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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155324
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】クロスローラ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/36 20060101AFI20241024BHJP
   F16C 33/49 20060101ALI20241024BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20241024BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F16C19/36
F16C33/49
F16C33/58
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069959
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】中村 智昭
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 都至
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117HA03
3J701AA13
3J701AA26
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA47
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA69
3J701CA13
3J701EA02
3J701FA02
3J701FA41
3J701FA44
3J701FA46
3J701FA60
3J701XB12
(57)【要約】
【課題】ローラが円滑に転動可能なクロスローラ軸受を提供する。
【解決手段】クロスローラ軸受は、互いに直交する一対の外輪軌道面を内周面に有する外輪と、外輪と中心軸が共通であり、互いに直交する一対の内輪軌道面を外周面に有する内輪と、外輪軌道面および内輪軌道面を転動する転動面を有し、外輪と内輪との間において転動軸心を直交するように周方向に交互に配置される複数のローラと、複数のローラを保持する保持器と、を備える。一対の外輪軌道面および一対の内輪軌道面はそれぞれ、全周にわたって形成されている。ローラの転動軸心を含む断面において、ローラの転動軸心方向における転動面の中心は、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する一対の外輪軌道面を内周面に有する外輪と、
前記外輪と中心軸が共通であり、互いに直交する一対の内輪軌道面を外周面に有する内輪と、
前記外輪軌道面および前記内輪軌道面を転動する転動面を有し、前記外輪と前記内輪との間において転動軸心を直交するように周方向に交互に配置される複数のローラと、
前記複数のローラを保持する保持器と、を備え、
前記一対の外輪軌道面および前記一対の内輪軌道面はそれぞれ、全周にわたって形成されており、
前記ローラの転動軸心を含む断面において、前記ローラの転動軸心方向における前記転動面の中心は、前記外輪軌道面および前記内輪軌道面と接触する、クロスローラ軸受。
【請求項2】
前記ローラの直径をD1とし、前記外輪に対して前記内輪を相対的に径方向にずらした際の前記外輪の内周面と前記内輪の外周面との間の径方向の最大の隙間の寸法をD2とすると、
1<D2/D1<1.2の関係を有する、請求項1に記載のクロスローラ軸受。
【請求項3】
前記外輪は、鋼製であって、一体で構成されており、
前記内輪は、鋼製であって、一体で構成されている、請求項1または請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項4】
前記クロスローラ軸受の軸方向において、前記ローラの両側における前記外輪の内周面と前記内輪の外周面との隙間の寸法は、等しい、請求項1または請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項5】
前記ローラの転動面の有効接触長さは、前記ローラの転動軸心方向の長さの30%以上60%以下である、請求項1または請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項6】
前記保持器は、
前記ローラを収容するポケットを形成するように周方向に間隔をあけて配置され、軸方向に延びる複数の柱部と、
前記複数の柱部のそれぞれの軸方向の一方端部と連結される環状部と、を含む、請求項1または請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項7】
前記柱部には、前記ポケットが位置する側に突出し、前記ポケットに収容される前記ローラに引っ掛かる突起部が形成されている、請求項5に記載のクロスローラ軸受。
【請求項8】
前記突起部は、前記柱部の他方端部側に形成されており、
前記柱部には、前記柱部の他方端部から軸方向に延びるスリットが形成されている、請求項6に記載のクロスローラ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロスローラ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外輪と、内輪と、複数個のコロと、リテーナとを有するクロスローラベアリングが開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-264413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロスローラ軸受においては、ローラを円滑に転動させることが求められる。
【0005】
そこで、ローラが円滑に転動可能なクロスローラ軸受を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従ったクロスローラ軸受は、互いに直交する一対の外輪軌道面を内周面に有する外輪と、外輪と中心軸が共通であり、互いに直交する一対の内輪軌道面を外周面に有する内輪と、外輪軌道面および内輪軌道面を転動する転動面を有し、外輪と内輪との間において転動軸心を直交するように周方向に交互に配置される複数のローラと、複数のローラを保持する保持器と、を備える。一対の外輪軌道面および一対の内輪軌道面はそれぞれ、全周にわたって形成されている。ローラの転動軸心を含む断面において、ローラの転動軸心方向における転動面の中心は、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する。
【発明の効果】
【0007】
上記クロスローラ軸受によれば、ローラが円滑に転動可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の実施の形態1におけるクロスローラ軸受を示す概略斜視図である。
図2図2は、図1に示すクロスローラ軸受に含まれる外輪を示す概略斜視図である。
図3図3は、図1に示すクロスローラ軸受に含まれる内輪を示す概略斜視図である。
図4図4は、図1に示すクロスローラ軸受の一部を示す概略断面図である。
図5図5は、図1に示すクロスローラ軸受の一部を示す概略断面図である。
図6図6は、図1に示すクロスローラ軸受に含まれる保持器を示す概略斜視図である。
図7図7は、図6に示す保持器において、ローラを保持させた状態の一部を拡大して示す概略斜視図である。
図8図8は、外輪に対して内輪を相対的に径方向にずらした状態を示す外観図である。
図9図9は、図8中の矢印IX-IXで示す断面で切断した場合の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本開示のクロスローラ軸受は、互いに直交する一対の外輪軌道面を内周面に有する外輪と、外輪と中心軸が共通であり、互いに直交する一対の内輪軌道面を外周面に有する内輪と、外輪軌道面および内輪軌道面を転動する転動面を有し、外輪と内輪との間において転動軸心を直交するように周方向に交互に配置される複数のローラと、複数のローラを保持する保持器と、を備える。一対の外輪軌道面および一対の内輪軌道面はそれぞれ、全周にわたって形成されている。ローラの転動軸心を含む断面において、ローラの転動軸心方向における転動面の中心は、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する。
【0010】
本発明者らは、クロスローラ軸受において、ローラの円滑な転動について検討した。従来のクロスローラ軸受においては、ローラを軌道内に配置させるために、軌道に至る穴を外輪または内輪に設け、この穴を利用してローラを一つずつ転動軸心が直交するように挿入していき、すべてのローラを挿入し終えた後に穴を閉塞する蓋を取り付ける構成を採用する場合がある。しかし、このような構成では、軌道面の一部が蓋で構成されることとなり、軌道面に継ぎ目が生じることとなる。その結果、回転トルクが変動したり、回転ブレ、すなわち振れ精度が劣ってしまうことに本発明者らは着目した。また、従来のクロスローラ軸受において、外輪または内輪を分割し、全てのローラを軌道内に配置した上で分割した外輪または内輪を組み合わせて一体のクロスローラ軸受とする構成を採用する場合がある。しかし、このような構成では、部品数が多く部品の取り扱い性が損なわれると共に、分割部材を幅方向に押さえる際の力に起因して予圧が変動してしまうことに本発明者らは着目した。
【0011】
そして、本発明者らはさらに以下の点に着目した。特許文献1に開示のクロスローラベアリングによると、リテーナが締結固定される側と反対側において、外輪の内周面と内輪の外周面との隙間の寸法が大きい。そして、外輪側と内輪側とで、ローラの転動面との接触状態が異なり、それぞれローラの端面側の一部の領域で接触している状態である。このような構成では、特にリテーナが配置される側と反対側において、ローラの転動面と外輪軌道面および内輪軌道面とがローラの転動軸心方向において偏った位置で接触することとなる。このような構成では、ローラの姿勢が安定せず、結果としてローラの円滑な転動の確保が困難となる。
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意検討し、本開示に係るクロスローラ軸受を採用するに至った。本開示のクロスローラ軸受によると、一対の外輪軌道面および一対の内輪軌道面はそれぞれ、全周にわたって形成されているため、各軌道面において継ぎ目や段差が生じることはない。そうすると、回転トルクが変動することを抑制して、振れ精度の劣化を防止することができる。さらに、予圧の変動も防止できる。また、蓋や分割部品が生じないため、組み立て性の向上を図ることができる。さらに、本開示のクロスローラ軸受において、ローラの転動軸心を含む断面において、ローラの転動軸心方向における転動面の中心は、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する。このような構成を採用するクロスローラ軸受は、ローラの転動軸心方向における転動面の中心が外輪軌道面および内輪軌道面と接触しているため、ローラの転動軸心方向において、バランスよくローラにより荷重を受けることができ、ローラの姿勢を安定させることができる。以上より、本開示のクロスローラ軸受によると、ローラが円滑に転動可能である。
【0013】
上記クロスローラ軸受において、ローラの直径をD1とし、外輪に対して内輪を相対的に径方向にずらした際の外輪の内周面と内輪の外周面との間の径方向の最大の隙間の寸法をD2とすると、1<D2/D1<1.2の関係を有してもよい。このようにすることにより、より確実にローラを組み込むことができると共に、より確実にバランスよくローラにより荷重を受けることができ、ローラの姿勢を安定させることができる。したがって、ローラをより円滑に転動可能とすることができる。
【0014】
上記クロスローラ軸受において、外輪は、鋼製であって、一体で構成されていてもよい。内輪は、鋼製であって、一体で構成されていてもよい。このようにすることにより、外輪および内輪をそれぞれ鋼製の一体として構成することができ、剛性を確保することができると共に、部品点数を減らすことができる。
【0015】
上記クロスローラ軸受の軸方向において、ローラの両側における外輪の内周面と内輪の外周面との隙間の寸法は、等しくてもよい。このようにすることにより、軸方向の両側において、潤滑油の流動性を良好にして、円滑な転動や潤滑油による冷却効果の向上を図ることができる。
【0016】
上記クロスローラ軸受において、ローラの転動面の有効接触長さは、ローラの転動軸心方向の長さの30%以上60%以下であってもよい。このようにすることにより、さらに大きな定格荷重を確保することができ、任意の仕様の設計が容易となる。
【0017】
上記クロスローラ軸受において、保持器は、ローラを収容するポケットを形成するように周方向に間隔をあけて配置され、軸方向に延びる複数の柱部と、複数の柱部のそれぞれの軸方向の一方端部と連結される環状部と、を含んでもよい。このようにすることにより、柱部および環状部によって形成されるポケット内に各ローラを収容することができ、軸受内において各ローラを安定して案内することができる。また、軸方向において、環状部が設けられていない側からローラを配置することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【0018】
上記クロスローラ軸受において、柱部には、周方向であってポケットが位置する側に突出し、ポケットに収容されるローラに引っ掛かる突起部が形成されていてもよい。このようにすることにより、突起部による引っ掛かりにより、保持器が軸方向から脱落するおそれを低減することができる。したがって、より安定した動作を確保することができる。
【0019】
上記クロスローラ軸受において、突起部は、柱部の他方端部側に形成されていてもよい。柱部には、柱部の他方端部から軸方向に延びるスリットが形成されていてもよい。このようにすることにより、突起部を乗り越えてローラを保持器のポケット内に挿入する際に、柱部を弾性変形させて組み込みやすくすることができる。したがって、より組み立て性の向上を図ることができる。
【0020】
[実施形態の具体例]
次に、本開示のクロスローラ軸受の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0021】
(実施の形態1)
まず、本開示の実施の形態である実施の形態1について説明する。図1は、本開示の実施の形態1におけるクロスローラ軸受を示す概略斜視図である。図2は、図1に示すクロスローラ軸受に含まれる外輪を示す概略斜視図である。図3は、図1に示すクロスローラ軸受に含まれる内輪を示す概略斜視図である。図4および図5は、図1に示すクロスローラ軸受の一部を示す概略断面図である。図4は、図1中の矢印IX-IXで示す断面で切断した場合の概略断面図である。図5は、図4に示す後述するローラと周方向において隣に位置するローラの転動軸心を含む断面で切断した断面図である。図1以下に示す図において、矢印Xで示す方向を軸方向、矢印Yおよび矢印Zで示す方向を径方向とする。矢印Yで示す方向および矢印Zで示す方向は、直交している。なお、図1以下に示す図において、クロスローラ軸受の中心軸Rを一点鎖線で示す。また、図4および図5において、後述するローラの転動軸心を一点鎖線で示し、ローラの転動軸心方向の中心を破線で示す。
【0022】
図1図5を参照して、本開示のクロスローラ軸受10aは、外輪11aと、内輪12aと、複数のローラ13aと、保持器15aと、を含む。外輪11aは鋼製であって、一体で構成されている。内輪12aも鋼製であって、一体で構成されている。外輪11aおよび内輪12aは、それぞれ円環状である。外輪11aと、内輪12aは、中心軸Rが共通する。なお、保持器15aについても、外輪11aおよび内輪12aと中心軸Rが共通する。クロスローラ軸受10aは、スラスト荷重およびラジアル荷重の双方を適切に受けることができる軸受である。
【0023】
外輪11aは、内周面23aに一対の外輪軌道面21a,22aを有する。すなわち、外輪11aの内周面23aには、外輪軌道面(第1外輪軌道面)21aおよび外輪軌道面(第2外輪軌道面)22aが設けられている。外輪軌道面21aと外輪軌道面22aとは、互いに直交している。すなわち、外輪軌道面21aと外輪軌道面22aとがなす角度は、90度である。軸方向における外輪軌道面21aと外輪軌道面22aとの間には、環状に連なり、外周側に凹む溝部24aが設けられている。外輪軌道面21aは、外輪軌道面21aを転動するローラ13aの周方向の隣に配置されるローラ13aの後述する第1端面41aにおける案内面となる。外輪軌道面22aは、外輪軌道面22aを転動するローラ13aの周方向の隣に配置されるローラ13aの第1端面41aにおける案内面となる。
【0024】
内輪12aは、外輪11aと、中心軸Rが共通する。内輪12aは、外周面33aに一対の内輪軌道面31a,32aを有する。すなわち、内輪12aの外周面33aには、内輪軌道面(第1内輪軌道面)31aおよび内輪軌道面(第2内輪軌道面)32aが設けられている。内輪軌道面31aと内輪軌道面32aとは、互いに直交している。すなわち、内輪軌道面31aと内輪軌道面32aとがなす角度は、90度である。軸方向における内輪軌道面31aと内輪軌道面32aとの間には、環状に連なり、内周側に凹む溝部34aが設けられている。内輪軌道面31aは、内輪軌道面31aを転動するローラ13aの周方向の隣に配置されるローラ13aの後述する第2端面42aにおける案内面となる。内輪軌道面32aは、内輪軌道面32aを転動するローラ13aの周方向の隣に配置されるローラ13aの第2端面42aにおける案内面となる。
【0025】
ローラ13aは、第1端面41aと、第2端面42aと、外輪軌道面21a,22aおよび内輪軌道面31a,32aを転動する転動面43aと、を含む。ローラ13aは、転動軸心44aを中心に自転する。ローラ13aは、外輪軌道面21aおよび内輪軌道面31aを転動するか、または外輪軌道面22aおよび内輪軌道面32aを転動する。いずれの軌道面を転動するかは、ローラ13aの配置状態によって異なる。図4は、ローラ13aが外輪軌道面21aおよび内輪軌道面31aを転動する場合の断面図であり、図5は、ローラ13aが外輪軌道面22aおよび内輪軌道面32aを転動する場合の断面図である。複数のローラ13aは、外輪11aと内輪12aとの間において周方向に交互に転動軸心44aが直交するように配置される。ローラ13aの転動軸心方向の長さは、ローラ13aの直径よりもわずかに短く構成されている。ローラ13aの転動軸心方向の長さは、ローラ13aの直径およびクロスローラ軸受10aのPCD(Pitch Circle Diameter)および使用条件に基づいて定められる。
【0026】
なお、ローラ13aの直径をD1とし、外輪11aに対して内輪12aを相対的に径方向にずらした際の外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとの間の径方向の最大の隙間25aの寸法をD2とすると、1<D2/D1<1.2の関係を有する。これについては、後述する。また、クロスローラ軸受10aの軸方向において、ローラ13aの両側における外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとの隙間25aの寸法は、等しい。
【0027】
保持器15aは、複数のローラ13aを保持する。図6は、図1に示すクロスローラ軸受10aに含まれる保持器を示す概略斜視図である。図7は、図6に示す保持器において、ローラ13aを保持させた状態の一部を拡大して示す概略斜視図である。
【0028】
図6および図7を併せて参照して、保持器15aは複数の柱部51aと、環状部52aと、を含む。柱部51aはそれぞれ、軸方向に延びる形状である。柱部51aは、ローラ13aを収容するポケット53aを形成するように、周方向に間隔をあけて配置される。複数の柱部51aは、軸方向の一方端部が環状部52aと連結される。すなわち、複数の柱部51aの軸方向の他方端部は、他部材に連結されず、フリーな状態となっている。
【0029】
柱部51aには、ポケット53aが位置する側に突出する突起部54aが形成されている。突起部54aは、柱部51aの他方端部側に形成されている。また、突起部54aは、ポケット53aの周方向の両側部に配置される柱部51aからそれぞれポケット53a側に突出するように設けられている。突起部54aにより、ポケット53a内に収容されるローラ13aが引っ掛かる。突起部54aは、ローラ13aと係合する形状である。このようにしてローラ13aがポケット53a内に収容され、保持される。
【0030】
柱部51aには、柱部51aの他方端部から軸方向に延びるスリット55aが形成されている。スリット55aは、軸方向において、突起部54aが形成されている位置よりも環状部52aに近い側まで延びている。
【0031】
環状部52aは、円環状であり、外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとの間に配置される。環状部52aの外形寸法および内径寸法は、外輪11aの内周面23aおよび内輪12aの外周面33aとそれぞれ干渉しないサイズである。
【0032】
ここで、一対の外輪軌道面21a,22aおよび一対の内輪軌道面31a,32aはそれぞれ、全周にわたって形成されている。すなわち、一対の外輪軌道面21a,22aおよび一対の内輪軌道面31a,32aはそれぞれ、全周にわたって継ぎ目なく連なっている。外輪軌道面21a,22a、内輪軌道面31a,32aのそれぞれにおいて、段差や蓋により形成された軌道面は存在しない。本開示のクロスローラ軸受10aは、ローラ13aを挿入する穴および穴を閉塞する蓋を含まない構成である。本開示のクロスローラ軸受10aは、外輪11aと内輪12aとの径方向の隙間25aからローラ13aを挿入する。これについては、後述する。
【0033】
そして、ローラ13aの転動軸心44aを含む断面(図4)において、ローラ13aの転動軸心方向における転動面43aの中心45aは、外輪軌道面21aおよび内輪軌道面31aと接触する。また、ローラ13aの転動軸心44aを含む断面(図5)において、ローラ13aの転動軸心方向における転動面43aの中心45aは、外輪軌道面22aおよび内輪軌道面32aと接触する。また、ローラ13aの転動面43aの有効接触長さL1は、ローラ13aの転動軸心方向の長さの40%以上47%以下である。
【0034】
次に、本開示のクロスローラ軸受10a内へのローラ13aの組み込み(挿入)について説明する。図8は、外輪11aに対して内輪12aを相対的に径方向にずらした状態を示す外観図である。図9は、図8中の矢印IX-IXで示す断面で切断した場合の概略断面図である。
【0035】
図8および図9を併せて参照して、まず、外輪11aに対して内輪12aを相対的に径方向にずらして、図8に示す状態とする。このようにすると、隙間25aが大きくなる領域が生じる。この隙間25aが最大になる領域をローラ13aの挿入に利用する。この場合、ローラ13aの直径D1よりも大きくなる。具体的には、上記したように、ローラ13aの直径をD1とし、外輪11aに対して内輪12aを相対的に径方向にずらした際の外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとの間の径方向の最大の隙間25aの寸法をD2とすると、1<D2/D1<1.2の関係を有する。なお、最大の隙間25aに対して180度離れた位置において、外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとが接触することになる。
【0036】
このようにした状態で、隙間25aからローラ13aの転動軸心44aが、軸方向となるように、すなわち、第1端面41a、第2端面42aが軸方向に対して垂直となるようなローラ13aの姿勢として、軸方向にローラ13aを押し進め、隙間25a内に挿入する。挿入後、ローラ13aを45度傾けて外輪軌道面21aおよび内輪軌道面31aにローラ13aの転動面43aを沿わせる。このようにして、図4に示す状態とする。隣のローラ13aについては、逆方向に45度傾けて外輪軌道面22aおよび内輪軌道面32aにローラ13aの転動面43aを沿わせる。このようにして図5に示す状態とする。
【0037】
これを繰り返し、周方向に交互に転動軸心44aが直交するようにして、全てのローラ13aを組み込む。その後、内輪12aを元の位置に戻して、軸方向の一方側から柱部51aの他方端部側を先にして保持器15aを組み込む。この時、スリット55aが設けられた柱部51aの弾性変形を利用しながら、突起部54aを乗り越えて各ローラ13aがポケット53a内に収容されるようにして、保持器15aを軸方向に押し進めて軸受内に配置する。このようにして、クロスローラ軸受10aは組み立てられる。
【0038】
上記クロスローラ軸受10aによると、一対の外輪軌道面21a,22aおよび一対の内輪軌道面31a,32aはそれぞれ、全周にわたって形成されているため、各軌道面において継ぎ目や段差が生じることはない。そうすると、回転トルクが変動することを抑制して、振れ精度の劣化を防止することができる。さらに、予圧の変動も防止できる。また、蓋や分割部品が生じないため、組み立て性の向上を図ることができる。さらに、本開示のクロスローラ軸受10aにおいて、ローラ13aの転動軸心44aを含む断面において、ローラ13aの転動軸心方向における転動面43aの中心45aは、外輪軌道面21aおよび内輪軌道面31aと接触する。また、ローラ13aの転動軸心44aを含む断面において、ローラ13aの転動軸心方向における転動面43aの中心45aは、外輪軌道面22aおよび内輪軌道面32aと接触する。このような構成を採用するクロスローラ軸受10aは、ローラ13aの転動軸心方向における転動面43aの中心45aが外輪軌道面21a,22aおよび内輪軌道面31a,32aと接触しているため、ローラ13aの転動軸心方向において、バランスよくローラ13aにより荷重を受けることができ、ローラ13aの姿勢を安定させることができる。以上より、本開示のクロスローラ軸受10aによると、ローラ13aが円滑に転動可能である。なお、このようなクロスローラ軸受10aは、比較的隙間25aを広くすることができるため、軸方向において軸受内への潤滑油の流動性を良くすることができ、潤滑性や冷却性を向上させることができる。
【0039】
本実施形態においては、ローラ13aの直径をD1とし、外輪11aに対して内輪12aを相対的に径方向にずらした際の外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとの間の径方向の最大の隙間25aの寸法をD2とすると、1<D2/D1<1.2の関係を有する。よって、より確実にローラ13aを組み込むことができると共に、より確実にバランスよくローラ13aにより荷重を受けることができ、ローラ13aの姿勢を安定させることができる。したがって、ローラ13aをより円滑に転動可能とすることができる。
【0040】
本実施形態においては、外輪11aは、鋼製であって、一体で構成されている。内輪12aは、鋼製であって、一体で構成されている。よって、外輪11aおよび内輪12aをそれぞれ鋼製の一体として構成することができ、剛性を確保することができると共に、部品点数を減らすことができる。
【0041】
本実施形態においては、クロスローラ軸受10aの軸方向において、ローラ13aの両側における外輪11aの内周面23aと内輪12aの外周面33aとの隙間25aの寸法は、等しい。よって、軸方向の両側において、潤滑油の流動性を良好にして、円滑な転動や潤滑油による冷却効果の向上を図ることができる。
【0042】
本実施形態において、保持器15aは、ローラ13aを収容するポケット53aを形成するように周方向に間隔をあけて配置され、軸方向に延びる複数の柱部51aと、複数の柱部51aのそれぞれの軸方向の一方端部と連結される環状部52aと、を含む。よって、柱部51aおよび環状部52aによって形成されるポケット53a内に各ローラ13aを収容することができ、軸受内において各ローラ13aを安定して案内することができる。また、軸方向において、環状部52aが設けられていない側からローラ13aを配置することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【0043】
本実施形態においては、柱部51aには、ポケット53aが位置する側に突出し、ポケット53aに収容されるローラ13aに引っ掛かる突起部54aが形成されている。よって、突起部54aによる引っ掛かりにより、保持器15aが軸方向から脱落するおそれを低減することができる。したがって、より安定した動作を確保することができる。
【0044】
本実施形態においては、突起部54aは、柱部51aの他方端部側に形成されている。柱部51aには、柱部51aの他方端部から軸方向に延びるスリット55aが形成されている。よって、突起部54aを乗り越えてローラ13aを保持器15aのポケット53a内に挿入する際に、柱部51aを弾性変形させて組み込みやすくすることができる。したがって、より組み立て性の向上を図ることができる。
【0045】
なお、本実施形態において、ローラ13aの転動面43aの有効接触長さは、ローラ13aの転動軸心方向の長さの30%以上60%以下としてもよい。このようにすることにより、さらに確実に定格荷重を大きくことができる。なお、このローラ13aの転動面43aの有効接触長さについては、例えば、溝部24a,34aの軸方向の幅寸法を変更することにより調整することができる。
【0046】
(他の実施の形態)
なお、上記実施の形態において、保持器に含まれる柱部には、ポケットの周方向の両側に突起部を設けることとしたが、これに限らず、ポケットの周方向のいずれか一方側に突起部を設けることとしてもよい。また、突起部は、全ての柱部に設ける必要はなく、任意の柱部にのみ設ける構成としてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態においては、柱部にスリットを設けることとしたが、これに限らず、スリットを設けない構成としてもよい。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
10a クロスローラ軸受、11a 外輪、12a 内輪、13a ローラ、15a 保持器、21a 外輪軌道面(第1外輪軌道面)、22a 外輪軌道面(第2外輪軌道面)、23a 内周面、24a,34a 溝部、25a 隙間、31a 内輪軌道面(第1内輪軌道面)、32a 内輪軌道面(第2内輪軌道面)、33a 外周面、41a 第1端面、42a 第2端面、43a 転動面、44a 転動軸心、45a 中心、51a 柱部、52a 環状部、53a ポケット、54a 突起部、55a スリット。
図1
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図9