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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155466
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】焙煎済みコーヒー豆
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/04 20060101AFI20241024BHJP
   A23F 5/02 20060101ALI20241024BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20241024BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241024BHJP
【FI】
A23F5/04
A23F5/02
A23F5/24
A23L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070204
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】初川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】田代 有香
(72)【発明者】
【氏名】西郷 亮子
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弥香
(72)【発明者】
【氏名】石井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山口 宏美
【テーマコード(参考)】
4B027
4B035
【Fターム(参考)】
4B027FB21
4B027FB24
4B027FC01
4B027FC02
4B027FK03
4B027FQ01
4B027FQ02
4B027FQ04
4B027FQ06
4B027FQ19
4B027FQ20
4B035LC01
4B035LG04
4B035LG07
4B035LG33
4B035LP02
4B035LP22
4B035LT20
(57)【要約】
【課題】その抽出物を口にしたときに樽香が感じられるとともにコーヒーの香りも感じられ、且つ後味の余韻と後味のキレが損なわれていない新規な焙煎済みコーヒー豆を提供する。
【解決手段】乳酸エチルを1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルを5ppb以上22ppb以下含有する、焙煎済みコーヒー豆。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸エチルを1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルを5ppb以上22ppb以下含有する、焙煎済みコーヒー豆。
【請求項2】
水で抽出した抽出液におけるBrix1%での乳酸エチルの含有量が0.1ppm以上1.4ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が0.7ppb以上3.0ppb以下である、焙煎済みコーヒー豆。
【請求項3】
焙煎済みバレルエイジドコーヒー豆である、請求項1または2に記載の焙煎済みコーヒー豆。
【請求項4】
その抽出物を口にしたときに樽香が感じられる、請求項1または2に記載の焙煎済みコーヒー豆。
【請求項5】
請求項1または2に記載の焙煎済みコーヒー豆からの液体の抽出物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の焙煎済みコーヒー豆からの抽出物を含む、飲食品組成物。
【請求項7】
焙煎済みコーヒー豆の製造方法であって、
前記焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルの含有量が1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が5ppb以上22ppb以下となるようにコーヒー豆の酒樽での貯蔵および焙煎を行うことを含む、焙煎済みコーヒー豆の製造方法。
【請求項8】
焙煎済みコーヒー豆の製造方法であって、
前記焙煎済みコーヒー豆の水で抽出した抽出液におけるBrix1%での乳酸エチルの含有量が0.1ppm以上1.4ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が0.7ppb以上3.0ppb以下となるようにコーヒー豆の酒樽での貯蔵および焙煎を行うことを含む、焙煎済みコーヒー豆の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焙煎済みコーヒー豆に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは世界で最も飲まれている飲み物の一つである。
また、それゆえに様々な味、香りのアレンジもされており、例えばコーヒー豆にフレーバーを付与したものなども知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2021-528076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、その抽出物を口にしたときに樽香が感じられるとともにコーヒーの香りも感じられ、且つ後味の余韻と後味のキレが損なわれていない新規な焙煎済みコーヒー豆を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
焙煎前にウイスキー等の酒類が貯蔵されていた酒樽(バレル)でコーヒーの生豆を貯蔵(エイジド)し、これを焙煎したコーヒー豆においては、その抽出液を口にしたときに酒樽(バレル)由来の樽香が感じられる。一方で、該抽出液では酒樽(バレル)での貯蔵を行っていない焙煎済みコーヒー豆の抽出液と比較してコーヒーの香りが感じられにくくなっており、また、後味の余韻と後味のキレも損なわれている傾向があった。
本発明者は鋭意研究の結果、乳酸エチルと酢酸イソアミルが所定の含有量となるようにコーヒー豆の酒樽での貯蔵および焙煎を行うことで、抽出物を口にしたときに樽香が感じられ、且つコーヒーの香りや後味の余韻と後味のキレも維持または向上できることを見出した。
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
乳酸エチルを1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルを5ppb以上22ppb以下含有する、焙煎済みコーヒー豆。
[2]
水で抽出した抽出液におけるBrix1%での乳酸エチルの含有量が0.1ppm以上1.4ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が0.7ppb以上3.0ppb以下である、焙煎済みコーヒー豆。
[3]
焙煎済みバレルエイジドコーヒー豆である、[1]または[2]に記載の焙煎済みコーヒー豆。
[4]
その抽出物を口にしたときに樽香が感じられる、[1]から[3]のいずれか一つに記載の焙煎済みコーヒー豆。
[5]
[1]から[4]のいずれか一つに記載の焙煎済みコーヒー豆からの液体の抽出物。
[6]
[1]から[4]のいずれか一つに記載の焙煎済みコーヒー豆からの抽出物を含む、飲食品組成物。
[7]
焙煎済みコーヒー豆の製造方法であって、
前記焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルが1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルを5ppb以上22ppb以下となるようにコーヒー豆の酒樽での貯蔵および焙煎を行うことを含む、焙煎済みコーヒー豆の製造方法。
[8]
焙煎済みコーヒー豆の製造方法であって、
前記焙煎済みコーヒー豆の水で抽出した抽出液におけるBrix1%での乳酸エチルの含有量が0.1ppm以上1.4ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が0.7ppb以上3.0ppb以下となるようにコーヒー豆の酒樽での貯蔵および焙煎を行うことを含む、焙煎済みコーヒー豆の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、その抽出物を口にしたときに樽香が感じられるとともにコーヒーの香りも感じられ、且つ後味の余韻と後味のキレが損なわれていない新規な焙煎済みコーヒー豆を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態はその抽出物を口にしたときに樽香とコーヒーの香りとを感じることができる焙煎済みコーヒー豆に関する。
【0009】
本明細書において、焙煎済みコーヒー豆とは、コーヒー豆を焙煎処理に供することにより得られる。
また、本明細書において、コーヒー豆(コーヒー生豆)は、コーヒーノキから収穫されたコーヒーチェリーを精製および選別することにより得られる。
コーヒーノキは、アカネ科(Rubiaceae)コーヒーノキ属に属する低木の広葉樹の総称である。コーヒーチェリー(コーヒー果実)は、コーヒーノキに実る楕円形の果実であり、コーヒーチェリーの中に入っている種子がコーヒー豆である。
コーヒー豆が由来する品種、生産地などは特に限定されず、またコーヒー豆の等級なども特に限定されない。品種としては、例えば、アラビカ種、カネフォラ種(ロブスタ種)等を挙げることができる。
【0010】
本明細書において、焙煎済みコーヒー豆の抽出物とは、焙煎済みコーヒー豆より抽出された物を意味する。焙煎済みコーヒー豆の抽出物は、例えば、液体、固体、及び半固体等、いずれの形態であってもよい。なお、抽出物とは、複数粒の焙煎済みコーヒー豆によるものを特に意味する概念である。
液体の抽出物としては、焙煎済みコーヒー豆を水等の溶媒で溶媒抽出することにより得られる抽出液、当該抽出液を希釈または濃縮したものが挙げられる。また、該抽出液、希釈物、および濃縮物は、焙煎済みコーヒー豆またはその粉砕物を含有するスラリー等であってもよい。
固体の抽出物としては凍結物、乾燥粉末、顆粒、カプセル、および錠剤等が挙げられ、また、半固体の抽出物としてはペーストおよびゲル状のものが挙げられ、これらは例えば上述の液体の抽出物を用いて調製することができる。
【0011】
また、本明細書において、コーヒーとは、コーヒー豆および該コーヒー豆を利用して得られる物を意味し、コーヒー豆(コーヒー生豆)、焙煎済みコーヒー豆、焙煎済みコーヒー豆の抽出物、これらのうち少なくともいずれかを含有する物、およびこれらの加工物などが例示できる。
【0012】
本実施形態の焙煎済みコーヒー豆は、例えば以下の方法により得ることができる。以下の方法により得られる本実施形態の焙煎済みコーヒー豆は、ウイスキー等の酒類が貯蔵されていた酒樽での貯蔵処理を経て得られる焙煎済みコーヒー豆であり、焙煎済みバレルエイジドコーヒーとも称される。ここで、上記酒類とは、ウイスキー(後述のとおりバーボンなどのグレーンウイスキーも含む)、ブランデー、ラム、ワイン、スピリッツ、ビール、日本酒、焼酎等であり、これらの混合物(ブレンド)も含む。なお、以下の方法ではウイスキーを例に挙げるが、これに限定されない。
【0013】
まず、コーヒー豆をウイスキー樽の中で貯蔵する。
ウイスキー樽とは、ウイスキーの貯蔵されていた樽を意味し、例えばウイスキーの製造過程において熟成のための貯蔵に用いられていたものを挙げることができる。その材質については特に限定されず、例えばアメリカンホワイトオーク、ミズナラ、フレンチオーク、スパニッシュオークなどのオーク材(ナラの木)によりつくられているものを挙げることができる。また、その大きさについても特に限定されず、当業者が適宜設定できる。例えば、容量サイズ180リットル~200リットルのバレル(バーレル)、容量サイズ220リットル~250リットルのホグスヘッド、容量サイズ480リットル~520リットルのパンチョン、容量サイズ500リットルのバット等のウイスキー樽を挙げることができる。
また、ウイスキーとは、日本国の酒税法第3条第15号に規定されるウイスキーに分類されるものをいい、発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて(又は、発芽させた穀類及び水によって穀類を糖化させて)、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの等を意味する。ウイスキーは、モルトウイスキー、グレーンウイスキー、またはそれらを混合したもの等のいずれであってもよい。
【0014】
ウイスキー樽から取り出されたコーヒー豆は、乾燥等の処理が行われるようにしてもよい。乾燥条件は特に限定されず、当業者が適宜設定することができ、例えば40~55℃の環境下に1~2時間静置することなどが挙げられる。
【0015】
次に、ウイスキー樽の中で貯蔵したコーヒー豆について、焙煎処理を行う。焙煎処理は特に限定されず、当業者は、焙煎する温度、時間、およびL値等の条件を適宜設定することができる。
なお、コーヒー豆のL値とは、コーヒー豆の焙煎の程度(焙煎度ともいう)を色で表したものであり、白色のL値は100、黒色のL値は0である。L値が小さいほどコーヒー豆の焙煎が進んでおり、焙煎度が高いことを意味する。L値は色差計により測定することができる。
【0016】
ここで、ウイスキー樽での貯蔵および焙煎を行うにあたっては、焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルの含有量が1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が5ppb以上22ppb以下となるようにコーヒー豆のウイスキー樽での貯蔵および焙煎を行う。
【0017】
乳酸エチルは2-ヒドロキシプロパン酸エチルとも表される化合物である。また、酢酸イソアミルは酢酸3-メチルブチルとも表される化合物である。
【0018】
焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルおよび酢酸イソアミルの含有量は、ウイスキー樽へのコーヒー豆投入時における樽内部側面の水分量、ウイスキー樽での貯蔵時間、ウイスキー樽での温度、焙煎の程度などにより調整することができる。
特に限定されないが、焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルの含有量:1ppm以上10ppm以下且つ酢酸イソアミルの含有量:5ppb以上22ppb以下とするときのウイスキー樽へのコーヒー豆投入時における樽内部側面の水分量は17~27%が例示できる。また、焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルの含有量:1ppm以上10ppm以下且つ酢酸イソアミルの含有量:5ppb以上22ppb以下とするときのウイスキー樽での貯蔵時間は1日以上100日間以下、好ましくは7日以上30日間以下、より好ましくは10日以上18日以下が例示できる。また、焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルの含有量:1ppm以上10ppm以下且つ酢酸イソアミルの含有量:5ppb以上22ppb以下とするときのウイスキー樽での貯蔵温度は4℃以上40℃以下が例示できる。また、焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルの含有量:1ppm以上10ppm以下且つ酢酸イソアミルの含有量:5ppb以上22ppb以下とするときの焙煎についてはL値が15以上25以下となる程度の焙煎が例示できる。
なお、ウイスキー樽内部の側面とは、ウイスキー樽の鏡(蓋部分)が地面と平行となるようにウイスキー樽を置いたときの内部側面を意味する。
【0019】
このようにしてウイスキー樽等の酒樽での貯蔵処理を経て得られる焙煎済みコーヒー豆(焙煎済みバレルエイジドコーヒー)は、粉砕された後に水などの溶媒を用いる溶媒抽出等を行うことで、抽出液などの抽出物を得ることができる。
本実施形態に係る焙煎済みコーヒー豆の抽出物は、酒樽での貯蔵処理を行っていない焙煎済みコーヒー豆の抽出物と比較して、樽香が感じられる。且つ本実施形態に係る焙煎済みコーヒー豆の抽出物は、コーヒーの香りも感じられ、且つ後味の余韻と後味のキレも損なわれていない。
【0020】
本明細書において、樽香とは、ウイスキー等の酒類が貯蔵されていた酒樽(木を主要な部品として作られており、封ができる容器。)に由来し、樽に使用されている木材と、その樽で貯蔵されていた酒類を想起させる香りを意味する。
【0021】
また、本明細書において、コーヒーの香りの強さとは、コーヒーを想起させる香りの強さに関する。
後味の余韻とは、焙煎済みコーヒー豆の抽出物を飲み込んだ後にも味や香りが感じられることをいう。
また、後味のキレとは、上記の余韻が感じられた後に味や香りがスッとなくなるような感覚であり、甘味、苦味、酸味、うまみ、塩味も含めて味や香りが無くなっていく感覚をいう。
【0022】
なお、焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチルおよび酢酸イソアミルの含有量は、例えば、水での抽出液における乳酸エチルの含有量の測定値および酢酸イソアミルの含有量の測定値から算出することができる。
抽出液における乳酸エチル含有量および酢酸イソアミル含有量の測定は、例えば実施例において示すGC/MSを用いての方法により行うことができる。また、得られた測定値の焙煎豆における含有量への変換は以下の式に基づき行うことができる。
乳酸エチル(ppm)=コーヒー抽出液の乳酸エチルの濃度(ppm)/抽出物の抽出率(%)/100
酢酸イソアミル(ppb)=コーヒー抽出液の酢酸イソアミル(ppb)/抽出物の抽出率(%)/100
抽出物の抽出率(%)=抽出物重量(g)×抽出物のBrix(%)/豆量(g)
抽出率は例えば、18gの焙煎豆に対して、270mlの湯で抽出し得られたコーヒー抽出物の重量が240g、Brixが1.5であったとき、240(g)×1.5(%)/18(g)=20(%)となる。
【0023】
焙煎済みコーヒー豆から抽出液を得る工程については特に限定されず、当業者が適宜行うことができる。
当該抽出工程においては、例えば、任意にサンプリングした焙煎済みコーヒー豆を水で抽出し、抽出液を得る。焙煎済みコーヒー豆の抽出は、ペーパードリップ方式、ネルドリップ方式、サイフォン方式、フレンチプレス方式、エスプレッソ方式、ウォーター方式等の手法を例示することができ、特に限定されない。抽出工程に用いる水は、固体、液体、および気体(水蒸気)の状態で存在し得るが、液体および気体(水蒸気)が好ましい。また、抽出温度及び抽出時間等の抽出工程のその他の条件も適宜設定することができる。
【0024】
以上、本実施形態によれば、乳酸エチルを1ppm以上10ppm以下、酢酸イソアミルを5ppb以上22ppb以下含有することにより、その抽出物を口にしたときに樽香が感じられるとともにコーヒーの香りも感じられ、且つ後味の余韻と後味のキレが損なわれていない焙煎済みコーヒー豆を提供することができる。
【0025】
また、別の態様として、水で抽出した抽出液における乳酸エチルを0.1ppm以上1.4ppm以下、且つ酢酸イソアミルを0.7ppb以上3.0ppb以下含有する、焙煎済みコーヒー豆を提供することができる。
また、別の態様として、焙煎済みコーヒー豆の製造方法であって、焙煎済みコーヒー豆を水で抽出した抽出液における乳酸エチルの含有量が0.1ppm以上1.4ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が0.7ppb以上3.0ppb以下となるようにコーヒー豆の酒樽での貯蔵および焙煎を行うことを含む、焙煎済みコーヒー豆の製造方法を提供することができる。
なお、本明細書においてBrixとは、抽出液の温度(液温度)20℃における糖用屈折計の示度であり、20℃で測定した可溶性固形分量(%)をいう。Brixの測定は、公知の方法、装置を用いて行うことができる。Brixの調整は、例えば抽出液における水の量の調整などにより行うことができる。本明細書の実施例では、ATAGO社製のデジタル屈折計RX-5000αを用いて20℃で測定した値を測定した。
【0026】
<液体抽出物、飲食品組成物>
本実施形態に係る焙煎済みコーヒー豆からは上述のとおり、抽出液、その濃縮物または希釈物、およびこれらを含むスラリーなどの液体抽出物を得ることができる。
本実施形態に係る焙煎済みコーヒー豆の抽出液としては、例えば水を溶媒として用いる溶媒抽出により得ることができる抽出液が例示できる。その抽出工程は例えば上述の手法により行うことができる。
【0027】
また、本実施形態に係る焙煎済みコーヒー豆からの抽出物を含む飲食品組成物を調製することもできる。
飲食品組成物における抽出物の含有量は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。飲食品組成物組成物としては、例えば、カフェオレ、カフェラテ、ソイラテ、コーヒー牛乳等のコーヒー風味飲料、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、ゼリー、プリン、羊羹、クッキー、ケーキ、チョコレート、キャンディ、チューイングガム、菓子パン、食パン等のパン類、ラムネ、タブレットなどの錠菓類、ジャム類などを挙げることができる。
また、上記の液体抽出物や飲食品組成物は容器詰めされた容器詰め飲料や容器詰め食品であってもよい。容器詰め飲料である場合の容器としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック製、ガラス製、紙製、アルミ製、スチール製の容器が挙げられる。
【実施例0028】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0029】
<焙煎済みコーヒー豆の調製および抽出>
ウイスキー樽での貯蔵
モルトウイスキーを貯蔵していた180L樽(モルト樽)またはグレーンウイスキーを貯蔵していた180L樽(グレーン樽)からウイスキーを取りだしてコーヒー豆貯蔵用の樽とした。コーヒー豆投入時の該樽内部側面の水分量を木材水分計(機器名:CAMWAY)で測定し、およそ22%であった。
該樽に満注でコーヒー豆を投入した(投入したコーヒー豆の重量:140kg)。コーヒー豆はアラビカ種・コロンビア産、および、アラビカ種・ブラジル産の2種を使用した。
封をした樽に入れた状態でコーヒー豆を1週間、2週間、3週間または4週間、それぞれ室温(25℃)で貯蔵した。
樽での上記貯蔵後にコーヒー豆を樽から取り出し、湿っていた豆が乾燥するまで乾燥棚で乾燥させた(40~55℃で1~2時間)。
【0030】
焙煎
乾燥後のコーヒー豆を、180℃に熱した焙煎機(機器名:COFFEE DISCOVERY(200g小型コーヒーロースター)、製造元:富士珈機社)に投入し、L値17またはL値25になるまで焙煎した。
【0031】
粉砕および抽出
焙煎後のコーヒー豆を粉砕機(機器:Ditting Maschinen AG Type KFA903)で中挽きにした。粉砕した18gの豆に対して、270mlの湯(純水)でコーヒーメーカー(機器:HARIO EVS-70)で、目標抽出率:20%として抽出した。抽出液のBrixは1.3~1.8(糖度測定器:ATAGO Refractometer RX-5000α)であった。
なお、実施例によっては粉砕前にウイスキー樽での貯蔵時間の異なる焙煎済みコーヒー豆の混合を行った。
【0032】
<香気成分分析方法>
分析対象である抽出液10mlを、あらかじめ3.5gの塩化ナトリウムを入れた20mlバイアル瓶に入れ、密栓した。
各バイアル瓶を50℃で5分間振盪した後、SPME用ファイバー(DVB/CAR/PDMS,Stableflex 23Ga(Gray)50/30μm:SIGMA-ALDRICH社製)をバイアル中のヘッドスペースに露出させた。
50℃で30分間、揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で3分間脱着させ、GC/MSにより分析を行った。検量線は標準添加法にて作成し、内標としてシクロヘキサノールを用いた。
【0033】
GC/MSの分析条件は以下のとおりである。
GC:Agilent Technologies社製 7890A
MS:Agilent Technologies社製 5975C
カラム:Agilent Technologies社製 DB-WAX UI 30m×0.25mm、膜厚0.25μm
圧力一定モード:122KPa、注入法:スプリットレス、キャリアガス:He
注入口温度:240℃、トランスファーライン:240 ℃
オーブン温度:40℃(5min)→5℃/min→240℃(5min)
MS条件:スキャンモード
定量イオン:乳酸エチル_97-64-3:45/75、酢酸イソアミル_123-92-2:70/55
【0034】
<焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチル含有量および酢酸イソアミル含有量>
得られた抽出液における乳酸エチル含有量および酢酸イソアミル含有量に基づき、上述の計算式を用いて焙煎済みコーヒー豆における乳酸エチル含有量および酢酸イソアミル含有量を算出した。Brix1%に調整したときの抽出液における乳酸エチル含有量および酢酸イソアミル含有量とともに表2、表3に示す。
【0035】
<試験1:官能評価>
上記抽出方法にて得られたコーヒー抽出液に対して、「コーヒーの香りの強さ」「樽香の強さ」「後味の余韻」「後味のキレ」の4項目について官能評価を実施した。
抽出液のBrixは1.0に調整した。
官能評価は、コーヒーの評価に熟練した5名で実施した。
また、評価尺度は以下の表1に記載の通りとした。「コーヒーの香りの強さ」「後味の余韻」「後味のキレ」について、樽での貯蔵を行っていない以外は実施例1と同様の方法で調製した焙煎済みコーヒー豆(比較例1)の抽出液をコントロール品として基準4点とし、1~7点の7段階で評点をつけ、平均点を記載した。これら3つの項目それぞれについてコントロール品(4点)と同等またはそれより高い評価であるか否かを判定した。
また、「樽香の強さ」については、比較例1をコントロール品として基準0点とし、0~4の5段階で評点をつけ、平均点を記載した。コントロール品(0点)よりも高い評価である場合に樽香があると判定した。
結果を表2、3に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
表2、3から理解できるとおり、乳酸エチルの含有量が1ppm以上10ppm以下、且つ酢酸イソアミルの含有量が5ppb以上22ppb以下である実施例の焙煎済みコーヒー豆の抽出液では樽香が感じられるとともにコーヒーの香りも感じられ、後味の余韻、後味のキレも損なわれていなかった。
【0040】
また、同様の方法でコーヒー生豆(アラビカ種 コロンビア産)の抽出液を得て乳酸エチルと酢酸イソアミルの濃度を測定し、コーヒー生豆の含有量を算出したところ、乳酸エチルは検出されず、酢酸イソアミルの含有量は0.4ppbであった。そのため、実施例の含有量や比較例1の含有量も考慮すると、乳酸エチル、酢酸イソアミルはウイスキー樽での貯蔵によりその含有量が増加することが理解できる。
また、比較例1の含有量と上記のコーヒー生豆の含有量との比較から焙煎によっても乳酸エチル、酢酸イソアミルの含有量は増加することが理解できる。
また、実施例4の含有量と比較例2の含有量との比較からウイスキー樽での貯蔵時間を長くすることで乳酸エチル、酢酸イソアミルの含有量は増加することが理解できる。