(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155430
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】回転角検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/16 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
G01D5/16 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070133
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂利
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA12
2F077JJ01
2F077JJ09
2F077JJ23
(57)【要約】
【課題】回転角の検出精度を向上させることができる回転角検出装置を提供する。
【解決手段】回転角検出装置10は、磁気センサ12と、処理回路20とを有している。磁気センサ12は、回転体の回転に応じて位相が異なる第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とを生成する。処理回路20は、磁気センサ12により生成される第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とに基づき、回転体の回転角Θを演算する。処理回路20は、第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とにより表されるリサージュ曲線に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求める。処理回路20は、求められる近似楕円に基づき、第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とを補正するように構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転に応じて位相が異なる2つの電気信号を生成するセンサと、
前記センサにより生成される2つの前記電気信号に基づき前記回転体の回転角を演算する処理回路と、を有し、
前記処理回路は、2つの前記電気信号により表されるリサージュ曲線に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求め、求められる前記近似楕円に基づき、2つの前記電気信号を補正するように構成される回転角検出装置。
【請求項2】
前記処理回路は、楕円の一般式を整理したときの未知数部分を変数で置き換えることにより得られる数式の前記変数を演算する第1の処理と、
前記第1の処理を通じて演算される前記変数を使用して、前記近似楕円の中心座標、長半径、短半径、および傾きを演算する第2の処理と、を実行するように構成される請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記処理回路は、前記近似楕円の中心座標、長半径、短半径、および傾きを代入した楕円の一般式に基づき、補正後の2つの前記電気信号を取得するように構成される請求項1または請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記回転体は、シャフトである請求項1または請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記シャフトの端部に固定されるバイアス磁石と、
前記バイアス磁石と軸方向に向き合う磁気センサと、を有している請求項4に記載の回転角検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検出対象の回転角を検出する回転角検出装置が知られている。回転角検出装置には、検出精度を確保することが求められる。たとえば、特許文献1の内挿装置は、エンコーダから出力される2相の正弦波信号を取り込む。内挿装置は、2相の正弦波信号のオフセットを補正するオフセット補正と、2相の正弦波信号の振幅を揃える振幅補正と、2相の正弦波信号の位相差の誤差を補正する位相差補正とを行う。
【0003】
内挿装置は、オフセット補正を行う場合、正弦波信号をデジタル信号に変換する。内挿装置は、デジタル信号の最大値と最小値とに基づき取得されるオフセット値を使用して、オフセット補正を行う。内挿装置は、振幅補正を行う場合、デジタル信号の最大値と最小値とに基づき、デジタル信号の振幅値を取得する。内挿装置は、2相のデジタル信号の振幅値から演算される振幅比を使用して、振幅補正を行う。
【0004】
内挿装置は、位相差補正として、2相の正弦波信号により表されるリサージュ曲線の座標値を45°反時計回りに回転させた座標値に座標変換することにより、45°反時計回りに回転させたリサージュ曲線を描く2相の補正信号を生成する。位相差補正後の2相の補正信号には振幅ずれが発生する。このため、内挿装置は、2相の補正信号に対して振幅補正を再度行う。これにより、2相の補正信号により表されるリサージュ曲線は、理想的には真円となる。すなわち、オフセット補正、振幅補正、および位相差補正された2相の補正信号が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際に検出される正弦波信号には、たとえば、高調波あるはノイズが重畳することがある。この場合、2相の正弦波信号により表される実際のリサージュ曲線は、1本の曲線で表されるきれいな楕円にならない。特許文献1の内挿装置は、正弦波信号をデジタル信号に変換するとともに、変換されるデジタル信号の最大値と最小値とに基づき、オフセット補正および振幅補正を行う。デジタル信号の最大値と最小値とには誤差が含まれるため、オフセット補正、振幅補正、および位相差補正を通じて得られる補正信号にも誤差が含まれる。したがって、補正信号に基づき演算される角度には、依然として誤差が含まれているおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る回転角検出装置は、回転体の回転に応じて位相が異なる2つの電気信号を生成するセンサと、前記センサにより生成される2つの前記電気信号に基づき前記回転体の回転角を演算する処理回路と、を有している。前記処理回路は、2つの前記電気信号により表されるリサージュ曲線に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求め、求められる前記近似楕円に基づき、2つの前記電気信号を補正するように構成される。
【0008】
この構成によれば、2つの電気信号により表されるリサージュ曲線に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求めるため、高調波あるいはノイズによる影響が少ない。このため、近似楕円に基づき補正された2つの補正後の電気信号に基づき回転体の回転角を演算することによって、より正確な回転角を得ることができる。したがって、回転角の検出精度を向上させることができる。
【0009】
上記の回転角検出装置において、前記処理回路は、楕円の一般式を整理したときの未知数部分を変数で置き換えることにより得られる数式の前記変数を演算する第1の処理と、前記第1の処理を通じて演算される前記変数を使用して、前記近似楕円の中心座標、長半径、短半径、および傾きを演算する第2の処理と、を実行するように構成される。
【0010】
この構成によれば、第1の処理と、第2の処理との実行を通じて、近似楕円を求めることができる。
上記の回転角検出装置において、前記処理回路は、前記近似楕円の中心座標、長半径、短半径、および傾きを代入した楕円の一般式に基づき、補正後の2つの前記電気信号を取得するように構成される。
【0011】
この構成によれば、近似楕円の中心座標、長半径、短半径、および傾きを楕円の一般式に代入するだけで、補正後の2つの電気信号を取得することができる。
上記の回転角検出装置において、前記回転体は、シャフトである。
【0012】
この構成によれば、シャフトの回転角の検出精度を向上させることができる。
上記の回転角検出装置において、前記シャフトの端部に固定されるバイアス磁石と、前記バイアス磁石と軸方向に向き合う磁気センサと、を有している。
【0013】
この構成によれば、磁気センサは、バイアス磁石の磁界変化に応じて、位相が異なる2つの電気信号を生成する。処理回路は、磁気センサにより生成される2つの電気信号を使用して、回転体の回転角を演算することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転角検出装置によれば、回転角の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態にかかる回転角検出装置の斜視図である。
【
図2】一実施の形態にかかる処理回路のブロック図である。
【
図3】一実施の形態にかかる補正前の第1の電気信号と、補正前の第2の電気信号とにより表されるリサージュ曲線の一例を示すグラフである。
【
図4】楕円の一般式を説明するための楕円のグラフである。
【
図5】一実施の形態にかかる補正後の第1の電気信号と、補正後の第2の電気信号とにより表されるリサージュ曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、回転角検出装置の一実施の形態を説明する。
図1に示すように、回転角検出装置10は、バイアス磁石11と、磁気センサ12とを有している。バイアス磁石11は、シャフト13の端部に固定されている。磁気センサ12は、基板14に設けられている。磁気センサ12は、シャフト13の軸線Oの方向にバイアス磁石11と向き合っている。シャフト13は、回転体であって、回転角検出装置10の検出対象である。
【0017】
バイアス磁石11は、円形の断面形状を有する柱状体であって、径方向にN極とS極とが着磁された2極磁石である。バイアス磁石11により、磁気センサ12には、N極からS極へ向かう実線の矢印A1で示される方向のバイアス磁界が付与される。たとえば、シャフト13が
図1中の位置から矢印A2で示す方向に角度「Θ」だけ回転したとき、バイアス磁石11も矢印A2で示す方向へ角度「Θ」だけ回転する。これにより、磁気センサ12に付与されるバイアス磁界の向きが、実線の矢印A1で示される方向から、軸線Oを中心として、角度「Θ」だけ回転した二点鎖線の矢印A3で示される方向に変化する。このように、磁気センサ12に付与される磁界の方向は、シャフト13の回転角Θに応じて変化する。
【0018】
磁気センサ12は、たとえば、MR(Magneto Resistive)素子を利用したMRセンサである。磁気センサ12は、バイアス磁石11から付与されるバイアス磁界の向きを検出し、検出されるバイアス磁界の向きに応じた第1の電気信号S1と、第2の電気信号S2とを生成する。第1の電気信号S1は、シャフト13の回転角Θに対して正弦波状に変化するsin信号である。第2の電気信号は、第1の電気信号S1に対して90°だけ位相が遅れたcos信号である。第1の電気信号S1の振幅は、第2の電気信号S2の振幅と同じである。
【0019】
<処理回路>
図2に示すように、回転角検出装置10は、処理回路20を有している。処理回路20は、基板14に設けられる。処理回路20は、つぎの3つの構成(a),(b),(c)のうちいずれか一つを含む処理回路である。
【0020】
(a)ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含む。
(b)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0021】
(c)構成(a),(b)を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。メモリは、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含む。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを所定の演算周期で実行することによって各種の処理を実行する。
【0022】
処理回路20は、磁気センサ12により生成される第1の電気信号S1と、第2の電気信号S2とを、所定のサンプリング周期で取り込む。処理回路20は、たとえば、第1の電気信号S1と、第2の電気信号S2との逆正接を演算することにより、シャフト13の回転角Θを検出する(「Θ=Arctan(S1/S2)」)。この回転角Θは、0°から360°までの範囲の角度である。
【0023】
ただし、処理回路20は、シャフト13の360°を超える多回転を検出するようにしてもよい。処理回路20は、たとえば、第1の電気信号S1と第2の電気信号S2との周期数を計数する。周期数は、第1の電気信号S1および第2の電気信号S2の何周期目か、すなわち磁気センサ12の検出範囲(1周期)を何回繰り返しているかを示す整数値である。処理回路20は、先の逆正接から得られる360°以内の回転角Θと、第1の電気信号S1および第2の電気信号S2の周期数とに基づき、シャフト13の360°を超える回転角Θを検出する。
【0024】
<回転角Θの検出精度について>
第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とが、各々、誤差のない理想的な電気信号である場合、リサージュ曲線は真円となる。リサージュ曲線は、第1の電気信号S1と第2の電気信号S2との組である座標(cosΘ,sinΘ)を、cosΘとsinΘとの直交座標系にプロットすることにより得られる。しかし、実際の第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とから、すべての誤差を取り除くことは困難である。このため、実際には、リサージュ曲線は楕円であって、真円ではない。誤差は、たとえば、オフセット、振幅の誤差、および位相差の誤差である。
【0025】
このことを前提として、回転角検出装置10には、つぎのような懸念がある。すなわち、第1の電気信号S1および第2の電気信号S2には、たとえば、高調波あるいはノイズが重畳するおそれがある。この場合、第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とにより表されるリサージュ曲線は、つぎのような形状になる。
【0026】
図3に示すように、リサージュ曲線R1は、たとえば、座標軸に対して長軸が45°程度だけ傾いた楕円となる。ただし、楕円は、1本の曲線で表されるきれいな楕円ではなく、径方向に大きく変動する部分を有する楕円である。
【0027】
このような高調波あるいはノイズが重畳した第1の電気信号S1および第2の電気信号S2を使用することにより、回転角Θの検出精度が低下することが懸念される。そこで、本実施の形態では、処理回路20として、つぎの構成を採用している。
【0028】
<処理回路20>
図2に示すように、処理回路20は、補正処理部21と、角度演算部22とを有している。
【0029】
補正処理部21は、補正処理を実行する。補正処理は、高調波あるいはノイズが重畳した第1の電気信号S1および第2の電気信号S2を補正するための処理である。補正処理部21は、たとえば、高調波あるいはノイズが重畳した実際のリサージュ曲線R1を、最小二乗法を使用して、楕円の一般式に近似する。補正処理部21は、近似式の係数を使用して、楕円の中心座標、楕円の傾き、楕円の長半径、および楕円の短半径を演算する。補正処理部21は、楕円の中心座標、傾き、長半径、および短半径が代入された楕円の一般式から、補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12とを取得する。
【0030】
角度演算部22は、補正処理部21により演算される補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12とを、所定のサンプリング周期で取り込む。角度演算部22は、補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12との逆正接を演算することにより、シャフト13の回転角Θを演算する。製品仕様によっては、角度演算部22は、先の逆正接から得られる360°以内の回転角Θと、補正後の第1の電気信号S11および補正後の第2の電気信号S12の周期数とに基づき、シャフト13の360°を超える回転角Θを検出する。
【0031】
<補正処理の手順>
つぎに、補正処理部21が実行する補正処理の手順について、詳細に説明する。
図4に示すように、楕円の中心の座標を(X
0,Y
0)、楕円の長半径を「a」、楕円の短半径を「b」、楕円の傾きを「θ」としたときの一般式は、つぎの数式1で表される。中心は、長軸と短軸との交点である。長半径は、長軸を中心で分けた2つの線分である半長軸の長さである。短半径は、短軸を中心で分けた2つの線分である半短軸の長さである。
【0032】
【0033】
ただし、「Xi」は楕円のX座標、「Yi」は楕円のY座標である。
数式1を展開して、X座標XiとY座標Yiとに関して整理するとともに、未知数部分を変数で置き換えてさらに整理すると、つぎの数式2が得られる。
【0034】
【0035】
ただし、「A」,「B」,「C」,「D」,「E」は、変数である。
数式2の2乗の和が最小になるように、変数A~Eの値を決めればよい。楕円の総和は、つぎの数式3で表される。
【0036】
【0037】
数式3を変数A~Eで偏微分して行列で表すと、つぎの数式4が得られる。
【0038】
【0039】
補正処理部21は、数式4を使用して、変数A~Eを演算する。補正処理部21は、X座標Xiに補正前の第1の電気信号S1の値を代入するとともに、楕円の近似式のY座標Yiの値に補正前の第2の電気信号S2の値を代入する。これにより、補正処理部21は、変数A~Eの値を取得する。補正処理部21は、取得される変数A~Eをメモリに格納する。補正処理部21は、変数A~Eの演算が完了した後、メモリに一時的に記憶されている補正前の第1の電気信号S1の値と、補正前の第2の電気信号S2の値とを消去する。
【0040】
つぎに、補正処理部21は、変数A~Eを使用して、楕円の中心の座標(X0,Y0)と、楕円の長半径aと、楕円の短半径bと、楕円の傾きθとを演算する。
補正処理部21は、つぎの数式5を使用して、楕円の中心の座標(X0,Y0)を演算する。
【0041】
【0042】
補正処理部21は、つぎの数式6を使用して、楕円の傾きθを演算する。
【0043】
【0044】
補正処理部21は、つぎの数式7を使用して、楕円の長半径aを演算する。
【0045】
【0046】
補正処理部21は、つぎの数式8を使用して、楕円の短半径bを演算する。
【0047】
【0048】
補正処理部21は、演算される楕円の中心の座標(X0,Y0)と、楕円の傾きθと、楕円の長半径aと、楕円の短半径bとを、先の数式1に適用する。また、補正処理部21は、所定のサンプリング周期で取り込まれる補正前の第1の電気信号S1の値を数式1のX座標Xiに代入するとともに、所定のサンプリング周期で取り込まれる補正前の第2の電気信号S2の値を数式1のY座標Yiに代入する。
【0049】
楕円上の点(Xi,Yi)は、つぎの数式9と、数式10とで表される。すなわち、楕円上の点(Xi,Yi)は、数式1の左辺第1項の括弧内の数式と、数式1の左辺第2項の括弧内の数式との組で表される。
【0050】
【0051】
【0052】
このため、補正処理部21は、数式9の演算結果を補正後の第2の電気信号S12の値として取得する。また、補正処理部21は、数式10の演算結果を補正後の第1の電気信号S11の値として取得する。
【0053】
以上で、補正処理部21による補正処理が完了となる。
図5に示すように、補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12とにより表されるリサージュ曲線R2は、補正前の第1の電気信号S1と、補正前の第2の電気信号S2とにより表されるリサージュ曲線R1に最も近似する近似楕円である。リサージュ曲線R2は、1本の曲線で表されるきれいな楕円となる。ただし、
図5では、リサージュ曲線R2が楕円に見えるように、グラフのスケールを若干調整している。すなわち、実際には、リサージュ曲線R2は、ほぼ真円である。
【0054】
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1)処理回路20は、補正前の第1の電気信号S1と、補正前の第2の電気信号S2とにより表されるリサージュ曲線R1に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求め、求められる近似楕円に基づき、第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とを補正する。
【0055】
この構成によれば、補正前の第1の電気信号S1と、補正前の第2の電気信号S2とにより表されるリサージュ曲線R1に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求めるため、高調波あるいはノイズによる影響が少ない。このため、近似楕円に基づき補正された補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12とに基づき、回転角Θを演算することによって、より正確な回転角Θを得ることができる。したがって、回転角Θの検出精度を向上させることができる。
【0056】
(2)処理回路20は、補正前の第1の電気信号S1と、補正前の第2の電気信号S2とにより表されるリサージュ曲線R1を楕円の一般式に近似することにより、補正前の第1の電気信号S1と、補正前の第2の電気信号S2とに対する振幅補正と、オフセット補正と、位相差補正との三段階の補正を、まとめて処理することができる。リサージュ曲線R1を楕円の一般式に近似することは、補正前のリサージュ曲線R1に最も近似する近似楕円を最小二乗法により求めることと同義である。
【0057】
(3)処理回路20は、第1の処理と、第2の処理とを実行する。第1の処理は、楕円の一般式を整理したときの未知数部分を変数A~Eで置き換えることにより得られる数式2の変数A~Eを演算する処理である。第2の処理は、第1の処理を通じて演算される変数A~Eを使用して、近似楕円の中心座標(X0,Y0)、長半径a、短半径b、および傾きθを演算する処理である。この構成によれば、第1の処理と、第2の処理との実行を通じて、近似楕円を求めることができる。
【0058】
(4)処理回路20は、近似楕円の中心座標(X0,Y0)、長半径a、短半径b、および傾きθを代入した楕円の一般式に基づき、補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12とを取得する。具体的には、処理回路20は、先の数式9の演算結果を補正後の第2の電気信号S12の値として取得するとともに、数式10の演算結果を補正後の第1の電気信号S11の値として取得する。数式9は、数式1の左辺第1項の括弧内の数式である。数式10は、数式1の左辺第2項の括弧内の数式である。この構成によれば、近似楕円の中心座標、長半径、短半径、および傾きを楕円の一般式に代入するだけで、補正後の第1の電気信号S11と、補正後の第2の電気信号S12とを取得することができる。
【0059】
(5)第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とに重畳する高調波あるいはノイズの影響を抑えるためのフィルタ処理の実行が不要である。このため、処理回路20の演算負荷を低減することができる。
【0060】
(6)回転角検出装置10は、シャフト13の回転角Θを検出する。回転角検出装置10によれば、シャフト13の回転角Θの検出精度を向上させることができる。
(7)回転角検出装置10は、シャフト13の端部に固定されるバイアス磁石11と、バイアス磁石11と軸方向に向き合う磁気センサ12と、を有している。この構成によれば、磁気センサ12は、バイアス磁石11の磁界変化に応じて、互いに位相が異なる第1の電気信号S1と第2の電気信号S2とを生成する。処理回路20は、磁気センサ12により生成される第1の電気信号S1と第2の電気信号S2を使用して、シャフト13の回転角Θを演算することができる。
【0061】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・磁気センサ12は、TMR(Tunnel Magneto Resistance)素子を利用したTMRセンサ、AMR(Anisotropic Magneto Resistance)素子を利用したAMRセンサ、GMR(Giant Magneto Resistive)素子を利用したGMRセンサであってもよい。また、磁気センサ12は、たとえば電磁誘導式のレゾルバであってもよい。シャフト13の回転に応じて、sin信号と、cos信号とを生成するセンサであればよい。
【0062】
・磁気センサに代えて、光学式センサを使用してもよい。シャフト13の回転に応じて、sin信号と、cos信号とを生成するセンサであればよい。
・シャフト13は、様々な機械装置の回転部品として使用可能である。シャフト13は、たとえば、モータの出力軸であってもよい。モータは、車両の操舵機構に付与されるアシスト力を発生するアシストモータであってもよい。モータは、ステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータ、または車両の転舵シャフトにて付与される転舵力を発生する転舵モータであってもよい。
【0063】
・回転角検出装置10の検出対象は、シャフト13に限られない。様々な回転部品の回転角の検出に適用可能である。回転部品は、回転体である。
【符号の説明】
【0064】
10…回転角検出装置
11…バイアス磁石
12…磁気センサ(センサ)
13…シャフト(回転体)
20…処理回路