(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015546
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20240130BHJP
D06C 7/02 20060101ALI20240130BHJP
D06C 11/00 20060101ALI20240130BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B60R13/02 Z
D06C7/02
D06C11/00 Z
D04B21/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117658
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】522296099
【氏名又は名称】ハクサン染工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100210295
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 誠心
(74)【代理人】
【識別番号】100088133
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正道
(72)【発明者】
【氏名】小西 大
【テーマコード(参考)】
3B154
3D023
4L002
【Fターム(参考)】
3B154AB21
3B154BA25
3B154BA32
3B154BB63
3B154DA08
3D023BA01
3D023BB01
3D023BC01
3D023BE13
3D023BE31
4L002AA07
4L002AB02
4L002CA00
4L002DA01
4L002DA02
4L002EA05
4L002EA06
4L002FA06
(57)【要約】
【課題】被接着面の凹凸があっても剥離が生じないような十分な伸縮性と、被接着面との十分な接着強度・耐久性とを有し、接着剤の染み出しを防止できる車両用表皮材、及び、その車両用表皮材の製造方法を提供すること。
【解決手段】車両用表皮材は、経編地のみからなり、経編地の一方の面を起毛させて、車両への接着面となっている。車両用表皮材の製造方法は、経編地の一方の面側の編組織のランナー長が、他方の面側の編組織のランナー長より長い編工程と、経編地の一方の面を起毛させる起毛工程とを有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経編地のみからなり、経編地の一方の面を起毛させて、車両への接着面となっていることを特徴とする車両用表皮材。
【請求項2】
経編地の一方の面側の編組織のランナー長は、他方の面側の編組織のランナー長より長いことを特徴とする請求項1に記載の車両用表皮材。
【請求項3】
以下の式:
ランナー比 = 経編地の一方の面側の編組織のランナー長/他方の面側の編組織のランナー長
で表されるランナー比が、1.485~1.815であることを特徴とする請求項2に記載の車両用表皮材。
【請求項4】
経編地の一方の面側の編組織のランナー長が、他方の面側の編組織のランナー長より長い編工程と、
経編地の一方の面を起毛させる起毛工程とを有することを特徴とする車両用表皮材の製造方法。
【請求項5】
起毛工程後に経編地のヒートセット工程をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の車両用表皮材の製造方法。
【請求項6】
以下の式:
幅比 = ヒートセット工程後の経編地の幅/起毛工程後の経編地の幅
で表される幅比が、1.00~1.11であることを特徴とする請求項5に記載の車両用表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車室内空間の表面には、加飾、乗員保護等を目的として車両用表皮材を張り付ける。
【0003】
このような車両用表皮材として、特許文献1に示すような車両用複合表皮材がある。
【0004】
特許文献1に示す車両用複合表皮材は、織物からなる表皮材と、表皮材の裏面に積層されたポリウレタンフォームシートからなる裏打ち材とを備える。接着剤を介して車両用複合表皮材の裏打ち材側を車室内空間の被接着面に張り付けるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、車両においても、環境への配慮からポリウレタンフォーム等の樹脂を削減することが進んでいる。そのため、織物等のファブリックを車室内空間の被接着面に直接接着することが望まれている。
【0007】
しかし、車室内空間の被接着面には凹凸が多数存在するため、ファブリックの伸縮性が不十分だと、被接着面との剥離が生じやすいという問題がある。
【0008】
上記の問題に加えて、ファブリックを単体で被接着面に接着しようとすると、被接着面との十分な接着耐久性が確保できないという問題がある。
【0009】
さらに、上記の問題に加えて、接着剤がファブリックの車室内側にまで染み出すことを防がなくてはならないという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、被接着面の凹凸があっても剥離が生じないような十分な伸縮性と、被接着面との十分な接着強度・耐久性とを有し、接着剤の染み出しを防止できる車両用表皮材、及び、その車両用表皮材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1の車両用表皮材は、経編地のみからなり、経編地の一方の面を起毛させて、車両への接着面となっている。
【0012】
請求項1の車両用表皮材は、経編であることによって、車室内空間の被接着面の凹凸があっても剥離が生じないような十分な伸縮性を実現することができる。さらに、請求項1の車両用表皮材は、経編地の一方の面を起毛させて、車両への接着面となっていることによって、被接着面との十分な接着耐久性が実現できる。起毛させることによって車両用表皮材が厚くなり、接着面から車室内側の面にまで接着剤が染み出すことを防止できる。
【0013】
本発明の請求項2の車両用表皮材は、請求項1の車両用表皮材において、経編地の一方の面側の編組織のランナー長が、他方の面側の編組織のランナー長より長くなっている。
【0014】
請求項2の車両用表皮材は、請求項1の車両用表皮材と同様の作用に加えて、経編地の一方の面側の編組織のランナー長が、他方の面側の編組織のランナー長より長いことによって、経編地の一方の面に均一かつ密度の高い起毛を実現できる。
【0015】
本発明の請求項3の車両用表皮材は、請求項1の車両用表皮材において、
以下の式:
ランナー比 = 経編地の一方の面側の編組織のランナー長/他方の面側の編組織のランナー長
で表されるランナー比が、1.485~1.815である。
【0016】
経編地は、ランナー長が長くなればなるほど、編成が難しくなるとともに、起毛などの経編地の加工が難しくなる。請求項3の車両用表皮材は、請求項2の車両用表皮材と同様の作用に加えて、ランナー比が上記範囲であることによって、十分な伸縮性を有しながら、編成及び加工が可能な経編地を実現することができる。
【0017】
本発明の請求項4の車両用表皮材の製造方法は、経編地の一方の面側の編組織のランナー長が、他方の面側の編組織のランナー長より長い編工程と、経編地の一方の面を起毛させる起毛工程とを有する。
【0018】
請求項4の車両用表皮材の製造方法は、上記のような編工程と起毛工程とを有することによって、均一かつ高い密度の起毛を経編地の一方の面側に実現することができる。これにより、十分な被接着面との十分な接着耐久性、及び、起毛させることによって車両用表皮材が厚くなり接着面から車室内側の面にまで接着剤が染み出すことの防止を両立できる車両用表皮材を製造することができる。
【0019】
本発明の請求項5の車両用表皮材の製造方法は、請求項4の車両用表皮材の製造方法において、起毛工程後に経編地のヒートセット工程をさらに有する。
【0020】
請求項5の車両用表皮材の製造方法は、請求項4の車両用表皮材の製造方法と同様の作用に加えて、起毛工程後に経編地のヒートセット工程をさらに有することによって、経編地の一方の面側に均一かつ高い密度の起毛を維持したまま、経編地の伸びを調整することができる。
【0021】
本発明の請求項6の車両用表皮材の製造方法は、請求項5の車両用表皮材の製造方法において、
以下の式:
幅比 = ヒートセット工程後の経編地の幅/起毛工程後の経編地の幅
で表される幅比が、1.00~1.11である。
【0022】
請求項6の車両用表皮材の製造方法は、請求項5の車両用表皮材の製造方法と同様の作用に加えて、幅比が上記の範囲にあることによって、一方の面側に均一かつ高い密度の起毛を有する経編地において、車室内空間の被接着面の凹凸があっても剥離が生じないような十分な伸縮性を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法によれば、被接着面の凹凸があっても剥離が生じないような十分な伸縮性と、被接着面との十分な接着強度・耐久性とを有し、接着剤の染み出しを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の車両用表皮材の一実施形態について説明する。
【0025】
車両用表皮材は、経編地からなる。
【0026】
この経編地は、一方の面が起毛している。
【0027】
この経編地の起毛している一方の面は、接着剤を介して、被接着面に張り付けられる接着面となっている。
【0028】
被接着面に張り付けられた車両用表皮材は、経編地の他方の面が表面となる。
【0029】
被接着面との剥離を防止するために、経編地には、十分な伸縮性が求められている。しかし、伸縮性が高くなればなるほど、経編地の一方の面を均一かつ密度の高い起毛させることが難しく、粗い起毛となってしまう。
【0030】
この粗い起毛となった面を被接着面に接着すると、被接着面に張り付けられた経編地の表面にあばたが生じてしまうこと、または、粗い起毛となった面と被接着面との接着強度・耐久性が十分でないことなどの問題が生じる。
【0031】
さらに、粗い起毛となった面を被接着面に接着すると、張り付けられた経編地の表面側にまで接着剤が染み出してしまうという問題がある。
【0032】
そこで、本実施形態の経編地のみからなる車両用表皮材では、ランナー比を以下の式で定義した。
ランナー比 = 経編地の一方の面側の編組織のランナー長/他方の面側の編組織のランナー長
【0033】
本実施形態の経編地において、このランナー比は、1.485~1.815の範囲とした。
【0034】
これにより、本実施形態の車両用表皮材は、被接着面の凹凸があっても剥離が生じないような十分な伸縮性と、被接着面との十分な接着強度・耐久性とを有し、接着剤の染み出しを防止できる。
【0035】
次に、本発明の車両用表皮材の一実施形態について、以下に説明する。
【0036】
経編地による車両用表皮材に製造方法は、整経工程、編工程、染色工程、第一ヒートセット工程、起毛工程、第二ヒートセット工程、及び、検査工程の順で行われる。
【0037】
編工程において、経編地の一方の面側の編組織のランナー長が、他方の面側の編組織のランナー長より長い条件で編まれるようになっている。
【0038】
起毛工程では、ランナー長が長い方である経編地の一方の面側を起毛させる。
【0039】
例えば、経編地を構成する糸の素材がポリエステルである場合、第二ヒートセット工程で加熱されることによって一方の面側が起毛した経編地の編組織が固定されることとなる。なお、経編地の場合、構成する糸自体の伸びは、経編地の伸縮性に対する影響は小さいため、第二ヒートセット工程で幅比が大きくなると、経編地のみからなる車両用表皮材の十分な伸縮性が実現できないという問題がある。
【0040】
そこで、本実施形態の経編地のみからなる車両用表皮材の製造方法では、起毛工程後の経編地のヒートセットを行う第二ヒートセット工程では、幅比を以下の式で定義した。
幅比 = ヒートセット工程後の経編地の幅/起毛工程後の経編地の幅
この幅比が、1.00~1.11の範囲となっている。
【0041】
上記実施形態では、一例として経編地を構成する糸の素材がポリエステルである場合について説明したが、これに限定されることはない。他の素材の糸であってもよい。
【0042】
上記実施形態では、経編地による車両用表皮材に製造方法は、整経工程、編工程、染色工程、第一ヒートセット工程、起毛工程、第二ヒートセット工程、及び、検査工程の順で行われる場合、場合について説明したが、これに限定されることはない。本発明にかかる特徴点を有しているのであれば、工程の付加・削除等を行ってもよい。