(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155365
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】通路型箱罠
(51)【国際特許分類】
A01M 23/20 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
A01M23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070021
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】523152112
【氏名又は名称】NPO法人野生動物被害対策研究会
(72)【発明者】
【氏名】大平 正
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA01
2B121BA12
2B121BA16
2B121BA51
2B121BA58
2B121EA26
2B121FA14
(57)【要約】
【課題】圃場を囲む侵入防止柵の一部に設置される通路型箱罠において、簡易な構成により、動物の大きさに関係なく対象動物を確実に捕獲できるようにする。
【解決手段】圃場8を囲む侵入防止柵9の一部に設置される通路型箱罠10であって、2つの開口部1a、1bの一方を柵外に他方を柵内にそれぞれ向けて設置される略直方体の檻本体1と、2つの開口部をそれぞれ開閉しかつ開位置に保持可能な2つの扉2a、2bと、檻本体1内の床面1c上で幅方向Wに延在する1つの端部3aから柵内に向かって登坂の傾斜姿勢で設置可能な略矩形の踏板部3と、踏板の踏み下げに応じて2つの扉を開位置から閉位置とするためのトリガー機構5と、を備え、踏板部3は、檻本体1の長手方向Lにおいて対象動物が飛び越え不可能な長さAを有すると共に、檻本体1の幅W方向において対象動物が横をすり抜け不可能な長さBを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場(8)を囲む侵入防止柵(9)の一部に設置される通路型箱罠(10)であって、
2つの開口部(1a、1b)の一方を柵外に他方を柵内にそれぞれ向けて設置される略直方体の檻本体(1)と、
前記2つの開口部(1a、1b)をそれぞれ開閉しかつ開位置に保持可能な2つの扉(2a、2b)と、
前記檻本体(1)内の床面(1c)上で幅方向(W)に延在する1つの端部(3a)から柵内に向かって登坂の傾斜姿勢で設置可能な略矩形の踏板(31)を少なくとも具備する踏板部(3)と、
前記踏板部(3)の降下に応じて前記2つの扉(2a、2b)を開位置から閉位置とするためのトリガー機構(5)と、を備え、
前記踏板部(3)は、前記檻本体(1)の長手方向(L)において対象動物が飛び越え不可能な長さ(A)を有すると共に、前記檻本体(1)の幅(W)方向において対象動物が横をすり抜け不可能な長さ(B)を有する、通路型箱罠。
【請求項2】
前記踏板部(3)が、前記踏板(31)の前記端部(3a)に対向する別の端部(3b)に連結されかつ前記柵内に向かって降坂の傾斜姿勢で設置可能な略矩形の第2の踏板(32)を備える、請求項1に記載の通路型箱罠。
【請求項3】
前記踏板(31)及び/又は前記第2の踏板(32)がワイヤーメッシュである、請求項1又は2に記載の通路型箱罠。
【請求項4】
前記踏板部(3)が、前記檻本体(1)の長手方向(L)において柵内側に寄った位置に配置される、請求項1又は2に記載の通路型箱罠。
【請求項5】
前記踏板部(3)を傾斜姿勢に保持するように吊り上げるための線状連結部材(4)と、
前記線状連結部材(4)に掛かる張力が印加されかつ磁力により所定の固定物に付着することによって前記線状連結部材(4)を介して前記踏板部(3)を保持する磁石(5i)と、を備えた請求項1又は2に記載の通路型箱罠。
【請求項6】
前記踏板部(3)の降下に応じて前記磁石(5i)が前記固定物から外れることによって、前記トリガー機構(5)が作動する、請求項5に記載の通路型箱罠。
【請求項7】
前記トリガー機構(5)が、前記磁石(5i)の磁力線の消失を検知するセンサ(5k)を有し、前記センサ(5k)による磁力線の消失の検知によって前記トリガー機構(5)が作動する、請求項6に記載の通路型箱罠。
【請求項8】
前記踏板部(3)を傾斜姿勢に保持するように吊り上げるための線状連結部材(4)を備え、前記トリガー機構(5)は、
前記2つの扉(2a、2b)を開位置に保持する保持手段(6)を解除するための初動を生じるトリガー部材(5g)と、
前記線状連結部材(4)の上端と連結され、前記トリガー部材(5g)を所定の位置に保持するためのロックピン(5a)と、を有し、
前記踏板(3)の踏み下げによって前記ロックピン(5a)が前記トリガー部材(5g)から外れると、前記トリガー部材(5g)の初動を生じる、請求項1又は2に記載の通路型箱罠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、侵入防止柵で囲まれた圃場へ侵入しようとする害獣を捕獲する通路型箱罠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物の食害を防止するために害獣を捕獲する装置として、箱罠が知られている。一般的な箱罠は、対象動物がよく通るであろうと想定される場所に設置され、扉を開位置に保持し餌を置いて中に入るように誘引する。箱罠には、入口が1つのみの片扉式と、2つの入口をもつ両扉式がある。扉を閉じるための仕掛けとして、横方向の蹴り糸、縦方向の蹴り糸、踏板などがある。特許文献1、2は、踏板を設けた両扉式箱罠を開示している。
【0003】
特許文献3は、圃場の周りを害獣侵入防止柵で囲み、その柵の一部を開放し、開放部分に両扉式の箱罠を設置する方式を開示している。この場合の箱罠は、一方の開口部が柵外に、他方の開口部が柵内に向くように設置される。これは、一方の開口部を入口とし他方の開口部を出口とする通路型箱罠である。動物の習性として、圃場を囲む柵の一部に侵入し易い開口部があると、わざわざ柵を壊したり穴を掘ったりして侵入せずにその開口部から侵入しようとする。通路型箱罠は、この習性を利用している。
【0004】
なお、特許文献3では、仕掛けとして物体センサ又はカメラセンサを用い、それにより動物の侵入を感知して扉を閉じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-37524号公報
【特許文献2】実用新案登録第3203801号公報
【特許文献3】特開2022-22925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2のような圃場外に設置する両扉式箱罠の場合、動物が2つの入口の一方から他方へと通過してしまって捕獲に失敗しても直ちに圃場に被害が発生するものではない。それに対し、特許文献3のような通路型箱罠の場合、一度でも通過されてしまうと必ず圃場に被害が発生してしまうため、確実に通過を阻止しなければならない。そのため、通路型箱罠では、より確実に動物の通過を阻止する仕掛けが求められる。横方向に張る蹴り糸は、その高さ位置が決まっているため飛び越えやくぐり抜けの可能性があり、大小様々な動物を確実に捕獲することができない。縦方向の蹴り糸もその間を通り抜ける可能性があるため同様である。
【0007】
特許文献1、2の両扉式箱罠では踏板を仕掛けとしているが、両方の扉がいずれも入口として機能することを想定しているため、箱の中央部に踏板が設けられている。したがって、特許文献1、2の両扉式箱罠を、特許文献3の侵入防止柵の一部に設置した場合、中央部の踏板を飛び越える動物もいるため、やはり大小様々な動物を確実に捕獲することができない。
【0008】
また、特許文献3に記載されるようなセンサによる動物の感知システムはコスト高となる問題がある。
【0009】
以上の現状に鑑み、本発明の目的は、圃場を囲む侵入防止柵の一部に設置される通路型箱罠において、簡易な構成により、対象動物を確実に捕獲できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく本発明は、以下の構成を提供する。括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付している。
【0011】
[1]本発明の態様は、圃場(8)を囲む侵入防止柵(9)の一部に設置される通路型箱罠(10)であって、
2つの開口部(1a、1b)の一方を柵外に他方を柵内にそれぞれ向けて設置される略直方体の檻本体(1)と、
前記2つの開口部(1a、1b)をそれぞれ開閉しかつ開位置に保持可能な2つの扉(2a、2b)と、
前記檻本体(1)内の床面(1c)上で幅方向(W)に延在する1つの端部(3a)から柵内に向かって登坂の傾斜姿勢で設置可能な略矩形の踏板(31)を少なくとも具備する踏板部(3)と、
前記踏板部(3)の降下に応じて前記2つの扉(2a、2b)を開位置から閉位置とするためのトリガー機構(5)と、を備え、
前記踏板部(3)は、前記檻本体(1)の長手方向(L)において対象動物が飛び越え不可能な長さ(A)を有すると共に、前記檻本体(1)の幅(W)方向において対象動物が横をすり抜け不可能な長さ(B)を有する。
[2]上記態様において、前記踏板部(3)が、前記踏板(31)の前記端部(3a)に対向する別の端部(3b)に連結されかつ前記柵内に向かって降坂の傾斜姿勢で設置可能な略矩形の第2の踏板(32)を備えることが好適である。
[3]上記態様において、前記踏板(31)及び/又は前記第2の踏板(32)がワイヤーメッシュであることが好適である。
[4]上記態様において、前記踏板部(3)が、前記檻本体(1)の長手方向(L)において柵内側に寄った位置に配置されることが好適である。
[5]上記態様において、前記踏板部(3)を傾斜姿勢に保持するように吊り上げるための線状連結部材(4)と、
前記線状連結部材(4)に掛かる張力が印加されかつ磁力により所定の固定物に付着することによって前記線状連結部材(4)を介して前記踏板部(3)を保持する磁石(5i)と、を備えることが好適である。
[6]上記態様において、前記踏板部(3)の降下に応じて前記磁石(5i)が前記固定物から外れることによって、前記トリガー機構(5)が作動することが好適である。
[7]上記態様において、前記トリガー機構(5)が、前記磁石(5i)の磁力線の消失を検知するセンサ(5k)を有し、前記センサ(5k)による磁力線の消失の検知によって前記トリガー機構(5)が作動する、ことが好適である。
[8]上記態様において、前記踏板部(3)を傾斜姿勢に保持するように吊り上げるための線状連結部材(4)を備え、前記トリガー機構(5)は、
前記2つの扉(2a、2b)を開位置に保持する保持手段(6)を解除するための初動を生じるトリガー部材(5g)と、
前記線状連結部材(4)の上端と連結され、前記トリガー部材(5g)を所定の位置に保持するためのロックピン(5a)と、を有し、
前記踏板(3)の踏み下げによって前記ロックピン(5a)が前記トリガー部材(5g)から外れると、前記トリガー部材(5g)の初動を生じることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圃場を囲む侵入防止柵の一部に設置される通路型箱罠において、対象動物が飛び越え不可能な長手方向の長さと、横をすり抜け不可能な幅方向の長さを有する踏板部を設置することによって、対象動物を確実に捕獲できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の通路型箱罠の設置状況の一例を概略的示した図である。
【
図2】
図2は、
図1の通路型箱罠の概略的な拡大斜視図である。
【
図4】
図4(a)(b)は踏板の例であり、(c)は踏板の長さ設定を示す。
【
図5】
図5(a)は、通路型箱罠の別の実施形態を例示する概略側面図であり、(b)は(a)の踏板部を柵外側から視た略正面図である。
【
図6】
図6は、本発明のトリガー機構5の一例を模式的に示し、(a)は、踏板部の仕掛け状態における一部断面を含む側面図、(b)は、踏板部の踏み下げ時を示している。
【
図7】
図7は、本発明のトリガー機構の別の例を模式的に示し、(a)は、踏板部の仕掛け状態における一部断面を含む側面図、(b)は、踏板部の踏み下げ時を示している。
【
図8】
図8は、トリガー機構の一例を概略的かつ模式的に示し、(a)は、踏板の仕掛け状態の平面図、(b)は(a)のI-I断面であり、(c)は(b)と同様の断面図であるが、踏板の踏み下げ時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、例示的構成を示した図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。本発明の箱罠は、2つの扉を有する箱罠であるが、一方の扉が入口であり他方の扉が出口である。したがって、両方の扉が入口である従来の一般的な両扉式箱罠と区別するために「通路型箱罠」と称している。
【0015】
図1は、本発明の通路型箱罠10の設置状況の一例を概略的示した図である。
図1では、見易さのために、通路型箱罠10の檻本体1の格子の一部の図示を省略している(以下の
図2も同様)。
【0016】
図1に示すように、農作物を栽培する圃場8は、その周囲のほぼ全体を侵入防止柵9で囲まれている。侵入防止柵9は、例えば高強度繊維ネット又は金網で形成される。侵入防止柵9の高さ及び網目の大きさは、対象動物に合わせて設定されている。なお、作業者が圃場8に出入りするための出入口については図示を省略している。
【0017】
仮に圃場8を完全に侵入防止柵9で囲んだ場合、動物は柵を壊したり穴を掘ったりして侵入を試みる習性がある。そこで、侵入防止柵9の一部に柵を設けず開放し、その開放部分に本発明の通路型箱罠10を設置する。通路型箱罠10と侵入防止柵9との間に隙間を生じないように設置する。侵入防止柵9の一部にこのような侵入し易い開口部があると、動物は、わざわざ柵を壊したり穴を掘ったりせずにその開口部から侵入しようとする。通路型箱罠10は、この動物の習性を利用することによって高い捕獲率が得られる。
【0018】
図1に示す通路型箱罠10は仕掛け状態すなわち待ち状態であり、2つの扉2a、2bが上昇位置すなわち開位置に保持されている。通路型箱罠10の一方の開口部は柵外を向いて開口し、他方の開口部は柵内を向いて開口している。通路型箱罠10の檻本体1内には、仕掛けとして踏板部3が設置されている。通路型箱罠10では、圃場8自体が動物を誘引する餌の役割を果たすので、檻本体1内に餌を置く必要はない。
【0019】
図2は、
図1の通路型箱罠10の概略的な拡大斜視図である。
図3は、
図2の通路型箱罠10をさらに簡略化して示した側面図である。
図4は、踏板部3を構成する踏板の例と大きさを示す。
図2~
図4を参照して、通路型箱罠10の構成を詳細に説明する。
【0020】
図2に示すように、通路型箱罠10は、鉄筋や鋼棒等により形成された略直方体の檻本体1を有する。通路型箱罠10の2つの開口部を結ぶ前後方向を、檻本体1の長手方向Lとし、それに垂直な方向を幅方向Wと称する。檻本体1の大きさ及び格子の升目の大きさは対象動物に応じて設計される。図示の例では、檻本体1の底面格子上に適宜の平板を敷いて床面1cを形成している。
【0021】
図2及び
図3に示すように、檻本体1は、長手方向Lの一方の端面に柵外に向いた開口部1aを、他方の端面に柵内に向いた開口部1bを具備する。2つの開口部1a、1bをそれぞれ開閉するための2つの扉2a、2bが設けられている。各扉2a、2bは、各開口部1a、1bの両側縁に取り付けた一対のレール2c、2cに沿って上下移動可能である。詳細には示さないが、扉2a、2bを上昇位置すなわち開位置に保持するための保持手段6が適宜設けられる。図示の保持手段6の位置及び形状は模式的に示したものであり、公知の多様な構成を採用できる。
【0022】
檻本体1の内部には、仕掛けとして踏板部3が配置されている。踏板部3は少なくとも1枚の略矩形の踏板31を具備する。一例として
図2に示す踏板部3は、
図4(a)に示すような平板の1枚の踏板31を具備する。平板は、木製、金属製、樹脂製等である。別の例では、踏板31として
図4(b)に示すようなワイヤーメッシュを用いることができる。ワイヤーメッシュの踏板31は、降雪の重みによる誤作動を回避できるという利点がある。また、ワイヤーメッシュの網目の大きさを選択することで、踏板31自体の重さを調節可能である。さらに、網目の大きさを選択することで、対象動物の大きさを限定することも可能である。図示しないが別の例として、孔あき板や柵状板などでもよい。
【0023】
図2及び
図3に示すように、踏板31は、仕掛け状態において傾斜姿勢で設置される。その場合、踏板31の1つの端部3aが、床面1c上で幅方向Wに延在し、その端部3aを軸として踏板31が旋回可能であるように設置されることが好ましい。図示の例では、蝶番である支持具3cを用いて踏板31の端部3aを床面1cに取り付けている。踏板31を床面1c上で旋回可能に支持する支持具3cの具体例は蝶番に限られない。踏板31が完全に踏み下げられると、踏板31は床面1c上に載置された状態となる。別の例として、踏板31の端部3aを床面1cに固定せずに自由端としてもよい。
【0024】
さらに、踏板31の端部3aに対向する別の端部3bには、鉛直方向に延在する線状連結部材4の下端が連結されている。図示の例では、踏板31の端部3bの中央を1本の線状連結部材4により吊っている。仕掛け状態において、線状連結部材4の上端は、トリガー機構5と連結されている。図示の例では、トリガー機構5は檻本体1の天井部の上に固定されている。トリガー機構5は、動物による踏板31の踏み下げすなわち踏板31の降下に応じて、2つの扉2a、2bを開位置から閉位置として檻本体1を閉鎖状態とするための仕組みである。線状連結部材4は、例えば糸、紐、ワイヤー、細い金属線材などである。線状連結部材4によって踏板31の端部3bを吊ることによって、踏板31が柵内に向かって登坂となる傾斜姿勢に保持される。
図3に示す傾斜角θは、対象動物の大きさや跳躍力、その他の条件に合わせて最適に設定される。
【0025】
線状連結部材4は、踏板31の降下の発生をトリガー機構5に伝達可能な伝達手段の一例である。このような伝達手段は、線状連結部材4のような機械的手段の他に、電気・電子的、磁気的、又は光学的に踏み下げを感知してトリガー機構5に伝達する手段でもよく、多様に構成することができる。例えば踏板31の下にスイッチを設けてもよい。コスト的には電源が不要な手段が好ましい。
【0026】
ここで踏板部3の大きさについて説明する。通路型箱罠10では、動物が踏板部3を飛び越えたり横をすり抜けたりすると直ちに圃場に被害が発生してしまうため、確実に踏板部3の踏板31を踏ませる必要がある。このために
図4(c)に示すように、檻本体1の長手方向Lにおいて、踏板31を傾斜姿勢に保持した状態の踏板部3の長さAを、対象動物が飛び越え不可能な長さとなるように設定する。長さAを決定するために必要な対象動物の跳躍力は、経験的又は学術的な知見から得ることができる。例えば、複数種の動物を対象とする場合、長手方向Lの長さAは、対象動物のうち最大の跳躍力をもつものであっても飛び越えられない長さに設定する。
【0027】
また、
図4(a)に示す檻本体1の幅方向Wにおける踏板部3の長さBは、対象動物が踏板部3の横をすり抜け不可能な長さとなるように設定される。すなわち、踏板31の両縁と檻本体1の側面との間の隙間が十分小さくなるようにして、すり抜け不可能とする。長さBを決定するために必要な対象動物の大きさも、経験的又は学術的な知見から得ることができる。例えば複数種の動物を対象とする場合、幅方向Wの長さBは、対象動物のうち最小の大きさのものであっても横をすり抜けできない長さに設定する。なお、長さBは、踏板31の両縁と檻本体1の側面との間に全く隙間がないように設定してもよいが、多少の隙間を設けることが好ましい。
【0028】
このような踏板部3の大きさの設定によって、大小様々な大きさの動物を対象範囲に含めることができる。踏板部3の大きさを変えることによって、例えばネズミから、イノシシ、シカ、クマまで対象とすることも可能である。
【0029】
さらに、踏板部3は、
図2及び
図3に示すように、檻本体1の長手方向Lにおいて柵内側に寄った位置に配置されることが好ましい。すなわち、踏板部3は、檻本体1の長手方向Lの中央に対して非対称に配置されている。例えば、踏板部3の長さAが檻本体1の長さの半分程度である場合、踏板部3を柵外側に寄った位置や中央部に設けると、動物が入ってくる入口に近くに大きな踏板31が存在することになるため、警戒して入らなくなる可能性がある。よって、踏板部3は、できるだけ柵内側に寄った位置に配置することが好ましい。
【0030】
通路型箱罠10における上記のような踏板部3の長さA、Bの設定及び位置の設定は、一般的な両扉式箱罠の踏板におけるそれらの設定とは全く異なる。結果的に、本発明における檻本体1に対する踏板部3の相対的な大きさは、一般的な踏板に比べて大きなものとなる。具体的数値は対象動物によって異なるため限定できないが、例えば、本発明の踏板部3の長さAは、檻本体1の長さの4割~5割程度になることが多い。
【0031】
本発明と比較すると、一般的な両扉式箱罠は動物の通り道に設置され、両方の開口部が入口として想定されている。したがって、一般的な両扉式箱罠は、長手方向の中央に対して対称的に設計され、踏板も中央部に設けられている。また、中央部に大きな踏板を設けると警戒されるため、目立たないように小さめに設計されている。さらに一般的な両扉式箱罠は、基本的に餌で誘引して餌を食べて動き回る間に踏板を踏むことを前提とすることからも、比較的小さい踏板が用いられる。一般的な両扉式箱罠は、圃場に直結して設けられていないため、仮に動物が踏板を飛び越え通過してしまっても即座に被害には繋がらない。よって、100%の確率で踏むような大きな踏板にこだわる必要がない。
【0032】
それに対し、本発明の通路型箱罠10は、圃場に直結しているので確実に踏板31を踏ませて捕獲する必要がある。通路型箱罠10では、動物の入口は柵外側の開口部のみであるので、比較的大きな踏板部3であっても、それを柵内側に寄せて入口から遠ざけることで、動物の警戒心を和らげることができる。
【0033】
図5(a)は、通路型箱罠10の別の実施形態を例示する概略側面図であり、(b)は(a)の踏板部3を柵外側から視た概略正面図である。この実施形態では、踏板部3が、踏板31の端部3aに対向する別の端部3bに連結された第2の踏板32を有する。第2の踏板32もまた略矩形であり、柵内に向かって降坂の傾斜姿勢で設置可能である。側面視において踏板31と第2の踏板32は山形を形成する。踏板31と第2の踏板32の幅方向の長さBは同じである。踏板31の端部3bと第2の踏板32の端部3dは、一例として蝶番である連結具3fによって互いに旋回可能に連結されている。第2の踏板32の端部3dに対向する別の端部3eは、床面1c上で幅方向に延在しているが、床面1cに固定されていない。これによって、踏板31又は第2の踏板32が、踏み下げられ降下することができる。完全に踏み下げられると踏板31及び第2の踏板32は、床面1c上で平坦な状態となる。第2の踏板32も、
図4(b)に示したワイヤーメッシュとすることができる。
【0034】
図示の例では、踏板31の端部3aは、支持具3cにより床面1c上に旋回可能に固定されているが、別の例として、踏板31の端部3aを床面1cに固定せずに自由端としてもよい。
【0035】
図5(a)に示すように、檻本体1の長手方向Lにおける踏板部3の長さAは、傾斜姿勢に保持された踏板31と第2の踏板32とを合わせた長さとなる。また、
図5(b)に示すように、檻本体1の幅方向Wにおける踏板部3の長さBは、踏板31及び第2の踏板32の幅方向の長さとなる。図示の例では、踏板31及び第2の踏板32の連結部である端部3b、3dの両端近傍を2本の線状連結部材で吊っている。
【0036】
図5(a)に示すように、檻本体1内の開口部1bの近傍において、天井部から垂れ下がった垂れ部材7が設けられている。垂れ部材7は、透明樹脂シート、すだれ、のれん、網などで形成されている。この垂れ部材7を、踏板部3と開口部1bの間に設けることによって、踏板部3の手前に居る動物に対して踏板部3の飛び越えに対する抵抗感や忌避感を生じさせる効果が得られる。飛び越えられないと感じた動物は踏板部3の上を歩こうとするので、仕掛けに掛かることになる。垂れ部材7の下端は、床面1cから少なくとも20cm程度の高さに位置することが好ましい。これは、垂れ部材7を閉塞した壁のように感じさせないためである。
【0037】
再び
図2及び
図3を参照して、トリガー機構5について説明する。踏板部3の降下によって線状連結部材4が引っ張られることに起因してトリガー機構5が作動し、扉2a、2bを開位置に保持している保持手段6を解除する。
図3では、トリガー機構5と保持手段6との連係を模式的に点線で示している。保持手段6が解除される結果、扉2a、2bが落下して開口部1a、1bを閉じる。
【0038】
トリガー機構5及び保持手段6については、多様な構成が公知となっており、本発明でもそれらの公知技術を採用できる。一例として、機械的な運動伝達機構のみによって保持手段6を作動させることができる。また別の例として、線状連結部材4の動きに起因して電子的スイッチ又はセンサを起動することで、電子制御によって保持手段6を作動させることもできる。
【0039】
図6は、本発明のトリガー機構5の一例を模式的に示している。(a)は、踏板部3の仕掛け状態における一部断面を含む側面図、(b)は、踏板部3の踏み下げ時を示している。
【0040】
図6(a)に示すように、トリガー機構5は、檻本体1の天井部の格子に固定された鉄板5bを有する。鉄板は、強磁性体の板の一例である。線状連結部材4の上端は、ロックピン5aの下端に連結されている。ロックピン5aは、一例として円柱状本体とその下端の輪とを具備する。仕掛け状態においては、ロックピン5aは、鉄板5bに形成されたピン孔5b1を貫通し、模式的に示した適宜のスイッチ5hをオフ状態に保持している。スイッチ5hは適宜の伝達手段により制御部5jと接続されている。
【0041】
ロックピン5aから分岐したアームの先端に磁石5iが取り付けられている。磁石5iは、その磁力により鉄板5bに付着可能である。鉄板5bは一例であり、磁石5iが付着可能な固定物であればよい。これによって線状連結部材4を吊り上げ、その下端に接続された踏板部3を傾斜姿勢に保持する。すなわち磁石5iには、線状連結部材4に掛かる張力が印加されている。磁石5iの磁力の大きさを調整することによって、線状連結部材4が吊り下げ可能な荷重を調整することができる。これにより、踏板部3に掛かる最小荷重を調整することができる。
【0042】
図6(b)に示すように、踏板部3の踏み下げによって線状連結部材4に引っ張られた磁石5iが鉄板5bから離れかつロックピン5aがトリガー部5から外れると(下向き白矢印参照)、スイッチ5hがオンとなる。スイッチ5hのオンは制御部5jに伝達され、それに応じて制御部5jは、扉2a、2bを開位置から閉位置とし、檻本体1を閉じる。この構成は一例であり、スイッチ5hが、電子的機構ではなく機械的機構を起動させることで扉2a、2bの保持手段を解除してもよい。トリガー機構5は、多様に構成することができる。
【0043】
図7は、本発明のトリガー機構5の別の例を模式的に示している。(a)は、踏板部3の仕掛け状態における一部断面を含む側面図、(b)は、踏板部3の踏み下げ時を示している。
【0044】
図7(a)に示すように、トリガー機構5は、檻本体1の天井部の格子に固定された孔あき鉄板5bを有する。線状連結部材4の上端は、ロックピン5aの下端に連結されている。ロックピン5aは、
図6と同様の形状であるが上端に磁石5iが取り付けられている。仕掛け状態においては、ロックピン5aの上端の磁石5iは、孔あき鉄板5bの下面に磁力により付着している。すなわち磁石5iには、線状連結部材4に掛かる張力が印加されている。
【0045】
孔あき鉄板5bの上面にはセンサ5kが取り付けられている。センサ5kは、磁石5iの磁力線の存在を検知する。磁石5iの磁力線が消失したとき、センサ5kは、適宜の信号を制御部5jに送信する。磁石5iの磁力の大きさを調整することによって、線状連結部材4が吊り下げ可能な荷重を調整することができる。すなわち、踏板部3に掛かる最小荷重を調整することができる。
【0046】
図7(b)に示すように、踏板部3の踏み下げによって線状連結部材4に引っ張られたロックピン5aが磁石5iと共にトリガー機構5から外れると(下向き白矢印参照)、センサ5kが磁力線の消失を検知し、適宜の信号を制御部5jに送信する。センサ5kは、例えばリードスイッチでもよい。その場合、例えばオフ状態のリードスイッチがオンになることを、制御部5jへの送信と見なす。それに応じて制御部5jは、扉2a、2bを開位置から閉位置とし、檻本体1を閉じる。この構成は一例であり、センサ5kが、電子的機構ではなく機械的機構を起動させることで扉2a、2bの保持手段を解除してもよい。トリガー機構5は、多様に構成することができる。
【0047】
図8は、本発明のトリガー機構5のさらに別の例を模式的に示している。(a)は、踏板部3の仕掛け状態の平面図、(b)は(a)のI-I断面(一部の構成要素は断面で示さず)であり、(c)は(b)と同様の断面図であるが、踏板部3の踏み下げ時を示している。
【0048】
図8(a)及び(b)に示すように、トリガー機構5の主要部は、檻本体1の天井部の格子に固定された適宜の筐体5mに搭載されている。線状連結部材4の上端は、ロックピン5aの下端に連結されている。ロックピン5aは、一例として円柱状本体とその下端の輪とからなる。仕掛け状態においては、ロックピン5aは、筐体5mに形成されたピン孔5m1と、その上方に水平に延在するトリガー部材5gに形成されたピン孔5g1とを貫通している。ロックピン5aによって、トリガー部材5gは水平方向の移動を制止されその位置に保持されている。
【0049】
図8では、トリガー部材5gの基端部近傍のみを示している。トリガー部材5gの図示しない部分は、多様に構成することができる。例えば、扉の保持手段を解除機構を作動させるリンク部材と連結されたり、扉の保持手段の解除制御を行う制御装置の電子的スイッチの駆動機構に接続されたりする。トリガー部材5gは、2つの扉2a、2bを開位置に保持する保持手段6の解除するための最初の動きすなわち初動を生じる部材である。
【0050】
トリガー部材5gの基端部には、コイルバネ5fの一端が接続されている。コイルバネ5fの他端は、調整板5dの先端部に接続されている。調整板5dの基端部に形成された貫通孔には調整位置固定具5eのボルトが貫通している。調整位置固定具5eのボルトは、さらに張力調整部材5cに形成された直線状のスライド孔5c1を貫通してナットによりその貫通位置に固定することができる。
【0051】
図8(a)(b)の仕掛け状態では、トリガー部材5gによりコイルバネ5fに引張力を印加した状態で、ロックピン5aが筐体5m及びトリガー部材5gを貫通することによってトリガー部材5gをその位置に保持している。このときコイルバネ5fは自然長よりも伸長されている。調整位置固定具5eの位置は、スライド孔5c1に沿って移動させることができる。それによって、コイルバネ5fの他端の固定位置を変更することができる。その結果、コイルバネ5fに掛かる引張力を調整することができる。
【0052】
コイルバネ5fに掛かる引張力は、トリガー部材5gを介してロックピン5aの拘束力として作用するので、結果的にロックピン5aを引き抜くために必要な力に関係する。よって、コイルバネ5fに掛かる引張力を調整することで、線状連結部材4の吊り上げ力ないしは張力を調整することができ、踏板部3の踏み下げに必要な荷重を調整することができる。
【0053】
図8(c)に示すように、踏板部3の踏み下げによって線状連結部材4に引っ張られたロックピン5aがトリガー部材5gから外れると(下向き白矢印参照)、コイルバネ5fがその復元力により収縮し、トリガー部材5gがコイルバネ5fの方に引っ張られ移動する(左向き白矢印参照)。このようにして生じたトリガー部材5gの初動がトリガーとなって機械式又は電子式の機構を作動させる結果、扉2a、2bの保持手段を解除する。それにより、扉2a、2bが閉じる。
【0054】
図6~
図8に示した例のように、踏板部3を踏み下げ可能な最小荷重を設定することで、対象動物の種類等を限定することが可能である。例えば500g未満の動物では踏み下げ不可能であるように設定すれば、小さい動物は逃がし大きい動物のみを捕獲することができる。また、対象外の動物による誤作動を回避できる。
【0055】
以上に図示し説明した実施形態は一例であって、本発明はこれらに限定されるものではなく、多様な変形形態が可能である。各実施形態で示した特徴的構成は、可能であれば他の実施形態にも適用することができ、そのような形態もまた本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10 通路型箱罠
1 檻本体
1a、1b 開口部
1c 床面
2a、2b 扉
2c レール
3 踏板部
31 踏板
32 第2の踏板
3a、3b、3d、3e端部
3f 連結具
3c 支持具
4 線状連結部材
5 トリガー機構
5a ロックピン
5b 鉄板
5b1 ピン孔
5c 張力調整部材
5c1 調整孔
5d 調整板
5e 調整位置固定具
5f コイルバネ
5g トリガー部材
5g1 ピン孔
5h スイッチ
5i 磁石
5j 制御部
5k センサ
5m 筐体
6 保持手段
7 垂れ部材
8 圃場
9 害獣侵入防止柵
L 長手方向
W 幅方向
θ 傾斜角