(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155462
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】チロシナーゼ活性阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20241024BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20241024BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K8/73
C08L1/08
A61Q19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070198
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】谷 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】横溝 智史
(72)【発明者】
【氏名】江川 紀章
【テーマコード(参考)】
4C083
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AD261
4C083AD262
4C083CC02
4C083DD12
4C083DD17
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE16
4C083FF01
4J002AB021
4J002GB00
(57)【要約】
【課題】セルロースをさらに有効活用するためのセルロースの新たな用途を提供する。
【解決手段】本発明は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースを有効成分として含むチロシナーゼ活性阻害剤に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースI型結晶構造を有するセルロースを有効成分として含むチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
セルロースがセルロースナノファイバーである、請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
セルロースがセルロースナノクリスタルである、請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅が1nm~1000nmである、請求項2に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項5】
セルロースが表面に官能基を有する、請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項6】
官能基がアニオン性官能基である、請求項5に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項7】
アニオン性官能基が硫酸エステル基及び/又はカルボキシ基である、請求項6に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項8】
水をさらに含む、請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項9】
ゲル、エマルジョン、粉末、不織布複合体、又はフィルムの形状である、請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のチロシナーゼ活性阻害剤を含む、美白用化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシナーゼ活性阻害剤、詳細には、セルロースI型結晶構造を有するセルロースを有効成分として含むチロシナーゼ活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりからバイオマス由来材料の実用化を目指した検討が世界中で展開されている。例えば、セルロースは植物細胞壁の構成成分であり、地球上で最大のバイオマス資源である。木質(木材チップなど)や草本、ヤシガラ、ナッツシェルなどのリグノセルロース系バイオマスを原料とする場合、その構成要素であるセルロース、リグニン、及びヘミセルロースを余すことなく産業に利用することができれば循環型資源利用とCO2固定化の両者に大きく貢献することとなる。
【0003】
例えば、特許文献1には、カルボキシメチルセルロースを含む粒子であって、真球度が0.85以上、平均粒子径d1が0.01~20μm、最大粒子径dmが30μm未満であり、「塩を形成していない遊離カルボン酸基」/(「塩を形成したカルボン酸基」+「塩を形成していない遊離カルボン酸基」)で表されるカルボキシメチルセルロースの遊離カルボン酸基率が0.8以上であるカルボキシメチルセルロース粒子が記載されている。
【0004】
また、セルロースは、セルロースナノファイバー(「CNF」ともいう)やセルロースナノクリスタル(「CNC」ともいう)などのナノサイズのセルロース(「ナノセルロース」ともいう)とすることで、樹脂やゴム、さらにコンクリートと複合化させた際に、強度、柔軟性、伸び率などの各種物性の向上につながり、環境適合型の新材料として着目されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、平均繊維径が1nm~500nmであり、かつ、セルロースナノファイバー表面の水酸基が硫酸エステル化修飾されたセルロースナノファイバーであって、該硫酸エステル化修飾されたセルロースナノファイバーの0.3質量%の水分散液の25℃における粘度が500mPa・S~25000mPa・Sであり、かつ、該硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバーの0.3質量%の水分散液の25℃におけるTI値が3~30である、硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバーが記載されている。
【0006】
特許文献3には、最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維であって、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基及びアルデヒド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有することを特徴とする微細セルロース繊維が記載されている。
【0007】
特許文献4には、セルロースナノクリスタル及び1つ以上のペプチド、1つ以上のタンパク質、又はそれらの混合物を含むタンパク質性セルロース微小粒子であって、前記ナノクリスタル並びに前記ペプチド及び/又はタンパク質が一緒に凝集して、前記微小粒子を形成する、タンパク質性セルロース微小粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-107482号公報
【特許文献2】国際公開第2018/131721号
【特許文献3】特開2008-1728号公報
【特許文献4】特表2022-531941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
化粧品原料においても環境意識の高まりから天然由来原料は好まれ、さらに動物愛護の観点から植物由来素材は好まれる。
【0010】
例えば、特許文献1に記載されている代表的なセルロース系素材であるカルボキシメチルセルロース(CMC)は、水溶性であり増粘機能を有するため、化粧品原料の増粘剤として利用されている。
【0011】
また、特許文献2~4に記載されている、パルプなどのセルロース原料に、硫酸エステル化処理、酸化処理、又は硫酸加水分解処理を行い、水中で機械的な粉砕処理を行うことで得られた天然のI型結晶構造を維持した平均繊維幅(繊維径(円相当径))100nmよりも細いセルロースナノファイバー(CNF)もまた、表面に存在するイオン性官能基により水中に安定して分散し、かつ増粘機能を有するため、化粧品原料の増粘剤としての使用が検討されている。
【0012】
そこで、本発明は、セルロースをさらに有効活用するためのセルロースの新たな用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、セルロースの新たな用途を提供すべく鋭意検討した結果、セルロースI型結晶構造を有するセルロースがチロシナーゼ活性を阻害する効果を有することを新たに見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)セルロースI型結晶構造を有するセルロースを有効成分として含むチロシナーゼ活性阻害剤。
(2)セルロースがセルロースナノファイバーである、(1)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(3)セルロースがセルロースナノクリスタルである、(1)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(4)セルロースナノファイバーの平均繊維幅が1nm~1000nmである、(2)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(5)セルロースが表面に官能基を有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(6)官能基がアニオン性官能基である、(5)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(7)アニオン性官能基が硫酸エステル基及び/又はカルボキシ基である、(6)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(8)水をさらに含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(9)ゲル、エマルジョン、粉末、不織布複合体、又はフィルムの形状である、(1)~(7)のいずれか1つに記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(10)(1)~(9)のいずれか1つに記載のチロシナーゼ活性阻害剤を含む、美白用化粧料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、セルロースをさらに有効活用するためのセルロースの新たな用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1~4及び比較例1のチロシナーゼモノフェノラーゼ活性の評価結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1~4及び比較例1のチロシナーゼジフェノラーゼ活性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
なお、本明細書等において、「数値~数値」で表現される範囲は、当該数値を含む範囲を意味する。例えば前記「1nm~500nm」は、「1nm以上500nm以下」、すなわち、1nm及び500nmを含む1nmから500nmの範囲を示す。
【0019】
本発明は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースを有効成分として含むチロシナーゼ活性阻害剤に関する。
【0020】
ここで、チロシナーゼ活性阻害剤とは、チロシナーゼ活性を阻害する性質を有する化合物を含む組成物を意味する。
【0021】
ここで、セルロースとは、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類であり、(C6H10O5)nで示される。
【0022】
セルロースI型結晶構造とは、天然セルロース固有の結晶構造であり、例えば固体NMRや、下記で説明する結晶化度などにより同定することができる。
【0023】
セルロースは、セルロースI型結晶構造を有していれば、その結晶化度は限定されない。セルロースI型結晶構造の結晶化度は、通常15%~95%、好ましくは25%~90%である。
【0024】
セルロースI型結晶構造の結晶化度は、X線回折により決定することができる。セルロースI型結晶構造の結晶化度は、例えば、X線回折装置(例えば、RINT-TTR III、株式会社リガク製)を用い、格子面(200面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度及びアモルファス部(200面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度を測定し、Segal法により、以下の計算式で算出することができる。
I型結晶の結晶化度(%)={1-(18.5°の回折強度/22.6°の回折強度)}×100
【0025】
セルロースとしては、前記の通り、セルロースI型結晶構造を有する限り限定されない。セルロースとしては、例えば、セルロースマイクロファイバー(CMF)、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)などが挙げられる。
【0026】
セルロースマイクロファイバーとは、セルロースから構成された、平均繊維幅がマイクロオーダーであるセルロース繊維である。したがって、セルロースマイクロファイバーの平均繊維幅(繊維径(円相当径))は、通常1μm~1000μmの範囲である。セルロースマイクロファイバーの平均繊維長は限定されないが、通常100μm以上である。
【0027】
セルロースナノファイバーとは、セルロースから構成された、平均繊維幅がナノオーダーであるセルロース繊維である。したがって、セルロースナノファイバーの平均繊維幅(繊維径(円相当径))は、通常1nm~1000nmの範囲である。セルロースナノファイバーの平均繊維長は限定されないが、通常0.1μm~10μmの範囲である。
【0028】
セルロースナノクリスタルとは、セルロースから構成された、平均粒径がナノオーダーである粒子状結晶である。したがって、セルロースナノクリスタルの平均粒径は限定されないが、円相当径として、通常1nm~1000nmである。
【0029】
なお、平均繊維幅、平均繊維長及び平均粒径は、限定されないが、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50の繊維又は粒子における繊維幅及び繊維長又は円相当径を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。
【0030】
セルロースマイクロファイバー、セルロースナノファイバー又はセルロースナノクリスタル(以下、セルロース類ともいう)は、表面に官能基を有していてもよい。官能基としては、アニオン性官能基、カチオン性官能基、ノニオン性官能基などが挙げられる。官能基としては、アニオン性官能基が好ましい。
【0031】
アニオン性官能基を有するセルロース類は、セルロース類中のグルコースユニットのOH基の一部が、アニオンに変性されたセルロースである。アニオン性官能基としては、例えば、限定されないが、硫酸エステル基、カルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基などが挙げられる。アニオン性官能基としては、硫酸エステル基及びカルボキシ基が好ましい。
【0032】
例えば、硫酸エステル基を有するセルロース類は、硫酸エステル化セルロースマイクロファイバー、硫酸エステル化セルロースナノファイバー又は硫酸エステル化ナノクリスタルともいい、セルロース類を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つが、硫酸エステル基に置換されているセルロース類である。硫酸エステル基を有するセルロース類の硫酸エステル基は、下記の式(1)で示される硫酸エステル基(式中、Mは1価~3価の陽イオンを示す)であることが好ましい。
【0033】
【化1】
(一般式(I)において、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【0034】
一般式(I)中のMn+で表される1価~3価の陽イオンとしては、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。なお、Mn+が2価又は3価の陽イオンの場合、当該陽イオンは、2つ又は3つの-OSO3-との間でイオン結合を形成する。
【0035】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0036】
ここで、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンなどが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンなどが挙げられる。遷移金属としては、鉄イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオンなどが挙げられる。その他の金属としては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンなどが挙げられる。
【0037】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンが挙げられ、例えば、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオンなどが挙げられる。
【0038】
Mn+で示される陽イオンとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましい。以上列挙した陽イオンは、いずれか1種でもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0039】
硫酸エステル基を有するセルロース類における硫酸エステル化修飾率は、用途などに応じて任意の適切な値に設定することができる。硫酸エステル基を有するセルロース類の硫酸エステル化修飾率は、硫酸エステル基を有するセルロース類1g当たりの硫酸エステル基に起因する硫黄含有量(mmol)で表わされる。硫酸エステル基を有するセルロース類中の硫黄含有量(mmol/g)は、限定されないが、通常0.1mmol/g~5mmol/gであり、好ましくは0.3mmol/g~4mmol/gである。
【0040】
硫酸エステル基を有するセルロース類中の硫黄含有量(mmol/g)は、例えば燃焼吸収-イオンクロマトグラフィー(IC)法又は赤外分光法(IR)で確認することができる。硫酸エステル基を有するセルロース類の硫黄含有量は、例えば以下の方法で測定することができる。
【0041】
・測定方法:燃焼吸収-IC
・測定装置:日本ダイオネクス株式会社製のICS-1500
・測定条件:磁性ボードに試料(硫酸エステル基を有するセルロース類)を秤量し、酸素雰囲気下(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)で燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させて吸収液を得る。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液をイオンクロマトグラフィーに供する。測定結果から当該セルロースナノファイバー1gに対する硫酸イオンの物質量(mmol)を算出する。
【0042】
例えば、カルボキシ基を有するセルロース類は、酸化セルロース、酸化セルロースナノファイバー又は酸化セルロースナノクリスタル、あるいはTEMPO酸化セルロース、TEMPO酸化セルロースナノファイバー又はTEMPO酸化セルロースナノクリスタルともいい、セルロース類を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つが、カルボキシ基に置換されているセルロース類である。
【0043】
カルボキシ基を有するセルロース類における酸化率は、用途などに応じて任意の適切な値に設定することができる。カルボキシ基を有するセルロース類中の酸化率は、カルボキシ基を有するセルロース類1g当たりのカルボキシ基の量(mmol)で表わされる。カルボキシ基を有するセルロース類中のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、限定されないが、通常0.1mmol/g~5mmol/gであり、好ましくは0.3mmol/g~4mmol/gである。
【0044】
カルボキシ基を有するセルロース類中のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、例えばアルカリ滴定で確認することができる。カルボキシ基を有するセルロース類のカルボキシ基導入量は、例えば以下の方法で測定することができる。
【0045】
・測定方法:アルカリ滴定
・測定条件:試料(カルボキシ基を有するセルロース類)を秤量し、0.5~1質量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いてカルボキシ基の官能基量を決定する。
カルボキシ基官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロース類の質量(g)
【0046】
硫酸エステル基又はカルボキシ基を有するセルロース類は、それぞれ、硫酸エステル基又はカルボキシ基の他に、他の官能基を有していてもよい。ここで、硫酸エステル基又はカルボキシ基を有するセルロース類が他の官能基を有する場合、他の官能基は、セルロース類を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の官能基としては、例えば、限定されないが、アニオン性官能基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。他の官能基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの官能基の含有比率は限定されない。他の官能基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性官能基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性官能基及びその塩としては、特に硫酸エステル基(カルボキシ基を有するセルロース類の場合)、カルボキシ基(硫酸エステル基を有するセルロース類の場合)、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性官能基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0047】
セルロースマイクロファイバーの場合、セルロースマイクロファイバーの平均繊維幅は、限定されないが、前記で定義した通常のセルロースマイクロファイバーの平均繊維幅と同等であり、通常1μm~1000μmの範囲である。セルロースマイクロファイバーの平均繊維幅は、好ましくは1μm~800μmであり、より好ましくは1μm~500μmである。
【0048】
セルロースマイクロファイバーの平均繊維長は、限定されないが、前記で定義した通常のセルロースマイクロファイバーの平均繊維長と同等であり、通常10μm以上であり、例えば100μm以上、あるいは1000μmであってもよい。なお、セルロースマイクロファイバーの平均繊維長の上限値は、限定されず、セルロースマイクロファイバーの平均繊維長は、例えば数10mとすることもできる。
【0049】
セルロースマイクロファイバーとしては、例えば、木材パルプやコットンなどをそのまま利用することができる。また、木材パルプやコットンなどの繊維に対して、軽微な解繊処理を行って、セルロースマイクロファイバーにしてもよい。さらに、セルロースマイクロファイバーは、下記で説明するセルロースナノファイバーを紡糸することによっても製造することができる。
【0050】
セルロースマイクロファイバーを使用することによって、例えばセルロースナノファイバーと比較して、製造に関して、化学処理を必要としないか、又は化学処理したとしても処理の程度は軽度でよいため、コストを下げることができる。また、セルロースナノファイバーは、粘度が高くなりやすいため、水中の固形分を2%程度にして、水中に分散させて使用するのに対し、セルロースマイクロファイバーは、固形分を5%以上にしても、水中に分散可能であり、取り扱いが容易である。
【0051】
セルロースナノファイバーの場合、セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、限定されないが、前記で定義したセルロースナノファイバーの繊維幅と同等であり、通常1nm~1000nmの範囲である。セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、好ましくは1nm~500nmであり、より好ましくは1nm~100nmである。平均繊維幅が1nm未満であるとナノファイバーの強度などの性能面も低下するおそれがある。
【0052】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、限定されないが、前記で定義したセルロースナノファイバーの繊維長と同等であり、通常0.1μm以上10μm以下であり、好ましくは0.1μm以上6μm以下である。
【0053】
セルロースナノファイバーは、例えば、木材バルプやコットンなどの植物由来成分、酢酸菌産生セルロース、及び/又はホヤの外皮などの非植物成分を原料として、製造することができる。
【0054】
セルロースナノファイバーを使用することによって、水への分散性に優れ、長期間沈降しない水分散液を得ることができる。また、セルロースナノファイバーは増粘効果を有するため、セルロースナノファイバーを含む水分散液の粘度は高くなり、チキソ性を有する。
【0055】
セルロースナノクリスタルの場合、セルロースナノクリスタルの平均粒径は、限定されないが、前記で定義したセルロースナノクリスタルの平均粒径と同等であり、円相当径として、通常1nm~1000nmの範囲である。セルロースナノクリスタルの平均粒径は、好ましくは1nm~750nmであり、より好ましくは1nm~500nmである。
【0056】
セルロースナノクリスタルは、例えば、木材バルプやコットンなどの植物由来成分、酢酸菌産生セルロース、及び/又はホヤの外皮などの非植物成分を原料として、製造することができる。
【0057】
セルロースナノクリスタルを使用することによって、水への分散性に優れ、長期間沈降しない水分散液を得ることができる。また、セルロースナノクリスタルは増粘効果を有するため、セルロースナノクリスタルを含む水分散液の粘度は高くなり、チキソ性を有する。
【0058】
セルロース類の平均繊維幅、平均繊維長又は平均粒径は、前記の通り、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50の繊維又は粒子における繊維幅(繊維径(円相当径))、繊維長又は円相当径を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維幅、平均繊維長又は平均粒径は、硫酸などの試薬の濃度、反応溶液に対するパルプの量、反応時間を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0059】
なお、セルロース類は、吸湿性を有する。つまり、セルロース類は、大気中で保管されることで、通常水を含む。したがって、本発明におけるセルロース類、すなわち本発明のチロシナーゼ活性阻害剤に含まれるセルロース類もまた、水を含んでいてもよい。本発明におけるセルロース類において、水の含有量は、限定されないが、セルロース類の全質量に対し、通常1質量%~10質量%、好ましくは1質量%~5質量%である。本発明におけるセルロース類は、セルロースI型結晶構造を有する限り、たとえ水を含んでいたとしても、チロシナーゼ活性阻害作用を有する。
【0060】
本発明におけるセルロース類は、当該技術分野において公知のセルロースI型結晶構造を有するものを使用することができ、その製造方法もまた公知である。
【0061】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、溶媒(溶剤)、例えば水、アルコール、例えばエタノール、オイル、若しくはそれらの混合物、エマルジョン、例えばオイルと水を乳化させたエマルジョンをさらに含んでいてもよい。
【0062】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤において、溶媒を含む場合、溶媒の含有量は、チロシナーゼ活性阻害剤の全質量に対し、通常0.1質量%~99.99質量%、例えば1質量%~99.99質量%である。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、セルロース類と、溶媒とからなっていてもよい。
【0063】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤が溶媒を含んでいたとしても、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤に含まれるセルロース類は、セルロースI型結晶構造を有する限り、チロシナーゼ活性阻害作用を有する。
【0064】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤では、溶媒は、水が好ましい。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤において、水を含む場合、水の含有量は、チロシナーゼ活性阻害剤の全質量に対し、通常1質量%~99.99質量%、例えば5質量%~99.99質量%である。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、セルロース類と、水とからなっていてもよい。
【0065】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤が水を含んでいたとしても、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤に含まれるセルロース類は、セルロースI型結晶構造を有する限り、チロシナーゼ活性阻害作用を有する。
【0066】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、1つ以上の添加物をさらに含んでいてもよい。
【0067】
添加物としては、例えば、粉末成分、油脂、ロウ類、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、合成エステル油、シリコーン油、水溶性高分子、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、ビタミン類、など、機能の観点からであれば、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、皮膚栄養剤、酸化防止剤、酸化防止助剤、分散剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調製剤、pH安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0068】
添加物の含有量は、添加物に求められる用途に応じて変わるため、限定されない。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤において、添加物を含む場合、添加物全体の含有量は、例えば、チロシナーゼ活性阻害剤の全質量に対し、通常0.1質量%~99.99質量%、好ましくは1質量%~99.99質量%である。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、セルロース類と、添加物とからなっていてもよい。
【0069】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤の形状は限定されない。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、例えば任意の形状、例えば粉末状、球状、楕円状、多角形状、若しくは平板状、例えば不織布複合体、フィルムなどの固体の形状、ゲル、ペーストなどの半固体の形状、又はエマルジョン、分散体の形状などであってもよい。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を前記形状に成形するためには、例えば1つ以上の担体、好ましくは薬学的に許容される担体、例えば前記溶媒、前記添加物などを配合してもよい。
【0070】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、前記チロシナーゼ活性阻害剤と水とを混合して前記セルロース類の濃度が水分散液の全質量に対し0.5質量%である水分散液を調製したときに、当該水分散液の25℃における6rpmで測定される粘度が、通常100mPa・s~100000mPa・s、好ましくは300mPa・s~50000mPa・sである。
【0071】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、前記チロシナーゼ活性阻害剤と水とを混合して前記セルロース類の濃度が水分散液の全質量に対し0.5質量%である水分散液を調製したときに、当該水分散液の25℃における60rpmで測定される粘度が、通常10mPa・s~20000mPa・s、好ましくは30mPa・s~10000mPa・sである。
【0072】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、前記チロシナーゼ活性阻害剤と水とを混合して前記セルロース類の濃度が水分散液の全質量に対し0.5質量%である水分散液を調製したときに、当該水分散液の25℃における6rpm及び60rpmで測定される粘度から算出されるTI値(6rpm粘度/60rpm粘度)が、通常1~10、好ましくは2~7である。
【0073】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤が前記範囲の粘度及び/又はTI値を有することにより、例えば化粧料に配合したときに、増粘剤や感触向上剤としても作用することができる。
【0074】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、当該技術分野において公知の方法により製造することができる。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、例えば、セルロース類、担体、好ましくは薬学的に許容される担体、例えば前記溶媒及び前記添加物などを混合、場合により粉砕することにより製造することができる。
【0075】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、そのままで、あるいは化粧料に添加して、美白用化粧料としてもよい。
【0076】
したがって、本発明は、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を含む美白用化粧料にも関する。
【0077】
本発明の美白用化粧料は、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤以外に、化粧料に従来使用されるような成分、例えば1つ以上の担体、好ましくは薬学的に許容される担体、例えば前記溶媒及び前記添加物などを含んでいてもよい。各成分の詳細及び配合量は、当該技術分野において公知の成分及び配合量を使用することができる。
【0078】
本発明の美白用化粧料は、当該技術分野において公知の方法により製造することができる。本発明の美白用化粧料は、例えば、セルロース類、担体、特に薬学的に許容される担体などを混合、場合により粉砕、成形することにより製造することができる。
【0079】
人体の皮膚細胞では、酵素であるチロシナーゼがメラニンを生成し、メラニンが日焼けやシミの原因となる。つまり、チロシナーゼ活性を抑制することができれば、メラニン生成量の減少に伴い日焼けやシミの発生を抑制することができる。そこで、美白用化粧料にはチロシナーゼ活性を阻害する薬剤が含まれる。しかしながら、カルボキシメチルセルロースにはチロシナーゼ活性阻害機能がなく、また、セルロース類にチロシナーゼ活性阻害機能があることは知られていなかった。したがって、美白用化粧料では、セルロース類はチロシナーゼ活性阻害剤として利用されず、セルロース類以外のチロシナーゼ活性阻害剤が別途配合されていた。本発明において、セルロースI型結晶構造を有するセルロース類は、セルロース類の今まで使用されていた増粘性能や保湿性能、硫酸エステル化セルロースが有するヒアルロニダーゼ活性阻害機能によるアンチエイジング性能としての使用方法に加え、チロシナーゼ活性阻害作用を有することが見出された。したがって、本発明によって、美白用化粧料にセルロースI型結晶構造を有するセルロース類をチロシナーゼ活性阻害剤として配合することができる。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、従来のチロシナーゼ活性阻害剤に代えて、あるいは従来のチロシナーゼ活性阻害剤と共に使用することで、美白用化粧料に対して美白効果と保湿効果の両方の機能を供することができる。
【実施例0080】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0081】
I.試料の調製
<実施例1:低置換度の硫酸エステル化セルロースナノファイバー(CNF)作製方法>
ジメチルスルホキシド(DMSO)90g、無水酢酸10g、及び硫酸1gを300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、反応溶液を調製した。
【0082】
次いで、反応溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)3gを加え、23℃の室温下でさらに4時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、パルプを含む解繊溶液に蒸留水を200g加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0083】
さらに蒸留水300gを加えて均一分散するまで撹拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。洗浄後、水を含んだ硫酸エステル化パルプを105℃で乾燥し秤量することで含水率を測定した。
【0084】
洗浄により得られた水を含んだ硫酸エステル化パルプに、固形分濃度0.5%濃度となる量の蒸留水を追加した後、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて撹拌することにより実施例1の0.5質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。
【0085】
<実施例2:高置換度の硫酸エステル化CNF作製方法>
実施例1において、使用する硫酸の量を1gから2gに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の0.5質量%濃度の均一な、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(硫酸エステル化CNF)の水分散液を得た。
【0086】
<実施例3:酸化CNF作製方法>
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)0.13mmol及び臭化ナトリウム10mmolを水に溶解させて、250mLの水溶液を得た。この水溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)3gを加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。混合物の温度を20℃にした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)32mmolを添加して酸化反応を開始させた。反応中、反応系の温度を20℃に保ち、5%水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加することによりpHを10に維持した。3時間反応させた後、遠心分離により上澄みを取り除いた。
【0087】
沈殿物に蒸留水300gを加えて均一分散するまで撹拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。洗浄後、水を含んだカルボキシ化パルプを105℃で乾燥し秤量することで含水率を測定した。
【0088】
洗浄により得られた水を含んだカルボキシ化パルプに、固形分濃度0.5%濃度となる量の蒸留水を追加した後、ミキサー(G5200、Biolomix製)で処理することで実施例3として0.5質量%濃度のカルボキシ化CNF(酸化CNF)の水分散液を得た。
【0089】
<実施例4:セルロースナノクリスタル(CNC)作製方法>
64質量%の硫酸250mLに針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)3gを加え23℃の室温下でさらに1時間撹拌し、反応を行った。撹拌後、パルプを含む解繊溶液に蒸留水を200g加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0090】
さらに蒸留水300gを加えて均一分散するまで撹拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。洗浄後、水を含んだ硫酸加水分解パルプを105℃で乾燥し秤量することで含水率を測定した。
【0091】
洗浄により得られた水を含んだ硫酸加水分解パルプに、固形分濃度1%濃度となる量の蒸留水を追加した後、ミキサー(G5200、Biolomix製)で処理することで実施例4として0.5質量%濃度のCNCの水分散液を得た。
【0092】
<比較例1:カルボキシメチルセルロース(CMC)作製方法>
CMC(富士フィルム和光製)3gに蒸留水を加え300gとし、完全にCMCが蒸留水に溶解するまで撹拌することで、0.5質量%濃度のCMCの水溶液を得た。
【0093】
II.試料の分析
<置換基導入量の定量>
・硫酸エステル基導入量の測定
硫酸エステル化CNF及びCNCの置換基量として、硫黄含有率を、燃焼吸収-IC法を用いて定量した。具体的な方法は、以下の通りである。
【0094】
まず、磁性ボードに乾燥した硫酸エステル化CNF又はCNCをそれぞれ0.01g精秤して投入し、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)下で、環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させた。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップして希釈液を作製し、当該希釈液のイオンクロマトグラフィーにより硫酸イオン濃度(質量%)を測定し、試料1gあたりの硫酸エステル基導入量(mmol/g)を算出した。
【0095】
・カルボキシ基導入量の測定
酸化CNFとCMCのカルボキシ基導入量は、アルカリ滴定により測定した。具体的な方法は、以下の通りである。
【0096】
乾燥質量を精秤したセルロース試料から0.5~1質量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いてカルボキシ基の官能基量を決定した。
カルボキシ基導入量(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロースの質量(g)
【0097】
<I型結晶の結晶化度の測定:X線回折>
実施例1~4及び比較例1のセルロース類の乾燥体0.1gを評価サンプルとした。結晶化度は、X線回折装置(RINT-TTR III、株式会社リガク製)を用い、格子面(200面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度及びアモルファス部(200面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度を測定し、Segal法により、以下の計算式で算出することで求めた。
I型結晶の結晶化度(%)={1-(18.5°の回折強度/22.6°の回折強度)}×100
【0098】
<繊維幅及び粒径の測定:原子間力顕微鏡(AFM)>
実施例1~4及び比較例1で得られた試料中の微細セルロース繊維の平均繊維幅又は平均粒径は、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50の繊維又は粒子における繊維幅又は粒径(円相当径)を計測し、加算平均値をとることで測定した。なお、評価サンプルは以下の方法で調製したものを用いた。
【0099】
原子間力顕微鏡では、蒸留水で希釈することで0.001質量%の実施例1~4及び比較例1の水分散液を得た。続いて天然マイカ(天然白雲母)基板(15mm×15mm×厚さ0.15mm)にマイクロピペットで0.001質量%の水分散液を30μL滴下し、0.5時間自然乾燥する事で評価サンプルを得た。
【0100】
<粘度の測定>
実施例1~4の0.5質量%濃度の水分散液及び比較例1の0.5質量%濃度の水溶液それぞれ100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、株式会社シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてB型粘度計(DV-II+、Brookfield社製)を用いて、25℃にて、回転数6rpm及び60rpmの粘度測定を行い、ここで、粘度は、測定開始後10分の粘度をN=3回記録し、その平均値とした。
【0101】
<チキソトロピーインデックス(TI)値の評価>
TI値は、JIS K 6833の方法に準拠して、下記方法により粘度を測定することで求めた。
TI値=ηa/ηb
(式中、ηaは、回転数a(rpm)の粘度であり、ηbは、回転数b(rpm)の粘度であり、回転数bは回転数aの10倍である。)
【0102】
この実験においては、E型回転粘度計を用いて、25℃にて、回転数6rpm及び60rpmの粘度測定を行い、ここで、それぞれの粘度は、測定開始後5分の粘度をN=3回記録し、その平均値とした。TI値を下記式から算出した。
TI値=(25℃、6rpmにおける粘度)/(25℃、60rpmにおける粘度)
【0103】
<光透過率の評価>
実施例1~4の0.5質量%濃度の水分散液及び比較例1の0.5質量%濃度の水溶液それぞれ2mLを測定セルに投入し、透過率計(UV-2600、島津製作所製)を用いて、波長600nmにおける光透過率を測定した。
【0104】
<チロシナーゼ活性の評価>
・チロシナーゼモノフェノラーゼ活性の測定
実施例1~4及び比較例1のチロシナーゼモノフェノラーゼ活性を、Human Tyrosinase Inhibitor Screening Kit(Monophenolase、SakuLab Science製)を用いて測定した。
【0105】
被験物質として、実施例1~4及び比較例1それぞれに蒸留水を加え、濃度を0.5質量%、0.25質量%、0.125質量%、0.0625質量%、0.03125質量%とした試料を準備した。
【0106】
1)96ウェルホワイトプレートのウェルに40μLの被検物質の溶液を添加した。コントロールには蒸留水を用いた。
2)各ウェルに15μLのチロシナーゼ溶液を添加し、プレートシェイカーで5分間撹拌した。
3)プレートを30℃で15分間インキュベートした。
4)各ウェルに45μLの1.39mMチロシンを含む基質溶液を添加し、軽く撹拌した後にプレートをマイクロプレートリーダーに移し、各ウェルの495nmの吸光度(OD)を測定した(0時間区)。
5)プレートをプレートシェイカーで5分間撹拌した後に30℃でインキュベートし、基質溶液を添加してから5時間後にマイクロプレートリーダーにプレートを移し、各時間区の各ウェルの495nmの吸光度を測定した。被験物質の終濃度は0.2質量%、0.1質量%、0.05質量%、0.025質量%、0.0125質量%であった。
【0107】
・チロシナーゼジフェノラーゼ活性の測定
実施例1~4及び比較例1のチロシナーゼジフェノラーゼ活性を、Human Tyrosinase Inhibitor Screening Kit(Diphenolase、SakuLab Science製)を用いて測定した。
【0108】
被験物質として、実施例1~4及び比較例1それぞれに蒸留水を加え、濃度を0.5質量%、0.25質量%、0.125質量%、0.0625質量%、0.03125質量%とした試料を準備した。
【0109】
1)キット付属の96ウェルホワイトプレートのウェルに40μLの被検物質の溶液を添加した。コントロールには蒸留水を用いた。被験物質の溶液への添加時には、先端をカットしたチップを使用した。
2)各ウェルに15μLの酵素溶液を添加し、プレートシェイカーで5分間撹拌した。
3)プレートを30℃で15分間インキュベートした。
4)各ウェルに45μLの1.39mM L-DOPAを含む基質溶液を添加し、プレートをプレートシェイカーで5分間撹拌した後に30℃でインキュベートし、基質溶液を添加してから30分及び60分後にプレートをマイクロプレートリーダーに移し、各時間区の各ウェルの495nmの吸光度を測定した。被験物質の終濃度は0.2質量%、0.1質量%、0.05質量%、0.025質量%、0.0125質量%であった。
【0110】
・チロシナーゼ活性阻害率の算出
チロシナーゼ活性阻害率は以下の式にて算出した。
モノフェノラーゼ活性阻害率(%)={100-(被験物質の0時間区吸光度-被験物質の5時間区吸光度)/(コントロールの0時間区吸光度-コントロールの5時間区吸光度)}×100
ジフェノラーゼ活性阻害率(%)={100-(被験物質の30分間区吸光度-60分間区吸光度)/(コントロールの30分間区吸光度-コントロールの60分間区吸光度)}×100
【0111】
III.結果
表1に結果を示す。
【0112】
【0113】
実施例1~4を乾燥してAFM観察した結果、ナノサイズの繊維幅のセルロースが観察された。また、実施例1~4のX線回折図はいずれもセルロースI型特有の形状をしていた。表1に、実施例1~4の平均繊維幅又は平均粒径及び結晶化度を示す。したがって、実施例1~4は、セルロースI型結晶構造を有するCNF又はCNCの水分散体であることが確認された。
【0114】
なお、比較例1は、CMCが分子状態で水に溶解しているため、AFM観察では繊維形状は観察されず、X線回折図ではセルロースI型の形状を確認できなかった。
【0115】
チロシナーゼは、2段階の作用によりL-チロシンをメラニンの素となるL-ドーパキノンに変換する。メラニン生成の抑制は、1段階目のチロシナーゼモノフェノラーゼ活性、2段階目のチロシナーゼジフェノラーゼ活性どちらの酵素反応を阻害しても可能であるため、それぞれの酵素活性の阻害を評価した。
【0116】
図1に実施例1~4及び比較例1のチロシナーゼモノフェノラーゼ活性の評価結果を示し、
図2に実施例1~4及び比較例1のチロシナーゼジフェノラーゼ活性の評価結果を示す。
【0117】
図1及び2より、実施例1~4は、チロシナーゼモノフェノラーゼ活性及びチロシナーゼジフェノラーゼ活性の両活性を阻害できることがわかった。それに対し、比較例1は、チロシナーゼモノフェノラーゼ活性を促進し、チロシナーゼジフェノラーゼ活性に影響を及ぼさないことがわかった。
【0118】
実施例1~4はセルロースI型結晶構造を有するナノファイバー又はナノクリスタルであるのに対し、比較例1のCMCでは原料パルプのセルロースI型結晶構造は消失している。したがって、本実験により、セルロースにおけるセルロースI型結晶構造が、特異的にチロシナーゼ活性を阻害することが明らかとなった。
【0119】
実施例1、2、及び4はいずれも硫酸エステル基を有するナノファイバー又はナノクリスタルである。硫酸エステル基の導入量は、実施例1、2、及び4において、大きな差があるにもかかわらず、チロシナーゼ活性阻害効果は、実施例1、2及び4において、大きな差がなく同程度である。したがって、チロシナーゼ活性効果は、セルロースにおける表面の官能基量には影響されないことが明らかとなった。
【0120】
実施例3は酸化によりカルボキシル基が導入された酸化CNFである。実施例3の酸化CNFもまた、硫酸エステル化CNFである実施例1、2及び4と同様に、チロシナーゼ活性阻害効果を有していた。したがって、チロシナーゼ活性効果は、セルロースにおける表面の官能基の種類には影響されないことが明らかとなった。
【0121】
さらに、実施例1~4の分散液は、チキソ性を有しており、その結果、べとつかずに肌に塗り広げる、又はスプレーすることができる、すなわち化粧料に配合した際に、増粘剤や感触向上剤としても作用し得ることがわかった。