特開 2024-155450 モールドコイル

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024155450

(43)【公開日】2024-10-31

(54)【発明の名称】モールドコイル

(51)【国際特許分類】

   H01F 27/28 20060101AFI20241024BHJP

【ＦＩ】

H01F27/28 135

H01F27/28 147

【審査請求】未請求

【請求項の数】5

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023070174

(22)【出願日】2023-04-21

(71)【出願人】

【識別番号】513296958

【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110000567

【氏名又は名称】弁理士法人サトー

(72)【発明者】

【氏名】伊藤 大貴

(72)【発明者】

【氏名】中前 哲夫

【テーマコード（参考）】

5E043

【Ｆターム（参考）】

5E043AA07

5E043AB01

5E043AB02

(57)【要約】

【課題】シート巻きコイルを採用したものにおいて、クラックによる外観不良を低減する。
【解決手段】モールドコイルは、巻線を巻いて構成された巻線コイルと、導電性を有する導体シートと電気絶縁性を有する絶縁シートとを交互に積層して構成されたシート巻きコイルと、重ねて構成されたコイル組み立て体と、電気絶縁性を有する樹脂で構成されてコイル組み立て体を覆うモールド樹脂と、を備える。コイル組み立て体の少なくとも一方の端部に位置するコイルが前記巻線コイルで構成されている。
【選択図】図３

【特許請求の範囲】

【請求項1】

巻線を巻いて構成された巻線コイルと、導電性を有する導体シートと電気絶縁性を有する絶縁シートとを交互に積層して構成されたシート巻きコイルと、重ねて構成されたコイル組み立て体と、
電気絶縁性を有する樹脂で構成されて前記コイル組み立て体を覆うモールド樹脂と、を備え、
前記コイル組み立て体の少なくとも一方の端部に位置するコイルが前記巻線コイルで構成されている、
モールドコイル。

【請求項2】

前記シート巻きコイルの径方向の厚み寸法は、前記巻線コイルの径方向の厚み寸法よりも小さい、
請求項１に記載のモールドコイル。

【請求項3】

前記シート巻きコイルの個数は、前記巻線コイルの個数よりも多い、
請求項１に記載のモールドコイル。

【請求項4】

前記巻線コイルの巻線は、断面が円形の丸線で構成されている、
請求項１に記載のモールドコイル。

【請求項5】

前記巻線コイルの巻線は、断面が矩形の平角線で構成されている、
請求項１に記載のモールドコイル。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明の実施形態は、モールドコイルに関する。

【背景技術】

【0002】

従来、変圧器を構成するモールドコイルには、アルミ箔などの導体シートと、絶縁シートとを重ねて巻いて構成したシート巻きコイルが採用されることがある。導体シートは、例えばシート線などとも称される。シート巻きコイルは、断面が円形状の丸線や断面が矩形状の平角線などに比べて電力密度を大きくすることができることから、モールドコイルの小型、軽量化を図ることができる。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開平１０－３３５１５６号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

ここで、シート巻きコイルを構成する導体シート及び絶縁シートは、数ｍｍ程度から１ｍｍ以下の厚みである。このため、シート巻きコイルの端部、つまり導体シート及び絶縁シートの縁部分は鋭利となる。そのため、このようなシート巻きコイルの周囲をモールド樹脂で覆ってモールドコイルを構成した場合、導体シート又は絶縁シートの端部に応力が集中し易くなり、その結果、モールド樹脂にクラックが発生し易くなる。そして、そのクラックがモールド樹脂の表面に露出すると、外観不良となるおそれがある。

【0005】

そこで、シート巻きコイルを採用したものにおいて、クラックによる外観不良を低減することができるモールドコイルを提供する。

【課題を解決するための手段】

【0006】

実施形態のモールドコイルは、巻線を巻いて構成された巻線コイルと、導電性を有する導体シートと電気絶縁性を有する絶縁シートとを交互に積層して構成されたシート巻きコイルと、重ねて構成されたコイル組み立て体と、電気絶縁性を有する樹脂で構成されて前記コイル組み立て体を覆うモールド樹脂と、を備える。前記コイル組み立て体の少なくとも一方の端部に位置するコイルが前記巻線コイルで構成されている。

【図面の簡単な説明】

【0007】

【図1】一実施形態によるモールドコイルの一例について概略構成を示す縦断面図

【図2】一実施形態によるモールドコイルの一例について概略構成を示す平断面図

【図3】一実施形態によるモールドコイルの一例について概略構成を示すもので、図２のＸ３－Ｘ３線に沿って示す縦断面図

【図4】一実施形態によるモールドコイルの一例について概略構成を示すもので、図３の矢印Ｘ４部分を拡大して示す図

【図5】一実施形態によるモールドコイルの他の例について概略構成を示すもので、図２のＸ３－Ｘ３線に沿って一部分を示す縦断面図

【発明を実施するための形態】

【0008】

以下、一実施形態によるモールドコイルついて図面を参照しながら説明する。図１から図３に示すモールドコイル１０は、モールド変圧器を構成するコイルである。モールドコイル１０は、モールド樹脂２０及びコイル組み立て体３０を備えている。モールド樹脂２０は、例えばエポキシ樹脂などの電気絶縁性を有する熱硬化性樹脂である。モールド樹脂２０は、コイル組み立て体３０の外周全体を覆っている。

【0009】

コイル組み立て体３０は、少なくとも１つの巻線コイル４０と、複数のシート巻きコイル５０と、を有しており、これら巻線コイル４０とシート巻きコイル５０とを一方向に重ねて構成されている。なお、本実施形態では、巻線コイル４０とシート巻きコイル５０とは、上下方向に積み重ねられている。巻線コイル４０とシート巻きコイル５０とは、製造時に１つの単位として扱われる。すなわち、巻線コイル４０とシート巻きコイル５０とは、それぞれ単位コイルを構成する。巻線コイル４０とシート巻きコイル５０とは、例えば全体として矩形または円形の筒状に構成されている。隣接する巻線コイル４０とシート巻きコイル５０、又は隣接する２つの巻線コイル４０は、相互に離れて配置されており、各コイル４０、５０の間にモールド樹脂２０が充填されている。

【0010】

コイル組み立て体３０において、少なくとも一方の端部の単位コイルは、巻線コイル４０で構成されている。本実施形態の場合、コイル組み立て体３０の両方の端部、すなわち上下の両端部に配置された単位コイルは、巻線コイル４０で構成されている。本実施形態の場合、シート巻きコイル５０の個数は、巻線コイル４０の個数よりも多い。例えば、コイル組み立て体３０は、２つの巻線コイル４０と、６つのシート巻きコイル５０と、を有している。図１及び図３の例では、最上段及び最下段の単位コイルは巻線コイル４０で構成されている。最上段及び最下段に配置された巻線コイル４０は、それぞれ巻線４１の一方の端部に口出し線４１１を有している。口出し線４１１は、図示しない外部の機器に接続される。また、巻線コイル４０は、巻線４１の他方の端部に接続線４１２を有している。接続線４１２はシート巻きコイル５０に接続される。

【0011】

巻線コイル４０は、図３に示すように、巻線４１を巻いて構成されている。巻線４１は、図３に示すように、例えば断面が円形のいわゆる丸線４１ａで構成することができる。この場合、断面が円形とは、真円に限られず楕円も含まれる。また、巻線４１は、図５に示すように、例えば断面が矩形のいわゆる平角線４１ｂで構成することもできる。この場合、断面が矩形とは、例えば正方形や長方形に限られず、例えば台形やひし形も含まれる。また、巻線４１は、例えば断面が多角形の巻線で構成することもできる。

【0012】

シート巻きコイル５０は、図３及び図４に示すように、導体シート５１と、絶縁シート５２とを、シート巻きコイル５０の径方向に積層して構成されている。この場合、シート巻きコイル５０の径方向とは、シート巻きコイル５０から外側へ向かう方向である。

【0013】

導体シート５１は、導電性を有する金属シート、例えばアルミ箔などで構成されている。導体シート５１の厚み寸法Ｔ１は、数ｍｍ程度、例えば１ｍｍ程度である。絶縁シート５２は、電気絶縁性を有する樹脂シートなどで構成されている。絶縁シート５２は、積層された導体シート５１の間に配置されている。すなわち、導体シート５１と絶縁シート５２とが交互に配置されて巻かれている。

【0014】

絶縁シート５２の厚み寸法Ｔ２は、導体シート５１の厚み寸法Ｔ１よりも小さく、１ｍｍ以下、例えば０．１ｍｍ～０．５ｍｍ程度に設定されている。また、導体シート５１の幅寸法Ｗ１は、絶縁シート５２の幅寸法Ｗ２よりも小さい。すなわち、絶縁シート５２の幅寸法Ｗ２は、導体シート５１の幅寸法Ｗ１よりも大きく、絶縁シート５２は、導体シート５１の全体を覆っている。

【0015】

図３に示すように、シート巻きコイル５０の径方向の厚み寸法Ｌ２は、巻線コイル４０の径方向の厚み寸法Ｌ１よりも小さい値に設定されている。一方で、シート巻きコイル５０の積層数は、巻線コイル４０の巻き数よりも多く設定されている。また、シート巻きコイル５０の上下方向の幅寸法Ｗ２つまりシート巻きコイル５０の軸方向の寸法Ｗ２は、巻線コイル４０の上下方向の幅寸法Ｗ１つまり巻線コイル４０の軸方向の寸法Ｗ１よりも小さい値に設定されている。また、シート巻きコイル５０は、接続部５１１を有している。接続部５１１は、導体シート５１の端部を折り曲げて形成されており、隣接する他のシート巻きコイル５０の導体シート５１に接続される。

【0016】

以上説明した実施形態によれば、モールドコイル１０は、コイル組み立て体３０と、モールド樹脂２０と、を備える。コイル組み立て体３０は、巻線４１を巻いて構成された巻線コイル４０を、導電性を有する導体シート５１と電気絶縁性を有する絶縁シート５２とを交互に積層して構成されたシート巻きコイル５０と、重ねて構成されている。モールド樹脂２０は、コイル組み立て体３０を覆っている。

【0017】

ここで、コイル組み立て体３０の端部のコイルを基点にモールド樹脂２０にクラックが生じると、そのクラックはモールド樹脂２０の表面に露出し易いことがわかった。これに対し、本願発明者は、巻線コイル４０の方がシート巻きコイル５０よりも応力が集中し難く、そのためモールド樹脂２０に巻線コイル４０を基点としたクラックが生じ難いことに着目した。

【0018】

すなわち、実施形態において、コイル組み立て体３０の少なくとも一方の端部に位置するコイルが巻線コイル４０で構成されている。これによれば、コイル組み立て体３０の一部にシート巻きコイル５０を用いることで、コイル組み立て体３０全体を巻線コイル４０で構成した場合に比べて、電力密度を大きくすることができ、その結果、モールドコイル１０の小型、軽量化を図ることができる。そして、コイル組み立て体３０の端部のうち少なくとも一方の端部を巻線コイル４０で構成することで、巻線コイル４０を基点としたモールド樹脂２０のクラックを抑制できる。また、図３及び図４に示すように、シート巻きコイル５０の端部を基点にクラックＣが生じたとしても、そのクラックＣは巻線コイル４０で止まり、モールド樹脂２０の表面に至るまでの進展が抑制される。これにより、モールド樹脂２０に生じたクラックがモールド樹脂２０の表面に露出することが抑制され、その結果、クラックによる外観不良も低減することができる。

【0019】

シート巻きコイル５０の径方向の厚み寸法Ｌ２は、巻線コイル４０の径方向の厚み寸法Ｌ１よりも小さい。すなわち、モールド樹脂２０の表面からシート巻きコイル５０までの距離は、モールド樹脂２０の表面から巻線コイル４０までの距離よりも長い。換言すれば、シート巻きコイル５０の周囲を覆うモールド樹脂２０の厚みは、巻線コイル４０の周囲を覆うモールド樹脂２０の厚みよりも厚い。これによれば、シート巻きコイル５０の周囲を覆うモールド樹脂２０の厚みを厚くすることで、クラックがモールド樹脂２０の表面まで進展することを抑制でき、その結果、クラックによる外観不良を更に効果的に低減することができる。

【0020】

ここで、シート巻きコイル５０は、薄いシート状の導体シート５１及び絶縁シート５２を巻いて形成するため、巻線コイル４０に比べて製造し易く自動化も容易である。このため、シート巻きコイル５０は、巻線コイル４０に比べて効率良く低コストで製造することができる。そこで、本実施形態では、モールドコイル１０が有するシート巻きコイル５０の個数は、巻線コイル４０の個数よりも多く設定されている。これにより、小型で電力密度の高いモールドコイル１０を安価に製造することができる。

【0021】

ここで、巻線コイル４０の巻線４１について見ると、断面が矩形状の平角線４１ｂは、高密度で巻くためには矩形状の向きを揃える必要があることから、製造に手間がかかる。一方で、断面が円形の丸線４１ａは、巻く際に線の向きが限定されないため、製造が容易である。そこで、実施形態において、巻線コイル４０の巻線４１は、断面が円形の丸線４１ａで構成することができる。これによれば、巻線４１を平角線４１ｂで構成した場合に比べて製造工数を低減することができる。

【0022】

一方で、巻線コイル４０の巻線４１は、断面が矩形状の平角線４１ｂで構成することもできる。平角線４１ｂは、占有面積当たりの有効断面が大きい、つまり電力密度が高い。したがって、これによれば、巻線４１を丸線４１ａで構成した場合に比べて高密度で平角線４１ｂを配置することができるため、小型で電力密度の高いモールドコイル１０を提供することができる。

【0023】

本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。

【符号の説明】

【0024】

１０…モールドコイル、２０…モールド樹脂、３０…コイル組み立て体、４０…巻線コイル、４１…巻線、４１ａ…丸線、４１ｂ…平角線、５０…シート巻きコイル、５１…導体シート、５２…絶縁シート、Ｌ１…巻線コイルの径方向の厚み寸法、Ｌ２…シート巻きコイルの径方向の厚み寸法

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】