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特開2024-155332ボールジョイントおよびボールジョイントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155332
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ボールジョイントおよびボールジョイントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20241024BHJP
   B60G 7/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F16C11/06 B
B60G7/02
F16C11/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069977
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】柏木 信哉
【テーマコード(参考)】
3D301
3J105
【Fターム(参考)】
3D301AA78
3D301DA74
3D301DB09
3D301DB18
3J105AA23
3J105AA34
3J105AB03
3J105AB50
3J105AC03
3J105AC04
3J105CB02
3J105CB81
3J105CC33
3J105CC72
3J105CD11
3J105CE02
3J105CF12
(57)【要約】
【課題】スタッド部の剛性を向上させることができるボールジョイントおよびボールジョイントの製造方法を提供する。
【解決手段】ボールジョイント100は、スタッド部110とハウジング120とを備えている。スタッド部110は、連結対象物10に連結される連結部111、連結対象物10が宛がわれる鍔状受け部115および球面を有したボール部114を備えている。連結部111には、取付けナット12が締め付けられる雄ネジ部112が形成されている。鍔状受け部115は、連結部111に対して径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。連結部111と鍔状受け部115との間の境界部分117には表層を硬化させた表面硬化層118が形成されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結対象物に連結される連結部を有して棒状に形成されたスタッド部と球面を有して形成されたボール部との間にフランジ状に張り出して前記連結対象物が宛がわれる鍔状受け部が形成されたスタッド部と、
前記スタッド部における前記ボール部を摺動自在に収容するハウジングとを備えたボールジョイントにおいて、
前記連結部と前記鍔状受け部との境界部分に表面硬化層が形成されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載したボールジョイントにおいて、
前記表面硬化層は、
ショットピーニング痕で形成されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項1に記載したボールジョイントにおいて、
前記境界部分は、前記スタッド部の内部側に凹状に窪んで形成されており、
前記表面硬化層は、前記凹状に窪んだ前記境界部分の表面に形成されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項4】
請求項1に記載したボールジョイントにおいて、さらに、
前記鍔状受け部の外周部に表面硬化層が形成されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項5】
連結対象物に連結される連結部を有して棒状に形成されたスタッド部と球面を有して形成されたボール部との間にフランジ状に張り出して前記連結対象物が宛がわれる鍔状受け部が形成されたスタッド部と、
前記スタッド部における前記ボール部を摺動自在に収容するハウジングとを備えたボールジョイントの製造方法において、
前記連結部と前記鍔状受け部との境界部分に表面硬化層を形成する表面硬化層形成工程を含むことを特徴するボールジョイントの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載したボールジョイントの製造方法において、
前記表面硬化層形成工程は、
ショットピーニング加工であることを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載したボールジョイントの製造方法において、
前記連結部に雄ネジを形成するネジ部成形工程を含み、
前記表面硬化層形成工程は、
前記ネジ部成形工程の前に行われることを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載したボールジョイントの製造方法において、さらに、
前記表面硬化層形成工程は、
前記鍔状受け部の外周部にも前記表面硬化層を形成することを特徴するボールジョイントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるサスペンション機構またはステアリング機構に用いられるボールジョイントおよびボールジョイントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車などの車両におけるサスペンション機構(懸架装置)やステアリング機構(操舵装置)には、軸状の各構成要素を互いに可動的に連結するためにボールジョイントが用いられている。例えば、下記特許文献1には、棒状のスタッド部の一方の端部に形成されたボール部が有底円筒状のハウジング内に摺動自在な状態で保持されたボールジョイントが開示されている。この場合、スタッド部には、サスペンションまたはスタビライザなどの連結対象物が連結される雄ネジが形成されるとともにこの雄ネジとボール部との間にフランジ状に張り出して連結対象物が宛がわれる鍔部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-98011号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたボールジョイントにおいては、雄ネジが形成された連結部に連結対象物が連結された場合に連結部と鍔部との間の境界部分に応力が集中し易く剛性確保が困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、スタッド部の剛性を向上させることができるボールジョイントおよびボールジョイントの製造方法を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、連結対象物に連結される連結部を有して棒状に形成されたスタッド部と球面を有して形成されたボール部との間にフランジ状に張り出して連結対象物が宛がわれる鍔状受け部が形成されたスタッド部と、スタッド部におけるボール部を摺動自在に収容するハウジングとを備えたボールジョイントにおいて、連結部と鍔状受け部との境界部分に表面硬化層が形成されていることにある。
【0007】
これによれば、ボールジョイントは、連結部と鍔状受け部との境界部分に表面硬化層が形成されているためこの境界部分の剛性(耐摩耗性または疲労強度)を向上させることができる。また、ボールジョイントは、連結部と鍔状受け部との境界部分の剛性を向上させることができることでスタッド部全体の外径を小さくしてスタッド部の小型を図ることができるとともに、境界部分に凹状の逃げ部を形成し易くなって連結対象物との密着性を向上させることができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、表面硬化層は、ショットピーニング痕で形成されていることにある。
【0009】
これによれば、ボールジョイントは、表面硬化層がショットピーニング痕で形成されているため、容易に表面硬化層を形成することができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、境界部分は、スタッド部の内部側に凹状に窪んで形成されており、表面硬化層は、凹状に窪んだ境界部分の表面に形成されていることにある。
【0011】
これによれば、ボールジョイントは、凹状に窪んだ境界部分に表面硬化層が形成されているため、連結対象物との密着性を向上させつつスタッド部の剛性を確保することができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、さらに、鍔状受け部の外周部に表面硬化層が形成されていることにある。
【0013】
これによれば、ボールジョイントは、鍔状受け部の外周部に表面硬化層が形成されているため、鍔状受け部の外縁部を連結対象物に食い込ませて連結した際に外周部の変形を抑えて連結力を高めることができる。また、この場合、ボールジョイントは、表面硬化層をショットピーニング痕で形成することで鍔状受け部と連結対象物との連結力を向上させることができる。
【0014】
また、本発明はボールジョイントの発明として実施できるばかりでなく、ボールジョイントの製造方法の発明としても実施できるものである。
【0015】
具体的には、ボールジョイントの製造方法は、連結対象物に連結される連結部を有して棒状に形成されたスタッド部と球面を有して形成されたボール部との間にフランジ状に張り出して連結対象物が宛がわれる鍔状受け部が形成されたスタッド部と、スタッド部におけるボール部を摺動自在に収容するハウジングとを備えたボールジョイントの製造方法において、連結部と鍔状受け部との境界部分に表面硬化層を形成する表面硬化層形成工程を含むようにすればよい。これによれば、ボールジョイントの製造方法は、上記ボールジョイントと同様の作用効果を期待することができる。
【0016】
この場合、前記ボールジョイントの製造方法において、表面硬化層形成工程は、ショットピーニング加工であるとよい。これによれば、ボールジョイントの製造方法は、上記ボールジョイントと同様の作用効果を期待することができる。
【0017】
また、これらの場合、前記ボールジョイントの製造方法において、連結部に雄ネジを形成するネジ部成形工程を含み、表面硬化層形成工程は、ネジ部成形工程の前に行われることにある。これによれば、ボールジョイントの製造方法は、表面硬化層形成工程におけるショットピーニング加工で形成された表面の凹凸を平滑化した雄ネジを形成することができる。
【0018】
また、これらの場合、前記ボールジョイントの製造方法において、さらに、表面硬化層形成工程は、鍔状受け部の外周部にも表面硬化層を形成するとよい。これによれば、ボールジョイントの製造方法は、上記ボールジョイントと同様の作用効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイントの縦断面を概略的に示す一部破断断面図である。
図2図1に示す破線円2内における表面硬化層の形成状態の詳細を示す部分拡大断面図である。
図3図1に示すボールジョイントを構成するスタッド部の製造過程の各工程を示すフローチャートである。
図4】本発明の変形例に係る表面硬化層の形成状態の詳細を示す部分拡大断面図である。
図5】本発明の他の変形例に係る表面硬化層の形成状態の詳細を示す部分拡大断面図である。
図6】本発明の他の変形例に係る表面硬化層の形成状態の詳細を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るボールジョイントの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るボールジョイント100の縦断面を概略的に示す一部破断断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0021】
(ボールジョイント100の構成)
このボールジョイント100は、自動車などの車両に採用されるサスペンション機構(懸架装置)またはステアリング機構(操舵装置)において、各構成要素間の角度変化を許容しつつ各構成要素を互いに連結するジョイント部材である。本実施形態においては、サスペンション機構またはステアリング機構を構成してボールジョイント100に直接連結される部材を連結対象物10とする。この連結対象物10は、板状に形成されているとともにボールジョイント100を取り付けるための貫通孔11が形成されている。ボールジョイント100は、主として、スタッド部110、ハウジング120、ボールシート123およびダストカバー124によって構成されている。
【0022】
スタッド部110は、ハウジング120に対して連結対象物10を可動的に連結するための部品であり、金属材を丸棒状に形成して構成されている。このスタッド部110は、一方(図示上側)に連結部111が形成されるとともに、他方(図示下方)の端部にボール部114が形成されている。
【0023】
連結部111は、連結対象物10の貫通孔11に貫通する部分であり、主として、雄ネジ部112と非ネジ部113とで構成されている。雄ネジ部112は、連結対象物10の貫通孔11に貫通した状態で取付けナット12がネジ嵌合する部分であり、同取付けナット12がネジ嵌合する雄ネジで構成されている。この連結部111は、スタッド部110における前記一方の端部から前記他方の端部側に向かって形成されている。
【0024】
非ネジ部113は、連結対象物10の貫通孔11内に配置される部分であり、貫通孔11よりも小径で雄ネジが形成されていない丸棒状に形成されている。本実施形態においては、非ネジ部113は、貫通孔11の内周面に対して隙間が生じる程度の外径に形成されているとともに、貫通孔11の長さ(深さ)よりも短い長さに形成されている。
【0025】
ボール部114は、ボールシート123内で摺動する部分であり、ボールシート123の内周面に対して円滑に摺動するように滑らかな凸状の球面状に形成されている。このボール部114の表面には、ボールシート123との円滑な摺動を確保するため研削加工によって滑らかな球面に形成されている。これらの連結部111とボール部114との間には鍔状受け部115が形成されている。
【0026】
鍔状受け部115は、連結対象物10が宛がわれる部分であり、スタッド部110の径方向外側にフランジ状に張り出す円板状に形成されている。この鍔状受け部115は、図2に示すように、主として、連結部側面115a、ボール部側面115bおよび外周部115cをそれぞれ有して構成されている。
【0027】
連結部側面115aは、連結部111側に形成されて連結対象物10を受ける部分であり、平面視で平板環状に形成されている。ボール部側面115bは、ボール部114側に形成される面(前記連結部側面の反対側の面)であり、底面視で平板環状に形成されている。外周部115cは、鍔状受け部115の最外周部の端面であり、鍔状受け部115の周方向に環状に延びて形成されている。この外周部115cには、表面硬化層116が形成されている。
【0028】
表面硬化層116は、外周部115cの剛性を高めるための部分であり表面硬化層116のより内部部分の硬度より高い硬度に形成されている。本実施形態においては、表面硬化層116は、ショットピーニング痕(無数の窪みの集合)によって構成されている。なお、表面硬化層116における硬化層の深さおよび硬度は、ボールジョイント100の仕様によって適宜決定される。また、鍔状受け部115とスタッド部110との間の境界部分117にも表面硬化層118が形成されている。
【0029】
境界部分117は、鍔状受け部115とスタッド部110との境部分であり、スタッド部110の周方向に円環状の部分である。本実施形態においては、境界部分117は、鍔状受け部115とスタッド部110とが略直角に交わる部分およびその周辺部分である。
【0030】
表面硬化層118は、表面硬化層116と同様に、境界部分117の剛性を高めるための部分であり表面硬化層118の内部部分の硬度より高い硬度に形成されている。本実施形態においては、表面硬化層118は、表面硬化層116と同じショットピーニング痕(無数の窪みの集合)によって構成されている。なお、表面硬化層118における硬化層の深さおよび硬度は、ボールジョイント100の仕様によって適宜決定される。
【0031】
この鍔状受け部115とボール部114との間には、丸棒状に延びるボール支持部119が形成されている。この場合、ボール支持部119には、外径が細く絞られた括れ部119aが形成されており、この括れ部119aを介してボール部114が繋がっている。
【0032】
ハウジング120は、ボール部114を保持する部分であり、鉄鋼材またはアルミニウム材などの非鉄金属を鋳造加工、または鍛造加工することにより略円筒状に形成されている。この場合、ハウジング120は、図示しないステアリング機構やサスペンション機構における各構成要素に連結するために棒状の延びるアーム部の先端部に形成されている。
【0033】
このハウジング120は、円筒体の一方の端部(図示上端部)が図示上方に向かって開口する開口部121が形成されているとともに、他方の端部(図示下端部)がプラグ122によって閉塞されている。プラグ122は、円筒状に形成されたハウジング120の前記他方の端部を塞ぐ板状部材であり、鋼材を中央部が凹んだ略円板状に形成されている。ハウジング120における内部には、ベアリングシートとしてのボールシート123が収容されている。
【0034】
ボールシート123は、ハウジング120内においてスタッド部110に形成されたボール部114を回動摺動自在な状態で保持する部品であり、合成樹脂材(例えば、PEEK樹脂)を縦断面形状が略U字状のカップ型の形状に形成して構成されている。このボールシート123の上側開口部および下側開口部には、ボールシート123の内周面とボール部114の外周面との潤滑性を確保するための図示しないグリースが塗布されている。一方、ハウジング120の外周部には、ハウジング120の径方向外側に張り出した状態でカバー受け部120aが形成されており、このカバー受け部120a上にダストカバー124が保持されている。
【0035】
ダストカバー124は、ハウジング120内への異物の進入を防止するための部品であり、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材を中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー124は、一方(図示上側)の開口部がスタッド部110の鍔状受け部115におけるボール部114側の根元部分が弾性的に嵌っているととともに、他方の開口部がカバー受け部120a上におけるハウジング120の外周部に金属製のサークリップ125を介して嵌っている。
【0036】
(ボールジョイント100の製造)
次に、このように構成されたボールジョイント100の製造について説明する。なお、このボールジョイント100の製造工程の説明においては、図3を参照しながら本発明に直接関わるスタッド部110の製造過程を中心に説明して本発明に直接関わらない製造工程については適宜省略する。
【0037】
まず、作業者は、スタッド部110を製造する。このスタッド部110は、主として、全体成形工程(S1)、熱処理工程(S2)、表面硬化層形成工程(S3)、ネジ部成形工程(S4)およびボール部成形工程(S5)を経て製造される。具体的には、作業者は、全体成形工程において、炭素鋼または合金鋼で構成される丸棒材を図示しない鍛造機によって鍛造加工することにより、連結部111、非ネジ部113、鍔状受け部115、ボール支持部119およびボール部114をそれぞれ一体的に成形する。
【0038】
この鍛造加工においては、丸棒材を段階的に塑性変形させることによりスタッド部110を少しずつ成形する。この場合、スタッド部110におけるボール部114およびボール支持部119は、所定の削り代を残した所謂粗成形で加工される。なお、この全体成形工程は、鍛造加工に代えてまたは加えて切削加工で行ってもよいことは当然である。
【0039】
次に、作業者は、熱処理工程を行う。具体的には、作業者は、全体成形工程で成形したスタッド部110の半製品を焼入れ加工および焼き戻し加工からなる熱処理を施すことでスタッド部110全体の硬度を向上させる。
【0040】
次に、作業者は、表面硬化層形成工程を行う。具体的には、作業者は、熱処理を行ったスタッド部110の半製品における鍔状受け部115に対して外周部115cおよび境界部分117を露出させた状態でその余の部分(連結部側面115aおよびボール部側面115b)についてマスキングテープ(図示せず)でマスキングを行った後、スタッド部110の全体に対してショットピーニング加工(「ショットブラスト」ともいう)を行う。
【0041】
これにより、作業者は、スタッド部110におけるマスキングを行った部分以外の部分である連結部111、ボール部114、外周部115c、境界部分117およびボール支持部119の各表層を加工硬化させることができる。なお、ショットピーニング加工におけるメディア径などの加工仕様は、ボールジョイント100の仕様に応じて適宜決定されるものである。
【0042】
次に、作業者は、ネジ部成形工程を行う。具体的には、作業者は、スタッド部110の半製品を図示しないネジ転造機によって転造加工することで連結部111に雄ネジを形成する。これにより、作業者は、スタッド部110の半製品における連結部111の一部に雄ネジ部112を形成することができる。この場合、雄ネジ部112は、雄ネジが形成される前に形成されていたショットピーニング加工による粗面が転造加工によって平滑化される。
【0043】
次に、作業者は、ボール部成形工程を行う。具体的には、作業者は、スタッド部110の半製品を図示しないNC(数値制御)旋盤などの工作機械を用いてボール支持部119を含むボール部114の外周面を切削加工する。また、作業者は、図示しない研削加工機を用いてボール部114の研削加工を行ってボール部114を仕上げる。これらの各工程によって作業者は、スタッド部110を製造することができる。
【0044】
次に、作業者は、ハウジング120を成形する。具体的には、作業者は、スタッド部110のほかに、プラグ122およびボールシート123をそれぞれ用意する。この場合、プラグ122は、プレス加工により予め円板状に形成されている。また、ボールシート123は、射出成形加工により予め円筒状に形成されている。
【0045】
作業者は、スタッド部110、プラグ122およびボールシート123の各部品をハウジング120を成型するための図示しない鋳型内にセットする。この場合、作業者は、スタッド部110のボール部114がボールシート123内にて回転摺動可能に保持された状態で鋳型内にセットする。
【0046】
次に、作業者は、スタッド部110、プラグ122およびボールシート123がそれぞれセットされた鋳型内にアルミニウム合金を鋳込む(アルミダイキャスト)。これにより、スタッド部110、プラグ122およびボールシート123を一体的に備えたハウジング120が成形される。なお、本実施形態においては、ハウジング120は、ハウジング120の外周部に棒状に延びる図示しないアーム部が一体的に形成された状態で成形される。また、ハウジング120は、スタッド部110、プラグ122およびボールシート123とともに鋳込まずに単体で成形した後に、スタッド部110、プラグ122およびボールシート123をそれぞれ組み付けることもできる。
【0047】
次に、作業者は、スタッド部110、プラグ122およびボールシート123を備えたハウジング120にダストカバー124を装着する。具体的には、作業者は、ダストカバー124およびサークリップ125をそれぞれ用意した後、ダストカバー124における一方(図示上側)の開口部をスタッド部110におけるボール支持部119の外周部に嵌め込むとともに、同ダストカバー124における他方(図示下側)のハウジング120のカバー受け部120a上に嵌め込む。
【0048】
そして、作業者は、ダストカバー124の外周面上にサークリップ125を嵌め込む。このダストカバー124のハウジング120への取り付けによってボールジョイント100が完成する。なお、作業者は、ハウジング120を鋳込む際およびダストカバー124を取り付ける際にスタッド部110におけるボール部114とプラグ122との間、ボールシート123の内周面およびハウジング120開口部から露出するボール部114の外周面上に図示しないグリースを塗布しておくことによりボール部114を円滑に回転摺動させることができる。
【0049】
(ボールジョイント100の組み付け)
このように構成されたボールジョイント100の連結対象物10への組み付けについて説明する。なお、このボールジョイント100の組み付け工程の説明においては、本発明に直接関わらない製造工程については適宜省略する。
【0050】
作業者は、連結対象物10の貫通孔11にスタッド部110の連結部111を通した後、取付けナット12を雄ネジ部112に締め付けることによってボールジョイント100におけるスタッド部110を連結対象物10に取り付けることができる。この場合、スタッド部110における境界部分117には、連結部111が貫通孔11を貫通した際に貫通孔11の縁部分が衝突したり、取付けナット12の締め付けによって引張力が作用したりするが、境界部分117に形成された表面硬化層118によって境界部分117が損傷することが抑制される。
【0051】
また、鍔状受け部115は、連結対象物10が強く押し付けられることで連結対象物10の表面に鍔状受け部115(連結部側面115a)の外縁部が強く押し付けられて同外縁部にせん断力が作用するとともに、この外縁部が連結対象物10の内部にめり込んで連結対象物10の表層の一部が円環状に盛り上がったように塑性変形した変形部13が外周部115cに密着する。しかし、鍔状受け部115の外周部115cは、表面硬化層116が形成されているため連結対象物10が強く密着する部分が塑性変形するなどの損傷を抑制することができる。また、鍔状受け部115は、表面硬化層116による凹凸面によって連結対象物10との間で摩擦抵抗を向上させて密着性を向上させることができる。
【0052】
また、作業者は、ハウジング120から延びるアーム部(図示せず)をハウジング120は、図示しないステアリング機構またはサスペンション機構における他の構成要素に連結する。これにより作業者は、ステアリング機構またはサスペンション機構に対してボールジョイント100を取り付けることができる。
【0053】
(ボールジョイント100の作動)
このように構成されたボールジョイント100の作動について説明する。ボールジョイント100は、図示しない車両におけるサスペンション機構やステアリング機構におけるジョイント部材として用いられる。そして、車両の走行時においては、車輪の挙動や車両の姿勢に応じた負荷、具体的には、曲げ、引張り、圧縮、せん断などの各種応力および振動がボールジョイント100に作用する。
【0054】
この場合、ボールジョイント100における外周部115cおよび境界部分117にも上記負荷に起因して振動が作用する。しかし、外周部115cおよび境界部分117には、表面硬化層116,118がそれぞれ形成されていることで損傷を受けることが抑制される。
【0055】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ボールジョイント100は、外周部115cおよび境界部分117に表面硬化層116,118がそれぞれ形成されているためこれらの部分の剛性を向上させることができる。また、ボールジョイント100は、外周部115cおよび境界部分117の剛性を向上させることができることでスタッド部110全体の外径を小さくしてスタッド部110の小型を図ることができる。
【0056】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記各実施形態と同様の構成部分には対応する符号を付して、その説明は省略する。
【0057】
例えば、上記実施形態においては、ボールジョイント100は、外周部115cおよび境界部分117にそれぞれ表面硬化層116,118を形成した。しかし、ボールジョイント100は、少なくとも境界部分117に表面硬化層118を形成して構成されていればよい。なお、ボールジョイント100は、境界部分117への表面硬化層118の形成の必要性がなく鍔状受け部115の外周部115cに表面硬化層116を形成する必要性がある場合には、境界部分117への表面硬化層118の形成を省略して鍔状受け部115の外周部115cに表面硬化層116を形成することもできる。
【0058】
また、上記実施形態においては、表面硬化層形成工程にてスタッド部110の一部(鍔状受け部115における連結部側面115aおよびボール部側面115b)にマスキングを行ってショットピーニング加工を行った。しかし、表面硬化層形成工程おいては、少なくとも外周部115cおよび境界部分117にショットピーニング加工を行えばよい。
【0059】
したがって、表面硬化層形成工程においては、スタッド部110全体にショットピーニング加工を行うことでスタッド部110全体の表層に表面硬化層116,118を形成してもよい。この場合、表面硬化層形成工程においては、鍔状受け部115以外の部分にマスキングを行ってショットピーニング加工を行うことで鍔状受け部115の表層にのみ表面硬化層116,118を形成してもよい。また、表面硬化層形成工程おいては、メディアを噴射するノズルを用いて外周部115cおよび境界部分117などに部分的にショットピーニング加工を行うようすることもできる。
【0060】
また、上記実施形態においては、境界部分117は、非ネジ部113と鍔状受け部115とが略直角に繋がるように構成した。しかし、境界部分117は、図4に示すように、非ネジ部113と鍔状受け部115とが曲面で繋がるように構成することもできる。また、境界部分117は、図5に示すように、非ネジ部113と鍔状受け部115との各延長線の交差部分がスタッド部110の内部側に凹状に窪んで形成することもできる。これによれば、ボールジョイント100は、凹状に窪んだ境界部分117に表面硬化層118が形成されているため、連結対象物10との密着性を向上させつつスタッド部110の剛性を確保することができる。
【0061】
なお、この場合、表面硬化層118は、凹状に窪んだ境界部分117の内側表面にのみ形成されていれてもよいし、境界部分117の外側の周辺部分(非ネジ部113および連結部側面115a)まで形成されていれてもよい。特に、連結部111における非ネジ部113に連結対象物10の貫通孔11の内周面が接触して嵌合する場合においては、図6に示すように、非ネジ部113の表層に表面硬化層118を延長して形成しておくことで非ネジ部113の耐久性を向上させることができる。
【0062】
また、上記実施形態においては、スタッド部110は、連結部111、ボール部114、鍔状受け部115およびボール支持部119が同一材料で一体的に成形されて構成されている。しかし、スタッド部110は、連結部111、ボール部114、鍔状受け部115およびボール支持部119が同一材料で一体的に成形されて構成されている。しかし、スタッド部110は、ボール部114を別体で成形した後に、ボール支持部119に溶接加工などを用いて接合して構成することもできる。
【0063】
また、上記実施形態においては、表面硬化層形成工程は、ショットピーニング加工によって外周部115cおよび境界部分117に表面硬化層116,118を形成した。しかし、表面硬化層形成工程は、外周部115cおよび境界部分117に表面硬化層116,118に表面硬化層116,118を形成できればよく、必ずしもショットピーニング加工を採用する必要はない。したがって、表面硬化層形成工程は、ショットピーニング加工に代えて他の表面硬化処理(例えば、高周波焼入れ処理または火炎焼入れ処理などの各種熱処理、窒化処理または浸炭処理)によって外周部115cおよび境界部分117に表面硬化層116,118を形成することもできる。
【0064】
また、上記実施形態においては、表面硬化層形成工程は、ネジ部成形工程の前に実行した。しかし、表面硬化層形成工程は、ネジ部成形工程の後に行うこともできる。この場合、ネジ部成形工程は、熱処理工程の前に行うとよいが、熱処理工程の後に行うこともできる。また、ネジ部成形工程は、転造以外の機械加工、例えば、切削加工で形成することもできる。
【符号の説明】
【0065】
10…連結対象物、11…貫通孔、12…取付けナット、
100…ボールジョイント、
110…スタッド部、111…連結部、112…雄ネジ部、113…非ネジ部、114…ボール部、115…鍔状受け部、115a…連結部側面、115b…ボール部側面、115c…外周部、116…表面硬化層、117…境界部分、118…表面硬化層、119…ボール支持部、119a…括れ部、
120…ハウジング、120a…カバー受け部、121…開口部、122…プラグ、123…ボールシート、124…ダストカバー、125…サークリップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6