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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155318
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】高周波回路
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/10 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H01P5/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069949
(22)【出願日】2023-04-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)「量子ソフトウェア研究に関する国立大学法人大阪大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】津留 正臣
(72)【発明者】
【氏名】伊東 健治
(72)【発明者】
【氏名】坂井 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】平井 司
(57)【要約】
【課題】MMIC等の集積回路に適用が容易で小型化を図ることができる高周波回路の提供を目的とする。
【解決手段】第1の信号線と、前記第1の信号線と平行線路を形成するとともに前記第1の信号線を囲むように配置された3線以上の複数の第2の信号線を有し、前記複数の第2の信号線は信号の伝搬方向に直交する任意の位置で相互に接続されていることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号線と、前記第1の信号線と平行線路を形成するとともに前記第1の信号線を囲むように配置された3線以上の複数の第2の信号線を有し、
前記複数の第2の信号線は信号の伝搬方向に直交する任意の位置で相互に接続されていることを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
3層以上からなる多層の誘電体層を有し、
前記第1の信号線は前記多層の誘電体層のうち、最上層及び最下層以外の層に形成され、
前記複数の第2の信号線は、前記第1の信号線を囲むように前記多層の誘電体層に形成されていることを特徴とする請求項1記載の高周波回路。
【請求項3】
前記第1の信号線は、前記複数の第2の信号線の信号伝搬方向に直交する断面の略中心の位置にあることを特徴とする請求項1記載の高周波回路。
【請求項4】
前記第1の信号線及び第2の信号線のうち一方は、一端が接地されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項5】
前記第1の信号線と前記第2の信号線をスパイラル状に形成したことを特徴とする請求項4記載の高周波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラン,ミクサ,プッシュプル増幅器等に用いられる高周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波の不平衡信号を平衡信号に、あるいはその逆に変換を行う高周波回路としてバランが知られている。
例えば、非特許文献1に記載されている、Classic Works in RF Engineering,Figure 3.11(Guanella Balun)の内容を図12(a)に引用する。
平行線路の一方の線路の一端に不平衡信号を入力し、他方の線路の一端を短絡することで、この平行線路の他端から平衡信号を得るものである。
同文献のFigure3.15(a)を図12(b)に引用するように、従来は同軸構造の心線を一方の線路、外導体を他方の線路とすることで、グァネラバランを形成していた。
これではサイズが大きくなり、MMIC(モノリシック マイクロ波集積回路)等、小型の高周波回路への適用が難しい問題があった。
【0003】
また、同文献のFigure3.10に記載のマーチャントバラン(Marchand Balun)を図12(c)に引用する。
このバランは、平面回路として構成できるものの1/4波長線路の結合回路を2つ用いるために、周波数が低くなるにつれてサイズの小型化が難しい。
このような高周波回路は、非特許文献2に示すようにミクサに適用した例も報告されている。
【0004】
特許文献1には、図13に引用したように第1の導体パターンと第2の導体パターンが上下に平行配線された例と、第1の導体パターンを上下の第2導体パターンでサンドイッチ構造にするバランの例が開示されている。
しかし、第1の導体パターンは結合部分に加えて、接地までに結合部分と同等の線路長が必要であり、やはり小型化が技術的課題となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】John L.B.Walker,Daniel P.Wyer,Frederick H.Raab,and Chris Trask,“Classic Works in RF Engineering COMBINERS,COUPLERS,TRANSRORMERS,AND MAGNETIC MATERIALS”,Artech House on Demand,2006
【非特許文献2】下沢他,“スパイラル形結合線路を用いた並列接続形マーチャントバランと広帯域MMIC FETレジスティブリングミクサへの適用”,電子情報通信学会 論文誌C,vol.J89-C,no.5.pp.217-227.2006.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-189396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、MMIC等の集積回路に適用が容易で小型化を図ることができる高周波回路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る高周波回路は、第1の信号線と、前記第1の信号線と平行線路を形成するとともに前記第1の信号線を囲むように配置された3線以上の複数の第2の信号線を有し、前記複数の第2の信号線は信号の伝搬方向に直交する任意の位置で相互に接続され
ていることを特徴とする。
本発明は、前記第1の信号線は、前記複数の第2の信号線の信号伝搬方向に直交する断面の略中心の位置にあるのが好ましい。
ここで略中心の位置と表現したのは、詳細な説明は後述するが、電磁界分布において擬似的な同軸構造が形成される範囲にて第1の信号線が概ね中心に位置していればよいからである。
【0009】
ここで、第1の信号及び第2の信号線のうち一方の一端を接地することで、平衡-不平衡変換を行うことができる。
例えば、第2の信号線の一端を接地して、第1の信号線の一端に不平衡信号を入力すると、第1の信号線の他端と第2の信号線の他端とで平衡信号が変換出力される。
また、逆の変換も可能である。
【0010】
本発明に係る高周波回路は、3層以上からなる多層の誘電体層を有し、前記第1の信号線は前記多層の誘電体層のうち、最上層及び最下層以外の層に形成され、前記複数の第2の信号線は、前記第1の信号線を囲むように前記多層の誘電体層に形成することができる。
このようにすると、MMICとして形成しやすい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る高周波回路の作動原理の詳細は後述するが、第1の信号線と平行線路を形成しつつ、この第1の信号線を囲むように3線以上の複数の第2の信号線からなるので、従来の同軸ケーブルを用いたグァネラバランと同様の同軸構造を擬似的に形成することができる。
これにより従来の同軸ケーブルでは、MMICに適用することができなかったのに対して、本発明に係る周波回路はMMICへの適用が可能になる。
また、従来、MMICに適用されていたマーチャントバランよりも約半分程度に小型化できる。
【0012】
本発明に係る高周波回路はバランのみならず、ミクサやプッシュプル増幅器などの高周波回路にも適用でき、小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る高周波回路を半導体基板に形成した例を模式的に示し(a)は透視した平面図、(b)はA-A線断面図、(c)は透視した側面図を示す。
図2】(a)は図1(a)のB-B線断面[図1(c)のB-B’断面図]を示し(b)は図1(a)のC-C線断面図[図1(c)のC-C’断面図]を示す。
図3】(a)、(b)は接続線の他の配置例を示す。
図4】(a)、(b)はスルービアによる接続の他の配置例を示す。
図5】(a)、(b)はスルービア、接続線の他の配置例を示す。
図6】スルービア、接続線の他の配置例を示す。
図7】基板上にスパイラル形状にした例を示す。
図8図7のスパイラル形状の斜視図を示す。
図9】本発明に係る高周波回路の動作を説明するための図である、
図10】動作説明図の続きである。
図11】本発明に係る高周波回路の他の構成例を示す。
図12】非特許文献1に記載されている回路例を示す。
図13】特許文献1に記載されている回路例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る高周波回路の構成例を以下、図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
図1及び図2に高周波回路の構成例を示し、図1(a)は透視して表現した平面図、(b)はそのA-A線断面図、(c)は側面視、図2(a)はB-B線断面図、(b)はC-C線断面図をそれぞれ示す。
GaAs、Si等の半導体からなる基板1の上に、SiO,ポリイミド等からなる誘電体層を積層してある。
これらの誘電体層は1層が数μm程度の厚さで実現できる。
本実施例では、基板側から第1誘電体層51、第2誘電体層52及び第3誘電体層53の3層の例になっているが、積層数に制限はない。
また、半導体基板上に積層された誘電体層を用いた例になっているが、樹脂基板やセラミック基板上に誘電体層を積層して用いても良い。
【0016】
金属線からなる第1の信号線11が、中間層の第2誘電体層52に沿って配線してある。
これに対して金属線からなる複数の第2の信号線を上記第1の信号線11を囲むように並行な平行線路を形成してある。
本実施例では基板側の第1誘電体層51に第2の信号線21,22を配線し、上層側の第3誘電体層53に第2の信号線23,24を配線した例になっている。
【0017】
図2(a)にB-B断面図(B-B’断面図)を示すように、第2の信号線21と22との間は信号方向とは直交する方向に接続した接続線31を有し、第2の信号線23と24との間は同様に接続線32にて接続され、第2の信号線21と23とはスルービア41にて、第2の信号線22と24とはスルービア42にて接続されている。
また、図2(b)C-C断面図(C-C’断面図)に示すように、第2の信号線21と22とは不平衡端子側において、接続線33にて相互に接続され、第2の信号線23と24とは接続線34にて接続されている。
【0018】
このように第1の信号線11を囲むように平行に配線した複数の第2の信号線は、信号方向とは直交する任意の面において同電位となるように相互に接続されていればよく、接続線やスルービア同士の間隔は設計事項であり、伝搬させたい波長に対して短い間隔でよい。
その例として図3(a),(b)に接続線35,36の例、図4(a),(b)にスルービア43,44の例、図5(a),(b)、図6にはさらに、それらの組み合せ例を示す。
【0019】
図1(a),(c)に示すように、第2の信号線21~24の一端は接地され、第1の信号線11の一端は不平衡端子になる。
また、第1の信号線11の他端と、第2の信号線21~24の他端は平衡端子となる。
【0020】
本発明に係る高周波回路は、MMICにおいて小型なレイアウトにするために、図7に平面視、図8に斜視図を示すようにスパイラル形状にすることもできる。
図7,8において、誘電体層の表示は省略してある。
スパイラル形状に形成した第1の信号線の周囲を囲むようにして、この第1の信号線と平行線となるように、4つの第2の信号線がスパイラル形状に形成するとともに、第2の信号線同士が同電位になるように、スルービアで接続した例になっている。
【0021】
次に本発明に係る高周波回路の動作原理について説明する。
図9(a)は従来のグァネラバランの同軸構造における電磁界分布の概略図を示す。
これに対して本発明に係る構造を図9(b),(c)に示す。
第1の信号線11を囲むように4つの第2の信号線21~24が平行線路として配置されているので、擬似的に同軸構造を形成していることになる。
これにより、不平衡端子に不平衡信号を入力すると、第1の信号線11と第2の信号線21~24との間に同軸構造と同様の電磁界が分布し、第1の信号線に沿って伝搬する。
このときの電流の向きは、第1の信号線と第2の信号線とで逆向きになるため、第1の信号線の他端と第2の信号線の他端がつながる平衡端子からは平衡信号が出力される。
また逆に平衡端子側から平衡信号を入力すると不平衡端子から不平衡信号が出力されることになる。
【0022】
この際に第2の信号線同士を接続させる接続線やスルービアがない断面においても、同軸構造と同様の電磁界分布となるのは次のとおりである。
図10に示すように第2の信号線同士の間では、第2の信号線同士の磁界が逆向きになるため打ち消し合う。
そのため第2の信号線の間は電気壁とみなせ、金属配線があるのと等価とみなせる。
第2の信号線の外側では、第2の信号線による磁界の総和と第1の信号線との磁界が逆向きのため打ち消し合う。
第1の信号線には第2の信号線に流れる電流の総和と同じ電流が流れているため、第2の信号線の外側における第2の信号線による磁界の総和と第1の信号線による磁界の大きさとほぼ同じであるため打ち消し合うことになる。
また、第1の信号線からの電界は囲むように配置されている第2の信号線の他端で終端し、複数の第2の信号線の相互の間隔により擬似的な同軸構造の特性インピーダンスを設計することができる。
従って、本発明に係る高周波回路は図11(a)に示すように第2の信号線を21~26の6線を配置してもよく、その場合に図11(b)に示すように誘電体層を51~56の6つの層にする等、任意に計設できる。
【0023】
第2の信号線が2線までの場合、例えば第1の信号線の上下に配置された場合、電束は第1の信号線の上下に分布するのみであるが、第2の信号線が3線以上配置されることにより、第2の信号線により第1の信号線を囲むような配置が可能となって、電束は第1の信号線から同軸構造と同様に放射状の分布が得られる。
したがって、第2の信号線は3線以上配置されれば良い。
【符号の説明】
【0024】
1 基板
11 第1の信号線
21 第2の信号線
22 第2の信号線
23 第2の信号線
32 接続線
34 接続線
41 スルービア
42 スルービア
51 第1誘電体層
52 第2誘電体層
53 第3誘電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13