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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015541
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/46 20060101AFI20240130BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20240130BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F16F9/46
F16F9/32 J
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117634
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 修
(72)【発明者】
【氏名】石田 優
(72)【発明者】
【氏名】青木 要
【テーマコード(参考)】
3D301
3J069
【Fターム(参考)】
3D301AA76
3D301AA79
3D301DA28
3D301DA33
3D301DB40
3D301EA20
3D301EA31
3D301EB13
3J069AA54
3J069CC11
3J069CC15
3J069EE19
3J069EE38
3J069EE40
(57)【要約】
【課題】車両の重量の増加を招かず、ノイズの発生を抑制できるとともに、面倒な設置作業を伴わずにばね下部材の振動を把握できる緩衝器を提供する。
【解決手段】緩衝器1は、車両Vの車輪(ばね下部材)Wに連結されるシリンダ6とシリンダ6内に出入りしてシリンダ6に対して相対移動可能であって車両Vの車体(ばね上部材)Bに連結されるロッド8とを有する緩衝器本体2と、供給される電流量に応じて緩衝器本体2の伸縮時に発生する減衰力を調整可能なソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3と、シリンダ6に取り付けられて、車両Vに搭載されるECU(制御装置)4から受け取る制御指令に基づいてソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3に電流供給する電流制御ユニット5とを備え、電流制御ユニット5は、ばね下加速度センサ5cを備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のばね下部材に連結されるシリンダと前記シリンダ内に出入りして前記シリンダに対して相対移動可能であって前記車両のばね上部材に連結されるロッドとを有する緩衝器本体と、
供給される電流量に応じて前記緩衝器本体が発生する減衰力を調整可能な減衰力調整装置と、
前記シリンダに取り付けられて、前記車両に搭載される制御装置から受け取る制御指令に基づいて前記減衰力調整装置に電流供給する電流制御ユニットとを備え、
前記電流制御ユニットは、ばね下加速度センサを有する
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記電流制御ユニットは、CANインターフェースを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記電流制御ユニットは、前記制御指令が指示する減衰力を前記ばね下加速度センサが検知した加速度に基づいて補正して目標減衰力を求め、目標減衰力に基づいて前記減衰力調整装置へ電流供給する
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記電流制御ユニットは、前記制御指令を前記車両のCANバスを介して受け取る
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記電流制御ユニットは、前記加速度センサが検知した加速度を前記CANインターフェースを介して前記CANバスへ送信する
ことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項6】
前記電流制御ユニットは、前記ばね下加速度センサが検知した加速度に基づいて異常を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項7】
前記電流制御ユニットは、無線通信可能な通信装置を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項8】
前記電流制御ユニットは、前記通信装置を介して前記車両の車輪における空気圧を検知する空気圧センサと通信可能であって、前記通信装置を介して受け取る空気圧センサが検知した空気圧の情報を前記制御装置へ転送する
ことを特徴とする請求項7に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、減衰力を調節可能な緩衝器は、車両のばね上部材とばね下部材との間に介装されて伸縮する緩衝器本体と、緩衝器本体内に充填される流体の流れに抵抗を与えるとともにソレノイドで駆動されて発生減衰力を調整する減衰弁とを備えて構成され、ソレノイドに対する制御は、車両に搭載された緩衝器の制御に特化した専用ECU(Electronic Control Unit)によって行われる。
【0003】
専用ECUは、緩衝器の減衰力を車両の走行状態に応じて最適なものとするため、車両の速度、ばね上加速度やばね下加速度といった走行状態を認識するための各種情報を得るセンサと、当該センサからの情報を基に緩衝器が発生すべき減衰力を求める演算装置とを備えており、緩衝器に求めた減衰力を発生させるように減衰弁のソレノイドへ電流供給する。
【0004】
このようなシステムにおいては、車両の四輪各所に配置される緩衝器の減衰力を調節することが必要となるが、演算装置を緩衝器毎に設けるとシステム全体として高価となることから、一つの演算装置で各緩衝器の減衰力を求めるようにしており、また、ソレノイドの駆動に必要なソレノイドドライバも専用ECU側で保有するようになっている。
【0005】
上記ソレノイドドライバは、ソレノイドを駆動する駆動回路および電流フィードバックによる電流制御回路を備えており、演算装置が求めた減衰力を緩衝器に発生させるためにソレノイドへ供給すべき電流量を指示する電流指令を受け取ると、当該電流指令に従って、ソレノイドへ電流供給するようになっている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-169949号公報(図1
【特許文献2】特開2008-62851号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したシステムでは、単一の専用ECUから4輪各所に配置された緩衝器のソレノイドへ電力を供給するために、専用ECUと4つのソレノイドとを接続する4セットの長いハーネスが必要となるので、車両の重量が増加してしまう。
【0008】
さらに、ハーネスに流れるソレノイドをPWM駆動するためオンとオフが繰り返されるスイッチング電流によって、ノイズが発生して車両における他の機器に影響を与える可能性もある。
【0009】
また、緩衝器の制御に際して車両のばね下部材の振動を考慮する場合や路面状況を把握したい場合、ばね下加速度センサを車両における4輪各所のサスペンションメンバー等に設置するとともに、当該ばね下加速度センサと専用ECUとを信号線で接続する必要があるので、ばね下加速度センサの設置作業および信号線の配線作業も面倒である。
【0010】
そこで、本発明は、車両の重量の増加を招かず、ノイズの発生を抑制できるとともに、面倒な設置作業を伴わずにばね下部材の振動を把握できる緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明の緩衝器は、車両のばね下部材に連結されるシリンダとシリンダ内に出入りしてシリンダに対して相対移動可能であって車両のばね上部材に連結されるロッドとを有する緩衝器本体と、供給される電流量に応じて緩衝器本体の伸縮時に発生する減衰力を調整可能な減衰力調整装置と、シリンダに取り付けられて、車両に搭載される制御装置から受け取る制御指令に基づいて減衰力調整装置に電流供給する電流制御ユニットとを備え、電流制御ユニットは、ばね下加速度センサを備えている。
【0012】
このように構成された緩衝器では、車載の制御装置から制御指令を受け取った電流制御ユニットが減衰力調整装置を制御するため、電流制御ユニットと制御装置とが信号線のみを介して接続さればよいので、制御装置と電流制御ユニットとを減衰力調整装置へスイッチング電流を供給するためのハーネスで接続する必要が無くなる。また、電流制御ユニットがばね下加速度センサを備えており、緩衝器を車両に設置するだけでばね下加速度センサの設置が完了して、ばね下加速度センサと制御装置とを直接接続する必要もなく、ばね下部材の振動の検知が可能となるので、ばね下加速度センサの設置作業が容易となる。
【0013】
また、緩衝器における電流制御ユニットは、CAN(Controller Area Network)インターフェースを備えていてもよい。このように構成された緩衝器によれば、CANバスを通じて制御装置から制御指令を受け取ることができるので、CANバスを利用して信号線を短くできるから、車両における重量をより一層軽減できる。
【0014】
なお、電流制御ユニットがCANバスを介して制御指令を受け取る場合には、制御装置を車両のエンジンその他の制御に利用される統合ECUとする場合に最適となる。さらに、ばね下加速度センサが検知した加速度を電流制御ユニットがCANインターフェースを介してCANバスへ送信する場合には、加速度の情報を車両に搭載されている制御装置やその他の機器で利用できるようになり、当該加速度の情報を緩衝器の制御や、路面の状況の把握に利用できるようになる。
【0015】
また、緩衝器における電流制御ユニットは、制御指令が指示する減衰力をばね下加速度センサが検知した加速度に基づいて補正して目標減衰力を求め、目標減衰力に基づいて減衰力調整装置へ電流供給してもよい。このように構成された緩衝器では、ばね下加速度センサを利用して車両が走行している路面から入力される振動を最も早く検知できるので、緩衝器の減衰力を路面の入力に応じて最適に補正でき、車両における乗心地および車輪接地性を向上できる。
【0016】
さらに、緩衝器における電流制御ユニットは、ばね下加速度センサが検知した加速度に基づいて異常を検知してもよい。このように構成された緩衝器によれば、ばね下加速度センサが検知した加速度を利用して異常を検知するので、緩衝器本体の劣化による異常や緩衝器本体の機械的な異常を検知できる。
【0017】
なお、緩衝器における電流制御ユニットは、無線通信可能な通信装置を備えていてもよい。このように構成された緩衝器によれば、制御装置との通信が無線のみとなって、電流制御ユニットと制御装置とを接続する信号線を完全になくすことができるので、より一層車両の重量を軽減できる。
【0018】
また、電流制御ユニットが通信装置を備えている場合、通信装置を介して車両の車輪における空気圧を検知する空気圧センサと通信可能として、通信装置を介して受け取る空気圧センサが検知した空気圧の情報を制御装置へ転送するようにしてもよい。このように構成された緩衝器は、空気圧センサが出力する電波の電界強度を低くしても、電流制御ユニットが空気圧センサの近くに配置されるため、電流制御ユニットで空気圧センサが検知した空気圧の情報を受信して制御装置へ転送できる。よって、このように構成された緩衝器によれば、空気圧センサの電力消費を低減させて、空気圧センサが連続して空気圧を送信できる時間を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明の緩衝器によれば、車両の重量の増加を招かず、ノイズの発生を抑制できるとともに、面倒な設置作業を伴わずにばね下部材の振動を把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施の形態における緩衝器を搭載した車両を示した図である。
図2】一実施の形態における緩衝器の緩衝器本体の概略断面図である。
図3】一実施の形態における緩衝器の電流制御ユニットの構成図である。
図4】一実施の形態の一変形例の緩衝器の制御ユニットの構成図である。
図5】一実施の形態の一変形例の緩衝器を搭載した車両を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態における緩衝器1は、車両Vのばね上部材としての車体Bとばね下部材としての車輪Wとの間に介装されて伸縮する緩衝器本体2と、緩衝器本体2が発生する減衰力を調整可能な減衰力調整装置としてのソレノイドバルブ3と、車両に搭載される制御装置としてのECU4から受け取る制御指令に基づいてソレノイドバルブ3へ電流供給する電流制御ユニット5とを備えて構成されている。
【0022】
なお、緩衝器1は、車両Vの4輪各所のばね上部材としての車体Bとばね下部材としての車輪Wとの間にそれぞれ介装されており、これら4つの緩衝器1における電流制御ユニット5は、一つのECU4からそれぞれ制御指令を受け取ってソレノイドバルブ3を制御する。
【0023】
緩衝器本体2は、図2に示すように、筒状のシリンダ6と、シリンダ6内に摺動自在に挿入されるピストン7と、シリンダ6内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにピストン7に連結されるロッド8と、シリンダ6内にピストン7で区画されるとともに作動油等の液体が充填される伸側室R1と圧側室R2と、シリンダ6の外周を覆ってシリンダ6との間に環状の隙間を形成する中間筒9と、中間筒9の外周を覆って中間筒9との間に気体と液体とが充填される環状のリザーバRを形成する外筒10と、伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを殆ど抵抗を与えずに許容する整流通路11と、圧側室R2とリザーバRとを連通するとともにリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れを殆ど抵抗を与えずに許容する吸込通路12と、シリンダ6と中間筒9との間の隙間を介して伸側室R1とリザーバRとを連通する減衰通路13とを備えて構成されている。
【0024】
減衰力制御装置としてのソレノイドバルブ3は、減衰通路13の途中に設けられている。ソレノイドバルブ3は、たとえば、減衰通路13の途中に設けた弁体3aと、減衰通路13を遮断するように弁体3aを附勢するばね3bと、通電時にばね3bに対抗する推力を発生するソレノイド3cとを備えて構成されている。そして、ソレノイドバルブ3は、ソレノイド3cに流れる電流量に応じて開弁圧を変更可能である。
【0025】
そして、弁体3aに作用する減衰通路13の上流の伸側室R1内の圧力がソレノイドバルブ3のリリーフ圧(開弁圧)を超えると、この圧力とソレノイド3cとの弁体3aを押す力が、弁体3aを付勢するばね3bの力に打ち勝つようになり、弁体3aがばね3bを押し縮めてソレノイドバルブ3が減衰通路13を開放する。
【0026】
また、ソレノイドバルブ3にあっては、ソレノイド3cに供給する電流量を増大させると、ソレノイド3cが発生する推力を増大できる。よって、ソレノイド3cに供給する電流量を最大とするとソレノイドバルブ3の開弁圧が最小となり、反対に、ソレノイド3cに全く電流を供給しないとソレノイドバルブ3の開弁圧が最大となる。なお、ソレノイドバルブ3は、ソレノイド3cへの電流量を最大とした場合に開弁圧を最大とする構成を採用してもよい。
【0027】
ソレノイドバルブ3は、前述したところでは、開弁圧の調節を可能としているが、ソレノイド3cが発生する推力を弁体3aに作用させて流路面積の調節を可能するものであってもよい。このように、減衰力調整装置は、供給される電流量に応じて、減衰通路13を通過する液体の流れに与える抵抗を変化させ得る装置であればよいので、ソレノイドバルブ3以外にも、緩衝器本体2内に充填される液体が電気粘性流体、磁気粘性流体或いは電磁粘性流体である場合には減衰通路13を通過する液体に電界或いは磁界を作用させて減衰通路13を通過する液体の流れに与える抵抗を調節可能な装置であってもよい。また、減衰力調整装置は、緩衝器本体2の伸長時と収縮時との減衰力の調整が可能であってもよいし、伸長時或いは収縮時のいずれか一方の減衰力の調整が可能であってもよい。
【0028】
このように構成された緩衝器本体2では、シリンダ6に対してロッド8が図2中上方へ移動する緩衝器本体2の伸長作動時には、シリンダ6内を上昇するピストン7によって圧縮される伸側室R1から減衰通路13およびソレノイドバルブ3を介してリザーバRへ液体が移動する。よって、伸側室R1内の圧力は、上昇してソレノイドバルブ3の開弁圧に等しくなる。また、緩衝器本体2の伸長作動時には、シリンダ6内で上昇するピストン7によって容積が拡大される圧側室R2内にリザーバRから吸込通路12を介して液体が供給されるため、圧側室R2内の圧力はリザーバR内の圧力と略等しくなる。よって、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力よりもソレノイドバルブ3の開弁圧だけ高くなり、緩衝器本体2は、伸長作動を妨げる減衰力を発生する。そして、ソレノイドバルブ3の開弁圧がソレノイド3cへ供給する電流量によって変化するので、緩衝器本体2の伸長作動時の減衰力をソレノイド3cへ供給する電流量に応じて高低調整できる。
【0029】
他方、シリンダ6に対してロッド8が図2中下方へ移動する緩衝器本体2の収縮作動時には、シリンダ6内を下降するピストン7によって圧縮される圧側室R2から整流通路11を介して拡大する伸側室R1へ液体が移動する。緩衝器本体2の収縮作動時には、シリンダ6内に侵入するロッド8の体積分の液体がシリンダ6内で過剰となるため、過剰分の液体がシリンダ6内から減衰通路13およびソレノイドバルブ3を介してリザーバRへ排出される。よって、シリンダ6内の伸側室R1内および圧側室R2内の圧力は、ともに上昇してソレノイドバルブ3の開弁圧と等しくなるが、圧側室R2に面するピストン7の受圧面積がロッド8の断面積分だけピストン7の伸側室R1に面するピストン7の受圧面積よりも大きいため、緩衝器本体2は収縮を抑制する減衰力を発生する。そして、ソレノイドバルブ3の開弁圧がソレノイド3cへ供給する電流量によって変化するので、緩衝器本体2の収縮作動時の減衰力をソレノイド3cへ供給する電流量に応じて高低調整できる。
【0030】
なお、緩衝器本体2の構成は一例であって、前記した構成に限られず、減衰力調整装置で液体の流れに抵抗を与えて緩衝器本体2の伸長および収縮を妨げる減衰力を発生可能である構成となっていればよい。よって、本実施の形態の緩衝器1における緩衝器本体2はリザーバRを備えて液体が伸側室R1、圧側室R2およびリザーバRを順に一方通行で循環するユニフロー型に設定されているが、緩衝器本体2は伸縮時に伸側室R1と圧側室R2とで液体が行き来するバイフロー型に設定されていてもよい。緩衝器本体2がバイフロー型に設定される場合、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路が伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れと圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れとを許容する場合、当該減衰通路に減衰力調整装置を設ければよい。また、緩衝器本体2がバイフロー型に設定される場合であって、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する伸側減衰通路と圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する圧側減衰通路とが緩衝器本体2に設けられる場合、伸側減衰通路と圧側減衰通路との双方にそれぞれ減衰力調整装置を設けてもよいし、伸側減衰通路と圧側減衰通路との一方にのみ減衰力調整装置を設けてもよい。
【0031】
このように構成されたソレノイドバルブ3を搭載した緩衝器本体2は、シリンダ6が車輪Wを保持するナックルやサスペンションアームに取り付けられてばね下部材としての車輪Wに連結されるとともに、ロッド8がばね上部位材としての車体Bに連結されて、車両Vの車体Bと車輪Wとの間に介装される。そして、緩衝器本体2は、車両Vの走行中に路面から入力される振動によって伸縮しつつ車体Bの振動を抑制する減衰力を発生する。
【0032】
つづいて、制御装置としてのECU4は、車両Vに搭載されて緩衝器1の制御以外にも車両Vのエンジン、パワーステアリング、アンチロックブレーキシステム、エアバック、エアコンディショナ等の車両Vの他の機器の制御も行う統合ECUとされている。そして、ECU4は、車両Vに搭載されているCANバス10に接続されており、CAN通信によって車体Bに対して同一直線上に並ばないように設置されるばね上加速度センサ21,22,23から設置箇所における車体Bの上下方向の加速度の情報を得ることができる。
【0033】
また、図示はしないが、CANバス10は、車両V中に張り巡らされており、ばね上加速度センサ21,22,23以外にも車速を検知する車速センサ、操舵角センサ、ブレーキやアクセル等にも接続されており、ECU4は、車両Vの各種情報をCANバス10を通じて得ることができる。
【0034】
ECU4は、詳しくは図示しないが、たとえば、演算処理装置と、演算処理装置に処理に必要なプログラムとプログラムの実行に必要な記憶領域を提供するメモリと、CANバス10を介して各機器との通信を行うCANインターフェースとを備えている。
【0035】
ECU4は、本実施の形態では、車体Bの姿勢制御に当たり周知のスカイフック制御を行う。車体Bを剛体と看做せば、ばね上加速度センサ21,22,23の設置位置と車体Bの4輪直上の位置が既知であるので、ばね上加速度センサ21,22,23が検知する車体Bの異なる3点の上下方向の加速度から車体Bの任意の位置の上下方向の加速度を求め得る。よって、ECU4は、ばね上加速度センサ21,22,23で検出した車体Bの上下方向の加速度から4輪各所直上の車体Bの上下加速度を算出して、緩衝器1で発生すべき減衰力を求め、この求めた減衰力を緩衝器1に発生させるために電流制御ユニット5へ与える制御指令を生成してCANバス10へ出力する。
【0036】
詳しくは、ECU4は、ばね上加速度センサ21,22,23が検知した加速度から求めた4輪直上の車体Bの上下方向の加速度を積分或いはフィルタ処理して4輪直上の車体Bの上下方向速度を求め、4輪直上の車体Bの上下方向速度にそれぞれスカイフック減衰係数を乗じて、4輪各所における緩衝器1が発生すべき減衰力を求める。さらに、ECU4は、自身が求めた4輪各所の緩衝器1における減衰力を電流制御ユニット5に指示するための制御指令を生成して、当該制御指令をCANバス10へ出力する。そして、電流制御ユニット5は、CANバス10を介して制御指令を受け取ると、制御指令通りにソレノイドバルブ3へ電流を供給する。
【0037】
なお、ECU4は、本実施の形態の場合、スカイフック制御を行うが、スカイフック制御以外の制御則に則って緩衝器1が発生すべき減衰力を求めて、制御指令を生成してもよい。また、ECU4は、車体Bに3軸のジャイロセンサが設置されており、車体Bの重心位置における3軸の角速度をCANバス10から入手できる場合、車体Bの重心位置における3軸の角速度から車体Bの4輪直上の上下方向速度を求めてもよい。
【0038】
つづいて、電流制御ユニット5は、本実施の形態では、図3に示すように、CANバス10を通じて情報のやり取りを行うためのCANインターフェース5aと、ソレノイドバルブ3を制御するための電流指令を生成する制御演算部5bと、ばね下加速度センサ5cと、制御演算部5bが生成した電流指令通りにソレノイド3cへ電流供給する駆動回路5dとを備えて構成されている。そして、電流制御ユニット5は、緩衝器本体2に設置されている。なお、電流制御ユニット5は、車両Vの図外のバッテリに接続される電源ラインを通じて電力供給を受けている。
【0039】
CANインターフェース5aは、信号線Sを介してCANバス10にコネクタ50によって接続されており、CAN通信によってCANバス10を介してECA4と相互に情報のやり取りを行うことができる。なお、図1中では、CANバス10と信号線Sとを接続するコネクタ50を黒丸で示している。なお、電流制御ユニット5は、ECU4から制御指令を受け取ることができればよいので、CANバス10以外にも、ECU4に直接接続される信号線を介して制御指令を受け取ってもよいし、無線通信によってECU4から制御指令を受け取ってもよい。
【0040】
ばね下加速度センサ5cは、本実施の形態では、互いに直交する3軸の加速度を検知可能な加速度センサであり、電流制御ユニット5が車輪Wに連結される緩衝器本体2に設置されているので、車輪Wの加速度を検知できる。
【0041】
制御演算部5bは、CANバス10を介してECU4から得た制御指令とばね下加速度センサ5cが検出した加速度とに基づいて目標電流を求める。具体的には、制御演算部5bは、ばね下加速度センサ5cが検知した3軸の加速度から車輪Wの上下方向の加速度を求める加速度演算部5b1と、制御指令が指示する減衰力と加速度演算部5b1が求めた車輪Wの上下方向の加速度とから目標減衰力を求める減衰力演算部5b2と、目標減衰力からソレノイドバルブ3のソレノイド3cへ与える電流量を指示する電流指令を生成する電流指令演算部5b3と、電流指令演算部5b3から電流指令を受け取ると駆動回路5dへPWM信号を出力する電流制御部5b4と、異常診断部5b5とを備えている。
【0042】
加速度演算部5b1は、ばね下加速度センサ5cが検知した3軸の加速度から車輪Wの上下方向の加速度を求める。緩衝器本体2は、車両Vに対して垂直姿勢で取り付けられることが少なく、斜めに設置されることが多いため、ばね下加速度センサ5cの3軸の検知軸のうち1つをシリンダ6の軸線方向に沿うように電流制御ユニット5を設置しても、車輪Wの上下方向の加速度を正確に検知することが難しい。そのため、加速度演算部5b1は、回転行列を用いてばね下加速度センサ5cが検知する3つの加速度から車輪Wの上下方向の加速度を求める。回転行列は、ばね下加速度センサ5cの3軸の加速度を車両Vの前後左右上下の各方向の加速度へ変換するための行列である。
【0043】
回転行列における各成分は、ばね下加速度センサ5cの3つの検知軸の車両Vを基準とした上下左右前後の方向の軸に対するピッチ角度、ロール角度およびヨー角度をパラメータとして求め得る。加速度演算部5b1は、回転行列を用いることで、ばね下加速度センサ5cが検知する加速度から車輪Wの上下方向の加速度を正確に求め得る。
【0044】
ばね下加速度センサ5cの3つの検知軸の前記ピッチ角度、前記ロール角度および前記ヨー角度は、ばね下加速度センサ5cの1つの検知軸の車両Vに対して設置される向きと重量加速度の方向とが分かれば求めることができる。よって、たとえば、ばね下加速度センサ5cの3つの検知軸のうち1つの方向を車両Vの前方へ向けるようにシリンダ6に対して電流制御ユニット5を取り付けておけば、1つの検知軸の向きを把握でき、車両Vが静止状態のときにばね下加速度センサ5cで検知した加速度の方向から重力加速度の方向を把握できるので、前記ピッチ角度、前記ロール角度および前記ヨー角度を求め得る。こうして求めたばね下加速度センサ5cの3つの検知軸の前記ピッチ角度、前記ロール角度および前記ヨー角度から回転行列のパラメータを求め得るので、加速度演算部5b1は、この回転行列を用いてばね下加速度センサ5cが検知した3つの加速度から車輪Wの上下方向の加速度を求める。前記ピッチ角度、前記ロール角度および前記ヨー角度の求め方は、一例であってほかの手法によってもよい。
【0045】
なお、本実施の形態では、加速度演算部5b1が前記ピッチ角度、前記ロール角度および前記ヨー角度を求める演算を実行して回転行列を求めており、ばね下加速度センサ5cが検知する3軸の加速度を所定のサンプリングレートで取り込んで車輪Wの上下方向の加速度を求めている。前記ピッチ角度、前記ロール角度および前記ヨー角度を求める演算は、負荷が高い場合があるので、加速度演算部5b1にて当該演算を実行するようにしているが、回転行列の成分が求まってしまえばばね下加速度センサ5cが検知した3軸の加速度から車輪Wの上下方向の加速度を求める演算は負荷が低いため、回転行列の成分を求めた後はばね下加速度センサ5cによって自身が検知した3軸の加速度から車輪Wの上下方向の加速度を求めて減衰力演算部5b2等へ出力してもよい。なお、加速度演算部5b1を廃止して、ばね下加速度センサ5cが回転行列を求めて車輪Wの上下方向の加速度を求めてもよい。
【0046】
また、加速度演算部5b1或いはばね下加速度センサ5cが求めた車輪Wの上下方向の加速度は、CANインターフェース5aからCANバス10を通じてECU4へ送信してもよい。このようにすれば、ECU4は、ばね下部材である車輪Wの上下方向の加速度の情報を得られるので、車輪Wの上下方向の加速度を加味して緩衝器1を制御することができる。車輪Wの上下方向の加速度の情報は、車両Vが走行した路面の状態を把握するのに有用な情報であるから、ECU4以外にもCANバス10に接続される図外の記憶装置に前記加速度の情報を蓄積して記憶させてもよい。なお、ばね下加速度センサ5cが検知した3軸の加速度の情報をCANインターフェース5aを通じてECU4へ送信してもよい。
【0047】
減衰力演算部5b2は、制御指令が指示する減衰力と、加速度演算部5b1が求めた車輪Wの上下方向の加速度とに基づいて、目標減衰力を求める。具体的には、減衰力演算部5b2は、本実施の形態では、車輪Wの上下方向の加速度をローパスフィルタで処理して平均化し、車両Vが走行する路面の状況を判断して、制御指令が指示する減衰力に路面状況に応じたゲインを乗じて目標減衰力を求める。車輪Wの上下方向の加速度の平均値は、車両Vが走行する路面の凹凸の状況に応じて変化し、路面の状況を把握するための指標となり、凹凸の少ない良路では小さな値となり。凹凸が比較的多い悪路では中程度の値を採り、凹凸が多く凹凸の高さも高くなる極悪路では大きな値を採る。
【0048】
ECU4は、本実施の形態では、路面の状況によらず、ばね上部材としての車体Bの上下方向の速度に応じて緩衝器1が発生すべき減衰力を求めているため、悪路や極悪路では緩衝器1が発生する減衰力を低くして路面からの振動の入力が車体Bに伝達するのを抑制した方がよい場合がある。よって、減衰力演算部5b2は、車輪Wの上下方向の加速度の平均値に対して悪路の判定に用いる閾値と極悪路の判定に用いる閾値を設定して、車両Vが現在走行中の路面が良路、悪路及び極悪路の何れに該当するかを前記平均値と各閾値とを比較して判定する。そして、良路走行時に用いるゲイン、悪路走行時に用いるゲイン、極悪路走行時に用いるゲインを予め用意しておき、減衰力演算部5b2は、路面の判定の結果、判定した路面の状況に応じたゲインを選択し、選択したゲインを制御指令が指示する減衰力に乗じることで、制御指令が指示する減衰力を補正して目標減衰力を求める。
【0049】
また、車輪Wが大きな凹凸を乗り越える場合、車輪Wに大きな上下方向の加速度が作用する。このような凹凸を乗り越える場合に、緩衝器1が発生する減衰力が高いと、車輪Wの振動が車体Bに伝達されて車両Vにおける乗心地が悪化する。そのため、減衰力演算部5b2は、車輪Wの上下方向の加速度の平均値による路面の状況の判定に応じてゲインを選択する制御に並行して、突発的に車輪Wが大きな凹凸に乗り上げた時のインパクトショックを低減する振動低減制御を行う。この制御のために、振動低減制御に使用する振動低減用ゲインを予め用意してあり、減衰力演算部5b2は、車輪Wの上下方向の加速度の絶対値が所定の閾値を超えた場合に、振動低減用ゲインと路面の状況によって選択されるゲインとを比較して、いずれか低い方のゲインを選択して、制御指令が指示する減衰力に前記低い方のゲインを乗じて目標減衰力を求める。なお、振動低減用ゲインが他のゲインよりも低い値に設定される場合には、減衰力演算部5b2は、車輪Wの上下方向の加速度の絶対値が所定の閾値を超えた場合に、振動低減用ゲインを制御指令が指示する減衰力に乗じて目標減衰力を求めてもよい。
【0050】
なお、前述した減衰力演算部5b2における目標減衰力を求める処理は一例であって、前述した例に限定されるものではない。よって、減衰力演算部5b2は、路面の状況を判定して最適なゲインを選択して目標減衰力を求める制御のみを実行してもよいし、振動低減制御のみを実行してもよし、車両Wの上下方向の加速度を利用して前述の制御以外の制御を実行してもよい。
【0051】
また、加速度演算部5b1或いはばね下加速度センサ5cが求めた車輪Wの上下方向の加速度をCANバス10を通じてECU4へ送信する場合、減衰力演算部5b2の代わりにECU4側で車輪Wの振動状況を加味して目標減衰力を求めて、ECU4から目標減衰力を指示する制御指令を電流制御ユニット5にCANバス10を介して入力してもよい。この場合、制御演算部5bにおける減衰力演算部5b2を廃止してもよい。なお、ECU4は、車輪Wの上下方向の加速度が得られる場合、4輪各所に配置された緩衝器1の電流制御ユニット5から送信される4輪各所の車輪Wの上下方向の加速度を積分して、各車輪Wの上下方向速度を求め得る。ばね上加速度センサ21,22,23が検知した加速度から算出して求めた4輪直上の車体Bの上下方向速度と、対応する4輪の各車輪Wの上下方向速度との差をそれぞれ求めると、4つの各々の差は、4輪各所の緩衝器1のストローク速度と略一致する。ECU4は、前記差を求めると緩衝器1のストロークの方向を把握できるので、スカイフック制御則に則って各緩衝器1が発生すべき減衰力を求めた上で、各緩衝器1が求めた各減衰力を発生できる状況にあるか否かを前記差に基づいて判断できる。緩衝器1は、伸長時には伸長を妨げる方向に減衰力を発生できるが伸長を助長する方向へ減衰力を発生できず、反対に収縮時には収縮を妨げる方向に減衰力を発生できるが収縮を助長する方向へ減衰力を発生できない。このようにECU4は、緩衝器1のストロークの方向を把握できるので、スカイフック制御則を利用して求めた減衰力の方向が、緩衝器1のストローク状況によって緩衝器1が減衰力を発生できる方向である場合、スカイフック制御則を利用して求めた減衰力をそのまま支持する制御指令を生成する。他方、ECU4は、スカイフック制御則を利用して求めた減衰力の方向が、緩衝器1のストローク状況によって緩衝器1が減衰力を発生できない方向である場合、スカイフック制御則を利用して求めた減衰力に関わらず減衰力を最小とする制御指令を生成する。つまり、電流制御ユニット5から車輪Wの上下方向の加速度を入手できる場合、ECU4は、カルノップ則に則って緩衝器1の減衰力を指示する制御を実行できるようになる。なお、ECU4は、このようなカルノップ則以外の制御則を用いて制御指令を生成してもよい。
【0052】
つづいて、電流指令演算部5b3は、緩衝器1が発生する減衰力とソレノイドバルブ3へ供給される電流量との関係を予めマップとして保有しており、減衰力演算部5b2が求めた目標減衰力からマップ演算によってソレノイドバルブ3のソレノイド3cへ供給すべき電流量を求める。なお、電流指令演算部5b3は、マップを利用して電流量を求めているが、前記減衰力と前記電流量との関係を関数表現できる場合には関数を用いて電流量を求めてもよい。このように、電流指令演算部5b3は、求めた電流量を指示する電流指令を生成する。
【0053】
なお、電流指令演算部5b3で使用するマップは、設計値を基準として設定されるが、緩衝器1を組み立てた後で出荷する前に、ソレノイドバルブ3へ供給する電流量に対して実際に緩衝器1が発生する減衰力を計測して、ソレノイドバルブ3へ供給する電流量に対して実際の緩衝器1の減衰力が正確に一致するようにマップのパラメータを補正する。この作業は、緩衝器1の出荷前に製品毎に行われるので、製品間でソレノイドバルブ3へ与える電流量に対する緩衝器1が発生する減衰力がばらつくのを抑制できる。よって、ECU4は、車両Vの4輪各所に配置された緩衝器1毎に、制御しようとする緩衝器1に適するように減衰力を補正する必要はなく、ECU4と4つの緩衝器1との間で減衰力を補正する作業を行う手間もかからない。そして、ECU4と緩衝器1の製造者が異なる場合にあっても、緩衝器1のみの補正によって減衰力の製品毎のばらつきを抑制できるので、当該補正の作業に当たってECU4に緩衝器1を接続しなくとも補正作業を行える。
【0054】
電流制御部5b4は、電流指令演算部5b3が求めた電流指令と、ソレノイド3cへ供給している実際の電流量との偏差を求め、偏差をPI補償やPID補償を行って目標電流を求め、駆動回路5dが目標電流通りにソレノイドバルブ3のソレノイド3cへ電流供給を行うためのPWM信号を出力する。つまり、電流制御部5b4は、電流フィードック制御によってソレノイドバルブ3を制御する。なお、電流制御部5b4は、ソレノイド3cに流れる電流の情報を駆動回路5dが備える電流センサから得る。
【0055】
異常検知部5b5は、加速度演算部5b1が求めた車輪Wの上下方向の加速度を監視し、緩衝器1の異常を判断する。具体的には、たとえば、緩衝器1が目標減衰力通りに減衰力を発生できなくなると、車輪Wの振動のレベル(波高値)が大きくなることから、異常検知部5b5は、順次サンプリングされた車輪Wの加速度の絶対値の移動平均値を求め、当該移動平均値が予め設定される異常閾値を超えると緩衝器1の異常と判断して異常信号を生成する。異常信号は、CANインターフェース5aからCANバス10へ通じてECU4へ伝達される。ECU4は、異常信号を受け取ると、緩衝器1の制御を停止して車両搭乗者へ異常を認知させるべく、たとえば、図外のインストルメントパネルに設置される警告灯を点灯させたり、警告音を図外のスピーカから出力したりする。このように、異常検知部5b5は、ばね下加速度センサ5cが検知する加速度に基づいて異常を検知するので、緩衝器本体1の劣化による異常や緩衝器本体1の機械的な異常を検知できる。
【0056】
なお、異常検知部5b5は、車輪Wの上下方向の加速度に基づく異常判断に加えて、或いは、これに代えて、駆動回路5dの過電圧や、過熱、オープン等といった電流制御ユニット5やソレノイドバルブ3の電気的な異常を検知して、異常信号を出力するようにしてもよい。
【0057】
以上のように構成される制御演算部5bは、ハードウェアとしては、MPU(Micro Processor Unit)等の演算処理装置と、制御演算部5bにおける処理を実行するためのプログラムと演算処理装置の処理に必要な記憶領域を提供するメモリと、CANインターフェース5a、ばね下加速度センサ5cおよび駆動回路5dとの信号のやり取りを行うためのバスラインとを備えている。そして、制御演算部5bは、前記演算処理装置がプログラムを実行して処理を行うことで、加速度演算部5b1、減衰力演算部5b2、電流指令演算部5b3、電流制御部5b4および異常診断部5b5の各部を実現している。
【0058】
つぎに、駆動回路5dは、ソレノイド3cに与える電流量を調節するための図示しないスイッチング素子を備えており、電流制御部5b4から受け取るPWM信号が指示するデューティ比でスイッチング素子をオンオフ動作させ、ソレノイド3cの電流量を目標電流通りに調節する。
【0059】
以上のように構成された緩衝器1では、電流制御ユニット5がECU4から制御指令を受け取ってソレノイドバルブ3を制御するので、電流制御ユニット5とECU4とは信号をやり取りする信号線で接続されていればよい。また、ソレノイドバルブ3の電流量の制御が電流制御ユニット5によって行われるため、図外のバッテリと電流制御ユニット5との間ではスイッチング電流が流れることが無く、スイッチング電流が流れるのは電流制御ユニット5とソレノイドバルブ3との間の配線のみとなる。
【0060】
また、緩衝器1における電流制御ユニット5がばね下加速度センサ5cを備えているので、車両Vのばね下部材としての車輪Wの加速度の検知のためにばね下加速度センサをサスペンションメンバー等に設置する作業が不要で、ECU4と加速度センサ5cとを直接接続するためのばね下加速度センサ5c専用の信号線を必要としない。
【0061】
また、本実施の形態の緩衝器1では、電流制御ユニット5がCANインターフェース5aを備えているので、CANバス10を通じて制御指令をECU4から制御指令を受け取ることができる。CANバス10は、車体Bに張り巡らされているので、緩衝器1における電流制御ユニット5は、緩衝器1の至近に配置されているCANバス10の配線に接続できるから、緩衝器1とCANバス10とを接続する信号線Sはごく短くて済む。
【0062】
以上のように、本実施の形態の緩衝器1は、車両Vの車輪(ばね下部材)Wに連結されるシリンダ6とシリンダ6内に出入りしてシリンダ6に対して相対移動可能であって車両Vの車体(ばね上部材)Bに連結されるロッド8とを有する緩衝器本体2と、供給される電流量に応じて緩衝器本体2の伸縮時に発生する減衰力を調整可能なソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3と、シリンダ6に取り付けられて、車両Vに搭載されるECU(制御装置)4から受け取る制御指令に基づいてソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3に電流供給する電流制御ユニット5とを備え、電流制御ユニット5は、ばね下加速度センサ5cを備えている。
【0063】
このように構成された緩衝器1では、車載のECU(制御装置)4から制御指令を受け取った電流制御ユニット5がソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3を制御するため、電流制御ユニット5とECU(制御装置)4とが信号線のみを介して接続さればよいので、ECU(制御装置)4と電流制御ユニット5とをソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3へスイッチング電流を供給するためのハーネスで接続する必要が無くなる。
【0064】
よって、本実施の形態の緩衝器1によれば、ECU(制御装置)4と接続するためのスイッチング電流用のハーネスが不要となるので、車両Vの全体で少なくとも4セットのハーネスを削減でき車両Vの重量を軽減できる。また、本実施の形態の緩衝器1によれば、ECU(制御装置)4と電流制御ユニット5との間にノイズの発生源となるスイッチング電流用のハーネスが不要となるので、車両Vの他の機器にノイズによる影響を与えずに済む。さらに、電流制御ユニット5がばね下加速度センサ5cを備えており、緩衝器1を車両Vに設置するだけでばね下加速度センサ5cの設置が完了して、ばね下加速度センサ5cとECU(制御装置)4とを直接接続する必要もなく、車輪(ばね下部材)Wの振動の検知が可能となるので、ばね下加速度センサ5cの設置作業が容易となる。
【0065】
以上より、本実施の形態の緩衝器1によれば、車両の重量の増加を招かず、ノイズの発生を抑制できるとともに、面倒な設置作業を伴わずに車輪(ばね下部材)Wの振動を把握できる。
【0066】
また、本実施の形態の緩衝器1によれば、電流制御ユニット5がばね下加速度センサ5cを備えているので、車輪(ばね下部材)Wの加速度をECU(制御装置)4へ送信でき、車輪(ばね下部材)Wの加速度を制御に利用したり、車両Vが走行した路面の状況の把握に利用したりすることができる。
【0067】
さらに、本実施の形態の緩衝器1では、電流制御ユニット5がCANインターフェース5aを備えている。このように構成された緩衝器1によれば、CANバス10を通じてECU(制御装置)4から制御指令を受け取ることができ、電流制御ユニット5からCANバス10を介して車輪(ばね下部材)Wの加速度の情報をECU(制御装置)4へ送信することもできる。CANバス10は、車体Bに張り巡らされているので、緩衝器1における電流制御ユニット5は、緩衝器1の至近に配置されているCANバス10の配線に接続できるから、緩衝器1とCANバス10とを接続する信号線Sはごく短くて済む。さらに、ECU(制御装置)4に電流制御ユニット5の信号線Sと接続するための専用のコネクタを設置する必要が無くなってECU(制御装置)4を小型化および軽量化できる。よって、このように構成された緩衝器1によれば、CANバス10を利用して信号線Sを短くできるから、車両Vにおける重量をより一層軽減できる。
【0068】
また、電流制御ユニット5が制御指令をCANバス10を介して受け取る場合には、ECU(制御装置)4を車両Vのエンジンその他の制御に利用される統合ECUとする場合に最適となる。
【0069】
さらに、ばね下加速度センサ5cが検知した加速度を電流制御ユニット5がCANインターフェース5aを介してCANバス10へ送信する場合には、加速度の情報を車両Vに搭載されているECU(制御装置)4やその他の機器で利用できるようになり、当該加速度の情報を緩衝器1の制御や、路面の状況の把握に利用できるようになる。
【0070】
また、本実施の形態の緩衝器1では、電流制御ユニット5は、制御指令が指示する減衰力をばね下加速度センサ5cが検知した加速度に基づいて補正して目標減衰力を求め、目標減衰力に基づいてソレノイドバルブ(減衰力調整装置)3へ電流供給している。このように構成された緩衝器1では、ばね下加速度センサ5cを利用して車両Vが走行している路面から入力される振動を最も早く検知できるので、緩衝器1の減衰力を路面の入力に応じて最適に補正できる。よって、このように構成された緩衝器1によれば、車両Vにおける乗心地および車輪接地性を向上できる。
【0071】
さらに、本実施の形態の緩衝器1における電流制御ユニット5は、ばね下加速度センサ5cが検知した加速度に基づいて異常を検知する。このように構成された緩衝器1によれば、ばね下加速度センサ5cが検知した加速度を利用して異常を検知するので、緩衝器本体1の劣化による異常や緩衝器本体1の機械的な異常を検知できる。
【0072】
なお、前述したところでは、電流制御ユニット5は、CANインターフェース5aを備えており、ECU4とCAN通信可能とされているが、図4に示した一変形例の緩衝器1のように、CANインターフェース5aに代えて無線通信可能な通信装置30を備えていてもよい。
【0073】
電流制御ユニット5がCANインターフェース5aを備えずに通信装置30を備える場合、車載のECU(制御装置)4にも電流制御ユニット5と無線通信可能な通信装置31を設けて、当該通信装置30,31を介して制御指令、車輪(ばね下部材)Wの加速度の情報、異常信号の受け取り受け渡しを可能とすればよい。このように構成された緩衝器1によれば、電流制御ユニット5が通信装置30を備える場合、ECU(制御装置)4との通信が無線のみとなって、信号線を完全になくすことができるので、より一層車両Vの重量を軽減できる。
【0074】
また、電流制御ユニット5が通信装置30を備えている場合、図5に示すように、通信装置30を介して車両Vの車輪Wにおける空気圧を検知する空気圧センサ40と通信可能として、通信装置30を介して受け取る空気圧センサ40が検知した空気圧の情報をECU(制御装置)4へ転送するようにしてもよい。
【0075】
電流制御ユニット5には、図外のバッテリから常時電力供給を受けており、通信装置30を利用した無線による通信も安定して行える一方、空気圧センサ40は、車輪Wに取り付けられており、自身が保有するバッテリによって動作して、無線通信によって検知した車輪Wにおけるタイヤ内の空気圧を外部へ送信する。ECU4側の通信装置31で車両Vの4つの車輪Wの空気圧センサ40と直接無線通信する場合、通信装置31と全ての空気圧センサ40との間の距離が遠くなってしまう場合があるので、空気圧センサ40側から送信する電波の電界強度をある程度高くしておかないと、ECU4と空気圧センサ40とが通信できなくなってしまう。しかしながら、空気圧センサ40側の電界強度を高くすると電力消費が激しくなるので、空気圧センサ40が満充電されたバッテリで空気圧を連続して送信できる時間が短くなってしまう。
【0076】
これに対して、本実施の形態では、電流制御ユニット5は、車輪Wの至近に配置される緩衝器本体2に設置されており、車輪Wにおける空気圧センサ40の至近に無線装置30を配置できるので、空気圧センサ40側から送信する電波の電界強度を従来よりも低くしても、電流制御ユニット5で空気圧センサ40から送信される空気圧の信号を受信できる。電流制御ユニット5は、空気圧センサ40から空気圧の信号を受け取ると、無線装置30を介してECU4へ空気圧センサ40から受け取った空気圧の情報を送信する。電流制御ユニット5は、車両Vの図外のバッテリから電力供給を受けており、安定してECU4と無線による通信が可能である。このように構成された緩衝器1は、通信装置30を介して車両Vの車輪Wにおける空気圧を検知する空気圧センサ40と通信可能として、通信装置30を介して受け取る空気圧センサ40が検知した空気圧の情報をECU(制御装置)4へ転送するので、空気圧センサ40が出力する電波の電界強度を低くしても、電流制御ユニット5が空気圧センサ40の近くに配置されるため、電流制御ユニット5で空気圧センサ40が検知した空気圧の情報を受信してECU(制御装置)4へ転送できる。よって、このように構成された緩衝器1によれば、空気圧センサ40の電力消費を低減させて、空気圧センサ40が連続して送信できる時間を延ばすことができる。
【0077】
なお、一変形例の緩衝器1では、電流制御ユニット5がCANインターフェース5aの代わりに通信装置30を備えているが、電流制御ユニット5がCANインターフェース5aと通信装置30との両方を備えていてもよい。
【0078】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・緩衝器、2・・・緩衝器本体、3・・・ソレノイドバルブ(減衰力調整装置)、4・・・ECU(制御装置)、5・・・電流制御ユニット、5a・・・CANインターフェース、5c・・・ばね下加速度センサ、6・・・シリンダ、8・・・ロッド、10・・・CANバス、30・・・通信装置、40・・・空気圧センサ、50・・・コネクタ、V・・・車両、W・・・車輪(ばね下部材)
図1
図2
図3
図4
図5