(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155325
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 1/12 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C07F1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069960
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕真
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄太
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB84
4H048AC90
4H048AD15
4H048BB14
4H048BB31
4H048BC31
4H048VA12
4H048VA30
4H048VA55
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】収率が高いトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III) ([Au(H2NCH2CH2NH2)2]Cl3)結晶の製造方法の提供
【解決手段】
塩化金酸および塩酸を特定の含有比率で含む水溶液と、前記水溶液の金のモル数の特定倍のモル数のエチレンジアミンまたは特定倍のモル数のエチレンジアミンを含む水溶液とを、混合することで塩化金酸とエチレンジアミンを反応させる工程と、前記工程で得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液をろ過する工程と直前の工程で得られたろ過後のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液にエタノールを混合しトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を析出させる工程と、直前の工程で得られた析出したトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を含む溶液をろ過する工程と、直前の工程で得られた前記結晶を減圧乾燥してトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を得る工程を含むことを特徴とするトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化金酸および塩酸を含有し金のモル数の3.8~4.5倍のモル数の水素イオンを含む水溶液と、前記水溶液の金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンまたは金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンを含む水溶液とを、混合することで塩化金酸とエチレンジアミンを反応させる工程と、
前記工程で得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液をろ過する工程と
直前の工程で得られたろ過後のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液にエタノールを混合しトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を析出させる工程と、
直前の工程で得られた析出したトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を含む溶液をろ過する工程と、
直前の工程で得られた前記結晶を減圧乾燥してトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を得る工程
を含むことを特徴とするトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)は、例えば、非シアン系金めっき液の原料や金ナノ粒子を作製するための前駆体に利用することができる。
【0003】
特許文献1には、塩化金ナトリウムとエチレンジアミン(無水)を、溶媒を用いて、温度15~60℃で反応させることを特徴とするビス(1,2-エタンジアミン)金クロライドの製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、塩化金ナトリウムを出発原料しているが、用途によってはナトリウムの除去が必要になることがあり、ナトリウムを含まない塩化金酸を出発原料として収率の高いトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、収率が高いトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III) ([Au(H2NCH2CH2NH2)2]Cl3)結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、塩化金酸および塩酸を含有し金のモル数の3.8~4.5倍のモル数の水素イオンを含む水溶液と、前記水溶液の金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンを含む水溶液とを、使用し、金のモル数に対する水素イオンのモル数、および金のモル数に対するエチレンジアミンのモル数を制御することで、トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)を合成する際、副生成物の発生を抑制でき、収率が90%を超えるようなトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
塩化金酸および塩酸を含有し金のモル数の3.8~4.5倍のモル数の水素イオンを含む水溶液と、前記水溶液の金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンまたは金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンを含む水溶液とを、混合することで塩化金酸とエチレンジアミンを反応させる工程と、
前記工程で得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液をろ過する工程と、
直前の工程で得られたろ過後のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液にエタノールを混合しトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を析出させる工程と、
直前の工程で得られた析出したトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を含む溶液をろ過する工程と、
直前の工程で得られた前記結晶を減圧乾燥してトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を得る工程を含むことを特徴とするトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従うと,収率が高いトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、塩化金酸および塩酸を含有し金のモル数の3.8~4.5倍のモル数の水素イオンを含む水溶液と、前記水溶液の金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンまたは金のモル数の2.4~2.8倍のモル数のエチレンジアミンを含む水溶液とを、混合することで塩化金酸とエチレンジアミンを反応させる工程を含む。
【0011】
例えば、水溶液は、塩化金酸四水和物と塩酸と純水を混合する。混合の際、金のモル数の3.8~4.5倍のモル数の水素イオンを含むように塩化金酸四水和物と塩酸と純水の量を調整する。
【0012】
ここで、水素イオン濃度の測定方法は、滴定液に1 mol/LのNaOHを滴定液に用いた電位差滴定法により測定する。
【0013】
上記水溶液の金濃度は0.5~2 mol/Lが望ましい。上記水溶液の金濃度は0.7~1.5 mol/Lがより好ましい。
【0014】
エチレンジアミン水溶液はエチレンジアミンと純水を混合することで調製する。
【0015】
上記エチレンジアミン水溶液のエチレンジアミン濃度は0.5~18 mol/Lが望ましい。
【0016】
次に、上記の金を含む水溶液とエチレンジアミンまたはエチレンジアミン水溶液とを混合する。
【0017】
たとえば、エチレンジアミン水溶液を上記の金を含む水溶液に投入することができる。その際、エチレンジアミン水溶液の投入速度は1~10 mL/minが望ましい。
【0018】
また、上記の金を含む水溶液に投入するエチレンジアミン水溶液の量は、エチレンジアミンのモル数が金のモル数の2.4~2.8倍となるようにする。好ましくは2.5~2.7倍とする。
【0019】
上記の混合により、トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)を含む水溶液が得られる。
【0020】
上記の混合液の水素イオンのモル数がエチレンジアミンのモル数の1.7倍以上となると、トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液中に金含有沈殿物(固形物)が副生成物として生成される量が増加してしまい、収率が低下してしまう。その副生成物は、例えばクロロ(ジクロロ(エチレンジアミン))金(III) ([Au(H2NCH2CH2NH2)Cl2]Cl)と推定している。
【0021】
上記の金を含む水溶液の水素イオンのモル数がエチレンジアミンのモル数の1.3倍以下となると、後続の結晶化工程にてトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶のほかに0価の金が混在してしまう。
【0022】
本発明は、前記工程で得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液をろ過する工程を含む。
【0023】
前記混合工程にて得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液中には、
少量の副生成物が生成されている。この副生成物を取り除くため、上記の水溶液をろ過する。
【0024】
本発明は、ろ過後のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液にエタノールを混合しトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を析出させる工程と、析出したトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を含む溶液をろ過する工程とを含む。
【0025】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液中には、余剰の塩化物イオンやエチレンジアミンが存在している。トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)を結晶化することでトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)のみを単離することが出来る。
【0026】
例えば、結晶化工程において、トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液の5倍容量のエタノールを投入することが出来る。
【0027】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液とエタノールを混合すると、トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の溶解度の低下により白色のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶が生成される。
【0028】
結晶化工程後のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶とエタノール水溶液の混合状態からトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を分離し、回収するためにろ過を行う。
【0029】
本発明は、ろ過したトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を減圧乾燥してトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を得る工程を含む。
【0030】
減圧乾燥としては例としてエバポレーターを使用し、例えば圧力は20 hPaとし、2時間保持する。
【0031】
この製法によれば収率が90%以上(後記の実施例では92~95%)のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶が得られる。
【0032】
収率の算出方法は下記の通りである。
収率 = (結晶重量 × 金含有率) / 投入した塩化金酸中の金の重量
金含有率はトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)中の金の比率である。
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0034】
[実施例1]
金濃度が197 g/L(1 mol/L)、金のモル数の3.9倍のモル数の水素イオンを含む水溶液となるように塩化金酸四水和物、36%塩酸、水を混合し、塩化金酸および塩酸を含有する溶液Iを36 mL調製した。
【0035】
7.9 mol/Lのエチレンジアミン水溶液を、混合後のエチレンジアミンのモル数が金のモル数の2.5倍となるように、溶液Iに投入速度2 mL/minで投入して混合し、トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液を得た。
【0036】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液中に含まれた微少量の副生成物をろ過した。
【0037】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液の5倍容量のエタノールをトリクロロ
ビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液に投入した。投入すると白色のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶が生成された。
【0038】
得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を0.1 μm PTFEメンブレンフィルターを用いてろ過した。
【0039】
ろ過して得られた結晶をエバポレーターにて減圧乾燥(圧力20 hPa)してトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を得た。
【0040】
得られた結晶はXRDスペクトルからトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)であると同定した。
結晶の金含有率は46%であったことから、収率は95%であった。
【0041】
[実施例2~4、比較例1~3]
金濃度は実施例1と同じ(197 g/L(1 mol/L))に設定し、金のモル数に対する水素イオンのモル数を表1のように変更した値となるように、塩化金酸四水和物、36%塩酸、水を混合し、塩化金酸および塩酸を含有する溶液Iを調製した。
【0042】
7.9 mol/Lのエチレンジアミン水溶液を、金のモル数に対するエチレンジアミンのモル数が表1の値となるように溶液Iに投入速度2 mL/minで投入してトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液を得た。
【0043】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液中に含まれた副生成物を0.1 μm PTFEメンブレンフィルターを用いてろ過した。
【0044】
トリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)の水溶液の5倍容量のエタノールをトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III) の水溶液に投入した。投入すると白色のトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶が生成された。
【0045】
得られたトリクロロビス(エチレンジアミン)金(III)結晶を0.1 μm PTFEメンブレンフィルターを用いてろ過した。
【0046】
実施例2~4、比較例1~3の収率は表1のようである。
【0047】
【0048】
実施例1~4で得られた結晶の収率は、92%以上であった。
【0049】
比較例1~3で得られた結晶の収率は、74%以下であった。