(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015543
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240130BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240130BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652M
H01L29/78 652J
H01L29/78 655A
H01L29/78 655B
H01L29/78 655G
H01L29/78 658F
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117638
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 拓歩
(72)【発明者】
【氏名】大形 公士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 聖幸
(57)【要約】
【課題】半導体装置の信頼性を向上させる。
【解決手段】半導体装置は、n型の半導体基板SUBと、トレンチTRと、トレンチTRの内部にゲート絶縁膜GIを介して形成されたゲート電極とを備える。トレンチTRの角部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さと、トレンチTRの底部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さとの差の絶対値ΔTBは、トレンチTRの角部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さと、トレンチTRの側壁部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さとの差の絶対値ΔTAよりも小さい。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有する第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に形成された第1トレンチと、
前記第1トレンチの内部に形成された第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜を介して、前記第1トレンチの内部に埋め込まれた導電性膜と、
を備え、
前記第1トレンチは、
前記半導体基板の前記上面から前記半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成された第1側壁部と、
前記半導体基板の内部に位置する第1底部と、
前記第1側壁部と前記第1底部とを繋ぐ第1角部と、
を有し、
前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1底部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTBは、前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1側壁部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTAよりも小さい、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1底部は、前記半導体基板の前記上面からの深さが最も深い最深部を含み、
前記第1側壁部は、前記半導体基板の前記上面から前記最深部までの深さの半分に位置する中間部を含み、
前記第1底部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さは、前記最深部における前記第1絶縁膜の厚さであり、
前記第1側壁部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さは、前記中間部における前記第1絶縁膜の厚さである、半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さは、前記中間部の接線である第1直線と、前記最深部の接線である第2直線との交点において、前記第2直線から前記第1直線側へ45度傾斜した方向に延在する第3直線上における前記第1絶縁膜の厚さである、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第1トレンチは、平面視において第1方向に延在し、
前記半導体基板の前記上面の位置において、平面視で前記第1方向と直交する第2方向における前記第1トレンチの幅をWとし、且つ、前記最深部と前記第3直線上の前記第1角部とを通過する真円の曲率半径をRとした場合、
R-(W-0.4)>W [μm]
の関係を満たす、半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1側壁部、前記第1底部および前記第1角部の各々における前記半導体基板の結晶面は、(100)面である、半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1トレンチよりも浅くなるように、前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の第2導電型であるベース領域と、
前記ベース領域に形成された前記第1導電型のエミッタ領域と、
前記半導体基板の前記下面上に形成されたコレクタ電極と、
前記第1トレンチを覆うように、前記半導体基板の前記上面上に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜上に形成されたゲート配線およびエミッタ電極と、
を更に備え、
前記エミッタ領域および前記ベース領域は、前記エミッタ電極に電気的に接続され、
前記導電性膜は、前記ゲート配線に電気的に接続され、且つ、ゲート電極として機能し、
前記第1絶縁膜は、ゲート絶縁膜として機能する、半導体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置において、
前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に形成された第2トレンチと、
前記第2トレンチの内部に形成された第2絶縁膜と、
前記第2絶縁膜を介して、前記第2トレンチの内部に埋め込まれた抵抗素子と、
を備え、
前記半導体基板の前記上面の位置において、平面視で前記第2トレンチの延在方向と直交する方向における前記第2トレンチの幅は、平面視で前記第1トレンチの延在方向と直交する方向における前記第1トレンチの幅よりも広く、
前記第2トレンチは、
前記半導体基板の前記上面から前記半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成された第2側壁部と、
前記半導体基板の内部に位置する第2底部と、
前記第1側壁部と前記第1底部とを繋ぐ第2角部と、
を有し、
前記第2角部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さと、前記第2底部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTDは、前記第2角部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さと、前記第2側壁部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTCよりも小さく、
絶対値ΔTCと絶対値ΔTDとの差は、絶対値ΔTAと絶対値ΔTBとの差よりも小さい、半導体装置。
【請求項8】
(a)上面および下面を有する第1導電型の半導体基板を用意する工程、
(b)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に、第1トレンチを形成する工程、
(c)前記第1トレンチの内部に、第1絶縁膜を形成する工程、
(d)第1絶縁膜を介して前記第1トレンチの内部を埋め込むように、導電性膜を形成する工程、
を備え、
前記第1トレンチは、
前記半導体基板の前記上面から前記半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成された第1側壁部と、
前記半導体基板の内部に位置する第1底部と、
前記第1側壁部と前記第1底部とを繋ぐ第1角部と、
を有し、
前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1底部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTBは、前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1側壁部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTAよりも小さい、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(b)工程では、C4F8ガスおよびSF6ガスを用いたドライエッチング処理が行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程では、900℃以上且つ1000℃以下の条件下で水蒸気を用いた熱酸化処理が行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において
前記第1底部は、前記半導体基板の前記上面からの深さが最も深い最深部を含み、
前記第1側壁部は、前記半導体基板の前記上面から前記最深部までの深さの半分に位置する中間部を含み、
前記第1底部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さは、前記最深部における前記第1絶縁膜の厚さであり、
前記第1側壁部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さは、前記中間部における前記第1絶縁膜の厚さである、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さは、前記中間部の接線である第1直線と、前記最深部の接線である第2直線との交点において、前記第2直線から前記第1直線側へ45度傾斜した方向に延在する第3直線上における前記第1絶縁膜の厚さである、半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1トレンチは、平面視において第1方向に延在し、
前記半導体基板の前記上面の位置において、平面視で前記第1方向と直交する第2方向における前記第1トレンチの幅をWとし、且つ、前記最深部と前記第3直線上の前記第1角部とを通過する真円の曲率半径をRとした場合、
R-(W-0.4)>W [μm]
の関係を満たす、半導体装置の製造方法。
【請求項14】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1側壁部、前記第1底部および前記第1角部の各々における前記半導体基板の結晶面は、(100)面である、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
(e)前記第1トレンチよりも浅くなるように、前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に、前記第1導電型と反対の第2導電型であるベース領域を形成する工程、
(f)前記ベース領域に、前記第1導電型のエミッタ領域を形成する工程、
(g)前記第1トレンチを覆うように、前記半導体基板の前記上面上に、層間絶縁膜を形成する工程、
(h)前記層間絶縁膜上に、ゲート配線およびエミッタ電極を形成する工程、
(i)前記半導体基板の前記下面上に、コレクタ電極を形成する工程、
を更に備え、
前記エミッタ領域および前記ベース領域は、前記エミッタ電極に電気的に接続され、
前記導電性膜は、前記ゲート配線に電気的に接続され、且つ、ゲート電極として機能し、
前記第1絶縁膜は、ゲート絶縁膜として機能する、半導体装置の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(a)工程では、前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に、第2トレンチが形成され、
前記(b)工程では、前記第2トレンチの内部に、第2絶縁膜が形成され、
前記(c)工程では、前記第2絶縁膜を介して、前記第2トレンチの内部に抵抗素子が埋め込まれ、
前記半導体基板の前記上面の位置において、平面視で前記第2トレンチの延在方向と直交する方向における前記第2トレンチの幅は、平面視で前記第1トレンチの延在方向と直交する方向における前記第1トレンチの幅よりも広く、
前記第2トレンチは、
前記半導体基板の前記上面から前記半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成された第2側壁部と、
前記半導体基板の内部に位置する第2底部と、
前記第1側壁部と前記第1底部とを繋ぐ第2角部と、
を有し、
前記第2角部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さと、前記第2底部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTDは、前記第2角部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さと、前記第2側壁部上に形成されている前記第2絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTCよりも小さく、
絶対値ΔTCと絶対値ΔTDとの差は、絶対値ΔTAと絶対値ΔTBとの差よりも小さい、半導体装置の製造方法。
【請求項17】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(b)工程では、C4F8ガスを用いた第1プラズマ処理と、SF6ガスを用いた第2プラズマ処理と、SF6ガスを用い、且つ、前記第2プラズマ処理よりも低電圧の第3プラズマ処理とを含むドライエッチング処理を1サイクルとして、複数サイクルの前記ドライエッチング処理を繰り返すことで、前記第1トレンチが形成される、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、特に、トレンチの内部に形成されたゲート電極を備えた半導体装置と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体素子を備えた半導体装置が広く使用されている。また、オン抵抗の低いIGBTとして、トレンチゲート型のIGBTが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、GGEE構造のIGBTが開示されている。このようなIGBTでは、n型の半導体基板にトレンチが形成され、トレンチの内部には、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が埋め込まれている。特許文献1では、トレンチを形成するためのエッチング処理には、Cl2ガスおよびO2ガスが用いられており、その後、トレンチの内壁にゲート絶縁膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワー半導体素子の信頼性評価の1つとして、ブレークダウン電圧に対する耐性の評価がある。トレンチの底部付近において、ゲート絶縁膜の厚さにバラつきがあると、局所的に耐圧の低い箇所が存在することになるので、ゲート耐圧の信頼性が低下することになる。このような問題は、歩留まりの低下および検査コストの増加の原因となる。
【0006】
本願の主な目的は、トレンチの底部付近におけるゲート絶縁膜の厚さのバラつきを抑制し、半導体装置の信頼性を向上させることにある。その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0008】
一実施の形態に係る半導体装置は、上面および下面を有する第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に形成された第1トレンチと、前記第1トレンチの内部に形成された第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜を介して、前記第1トレンチの内部に埋め込まれた導電性膜と、を備える。ここで、前記第1トレンチは、前記半導体基板の前記上面から前記半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成された第1側壁部と、前記半導体基板の内部に位置する第1底部と、前記第1側壁部と前記第1底部とを繋ぐ第1角部と、を有する。また、前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1底部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTBは、前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1側壁部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTAよりも小さい。
【0009】
一実施の形態に係る半導体装置の製造方法は、(a)上面および下面を有する第1導電型の半導体基板を用意する工程、(b)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板に、第1トレンチを形成する工程、(c)前記第1トレンチの内部に、第1絶縁膜を形成する工程、(d)第1絶縁膜を介して前記第1トレンチの内部を埋め込むように、導電性膜を形成する工程、を備える。ここで、前記第1トレンチは、前記半導体基板の前記上面から前記半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成された第1側壁部と、前記半導体基板の内部に位置する第1底部と、前記第1側壁部と前記第1底部とを繋ぐ第1角部と、を有する。また、前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1底部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTBは、前記第1角部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さと、前記第1側壁部上に形成されている前記第1絶縁膜の厚さとの差の絶対値ΔTAよりも小さい。
【発明の効果】
【0010】
一実施の形態によれば、半導体装置の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1における半導体装置を示す平面図である。
【
図2】実施の形態1における半導体装置を示す要部平面図である。
【
図3】実施の形態1における半導体装置を示す断面図である。
【
図4】実施の形態1における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図12】実施の形態1における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図13】実施の形態1における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図14】実施の形態1における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図15】実施の形態1および検討例における耐圧分布を示すグラフである。
【
図16】実施の形態1および検討例におけるTDDB寿命を示すグラフである。
【
図17】実施の形態2における半導体装置を示す要部平面図である。
【
図18】実施の形態2における半導体装置を示す断面図である。
【
図19】実施の形態2における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図20】検討例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図21】検討例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図22】検討例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0013】
また、本願において説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差し、互いに直交している。本願では、Z方向をある構造体の上下方向、高さ方向または厚さ方向として説明する。また、本願で用いられる「平面図」または「平面視」などの表現は、X方向およびY方向によって構成される面を「平面」とし、この「平面」をZ方向から見ることを意味する。
【0014】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
以下に
図1~
図3を用いて、実施の形態1における半導体装置100の構造について説明する。実施の形態1の主な特徴は、トレンチTRの構造およびゲート絶縁膜GIの厚さにある。そのような特徴は、
図12~
図16を用いて後で詳細に説明する。その前に、半導体装置100の全体的な構造と、その製造方法について説明する。
【0015】
図1は、半導体装置100である半導体チップを示す平面図である。
図1に示されるように、半導体装置100の大部分はエミッタ電極EEで覆われている。平面視においてエミッタ電極EEの周囲には、ゲート配線GWが形成されている。
【0016】
エミッタ電極EEおよびゲート配線GWの各々の一部は、図示しない保護膜によって覆われている。この保護膜から露出している領域が、エミッタパッドおよびゲートパッドである。エミッタパッド上およびゲートパッド上に、ワイヤボンディングまたはクリップ(銅板)などの外部接続用部材が接続されることで、半導体装置100が、他の半導体チップまたは配線基板などに電気的に接続される。
【0017】
半導体装置100は、セル領域1Aおよび抵抗領域2Aを有する。セル領域1Aには、IGBTのような主要な半導体素子が形成されている。抵抗領域2Aには、例えばゲート配線GWの途中に形成されるような抵抗素子が形成されている。
【0018】
図2は、
図1に示されるセル領域1Aに対応した要部平面図である。
図2に示されるIGBTは、GGEE構造のIGBTであり、IE(Injection Enhancement)効果を利用可能としたIE型のIGBTである。IE効果とは、IGBTがオン状態の際に、エミッタ電極EE側に正孔が排出され難くすることで、ドリフト領域NVに蓄積される電荷の濃度を高める技術である。このため、半導体装置100は、IGBTの主動作を行うためのアクティブセルACと、アクティブセルAC以外のインアクティブセルIACとを有する。
【0019】
図2に示されるように、複数のトレンチTRは、Y方向に延在し、X方向で互いに隣接している。アクティブセルACのトレンチTRの内部には、ゲート電極GE1が形成されている。インアクティブセルIACのトレンチTRの内部には、ゲート電極GE2が形成されている。アクティブセルACのゲート電極GE1には、ゲート配線GWが電気的に接続され、IGBTの動作時にゲート電位が供給される。インアクティブセルIACのゲート電極GE2には、エミッタ電極EEが電気的に接続され、IGBTの動作時にエミッタ電位が供給される。
【0020】
図3は、
図2に示されるA-A線に沿った断面図である。半導体装置100は、上面および下面を有するn型の半導体基板SUBを備える。半導体基板SUBは、n型のドリフト領域NVを有する。ここでは、n型の半導体基板SUB自体がドリフト領域NVを構成している。なお、ドリフト領域NVは、n型のシリコン基板と、シリコン基板上にエピタキシャル成長法によって燐(P)を導入しながら成長させた半導体層との積層体であってもよい。本願では、そのような積層体も半導体基板SUBであるとして説明する。
【0021】
半導体基板SUBの下面側において、半導体基板SUBには、n型のフィールドストップ領域(不純物領域)NSが形成されている。フィールドストップ領域NSは、IGBTのターンオフ時に、半導体基板SUBの上面側のpn接合から延びる空乏層が、p型のコレクタ領域PCに達することを抑制するために設けられている。
【0022】
半導体基板SUBの下面側において、半導体基板SUBには、p型のコレクタ領域(不純物領域)PCが形成されている。コレクタ領域PCは、フィールドストップ領域NSの下方に位置している。
【0023】
半導体基板SUBの下面上には、コレクタ電極CEが形成されている。コレクタ電極CEは、コレクタ領域PCに電気的に接続され、コレクタ領域PCにコレクタ電位を供給する。コレクタ電極CEは、例えばAlSi膜、Ti膜、NiV膜およびAu膜のような金属膜からなる。
【0024】
半導体基板SUBの上面側において、半導体基板SUBには、トレンチTRが形成されている。トレンチTRは、後述するエミッタ領域NEおよびベース領域PBを貫通し、且つ、半導体基板SUBに達している。トレンチTRの深さは、例えば2μm以上且つ5μm以下である。
【0025】
トレンチTRの内部には、ゲート絶縁膜GIが形成されている。ゲート電極GE1、GE2は、ゲート絶縁膜GIを介してトレンチTRの内部に埋め込まれている。ゲート絶縁膜GIは、絶縁膜であり、例えば酸化シリコン膜である。ゲート電極GE1、GE2は、導電性膜であり、例えばn型の不純物が導入された多結晶シリコン膜である。ゲート絶縁膜GIの厚さは、例えば70nm以上且つ150nm以下である。
【0026】
アクティブセルACの半導体基板SUBの上面側において、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE1)の間の半導体基板SUBには、ホールバリア領域(不純物領域)NHBが形成されている。ホールバリア領域NHBには、p型のベース領域(不純物領域)PBが形成されている。p型のベース領域PBには、n型のエミッタ領域(不純物領域)NEが形成されている。ベース領域PBは、トレンチTRよりも浅くなるように形成され、エミッタ領域NEは、ベース領域PBのよりも浅くなるように形成されている。
【0027】
インアクティブセルIACの半導体基板SUBの上面側において、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE2)の間の半導体基板SUBには、ホールバリア領域NHBが形成されている。また、ゲート電極GE1とゲート電極GE2との間の半導体基板SUBには、p型のフローティング領域(不純物領域)PFが形成されている。ホールバリア領域NHBおよびフローティング領域PFには、p型のベース領域PBが形成されている。フローティング領域PFは、高耐圧特性を高めるために、トレンチTRの底部よりも深い位置にまで形成されていることが好ましく、トレンチTRの底部を覆うように形成されていることが、より好ましい。
【0028】
半導体基板SUBの上面上には、層間絶縁膜ILが形成されている。層間絶縁膜ILは、例えば酸化シリコン膜である。なお、層間絶縁膜ILは、酸化シリコン膜と、ボロンおよびリンを含む酸化シリコン膜(BPSG:Boro Phospho Silicate Glass)との積層膜であってもよい。層間絶縁膜ILの厚さは、例えば600nm以上且つ1500nm以下である。
【0029】
アクティブセルACにおいて、コンタクトホールCHは、層間絶縁膜ILおよびエミッタ領域NEを貫通し、且つ、ベース領域PBに達している。コンタクトホールCHは、エミッタ領域NEおよびベース領域PBに接するように形成されている。
【0030】
コンタクトホールCHの上部では、層間絶縁膜ILが後退している。すなわち、半導体基板SUBの上面よりも上に位置するコンタクトホールCHの開口の大きさは、半導体基板SUBの上面よりも下に位置するコンタクトホールCHの開口の大きさよりも大きい。このため、エミッタ領域NEの上面の一部が、層間絶縁膜ILから露出している。従って、エミッタ電極EEは、コンタクトホールCHの内部において、エミッタ領域NEの側面に接触するだけでなく、エミッタ領域NEの上面の一部にも接触する。これにより、エミッタ電極EEとエミッタ領域NEとの接触抵抗を低減することができる。
【0031】
インアクティブセルIACにおいて、コンタクトホールCHは、層間絶縁膜ILを貫通し、且つ、ベース領域PBに達している。また、コンタクトホールCHは、平面視においてゲート電極GE2に重なるように形成されている。このため、インアクティブセルIACにおけるコンタクトホールCHは、ゲート電極GE2およびベース領域PBに接するように形成されている。
【0032】
アクティブセルACおよびインアクティブセルIACにおいて、コンタクトホールCHの底部の周囲のベース領域PBには、p型の高濃度拡散領域(不純物領域)PRが形成されている。高濃度拡散領域PRは、エミッタ電極EEとの接触抵抗を低くするため、および、ラッチアップを防止するために設けられている。
【0033】
コンタクトホールCHの内部には、プラグPGが埋め込まれている。プラグPGは、バリアメタル膜と、上記バリアメタル膜上に形成された導電性膜とを含む。上記バリアメタル膜は、例えばチタン膜と、上記チタン膜上に形成された窒化チタン膜との積層膜である。上記導電性膜は、例えばタングステン膜である。
【0034】
なお、ここでは図示されていないが、コンタクトホールCHは、ゲート電極GE1の一部上にも形成され、このコンタクトホールCHの内部にもプラグPGが形成されている。
【0035】
層間絶縁膜IL上には、エミッタ電極EEが形成されている。エミッタ電極EEは、プラグPGを介して、エミッタ領域NE、ベース領域PB、高濃度拡散領域PRおよびゲート電極GE2に電気的に接続され、これらの領域にエミッタ電位を供給する。
【0036】
なお、ここでは図示されていないが、層間絶縁膜IL上には、エミッタ電極EEと同じ工程で形成されたゲート配線GWも形成されている。ゲート配線GWは、プラグPGを介してゲート電極GE1に電気的に接続され、ゲート電極GE1にゲート電位を供給する。このようなエミッタ電極EEおよびゲート配線GWは、例えば、TiW膜と、上記TiW膜上に形成されたアルミニウム膜とからなる。上記アルミニウム膜は、エミッタ電極EEおよびゲート配線GWの主導体膜であり、上記TiW膜よりも十分に厚い。
【0037】
以下に各不純物領域の不純物濃度を例示する。ドリフト領域NVの不純物濃度は、1×1013cm-3以上且つ2×1014cm-3以下である。フィールドストップ領域NSの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高く、5×1016cm-3以上且つ5×1017cm-3以下である。ホールバリア領域NHBの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高く、1×1016cm-3以上且つ1×1017cm-3以下である。エミッタ領域NEの不純物濃度は、ホールバリア領域NHBの不純物濃度よりも高く、1×1018cm-3以上且つ1×1021cm-3以下である。コレクタ領域PCの不純物濃度は、1×1017cm-3以上且つ1×1021cm-3以下である。フローティング領域PFの不純物濃度は、1×1015cm-3以上且つ1×1016以下cm-3である。ベース領域PBの不純物濃度は、フローティング領域PFの不純物濃度よりも高く、1×1016cm-3以上且つ1×1018cm-3以下である。高濃度拡散領域PRの不純物濃度は、ベース領域PBの不純物濃度よりも高く、1×1018cm-3以上且つ1×1021cm-3以下である。
【0038】
<半導体装置の製造方法>
以下に
図4~
図11を用いて、実施の形態1における半導体装置100の製造方法について説明する。
【0039】
図4に示されるように、まず、上面および下面を有するn型の半導体基板SUBを用意する。半導体基板SUBは、n型のドリフト領域NVを有する。次に、半導体基板SUBの上面側において、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、半導体基板SUBに、n型のホールバリア領域NHBおよびp型のフローティング領域PFを形成する。
【0040】
図5に示されるように、半導体基板SUBの上面側において、半導体基板SUBにトレンチTRを形成する。まず、半導体基板SUBの上面上に、レジストパターンRP1を形成する。次に、レジストパターンRP1をマスクとして、C
4F
8ガスおよびSF
6ガスを用いたドライエッチング処理を半導体基板SUBに対して行うことで、半導体基板SUBにトレンチTRを形成する。その後、アッシング処理によって、レジストパターンRP1を除去する。
【0041】
図6に示されるように、まず、半導体基板SUBに対して、例えば1000℃以上且つ1200℃以下の熱処理を施すことで、ホールバリア領域NHBおよびフローティング領域PFに含まれる不純物を拡散させる。この熱処理によって、ホールバリア領域NHBは、トレンチTRの底部付近にまで拡散し、フローティング領域PFは、トレンチTRの底部を覆うように、トレンチTRの底部よりも深い位置まで拡散する。
【0042】
次に、トレンチTRの内部および半導体基板SUB上に、ゲート絶縁膜GIを形成する。ゲート絶縁膜GIは、900℃以上且つ1000℃以下の条件下で水蒸気を用いた熱酸化処理を行うことで、形成される。次に、ゲート絶縁膜GIを介してトレンチTRの内部を埋め込むように、例えばCVD法によって、導電性膜CF1を形成する。導電性膜CF1は、例えばn型の不純物が導入された多結晶シリコン膜である。
【0043】
図7に示されるように、まず、ドライエッチング処理によって、トレンチTRの外部に形成されていた導電性膜CF1を除去する。トレンチTRの内部に形成されていた導電性膜CF1が、ゲート電極GE1、GE2として残される。次に、等方性エッチング処理によって、トレンチTRの外部に形成されていたゲート絶縁膜GIを除去する。
【0044】
図8に示されるように、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、半導体基板SUBの上面側において、半導体基板SUB(フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHB)に、p型のベース領域PBを形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、アクティブセルACのベース領域PBに、n型のエミッタ領域NEを選択的に形成する。
【0045】
なお、図示はしていないが、これらのイオン注入を行う前に、半導体基板の上面上に、酸化シリコン膜のような絶縁膜を形成し、この絶縁膜をスルー膜として、イオン注入を行ってもよい。また、このスルー膜は、イオン注入後に除去されてもよいし、層間絶縁膜ILの一部として残されていてもよい。
【0046】
図9に示されるように、トレンチTRを覆うように、例えばCVD法によって、半導体基板SUBの上面上に、層間絶縁膜ILを形成する。層間絶縁膜ILは、例えば酸化シリコン膜である。なお、層間絶縁膜ILは、CVD法によって形成された酸化シリコン膜と、塗布法によって形成されたBPSG膜との積層膜であってもよい。
【0047】
図10に示されるように、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって、アクティブセルACにおいて、層間絶縁膜IL、エミッタ領域NEおよびベース領域PBに、コンタクトホールCHを形成する。コンタクトホールCHの底部は、ベース領域PBに位置する。
【0048】
ここで、インアクティブセルIACにもコンタクトホールCHが形成され、このコンタクトホールCHは、平面視においてゲート電極GE2に重なるように形成されている。このため、インアクティブセルIACにおけるコンタクトホールCHは、ゲート電極GE2およびベース領域PBに接するように形成される。なお、図示はしていないが、コンタクトホールCHは、ゲート電極GE1の一部上にも形成される。
【0049】
次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、コンタクトホールCHの底部において、ベース領域PBに、p型の高濃度拡散領域PRを形成する。次に、層間絶縁膜ILに対して等方性エッチング処理を行うことで、層間絶縁膜ILを後退させる。この等方性エッチング処理には、例えばフッ酸を含む水溶液が使用される。これにより、半導体基板SUBの上面上に位置するコンタクトホールCHの開口幅は、半導体基板SUBの内部に位置するコンタクトホールCHの開口幅よりも大きくなる。なお、等方性エッチング処理による層間絶縁膜ILの後退量は、60nm以上且つ130nm以下である。
【0050】
図11に示されるように、コンタクトホールCHの内部を埋め込むように、層間絶縁膜IL上に、エミッタ電極EEを形成する。まず、例えばスパッタリング法によって、層間絶縁膜IL上にTiW膜を形成し、例えばスパッタリング法によって、上記TiW膜上にアルミニウム膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって、上記TiW膜および上記アルミニウム膜をパターニングすることで、エミッタ電極EEを形成する。なお、ここでは図示していないが、エミッタ電極EEを形成する工程と同じ工程で、ゲート配線GWも層間絶縁膜IL上に形成される。
【0051】
その後、以下の製造工程を経て、
図3の構造が得られる。まず、半導体基板SUBの下面側からイオン注入を行うことで、n型のフィールドストップ領域NSおよびp型のコレクタ領域PCを形成する。これらのイオン注入の後に、レーザアニールを行うことで、フィールドストップ領域NSおよびコレクタ領域PCに含まれる不純物を活性化させる。次に、半導体基板SUBの下面上に、例えばスパッタリング法によって、例えばAlSi膜、Ti膜、NiV膜およびAu膜のような金属膜を形成する。この金属膜が、コレクタ電極CEとなる。
【0052】
<実施の形態1の主な特徴>
以下に
図12~
図16を用いて、実施の形態1の主な特徴について説明する。また、実施の形態1に対する比較として、
図20~
図22の検討例を用いる。検討例は、本願発明者らが特許文献1などを基にして検討を行った半導体装置である。
【0053】
図12に示されるように、トレンチTRは、側壁部、底部、および、側壁部と底部とを繋ぐ角部を有する。底部は、半導体基板SUBの内部に位置し、半導体基板SUBの上面からの深さが最も深い最深部TRbを含んでいる。側壁部は、半導体基板SUBの上面から半導体基板の内部へ向かって所定の深さまで形成され、半導体基板SUBの上面から最深部TRbまでの深さの半分に位置する中間部TRsを含んでいる。
【0054】
角部は、中間部TRsの接線である第1直線SL1と、最深部TRbの接線である第2直線SL2との交点において、第2直線SL2から第1直線SL1側へ45度傾斜した方向に延在する第3直線SL3が通過する箇所を含んでいる。
【0055】
図12では、側壁部上に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さが厚さT1として示され、角部上に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さが厚さT2として示され、底部上に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さが厚さT3として示されている。なお、厚さT1は、中間部TRsにおけるゲート絶縁膜GIの厚さである。また、厚さT2は、第3直線SL3上におけるゲート絶縁膜GIの厚さである。また、厚さT3は、最深部TRbにおけるゲート絶縁膜GIの厚さである。
【0056】
実施の形態1では、厚さT1および厚さT2は、それぞれ厚さT3よりも厚い。より具体的には、厚さT1は、厚さT2よりも厚く、厚さT2は、厚さT3よりも厚い。そして、厚さT2と厚さT3との差の絶対値ΔTBは、厚さT2と厚さT1の差の絶対値ΔTAよりも小さくなっている。
【0057】
一方で、検討例では、
図20に示されるように、厚さT1および厚さT3の大小関係と、厚さT2および厚さT3の大小関係とは変わらないが、厚さT2と厚さT3との差の絶対値ΔTBは、厚さT2と厚さT1の差の絶対値ΔTAよりも大きくなっている。また、検討例では、厚さT2が、厚さT1よりも厚く、厚さT1が、厚さT3よりも厚くなる場合(ワーストケース)がある。
【0058】
検討例では、トレンチTRの底部付近の形状がラウンド形状になっている。検討例のトレンチTRの形成には、SF6ガスを用いたドライエッチング処理が行われる。SF6ガスは等方性のエッチング成分が高いので、底部付近の形状がラウンド形状になり易い。なお、SF6ガスに代えてCl2ガスおよびO2ガスを含む混合ガスを用いた場合でも、処理圧力を高圧化することで、底部付近の形状をラウンド形状にさせることもできる。
【0059】
このようなドライエッチング処理を行うことで、検討例では、
図21に示されるように、トレンチTRの側壁部および底部における半導体基板SUBの結晶面は、(100)面になるが、角部の周囲に位置する側壁部の一部および底部の一部における半導体基板SUBの結晶面は、(110)面などのように、(100)面以外の結晶面になる。
【0060】
(110)面などに熱酸化処理を行うと、(100)面に熱酸化処理を行った場合と比較して、ゲート絶縁膜GIの厚さが厚くなる。従って、検討例では、上述のワーストケースのように、角部の周囲におけるゲート絶縁膜GIの厚さT2が、トレンチTRの内部で最も厚くなり易い。このため、トレンチTRの底部付近において、ゲート絶縁膜GIの厚さにバラつきが生じ易くなり、局所的に耐圧の低い箇所が発生するという問題がある。
【0061】
実施の形態1では、トレンチTRの底部付近の形状がフラット形状になっている。実施の形態1のトレンチTRの形成には、C
4F
8ガスおよびSF
6ガスを用いたドライエッチング処理が行われる。
図5を参照すると、C
4F
8ガスを用いた第1プラズマ処理を行うことで、レジストパターンRP1の上面および側面と、半導体基板SUBの上面とに、堆積膜が堆積される。次に、SF
6ガスを用いた高電圧の第2プラズマ処理を行うことで、レジストパターンRP1の側面に上記堆積膜が残される。次に、SF
6ガスを用い、且つ、第2プラズマ処理よりも低電圧の第3プラズマ処理を行うことで、レジストパターンRP1および上記堆積膜から露出している半導体基板SUBがエッチングされる。これらの第1プラズマ処理、第2プラズマ処理および第3プラズマ処理を含むドライエッチング処理を1サイクルとして、複数サイクルのドライエッチング処理を繰り返すことで、実施の形態1のフラット形状のトレンチTRが形成される。
【0062】
図13に示されるように、フラット形状のトレンチTRでは、(100)面とは異なる結晶面の発生が抑制されるので、トレンチTRの側壁部、角部および底部の各々における半導体基板SUBの結晶面は、(100)面である。そのため、底部の厚さT3が角部の厚さT2に近づく。従って、角部の厚さT2と底部の厚さT3との差の絶対値ΔTBは、検討例の関係と逆に、角部の厚さT2と側壁部の厚さT1の差の絶対値ΔTAよりも小さくなっている。言い換えれば、トレンチTRの底部付近において、ゲート絶縁膜GIの厚さの均一性が高まっているので、局所的に耐圧の低い箇所が発生し難くなる。このように、実施の形態1によれば、半導体装置100の信頼性を向上させることができる。
【0063】
なお、フラット形状のトレンチTRと、ラウンド形状のトレンチTRとは、以下のようにして区別することができる。フラット形状のトレンチTRであれば、トレンチTRの内部全体において、半導体基板SUBの結晶面を(100)面にすることができ、ゲート絶縁膜GIの厚さの均一性を向上させることができる。
【0064】
図14に示されるように、半導体基板SUBの上面の位置において、X方向におけるトレンチTRの幅をWとし、且つ、最深部TRbと第3直線SL3上の角部とを通過する真円の曲率半径をRとして、以下の「式1」を用いることで、フラット形状またはラウンド形状の区別を行える。「式1」を満たす場合、トレンチTRがフラット形状であると見做せる。「式1」を満たさない場合、トレンチTRがラウンド形状であると見做せる。基本的には、曲率半径Rが十分に大きい場合、トレンチTRがフラット形状として区別される。
式1: R-(W-0.4)>W [μm]
【0065】
図14に示されるように、実施の形態1では、「式1」の関係を満たすので、トレンチTRはフラット形状である。
図22に示されるように、検討例では、「式1」の関係を満たさないので、トレンチTRはラウンド形状である。
【0066】
図15および
図16は、本願発明者らが行った実験の結果を示すグラフであり、実施の形態1および検討例における結果を示している。
図15は、ブレークダウン電圧Vbdと累積不良との関係を示している。
図16は、ゲート絶縁膜GIに対する経時劣化(TDDB寿命)を示し、ゲート電極GE1へ印加する電圧Vgと、平均故障時間との関係を示している。なお、これらの実験は、150℃の環境下で行われたものである。
【0067】
図15に示されるように、検討例では、ブレークダウン電圧が小さい領域から不良(初期不良)が発生しているが、実施の形態1では、初期不良が大幅に改善されている。この結果は、フラット形状のトレンチTRを用いたことで、ゲート絶縁膜GIの厚さが均一化されたことによる効果であると言える。
【0068】
また、
図16に示されるように、実施の形態1では、TDDB寿命が2桁程度向上していることが判る。このように、実施の形態1では、半導体装置100の信頼性が更に向上してる。これにより、歩留まりの低下および検査コストの増加を抑制できる。
【0069】
(実施の形態2)
以下に
図17~
図19を用いて、実施の形態2における半導体装置100について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0070】
実施の形態2では、抵抗領域2Aに形成されている抵抗素子RGについて説明する。
図17に示されるように、複数のトレンチTRは、Y方向に延在し、X方向で互いに隣接している。これらのトレンチTRの内部には、それぞれ抵抗素子RGが形成されている。抵抗素子RGの両端部は、プラグPGを介してゲート配線GWに電気的に接続されている。ゲート配線GWの途中の電気経路を抵抗素子RGによって構成することで、抵抗素子RGをゲート抵抗として使用できる。
【0071】
図18は、
図17に示されるB-B線に沿った断面図である。なお、
図18には、比較のために、セル領域1AのアクティブセルACの断面図も示されている。抵抗領域2Aの構造は、X方向におけるトレンチTRの幅がセル領域1AのトレンチTRの幅よりも大きいこと以外は、セル領域1Aの構造とほぼ同じである。
【0072】
抵抗素子RGは、ゲート絶縁膜GIを介して、抵抗領域2AのトレンチTRの内部に埋め込まれている。また、抵抗素子RGは、ゲート電極GE1、GE2と同じ工程で形成され、導電性膜CF1から形成され、n型の多結晶シリコン膜である。また、トレンチTRおよびゲート絶縁膜GIなど、抵抗領域2Aの他の構造も、セル領域1Aの構造を形成する工程と同じ工程によって形成される。
【0073】
図19に示されるように、抵抗領域2AのトレンチTRは、セル領域1AのトレンチTRと同様に、中間部TRsを含む側壁部、最深部TRbを含む底部、および、側壁部と底部とを繋ぐ角部を有する。また、抵抗領域2Aの角部は、セル領域1Aの角部と同様に、中間部TRsの接線である第1直線SL1と、最深部TRbの接線である第2直線SL2との交点において、第2直線SL2から第1直線SL1側へ45度傾斜した方向に延在する第3直線SL3が通過する箇所を含んでいる。
【0074】
図19では、側壁部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さが厚さT4として示され、角部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さが厚さT5として示され、底部に形成されているゲート絶縁膜GIの厚さが厚さT6として示されている。なお、厚さT4は、中間部TRsにおけるゲート絶縁膜GIの厚さである。また、厚さT5は、第3直線SL3上におけるゲート絶縁膜GIの厚さである。また、厚さT6は、最深部TRbにおけるゲート絶縁膜GIの厚さである。
【0075】
実施の形態2でも、ゲート絶縁膜GIの厚さの関係は、実施の形態1の厚さT1、厚さT2および厚さT3の関係と同じである。すなわち、厚さT4および厚さT5は、それぞれ厚さT5よりも厚い。より具体的には、厚さT4は、厚さT5よりも厚く、厚さT5は、厚さT6よりも厚い。そして、厚さT5と厚さT6との差の絶対値ΔTDは、厚さT5と厚さT4の差の絶対値ΔTCよりも小さい。
【0076】
また、抵抗領域2Aでは、半導体基板SUBの上面の位置において、X方向におけるトレンチTRの幅は、セル領域1AのトレンチTRの幅よりも広く、例えば0.8μmよりも広くなっている。ここでも、
図14で説明した「式1」を用いて、トレンチTRがフラット形状またはラウンド形状であるかの区別を行える。
図19では、曲率半径Rの図示を省略しているが、抵抗領域2AのトレンチTRは、セル領域1AのトレンチTRと同様に、フラット形状である。
【0077】
ゲート絶縁膜GIを、900℃以上且つ1000℃以下の条件下で水蒸気を用いた熱酸化処理によって形成する場合、トレンチTRの側壁部におけるゲート絶縁膜GIの厚さは、トレンチTRの底部におけるゲート絶縁膜GIの厚さよりも厚くなる傾向がある。特に、半導体基板SUBの上面の位置におけるトレンチTRの幅が狭いと、水蒸気がトレンチTRの底部まで行き届き難くなるので、その傾向が強くなる。
【0078】
抵抗領域2AのトレンチTRの幅は、セル領域1AのトレンチTRの幅よりも広くなっているので、トレンチTRの底部におけるゲート絶縁膜GIの厚さは、抵抗領域2Aの方がセル領域1Aよりも厚くなり易い。従って、セル領域1Aでは、厚さT2と厚さT3との間にある程度の差があったが、抵抗領域2Aでは、厚さT6は、厚さT5に近い値になる。言い換えれば、抵抗領域2Aにおける絶対値ΔTCと絶対値ΔTDとの差は、セル領域1Aにおける絶対値ΔTAと絶対値ΔTBとの差よりも小さくなっている。すなわち、トレンチTRの内部全体において、ゲート絶縁膜GIの厚さの均一性が向上している。
【0079】
ところで、半導体装置100に抵抗素子を内蔵させる他の方法としては、例えば半導体基板SUBの上面上に厚い絶縁膜を形成し、この絶縁膜上に多結晶シリコン膜を形成し、この多結晶シリコン膜をパターニングすることで、抵抗素子を形成する方法が知られている。この場合、抵抗素子と半導体基板SUBとの間の耐圧は、上記絶縁膜の厚さを調整することで確保できる。
【0080】
実施の形態2のような抵抗素子RGの場合、トレンチTR、ゲート絶縁膜GIおよびゲート電極GE1、GE2を形成する工程と同じ工程によって、抵抗素子RGの周囲の構造体を形成する。そのため、製造工程の簡略化を図れ、製造コストの増加を抑制できる。一方で、抵抗素子RGと半導体基板SUBとの間の耐圧は、ゲート絶縁膜GIに依存することになる。
【0081】
実施の形態2の抵抗領域2Aでは、トレンチTRの底部付近において、ゲート絶縁膜GIの厚さの均一性が高まっているので、局所的に耐圧の低い箇所が発生し難くなっている。従って、抵抗素子RGの耐圧を向上できるので、このような抵抗素子RGを備えた半導体装置100においても、信頼性を向上させることができる。
【0082】
以上、本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0083】
100 半導体装置
1A セル領域
2A 抵抗領域
AC アクティブセル
CE コレクタ電極
CF1 導電性膜
CH コンタクトホール
EE エミッタ電極
GE1、GE2 ゲート電極
GI ゲート絶縁膜
GW ゲート配線
IAC インアクティブセル
IL 層間絶縁膜
NE エミッタ領域
NHB ホールバリア領域
NS フィールドストップ領域
NV ドリフト領域
PB ベース領域
PC コレクタ領域
PF フローティング領域
PG プラグ
PR 高濃度拡散領域
RG 抵抗素子
RP1 レジストパターン
SL1 第1直線(中間部の接線)
SL2 第2直線(最深部の接線)
SL3 第3直線(角部を通過する直線)
SUB 半導体基板
TR トレンチ
TRb トレンチの最深部
TRs トレンチの中間部