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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155352
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両用ガラスモジュール
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20241024BHJP
   B60R 5/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B60R5/04 Z
C03C27/12 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070006
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健司
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 尚志
【テーマコード(参考)】
3D022
4G061
【Fターム(参考)】
3D022BA15
3D022BC01
4G061AA04
4G061AA11
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CD18
(57)【要約】
【課題】美観に優れ、車両性能を向上可能な仕切部材としての車両用ガラスモジュールを提供する。
【解決手段】車室50内の仕切部材として用いられる車両用ガラスモジュール1は、車室50の一方側X1に配置される第一ガラス板と、車室50の他方側X2に配置される第二ガラス板とを有する合わせガラス10と、第一ガラス板と第二ガラス板との間に配置される遮音機能を有する中間層と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の仕切部材として用いられる車両用ガラスモジュールであって、
前記車室の一方側に配置される第一ガラス板と、前記車室の他方側に配置される第二ガラス板とを有する合わせガラスと、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板との間に配置される遮音機能を有する中間層と、を備えた車両用ガラスモジュール。
【請求項2】
前記仕切部材は、運転席と後部座席とを仕切る請求項1に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項3】
前記仕切部材は、前記車室の内壁又は前記運転席の背凭れ部の背面に固定されている請求項2に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項4】
前記仕切部材は、前記運転席が配置される第一空間と前記後部座席が配置される第二空間とに前記車室内を分離している請求項2に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項5】
前記仕切部材は、後部座席と前記後部座席の後方に設けられる荷室とを仕切る請求項1に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項6】
前記仕切部材は、前記車室の内壁又は前記後部座席の背面に固定されている請求項5に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項7】
前記仕切部材は、前記後部座席が配置される第一空間と前記荷室が配置される第二空間とに前記車室内を分離している請求項6に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項8】
前記第一ガラス板及び前記第二ガラス板は、圧縮応力が70MPa以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項9】
前記合わせガラスは、フラットな板ガラスである請求項8に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項10】
前記合わせガラスは、湾曲した板ガラスである請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項11】
電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方において平行光線透過率が30%未満となり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方において平行光線透過率が30%以上となる調光層を更に備え、
前記調光層は、前記中間層に積層されており、
前記中間層は、前記第一ガラス板と前記調光層との間に配置される第一中間層と、前記第二ガラス板と前記調光層との間に配置される第二中間層とを有している請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項12】
前記調光層は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方において平行光線透過率が20%以下であり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方において平行光線透過率が40%以上である請求項11に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項13】
電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方においてヘイズが10%以上となり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方においてヘイズが10%未満となる調光層を更に備え、
前記調光層は、前記中間層に積層されており、
前記中間層は、前記第一ガラス板と前記調光層との間に配置される第一中間層と、前記第二ガラス板と前記調光層との間に配置される第二中間層とを有している請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項14】
前記調光層は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方においてヘイズが20%以上であり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方においてヘイズが8%以下である請求項13に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項15】
前記調光層は、前記中間層よりも表面積が小さく形成されており、前記調光層の前記中間層と接する側には、保護層が設けられている請求項11に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項16】
前記調光層は、前記中間層よりも表面積が小さく形成されており、前記調光層の前記中間層と接する側には、保護層が設けられている請求項13に記載の車両用ガラスモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の仕切部材として用いられる車両用ガラスモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タクシーや高級車等において、防犯を目的として運転席と後部座席とを仕切る仕切り板が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の仕切り板は、透明なポリカーボネイト製であり、左右のセンターピラーを連結する隔壁部材の上側に固定された本体部と、車両前方側に向けて円弧状に屈曲した屈曲部と、屈曲部から車両前方側に向けて延在する延在部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/129074号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車室内の仕切部材は、特許文献1に記載のように透明な樹脂で形成されており、後部座席から衝撃を受けたとき、全体が前方に倒れて運転手に悪影響を及ぼす。また、透明な樹脂は美観上好ましくなく、後部座席に着座した乗員の会話が運転者に聞かれることでプライバシー確保の観点からも好ましくない。さらに、昨今普及している電動自動車であれば、外部の騒音によって静寂性が損なわれる。
【0006】
そこで、美観に優れ、車両性能を向上可能な仕切部材としての車両用ガラスモジュールが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの特徴構成は、車室内の仕切部材として用いられる車両用ガラスモジュールであって、前記車室の一方側に配置される第一ガラス板と、前記車室の他方側に配置される第二ガラス板とを有する合わせガラスと、前記第一ガラス板と前記第二ガラス板との間に配置される遮音機能を有する中間層と、を備えた点にある。
【0008】
本構成では、車室内の仕切部材として用いられる車両用ガラスモジュールが合わせガラスを備えているため、光沢感を演出することが可能となり、美観に優れる。また、第一ガラス板と第二ガラス板との間に遮音機能を有する中間層を配置しているため、車両用ガラスモジュールによって仕切られた両空間において一方空間から他方空間への音漏れを抑制できる。これにより、車両用ガラスモジュールが、例えば車室の一方側の運転席と車室の他方側の後部座席との間に配置された場合には、後部座席に着座した乗員の会話が運転者に届き難い。
【0009】
また、この遮音機能を有する中間層は、遮音機能を適正に発揮するうえで所定の厚みを有する必要がある。このため、仮に車両用ガラスモジュールのうち例えば第二ガラス板に衝撃が加えられたとしても、中間層が第一ガラス板の破損抑止部材として作用する。これにより、車両用ガラスモジュールが例えば運転席と後部座席との間に配置された場合には、仕切部材が前方に倒れて運転者を押圧するといった不都合も防止できる。このように、美観に優れ、車両性能を向上可能な車両用ガラスモジュールとなっている。
【0010】
他の特徴構成は、前記仕切部材は、運転席と後部座席とを仕切る点にある。
【0011】
本構成のように運転席と後部座席とを仕切る車両用ガラスモジュールであれば、例えば後部座席に着座した乗員の会話が運転者に届き難く、美観に優れた仕切部材によって高級感を演出できる。
【0012】
他の特徴構成は、前記仕切部材は、前記車室の内壁又は前記運転席の背凭れ部の背面に固定されている点にある。
【0013】
本構成のように、車両用ガラスモジュールを車室の内壁又は運転席の背凭れ部の背面に固定すれば、車両用ガラスモジュールを支持するために左右のセンターピラーを連結する隔壁部材等を設ける必要がなく、車室空間の開放感を担保できる。
【0014】
他の特徴構成は、前記仕切部材は、前記運転席が配置された第一空間と前記後部座席が配置された第二空間とに前記車室内を分離している点にある。
【0015】
本構成の車両用ガラスモジュールのように、運転席が設けられた第一空間と後部座席が設けられた第二空間とに車室内を分離すれば、後部座席に着座した乗員の会話が運転者に届かず、プライバシーをより確保できる。しかも、運転席と後部座席とを仕切る車両用ガラスモジュールであるため、後部座席に着座した乗員に圧迫感を与えない。
【0016】
他の特徴構成は、前記仕切部材は、後部座席と前記後部座席の後方に設けられる荷室とを仕切る点にある。
【0017】
本構成のように後部座席と荷室とを仕切る車両用ガラスモジュールであれば、後続車両によるエンジン音等が後部座席に届き難く、後部座席に着座した乗員に対して快適な車室空間を提供できる。
【0018】
他の特徴構成は、前記仕切部材は、前記車室の内壁又は前記後部座席の背面に固定されている点にある。
【0019】
本構成のように、車両用ガラスモジュールを車室の内壁又は運転席の背凭れ部の背面に固定すれば、車両ガラスモジュールが荷室スペースに邪魔にならず、従来の荷室機能を担保できる。
【0020】
他の特徴構成は、前記仕切部材は、前記後部座席が配置される第一空間と前記荷室が配置される第二空間とに前記車室内を分離している点にある。
【0021】
本構成の車両用ガラスモジュールのように、後部座席が配置される第一空間と荷室が配置される第二空間とに車室内を分離すれば、後続車両によるエンジン音等が後部座席に届かず、後部座席に着座した乗員に対してより快適な車室空間を提供できる。
【0022】
他の特徴構成は、前記第一ガラス板及び前記第二ガラス板は、圧縮応力が70MPa以下である点にある。
【0023】
本構成のように、第一ガラス板及び第二ガラス板の強度を小さくすれば、仮に第二ガラス板に衝撃が加えられたとしても、第二ガラス板が速やかに割れて、中間層が第一ガラス板の破損抑止部材として作用する。また、第一ガラス板及び第二ガラス板の厚みを小さくできるため、車両用ガラスモジュールの軽量化を図ることができる。
【0024】
他の特徴構成は、前記合わせガラスは、フラットな板ガラスである点にある。
【0025】
本構成のように、合わせガラスをフラットな板ガラスとすれば、車両用ガラスモジュールが車室空間を狭めるといった不都合を防止できる。
【0026】
他の特徴構成は、前記合わせガラスは、湾曲した板ガラスである点にある。
【0027】
本構成のように、合わせガラスを湾曲した板ガラスとすれば、湾曲面に反射した光が車両の上下方向に散乱するため、後部座席に着座した人が眩しさを感じるといった不都合を防止できる。
【0028】
他の特徴構成は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方において平行光線透過率が30%未満となり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方において平行光線透過率が30%以上となる調光層を更に備え、前記調光層は、前記中間層に積層されており、前記中間層は、前記第一ガラス板と前記調光層との間に配置される第一中間層と、前記第二ガラス板と前記調光層との間に配置される第二中間層とを有している点にある。
【0029】
本構成のように、仕切部材としての車両用ガラスモジュールが調光層を備えていれば、高級感の演出とプライバシーの確保とを両立することができる。
【0030】
他の特徴構成は、前記調光層は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方において平行光線透過率が20%以下であり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方において平行光線透過率が40%以上である点にある。
【0031】
本構成のように、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態によって、調光層の平行光線透過率が大きく変化することで、車両用ガラスモジュールは高級感の演出とプライバシーの確保とをより効果的に両立することができる。
【0032】
他の特徴構成は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方においてヘイズが10%以上となり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方においてヘイズが10%未満となる調光層を更に備え、前記調光層は、前記中間層に積層されており、前記中間層は、前記第一ガラス板と前記調光層との間に配置される第一中間層と、前記第二ガラス板と前記調光層との間に配置される第二中間層とを有している点にある。
【0033】
本構成のように、仕切部材としての車両用ガラスモジュールが調光層を備えていれば、高級感の演出とプライバシーの確保とを両立することができる。
【0034】
他の特徴構成は、前記調光層は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方においてヘイズが20%以上であり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方においてヘイズが8%以下である点にある。
【0035】
本構成のように、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態によって、調光層のヘイズが大きく変化することで、車両用ガラスモジュールは高級感の演出とプライバシーの確保とをより効果的に両立することができる。
【0036】
他の特徴構成は、前記調光層は、前記中間層よりも表面積が小さく形成されており、前記調光層の前記中間層と接する側には、保護層が設けられている点にある。
【0037】
一般的に中間層は強度を確保するために表面のヤング率が高く可塑剤を多く含み、中間層に含まれる可塑剤が調光層の電子部品に悪影響を及ぼしやすい。そこで、本構成のように、調光層の中間層と接する側に保護層を設ければ、中間層による調光層の機能劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】第一実施形態の車両用ガラスモジュールの断面図である。
図2】第一実施形態の車両用ガラスモジュールが配置された車室内を示す側面図である。
図3】第一実施形態の車両用ガラスモジュールが配置された車室を後部座席から見た概略斜視図である。
図4】第一実施形態の変形例を示す側面図である。
図5】第二実施形態の車両用ガラスモジュールが配置された車室内を示す側面図である。
図6】第二実施形態の車両用ガラスモジュールの変形例を示す車室内の側面図である。
図7】第三実施形態の車両用ガラスモジュールが配置された車室内を示す側面図である。
図8】第三実施形態の変形例を示す側面図である。
図9】別形態の車両用ガラスモジュールの断面図である。
図10】別形態の車両用ガラスモジュールの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明に係る車両用ガラスモジュールの実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、車両用ガラスモジュールの一例として、乗客を後部座席に乗せるタクシー等の車両に適用される仕切部材として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0040】
〔第一実施形態〕
車両用ガラスモジュール1に係る合わせガラス10の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。車両用ガラスモジュール1は、車室50(図2参照)内の仕切部材として用いられる。
【0041】
図1は、本実施形態の車両用ガラスモジュール1(以下、「ガラスモジュール1」と略称する。)に係る合わせガラス10の断面図である。図1に示されるように、本実施形態に係る合わせガラス10は、第一ガラス板11、第二ガラス板12、及びこれらのガラスの間に挟持される中間層13で構成されている。中間層13は、コア層31と、これを挟持する一対のアウター層32により構成することができるが、これは一例であり、詳細は後述する。
【0042】
ガラスモジュール1は、第一ガラス板11が車両前後方向X(図2参照)の前側X1(車室50の一方側の一例)に配置され、第二ガラス板12が車両前後方向Xの後側X2(車室50の他方側の一例)に配置される。中間層13は、第一ガラス板11と第二ガラス板12との間に配置されて遮音機能を有する。
【0043】
第一ガラス板11及び第二ガラス板12は、公知のガラス板を用いることができ、一般的なクリアガラスで形成することもできる。以下に、クリアガラスの一例を示す。
【0044】
(クリアガラス)
SiO:70~73質量%
Al:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Feに換算した全酸化鉄(T-Fe):0.08~0.14質量%
【0045】
本実施形態に係る合わせガラス10の厚みは特には限定されないが、軽量化の観点からは、第一ガラス板11と第二ガラス板12の厚みの合計を、2.4~3.8mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、第一ガラス板11と第二ガラス板12との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板のそれぞれの厚みは、特には限定されない。また、第一ガラス板11及び第二ガラス板12の形状は、平面形状及び湾曲形状のいずれであってもよい。
【0046】
第一ガラス板11及び第二ガラス板12は、圧縮応力を、150MPa以下、70MPa以下、50MPa以下等にすることができる。本実施形態において、第一ガラス板11及び第二ガラス板12は、圧縮応力が70MPa以下である。このように、第一ガラス板11及び第二ガラス板12の強度を小さくすれば、仮に第二ガラス板12に衝撃が加えられたとしても、第二ガラス板12が速やかに割れて、中間層13が第一ガラス板11の破損抑止部材として作用する。また、第一ガラス板11及び第二ガラス板12の厚みを小さくできるため、ガラスモジュール1の軽量化を図ることができる。第一ガラス板11及び第二ガラス板12を湾曲形状にした場合には、形状による圧縮応力が備わるため、ガラス板自体(第一ガラス板11及び第二ガラス板12)の圧縮応力は、40Mpa以上でもよい。第一ガラス板11及び第二ガラス板12について圧縮応力を高めた場合には、第二ガラス板12が割れることによる第一ガラス板11の破損抑止効果は得られないものの、ガラスモジュール1は曲面の存在により自由な意匠性を強固に担保することができる。
【0047】
中間層13は、複数の層で形成されており、一例として、図1に示すように、軟質のコア層31を、これよりも剛性の高い硬質のアウター層32,32で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、コア層31と、第一ガラス板11側に配置される少なくとも1つのアウター層32とを有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層31と、第一ガラス板11側に配置される1つのアウター層32を含む2層の中間層13、またはコア層31を中心に両側にそれぞれ2層以上の偶数のアウター層32を配置した中間層13、あるいはコア層31を挟んで一方に奇数のアウター層32、他方の側に偶数のアウター層32を配置した中間層13とすることもできる。アウター層32の数が多いと、遮音性能も高くなる。
【0048】
中間層13は、遮音機能を担保するために、アウター層32の厚みの合計が0.50mm以上であることが好ましい。またアウター層32の厚みの合計が0.70mm以上であればより好ましい。ここで、アウター層32は、厚みが大きくなるにつれて単位面積当たりの可塑剤の量が多くなる。中間層13が多層のアウター層32を有し、図1に示されるように、中間層13がコア層31と、コア層31の両面に配置される一対のアウター層32,32とで構成される場合には、アウター層32はコア層31のヤング率を小さくするために可塑剤量が多くなる。アウター層32のヤング率の一例は441MPaであり、コア層31のヤング率の一例は19MPaであり、コア層31はヤング率が9.5MPaであるとより好ましい。このように、コア層31のヤング率を低下させるために、アウター層32に可塑剤が多く含まれている。
【0049】
コア層31はアウター層32よりも軟質であるかぎり、その硬さは特には限定されないが、例えば、ヤング率を基準として材料を選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20度において、1MPa以上であることが好ましい。上限については、特には限定されないが、例えば、25MP以下であることが好ましく、20MPa以下であることが、さらに好ましく、18MPa以下であることが特に好ましく、14MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらにより好ましい。このような範囲にすると、概ね3500Hz以下の低周波数域で、STL(Sound Transmission Loss:音響透過損失)が低下するのを防止できる。
【0050】
図2及び図3に示されるように、車両Vの車室50内の前部には、左右方向の一方側に運転席2が配設され、左右方向の他方側には助手席3が配設されている。車室50内において運転席2および助手席3よりも車両前後方向Xの後側X2には、後部座席4が配設されている。運転席2及び助手席3と後部座席4との間には、仕切部材としてのガラスモジュール1が車幅方向に沿って配設されている。運転席2及び助手席3と後部座席4との間にガラスモジュール1が配置されることで、タクシー等の車両Vにおいてガラスモジュール1は遮音機能を発揮する。
【0051】
具体的に説明すると、ガラスモジュール1は、車幅方向に延設されており、ブラケット5を介して運転席2の背凭れ部21の背面22に固定されている。ガラスモジュール1は、上端部1aが車両Vの天井側内装材6に近接するように配置されている。なお、運転席2又は助手席3の何れか一方と後部座席4との間にガラスモジュール1が配置されてもよい。図2及び図3に示されるように、本実施形態では、合わせガラス10がフラットな板ガラスで構成されている。
【0052】
本実施形態では、ガラスモジュール1が合わせガラス10を備えているため、光沢感を演出することが可能となり、美観に優れる。また、合わせガラス10は第一ガラス板11と第二ガラス板12との間に遮音機能を有する中間層13を配置しているため、ガラスモジュール1によって仕切られた両空間51,52において一方空間(例えば第二空間52)から他方空間(例えば第一空間51)への音漏れを抑制できる。これにより、ガラスモジュール1が運転席2と後部座席4との間に配置された場合には、後部座席4に着座した乗員の会話が運転者に届き難い。
【0053】
また、ガラスモジュール1において、遮音機能を有する中間層13は、遮音機能を適正に発揮するうえで所定の厚みを有する必要がある。このため、仮にガラスモジュール1のうち例えば第二ガラス板12に衝撃が加えられたとしても、中間層13が第一ガラス板11の破損抑止部材として作用するので、仕切部材としてのガラスモジュール1が車両前後方向Xの前側X1に倒れて運転者を押圧するといった不都合も防止できる。このように、美観に優れ、車両性能を向上可能なガラスモジュール1となっている。
【0054】
また、本実施形態のように、ガラスモジュール1を運転席2の背凭れ部21の背面22に固定すれば、ガラスモジュール1を支持するために左右のセンターピラーを連結する隔壁部材等を設ける必要がなく、車室空間の開放感を担保できる。また、合わせガラス10をフラットな板ガラスとすれば、ガラスモジュール1が車室空間を狭めるといった不都合を防止できる。
【0055】
〔第一実施形態の変形例1〕
図4に示されるように、運転席2の背凭れ部21の背面22に配置されるガラスモジュール1(合わせガラス10)は湾曲した板ガラスであってもよい。このように構成することで、後部座席4へのガラスモジュール1の進入が抑制され、ホスピタリティーを向上させることが可能となる。また、合わせガラス10を湾曲したガラス板とすれば、湾曲面に反射した光が車両Vの上下方向に散乱するため、後部座席4に着座した人の携帯端末等の表示画面が他人に見られるといった不都合が防止され、プライバシーも確保できる。
【0056】
〔第一実施形態の変形例2〕
上記の第一実施形態及び変形例1では、ガラスモジュール1が運転席2の背凭れ部21の背面22に固定される例を示したが、ガラスモジュール1は、運転席2の背凭れ部21の背面22には固定されず、車室50の内壁に固定されていてもよい。具体的には、ガラスモジュール1は、例えば車室50の内壁に別途備え付けられた枠体(不図示)等に固定される形態でもよい。
【0057】
〔第二実施形態〕
図5に示されるように、第二実施形態のガラスモジュール1は、全体が平板状であって車両Vの床面7から天井側内装材6に亘って設けられている。ガラスモジュール1は、例えば床面7及び天井側内装材6に対して不図示の支持体を介して固定される。本実施形態では、ガラスモジュール1によって構成される仕切部材が、運転席2が配置される第一空間51と後部座席4が配置される第二空間52とに車室50内を分離している。
【0058】
本実施形態のガラスモジュール1のように、運転席2が設けられた第一空間51と後部座席4が設けられた第二空間52とに車室50内を分離すれば、後部座席4に着座した乗員の会話が運転者に届かず、プライバシーをより確保できる。しかも、運転席2と後部座席4とを仕切るガラスモジュール1であるため、後部座席4に着座した乗員に圧迫感を与えない。
【0059】
〔第二実施形態の変形例〕
図6に示されるように、ガラスモジュール1は、車両Vの上下方向に延設される支持部材8に支持されていてもよい。本変形例では、支持部材8が床面7に固定されており、車室50は、支持部材8及びガラスモジュール1によって第一空間51と第二空間52とに分離されている。これにより、ガラスモジュール1の支持力が高まり、姿勢が安定する。
【0060】
〔第三実施形態〕
図7に示されるように、第三実施形態のガラスモジュール1は、全体が平板状であって後部座席4の背凭れ部41の背面42に固定されている。仕切部材としてのガラスモジュール1は、後部座席4と後部座席4の後方に設けられる荷室9とを仕切る。具体的に説明すると、ガラスモジュール1は、車幅方向に延設されており、ブラケット5を介して後部座席4の背凭れ部41の背面42に固定されている。本実施形態においても、ガラスモジュール1は、上端部1aが車両Vの天井側内装材6に近接するように配置されている。
【0061】
本実施形態のように後部座席4と荷室9とを仕切るガラスモジュール1であれば、後続車両によるエンジン音等が後部座席4に届き難く、後部座席4に着座した乗員に対して快適な車室空間を提供できる。また、ガラスモジュール1を後部座席4の背凭れ部41の背面42に固定すれば、荷室9のスペースに邪魔にならず、従来の荷室9の機能を担保できる。
【0062】
〔第三実施形態の変形例1〕
図8に示されるように、後部座席4に固定されるガラスモジュール1(合わせガラス10)が湾曲した板ガラスであってもよい。本変形例のように、合わせガラス10を湾曲した板ガラスとすれば、湾曲面に反射した光が車両Vの上下方向に散乱するため、後部座席4に着座した人が眩しさを感じるといった不都合を防止できる。
【0063】
〔第三実施形態の変形例2〕
上記の第三実施形態及び変形例1では、ガラスモジュール1が後部座席4の背凭れ部41の背面42に固定される例を示したが、ガラスモジュール1は後部座席4の背凭れ部41の背面42には固定されず、車室50の内壁に固定されていてもよい。具体的には、ガラスモジュール1は、例えば車室50の内壁に別途備え付けられた枠体(不図示)等に固定される形態でもよい。
【0064】
〔ガラスモジュールの層構造の別形態〕
図9及び図10に示されるように、ガラスモジュール1は、中間層13に積層される調光層61を備えてもよい。調光層61は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方において平行光線透過率が30%未満となり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方において平行光線透過率が30%以上となる。調光層61は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方において平行光線透過率が20%以下であり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方において平行光線透過率が40%以上であればより好ましい。調光層61は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方においてヘイズが10%以上となり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方においてヘイズが10%未満となるものでもよい。調光層61は、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の一方においてヘイズが20%以上であり、電圧の印加状態及び電圧の非印加状態の他方においてヘイズが8%以下であればより好ましい。中間層13は、第一ガラス板11と調光層61との間に配置される第一中間層33と、第二ガラス板12と調光層61との間に配置される第二中間層34とを有している。第一中間層33及び第二中間層34は、コア層31及び一対のアウター層32,32を夫々備えている。
【0065】
調光層61は、中間層13(第一中間層33及び第二中間層34)よりも表面積が小さく形成されている。また、調光層61の中間層13と接する側には、保護層62が設けられている。
【0066】
調光層61は、調光フィルム等で構成されており、例えば、通電の有無によってフィルムのヘイズ率を制御し、透明状態と不透明状態とを作り出す。すなわち、プライバシー性を付与することが可能な機能性フィルムである。例えば、液晶を利用したPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)タイプやSPD(Suspended Particle Device)タイプ、エレクトロクロミックタイプ、サーモクロミックタイプなど、公知のものを用いることができる。例えば、PDLCタイプの調光フィルムは、液晶層と、この液晶層を挟む一対の透明導電膜とで構成できる。また、調光層61(各透明導電膜)の外面には、PETフィルムが保護層62として配置されている。液晶層は、透明なポリマーフィルム及び液晶が封入されることによって形成された液晶カプセルを有している。調光層61は、液晶層に電圧が印加されると、調光が行われ、例えば、調光フィルムが不透明になる。調光層61は、液晶層に電圧が印加されないときに調光フィルムが不透明になり、液晶層に電圧が印加したときに調光フィルムが透明になる構成でもよい。
【0067】
本形態のように、仕切部材としてのガラスモジュール1が調光層61を備えていれば、高級感の演出とプライバシーの確保とを両立することができる。
【0068】
ガラスモジュール1は、車室内の仕切部材として用いられるため、より高度の遮音性が求められる関係で中間層13の厚みが大きくなり、中間層13のアウター層32に可塑剤が多く含まれる。アウター層32に含まれる可塑剤は、調光層61に接すると調光層61のフィルム部分等が劣化するおそれがある。このため、ガラスモジュール1は、調光層61を保護する構成が必要になる。
【0069】
本形態では、ガラスモジュール1において、調光層61は中間層13よりも表面積が小さく形成されている。一般的に中間層13は強度を確保するために表面のアウター層32のヤング率が高く可塑剤を多く含むため、アウター層32の可塑剤が調光層61の電子部品等に悪影響を及ぼしやすい。そこで、本形態のように、調光層61の中間層13と接する側に保護層62を設ければ、中間層13による調光層61の機能劣化を防止できる。
【0070】
図9に示す例では、合わせガラス10の板面方向における、保護層62の端部と中間層13のアウター層32の端部とが一致している。これに代えて、例えば、保護層62が中間層13のアウター層32よりもさらに側方に延設されていてもよい。保護層62の延設部分については、PETフィルムを延長してもよいし、別途シール材によって構成してもよい。本変形例により、調光層61の中間層13と接する側に設けられた保護層62により、中間層13による調光層61の機能劣化をより効果的に防止できる。
【0071】
また、図9に示す例では、ガラスモジュール1において、調光層61の側面が露出しているため、調光層61の側面から水分が浸入したり衝撃を受けたりすることで調光層61が劣化するおそれがある。そこで、調光層61の側面からの水分等の浸入等を防ぐべく、調光層61の周囲に平面視において中央部を有しない環状体(不図示)を配置してもよい。調光層61を側面から封止する環状体の材料としては、例えば、可塑剤を含まない、硬化性樹脂(アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ブチル系樹脂等)が挙げられる。調光層61を側面から封止する環状体は、上述の硬化性樹脂を含む封止材、樹脂基材(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル等)の主面に粘着剤(アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂等)が設けられた封止材等を用いることができる。調光層61を環状体によって封止することで、ガラスモジュール1は調光層61の機能を確実に維持することができ、耐久性を向上させることができる。
【0072】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態では、「車室50の一方側」を車両前後方向Xの前側X1とし、「車室50の他方側」を車両前後方向Xの後側X2とする例を示したが、「車室50の一方側」及び「車室50の他方側」は、車両左右方向における一方側及び他方側であってもよい。
(2)調光層61は、中間層13と同じ表面積で形成されていてもよい。
(3)ガラスモジュール1は、運転席2と後部座席4との間、及び、後部座席4の後方側の両方に配置されていてもよい。
(4)運転席2及び助手席3と後部座席4との間に配置されるガラスモジュール1は、全体として一枚の合わせガラス10であってもよいし、運転席2用の合わせガラス10と助手席3用の合わせガラス10を夫々配置する構成でもよい。
(5)ガラスモジュール1は、助手席3と後部座席4との間に配置しない構成でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、車室内に配置される車両用ガラスモジュールとして広く利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 :車両用ガラスモジュール(ガラスモジュール)
2 :運転席
4 :後部座席
10 :合わせガラス
11 :第一ガラス板
12 :第二ガラス板
13 :中間層
21 :背凭れ部
22 :背面
33 :第一中間層
34 :第二中間層
41 :背凭れ部
42 :背面
50 :車室
51 :第一空間
52 :第二空間
61 :調光層
62 :保護層
V :車両
X :車両前後方向
X1 :前側
X2 :後側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10