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特開2024-155335探査方法、探査装置及び探査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155335
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】探査方法、探査装置及び探査システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/12 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
G01V3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069981
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】394019370
【氏名又は名称】株式会社ウオールナット
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 正晴
(72)【発明者】
【氏名】新 弘治
(72)【発明者】
【氏名】比留間 純一
(72)【発明者】
【氏名】三門 ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】武居 直行
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼根沢 皓誠
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB11
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE01
2G105LL03
2G105LL04
(57)【要約】
【課題】被検出部の識別精度を向上した探査方法、探査装置及びこれを備えた探査システムを提供する。
【解決手段】探査方法では、偏波面が互いに交差する二つの偏波P1,P2を所定方向に異なる位置から探査対象2に対し出力しつつ所定方向に走査を行い、それらの反射波の受信強度を比較することで探査対象2内部の被検出部を識別する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波面が互いに交差する二つの偏波を所定方向に異なる位置から探査対象に対し出力しつつ前記所定方向に走査を行い、それらの反射波の受信強度を比較することで探査対象内部の被検出部を識別する
ことを特徴とする探査方法。
【請求項2】
請求項1記載の探査方法に用いる探査装置であって、
偏波を探査対象に送信する送信アンテナと、この送信アンテナから送信された偏波の反射波を受信する受信アンテナと、をそれぞれ有し、前記偏波の偏波面が互いに交差する方向となるように所定方向に並んで配置された一及び他のアンテナ対を備える
ことを特徴とする探査装置。
【請求項3】
一及び他のアンテナ対を移動させるための移動ユニットを備える
ことを特徴とする請求項2記載の探査装置。
【請求項4】
移動ユニットは、SLAMにより自律移動可能である
ことを特徴とする請求項3記載の探査装置。
【請求項5】
請求項2ないし4いずれか一記載の探査装置と、
この探査装置の各受信アンテナにより所定方向の所定距離毎に受信された反射波の強度に関する情報を並べたチャートをそれぞれ表示手段に表示させるソフトウェアと、
を備えることを特徴とする探査システム。
【請求項6】
ソフトウェアは、一のアンテナ対と他のアンテナ対との配置の所定方向のずれに起因する各チャートのずれを補正して前記各チャートを表示手段に並べて表示させる
ことを特徴とする請求項5記載の探査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探査対象内部を非破壊に探査する探査方法、探査装置及びこれを備えた探査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
道路及び歩道下に存在している空洞を起因として、路面陥没事故が発生している。その発生頻度は近年のゲリラ豪雨等の異常気象が影響して増加している。
【0003】
道路及び歩道下に存在している空洞を効率的に探査する手法として、地中レーダ法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-100882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地中レーダ法による空洞探査では、地中に存在している埋設管を空洞と誤認識するケースがある。また、埋設管を空洞と誤認識することで、空洞確認のための削孔調査の際に埋設管破損事故を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、被検出部の識別精度を向上した探査方法、探査装置及びこれを備えた探査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の探査方法は、偏波面が互いに交差する二つの偏波を所定方向に異なる位置から探査対象に対し出力しつつ前記所定方向に走査を行い、それらの反射波の受信強度を比較することで探査対象内部の被検出部を識別するものである。
【0008】
請求項2記載の探査装置は、請求項1記載の探査方法に用いる探査装置であって、偏波を探査対象に送信する送信アンテナと、この送信アンテナから送信された偏波の反射波を受信する受信アンテナと、をそれぞれ有し、前記偏波の偏波面が互いに交差する方向となるように所定方向に並んで配置された一及び他のアンテナ対を備えるものである。
【0009】
請求項3記載の探査装置は、請求項2記載の探査装置において、一及び他のアンテナ対を移動させるための移動ユニットを備えるものである。
【0010】
請求項4記載の探査装置は、請求項3記載の探査装置において、移動ユニットは、SLAMにより自律移動可能であるものである。
【0011】
請求項5記載の探査システムは、請求項2ないし4いずれか一記載の探査装置と、この探査装置の各受信アンテナにより所定方向の所定距離毎に受信された反射波の強度に関する情報を並べたチャートをそれぞれ表示手段に表示させるソフトウェアと、を備えるものである。
【0012】
請求項6記載の探査システムは、請求項5記載の探査システムにおいて、ソフトウェアは、一のアンテナ対と他のアンテナ対との配置の所定方向のずれに起因する各チャートのずれを補正して前記各チャートを表示手段に並べて表示させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被検出部の識別精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態の探査装置を模式的に示し、(a)はその側面図、(b)はその平面図である。
図2】同上探査装置を備える探査システムを示す説明図である。
図3】同上探査装置のアンテナ対による偏波の送受信状態を模式的に示す斜視図である。
図4】同上探査装置を用いる探査方法におけるチャートの生成方法を示す説明図である。
図5】電磁波の反射を模式的に示す説明図であり、(a)は反射面が平面である場合を示し、(b)は反射面が曲面である場合を示す。
図6】被検出部が管状埋設物である場合の反射波の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は偏波面が管状埋設物の軸方向に沿う場合を示し、(b)は偏波面が管状埋設物の軸方向に対し交差する場合を示す。
図7】電磁波の電界の振動方向と電子移動との関係を示す説明図であり、(a)は振動方向が管状埋設物の軸方向に沿う場合を示し、(b)は振動方向が管状埋設物の軸方向に対し交差する場合を示す。
図8】被検出部が管状埋設物である場合の反射波のチャートの例を示し、(a)は偏波面が管状埋設物の軸方向に沿う場合を示し、(b)は偏波面が管状埋設物の軸方向に対し交差する場合を示す。
図9】(a)は被検出部としての空洞の一例を示す斜視図、(b)は空洞の他の例を示す斜視図である。
図10】被検出部が空洞である場合の反射波のチャートの例を示し、(a1)は偏波面が図9(a)に示す形状の空洞の長手方向に沿う場合を示し、(a2)は偏波面が図9(a)に示す形状の空洞の短手方向に沿う場合を示し、(b1)は偏波面が図9(b)に示す形状の空洞の長手方向に沿う場合を示し、(b2)は偏波面が図9(b)に示す形状の空洞の短手方向に沿う場合を示す。
図11】同上探査システムにおけるチャートの表示例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1(a)、図1(b)及び図2において、1は探査装置である。探査装置1は、探査対象2に対し、電磁波を用い、探査対象2内部を非破壊に検査するものである。本実施の形態では、探査装置1は、地中探査装置であり、探査対象2は、道路や歩道等とする。
【0017】
探査装置1は、センサ部3を有する。センサ部3は、電磁波を探査対象2に対して送信及びその反射波を受信する部分である。本実施の形態において、センサ部3は、一及び他のアンテナ対5a,5bと、これら一及び他のアンテナ対5a,5bを制御するレーダ制御部6と、を有するレーダ装置である。
【0018】
一のアンテナ対5aは、送信アンテナである一の送信アンテナ10aと受信アンテナである一の受信アンテナ11aとを備える。一の送信アンテナ10aと一の受信アンテナ11aとは、互いに並んで配置されている。本実施の形態では、一の送信アンテナ10aと一の受信アンテナ11aとは、例えば概略四角形状に形成され、互いの長手方向を揃えて短手方向に並んで配置されている。
【0019】
同様に、他のアンテナ対5bは、送信アンテナである他の送信アンテナ10bと受信アンテナである他の受信アンテナ11bとを備える。他の送信アンテナ10bと他の受信アンテナ11bとは、互いに並んで配置されている。本実施の形態では、他の送信アンテナ10bと他の受信アンテナ11bとは、例えば概略四角形状に形成され、互いの長手方向を揃えて短手方向に並んで配置されている。
【0020】
一及び他のアンテナ対5a,5bは、探査対象2に対して平行または略平行な状態で配置される。そして、図3に示すように、一及び他の送信アンテナ10a,10bは、それぞれ偏波Pを放射する。本実施の形態において、偏波Pは、直線偏波を例に挙げる。一の受信アンテナ11aは、一の送信アンテナ10aから放射された偏波P1の探査対象2内部からの被検出部12による反射波R1を受信し、他の受信アンテナ11bは、他の送信アンテナ10bから放射された偏波P2の探査対象2内部からの被検出部12による反射波R2を受信する。
【0021】
そして、図1(b)に示すように、一のアンテナ対5aと他のアンテナ対5bとは、一の送信アンテナ10aから放射する偏波P1の偏波面と他の送信アンテナ10bから放射する偏波P2の偏波面とが互いに交差、好ましくは直交する方向となるように並んで配置されている。図示される例では、一のアンテナ対5aと他のアンテナ対5bとは、アンテナ10a,11aの長手方向とアンテナ10b,11bの長手方向とが互いに交差または直交する方向となるように配置されている。
【0022】
図2に示すレーダ制御部6は、一及び他の送信アンテナ10a,10bから送信する電磁波を生成したり、一及び他の受信アンテナ11a,11bにより受信した反射波を処理したりする部分である。
【0023】
また、本実施の形態において、図1(a)、図1(b)及び図2に示すように、探査装置1は、センサ部3が搭載される本体部15を有する探査ロボットを例に挙げる。本体部15は、フレーム等によって任意に構成されていてよい。本体部15には、一及び他のアンテナ対5a,5bを探査対象2に沿って移動可能にする移動ユニット17が設けられている。本実施の形態では、移動ユニット17は、本体部15の下部に設けられ、一及び他のアンテナ対5a,5bと探査対象2との距離を一定または略一定に保った状態で探査対象2上を移動可能となっている。移動ユニット17は、キャスタやクローラ等の走行手段を例に挙げるが、脚等の歩行手段等でもよい。移動ユニット17は、モータにより駆動される。移動ユニット17の動作は、制御部18により制御される。制御部18は、レーダ制御部6とも電気的に接続され、レーダ制御部6の動作を制御してもよい。また、制御部18には、センサ部3により取得された情報を記憶する記憶手段の機能、あるいは、センサ部3により取得された情報を出力する出力手段の機能等が備えられていてもよい。制御部18としては、マイコン等が好適に用いられる。
【0024】
好ましくは、移動ユニット17は、自律移動可能なものが用いられる。そのため、本体部15には、位置情報取得手段及び周辺環境取得手段が備えられる。位置情報取得手段及び周辺環境取得手段としては、例えばカメラ20、距離計21、LiDAR(ライダ)22、GPS受信器23等が用いられる。そして、本実施の形態では、カメラ20、距離計21、LiDAR22、GPS受信器23等により取得された位置情報や周辺環境に基づき制御部18によりSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)を実行し、探査装置1の自己位置推定及び周辺のマッピングを行いつつ移動することで、高精度の自律移動が可能となっている。
【0025】
なお、探査装置1の電源については、本体部15にバッテリが搭載されていてもよいし、外部から有線等により供給されてもよい。
【0026】
そして、本実施の形態の探査装置1は、外部のコンピュータ27に実行可能にインストールされる専用のソフトウェア28等とともに、探査システム29を構築する。コンピュータ27としては、例えば汎用のPC等が用いられる。好適には、コンピュータ27には、キーボードやマウス等の入力部、各種情報を記憶するメモリ、情報を表示する表示手段としてのディスプレイ等が備えられている。
【0027】
次に、一実施の形態の探査装置1を用いた探査方法について説明する。
【0028】
探査装置1では、制御部18により制御される移動ユニット17によって所定方向(図1(a)及び図1(b)中の矢印Xに示す方向)に移動しながら、センサ部3の一及び他のアンテナ対5a,5bの一及び他の送信アンテナ10a,10bにより探査対象2に対し偏波P1,P2を出力し、それらの反射波R1,R2を一及び他の受信アンテナ11a,11bにより受信する。そのため、一のアンテナ対5aと他のアンテナ対5bとの位置が所定方向にずれていることにより、一のアンテナ対5aの一の送信アンテナ10aから出力される偏波P1と、他のアンテナ対5bの他の送信アンテナ10bから出力される偏波P2と、が探査対象2の同一地点に対して異なるタイミングで放射され、偏波P1,P2の出力時の影響を互いに受けることなく反射波R1,R2を受信できることとなる。移動ユニット17による移動方向(所定方向)は、例えば一のアンテナ対5a側を前進方向として設定するが、他のアンテナ対5b側を前進方向として設定してもよい。
【0029】
探査装置1は、所定方向に所定距離(例えば50mm)進む毎に反射波R1,R2の受信強度に関する情報を取得する。すなわち、探査対象2中に入射した電磁波は、電気的性質(比誘電率)が異なる層において反射・透過の物理現象が発生するため、探査対象2中の各層の境界面や空洞、埋設構造物などにより反射された反射波が、それらの一及び他の受信アンテナ11a,11b(探査対象2の表面)からの距離に対応した信号として受信される。
【0030】
取得した情報は、制御部18により、メモリ等の記憶手段に保持する、または、読み取り可能に外部に出力する。情報を外部に出力する際には、有線、無線等任意の出力手段を用いてもよい。出力先としては、直接コンピュータ27でもよいし、例えばインターネット等のネットワーク上のサーバでもよいし、ネットワークを利用してコンピュータ27に間接的に出力するようにしてもよい。
【0031】
コンピュータ27では、一及び他の受信アンテナ11a,11bでの受信強度に関する情報に基づいてトレース(反射波列)Trを生成し、これらのトレースTrを順次並べたチャートCをそれぞれ表示する。具体的に、コンピュータ27は、図4の矢印順に示すように、取得した受信強度に関する情報に戻づいてトレースTrを生成し、これらトレースTrを取得順に並べたトレース集合Trs1に対し、その強度(振幅)を所定の特殊処理によってコントラスト変換したトレース集合Trs2を生成し、その強度(振幅)に応じてグレースケールの濃淡表示をした平面状のチャートCを一及び他のアンテナ対5a,5b毎に生成して、記憶する。すなわち、当該チャートCにおいては、左側から右側へと、探査装置1が移動した距離にしたがってトレースTrが配置されており、相対的に上側が探査対象2の表層に対して相対的に近い位置(浅い位置)での反射波であり、相対的に下側が探査対象2の表層に対して相対的に遠い位置(深い位置)での反射波となっている。また、チャートC中の濃度が相対的に濃い(黒い)箇所は、例えば受信強度(振幅)がプラス方向に相対的に大きい位置(トレースTrの山位置)に対応し、濃度が相対的に薄い(白い)箇所は受信強度(振幅)がマイナス方向に相対的に大きい位置(トレースTrの谷位置)に対応している。これに限らず、チャートCにおける受信強度の示し方は所定の規則に従って任意に設定してよい。
【0032】
検査者は、コンピュータ27により表示された二つのチャートCを目視し、反射波の受信強度により示される形状に応じて、探査対象2内部の被検出部12の有無を判断するとともに、反射波の受信強度差に応じて、探査対象2内部の被検出部12を識別する。
【0033】
ここで、本実施の形態による被検出部12の識別原理について説明する。
【0034】
一及び他の送信アンテナ10a,10bから放射される電磁波は、同心円状に拡がっていき、電磁波の中心から離れるにしたがいエネルギーが疎らになり、距離に反比例して強度が減少する(電磁波の発散)。このような発散は、図5(a)に示す反射面Sが平面の場合よりも図5(b)に示す反射面Sが曲面の場合、程度が大きくなる。したがって、曲面からの反射波Rの受信強度は平面からの反射波Rの受信強度よりも一般に小さい。例えば、図6(a)及び図6(b)に示すように、被検出部12が埋設管等の管状埋設物12aの場合、形状そのものに異方性があり、偏波Pの偏波面が軸方向つまり延伸方向に沿う場合については、平面反射となるのに対して、偏波Pの偏波面が軸方向に対し交差または直交する場合については、反射波Rの発散がより大きくなる。
【0035】
また、管状埋設物12aが特に導電性の金属製、すなわち鋼管である場合、形状の異方性により、図7(a)に示すように、電界の振動方向Dが軸方向に沿う場合については、反射箇所における有効電子移動Eが阻害されず、反射波の強度が相対的に大きいのに対し、図7(b)に示すように、電界の振動方向Dが軸方向に対し交差または直交する場合については、反射箇所における有効電子移動Eが狭範囲に抑制され、反射波の強度が相対的に小さい。
【0036】
そのため、これらの発散及び導電性の影響によって、管状埋設物12aにおいては、入射される偏波Pの偏波面が軸方向に沿う場合には反射波の強度が相対的に大きいのに対し、偏波Pの偏波面が軸方向に対し交差または直交する場合には反射波の強度が相対的に小さくなる。
【0037】
管状埋設物12aによる反射波の受信強度を示すチャートCの一部の例を図8(a)及び図8(b)に示す。図8(a)に示す偏波面が軸方向に沿う場合の例の部分A1と比較して、図8(b)に示す偏波面が軸方向に対し交差または直交する場合の例の部分A2では反射波の受信強度が弱い。
【0038】
それに対し、図9(a)及び図9(b)に示すように被検出部12が空洞12bの場合、通常不規則な形状であり、多くは反射面の形状に異方性がない。勿論、図9(a)に示すように、空洞12bの上部形状が平面に近い場合と、図9(b)に示すように、空洞12bの上部形状が曲面や傾斜面等の場合とでは、発散状況自体は異なっており、平面に近い場合よりも曲面や傾斜面の場合の方が電磁波の発散が大きいため、反射波の受信強度が小さいものの、いずれの場合であっても偏波の偏波面の方向に起因する反射波の受信強度の差は少ない。また、空洞12bには導電性がないため、反射波の受信強度に対する導電性の影響がない。そのため、被検出部12が空洞12bである場合には、偏波面の方向による反射波の受信強度に顕著な差が生じない。
【0039】
空洞12bによる反射波の受信強度を示すチャートCの一部の例を図10(a1)及び図10(a2)と、図10(b1)及び図10(b2)と、に示す。図9(a)に示すように、空洞12bの上部形状が平面に近い場合において、図10(a1)に示す偏波面が空洞12bの長手方向に沿う場合の例の部分A3と、図10(a2)の偏波面が空洞12bの短手方向に沿う場合の例の部分A4では、反射波の受信強度が殆ど変わらない。同様に、図9(b)に示すように、空洞12bの上部形状が曲面や傾斜面等の場合において、図10(b1)に示す偏波面が空洞12bの長手方向に沿う場合の例の部分A5と、図10(b2)に示す偏波面が空洞12bの短手方向に沿う場合の例の部分A6と、では、反射波の受信強度が殆ど変わらない。但し、図10(a1)及び図10(a2)に示す場合と比較して、図10(b1)及び図10(b2)に示す場合の方が、反射波の受信強度自体は弱い。
【0040】
よって、偏波Pの偏波面の方向を所定の一方向とした場合と、それに対し交差または直交させる所定の他方向とした場合と、での反射波Rの受信強度を比較することにより、被検出部12の識別が可能となる。すなわち、検査者は、一のアンテナ対5aの一の受信アンテナ11aにより取得された受信強度に関する情報のチャートと、一のアンテナ対5aに対し偏波の偏波面の方向が交差または直交する他のアンテナ対5bの他の受信アンテナ11bにより取得された受信強度に関する情報のチャートと、をコンピュータ27の表示により参照し、これら表示に基づいて被検出部12を識別する。つまり、受信強度差が大きい場合には、被検出部12が形状に異方性があるもの、例えば管状埋設物12aであり、受信強度差が小さい場合には、被検出部12が形状に異方性がないもの、例えば空洞12bであると識別できる。
【0041】
このように、偏波面が互いに交差する二つの偏波P1,P2を用い、所定方向に異なる位置から探査対象2に対し偏波P1,P2を出力しつつ所定方向に走査を行い、それらの反射波R1,R2の受信強度を比較することで探査対象2内部の被検出部12を識別することで、水平偏波と垂直偏波とを同位置から出力して同時に用いる二重偏波レーダ等と異なり、互いの偏波P1,P2の出力時の影響を受けることなく反射波R1,R2を受信することが可能となるので、埋設管等の管状埋設物12aと空洞12bとを容易かつ精度よく識別できる等、被検出部12の識別精度を向上できる。そのため、例えば空洞確認のための削孔調査の際に埋設管を破損する等の事故が生じにくくなる。
【0042】
探査装置1は、偏波P1,P2を探査対象2に送信する一及び他の送信アンテナ10a,10bと、一及び他の送信アンテナ10a,10bから送信された偏波P1,P2の反射波R1,R2を受信する一及び他の受信アンテナ11a,11bと、をそれぞれ有する一及び他のアンテナ対5a,5bを、偏波P1,P2の偏波面が互いに交差する方向となるように所定方向に並んで配置することにより、偏波面が互いに交差する二つの偏波P1,P2を異なる位置から探査対象2に出力可能な構成を安価で簡素に実現できる。
【0043】
また、探査装置1が、一及び他のアンテナ対5a,5bを移動させるための移動ユニット17を備えることで、例えば移動ユニット17により移動しつつ偏波P1,P2を探査対象2に送信し反射波を受信する探査ロボットを構築できる。
【0044】
さらに、移動ユニット17が、SLAMにより自律移動可能であることにより、例えばGPS信号が遮られるビル街等の道路や地下施設等の探査対象2の探査等であっても、位置情報の精度を確保できる。
【0045】
特に、本実施の形態では、カメラ20、距離計21、LiDAR22及びGPS受信器23を備えるため、これらを複合的に用いることで、位置情報の精度を向上でき、精度がよい測線管理を行うことができる。
【0046】
そして、探査装置1の一及び他の受信アンテナ11a,11bにより所定方向の所定距離毎に受信された反射波R1,R2の受信強度に関する情報を並べたチャートCを、ソフトウェア28によりそれぞれ表示手段に表示させることにより、表示手段での表示に基づき被検出部12の有無やその種類の識別等を容易に実施可能な探査システム29を構築できる。
【0047】
このとき、一のアンテナ対5aと他のアンテナ対5bとでは、所定方向に配置のずれが生じているので、コンピュータ27では、例えば図11に示すように、二つのチャートCの表示開始位置等を調整することでこのずれを補正して並べて表示することにより、共通の被検出部12を示す情報が検査者にとって明確になり、識別精度がより向上する。例えば、一のアンテナ対5aと他のアンテナ対5bとの所定方向の中心間距離を、所定距離で除した値に応じて表示開始位置をずらすことで、容易に実現できる。
【0048】
しかも、反射波R1,R2の合成開口処理等が不要であるため、探査装置1を簡素に構成できるとともに、コンピュータ27の処理が簡易であり、処理速度が速い。
【0049】
なお、上記一実施の形態において、移動ユニット17は必須の構成ではなく、センサ部3のみを備える探査装置1を車両等の所定の移動手段に搭載して使用することも可能である。
【0050】
また、コンピュータ27に人工知能(AI)を導入し、集合に基づく被検出部12の有無や被検出部12の識別を自動的に実施するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 探査装置
2 探査対象
5a 一のアンテナ対
5b 他のアンテナ対
10a,10b 送信アンテナである一及び他の送信アンテナ
11a,11b 受信アンテナである一及び他の受信アンテナ
12 被検出部
17 移動ユニット
28 ソフトウェア
29 探査システム
C チャート
P1,P2 偏波
R1,R2 反射波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11