(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155359
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】3,5,5-トリメチルヘキサン酸組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 53/126 20060101AFI20241024BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20241024BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241024BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241024BHJP
【FI】
C07C53/126
G01N30/88 C
G01N30/72 A
G01N27/62 C
G01N27/62 V
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070015
(22)【出願日】2023-04-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-29
(71)【出願人】
【識別番号】312004880
【氏名又は名称】KHネオケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大形 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】北畠 功之
【テーマコード(参考)】
2G041
4H006
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041FA06
2G041GA03
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB12
4H006AB60
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】長期間貯蔵しても生殖毒性が低い3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を提供する。
【解決手段】下記条件で測定した、空気雰囲気下80℃で4週間加熱後のにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定によるt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度が、400体積ppb以下である3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品。
(測定条件)
・3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を濃縮する。
・濃縮した試料を、固定相がジメチルポリシロキサンであるカラムを用いてにおい嗅ぎガスクロマトグラフィーで測定し、質量分析検出器により測定成分の構造解析をする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件で測定した、空気雰囲気下80℃で4週間加熱後のにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定によるt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度が、400体積ppb以下である3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品。
(測定条件)
・3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品5.0gを密閉可能な500mLの容器に充填し、30℃で20分以上静置する。その後、気相部を200mL吸引し、H2O、N2、O2、及びCO2を除去した残部を濃縮装置で濃縮する。
・濃縮した試料を下記条件の下、におい嗅ぎガスクロマトグラフィーで測定し、質量分析検出器により測定成分の構造解析をする。
分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム;長さ60m×内径320μm×膜厚1μm
昇温プログラム:35℃で2分保持した後、10℃/分で昇温し、240℃に到達したら7分30秒保持する。
キャリアガス:ヘリウム
質量分析検出器の測定条件は下記のとおりである。
イオン化モード:EI
測定タイプ:スキャン
イオン源温度:250℃
四重極温度:150℃
電子エネルギー:70.0eV
スキャン開始質量:30
スキャン終了質量:400
【請求項2】
化粧品に用いられる請求項1に記載の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品。
【請求項3】
冷凍機油に用いられる請求項1に記載の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品に関する。
【背景技術】
【0002】
3,5,5-トリメチルヘキサン酸は、前駆体のアルデヒドである3,5,5-トリメチルヘキサナールの酸化により合成可能であることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、アルコールの酸化により3,5,5-トリメチルヘキサン酸を合成する手法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
3,5,5-トリメチルヘキサン酸は、化粧品原料、冷凍機油原料、金属加工油等の原料として使用されている。化粧品、冷凍機油及び金属加工油は、その用途の特性上、わずかではあるが暴露する可能性があることから、原料については低毒性であることが求められている。
3,5,5-トリメチルヘキサン酸は、生殖毒性のあるt-BuOHが製造プロセス上、副生するが、従来の精製方法によって既に十分低減できていると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/118917号
【特許文献2】中国特許出願公開第112409144号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を長期間貯蔵すると、t-BuOHが増加することが新たに見出された。
【0005】
本開示の技術は以上の事情に鑑みてなされたものであり、本開示技術の課題は、長期間貯蔵しても生殖毒性が低い3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を提供することであり、該課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 下記条件で測定した、空気雰囲気下80℃で4週間加熱後のにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定によるt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度が、400体積ppb以下である3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品。
(測定条件)
・3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品5.0gを密閉可能な500mLの容器に充填し、30℃で20分以上静置する。その後、気相部を200mL吸引し、H2O、N2、O2、及びCO2を除去した残部を濃縮装置で濃縮する。
・濃縮した試料を下記条件の下、におい嗅ぎガスクロマトグラフィーで測定し、質量分析検出器により測定成分の構造解析をする。
分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム;長さ60m×内径320μm×膜厚1μm
昇温プログラム:35℃で2分保持した後、10℃/分で昇温し、240℃に到達したら7分30秒保持する。
キャリアガス:ヘリウム
質量分析検出器の測定条件は下記のとおりである。
イオン化モード:EI
測定タイプ:スキャン
イオン源温度:250℃
四重極温度:150℃
電子エネルギー:70.0eV
スキャン開始質量:30
スキャン終了質量:400
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、長期間貯蔵しても生殖毒性が低い3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品に関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本開示の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0009】
<3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品>
本実施形態に係る3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品は、下記条件で測定した、空気雰囲気下80℃で4週間加熱後のにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定によるt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度が、400体積ppb以下である。
(測定条件)
・3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品5.0gを密閉可能な500mLの容器に充填し、30℃で20分以上静置する。その後、気相部を200mL吸引し、H2O、N2、O2、及びCO2を除去した残部を濃縮装置で濃縮する。
・濃縮した試料を下記条件の下、におい嗅ぎガスクロマトグラフィーで測定し、質量分析検出器により測定成分の構造解析をする。
分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム;長さ60m×内径320μm×膜厚1μm
昇温プログラム:35℃で2分保持した後、10℃/分で昇温し、240℃に到達したら7分30秒保持する。
キャリアガス:ヘリウム
質量分析検出器の測定条件は下記のとおりである。
イオン化モード:EI
測定タイプ:スキャン
イオン源温度:250℃
四重極温度:150℃
電子エネルギー:70.0eV
スキャン開始質量:30
スキャン終了質量:400
【0010】
本実施形態に係る3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品において、「空気雰囲気下80℃で4週間加熱後」とは、3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を長期貯蔵した状態を作るための加速条件を意味する。
【0011】
既述のように、3,5,5-トリメチルヘキサン酸の製造時に副生するt-BuOHは、従来の蒸留等の精製方法によって十分低減可能と考えられており、実際、不純物の検出に用いられる通常のガスクロマトグラフィーでは、t-BuOHは検出レベルでは確認されなかった。
しかし、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を長期間貯蔵すると、t-BuOHが増加することが新たに見出された。
このt-BuOHの増加について鋭意検討した結果、より高感度のにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー測定により、製造直後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品に、微量のt-ブチルアルコール(t-BuOH)が存在することがわかった。
【0012】
本発明は、かかる新規の問題、すなわち、製造直後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品に、微量のt-BuOHが存在し、3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を長期間貯蔵するとt-BuOHが増加すること見出し、該問題を3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を上記構成とすることにより解決する。
【0013】
〔加速条件〕
本実施形態に係る3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品は、製造直後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を空気雰囲気下80℃で4週間加熱後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品である。
3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品の製造方法は後述する。
【0014】
〔におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定〕
におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定は、次の手法で試料を濃縮してから、濃縮した試料の成分を、におい嗅ぎガスクロマトグラフィーで分析しつつ、質量分析検出器により成分の構造解析をすることにより行う。
【0015】
(試料の濃縮)
3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品は、大気圧(0.1MPa)下、室温(25℃)において、液体である。3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品5.0gを密閉可能な500mLの容器に充填し、30℃で20分以上静置する。その後、気相部を200mL吸引し、H2O、N2、O2、及びCO2を除去した残部を濃縮装置で濃縮する。
濃縮装置は独立していてもよいし、におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析検出器に連結されていてもよい。
濃縮装置は、例えば、ENTECH INSTRUMENTS社製の「Entech7200自動濃縮装置」を用いることができる。
【0016】
濃縮条件は下記のとおりである。
内部標準物質:100mL(重トルエン標準ガス:濃度10体積ppb、希釈ガスは窒素、住友精化株式会社)
濃縮手法:CTDモード(Cold Trap Dehydration)
・Dehydration Module1(Empty Trap:吸着剤が充填されていないセラミックコーティングされたトラップ)の温度条件:Trap Temp.-40℃、Desorption Temp.0℃
・Cold Tenax(登録商標)Module2(Tenax TA Trap:吸着剤としてTenax TAが充填されているセラミックコーティングされたトラップ)の温度条件:Trap Temp.-30℃、Desorption Temp.200℃
・Focusing Module3(Cryo focusing)の温度条件:Trap Temp.-165℃、Desorption Temp.100℃
・サンプル流量:50mL/min
・He Flush Volume:75mL
・M1 to M2 Volume:40mL(100mL/min)
・M2 to M3 Time:3.0min
・Injection time:0.3min
ここで、Tenax TAとは、2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシドをベースにした弱極性のポーラスポリマービーズである。
また、M1、M2、M3は、各々、上記Module1、2、3に対応しており、「M1 to M2」及び「M2 to M3」は、Module間のサンプル流通の条件を表す。また、各Moduleでは下記のことが行われている。
M1:水、空気などの除去
M2:CO2を通してVOCを除去
M3:試料のフォーカシング
【0017】
(におい嗅ぎガスクロマトグラフィー)
におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(におい嗅ぎGC)装置は、例えば、Agilent Technologies社製の「Agilent 7890BガスクロマトグラフィーSystem」を用いることができる。
におい嗅ぎGCの測定条件は下記のとおりである。
分析カラム:Agilent Technologies社製 DB-1(固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム;長さ60m×内径320μm×膜厚1μm)
昇温プログラム:35℃で2分保持した後、10℃/分で昇温し、240℃に到達したら7分30秒保持する。
キャリアガス:ヘリウム
コントロールモード:コンスタントプレッシャー(153.09kPa)
濃縮された試料は、キャピラリーカラムで分離後ODP3(スニッフィングポート)と質量分析検出器(例えば、下記MSD5977B)に1/1の比率で送られる。
【0018】
(質量分析検出器)
質量分析検出器(MSD)は、例えば、Agilent Technologies社製の「Agilent 5977B MSD」を用いることができる。
MSDの測定条件は下記のとおりである。
イオン化モード:EI
測定タイプ:スキャン
イオン源温度:250℃
四重極温度:150℃
電子エネルギー:70.0eV
スキャン開始質量:30
スキャン終了質量:400
検量線:住友精化(株)製の重トルエン標準ガス(濃度:10体積ppb、希釈ガス:窒素)を用いて作成する。
【0019】
データ解析時は、抽出イオンクロマトグラム(EIC)を用いて重トルエンの相対保持時間を1.0とした時の相対保持時間0.48~0.56に現れるt-ブチルアルコールのEICピーク面積(EIC:m/z59.000)を確認する。
3,5,5-トリメチルヘキサン酸の蒸気中のt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度の算出には、t-ブチルアルコールのEICピークの感度が重トルエンのEICピークの感度と等しいと仮定し、上記検量線によって導出された式である「重トルエン換算濃度(体積ppb)=3.94×10-6×EICピーク面積」を用いて算出する。
【0020】
〔t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度〕
本実施形態に係る3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品は、上記におい嗅ぎGC/MSD測定によるt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度が、370体積ppb以下であることが好ましく、340体積ppb以下であることがより好ましく、200体積ppb以下であることが更に好ましい。
【0021】
<3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品の製造方法>
本実施形態に係る3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品の製造方法は特に制限されないが、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を合成する合成工程と、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を精製する精製工程とを有することが好ましい。
精製工程は、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を水洗する水洗工程及び水洗工程で得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸を不活性ガスでバブリングするバブリング工程を含むことが好ましい。
【0022】
〔合成工程〕
粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸は、公知の合成方法で合成すればよい。
例えば、国際公開第2022/118917号に記載の方法で粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を合成することができる。具体的には、例えば、ジイソブチレンとオキソガスとのヒドロホルミル化反応により、3,5,5-トリメチルヘキサナールを合成し、続く酸化反応により粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を合成する。
【0023】
〔精製工程〕
精製工程は、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を水洗する水洗工程及び前記水洗工程で得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸を不活性ガスでバブリングするバブリング工程を含む。
精製工程は、更に、蒸留工程等を含んでいてもよい。蒸留工程は、水洗工程よりも前に行うことが好ましい。
【0024】
(蒸留工程)
蒸留工程は、3,5,5-トリメチルヘキサン酸の沸点(120℃/13mmHg)よりも沸点が低い低沸点成分を除去する工程である。
具体的には、例えば、脱高沸留分を、還流冷却器と温度計を備えた3つ口フラスコに入れて25kPaで減圧蒸留し、塔頂温度が180~200℃の間の留分を回収して脱低沸留分を得る。
【0025】
(水洗工程)
水洗工程は、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を水洗する工程である。
水洗工程は、合成工程で得られた粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を水と混合し、水層と有機層に相分離させた後、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を含む有機層を得る工程である。
水洗工程は、蒸留工程を経た後に、行うことが好ましい。
水の使用量は、抽出効率の観点から、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸100質量部に対して、10~300質量部であることが好ましく、20~200質量部であることがより好ましい。粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸に水を混合する温度は、特に限定されないが、抽出効率の観点から、5~80℃の間の温度であることが好ましく、10~50℃の間の温度であることがより好ましく、10~30℃の間の温度であることが更に好ましい。
【0026】
粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸と、水との混合は、例えば、回分式又は連続式等で実施することができる。
回分式で実施する場合、例えば、混合槽に粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸と水を入れ、好ましくは10秒~2時間撹拌した後、好ましくは1分~2時間静置して相分離し、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を含む有機層を得る手法等が挙げられる。得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸を含む有機層に対して、さらに水を加え、相分離した後、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を含む有機層を得る操作を繰り返してもよく、繰り返す回数としては、1~3回が好ましい。この場合、添加する水の使用量は、1回当たり、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸100質量部に対して、10~300質量部であることが好ましい。
【0027】
粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸と水との混合液を撹拌し、静置した後に、混合液に超音波照射を行ってもよい。超音波照射することで、相分離にかかる時間を短縮することができる。
【0028】
連続式で実施する場合の装置としては、一般に連続抽出等に用いられる装置、例えば、ミキサーとセトラの組み合わせ、スプレー塔、充填塔、棚段塔等が使用できるが、特に、理論段数が3段以上の充填塔又は棚段塔を用いることが好ましい。
【0029】
(バブリング工程)
バブリング工程は、水洗工程で得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸を不活性ガスでバブリングする工程である。
水洗工程で得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸を含む有機層に不活性ガスをバブリングさせ水及びt-BuOHを除去する。
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスを用いることができる。
バブリングする際の不活性ガスの導入量は、有機層1kg当り、0.5~15l/minであることが好ましく、より好ましくは2.5~7.5l/minである。バブリング工程における温度は5℃以上、40℃未満であり、バブリング時間は、通常、1~30時間であり、好ましくは5~15時間である。
【実施例0030】
次に実施例により本開示の技術を具体的に説明するが、本開示の技術はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
(合成工程)
国際公開公報WO2022118917A1に記載の方法を参照し、粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を合成した。すなわち、ジイソブチレンとオキソガスとのヒドロホルミル化反応により、3,5,5-トリメチルヘキサナールを合成し、続く酸化反応により粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸を得た。
【0032】
(蒸留工程)
次に前記粗3,5,5-トリメチルヘキサン酸239.50gを、還流冷却器と温度計を備えた300mL3つ口フラスコに入れて25kPaで減圧蒸留し、塔頂温度が188~191℃の間の留分を回収して脱低沸留分を184.64g、回収率77.1%で得た。
【0033】
(水洗工程)
次に前記蒸留工程後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸185g、水370gを1Lガラス製サンプル瓶に仕込み、室温下で1分間振とう撹拌後、シャープマニファクチャリングシステム社製超音波洗浄機(UT-206H)を用いて、温度20℃下で超音波を1分照射した後30分間静置し、水層と有機層に相分離した。
【0034】
(バブリング工程)
次に前記水洗工程後の有機層をナスフラスコに仕込み、室温下でスパージャーを通して窒素を800mL/分の流量で導入して10時間攪拌させることで3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を183g得た。
得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は93体積ppbであった。
【0035】
[保存安定性試験]
3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品10gを空気雰囲気下20mLガラス製容器に入れて密閉し、80℃に保たれた恒温槽内に静置した。恒温槽内に静置してから4週間経過後に3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を取り出した。
取り出した保存安定性試験後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は362体積ppbであった。
【0036】
〔実施例2〕
水洗工程の回数を2回としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は35体積ppbであった。
また、保存安定性試験後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は337体積ppbであった。
【0037】
〔実施例3〕
水洗工程の回数を3回としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は27体積ppbであった。
また、保存安定性試験後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は153体積ppbであった。
【0038】
〔比較例1〕
水洗工程とバブリング工程を実施しなかったこと以外は実施例1と同様に行った。得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は213体積ppbであった。
また、保存安定性試験後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、後述の条件にて濃縮装置付きガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、t-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度は529体積ppbであった。
【0039】
<におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定>
実施例1~3及び比較例1における保存安定性試験前後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品それぞれについて、におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定を行った。
【0040】
(試料の濃縮)
まず、得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品について、下記の濃縮装置、条件により濃縮を行った。
濃縮装置:ENTECH INSTRUMENTS社製 Entech7200自動濃縮装置
試料量:5.0g
容器容量:500mL
注入量:30℃で20分以上静置した容器中の気相部を200mL
内部標準物質:100mL(重トルエン標準ガス:濃度10体積ppb、希釈ガスは窒素、住友精化株式会社)
濃縮手法:CTDモード(Cold Trap Dehydration)
Dehydration Module1(Empty Trap:吸着剤が充填されていないセラミックコーティングされたトラップ)の温度条件:Trap Temp.-40℃、Desorption Temp.0℃
Cold Tenax(登録商標)Module2(Tenax TA Trap:吸着剤としてTenax TAが充填されているセラミックコーティングされたトラップ)の温度条件:Trap Temp.-30℃、Desorption Temp.200℃
Focusing Module3(Cryo focusing)の温度条件:TrapTemp.-165℃、Desorption Temp.100℃
サンプル流量:50mL/min
He Flush Volume:75mL
M1 to M2 Volume:40mL(100mL/min)
M2 to M3 Time:3.0min
Injection time:0.3min
ここで、Tenax TAとは、2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシドをベースにした弱極性のポーラスポリマービーズである。
【0041】
次に、濃縮された試料について、下記のにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー(におい嗅ぎGC)装置及び質量分析検出器(MSD)を用いて、におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析を行った。
(におい嗅ぎGC)
測定機器:Agilent Technologies社製 Agilent 7890BガスクロマトグラフィーSystem
分析カラム:Agilent Technologies社製 DB-1(固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム;長さ60m×内径320μm×膜厚1μm)
昇温プログラム:35℃で2分保持した後、10℃/分で昇温し、240℃に到達したら7分30秒保持する。
キャリアガス:ヘリウム
コントロールモード:コンスタントプレッシャー(153.09kPa)
濃縮された試料は、キャピラリーカラムで分離後ODP3(スニッフィングポート)とMSD5977Bに1/1の比率で送られる。
【0042】
(MSD)
検出器:Agilent Technologies社製 Agilent 5977B MSD
イオン化モード:EI
測定タイプ:スキャン
イオン源温度:250℃
四重極温度:150℃
電子エネルギー:70.0eV
スキャン開始質量:30
スキャン終了質量:400
検量線:住友精化(株)製の重トルエン標準ガス(濃度:10体積ppb、希釈ガス:窒素)を用いて作成した。
【0043】
(データ解析)
データ解析時は、抽出イオンクロマトグラム(EIC)を用いて重トルエンの相対保持時間を1.0とした時の相対保持時間0.48~0.56に現れるt-ブチルアルコールのEICピーク面積(EIC:m/z59.000)を確認した。3,5,5-トリメチルヘキサン酸の蒸気中のt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度の算出には、t-ブチルアルコールのEICピークの感度が重トルエンのEICピークの感度と等しいと仮定し、上記検量線によって導出された式である「重トルエン換算濃度(体積ppb)=3.94×10-6×EICピーク面積」を用いて算出した。
結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
実施例1~3で得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品は、保存安定性試験後においても、におい嗅ぎガスクロマトグラフィー/質量分析測定によるt-ブチルアルコールの重トルエン換算濃度が、400体積ppb以下であった。すなわち、実施例で得られた3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品は、長期間の貯蔵後でも、生殖毒性の抑制に優れることがわかる。
本発明によれば、長期間貯蔵しても生殖毒性が低い3,5,5-トリメチルヘキサン酸製品を提供することができる。本実施形態に係る3,5,5-トリメチルヘキサン酸は、潤滑油(例えば、冷凍機油)、金属石鹸、可塑剤、界面活性剤、アルキッド樹脂、脂肪酸クロライド、金属加工油、化粧品等の原料として利用することができる。