金属基板21は、サセプター71の上に配置される。サセプター71は、アースされている。サセプター71はフローティングされていてもよい。
【0070】
サセプター71は、石英カバー72の上に配置されており、石英カバー72の下には、ヒーター73が設けられている。石英カバー72は、ヒーター73を保護する。また、石英カバー72は、サセプター71を支持するとともにヒーター73がサセプター71に直接接触することを防止する。
【0071】
プラズマ処理中には、金属基板21は、サセプター71を介してヒーター73の輻射熱を受けて加熱される。熱電対82は、ヒーター73の加熱温度を測定する。プラズマ処理中には、熱電対82によって測定される温度に基づいてヒーター73による金属基板21の加熱が制御される。
【0072】
反応室61の上部には、上部電極75が設置されている。上部電極75は、処理対象となる金属基板21と面するように、サセプター71の上に設置されている。上部電極75は、金属基板21に対してほぼ平行になるように設置されていることが好ましい。上部電極75とサセプター71との間の距離は、例えば、1~5cm程度である。上部電極75は、反応室61の外部に設けられた電源部76に接続されている。
【0073】
電源部76は、高周波電源装置である。電源部76は、例えば、300~700Wの電力で、12~15MHzの周波数の高周波電圧を上部電極75に印加可能である。電源部76は、貯留部66によって反応室61に原料ガスが供給されているときに、上部電極75に対して高周波電圧を印加し、反応室61内に高密度の容量結合型プラズマを発生させる。
【0074】
工程P2では、まず、反応室61内の支持基台70は、工程P1で凸部22が生成された金属基板21が配置される。ヒーター73は、例えば、600~800℃の温度で、金属基板21を加熱する。
【0075】
また、工程P2では、原料ガス供給部65が、反応室50に、原料ガスを供給する。原料ガス供給部65は、原料ガスとして、例えば、炭素系ガスを、80~120sccmの流量で供給するとともに、反応寄与ガスを、40~60sccmの流量で供給する。
【0076】
排気部62は、反応室50内の圧力を制御する。本願発明の発明者が実験によって得た知見によれば、カーボンナノ構造体26が、上述した線状の構成として生成されるためには、プラズマ処理の実行中の反応室50内の圧力がポイントとなる。工程P2では、プラズマ処理の実行中に、反応室50内の圧力は、30Pa以上50Pa以下に制御される。反応室50内の圧力は、35Pa以上45Pa以下に制御されることがより好ましい。
【0077】
反応室61に原料ガスが供給されている間に、電源部76は、上部電極75に高周波電圧を印加する。電源部76は、例えば、300~700Wの電力で、12~15MHzの周波数の高周波電圧を印加する。電源部76は、数十秒~数分程度で、目標電力まで徐々に電力を上昇させる。
【0078】
第2処理装置60でのプラズマ処理は、例えば、5~15分程度継続される。第2処理装置60でのプラズマ処理により、
図2で説明したカーボンナノ構造体26が生成される。なお、工程P2のプラズマ処理では、金属基板21の凸部22が、カーボンナノ構造体26の生成の起点として機能する。そのため、本実施形態の製造工程によれば、金属基板21の表面に、カーボンナノ構造体26を金属基板2の表面に成長させるための触媒を、金属基板21とは別に準備して、金属基板21上に配置することを省略することができる。
【0079】
図3に戻る。工程P3では、正極となる第2電極30が製造される。工程P4では、
図1に示すように、第1電極20と第2電極30とが、電解液12が満たされた容器11に組付けられる。以上の工程により、二次電池10が完成する。
【0080】
本実施形態の二次電池10の製造工程によれば、金属基板21の表面に、複数の凸部22と線状のカーボンナノ構造体26とで構成された活物質層25を容易に形成することができる。また、その活物質層25を有する電極20を備える二次電池10を得ることができる。活物質層25を有する電極20を備える二次電池10であれば、その充電容量や充電速度を高めることができ、その電池性能が向上される。活物質層25を有する電極20であれば、上述したように、取り回しが容易であるため、二次電池10の量産化が容易化される。
【0081】
従来、二次電池の負極が備える、カーボンナノチューブによって構成された活物質層は、生成後に粉末状に加工されたカーボンナノチューブを含むスラリーを集電体の表面に塗布することによって形成される場合があった。これに対して、本実施形態の二次電池10の製造工程では、凸部22が形成された金属基板21の表面にCVD法によってカーボンナノ構造体26を成長させた後、その金属基板21を二次電池10の電極20として組み付けることができる。よって、生成された後のカーボンナノ構造体26を二次電池10に組み付けるための加工等を施す工程が必須ではないため、その分、二次電池10の製造工程を簡易化できる。
【実施例0082】
1-4.実施例E1:
下記の表1に示す条件によって、上述した工程P1および工程P2を実行して本実施形態の電極20の実施例E1を作製した。実施例E1では、集電体を構成する金属基板21として、銅箔を用いた。
【0083】
【0084】
工程P1は、RI-PECVD法によって、金属基板21の表面に凸部22を形成した。工程P2では、CCP-CVD法によって、金属基板21の表面の凸部22の間にカーボンナノ構造体26を生成した。なお、工程P2では、プラズマ処理中の反応室の圧力は40Paに制御した。
【0085】
図6および
図7を参照する。
図6(a),(b)には、実施例E1で用いた金属基板21の表面を走査電子顕微鏡によって撮影した撮影画像が示されている。
図6(a)の撮影画像は、表1の条件で実施した工程P1で得られた凸部22を撮影したものである。
図6(b)の撮影画像は、表1の条件で実施した工程P2で生成されたカーボンナノ構造体26を撮影したものである。
図7には、実施例E1の凸部22を構成する金属粒子22pの粒度分布を示すヒストグラムが図示されている。
【0086】
図6(a)の撮影画像が示すように、上記条件の工程P1によって、実施例E1の金属基板21には、Cuの金属粒子22pによって複数の凸部22が形成された。
図7に示すように、実施例E1の金属粒子22pは、5~55nmの範囲内の粒子径で形成されており、その平均粒子径は、約21nm程度であった。実施例E1における金属粒子22pの分布密度は、1個/μm
2以上1000個/μm
2以下の範囲内であった。実施例E1の凸部22の高さは、概ね、5nm以上200nm以下の範囲内であった。
【0087】
図6(b)の撮影画像が示すように、実施例E1の金属基板21上には、上記条件の工程P2によって、凸部22を合間を縫うように延びているカーボンナノ構造体26が生成された。実施例E1のカーボンナノ構造体26の直径は、概ね、1nm以上15nm以下の範囲内であった。実施例E1のカーボンナノ構造体26の長さは、概ね、100nm以上2000nm以下の範囲内であった。
【0088】
図8は、実施例E1を用いて作製した二次電池の電池性能の評価試験結果を示す説明図である。
図8では、二次電池の電圧と充電容量との関係が、充電時については実線のグラフで、放電時については一点鎖線のグラフで示されている。二次電池は、下記の表2に示す構成とした。
【0089】
【0090】
本評価試験では、充電電流および放電電流はいずれも0.5mAとした。実施例E1の二次電池によれば、充電容量が14.6[mAh]であり、比容量が11.0[mAh/cm2]であった。
【0091】
1-5.比較例C1,C2:
図9および
図10は、比較例C1,C2の電極を負極に用いて作製した二次電池の電池性能の評価試験結果を示す説明図である。比較例C1の電極は、カーボンナノ構造体26を有していない点以外は実施例E1とほぼ同じ構成となるように作製した。比較例C2の電極は、集電体を構成する銅箔の両面に、活物質としてのグラファイトを密に配置した活物質層を形成することにより作製した。比較例C1,C2の二次電池は、実施例E1の二次電池と同様に、上記表2で示す構成とした。
【0092】
図9および
図10では、実施例E1の
図8と同様に、二次電池の電圧と充電容量との関係が、充電時については実線のグラフで、放電時については一点鎖線のグラフで示されている。
【0093】
比較例C1,C2の評価試験では、上述した実施例E1の評価試験と同様に、充電電流および放電電流はいずれも0.5mAとした。比較例C1の二次電池では、充電容量が12.8[mAh]であり、比容量が9.6[mAh/cm2]であった。比較例C2の二次電池では、充電容量が4.0[mAh]であり、比容量が2.0[mAh/cm2]であった。
【0094】
1-6.実施例E1および比較例C1,C2の比較:
図11には、上記の実施例E1および比較例C1,C2の二次電池の充電容量および比容量がそれぞれ棒グラフで示されている。実施例E1の二次電池であれば、負極の活物質としてグラファイトを用いている比較例C2の二次電池よりも著しく電池性能が向上した。
【0095】
実施例E1と同様な凸部22が形成されている金属基板21で負極を構成した比較例C1の二次電池についても、比較例C2の二次電池に対して、電池性能の著しい向上が見られる。この結果から、金属基板21の凸部22が電池性能の向上に寄与していることがわかる。
【0096】
また、負極にカーボンナノ構造体26を有する実施例E1の二次電池の方が、比較例C1の二次電池よりも電池性能が向上していた。この結果から、活物質としてのカーボンナノ構造体26の存在が、電池性能の向上に寄与していることがわかる。ところで、カーボンナノ構造体26による電池性能の向上は、例えば、カーボンナノ構造体26に金属基板21のCuの一部が含有されているなど、カーボンナノ構造体26に含有されているグラフェン以外の成分が寄与している可能性がある。電池性能の向上に寄与するカーボンナノ構造体26の成分は、例えば、ラマン(Raman)分光測定や、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)等によって分析が可能である。
【0097】
1-7.まとめ:
以上のように、上記実施形態および実施例の蓄電デバイス用電極20と、それを用いた二次電池、および、その製造方法によれば、凸部22とカーボンナノ構造体26とで構成された新規な活物質層25によって、蓄電デバイスの電池性能を向上できる。
【0098】
2.他の実施形態:
本願発明は、上述の実施形態や実施例の構成に限定されることはなく、例えば、以下のような形態で実現することもできる。以下において、他の実施形態として説明する構成はいずれも、上記の実施形態や実施例と同様に、本願発明を実施するための一形態例として位置づけられる。
【0099】
2-1.他の実施形態1:
上記実施形態の電極20を用いた二次電池は、リチウムイオン以外の金属イオンを充放電に関与させる構成であってもよい。上記実施形態の電極20を用いた二次電池は、例えば、ナトリウム(Na)イオンや、カリウム(K)イオン、マグネシウム(Mg)イオン等を充放電に関与させる構成であってもよい。
【0100】
2-2.他の実施形態2:
電極20は、二次電池以外の蓄電デバイスに用いられてもよい。上記実施形態の電極20は、例えば、電気二重層キャパシタに用いられてもよい。この場合には、電極20は、電気二重層キャパシタの正極と負極の両方に用いられてもよい。
【0101】
2-3.他の実施形態3:
電極20の凸部22およびそれを構成する金属粒子22pは、上記実施形態で説明した好適範囲外の寸法や分布密度を有していてもよい。また、カーボンナノ構造体26は、上記実施形態で説明した好適範囲外の直径や長さを有していてもよい。
【0102】
2-4.他の実施形態4:
凸部22は、金属粒子22pによって構成されていなくてもよい。電極20の凸部22は、例えば、ショットブラスト等、金属基板21の表面に微細な凹凸構造を形成する表面処理によって形成されてもよい。凸部22は、RI-PECVD法とは異なる種類のプラズマPVD法によって形成されてもよい。凸部22は、例えば、CCP-CVD法によって形成されてもよい。また、凸部22は、金属基板21に対する電解析出や酸化処理、スパッタリング等の表面処理によって形成されてもよい。凸部22は、金属基板21を構成している金属とは異なる金属の粒子を表面に付着させることによって形成されてもよい。
【0103】
2-5.他の実施形態5:
カーボンナノ構造体26は、CCP-CVD法以外のプラズマCVD法によって生成されてもよい。カーボンナノ構造体26は、例えば、RI-PECVD法によって生成されてもよい。
【0104】
3.形態例:
本願発明は、以下のような形態によって実現することが可能である。
【0105】
[第1形態]第1形態は、蓄電デバイス用電極として提供される。第1形態の蓄電デバイス用電極は、集電体を構成する金属基板と、微細な金属粒子によって構成され、前記金属基板の表面に形成されている複数の凸部と、グラフェンを主成分とし、前記金属基板を厚み方向に見たときに、前記金属基板の表面上で線状に延びており、前記金属基板の表面に分布している、複数のカーボンナノ構造体と、を備える。
第1形態の蓄電デバイス用電極によれば、金属基板の表面の複数の凸部と、金属基板の表面に分布している線状の複数のカーボンナノ構造体とによって活物質層が構成されている。この活物質層によれば、蓄電デバイスの電池性能を高めることが可能である。
【0106】
[第2形態]上記第1形態の蓄電デバイス用電極において、前記カーボンナノ構造体の直径は、1nm以上15nm以下であり、前記カーボンナノ構造体の長さは、100nm以上1000nm以下でよい。
第2形態の蓄電デバイス用電極によれば、蓄電デバイスの電池性能をさらに向上させることができる。
【0107】
[第3形態]上記第1形態、または、第2形態の蓄電デバイス用電極において、前記凸部の高さは、5nm以上300nm以下でよい。
第3形態の蓄電デバイス用電極によれば、充電の際に、電極において、充放電に関与する金属イオンを金属として析出させるための起点として機能する凸部がより適切な寸法で形成されるため、蓄電デバイスの電池性能を、より一層、向上させることができる。また、凸部が、カーボンナノ構造体の生成の起点として機能しやすくなるため、カーボンナノ構造体をより安定して生成することができる。
【0108】
[第4形態]上記第1形態、第2形態、および、第3形態の蓄電デバイス用電極において、前記凸部は、微細な金属粒子によって構成されてよい。
第4形態の蓄電デバイス用電極によれば、微細な凸部を、例えば、プラズマCVD処理等によって、より容易に形成することができる。
【0109】
[第5形態]上記第1形態、第2形態、第3形態、および、第4形態のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極において、前記金属基板の厚み方向に見たときの前記金属粒子の粒子径は、5nm以上55nm以下でよい。
第5形態の蓄電デバイス用電極によれば、適切な寸法の凸部を形成しやすく、蓄電デバイスの電池性能をさらに向上させることができる。
【0110】
[第6形態]上記第1形態、第2形態、第3形態、第4形態、および、第5形態のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極において、前記金属基板の厚み方向に見たときの前記金属粒子の平均粒子径は、15nm以上30nm以下でよい。
第6形態の蓄電デバイス用電極によれば、適切な寸法の金属粒子の量を増加させることができるため、蓄電デバイスの電池性能を、より一層、向上させることができる。
【0111】
[第7形態]第7形態は、二次電池として提供される。第7形態の二次電池は、上記第1形態、第2形態、第3形態、第4形態、第5形態、および、第6形態のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用電極によって構成された第1電極と、イオン化して前記第1電極に移動する金属原子を含む第2電極と、を備える。
第7形態の蓄電デバイスによれば、第1電極が、凸部とカーボンナノ構造体とで構成された活物質層を有しているため、電池性能の向上が可能である。
【0112】
[第8形態]第8形態は、蓄電デバイス用電極の製造方法として提供される。第8形態の製造方法は、金属基板の表面に、微細な金属粒子によって構成された複数の凸部を形成する工程と、反応室に前記金属基板を配置し、前記反応室の圧力を30Pa以上50Pa以下に制御しながら、炭素を含む原料ガスを供給して、プラズマCVD法によって、グラフェンを主成分とし、前記金属基板の厚み方向に見たときに、前記金属基板の表面上で線状に延び、前記金属基板の表面に分布する、複数のカーボンナノ構造体を生成する工程と、を備える。
第8形態の製造方法によれば、凸部と線状のカーボンナノ構造体とで構成された新規な構造の活物質層を有する蓄電デバイス用電極を製造することができる。この蓄電デバイス用電極によれば、蓄電デバイスの電池性能を飛躍的に向上させることができる。
10…二次電池、11…容器、12…電解液、15…セパレータ、16…第1電極室、17…第2電極室、20…第1電極(蓄電デバイス用電極)/電極、21…金属基板、21a…第1面、21b…第2面、22…凸部、22p…金属粒子、25…活物質層、26…カーボンナノ構造体、30…第2電極、31…正極集電体、31a…第1面、31b…第2面、32…正極活物質層、40…第1処理装置、41…プラズマ生成室、42…導波路、43…石英窓、44…スロットアンテナ、45…マイクロ発生部、46…ラジカル源供給部、50…反応室、51…隔壁、52…貫通孔、55…電源部、56…支持基台、56s…載置面、57…ヒーター、58…排気部、60…第2処理装置、61…反応室、62…排気部、65…原料ガス供給部、66…貯留部、67…流量制御部、67a…ガス送出装置、67b…流量調整弁、68…導入配管、70…支持基台、71…サセプター、72…石英カバー、73…ヒーター、75…上部電極、76…電源部、81…真空計、82…熱電対、CCP…容量結合型プラズマ、HDP…高密度プラズマ、MW…マイクロ波、SWP…表面波プラズマ