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特開2024-155442樹脂組成物およびそれからなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155442
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/10 20060101AFI20241024BHJP
   C08L 81/04 20060101ALI20241024BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L77/10
C08L81/04
C08L101/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070160
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 祐志
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CD00
4J002CL031
4J002CL051
4J002CL062
4J002CL071
4J002CN011
4J002FA042
4J002FD012
4J002GM02
4J002GM05
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れ、かつ射出成形時におけるモールドデポジットの少ない樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】(A)融点が270℃以上である熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)共重合ポリアミド樹脂からなる集束剤を含有する全芳香族ポリアミド繊維(B成分)5~80重量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点が270℃以上である熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)共重合ポリアミド樹脂からなる集束剤を含有する全芳香族ポリアミド繊維(B成分)5~80重量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
共重合ポリアミド樹脂が、下記式(B-1)で表される繰り返し単位、下記式(B-2)で表される繰り返し単位および下記式(B-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも一つの繰り返し単位を含有し、融点が180℃以下であり、かつ数平均分子量が1000~50000である共重合ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
-[NH(CH)mCO]- (B-1)
(上記式中、mは6~20の整数である。)
-[NH(CHNHCO(CHCO]- (B-2)
-[NH(CHCO]- (B-3)
【請求項3】
A成分がポリアリーレンスルフィド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
A成分がポリアリーレンスルフィド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、かつ射出成形時におけるモールドデポジットの少ない樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂は、耐薬品性、耐熱性、機械的特性などに優れるエンジニアリングプラスチックであり、電気電子部品、車両関連部品、航空機部品、産業機械部品、OA機器部品および住設機器部品として広く利用されている。そして、これら関連用途においては、製品の軽量化を目的に従来の金属からの樹脂化が検討されており、中でもこれら機構部品の樹脂化において、特にギアや軸受け等の用途に使用される金属代替となる樹脂材料には、衝撃強度や延性特性、また低摩耗および低摩擦係数といった摺動特性が求められている。しかしながら、全芳香族ポリアミド繊維を含有した樹脂材料は長期の低摩耗性に優れているものの、ガラス繊維や炭素繊維などを含有したものと比べ耐熱性が十分でない。
【0003】
この問題を解決する手段として、特許文献1、2には、摺動性および機械的強度を向上させることを目的として、半芳香族ポリアミド系樹脂および全芳香族ポリアミド繊維からなる樹脂組成物、ポリアミド樹脂、全芳香族ポリアミド繊維および酸化亜鉛ウィスカからなる樹脂組成物がそれぞれ開示されているが、摺動性および機械的強度について言及しているものの耐熱性およびモールドデポジットに関しては検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-105362号公報
【特許文献2】特開2019-151802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、耐熱性に優れ、かつ射出成形時におけるモールドデポジットの少ない樹脂組成物およびそれを用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、特定の熱可塑性樹脂に特定の集束剤を含有する全芳香族ポリアミド繊維を配合することにより、上記課題を達成することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.(A)融点が270℃以上である熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)共重合ポリアミド樹脂からなる集束剤を含有する全芳香族ポリアミド繊維(B成分)5~80重量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
2.共重合ポリアミド樹脂が、下記式(B-1)で表される繰り返し単位、下記式(B-2)で表される繰り返し単位および下記式(B-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも一つの繰り返し単位を含有し、融点が180℃以下であり、かつ数平均分子量が1000~50000である共重合ポリアミド樹脂であることを特徴とする前項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
-[NH(CH)mCO]- (B-1)
(上記式中、mは6~20の整数である。)
-[NH(CHNHCO(CHCO]- (B-2)
-[NH(CHCO]- (B-3)
【0008】
3.A成分がポリアリーレンスルフィド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることを特徴とする前項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.A成分がポリアリーレンスルフィド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることを特徴とする前項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.前項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れ、かつ射出成形時におけるモールドデポジットの少ない樹脂組成物およびそれを用いた成形体を提供することができる。本発明の樹脂組成物より得られる成形体は例えば、電気電子部品、車両関連部品、航空機部品、産業機械部品、OA機器部および住設機器部品に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0011】
<A成分:熱可塑性樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂は、成形品を構成するマトリックス樹脂である。熱可塑性樹脂の融点は270℃以上であり、好ましくは272℃以上、より好ましくは275℃以上である。また、融点の上限は特に限定されないが280℃以下であることが好ましい。なお、融点は示差走査熱量計(DSC)用いて、JIS K7121に規定のDSC法で測定したときの、融解ピーク温度である。
【0012】
熱可塑性樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリアリールエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いることもできる。前記熱可塑性樹脂の中でも、力学特性や成形性のバランスに優れるポリアリーレンスルフィド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂がより好ましく、耐熱性に優れることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種に熱可塑性樹脂がさらに好ましい。
【0013】
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位等よりなるものを挙げることができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらに、ポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0014】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、例えば、特公昭45-3368号、特公昭52-12240号や特開昭61-7332号、特表2013-522385、特開2012-233210および特許5167276に記載された方法など、任意の方法によって製造することができる。
【0015】
半芳香族ポリアミド樹脂とは、芳香族環骨格と脂肪族骨格とを有するポリアミド樹脂であり、例えば、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとを原料として合成することができる。
【0016】
半芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド4T(T:テレフタル酸)、ポリアミド4I(I:イソフタル酸)、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド7T、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12T等が挙げられる。
【0017】
<B成分:全芳香族ポリアミド繊維>
本発明のB成分として使用される全芳香族ポリアミド繊維としては、全芳香族ポリアラミド繊維と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。全芳香族ポリアミド繊維を用いることで、摺動部材に必要とされる機械的強度と靱性の確保を両立し、かつ優れた低摩耗性を発現させることができる。全芳香族アラミド繊維としては、例えばメタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維などが挙げられ、その中でもパラ系アラミド繊維が好ましい。
【0018】
本発明の繊維を構成する全芳香族ポリアミド樹脂とは、実質的に一種以上の芳香族ジアミンと一種以上の芳香族ジカルボン酸ハライドによって得られるものである。但し一種以上の芳香族ジアミンと一種以上の芳香族ジカルボン酸に、例えばトリフェニルホスファイトおよびピリジンの系に代表される縮合剤を添加することもできる。全芳香族ポリアミドはパラ型でもメタ型でもよいがパラ型がより好ましい。好ましい芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、ベンチジン、4,4”-ジアミノ-p-ターフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、3,4-ジアミノジフェニルエーテル、4,4´-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス-(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4´-ビス-(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,10-ビス-(4-アミノフェニル)アントラセンなどが挙げられる。
【0019】
芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、酸クロリドが特に好ましく、テレフタル酸クロリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロリド、4,4´-ジフェニルジカルボン酸クロリドおよびその芳香環に1個以上の低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲノ基、ニトロ基、などの非反応性官能基を含むものなどが挙げられる。さらに芳香族ジカルボン酸を使用する場合には、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4´-ジフェニルジカルボン酸およびその芳香環に1個以上の低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲノ基、ニトロ基、などの非反応性官能基を含むものなどが挙げられる。さらに本発明で好ましい全芳香族ポリアミド樹脂の構造は、その主骨格が下記式(1)で表されるものである。
-NH-Ar-NH-CO-Ar-CO- (1)
(但し、Ar、Arは下記一般式[I]~[IV]からなる群より選ばれる少なくとも1種類の芳香族残基を示す。なおAr、Arは互いに同一であっても異なるものであってもよい。また、これらの芳香族残基は、その水素原子の一部がハロゲン原子または低級アルキル基で置換されていてもよい。)
【0020】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0021】
なかでも、前記ArおよびArの合計を100モル%としたときに、一般式[I]と一般式[II]との合計、一般式[I]と一般式[III]との合計、一般式[I]と一般式[IV]との合計、または一般式[I]が80モル%以上であることが好ましい。より好ましくは一般式[I]と一般式[II]との合計、または一般式[I]と一般式[III]との合計が80モル%以上である。さらに好ましくは一般式[I]と一般式[II]との合計、または一般式[I]と一般式[III]との合計が80モル%以上であり、且つ一般式[II]または一般式[III]が1~20モル%のものである。
【0022】
紡糸原液となる芳香族ポリアミドドープは、溶液重合を行ったものでも、別途得られた全芳香族ポリアミドを溶媒に溶解せしめたものでもよいが、溶液重合反応を行ったものが好ましい。また、溶解性を向上するために溶解助剤として無機塩を少量添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0023】
重合溶媒、あるいは再溶解溶媒としては一般に公知の非プロトン性有機極性溶媒を用いるが、例を挙げるとN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ブチルアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、N-アセチルピロリジン、N-アセチルピペリジン、N-メチルピペリドン-2,N,N´-ジメチルエチレン尿素、N,N´-ジメチルプロピレン尿素、N,N,N´,N´-テトラメチルマロンアミド、N-アセチルピロリドン、N,N,N´,N´-テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシドなどがあり、さらに再溶解溶媒としては濃硫酸やメタンスルホン酸などの強酸が挙げられる。
【0024】
全芳香族ポリアミド樹脂の重合度は特に制限はないが、溶媒に溶解するならば重合度は大きい方が好ましい。全芳香族ポリアミド樹脂を溶液重合する場合、酸成分とジアミン成分との比は実質的に等モルで反応させるが、重合度制御のためいずれかの成分を過剰に用いることもできる。また、末端封鎖剤として単官能の酸成分、アミン成分を使用してもよい。
【0025】
全芳香族ポリアミド樹脂を繊維状に成形する場合には、通常全芳香族ポリアミドドープを湿式成形する方法が使用され、該ドープを凝固浴の中に直接吐出する方法またはエアギャップを設けて凝固浴の中に吐出する方法がある。凝固浴には全芳香族ポリアミド樹脂の貧溶媒が用いられるが、全芳香族ポリアミドドープの溶媒が急速に抜け出して全芳香族ポリアミド繊維に欠陥ができぬように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。一般には貧溶媒として水、良溶媒として全芳香族ポリアミドドープの溶媒を用いるのが好ましい。良溶媒/貧溶媒の比は、全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85~40/60が好ましい。
【0026】
全芳香族ポリアミド繊維の繊維長としては0.1mm以上12mm以下が好ましく、0.5mm以上4mm以下がより好ましい。0.1mm未満では補強効果が十分でなく、耐衝撃性の向上が不十分である場合があり、12mmを超えると組成物の流動性が劣り、成形性が不良となる場合がある。
【0027】
また、全芳香族ポリアミド繊維は共重合ポリアミド樹脂からなる集束剤を含有することが必要である。集束剤が共重合ポリアミド樹脂からなる集束剤でない場合、耐熱性に劣り、かつ射出成形時におけるモールドデポジットの発生が著しい。
【0028】
中でも前記共重合ポリアミド樹脂が下記式(B-1)で表される繰り返し単位、下記式(B-2)で表される繰り返し単位および下記式(B-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも一つの繰り返し単位を含有し、融点が180℃以下であり、かつ数平均分子量が1000~50000である共重合ポリアミド樹脂であることが好ましい。上記融点は170℃以下であることがより好ましく、160℃以下である場合がより好ましい。また、融点の下限は特に限定されないが、50℃以上であることが好ましい。上記数平均分子量は3000~40000がより好ましく、5000~30000がさらに好ましい。なお、融点は示差走査熱量計(DSC)用いて、JIS K7121に規定のDSC法で測定したときの、融解ピーク温度であり、数平均分子量はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出された値である。このような特徴を有する共重合ポリアミド樹脂を集束剤として用いることで、より耐熱性が高く、かつ射出成形時におけるモールドデポジットのより少ない樹脂組成物を得ることができる場合がある。
【0029】
-[NH(CH)mCO]- (B-1)
(上記式中、mは6~20の整数である。)
-[NH(CHNHCO(CHCO]- (B-2)
-[NH(CHCO]- (B-3)
【0030】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、5~80重量部であり、好ましくは6~60重量部、より好ましくは7~40重量部である。B成分の含有量が5重量部未満では耐熱性が十分に向上せず、80重量部を超えると、混練押出時にストランド切れおよびサージングなどが起こり生産性または加工性が低下するという問題が生ずる。
【0031】
<その他の成分>
<エポキシ樹脂>
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有していてもよく、含有することで低摩耗性、樹脂組成物のペレットの射出成形時の成形機への供給性および機械特性を向上させる場合がある。
【0032】
エポキシ樹脂は分子構造中にエポキシ基を有する化合物であれば如何なるものを用いてもよく、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を使用した場合、エポキシ樹脂の架橋反応により引張破断強度をより向上させることができる場合がある。具体例としてはビスフェノール型エポキシ、ノボラック型エポキシ、環状脂肪族型エポキシ、グリシジルエステル型エポキシ、グリシジルアミン型エポキシ、トリスフェノールメタン型エポキシ、ジシクロペンタジエン型エポキシ、ビフェニル型エポキシなどが挙げられる。エポキシ樹脂は単独あるいは2種類以上の化合物を組み合わせることができる。このようなエポキシ樹脂の例としては三菱ケミカル(株)よりjER154、jER1001、jER1010、jER1256、YX4000、(株)ダイセルよりEHPE3150、日本化薬(株)よりNC-3000、NC-7000、XD-1000、EPPN-502H、EOCN-104Sとして市販されており容易に入手可能である。
【0033】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は100~10,000g/eqであることが好ましく、125~9,500g/eqであることがより好ましく、150~9,000g/eqであることがさらに好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満であると混練押出時の増粘が起こりやすく、10,000g/eqを超えると樹脂組成物のペレットの射出成形時の成形機への供給性が向上しない場合がある。なお、エポキシ当量はJIS K 7236に準じて測定される。
【0034】
エポキシ樹脂の含有量はA成分100重量部に対し、0.5~8重量部が好ましく、より好ましくは1~6重量部である。エポキシ樹脂の含有量が上記の範囲であると、低摩耗性、樹脂組成物のペレットの射出成形時の成形機への供給性および機械特性が向上する場合がある。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨に反しない範囲で、他の熱可塑性樹脂を配合し、必要に応じて酸化防止剤、衝撃改質剤、可塑剤、無機充填剤、難燃剤、色材、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、滑材、分散剤、流動改質剤および結晶核剤等の各添加剤を含むことが出来る。
【0036】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式ニ軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0037】
<成形体について>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形体は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。押出成形においては、丸棒を押出成形しその後円盤状に切削加工することにより成形体を得る方法や、厚肉シートを押出成形しその後所定の形状に打ち抜き加工することにより成形体を得ることができる。
【実施例0038】
以下に実施例をあげて本発明を更に説明する。なお、特に説明が無い限り実施例中の部は重量部、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によって実施した。
【0039】
[樹脂組成物の評価]
(1)荷重たわみ温度
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)により試験片(寸法:長さ80mm×幅10mm×厚み4mm)を作製し、ISO75に準拠の方法により曲げ応力1.80 MPaにおける荷重たわみ温度を測定した。この数値が大きいほど樹脂組成物の耐熱性が優れていることを意味する。
【0040】
(2)モールドデポジット
下記方法で得られたペレットを130℃で7時間乾燥した後に射出成形機(日精樹脂工業(株)製 PS40E5ASE)により成形品を連続成形し、200shot後の金型ガスベント部の汚れ具合を目視で確認した。なお、成形温度は実施例1、比較例1、2は320℃、実施例2~4、比較例3~5は330℃であり、金型温度は実施例1、比較例1、2は140℃、実施例2~4、比較例3~5は130℃で行った。なお、比較例6はペレットを作成できなかったため評価できなかった。目視での評価は「〇(汚れ面積が25%未満)」、「△(汚れ面積が25%以上50%未満)」、「×(汚れ面積が50%以上)」とした。
【0041】
[実施例1~4、比較例1~6]
表1で示した添加量に従って、A成分、C-1成分を第1供給口より二軸押出機に供給した。ここで第1供給口とは根元の供給口のことである。B成分は、第2供給口よりサイドフィーダーを用いて供給した。場合によって、B成分の二軸押出機への供給を補助する目的でA成分の一部を第2供給口よりサイドフィーダーを用いて供給した。押出は、径30mmΦのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α-31.5BW-2V)を使用し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPaにて溶融混錬しペレットを得た。なお、押出温度は実施例1、比較例1、2は320℃、実施例2~4、比較例3~6は330℃にて行った。
【0042】
表1中の記号表記の各成分は下記の通りである。
<A成分>
A-1:以下の製造方法で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法]
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器に、パラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤として1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼンメルカプトベンゾチアゾール4gを含む反応物を、180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら、重合反応を進行させた。前記重合反応が80%進行した時(重合反応の進行程度は、目標粘度に対する現在粘度の相対割合[(現在粘度/目標粘度)×100(%)]を測定することで判定した。なお、現在粘度は、重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを60g添加し、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させた後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後、反応を終了して、フェニル基を主鎖末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を、小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造した。重量平均分子量は72,000、融点は280℃であった。
A-2:ポリアミド10T(ユニチカ(株)製:ゼコットXP500(製品名)、融点315℃)
A-3:ポリアミド9T(クラレ(株)製:ジェネスタN1000A(製品名)、融点306℃)
【0043】
<B成分>
B-1:以下の製造方法で得られた集束剤を含有する全芳香族ポリアミド繊維(帝人(株)製:テクノーラ(製品名)、長径12μm、カット長3mm)
[製造方法]
70Lのオートクレーブにε-カプロラクタム11kg、アジピン酸ヘキサメチレンアンモニウム塩の50%水溶液を8kg、アミノドデカン酸10kgを仕込み、重合槽内を窒素置換したのち、密閉して180℃まで昇温し、次いで攪拌しながら重合槽内を17.5kgf/cmに調圧しながら、重合槽内温度を240℃まで昇温した。重合温度が240℃に達して2時間後に重合槽内の圧力を約2時間かけて常圧に放圧した。放圧後、窒素気流下で1時間重合したあと、2時間減圧重合を行った。窒素を導入して常圧に復圧後、攪拌機を止めて、ストランドとして抜き出しペレット化し、沸水を用いて未反応モノマーを抽出除去して乾燥し、三元共重合体ポリアミド粒子を得た。このときの共重合比は、ナイロン6/ナイロン66/ナイロン12(重量比;45/15/40wt%)であった。また、粒径D50が0.4μm(各D10/D50/D90=0.12μm/0.4μm/0.45μm)、融点は140℃、数平均分子量は21000であった。
【0044】
このようにして得られたナイロン6/66/12三元共重合ポリアミド樹脂120g、水179.6gおよび水酸化ナトリウム0.4gを、撹拌機を取り付けたオートクレーブ中に加え、回転数500rpmの状態を保持して150℃まで昇温させ、150℃になった状態で30分間反応を行った。反応終了後、そのまま50℃まで冷却して、ポリアミド樹脂水性分散液を取り出した。得られたポリアミド樹脂水性分散液の樹脂濃度は、水性分散液100重量部に対して40重量部であった。最後に、得られたポリアミド樹脂水性分散液75gと、別途、25重量%に調整したエチレン-アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製、登録商標PRIMACOR 5980I、アクリル酸変性量 20重量%)のアンモニウム塩水溶液(アンモニアによる中和度0.75)12.0gとを混合し、ポリアミド樹脂組成物の水性分散液を得た。この水分散液には、ポリアミド樹脂成分100重量部に対し、エチレン-アクリル酸共重合体が10重量部含有されている。これを、水4000重量部に対して、共重合ポリアミド樹脂が100重量部となるようにして攪拌して集束剤のエマルジョン溶液を調製した。この三元共重合ポリアミド樹脂を120℃の熱風乾燥器で水性分散液から水分を除去し、ガラス転移温度を測定したところ、32℃であった。このエマルジョン溶液に全芳香族ポリアミド繊維を連続的に浸漬させ、次いで温度150℃の乾燥機に1分間通し、集束剤付着量8%の全芳香族ポリアミド長繊維マルチフィラメントを得た。
B-2(比較例):全芳香族ポリアミド繊維(帝人(株)製:テクノーラT322EH(製品名)長径12μm、カット長3mm、ポリエステル系集束剤)
B-3(比較例):全芳香族ポリアミド繊維(帝人(株)製:テクノーラT322UR(製品名)長径12μm、カット長3mm、ポリウレタン系集束剤)
【0045】
<エポキシ樹脂>
C-1:トリスフェノールメタン型エポキシ((株)日本化薬製:EPPN-501H(製品名)、エポキシ当量158~178g/eq)
【0046】
【表1】
【0047】
<実施例1~4>
本請求の範囲内にある樹脂組成物であるため、耐熱性に優れ、かつ射出成形時におけるモールドデポジットが少ない結果であった。
<比較例1~4>
B成分の集束剤が共重合ポリアミド樹脂でないため、耐熱性が低く、かつ射出成形時におけるモールドデポジットが多い結果であった。
<比較例5>
B成分の含有量が下限を下回るため、耐熱性が低い結果であった。
<比較例6>
B成分の含有量が上限を上回るため、ストランド切れおよびサージングが起こり、ペレットを作成することができなかった。