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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155427
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アンダーカウル
(51)【国際特許分類】
   B62J 17/00 20200101AFI20241024BHJP
   B62J 23/00 20060101ALI20241024BHJP
   B62J 17/10 20200101ALI20241024BHJP
【FI】
B62J17/00
B62J23/00 A
B62J17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070129
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 稔明
(57)【要約】
【課題】アンダーカウルの前部の上前方から下後方に流れる走行風を受けることによって生成されるダウンフォースを増大させ、かつアンダーカウル内の熱の籠もりを抑制する。
【解決手段】アンダーカウル6は、右壁部7、左壁部8および前壁部9を備え、前壁部9は第1の風受け板11および第2の風受け板12を備え、第1の風受け板11および第2の風受け板12はそれぞれ、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を受ける風受け面11A、12Aを有し、各風受け面11A、12Aは、前後左右方向に拡がり、前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜している。また、第2の風受け板12は、その前端部が第1の風受け板11の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置され、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間には間隙13が設けられている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪、後輪、および前記前輪と前記後輪との間に設けられたパワーユニットを備えた鞍乗型車両に設けられ、前記鞍乗型車両において前記前輪の後方かつ前記パワーユニットの下部前方の部分を覆うアンダーカウルであって、
右壁部、左壁部および前壁部を備え、
前記前壁部は、
前後左右方向に拡がり前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜し前記前壁部の上前方から下後方に流れる走行風を受ける風受け面を有する第1の風受け板と、
前後左右方向に拡がり前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜し前記走行風を受ける風受け面を有する第2の風受け板とを備え、
前記第2の風受け板は、その前端部が前記第1の風受け板の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置され、
前記第1の風受け板と前記第2の風受け板との間には間隙が設けられていることを特徴とするアンダーカウル。
【請求項2】
前記第2の風受け板の前端部は前記第1の風受け板の後端部よりも前側に位置していることを特徴とする請求項1に記載のアンダーカウル。
【請求項3】
前記第1の風受け板の風受け面の水平に対する傾斜角は、前記第2の風受け板の風受け面の水平に対する傾斜角よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のアンダーカウル。
【請求項4】
前記第1の風受け板の風受け面の面積は前記第2の風受け板の風受け面の面積よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載のアンダーカウル。
【請求項5】
前記第1の風受け板の風受け面における前縁から後縁までの長さは、前記第2の風受け板の風受け面における前縁から後縁までの長さよりも長いことを特徴とする請求項4に記載のアンダーカウル。
【請求項6】
前記前壁部は、
前記第2の風受け板の前端部から当該アンダーカウル内に向かって後方または下後方に伸長した内壁板を備えていることを特徴とする請求項1に記載のアンダーカウル。
【請求項7】
前記前壁部は、
前記第1の風受け板および前記第2の風受け板の左右方向両側にそれぞれ設けられ、上下方向に伸長し、下部が前記第1の風受け板よりも前方に張り出し、上部が前記第2の風受け板よりも前方に張り出した張出部を備え、
前記前壁部において、右側の前記張出部よりも右側の部分または左側の前記張出部よりも左側の部分には、当該アンダーカウルの外部と当該アンダーカウルの内部とを連通し、当該アンダーカウルの前方から後方に流れる走行風を当該アンダーカウルの内部に導入する導風通路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアンダーカウル。
【請求項8】
前記第1の風受け板および前記第2の風受け板は、前記右壁部によって右方から覆われ、かつ前記左壁部によって左方から覆われていることを特徴とする請求項1に記載のアンダーカウル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に設けられるアンダーカウルに関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両の多くはカウルを備えている。カウルは、走行風を整流または制御し、空気抵抗の低減または車両の空力性能の向上等を図り、また、走行風から乗員を保護する機能を有している。
【0003】
カウルは総じて鞍乗型車両の車体を覆うものであるが、それが車体のどの部分を覆うものであるかによって細かく分類されている。ところが、カウルの分類の仕方や、分類された各カウルの名称は一定ではない。例えば、特開2005-178621号公報の段落0017~0021の記載、特開平11-79032号公報の段落0009~0010の記載、および特開2009-107562号公報の段落0013~0015の記載を比較すると、そのことが窺える。そこで、本書では、鞍乗型車両においてヘッドパイプの前方の部分を覆うカウルを「フロントカウル」ということとする。また、鞍乗型車両においてヘッドパイプの下部またはフロントフォークの上部の側方からパワーユニット(例えばエンジン)の上部側方に掛けての部分を覆うカウルを「サイドカウル」ということとする。また、鞍乗型車両において、少なくとも前輪の後方からパワーユニットの下部前方に掛けての部分を覆うカウルを「アンダーカウル」ということとする。
【0004】
また、鞍乗型車両には、フロントカウル、左右のサイドカウルおよびアンダーカウルを備えた車両(特開2005-178621号公報の図1を参照)、フロントカウルのみを備えた車両、アンダーカウルのみを備えた車両等、様々な形態がある。フロントカウル、左右のサイドカウルおよびアンダーカウルを備えた形態を、一般にフルカウルという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-178621号公報
【特許文献2】特開平11-79032号公報
【特許文献3】特開2009-107562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鞍乗型車両の走行中、車両の前方から走行風が当たる。その走行風の一部は、フロントカウルとフロントフェンダとの間を通り、フロントフェンダに沿うように下後方に向きを変え、アンダーカウルの前部に当たる。したがって、アンダーカウルの前部に、この下後方に流れる走行風を受ける風受け面を形成することにより、車両を下方に押す力(ダウンフォース)を生成することができる。ダウンフォースを生成することにより、前輪の路面からの浮き上がり(フロントリフト)を抑制することができ、車両の走行姿勢を安定化させることができる。
【0007】
上記風受け面をアンダーカウルの前部に広範囲に設けることにより、大きなダウンフォースを生成することができる。しかしながら、鞍乗型車両において、アンダーカウルの後方、上方または内側には、例えばエンジン、エキゾーストパイプ等の発熱体が配置されている。そのため、上記風受け面をアンダーカウルの前部に広範囲に設けると、アンダーカウル内に上記発熱体から発せられた熱が籠もり、エンジン等の温度が上昇し易くなるという問題がある。
【0008】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、アンダーカウルの前部の上前方から下後方に流れる走行風を受けることによって生成されるダウンフォースを増大させることができ、かつアンダーカウル内の熱の籠もりを抑制することができるアンダーカウルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、前輪、後輪、および前記前輪と前記後輪との間に設けられたパワーユニットを備えた鞍乗型車両に設けられ、前記鞍乗型車両において前記前輪の後方かつ前記パワーユニットの下部前方の部分を覆うアンダーカウルであって、右壁部、左壁部および前壁部を備え、前記前壁部は、前後左右方向に拡がり前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜し前記前壁部の上前方から下後方に流れる走行風を受ける風受け面を有する第1の風受け板と、前後左右方向に拡がり前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜し前記走行風を受ける風受け面を有する第2の風受け板とを備え、前記第2の風受け板は、その前端部が前記第1の風受け板の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置され、前記第1の風受け板と前記第2の風受け板との間には間隙が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンダーカウルの前部の上前方から下後方に流れる走行風を受けることによって生成されるダウンフォースを増大させることができ、かつアンダーカウル内の熱の籠もりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例のアンダーカウルが設けられた鞍乗型車両を右から見た状態を示す説明図である。
図2図1中の鞍乗型車両を前から見た状態を示す説明図である。
図3図2中の切断線III-IIIに沿って切断した鞍乗型車両の断面を右から見た状態を模式的に示す説明図である。
図4】本発明の実施例のアンダーカウルを前から見た状態を示す説明図である。
図5】本発明の実施例のアンダーカウルを後ろから見た状態を示す説明図である。
図6】本発明の実施例のアンダーカウルを右から見た状態を示す説明図である。
図7】本発明の実施例のアンダーカウルの前壁部を示す斜視図である。
図8】本発明の実施例のアンダーカウルの前壁部を示す説明図である。
図9】本発明の実施例のアンダーカウルの前壁部を示す断面図である。
図10】本発明の実施例のアンダーカウルの前壁部に当たる走行風、水、泥等を示す説明図である。
図11】本発明の実施例のアンダーカウルと前輪との位置関係等を示す説明図である。
図12】本発明のアンダーカウルの他の実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態のアンダーカウルは、前輪、後輪、および前輪と後輪との間に設けられたパワーユニットを備えた鞍乗型車両に設けられる。また、本実施形態のアンダーカウルは、鞍乗型車両において前輪の後方かつパワーユニットの下部前方の部分を覆う。また、本実施形態のアンダーカウルは、右壁部、左壁部および前壁部を備えている。
【0013】
また、前壁部は第1の風受け板および第2の風受け板を備えている。第1の風受け板および第2の風受け板はぞれぞれ、前壁部の上前方から下後方に流れる走行風を受ける風受け面を有している。第1の風受け板の風受け面および第2の風受け板の風受け面はそれぞれ、前後左右方向に拡がり、前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜している。また、第2の風受け板は、その前端部が第1の風受け板の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置されている。さらに、第1の風受け板と第2の風受け板との間には間隙が設けられている。
【0014】
鞍乗型車両の走行中、車両の前方から車両に向かって流れる走行風の一部は、例えばフロントカウルとフロントフェンダとの間を通り、フロントフェンダに沿うように下後方に向きを変え、アンダーカウルの前壁部の上前方から下後方に流れる。本実施形態のアンダーカウルにおいて、第1の風受け板および第2の風受け板のそれぞれの風受け面は、前後左右方向に拡がり、前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜している。このように、第1の風受け板の風受け面および第2の風受け板の風受け面はいずれも、アンダーカウルの前壁部の上前方から下後方に流れる走行風を遮る方向に拡がっている。さらに、第2の風受け板は、その前端部が第1の風受け板の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置されている。第2の風受け板がこのように配置されているので、前壁部の上前方から下後方に流れる走行風は第1の風受け板および第2の風受け板のそれぞれの風受け面に当たる。したがって、本実施形態のアンダーカウルによれば、例えばフロントカウルとフロントフェンダとの間を通り、フロントフェンダに沿うように下後方に向きを変えた走行風を、第1の風受け板および第2の風受け板のそれぞれの風受け面で受けることができ、これにより、このような風受け面を有していない従来のアンダーカウルと比較して大きなダウンフォースを生成することができ、車両の走行姿勢を安定化させることができる。
【0015】
また、本実施形態のアンダーカウルにおいて、第1の風受け板と第2の風受け板との間には間隙が設けられている。この間隙を介して、アンダーカウルの内部と外部とが連通している。鞍乗型車両の走行中には、走行風が、この間隙を介してアンダーカウルの外部から内部に流入する。この走行風によりアンダーカウル内の高温の空気をアンダーカウル外へ押し出すことができる。これにより、例えばエンジン、エキゾーストパイプ等の発熱体から発せられた熱がアンダーカウル内に籠もることを抑制することができる。
【実施例0016】
図面を参照しつつ、本発明の実施例を説明する。実施例において上(Ud)、下(Dd)、前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を述べる際には、各図中の右下に描いた矢印に従う。
【0017】
(鞍乗型車両)
図1は、本実施例のアンダーカウル6が設けられた鞍乗型車両1を右から見た状態を示している。図2は鞍乗型車両1を前から見た状態を示している。なお、図1および2では、説明の便宜上、鞍乗型車両1において、フロントカウル2、ウインドスクリーン3、サイドカウル4、5およびアンダーカウル6以外の部分を二点鎖線で示している。図3は、図2中の切断線III-IIIに沿って切断した鞍乗型車両1の断面を右(図2においては左)から見た状態を模式的に示している。なお、図3ではハンドル68の図示を省略している。
【0018】
鞍乗型車両1は、図3に示すように、鞍乗型車両1の骨骼を形成する車体フレーム51を備えている。車体フレーム51はヘッドパイプ52および2本のメインフレーム53を備えている。2本のメインフレーム53は鞍乗型車両1の左部および右部にそれぞれ配置され、ヘッドパイプ52の上部から後方にそれぞれ伸長している。なお、図3では左側のメインフレーム53のみを図示している。また、ヘッドパイプ52には、フロントフォーク54を介して、操舵輪である前輪55が支持されている。また、フロントフォーク54には、フロントフェンダ56が設けられている。フロントフェンダ56は前輪55を概ね上から覆っている。フロントフェンダ56の上面は、概ね前輪55の上前方から後方にかけて円弧状に伸長している。
【0019】
また、鞍乗型車両1の車体フレーム51の後部には、図1に示すように、スイングアーム57を介して、駆動輪である後輪58が支持されている。また、鞍乗型車両1において、前輪55と後輪58との間にはパワーユニット59が設けられている。パワーユニット59は車体フレーム51に支持されている。パワーユニット59は鞍乗型車両1を走行させる動力を作り出す装置であり、パワーユニット59の前部には内燃機関としてのエンジン60が設けられ、パワーユニット59の後部には、クラッチを含む変速装置64が設けられている。また、エンジン60はクランクケース61を備え、クランクケース61の上方にはシリンダ62が設けられ、シリンダ62の上方にはシリンダヘッド63が設けられている。
【0020】
また、図3に示すように、鞍乗型車両1において、シリンダヘッド63の前方にはラジエータ65が設けられている。ラジエータ65はエンジン60を冷却するための冷却液を走行風を利用して冷却する装置である。また、エンジン60の前方および下方にはエキゾーストパイプ66が配索されている。エキゾーストパイプ66は、その一端がシリンダヘッド63に設けられた排気口に接続され、当該排気口から前輪55とエンジン60との間を下方に伸長し、その後、クランクケース61の下方を後方に伸長している。そして、エキゾーストパイプ66の他端には、図1に示すように、サイレンサ67が接続されている。また、ヘッドパイプ52の上方にはハンドル68が設けられている。また、パワーユニット59の上後方には、乗員が座るシート69が設けられている。
【0021】
また、鞍乗型車両1はフルカウル型の車両であり、鞍乗型車両1には、図1および2に示すように、フロントカウル2、左右一対のサイドカウル4、5、およびアンダーカウル6が設けられている。
【0022】
フロントカウル2は、ヘッドパイプ52の前方に配置され、鞍乗型車両1においてヘッドパイプ52の前方の部分を覆っている。図3に示すように、フロントカウル2の前面2Aは、ヘッドパイプ52の上端部の前方から下前方に伸長している。フロントカウル2の下面2Bは、概ねヘッドパイプ52の下端部の前方からフロントフォーク54に接近した位置まで後方に略水平に伸長している。フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の前部の上面との間には間隙が形成されている。また、フロントカウル2の上部にはウインドスクリーン3が設けられ、フロントカウル2の前部にはヘッドランプ70が設けられている。
【0023】
右側のサイドカウル4は、フロントフォーク54の上部(ヘッドパイプ52の下部)の右方に配置され、鞍乗型車両1においてフロントフォーク54の上部の右方からパワーユニット59の上部の右方に掛けての部分を覆っている。また、右側のサイドカウル4はラジエータ65の右端部を覆っている。左側のサイドカウル5は、フロントフォーク54の上部(ヘッドパイプ52の下部)の左方に配置され、鞍乗型車両1においてフロントフォーク54の上部の左方からパワーユニット59の上部の左方に掛けての部分を覆っている。また、左側のサイドカウル5はラジエータ65の左端部を覆っている。アンダーカウル6は、前輪55の後方に配置され、鞍乗型車両1において前輪55の直後からパワーユニット59の下部に掛けての部分を覆っている。
【0024】
フロントカウル2、サイドカウル4、5およびアンダーカウル6は、例えば樹脂により形成された板であり、図1および2に示すように、多くの湾曲箇所を有する複雑な形状を有している。右側のサイドカウル4の上部は、フロントカウル2の右部に、リベットまたはネジ等の固定部材を用いて接続されている。左側のサイドカウル5の上部は、フロントカウル2の左部に、リベットまたはネジ等の固定部材を用いて接続されている。アンダーカウル6は後述するように右壁部7、左壁部8および前壁部9を備えているが、アンダーカウル6の右壁部7と右側のサイドカウル4とは互いに一体化しており、両者は一体成形物である。アンダーカウル6の右壁部7と右側のサイドカウル4との境界は厳密に定められるものではないが、説明の便宜上、アンダーカウル6の右壁部7と右側のサイドカウル4との一体成形物において、図1または2中の破線K1よりも上の部分が右側のサイドカウル4であり、破線K1よりも下の部分がアンダーカウル6の右壁部7であるとする。また、アンダーカウル6の左壁部8と左側のサイドカウル5とは互いに一体化しており、両者は一体成形物である。アンダーカウル6の左壁部8と左側のサイドカウル5との境界も厳密に定められるものではないが、説明の便宜上、アンダーカウル6の左壁部8と左側のサイドカウル5との一体成形物において、図2中の破線K2よりも上の部分が左側のサイドカウル5であり、破線K2よりも下の部分がアンダーカウル6の左壁部8であるとする。なお、アンダーカウル6の右壁部7と右側のサイドカウル4とを互いに別体なものとし、両者をリベットまたはネジ等の固定部材を用いて互いに接続するようにしてもよい。アンダーカウル6の左壁部8および左側のサイドカウル5についても同様である。また、フロントカウル2、サイドカウル4、5およびアンダーカウル6は、例えば金属製のステー等を介して車体フレーム51等に固定されている。
【0025】
(アンダーカウル)
アンダーカウル6は右壁部7、左壁部8、および前壁部9を備えている。図1および2に示すように、右壁部7は、前輪55の右後方に配置され、鞍乗型車両1において前輪55の直後からパワーユニット59の下部に掛けての部分を右から覆っている。左壁部8は、前輪55の左後方に配置され、鞍乗型車両1において前輪55の直後からパワーユニット59の下部に掛けての部分を左から覆っている。
【0026】
前壁部9は、図3に示すように、パワーユニット59の下部の前方に配置され、鞍乗型車両1においてパワーユニット59の下部の前方の部分を前から覆っている。前壁部9は、前輪55の直後に配置され、また、クランクケース61の下部の前方に配置されている。また、前壁部9は、鞍乗型車両1の左右方向中央に配置され、前輪55の真後ろに位置している。また、鞍乗型車両1を前から見たとき、前壁部9の下端はクランクケース61の下面よりも下側に位置している。また、鞍乗型車両1を前から見たとき、前壁部9の上端は、シリンダ62よりも下側に位置しており、クランクケース61の上下方向における概ね中央に位置している。また、前壁部9とクランクケース61との間にはエキゾーストパイプ66の一部が配置されている。また、前壁部9はラジエータ65の真下よりも若干前寄りの位置に配置されている。
【0027】
また、アンダーカウル6の内部、すなわち、右壁部7、左壁部8および前壁部9に囲まれた領域内には、クランクケース61の下部、およびエキゾーストパイプ66においてクランクケース61の前方から下方に掛けての領域を通る部分が位置している。また、アンダーカウル6は下壁部を備えておらず、アンダーカウル6の下部は開放されている。パワーユニット59の真下、およびエキゾーストパイプ66においてパワーユニット59の下方を通る部分の真下は、アンダーカウル6により覆われていない。また、アンダーカウル6は上壁部を備えておらず、後壁部も備えていない。
【0028】
(右壁部、左壁部および前壁部の構造)
図4(A)は、前から見たアンダーカウル6を示している。図4(B)は、分解されたアンダーカウル6を前から見た状態を示している。図5(A)は、後ろから見たアンダーカウル6を示している。図5(B)は、分解されたアンダーカウル6を後ろから見た状態を示している。図6は右から見たアンダーカウル6を示している。図7はアンダーカウル6の前壁部9を上右前から見た状態を示している。図8(A)は前から見た前壁部9を示している。図8(B)は上から見た前壁部9を示している。図8(C)は右から見た前壁部9を示している。図8(D)は図8(A)中の切断線VIII-VIIIに沿って切断した前壁部9の断面を上から見た状態を示している。図9、10(A)および10(B)は、図8(A)中の切断線IX-IXに沿って切断した前壁部9の断面を右(図8(A)においては左)から見た状態をそれぞれ示している。
【0029】
右壁部7は、図6に示すように、上下前後方向に拡がる概ね板状に形成されている。本実施例において、右壁部7は、上述したように、右側のサイドカウル4と一体形成されている。右壁部7とサイドカウル4との境界が図1中の破線K1であるとすると、右壁部7は、鞍乗型車両1を側方から見たとき、上縁7A、前縁7B、後縁7Cおよび下縁7Dを有した概ね四角形に形成されている。上縁7Aは右壁部7とサイドカウル4との境界である。前縁7Bは、鞍乗型車両1を側方から見たとき、概ね垂直方向に伸長している。後縁7Cは、鞍乗型車両1を側方から見たとき、後ろ側が前側よりも下がるように傾斜している。なお、本実施例では、他の部品との干渉を避けることや、デザイン性を高めることなどの目的で、後縁7Cは複雑な凹凸を有する形状になっている。下縁7Dは、鞍乗型車両1を側方から見たとき、概ね水平方向に伸長している。また、左壁部8は、右壁部7と略左右対称に形成されている。
【0030】
アンダーカウル6の前壁部9は、図8(A)に示すように、第1の風受け板11、第2の風受け板12、中央壁板15、右張出部16、左張出部17、右端壁板18、左端壁板20、右上接続部22、左上接続部23、右下接続部24、および左下接続部25を有し、さらに、図9に示すように、内壁板14を有している。例えば、前壁部9は、これらの部分が一体形成された樹脂成形物である。
【0031】
第1の風受け板11は、図7に示すように、平板状に形成されている。第1の風受け板11は、図10(A)中の矢印Aに示すように前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を受ける風受け面11Aを有している。第1の風受け板11の上面が風受け面11Aとなっている。風受け面11Aは、前後左右方向に拡がり、前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜している。このように、風受け面11Aは、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を遮る方向に拡がっている。
【0032】
第2の風受け板12は、図7に示すように、左右両側部分が屈曲した板状に形成されている。第2の風受け板12も、図10(A)中の矢印Aに示すように前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を受ける風受け面12Aを有している。第2の風受け板12の上面が風受け面12Aとなっている。風受け面12Aは、前後左右方向に拡がり、前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜している。このように、風受け面12Aは、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を遮る方向に拡がっている。また、図8(A)に示すように、風受け面12Aの左右方向中央部121の左右方向における伸長方向は水平である。また、風受け面12Aの右端側部分122は、右側が左側に対して下がるように傾斜している。また、風受け面12Aの左端側部分123は、左側が右側に対して下がるように傾斜している。
【0033】
また、第2の風受け板12は、図7に示すように、当該第2の風受け板12の前端部が第1の風受け板11の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置されている。これにより、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風は、図10(A)中の矢印Aに示すように、第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aの双方に当たる。
【0034】
また、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間には間隙13が設けられている。間隙13により、前壁部9において第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の部分には、前壁部9を前後方向に貫通する穴が開いた状態となっている。間隙13はアンダーカウル6の内部と外部とを連通している。間隙13は、図8(A)に示すように、第1の風受け板11の後端部の右端から左端に掛けて左右方向に伸長し、左右方向に長い形状を有している。前壁部9を前から見たとき、間隙13の開口形状は、下底が上底よりも長い台形である。鞍乗型車両1の走行時には、図10(A)中の矢印Bが示すように前壁部9の前方から後方に流れる走行風、または図10(A)中の矢印Cが示すように前壁部9の下前方から上後方に流れる走行風が間隙13を通ってアンダーカウル6の内部に流入する。
【0035】
また、第2の風受け板12の前端部は、図9に示すように、第1の風受け板11の後端部よりも前側に位置している。詳細には、第2の風受け板12の前端部および第1の風受け板11の後端部のそれぞれの位置は、第1の風受け板11の後端と第2の風受け板12の前端とを通る直線の水平に対する傾斜角Eが、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風の方向の水平に対する傾斜角以下となるように設定されている。本実施例においては、第2の風受け板12の前端部および第1の風受け板11の後端部のそれぞれの位置は、傾斜角Eが、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風の方向の水平に対する傾斜角よりも大幅に小さくなるように、例えばおよそ30度に設定されている。これにより、図10(A)中の矢印Aが示すように前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が、まっすぐ間隙13を通り抜けてアンダーカウル6の内部に直接流入することが阻止される。
【0036】
また、第2の風受け板12の前端部は、第1の風受け板11の後端部よりも上側に位置している。これにより、図10(A)中の矢印Bが示すように前壁部9の前方から後方に流れる走行風、または図10(A)中の矢印Cが示すように前壁部9の下前方から上後方に流れる走行風が、まっすぐ間隙13を通り抜けてアンダーカウル6の内部に流入し易くなる。それゆえ、前壁部9の前方または下前方から間隙13を介してアンダーカウル6の内部に流入する走行風の量が増加する。
【0037】
このように、前壁部9においては、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が間隙13内に直接流入することが阻止され、一方、前壁部9の前方から後方へ流れる走行風、または前壁部9の下前方から上後方へ流れる走行風が間隙13内に流入することが促進されるように、第2の風受け板12の前端部および第1の風受け板11の後端部のそれぞれの位置が設定されている。換言すれば、前壁部9においては、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が間隙13内に直接流入することが阻止され、かつ前壁部9の前方から後方へ流れる走行風または前壁部9の下前方から上後方へ流れる走行風が間隙13内に流入することが促進されるように間隙13の向きが設定されている。
【0038】
また、図9に示すように、第1の風受け板11の風受け面11Aの面積は、第2の風受け板12の風受け面12Aの面積よりも大きい。また、第1の風受け板11の風受け面11Aにおける前縁から後縁までの長さL1は、第2の風受け板12の風受け面12Aにおける前縁から後縁までの長さL2よりも長い。本実施例では、第1の風受け板11の風受け面11Aにおける前縁から後縁までの長さL1は、第2の風受け板12の風受け面12Aにおける前縁から後縁までの長さL2の2倍以上である。また、第1の風受け板11の風受け面11Aの水平に対する傾斜角F1は第2の風受け板12の風受け面12Aの水平に対する傾斜角F2よりも小さい。
【0039】
内壁板14は、図10(B)に示すように、第2の風受け板12の前端部からアンダーカウル6内に向かって下後方に伸長している。また、内壁板14は、図8(B)に示すように、第2の風受け板12の右端部近傍から左端部近傍にかけて、第2の風受け板12に沿うように概ね左右方向に伸長している。内壁板14は泥除けとして機能する。すなわち、鞍乗型車両1の走行中に、水、泥、砂、小石等が前輪55により巻き上げられることがある。巻き上げられた水、泥、砂、小石等は、図10(B)中の矢印Dに示すように、前壁部9の下前方から上後方に飛来し、内壁板14の下面に当たる。これにより、巻き上げられた水、泥、砂、小石等が間隙13を介してアンダーカウル6の内部に入り込むことが抑制される。なお、図10(B)に示す内壁板14は第2の風受け板12の前端部から下後方に伸長しているが、内壁板14を第2の風受け板12の前端部から後方に水平に伸長させてもよい。内壁板14を第2の風受け板12の前端部から後方に水平に伸長させた場合でも、巻き上げられた水、泥、砂、小石等が間隙13を介してアンダーカウル6の内部に入り込むことを抑制する効果が得られる。
【0040】
中央壁板15は、図7に示すように、第1の風受け板11の下端から下後方に伸長し、アンダーカウル6の下前部の中央部の壁を形成している。
【0041】
右張出部16および左張出部17は、第1の風受け板11、第2の風受け板12および中央壁板15の左右方向両側にそれぞれ設けられている。右張出部16および左張出部17はそれぞれ上下方向に伸長している。また、右張出部16および左張出部17はそれぞれ、下端が上端よりも前側に位置するように傾斜している。また、図8(B)に示すように、右張出部16および左張出部17のそれぞれの下部は第1の風受け板11および中央壁板15よりも前方に張り出し、また、右張出部16および左張出部17のそれぞれの上部は第2の風受け板12よりも前方に張り出している。また、図8(A)に示すように、右張出部16および左張出部17はそれぞれ、下端が上端よりも左右方向中央側に位置するように傾斜している。また、図8(A)および8(D)に示すように、右張出部16において、その前端部から第1の風受け板11および第2の風受け板12にかけての部分は左方に傾斜しつつ後方に伸長した内傾斜部16Aとなり、右張出部16において、その前端部から右端壁板18にかけての部分は右方に傾斜しつつ後方に伸長した外傾斜部16Bとなっている。また、左張出部17において、その前端部から第1の風受け板11および第2の風受け板12にかけての部分は右方に傾斜しつつ後方に伸長した内傾斜部17Aとなり、左張出部17において、その前端部から右端壁板18にかけての部分は左方に傾斜しつつ後方に伸長した外傾斜部17Bとなっている。
【0042】
右端壁板18は、図8(A)に示すように、右張出部16の右後端部から右方に伸長し、右壁部7と前壁部9との境界部分の壁を形成している。また、右端壁板18は、屈曲しつつ概ね上下方向に伸長している。詳細には、図8(C)に示すように、右端壁板18の上部は略垂直方向に伸長しており、右端壁板18の上下方向中間部は下側が上側よりも前側に位置するように傾斜しており、右端壁板18の下部は下側が上側よりも後ろ側に位置するように傾斜している。また、図8(A)に示すように、右端壁板18の上部には、後述の右導風通路28を形成するための切り欠き19が設けられている。また、図5(A)に示すように、右端壁板18の右縁は、切り欠き19が設けられている部分を除き、右壁部7に接触している。
【0043】
左端壁板20は、左張出部17の左後端部から左方に伸長し、左壁部8と前壁部9との境界部分の壁を形成している。左端壁板20は右端壁板18と左右対称に形成されている。また、左端壁板20の上部には、後述の左導風通路29を形成するための切り欠き21が設けられている。また、左端壁板20の左縁は、切り欠き21が設けられている部分を除き、左壁部8に接触している。
【0044】
また、図8(A)に示すように、前壁部9の右上端部および右下端部には、前壁部9と右壁部7とを接続するための右上接続部22および右下接続部24がそれぞれ設けられている。また、前壁部9の左上端部および左下端部には、前壁部9と左壁部8とを接続するための左上接続部23および左下接続部25がそれぞれ設けられている。また、前壁部9において、右端壁板18の下部および左端壁板20の下部には係止穴26、27がそれぞれ設けられている。また、図4(B)および5(B)に示すように、右壁部7の前端側部分の上部および下部には上接続部31および下接続部32がそれぞれ設けられている。また、右壁部7の前端部の下部には係止片33および突片34が設けられている。また、左壁部8の前端側部分の上部および下部にも上接続部35および下接続部36がそれぞれ設けられている。また、右壁部7の前端部の下部にも係止片37および突片38が設けられている。図4(A)および5(A)に示すように、前壁部9と右壁部7とは、前壁部9の係止穴26内に右壁部7の係止片33を挿入しつつ、前壁部9の右端壁板18の右縁部を右壁部7の下部の前縁部と突片34との間に挿入し、前壁部9の右上接続部22と右壁部7の上接続部31とを固定部材41を用いて結合し、前壁部9の右下接続部24と右壁部7の下接続部32とを固定部材42を用いて結合することにより互いに接続される。また、前壁部9と左壁部8とは、前壁部9の係止穴27内に左壁部8の係止片37を挿入しつつ、前壁部9の左端壁板20の左縁部を左壁部8の下部の前縁部と突片38との間に挿入し、前壁部9の左上接続部23と左壁部8の上接続部35とを固定部材43を用いて結合し、前壁部9の左下接続部25と左壁部8の下接続部36とを固定部材44を用いて結合することにより互いに接続される。固定部材41~44として例えばリベットまたはネジを用いることができる。
【0045】
図11は、前方から見たアンダーカウル6を示している。また、図11では、前輪55の外形を二点鎖線で示している。図11に示すように、前壁部9において、右張出部16よりも右側の部分および左張出部17よりも左側の部分には右導風通路28および左導風通路29がそれぞれ設けられている。右壁部7と前壁部9とが互いに接続されることにより、前壁部9の右端壁板18に設けられた切り欠き19と右壁部7の前部との間には、前方に開口し、アンダーカウル6の外部と内部とを連通する縦長の穴が形成される。その穴が右導風通路28である。また、左壁部8と前壁部9とが互いに接続されることにより、前壁部9の左端壁板20に設けられた切り欠き21と左壁部8の前部との間には、前方に開口し、アンダーカウル6の外部と内部とを連通する縦長の穴が形成される。その穴が左導風通路29である。
【0046】
前壁部9における第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13が前輪55の真後ろに位置しているのに対し、右導風通路28は前輪55よりも右側に位置し、左導風通路29は前輪55よりも左側に位置している。また、前壁部9を右方から見たとき、図8(C)に示すように、前壁部9の右端壁板18に形成された切り欠き19は、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13よりも前側に配置されている。したがって、右導風通路28は第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13よりも前側に位置している。同様に、左導風通路29は第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13よりも前側に位置している。
【0047】
右導風通路28および左導風通路29はそれぞれ、アンダーカウル6の前方から後方に流れる走行風をアンダーカウル6の内部に導入する通路である。すなわち、アンダーカウル6は、アンダーカウル6の外部から内部へ走行風を流入させる通路として、前壁部9の第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13に加え、右導風通路28および左導風通路29を有している。第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13は、右導風通路28および左導風通路29と比較して開口面積(走行風の流路面積)が大きい。この点から、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13の方が、右導風通路28および左導風通路29よりも、走行風をアンダーカウル6の内部に多量に流入させることができる。一方、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13は前輪55の真後ろに位置しているのに対し、右導風通路28および左導風通路29は前輪55よりも右側および左側にそれぞれ位置している。したがって、鞍乗型車両1の前方からの走行風が前輪55に当たって左右に拡散した場合には、右導風通路28および左導風通路29の方が、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13よりも走行風が流入し易くなる。第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13と、右導風通路28および左導風通路29とを組み合わせることにより、走行風をアンダーカウル6の内部に確実に流入させることができる。
【0048】
また、図6に示すように、前壁部9は、右壁部7の前縁7Bおよび左壁部8の前縁よりも後ろ側に配置されている。すなわち、第1の風受け板11、第2の風受け板12、間隙13、中央壁板15、右端壁板18、左端壁板20、右導風通路28および左導風通路29のそれぞれの全体は、右壁部7の前縁7Bおよび左壁部8の前縁よりも後ろ側に位置している。鞍乗型車両1を右方から見たとき、前壁部9は、右張出部16の一部を除き、右壁部7に隠れる。同様に、鞍乗型車両1を左方から見たとき、前壁部9は、左張出部17の一部を除き、左壁部8に隠れる。すなわち、右壁部7の前部は前壁部9の略全体を右方から覆っており、左壁部8の前部は前壁部9の略全体を左方から覆っている。その結果、第1の風受け板11の全体および第2の風受け板12の全体は、右壁部7の前部によって右方から覆われ、かつ左壁部8の前部によって左方から覆われている。図10(A)中の矢印Aに示すように、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風は、右壁部7の前部と左壁部8の前部との間に進入した後、前壁部9の第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aに当たる。
【0049】
以上説明した通り、本発明の実施例のアンダーカウル6によれば、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aで受けることにより、大きなダウンフォースを生成することができ、鞍乗型車両1の走行姿勢を安定化させることができる。すなわち、鞍乗型車両1の走行中、鞍乗型車両1の前方から鞍乗型車両1に向かって流れる走行風の一部は、フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の上面との間を通る。フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の上面との間を通った走行風は、フロントフェンダ56に沿うように下後方に向きを変え、またはラジエータ65の前面に当たって下後方に向きを変え、アンダーカウル6の前壁部9の上前方から下後方に流れる。アンダーカウル6において、第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aはそれぞれ、前後左右方向に拡がり、前縁部が後縁部に対して下がるように傾斜している。このように、風受け面11A、12Aはいずれも、アンダーカウル6の前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を遮る方向に拡がっている。さらに、第2の風受け板12は、その前端部が第1の風受け板11の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置されている。第2の風受け板12がこのように配置されているので、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風は第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aのそれぞれに当たる。したがって、アンダーカウル6によれば、フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の上面との間を通り、フロントフェンダ56に沿うように下後方に向きを変えた走行風を、第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aのそれぞれで受けることができる。これにより、このような風受け面を有していない従来のアンダーカウルと比較して大きなダウンフォースを生成することができ、鞍乗型車両1のフロントリフトを抑えることができる。よって、車両の走行姿勢を安定化させることができる。
【0050】
また、本実施例のアンダーカウル6によれば、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13を介して走行風をアンダーカウル6の内部に流入させることにより、アンダーカウル6内における熱の籠もりを抑制することができる。すなわち、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13を介して、アンダーカウル6の内部と外部とが連通している。鞍乗型車両1の走行中には、前壁部9の前方から後方に流れる走行風、または前壁部9の下前方から上後方に流れる走行風が、この間隙13を介してアンダーカウル6の外部から内部に流入する。この走行風によりアンダーカウル6内の高温の空気をアンダーカウル6の外部、例えばアンダーカウル6の下方や後方へ押し出すことができる。これにより、エンジン60、エキゾーストパイプ66等の発熱体から発せられた熱がアンダーカウル6内に籠もることを抑制することができ、エンジン60等の温度上昇を抑えることができる。
【0051】
また、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13は、アンダーカウル6の上下方向における略中間の位置にあるので、間隙13からアンダーカウル6の内部に流入した走行風により、アンダーカウル6の内部の高温の空気をアンダーカウル6の外部へ効率良く押し出すことができる。また、間隙13はアンダーカウル6の最下部よりも高い位置にあるので、間隙13を介してアンダーカウル6の内部に水、泥、砂、小石等が入り込むことを抑制することができる。また、間隙13は、アンダーカウル6の最前部よりも後ろ側の位置にあるので、間隙13を前輪55から離すことができる。これにより、前壁部9の前方から後方に流れる走行風、または前壁部9の下前方から上後方に流れる走行風が間隙13内に流入することを促進させることができ、走行風のアンダーカウル6内への流入量を増やすことができる。
【0052】
また、本実施例のアンダーカウル6の前壁部9において、第2の風受け板12の前端部は第1の風受け板11の後端部よりも前側かつ上側に位置している。この構成により、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が間隙13内に直接流入することを阻止することができ、一方、前壁部9の前方から後方へ流れる走行風または前壁部9の下前方から上後方へ流れる走行風が間隙13内に流入することを促進させることができる。前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が間隙13内に直接流入することを阻止することにより、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が間隙13内に直接流入し、続いてアンダーカウル6内を通り抜け、アンダーカウル6の下方に放出されてしまうことを抑制することができる。これにより、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風により生成されるダウンフォースが減少してしまうことを抑えることができる。一方、前壁部9の前方から後方へ流れる走行風または前壁部9の下前方から上後方へ流れる走行風が間隙13内に流入することを促進させることにより、前壁部9の前方または下前方から間隙13を通ってアンダーカウル6内に流入する走行風の量を増やすことができる。これにより、アンダーカウル6内の熱の籠もりを抑制する効果を高めることができる。
【0053】
また、本実施例のアンダーカウル6の前壁部9において、第1の風受け板11の風受け面11Aの水平に対する傾斜角は、第2の風受け板12の風受け面12Aの水平に対する傾斜角よりも小さい。これにより、前壁部9の前後方向の寸法を小さくしつつ、フロントリフトを抑える効果を高めることができる。この理由について説明する。この理由を理解するに当たり、以下の3つの点を踏まえる必要がある。
(1)走行風の方向と風受け面とが直交している場合に、走行風が風受け面を押す力が最大となる。それゆえ、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aで受けることによって生成するダウンフォースを大きくするためには、風受け面11Aおよび風受け面12Aのそれぞれの角度が、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風の方向に対して90度に近い方がよい。
(2)フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の上面との間を通ってフロントフェンダ56に沿うように下後方に流れる走行風、すなわち、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風の方向は、水平よりも垂直に近く、すなわち、水平に対して45度を超えた方向である。
(3)鞍乗型車両1の加速時に生じるフロントリフトは、一般に、駆動輪である後輪を支点として前輪が浮き上がる現象である。したがって、このフロントリフトを抑える効果を高めるためには、ダウンフォースの生成箇所が鞍乗型車両の前端にできる限り近いことが好ましい。
【0054】
上記第1および第2の点から、風受け面11A、12Aの傾斜角は、水平に対して45度以下にすることが好ましい。ところが、風受け面11A、12Aの傾斜角を水平に対して45度以下にすると、前壁部9の前後方向の寸法が大きくなり、前壁部9の下端が前輪55に接触するおそれや、前壁部9の上端がエキゾーストパイプ66に接触するおそれが生じる。そこで、風受け面11Aと風受け面12Aのうちのいずれか一方の風受け面の傾斜角を水平に対して45度に近づけ、他方の風受け面の水平に対する傾斜角を一方の風受け面の水平に対する傾斜角よりも大きくする。これにより、前壁部9の前後方向の寸法を小さくしつつ、ダウンフォースを大きくすることができる。さらに、前壁部9の後ろ側部分に配置された風受け面12Aの傾斜角よりも、前壁部9の前側部分に配置された風受け面11Aの傾斜角を水平に対して45度に近づけることにより、前壁部9の後ろ側部分で生成されるダウンフォースよりも前壁部9の前側部分で生成されるダウンフォースを大きくすることができ、大きなダウンフォースが生成される箇所を鞍乗型車両1の前端に近づけることができる。これにより、上記第3の点から、フロントリフトを抑える効果を高めることができる。以上より、第1の風受け板11の風受け面11Aの水平に対する傾斜角を、第2の風受け板12の風受け面12Aの水平に対する傾斜角よりも小さくすることにより、前壁部9の前後方向の寸法を小さくしつつ、フロントリフトを抑える効果を高めることができる。
【0055】
また、本実施例のアンダーカウル6の前壁部9においては、第1の風受け板11の風受け面11Aの水平に対する傾斜角が第2の風受け板12の風受け面12Aの水平に対する傾斜角よりも小さいことに加え、第1の風受け板11の風受け面11Aの面積が第2の風受け板12の風受け面12Aの面積よりも大きい。これにより、前壁部9の前側部分で生成されるダウンフォースを増大させることができ、フロントリフトを抑える効果を一層高めることができる。
【0056】
また、本実施例のアンダーカウル6の前壁部9において、第1の風受け板11の風受け面11Aにおける前縁から後縁までの長さは、第2の風受け板12の風受け面12Aにおける前縁から後縁までの長さよりも長い。これにより、第1の風受け板11の風受け面11Aの左右方向の長さが第2の風受け板12の風受け面12Aの左右方向の長さよりも短い場合でも、第1の風受け板11の風受け面11Aの面積を第2の風受け板12の風受け面12Aの面積よりも大きくすることができる。また、第1の風受け板11と第2の風受け板12との間の間隙13の位置を前壁部9のより後ろ側の部分に設定することが可能となり、間隙13を前輪55から大きく離すことができる。これにより、前壁部9の前方または前下方からの走行風が間隙13を介してアンダーカウル6の内部に流入することを一層促進させることができる。
【0057】
また、本実施例のアンダーカウル6の前壁部9は、第2の風受け板12の前端部からアンダーカウル6内に向かって下後方に伸長した内壁板14を備えている。これにより、前輪55により巻き上げられた水、泥、砂、小石等が間隙13を介してアンダーカウル6の内部に入り込むことを抑制することができる。
【0058】
また、本実施例のアンダーカウル6の前壁部9において、第1の風受け板11および第2の風受け板12の左右方向両側には右張出部16および左張出部17それぞれ設けられ、また、右張出部16よりも右側の部分および左張出部17よりも左側の部分には右導風通路28および左導風通路29が設けられている。風受け面11A、12A間の間隙13に加え、右導風通路28および左導風通路29が設けられているので、走行風をアンダーカウル6の内部に確実に流入させることができ、アンダーカウル6内の熱の籠もりを抑制する効果を高めることができる。また、右張出部16および左張出部17は、フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の上面との間を通ってフロントフェンダ56に沿うように下後方に流れる第1の走行風と、鞍乗型車両1の前方から前輪55の右側および左側を通って後方に流れる第2の走行風とを仕切る機能を有している。この機能により、上記第1の走行風を風受け面11A、12Aで受けることによりダウンフォースを生成しつつ、上記第2の走行風を右導風通路28および左導風通路29を介してアンダーカウル6の内部に流入させることによりアンダーカウル6内の熱の籠もりを抑制することができる。
【0059】
また、本実施例のアンダーカウル6においては、第1の風受け板11の全体および第2の風受け板12の全体が、右壁部7の前部によって右方から覆われ、かつ左壁部8の前部によって左方から覆われている。この構成により、前壁部9の上前方から第1の風受け板11の風受け面11Aおよび第2の風受け板12の風受け面12Aにそれぞれ当たる走行風の量を増やすことができ、ダウンフォースを増大させることができる。すなわち、アンダーカウル6において、フロントカウル2の下面2Bとフロントフェンダ56の上面との間を通った走行風は、サイドカウル4の前部とサイドカウル5の前部との間に進入しつつ、下後方に向きを変える。その後、その走行風は、サイドカウル4の前部とサイドカウル5の前部との間を下後方に流れ、アンダーカウル6の右壁部7の前部と左壁部8の前部との間に進入し、その後、風受け面11A、12Aに当たる。本実施例のアンダーカウル6によれば、右壁部7の前部および左壁部8の前部により、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風が左右方向に拡散することを抑制することができ、前壁部9の上前方から下後方に流れる走行風を風受け面11A、12Aの上方に集めることができる。したがって、風受け面11A、12Aに当たる走行風の量を増やすことができ、ダウンフォースを増大させることができる。
【0060】
なお、図12(A)に示すアンダーカウルの前壁部80のように、前壁部80の上側部分に配置された第2の風受け板82の風受け面82Aの水平に対する傾斜角を、前壁部80の下側部分に配置された第1の風受け板81の風受け面81Aの水平に対する傾斜角よりも小さくしてもよい。また、図12(A)に示すように、第2の風受け板82の風受け面82Aの面積を、第1の風受け板81の風受け面81Aの面積よりも大きくしてもよい。また、図12(A)に示すように、第2の風受け板82の風受け面82Aにおける前縁から後縁までの長さを、第1の風受け板81の風受け面81Aにおける前縁から後縁までの長さよりも長くしてもよい。
【0061】
また、図12(B)に示すアンダーカウルの前壁部90のように、第1の風受け板91および第2の風受け板92に加え、第3の風受け板93を設けてもよい。第3の風受け板93は、その前端部が第2の風受け板92の前端部よりも上側かつ後ろ側となるように配置する。また、第1の風受け板91と第2の風受け板92との間には間隙94を設け、第2の風受け板92と第3の風受け板93との間にも間隙95を設ける。
【0062】
また、上記実施例のアンダーカウル6は、鞍乗型車両1において前輪55の直後からパワーユニット59の下部に掛けての部分を覆っているが、本発明のアンダーカウルは、鞍乗型車両において前輪の直後からパワーユニットの下部の直前までを覆うアンダーカウルであってもよいし、鞍乗型車両において前輪の直後から後輪の直前までの部分を覆うアンダーカウルであってもよい。また、上記実施例のアンダーカウル6に、パワーユニット59の下部を下方から覆う下壁部を追加してもよい。
【0063】
また、本発明はフルカウル型の鞍乗型車両以外の鞍乗型車両、例えば、アンダーカウルのみを備えた鞍乗型車両にも適用することができる。また、本発明は、内燃機関以外の動力源を備えた鞍乗型車両にも適用することができる。
【0064】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うアンダーカウルもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 鞍乗型車両
6 アンダーカウル
7 右壁部
8 左壁部
9、80、90 前壁部
11、81、91 第1の風受け板
11A、81A 風受け面
12、82、92 第2の風受け板
12A、82A 風受け面
13、94、95 間隙
14 内壁板
16 右張出部(張出部)
17 左張出部(張出部)
28 右導風通路(導風通路)
29 左導風通路(導風通路)
55 前輪
58 後輪
59 パワーユニット
93 第3の風受け板
図1
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図12