(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155480
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】鋳塊
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20241024BHJP
B22D 11/04 20060101ALI20241024BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241024BHJP
C22F 1/18 20060101ALN20241024BHJP
B22D 11/00 20060101ALN20241024BHJP
B22D 11/041 20060101ALN20241024BHJP
B22D 11/22 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
B22D11/04 311E
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
C22F1/18 H
B22D11/00 D
B22D11/041 D
B22D11/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070234
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】神尾 浩史
(72)【発明者】
【氏名】水上 英夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一浩
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AA06
4E004MA01
4E004NC09
(57)【要約】
【課題】鋳造組織におけるFe、Al、V、Moなどの偏析を低減し、鋳塊を熱間加工することにより発生しうる表面疵を抑制可能な鋳塊を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.100~0.900%、Al:0~7.000%、Mo:0~7.000%、V:0~6.000%、Zr:0~5.000%、Sn:0~3.000%、Fe:0~2.100%、Si:0~0.500%、Cr:0~0.400%、Ni:0~0.400%、Ta:0~0.400%、Nb:0~0.400%、Mn:0~0.200%、Ru:0~0.100%、Pd:0~0.100%、Cu:0~0.200%、B:0~0.090%、Hf:0~0.090%、O:0.400%以下、N:0.300%以下、S:0.110%以下、P:0.110%以下、H:0.035%以下、残部:Ti及び不純物からなり、鋳造組織の平均粒径が90μm以下の鋳塊を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.100~0.900%、
Al:0~7.000%、
Mo:0~7.000%、
V :0~6.000%、
Zr:0~5.000%、
Sn:0~3.000%、
Fe:0~2.100%、
Si:0~0.500%、
Cr:0~0.400%、
Ni:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Nb:0~0.400%、
Mn:0~0.200%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%、
Cu:0~0.200%、
B :0~0.090%、
Hf:0~0.090%、
O :0.400%以下、
N :0.300%以下、
S :0.110%以下、
P :0.110%以下、
H :0.035%以下、
残部:Ti及び不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である、鋳塊。
【請求項2】
質量%で
C :0.100~0.450%、
Fe:0.010~0.450%、
H :0.015%以下、
O :0.400%以下、
N :0.300%以下、
S :0.030%以下、
P :0.030%以下、
Si:0.500%以下、
Mo:0~1.900%、
Al:0~0.400%、
Ta:0~0.200%、
Nb:0~0.090%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%、
Ni:0~0.200%
Mn、Cu、Cr、Sn、Zrの1種又は2種以上:合計で0~0.200%、
残部:Ti及び不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である、鋳塊。
【請求項3】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下である、請求項2に記載の鋳塊。
【請求項4】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項2に記載の鋳塊。
【請求項5】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下であり、前記チタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項2に記載の鋳塊。
【請求項6】
下記(1)式または下記(2)式の何れか一方または両方を満足する、請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の鋳塊。
[C]max/[C]ave≦1.4 … (1)
[Fe]max/[Fe]ave≦1.3 … (2)
ただし、(1)式および(2)式において、[C]max、[Fe]maxはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Feのそれぞれの最大濃度(質量%)である。また、[C]ave、[Fe]aveはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Feのそれぞれの平均化学組成(質量%)である。
【請求項7】
質量%で
C :0.310~0.900%、
Al:4.500%~6.500%、
Fe:0.500%~2.100%、
N :0.050%以下、
O :0.250%以下、
Si:0~0.500%、
Mo:0~7.000%、
Cr:0~0.400%、
Cu:0~0.090%、
Ni:0~0.400%、
Hf:0~0.090%、
B :0~0.090%、
Nb:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Sn:0~1.900%、
Zr:0~0.400%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%
S :0.080%以下、
P :0.080%以下、
H :0.025%以下、
残部:Tiおよび不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である鋳塊。
【請求項8】
質量%で
C :0.310~0.900%、
Al:2.000%~7.000%、
V :1.500~6.000%、
Fe:0.500%以下、
N :0.050%以下
O :0.250%以下
Si:0~0.500%、
Mo:0~7.00%、
Cr:0~0.400%、
Cu:0~0.090%、
Ni:0~0.400%、
Hf:0~0.090%、
B :0~0.090%、
Nb:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Sn:0~1.900%、
Zr:0~0.400%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%
S :0.110%以下、
P :0.110%以下、
H :0.030%以下、
残部:Tiおよび不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である鋳塊。
【請求項9】
質量%で
C :0.310~0.900%、
Al:5.000%~7.000%、
Mo:1.000%~7.000%、
Zr:3.000%~5.000%、
Sn:1.000%~3.000%、
Si:0%~0.500%、
Fe:0.500%以下、
N :0.050%以下
O :0.250%以下
Cr:0~0.400%、
Cu:0~0.090%、
Ni:0~0.400%、
Hf:0~0.090%、
B :0~0.090%、
Nb:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%
S :0.110%以下、
P :0.110%以下、
H :0.035%以下、
残部:Tiおよび不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である鋳塊。
【請求項10】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下である、請求項7に記載の鋳塊。
【請求項11】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下である、請求項8に記載の鋳塊。
【請求項12】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下である、請求項9に記載の鋳塊。
【請求項13】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項7に記載の鋳塊。
【請求項14】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項8に記載の鋳塊。
【請求項15】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項9に記載の鋳塊。
【請求項16】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下であり、前記チタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項7に記載の鋳塊。
【請求項17】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下であり、前記チタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項8に記載の鋳塊。
【請求項18】
前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下であり、前記チタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、請求項9に記載の鋳塊。
【請求項19】
下記(3)式~(6)式の何れか1つまたは2つ以上を満足する、請求項7、9、10、12、13、15、16、18の何れか一項に記載の鋳塊。
[C]max/[C]ave≦1.4 … (3)
[Fe]max/[Fe]ave≦1.3 … (4)
[Al]max/[Al]ave≦1.3 … (5)
[Mo]max/[Mo]ave≦1.3 … (6)
ただし、(3)式~(6)式において、[C]max、[Fe]max、[Al]max、[Mo]maxはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Moのそれぞれの最大濃度(質量%)である。また、[C]ave、[Fe]ave、[Al]ave、[Mo]aveはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Moのそれぞれの平均化学組成(質量%)である。
【請求項20】
下記(3)式~(7)式の何れか1つまたは2つ以上を満足する、請求項8、11、14、17の何れか一項に記載の鋳塊。
[C]max/[C]ave≦1.4 … (3)
[Fe]max/[Fe]ave≦1.3 … (4)
[Al]max/[Al]ave≦1.3 … (5)
[Mo]max/[Mo]ave≦1.3 … (6)
[V]max/[V]ave≦1.3 … (7)
ただし、(3)式~(7)式において、[C]max、[Fe]max、[Al]max、[Mo]max、[V]maxはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Mo、Vのそれぞれの最大濃度(質量%)である。また、[C]ave、[Fe]ave、[Al]ave、[Mo]ave、[V]aveはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Mo、Vのそれぞれの平均化学組成(質量%)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳塊に関し、特に、チタン系の鋳塊に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン材は、耐食性に優れ、また、密度が炭素鋼に比べて小さく、比強度(単位重量あたりの強度)に優れた金属材料である。本発明者らの一部は、Pdなどの希少元素に代えてCを含有させて、高い加工性を維持しつつ耐食性を向上させたチタン材を提案している(例えば、特許文献1、参照)
【0003】
ところで、チタンまたはチタン合金の鋳塊に熱間加工を施すと、表面疵が発生する場合がある。通常、溶解されたチタンまたはチタン合金を鋳造すると、Fe、Al、V、Moなどが顕著に偏析した鋳塊が得られる。このような鋳塊におけるこれらの元素の偏析は、製造性や製品特性の安定性の点で望ましくなく、表面疵の発生原因になりうる。熱間加工時に発生した疵は、後工程である冷間加工などにおける疵や亀裂発生の原因となる場合がある。
【0004】
特許文献2には、熱間加工時の表面疵の発生を回避するために、鋳造時に溶融金属に振動を与えることで、鋳塊の中心部と表層部の金属組織とを微細化する発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/198147号
【特許文献2】特開2020-121331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鋳造組織におけるFe、Al、V、Moなどの元素の偏析(マクロ偏析、ミクロ偏析の両方)を低減することで、鋳塊を熱間加工することにより発生しうる表面疵を抑制することが可能な鋳塊を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するために研究を行った結果、チタン材に適量のCを添加して、鋳塊製造時の冷却速度を特定の範囲とすることで、鋳塊の金属組織を微細化して偏析を低減することができ、熱間加工における疵が抑制されることを明らかにした。
本発明は以下の構成を採用する。
【0008】
[1] 質量%で、
C :0.100~0.900%、
Al:0~7.000%、
Mo:0~7.000%、
V :0~6.000%、
Zr:0~5.000%、
Sn:0~3.000%、
Fe:0~2.100%、
Si:0~0.500%、
Cr:0~0.400%、
Ni:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Nb:0~0.400%、
Mn:0~0.200%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%、
Cu:0~0.200%、
B :0~0.090%、
Hf:0~0.090%、
O :0.400%以下、
N :0.300%以下、
S :0.110%以下、
P :0.110%以下、
H :0.035%以下、
残部:Ti及び不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である、鋳塊。
[2] 質量%で
C :0.100~0.450%、
Fe:0.010~0.450%、
H :0.015%以下、
O :0.400%以下、
N :0.300%以下、
S :0.030%以下、
P :0.030%以下、
Si:0.500%以下、
Mo:0~1.900%、
Al:0~0.400%、
Ta:0~0.200%、
Nb:0~0.090%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%、
Ni:0~0.200%、
Mn、Cu、Cr、Sn、Zrの1種又は2種以上:合計で0~0.200%、
残部:Ti及び不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である、鋳塊。
[3] 前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下である、[2]に記載の鋳塊。
[4] 前記鋳塊中に残存するチタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、[2]または[3]に記載の鋳塊。
[5] 下記(1)式または下記(2)式の何れか一方または両方を満足する、[2]乃至[4]の何れか一項に記載の鋳塊。
[C]max/[C]ave≦1.4 … (1)
[Fe]max/[Fe]ave≦1.3 … (2)
ただし、(1)式および(2)式において、[C]max、[Fe]maxはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Feのそれぞれの最大濃度(質量%)である。また、[C]ave、[Fe]aveはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Feのそれぞれの平均化学組成(質量%)である。
[6] 質量%で
C :0.310~0.900%、
Al:4.500%~6.500%、
Fe:0.500%~2.100%、
N :0.050%以下、
O :0.250%以下、
Si:0~0.500%、
Mo:0~7.000%、
Cr:0~0.400%、
Cu:0~0.090%、
Ni:0~0.400%、
Hf:0~0.090%、
B :0~0.090%、
Nb:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Sn:0~1.900%、
Zr:0~0.400%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%
S :0.080%以下、
P :0.080%以下、
H :0.025%以下、
残部:Tiおよび不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である鋳塊。
[7] 質量%で
C :0.310~0.900%、
Al:2.000%~7.000%、
V :1.500~6.000%、
Fe:0.500%以下、
N :0.050%以下
O :0.250%以下
Si:0~0.500%、
Mo:0~7.00%、
Cr:0~0.400%、
Cu:0~0.090%、
Ni:0~0.400%、
Hf:0~0.090%、
B :0~0.090%、
Nb:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Sn:0~1.900%、
Zr:0~0.400%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%
S :0.110%以下、
P :0.110%以下、
H :0.030%以下、
残部:Tiおよび不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である鋳塊。
[8] 質量%で
C :0.310~0.900%、
Al:5.000%~7.000%、
Mo:1.000%~7.000%、
Zr:3.000%~5.000%、
Sn:1.000%~3.000%、
Si:0%~0.500%、
Fe:0.500%以下、
N :0.050%以下
O :0.250%以下
Cr:0~0.400%、
Cu:0~0.090%、
Ni:0~0.400%、
Hf:0~0.090%、
B :0~0.090%、
Nb:0~0.400%、
Ta:0~0.400%、
Ru:0~0.100%、
Pd:0~0.100%
S :0.110%以下、
P :0.110%以下、
H :0.035%以下、
残部:Tiおよび不純物、からなり、
鋳造組織の平均粒径が90μm以下である鋳塊。
[9] 前記鋳塊中に残存するチタン化合物の体積率が5vol%以下である、[6]乃至[8]の何れか一項に記載の鋳塊。
[10] 前記鋳塊中に残存するチタン化合物の平均粒子径が1μm未満である、[6]乃至[9]の何れか一項に記載の鋳塊。
[11] 下記(3)式~(6)式の何れか1つまたは2つ以上を満足する、[6]、[8]、[9]、[10]の何れか一項に記載の鋳塊。
[C]max/[C]ave≦1.4 … (3)
[Fe]max/[Fe]ave≦1.3 … (4)
[Al]max/[Al]ave≦1.3 … (5)
[Mo]max/[Mo]ave≦1.3 … (6)
ただし、(3)式~(6)式において、[C]max、[Fe]max、[Al]max、[Mo]maxはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Moのそれぞれの最大濃度(質量%)である。また、[C]ave、[Fe]ave、[Al]ave、[Mo]aveはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Moのそれぞれの平均化学組成(質量%)である。
[12] 下記(3)式~(7)式の何れか1つまたは2つ以上を満足する、[7]、[9]、[10]の何れか一項に記載の鋳塊。
[C]max/[C]ave≦1.4 … (3)
[Fe]max/[Fe]ave≦1.3 … (4)
[Al]max/[Al]ave≦1.3 … (5)
[Mo]max/[Mo]ave≦1.3 … (6)
[V]max/[V]ave≦1.3 … (7)
ただし、(3)式~(7)式において、[C]max、[Fe]max、[Al]max、[Mo]max、[V]maxはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Mo、Vのそれぞれの最大濃度(質量%)である。また、[C]ave、[Fe]ave、[Al]ave、[Mo]ave、[V]aveはそれぞれ、前記鋳塊におけるC、Fe、Al、Mo、Vのそれぞれの平均化学組成(質量%)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋳造組織におけるFe、Al、V、Moなどの元素の偏析(マクロ偏析、ミクロ偏析の両方)を低減することで、鋳塊を熱間加工することにより発生しうる表面疵を抑制することが可能な鋳塊を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、鋳塊を製造する設備の模式図である。
【
図2】
図2は、鋳塊を製造する設備のうち鋳造を行う箇所の拡大模式図である。
【
図3】
図3は、鋳塊の寸法関係を例示する模式図である。
【
図4】
図4は、鋳塊とサンプル採取位置との関係を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
チタン材は、鋼材に比べて複雑で非常に多くの工程によって製造されている。代表的な工程は、以下の製錬工程から冷間加工工程に至るものがある。
【0012】
製錬工程:原料であるチタンを含有する鉱石から四塩化チタンとして得た後、マグネシウムで還元することにより、塊状でスポンジ状の金属チタン(以下、スポンジチタン)を製造する工程。
鋳造工程:スポンジチタンと必要な副原料(TiO2や金属鉄など)を混合後にプレス成形することでチタンブリケットとし、これを電極として、真空アーク溶解炉で溶解することで鋳塊を製造する工程、または、スポンジチタンやチタンブリケットと副原料を電子ビーム溶解炉やプラズマアーク溶解炉で溶解して鋳塊を製造する工程。
鍛造または分塊圧延工程:鋳塊を熱間で鍛造又は分塊圧延してスラブ(熱間圧延素材)またはビレット(熱間押出しや熱間鍛造などの素材)などを製造する工程。
熱間加工工程:スラブまたはビレットを加熱して熱間で圧延や鍛造、押出し加工して板または丸棒などを製造する工程
冷間加工工程:板または丸棒をさらに冷間で圧延、引き抜き、伸線の加工をして薄板または丸棒、線などを製造する工程。
【0013】
図1には、鋳造工程を行う設備の一例を示す。この設備は、電子ビーム溶解炉を備えたもので、第1の電子ビーム発生装置と、給湯口4と、鋳型5と、第2の電子ビーム発生装置6と、これらを収容する真空容器8とが備えられている。第1の電子ビーム発生装置2によって、スポンジチタンまたはチタンブリッケット1に電子ビーム2Aを照射することで溶解してチタン溶湯とする。チタン溶湯3は、給湯口4から鋳型5に供給される。鋳型5内のチタン溶湯3には、鋳型5の上部に設置された第2の電子ビーム発生装置6により電子ビーム6Aが照射されて加熱される。チタン溶湯3は鋳型5によって冷却されて鋳塊7とされる。
【0014】
鋳型5は、断面視した形状が矩形状の鋳塊が鋳造可能とされるか、または、断面視した形状が円形状の鋳塊を鋳造可能とされている。
図2には、鋳型5の拡大図を示す。
図2中のH
1は、鋳型5の高さであり、
図2中のH
2は鋳塊冷却部の長さであり、Wは、鋳塊の直径または幅である。
【0015】
本発明は、上記の鋳造工程によって得られる鋳塊に関するものである。
以下、本発明のチタン系の鋳塊について説明する。なお、本発明の鋳塊には、チタン鋳塊及びチタン合金鋳塊の両方が含まれる。
【0016】
従来、鋳造開始から凝固完了の間において振動を付与する方法や急冷法により、平均粒径100μm程度の微細鋳造組織を有する鋳塊が製造されていた。しかしながら、鋳塊中に含まれる元素のマクロ偏析とミクロ偏析の両方の低減や、熱間加工疵を一層低減するための改善が求められており、従来の方法や従来方法の延長線上の概念で、鋳造開始から凝固完了の間において工夫を施す技術的思想では不十分であった。そこで、本発明では従来の方法とは全く異なる手法と技術的思想により、鋳造組織の平均粒径を90μm以下とし、鋳塊における合金元素偏析と熱間加工疵を一層低減することに成功した。
【0017】
(課題解決の着想)
本発明者らは、鋳塊に含まれる元素のマクロ偏析とミクロ偏析の両方の低減や、熱間加工によって発生する表面疵(以下、熱間加工疵という)の低減には、素材中へのC(炭素)の添加と、鋳造組織の微細化が有効であることを見出した。鋳造組織の微細化には、鋳造時の冷却速度制御が有効である。なお、鋳造組織とは、溶湯を凝固させた凝固組織を冷却して変態組織とした組織を意味する。
【0018】
一般に、鋳造組織の形成は、凝固組織の形成と、変態組織の形成と、により構成される。凝固組織とは、溶湯を冷却して固液共存状態を経た後に全て固相とした際の組織であり、低くとも1400℃以上の温度域で形成される。また、変態組織とは、上記凝固組織を冷却する過程での相変態や粒成長が成された組織であり、凝固点から400℃の範囲で形成される。
【0019】
本発明では、凝固組織の形成と変態組織の形成の両方に工夫を施している。
【0020】
(凝固組織の形成における工夫)
まず、本発明における凝固組織の形成について説明する。一般に溶湯を冷却すると、デンドライト状の固体が晶出する。デンドライトの形成と発達は、ミクロ偏析とマクロ偏析の両方に大きな影響を及ぼす。具体的には、デンドライト二次アームの有無とその間隔が重要であり、間隔の狭い二次アームを発達させた方がマクロ偏析とミクロ偏析のどちらも低減される。
【0021】
マクロ偏析は、二次デンドライト間の液相中に合金元素が濃化し、この濃化領域が対流などにより長範囲に移動することで生じるので、二次デンドライト間隔を狭小化して濃化領域に分布する原子の移動障壁となすことで低減される。
【0022】
凝固組織の形成におけるミクロ偏析の低減は、デンドライト二次アーム間隔が狭小化され、デンドライト二次アーム間に形成される濃化領域での合金元素の拡散距離が短くなることでなされる。なお、ミクロ偏析については、凝固組織の形成のみならず、後述する変態組織の形成における第一冷却工程、第二冷却工程を施すことで一層改善される。
【0023】
従来知見では、デンドライト二次アームの間隔を狭小化するためには、鋳造開始から凝固点までの冷却速度を速くすることが有効であるとされている。しかしながら、チタンやチタン合金は、融点が1600℃以上であり、酸素と溶湯との接触を避けた雰囲気中で鋳造開始から凝固点までの冷却を行う必要があるため、鋳造開始から凝固点までの冷却速度を速くすることのみでデンドライト二次アーム間隔を狭小化することには限界がある。そのため、鋳造組織の形成に関する改善を施すにあたり、鋳造開始から溶湯の凝固点までの冷却速度以外の工夫を施す必要があった。
【0024】
そこで、本発明者らが鋭意研究を進めた結果、C(炭素)の添加が、チタンおよびチタン合金の二次デンドライトアーム発達促進と、二次デンドライトアーム間隔の狭小化に有効であることを見出した。
【0025】
(α型チタン)
一般に、Cを積極的に添加しない工業用純チタンでは、凝固において、まずデンドライトを形成する。しかしながら、工業用純チタンでは、AlやVなどの添加元素量が少ないので、デンドライト二次アームの発達が十分ではない。そこで本発明では、デンドライト二次アームの形成の促進に有効なC量として、0.100%以上を含有させる。より好ましくは0.130%以上とする。C量が多すぎると、添加したCが炭化物として鋳造組織中に残存してしまい、製造工程における疵の原因となってしまう。そのため、C量の上限は0.450%以下であり、より好ましくは0.400%以下とする。
【0026】
(α+β型チタン合金)
一般に、Cを積極的に添加しないα+β型合金には、AlやVなどの合金元素が比較的多く含まれるため、デンドライト二次アームは形成するが、二次アーム間隔はマクロ偏析を低減できるほど狭くはならない。そこで本発明では、十分に間隔の狭いデンドライト二次アームの形成に有効なCを、必要量である0.310%以上含有させる。より好ましくは0.400%以上とする。C量が多すぎると、添加したCが炭化物として鋳造組織中に残存してしまい、製造工程における疵の原因となってしまう。そのため、C量の上限は0.900%以下であり、より好ましくは0.850%以下とする。
【0027】
以上の工夫により、マクロ偏析とミクロ偏析が低減された凝固組織が得られる。
【0028】
加えて、α+β型チタン合金の凝固組織の形成においては、さらに好ましくは0.500%以上のCを含有させることで、更に組織を微細化することが可能である。α+β型チタン合金に0.500%以上のCを含有させると炭化物が晶出する。晶出した炭化物はデンドライト形成の核として働く。溶湯中に多数存在する炭化物が核となることで、デンドライト形成が多くの場所で発生し、凝固組織が微細化される。Cの含有量が適切であれば、溶湯中に晶出した炭化物は、凝固が完了した段階において、全てデンドライト形成の核となり残存しない。一方、Cの含有量が多すぎると炭化物が残存してしまうため、C以外の合金組成に応じてさらに好ましい上限を設定する必要がある。具体的なC添加量のさらに好ましい上限は、α+β型チタン合金の場合、0.800%以下である。
【0029】
(変態組織の形成における工夫)
(α+β型チタン合金)
本発明において、間隔の狭いデンドライト二次アームが発達・形成した凝固組織を有する鋳塊を冷却する過程で、相変態や粒成長が発生する。本発明における変態組織の形成は2つに大別される。第一の変態組織の形成は、凝固点から900℃までの温度域における炭化物析出である。第二の変態組織の形成は、900℃から400℃までの温度域における炭化物消失、C拡散、新たな結晶粒の核生成である。第一の変態組織の形成の温度域における冷却工程を第一冷却工程、第二の変態組織の形成の温度域における冷却工程を第二冷却工程と呼ぶ。第一冷却工程において炭化物を析出させ、第二冷却工程において炭化物の消失、C拡散、新たな結晶粒の核生成が成されることで、凝固組織に比べて一層の組織微細化とミクロ偏析の低減が達成される。
【0030】
(本発明のポイント)
本発明における鋳造組織の微細化のポイントは、(I)化学組成と、(II)鋳造時の冷却条件、の両方を満足することである。以下、(I)及び(II)について説明する。
【0031】
(I)化学組成
本発明では、Cを配合することがポイントである。
本発明の鋳塊は、質量%で、C:0.100~0.900%、Al:0~7.000%、Mo:0~7.000%、V:0~6.000%、Zr:0~5.000%、Sn:0~3.000%、Fe:0~2.100%、Si:0~0.500%、Cr:0~0.400%、Ni:0~0.400%、Ta:0~0.400%、Nb:0~0.400%、Mn:0~0.200%、Ru:0~0.100%、Pd:0~0.100%、Cu:0~0.200%、B:0~0.090%、Hf:0~0.090%、O:0.400%以下、N:0.300%以下、S:0.110%以下、P:0.110%以下、H:0.035%以下であり、残部がTi及び不純物からなる。
【0032】
C量は、上述の通り、少なくとも0.100%以上含有させることで、デンドライト二次アームの形成を促進する。また、C量は、上述の通り、最大で0.900%以下含有させることで、添加したCが炭化物として鋳造組織中に残存するおそれがなく、製造工程における疵の発生が抑制される。
【0033】
C以外の元素、すなわち、Al、Mo、V、Zr、Sn、Fe、Si、Cr、Ni、Ta、Nb、Mn、Ru、Pd、Cu、B、Hf、O、N、S、P、Hは、上記の範囲で含有することが許容される。これにより、強度向上、脆化抑制、粒界割れの防止、β安定化、α安定化、耐食性向上といった効果が奏される。
【0034】
各元素の適切な配合範囲は、合金種によって異なり、それぞれ以下の通りである。
【0035】
(化学組成1(主たる金属組織がαチタンであり工業用純チタンに近い化学組成を想定した場合)
化学組成1は、C:0.100~0.450%、Fe:0.010~0.450%、H:0.015%以下、O:0.400%以下、N:0.300%以下、S:0.030%以下、P:0.030%以下、Si:0.500%以下、Mo:0~1.900%、Al:0~0.400%、Ta:0~0.200%、Nb:0~0.090%、Ru:0~0.100%、Pd:0~0.100%、Ni:0~0.200%、Mn、Cu、Cr、Sn、Zrの1種又は2種以上:合計で0~0.200%、残部:Ti及び不純物からなる組成である。
【0036】
<C:0.100~0.450%>
Cは、0.100~0.450%とする。好ましくはCを0.130~0.400%とする。C以外の化学組成は、以下の範囲内であれば発明の効果が達成される。
【0037】
<Fe:0.010~0.450%>
Feは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、顕著な偏析なく固溶させた場合には材料の強度向上に寄与する。しかしながら、Feの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためFeの含有量の上限は0.450%以下であり、好ましくは0.400%以下である。Feの含有量を少なくすることは可能であるが、高価な原料を使用する必要があり経済性に劣るため、Feの含有量の下限は0.010%以上であり、好ましくは0.020%以上である。
【0038】
<H :0.015%以下>
Hは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Tiと化合物を形成することで材料が脆化する原因となる。そのため、少ない方がよく、Hの含有量は0.015%以下であり、好ましくは0.010%以下である。Hの含有量は少ないほどよいが、下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0039】
<O:0.400%以下>
Oは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。O原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Oの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためOの含有量は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Oの含有量の下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0040】
<N:0.300%以下>
Nは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。N原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Nの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためNの含有量は0.300%以下であり、好ましくは0.280%以下である。Nの含有量の下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0041】
<S:0.030%以下>
Sは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Sの固溶量が多い場合S原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためSの含有量は0.030%以下であり、好ましくは0.025%以下である。Sの含有量は少ないほどよいが、下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0042】
<P:0.030%以下>
Pは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Pの固溶量が多い場合P原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためPの含有量は0.030%以下であり、好ましくは0.022%以下である。Pの含有量は少ないほどよいが、下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0043】
<Si:0.500%以下>
Siは、強度向上などに有用な元素であるものの、Ti中への固溶限が小さく容易にTiとの化合物を形成し得る。この化合物は疵や割れの原因となり得るのでSiの含有量は少ない方がよい。そのためSiの含有量は0.500%以下であり、好ましくは0.420%以下である。Siの含有量の下限は、例えば0.001%以上でもよい。
【0044】
<Mo:0~1.900%>
Moは、β安定化元素であり、Mo以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Mo含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためMoの含有量の上限は1.900%以下であり、好ましくは1.400%以下である。Moの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0045】
<Al:0~0.400%>
Alは、α安定化元素であり、Al以外のα安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Al含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもCの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためAlの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.280%以下である。Alの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0046】
<Ta:0~0.200%>
Taは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Taの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためTaの含有量の上限は0.200%以下であり、好ましくは0.150%以下である。Taの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0047】
<Nb:0~0.090%>
Nbは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Nbの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためNbの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.060%以下である。Nbの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0048】
<Ru:0~0.100%>
Ruは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Ru以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Ru含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためRuの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.080%以下である。Ruの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0049】
<Pd:0~0.100%>
Pdは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Pd以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Pd含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。また、Pd含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためPdの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.090%以下である。Pdの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0050】
<Ni:0~0.200%>
Niは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Ni含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためNiの含有量の上限は0.200%以下であり、好ましくは0.180%以下である。Niの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0051】
<Mn、Cu、Cr、Sn、Zrの1種又は2種以上:合計で0~0.200%>
Mn、Cu、Cr、Sn、Zrの1種又は2種以上を含有することで耐食性が向上する利点があるが、その効果はMn、Cu、Cr、Sn、Zrの合計含有量が多すぎると発揮されない。そのためMn、Cu、Cr、Sn、Zrの1種又は2種以上の合計含有量の上限は0.200%以下であり、好ましくは0.180%以下である。これら元素の合計含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0052】
次に、α+β型チタン合金などの化学組成を想定した場合、以下に説明する「化学組成2」、「化学組成3」、「化学組成4」の3通りの化学組成の範囲とするとよい。
【0053】
(化学組成2)
化学組成2は、C:0.310~0.900%、Al:4.500%~6.500%、Fe:0.500%~2.100%、N:0.050%以下、O:0.250%以下、Si:0~0.500%、Mo:0~7.000%、Cr:0~0.400%、Cu:0~0.090%、Ni:0~0.400%、Hf:0~0.090%、B:0~0.090%、Nb:0~0.400%、Ta:0~0.400%、Sn:0~1.900%、Zr:0~0.400%、Ru:0~0.100%、Pd:0~0.100%、S:0.080%以下、P:0.080%以下、H:0.025%以下、残部:Tiおよび不純物からなる。
【0054】
<C:0.310~0.900%>
化学組成2の場合、Cを0.310~0.900%とする。好ましくはCを0.400~0.850%、更に好ましくはCを0.500~0.800%とする。C以外の化学組成は以下の範囲内であれば発明の効果が達成される。
【0055】
<Al:4.500%~6.500%>
Alは、α安定化元素であり、Alそのものの偏析のみならずAl以外のα安定化元素の偏析にも影響を及ぼす。Al含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもCの偏析またはAlの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためAlの含有量の上限は6.500%以下であり、好ましくは6.200%以下である。Al含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためAlの含有量の下限は4.500%以上であり、好ましくは4.750%以上である。
【0056】
<Fe:0.500~2.100%>
Feは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、顕著な偏析なく固溶させた場合には材料の強度向上に寄与する。しかしながら、Feの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためFeの含有量の上限は2.100%以下であり、好ましくは1.900%以下である。Feの含有量を少なくすることは可能であるが、下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではないため、Feの含有量の下限は0.500%以上であり、好ましくは0.700%以上である。
【0057】
<N:0.050%以下>
Nは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。N原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Nの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためNの含有量は0.050%以下であり、好ましくは0.030%以下である。Nの含有量の下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0058】
<O:0.250%以下>
Oは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。O原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Oの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためOの含有量は0.250%以下であり、好ましくは0.220%以下である。Oの含有量の下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0059】
<Si:0~0.500%>
Siは、強度向上などに有用な元素であるもののTi中への固溶限が小さくTiとの化合物を形成し得る。この化合物は疵や割れの原因となり得るのでSiの含有量は少ない方がよい。そのためSiの含有量は0.500%以下であり、好ましくは0.420%以下である。Siの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0060】
<Mo:0~7.000%>
Moは、β安定化元素でありMo以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Mo含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析またはMoの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためMoの含有量の上限は7.000%以下であり、好ましくは6.600%以下である。Moの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0061】
<Cr:0~0.400%>
Crは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Cr以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Cr含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析またはMoの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためCrの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Crの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0062】
<Cu:0~0.090%>
Cuは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はCuの含有量が多すぎると発揮されない。また、Cu含有量が多すぎるとTiと化合物を形成して疵や割れの原因となり得る。そのためCu含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.060%以下である。Cuの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0063】
<Ni:0~0.400%>
Niは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Ni含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためNiの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Niの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0064】
<Hf:0~0.090%>
Hfは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Hfの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためHfの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.075%以下である。Hfの含有量は少ないほどよいが、下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0065】
<B:0~0.090%>
Bは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Bの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。また、B含有量が多すぎるとTiと化合物を形成して疵や割れの原因となり得る。そのためBの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.070%以下である。Bの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0066】
<Nb:0~0.400%>
Nbは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Nbの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためNbの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.360%以下である。Nbの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0067】
<Ta:0~0.400%>
Taは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Taの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためTaの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.250%以下である。Taの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0068】
<Sn:0~1.900%>
Snは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はSnの含有量が多すぎると発揮されない。そのためSn含有量の上限は1.900%以下であり、好ましくは0.200%以下である。Snの含有量の下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0069】
<Zr:0~0.400%>
Zrは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はZrの含有量が多すぎると発揮されない。そのためZr含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.200%以下である。Zrの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0070】
<Ru:0~0.100%>
Ruは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Ru以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Ru含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析またはMoの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためRuの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.080%以下である。Ruの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0071】
<Pd:0~0.100%>
Pdは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Pd以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Pd含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析またはMoの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。また、Pd含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためPdの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.090%以下である。Pdの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0072】
<S:0.080%以下>
Sは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Sの固溶量が多い場合S原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためSの含有量は0.080%以下であり、好ましくは0.070%以下である。Sの含有量は少ないほどよいが、下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0073】
<P:0.080%以下>
Pは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Pの固溶量が多い場合P原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためPの含有量は0.080%以下であり、好ましくは0.065%以下である。Pの含有量は少ないほどよいが、下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0074】
<H :0.025%以下>
Hは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Tiと化合物を形成することで材料が脆化する原因となる。そのため、少ない方がよく、Hの含有量は0.025%以下であり、好ましくは0.020%以下である。Hの含有量は少ないほどよいが、下限は例えば0.001%以上でもよい。
【0075】
(化学組成3)
化学組成3は、C:0.310~0.900%、Al:2.000%~7.000%、V:1.500~6.000%、Fe:0.500%以下、N:0.050%以下、O:0.250%以下、Si:0~0.500%、Mo:0~7.00%、Cr:0~0.400%、Cu:0~0.090%、Ni:0~0.400%、Hf:0~0.090%、B:0~0.090%、Nb:0~0.400%、Ta:0~0.400%、Sn:0~1.900%、Zr:0~0.400%、Ru:0~0.100%、Pd:0~0.100%、S:0.110%以下、P:0.110%以下、H:0.030%以下、残部:Tiおよび不純物とする。
【0076】
<C:0.310~0.900%>
化学組成3では、Cを0.310~0.900%とする。好ましくはCを0.400~0.850%、更に好ましくはCを0.500~0.800%とする。C以外の化学組成は以下の範囲内であれば発明の効果が達成される。
【0077】
<Al:2.000%~7.000%>
Alは、α安定化元素でありAlそのものの偏析のみならずAl以外のα安定化元素の偏析にも影響を及ぼす。Al含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもCの偏析またはAlの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためAlの含有量の上限は7.000%以下であり、好ましくは6.800%以下である。Al含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためAlの含有量の下限は2.000%以上であり、好ましくは2.250以上%である。
【0078】
<V:1.500~6.000%>
Vは、β安定化元素でありV以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。V含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析、またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためVの含有量の上限は6.000%以下であり、好ましくは5.650%以下である。V含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためVの含有量の下限は1.500%以上であり、好ましくは6.000%以上である。
【0079】
<Fe:0.500%以下>
Feは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、顕著な偏析なく固溶させた場合には材料の強度向上に寄与する。しかしながら、Feの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためFeの含有量は0.500%以下であり、好ましくは0.300%以下である。Feの含有量は0.001%以上でもよい。
【0080】
<N:0.050%以下>
Nは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。N原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Nの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためNの含有量は0.050%以下であり、好ましくは0.030%以下である。Nの含有量は0.001%以上でもよい。
【0081】
<O:0.250%以下>
Oは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。O原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Oの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためOの含有量は0.250%以下であり、好ましくは0.220%以下である。Oの含有量は0.001%以上でもよい。
【0082】
<Si:0~0.500%>
Siは、強度向上などに有用な元素であるもののTi中への固溶限が小さくTiとの化合物を形成し得る。この化合物は疵や割れの原因となり得るのでSiの含有量は少ない方がよい。そのためSiの含有量は0.500%以下であり、好ましくは0.420%以下である。Siの含有量は0.001%以上でもよい。
【0083】
<Mo:0~7.000%>
Moは、β安定化元素でありMo以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Mo含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためMoの含有量の上限は7.000%以下であり、好ましくは6.600%以下である。Moの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0084】
<Cr:0~0.400%>
Crは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Cr以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Cr含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためCrの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Crの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0085】
<Cu:0~0.090%>
Cuは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はCuの含有量が多すぎると発揮されない。また、Cu含有量が多すぎるとTiと化合物を形成して疵や割れの原因となり得る。そのためCu含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.060%以下である。Cuの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0086】
<Ni:0~0.400%>
Niは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Ni含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためNiの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Niの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0087】
<Hf:0~0.090%>
Hfは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Hfの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためHfの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.075%以下である。Hfの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0088】
<B:0~0.090%>
Bは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Bの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。また、B含有量が多すぎるとTiと化合物を形成して疵や割れの原因となり得る。そのためBの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.070%以下である。Bの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0089】
<Nb:0~0.400%>
Nbは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Nbの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためNbの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.360%以下である。Nbの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0090】
<Ta:0~0.400%>
Taは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Taの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためTaの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.250%以下である。Taの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0091】
<Sn:0~1.900%>
Snは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はSnの含有量が多すぎると発揮されない。そのためSn含有量の上限は1.900%以下であり、好ましくは0.200%以下である。Snの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0092】
<Zr:0~0.400%>
Zrは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はZrの含有量が多すぎると発揮されない。そのためZr含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.200%以下である。Zrの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0093】
<Ru:0~0.100%>
Ruは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Ru以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Ru含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためRuの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.080%以下である。Ruの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0094】
<Pd:0~0.100%>
Pdは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Pd以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Pd含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。また、Pd含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためPdの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.090%以下である。Pdの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0095】
<S:0.110%以下>
Sは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Sの固溶量が多い場合S原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためSの含有量は0.110%以下であり、好ましくは0.090%以下である。Sの含有量は0.001%以上でもよい。
【0096】
<P:0.110%以下>
Pは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Pの固溶量が多い場合P原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためPの含有量は0.110%以下であり、好ましくは0.085%以下である。Pの含有量は0.001%以上でもよい。
【0097】
<H :0.030%以下>
Hは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Tiと化合物を形成することで材料が脆化する原因となる。そのため、少ない方がよく、Hの含有量は0.030%以下であり、好ましくは0.024%以下である。Hの含有量は0.001%以上でもよい。
【0098】
(化学組成4)
化学組成4は、C:0.310~0.900%、Al:5.000%~7.000%、Mo:1.000%~7.000%、Zr:3.000%~5.000%、Sn:1.000%~3.000%、Si:0%~0.500%、Fe:0.500%以下、N:0.050%以下、O:0.250%以下、Cr:0~0.400%、Cu:0~0.090%、Ni:0~0.400%、Hf:0~0.090%、B:0~0.090%、Nb:0~0.400%、Ta:0~0.400%、Ru:0~0.100%、Pd:0~0.100%、S:0.110%以下、P:0.110%以下、H:0.035%以下、残部:Tiおよび不純物である。
【0099】
<C:0.310~0.900%>
化学組成4では、Cを0.310~0.900%とする。好ましくはCを0.400~0.850%、更に好ましくはCを0.500~0.800%とする。C以外の化学組成は以下の範囲内であれば発明の効果が達成される。
【0100】
<Al:5.000%~7.000%>
Alは、α安定化元素でありAlそのものの偏析のみならずAl以外のα安定化元素の偏析にも影響を及ぼす。Al含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもCの偏析またはAlの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためAlの含有量の上限は7.000%以下であり、好ましくは6.400%以下である。Al含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためAlの含有量の下限は5.000%以上であり、好ましくは5.200%以上である。
【0101】
<Mo:1.000~7.000%>
Moは、β安定化元素でありMoそのものの偏析のみならずMo以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Mo含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析またはMoの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためMoの含有量の上限は7.000%以下であり、好ましくは6.400%以下である。Mo含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためMoの含有量の下限は1.000%以上であり、好ましくは0.780%以上である。
【0102】
<Zr:3.000%~5.000%>
Zrは、鋳塊の結晶粒径を小さくする効果があり、Zr含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためZrの含有量の下限は3.000%以上であり、好ましくは3.480%以上である。Zr含有量が多すぎても下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化効果が得られない。そのためZrの含有量の上限は5.000%以下であり、好ましくは4.500%以下である。
【0103】
<Sn:1.000%~3.000%>
Snは、鋳塊の結晶粒径を小さくする効果があり、Sn含有量が少なすぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化が十分ではない。そのためSnの含有量の下限は1.000%以上であり、好ましくは1.200%以上である。Sn含有量が多すぎても下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造しても結晶粒の微細化効果が得られない。そのためSnの含有量の上限は3.000%以下であり、好ましくは2.650%以下である。
【0104】
<Si:0~0.500%>
Siは、強度向上などに有用な元素であるもののTi中への固溶限が小さくTiとの化合物を形成し得る。この化合物は疵や割れの原因となり得るのでSiの含有量は少ない方がよい。そのためSiの含有量は0.500%以下であり、好ましくは0.420%以下である。Siの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0105】
<Fe:0.500%以下>
Feは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、顕著な偏析なく固溶させた場合には材料の強度向上に寄与する。しかしながら、Feの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためFeの含有量は0.500%以下であり、好ましくは0.400%以下である。Fe含有量の下限は0.001%以上でもよい。
【0106】
<N:0.050%以下>
Nは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。N原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Nの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためNの含有量は0.050%以下であり、好ましくは0.030%以下である。Nの含有量の下限は0.001%以上でもよい。
【0107】
<O:0.250%以下>
Oは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Cと同様に侵入型固溶元素としてTi中に固溶する。O原子の固溶は強度向上などに良い影響があるものの、Oの固溶量が多くなるとC原子が固溶できる量が低下してしまう。そのためOの含有量は0.250%以下であり、好ましくは0.220%以下である。Oの含有量の下限は0.001%以上でもよい。
【0108】
<Cr:0~0.400%>
Crは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Cr以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Cr含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためCrの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Crの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0109】
<Cu:0~0.090%>
Cuは、耐食性を向上させる利点があるが、その効果はCuの含有量が多すぎると発揮されない。また、Cu含有量が多すぎるとTiと化合物を形成して疵や割れの原因となり得る。そのためCu含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.060%以下である。Cuの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0110】
<Ni:0~0.400%>
Niは、耐食性向上に有効な元素であるものの、Ni含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためNiの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.350%以下である。Niの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0111】
<Hf:0~0.090%>
Hfは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Hfの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためHfの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.075%以下である。Hfの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0112】
<B:0~0.090%>
Bは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Bの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。また、B含有量が多すぎるとTiと化合物を形成して疵や割れの原因となり得る。そのためBの含有量の上限は0.090%以下であり、好ましくは0.070%以下である。Bの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0113】
<Nb:0~0.400%>
Nbは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Nbの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためNbの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.360%以下である。Nbの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0114】
<Ta:0~0.400%>
Taは、耐酸化性向上に有効な元素であるものの、Taの含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造して適切な粒径とした場合でも、製造工程において形成するスケール直下で結晶粒が大きくなりやすく、製造工程における疵が顕著になってしまう。そのためTaの含有量の上限は0.400%以下であり、好ましくは0.250%以下である。Taの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0115】
<Ru:0~0.100%>
Ruは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Ru以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Ru含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。そのためRuの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.080%以下である。Ruの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0116】
<Pd:0~0.100%>
Pdは、耐食性向上に有効な元素であるものの、β相中に濃化する傾向があり、Pd以外のβ安定化元素の偏析に影響を及ぼす。Pd含有量が多すぎると下記に示した冷却方法でインゴットを鋳造してもFeの偏析、Moの偏析またはVの偏析が抑制しきれず、製造工程における疵が顕著となってしまう。また、Pd含有量が多すぎるとTiとの化合物を形成して製造工程での疵や割れが顕著となる。そのためPdの含有量の上限は0.100%以下であり、好ましくは0.090%以下である。Pdの含有量の下限は0%以上であり、0.001%以上でもよい。
【0117】
<S:0.110%以下>
Sは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Sの固溶量が多い場合S原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためSの含有量は0.110%以下であり、好ましくは0.090%以下である。Sの含有量の下限は0.001%以上でもよい。
【0118】
<P:0.110%以下>
Pは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Pの固溶量が多い場合P原子が粒界偏析しやすく粒界割れが起こりやすくなる。そのためPの含有量は0.110%以下であり、好ましくは0.085%以下である。Pの含有量の下限は0.001%以上でもよい。
【0119】
<H :0.035%以下>
Hは、スポンジチタンやスクラップ中に含まれる元素であり、Tiと化合物を形成することで材料が脆化する原因となる。そのため、少ない方がよく、Hの含有量は0.035%以下であり、好ましくは0.028%以下である。Hの含有量の下限は0.001%以上でもよい。
【0120】
(II)冷却方法
本発明の鋳塊は、鋳造工程を経ることにより製造される。鋳造工程では、例えば、あらかじめ精錬工程等によって製造したスポンジチタンと、必要な副原料(TiO2等や金属鉄)を混合した後にプレス成形してチタンブリケットとし、このチタンブリケットを電極として、真空アーク溶解炉で溶解し、溶融金属を鋳造して鋳塊を製造する。または、スポンジチタンやチタンブリケットを電子ビーム溶解炉やプラズマアーク溶解炉で溶解し、溶融金属を鋳造して鋳塊を製造する。
【0121】
本発明では、溶融金属を形成する際に、C(炭素)の含有量を調整するとともに、鋳造において、冷却速度を制御する。
【0122】
本発明における鋳造工程での冷却方法には、第一冷却工程と第二冷却工程とが含まれる。第一冷却工程では、鋳塊の凝固点から900℃までの平均冷却速度を1.00℃/s以上とする。平均冷却速度の望ましい上限は10.00℃/s以下、更に望ましい上限は2.50℃/s以下である。第二冷却工程では、900℃から400℃までの平均冷却速度を0.001℃/s以上0.500℃/s以下とする。これにより、鋳造組織の平均粒径を90μm以下にすることができる。第一冷却工程および第二冷却工程のいずれか一方だけでは、鋳造組織の平均粒径を90μm以下にすることは困難である。
【0123】
上記の平均冷却速度を実現するために、一例として下記(A)~(C)の工夫を施す。
【0124】
(A)凝固点から900℃までの平均冷却速度を上記範囲とするため、鋳型冷却に用いる冷媒の冷却能を高める。すなわち、鋳型冷却用の循環冷媒として、比熱4.00kJ/(kg・K)以上の冷媒を用いる。冷媒の一例として、水を挙げることができる。また、鋳型の構成材の熱伝導率は20.0W/(m・K)以上、冷媒の温度は50℃以下、冷媒の循環量は2トン/h以上とする。
【0125】
(B)凝固点から900℃までの平均冷却速度を上記範囲とするため、鋳塊断面積と鋳型内部の表面積との比(鋳塊断面積/鋳型内部の表面積)を0.8以下とする。鋳塊断面積は、
図2及び
図3に示すように、鋳型から鋳塊が抽出される方向を鋳造方向とする場合において、鋳造方向に対して直交する断面の面積とする。また、鋳型内部の表面積は、鋳型の内面の表面積である。
【0126】
例えば、
図3(a)に示すように、鋳塊が円筒形状であって、鋳塊の直径をW
1、鋳塊の高さをH
xとする場合、鋳塊断面積および鋳型内部の表面積はそれぞれ、以下の式で算出する。
【0127】
鋳塊断面積=(W1/2)・(W1/2)・π
【0128】
鋳型内部の表面積=W1・Hx・π
【0129】
鋳塊断面積/鋳型内部の表面積=W1/(4・Hx)
【0130】
また、
図3(b)に示すように、鋳塊が直方体形状であって、鋳塊の幅をW
2、鋳塊の厚みをD、鋳塊の高さをH
xとする場合、鋳塊断面積および鋳型内部の表面積はそれぞれ、以下の式で算出する。
【0131】
鋳塊断面積= W2・D
【0132】
鋳型内部の表面積= 2(W2+D)・Hx
【0133】
鋳塊断面積/鋳型上部の表面積=W2・D/{2Hx・(W2+D)}
【0134】
Hx:鋳型の高さ(m)
W1:鋳塊の直径(m)
W2:鋳塊の幅(m)
D:鋳塊形状が矩形の場合における鋳塊の厚み(m)
π:円周率
【0135】
なお、W1、W2、Hx、Dは特に限定されるものではなく、鋳塊断面積/鋳型内部の表面積が0.8以下であればよい。
【0136】
(C)900℃から400℃までの鋳造冷却速度範囲を上記範囲とするため、
図2の模式図に示す鋳塊冷却部(符号H
2に相当する部分)の放射率を0.4以下とする。
【0137】
図2に示すように、鋳塊7は、鋳型5から抽出された後に900℃から400℃の温度範囲に至るので、この温度範囲内にある鋳塊7は、鋳型5をはじめとする他の固体とは接触しない。ただし、鋳造後の高温状態にある鋳塊7は、チタンの酸化防止のため真空中に保持する必要がある。そのため、鋳造後の鋳塊7は、
図1に示すように真空容器8内にあり、更に真空容器8内に、遮熱のためのカバー部材等が鋳塊の近傍に設置される場合がある。カバー部材は、数百度の高温に耐えられ、しかも真空中で使用できればどのような材質のものでも構わないが、このカバー部材の選定次第で、鋳塊7における放射率が変化する。放射率を0.4以下とするには、一例として、金属光沢を有するステンレス鋼を鋳塊7のカバー部材として用いることが挙げられる。また、放射率を0.4以下とするために、鋳塊7とカバー部材との間隔も調整することが好ましい。
【0138】
放射率は大気中で400℃で測定した値とする。接触式温度計と放射温度計を用いて400℃に加熱した対象物の温度を測定し、その差が10℃以内となるように放射温度計の放射率を設定する。設定した放射率を本発明における放射率とする。
【0139】
上述した(A)~(C)の各条件のうち、上記(A)と上記(C)との組合せ、上記(B)と上記(C)との組合せ、上記(A)、上記(B)及び上記(C)の全部の組合せ、の何れかを採用することにより、本実施形態の鋳塊を得るために必要な冷却条件を実現できる。
【0140】
そして、上記(I)にて説明した化学組成と、上記(II)にて説明した冷却条件とを満たすことで、マクロ偏析とミクロ偏析両方の低減がなされ、また、凝固組織の微細化がなされるようになる。
【0141】
なお、本実施形態では、上記の(I)および(II)を満足すればよく、溶解工程における溶解方法を限定するものではなく、チタンやチタン合金を溶解するVAR、EBR、PAMなどのいずれの溶解方法を採用してもよく、ハース形状や構造を限定するものではない。
【0142】
(課題解決のためのメカニズム)
以下に、本実施形態の鋳塊の製造方法におけるマクロ偏析低減メカニズム、ミクロ偏析低減メカニズム、鋳造組織の微細化メカニズムについて説明する。
【0143】
(マクロ偏析低減メカニズム)
マクロ偏析の低減は、凝固組織の形成において成される。マクロ偏析の低減にはデンドライト二次アームの形成とデンドライト二次アーム間隔の狭小化が重要となる。マクロ偏析の原因は、二次デンドライト間の液相中に合金元素が濃化し、この濃化領域が対流などにより長範囲に移動することであるので、二次デンドライト間隔を狭くして移動障壁となすことでマクロ偏析の低減が達成される。
【0144】
デンドライト二次アームの形成とデンドライト二次アーム間隔の狭小化にはCの添加が有効である。Cは、チタンやチタン合金に含まれる他の元素に比べて平衡分配係数が1.0よりも大きく乖離しているため、固液共存状態において固相から液相への拡散が著しい。Cの固相から液相への拡散に伴い、二次アームの発達が顕著となり、デンドライト二次アーム間隔も狭小化される。デンドライト二次アーム間隔が狭小化した結果として、マクロ偏析が低減される。
【0145】
(ミクロ偏析低減メカニズム)
ミクロ偏析の低減は、凝固組織の形成と変態組織の形成の両方が関係する。ミクロ偏析は、デンドライト二次アームが形成される際に生じ、デンドライト二次アーム間、デンドライト二次アーム先端近傍、デンドライト一次アーム先端近傍などに合金元素の濃化領域が残存し、これらの合金元素の濃化領域が鋳塊のミクロ偏析となる。凝固組織の形成におけるデンドライト二次アームの狭小化は、合金元素の濃化領域の移動障壁として機能してマクロ偏析低減には有効であるものの、合金元素の濃化領域はミクロ偏析として残存してしまい、ミクロ偏析の低減には十分ではない。ミクロ偏析を十分に低減するためには、凝固組織の形成後の変態組織の形成において、第一冷却工程条件と第二冷却工程条件の両方を満足することで組織を微細化して偏析を最低限とし、さらにこれらの冷却工程において偏析元素を十分に拡散させることで、ミクロ偏析が低減される。
【0146】
(鋳造組織の微細化メカニズム)
鋳造組織の微細化は、上記化学組成1のCの含有量の全範囲の場合、および上記化学組成2~4のC含有量が0.31~0.50%の場合に、変態組織の形成において成される。
また、鋳造組織の微細化は、上記化学組成2、3のC含有量が0.50~0.90%の場合、および上記化学組成3のC量が0.50~0.80%の場合に、凝固組織の形成と変態組織の形成において成される。
【0147】
上記の化学組成1~4の全てに共通する変態組織の形成における鋳造組織の微細化は、冷却過程での炭化物形成と炭化物消失(C固溶)を制御することにある。
【0148】
まず、本発明の鋳造組織の微細化におけるC配合の役割と、C配合量の規定理由とを説明する。次に、凝固点から900℃における平均冷却速度の規定理由と、900℃から400℃における平均冷却速度の規定理由を説明する。
【0149】
本発明におけるCの役割は、変態組織の形成での第一冷却工程において炭化物を形成し、第二冷却工程においてその炭化物が消失する過程で微細な結晶粒の核生成サイトとして機能することにある。
【0150】
変態組織の形成は、凝固組織を冷却することで成されるが、本発明の凝固組織には炭化物はない。凝固組織を冷却する第一冷却工程で、C固溶限の低下に伴い炭化物が析出する。しかし、第一冷却工程で炭化物を析出させただけでは鋳造組織の微細化は成されない。鋳造組織の微細化は、第一冷却工程で炭化物を析出させた組織を第二冷却工程でさらに冷却し、炭化物を消失させ、新たな結晶粒を形成させることで成される。第一冷却工程で析出させた炭化物は、第二冷却工程では炭化物中のC原子が母相へ拡散することで消失する。この炭化物消失の際に新しい結晶粒が核生成する。一般的には、新たな結晶粒は、核生成した段階では非常に小さいものの、核成長してしまうので微細化には十分ではない。しかしながら、本発明においては、母相に拡散したC原子がドラッグ効果により結晶粒成長を抑制することで、新たな結晶粒の核成長を抑制し、微細な鋳造組織とすることができる。
【0151】
以上のメカニズムでの鋳造組織の微細化を達成するためには、第一冷却工程における炭化物の析出と、第二冷却工程における炭化物中のC原子拡散、炭化物消失、新たな結晶粒の核生成の全てが成される化学組成の範囲と平均冷却速度の範囲でなければならないため、上記組織変化の全てを十分に発生させるための化学組成として上記(I)において説明した範囲とするのみならず、第一冷却工程と第二冷却工程における平均冷却速度を制御することが重要である。
【0152】
第一冷却工程では、炭化物を析出(あるいは晶出した炭化物を残存)させる必要がある。工業用純チタンに近い合金組成において、第一冷却工程での平均冷却速度が速すぎると炭化物析出が十分でない。一方、第一冷却工程での平均冷却速度が遅すぎると、炭化物は析出するが大きく成長してしまい、第二冷却工程における炭化物消失と新たな結晶粒の核生成が不十分となってしまう。以上の理由により、適切な第一冷却工程の平均冷却速度範囲として(II)において説明した範囲とする。
【0153】
第二冷却工程では、炭化物中C原子の母相への拡散、炭化物消失、新たな結晶粒の核生成の全てが成される必要がある。第二冷却工程での平均冷却速度が速すぎると、炭化物中C原子の母相への拡散が十分ではないため、炭化物消失と新たな結晶粒の核生成が不十分であり、本発明に規定した鋳造組織の粒径を満足できない。一方、第二冷却工程での平均冷却速度が遅すぎると、炭化物中C原子の母相への拡散、炭化物消失、新たな結晶粒の核生成の全てが十分に成されるものの、核生成した結晶粒が成長しすぎてしまうため、本発明に規定した鋳造組織の粒径を満足できない。以上の理由により、適切な第二冷却工程の平均冷却速度範囲として(II)において説明した範囲とする。
【0154】
(鋳造組織の平均結晶粒径および鋳造組織の平均結晶粒径の測定方法)
鋳造組織の平均結晶粒径の測定は、
図4の模式図に示すように、鋳塊中央付近、鋳塊側面表層付近、鋳塊トップ中央付近、鋳塊ボトム中央付近においてそれぞれ、サンプルを採取し、採取したそれぞれのサンプルの切断面を鏡面研磨した後、フッ化水素水溶液と硝酸水溶液を任意の割合で混合した液を用いてエッチングし粒界を現出させる。なお、
図4(a)は、円柱状または直方体状の鋳塊の斜視図であり、
図4(b)は、
図4(a)の断面Iにおける断面模式図であり、
図4(c)は、
図4(a)の断面IIにおける断面模式図であり、
図4(e)は、
図4(a)の断面IIIにおける断面模式図である。
【0155】
鋳塊中央付近とは、
図4(a)及び
図4(d)に示すように、鋳塊の上面と下面との中間の高さにおける断面(断面II)の中央の位置をいう。鋳塊側面表層付近とは、
図4(a)及び
図4(d)に示すように、鋳塊の側面の表面から10mmの深さの位置をいう。また、鋳塊トップ中央付近とは、
図4(a)及び
図4(c)に示すように、鋳塊の上面の中央から10mmの深さの位置(断面I)をいう。更に、鋳塊ボトム中央付近とは、
図4(a)及び
図4(e)に示すように、鋳塊の下面の中央から10mmの深さの位置(断面III)をいう。それぞれの位置からサンプルを採取する。なお、上面とは、鋳造方向で見た場合、後方の面であり、下面とは、鋳造方向で見た場合、前方の面である。
【0156】
その後、デジタルカメラ、マイクロスコープ、光学顕微鏡およびSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)によって、サンプルの組織を観察および撮影し、JIS G 0551:2020に規定される切断法により平均結晶粒子径を算出する。観察用の写真の撮影倍率を決定するため、まず、1倍、24倍、50倍、100倍、200倍、500倍及び1000倍の倍率で、サンプルの組織を観察する。そして、観察視野中に5個以上100個以下の結晶粒子を含む画像が得られる倍率を、平均結晶粒子径の算出のための倍率として採用する。2通り以上の倍率で5個以上100個以下の結晶粒子を含む画像が得られる場合は、より高い倍率での観察結果を採用する。なお、結晶粒子径が大きく1倍で撮影した場合でも観察視野中に5個以上の結晶粒子を含まない場合は、1倍の倍率での撮影写真を採用する。各採取位置に対してそれぞれ5視野以上、合計20視野以上実施し、各採取位置の平均結晶粒径の平均を「各サンプル採取位置の鋳造組織の平均結晶粒径」とし、全ての採取位置の平均結晶粒径の平均を本発明の「全体の鋳造組織の平均結晶粒径」とする。
【0157】
平均結晶粒径は「全体の鋳造組織の平均結晶粒径」を意味し、90μm以下であることが望ましい。
【0158】
なお、サンプルの採取位置によって鋳造組織の平均結晶粒径が顕著に異なる場合があるが、平均結晶粒径の比として[各サンプル採取位置の鋳造組織の平均結晶粒径]/[全体の鋳造組織の平均結晶粒径]が0.70~1.40の範囲であることが望ましい。
【0159】
(チタン化合物)
本実施形態の鋳塊には、鋳造組織中にチタン化合物が含まれる場合がある。本発明の鋳塊に含まれうるチタン化合物としては、炭化物と、炭化物以外のチタン化合物とがある。
【0160】
(炭化物)
本発明においては、第二冷却工程において炭化物全てを消失させることが望ましい。このような炭化物が鋳塊に残存すると、後の熱間加工において割れの起点となり得るためである。炭化物は主にTiCであるが、その種類を限定するものではない。なお、鋳塊から得たスラブ又はビレットを熱間加工するための加熱によって、第二冷却工程後に鋳塊に残存する炭化物をほぼ消失させることができる。
【0161】
(炭化物以外のTi化合物)
また、鋳塊の化学組成次第では、本発明の第二冷却工程後の鋳塊において炭化物以外のTi化合物が存在する場合がある。例えば、Ti2Cu、Ti2Ni、Ti3Al、TiAl、TiBなどである。これらも、炭化物と同じく、後の熱間加工において割れの起点となり得るので、少ないほうが望ましい。なお、上記(I)で説明した化学組成1~4の範囲であれば、鋳塊から得たスラブ又はビレットを熱間加工するための加熱によりほぼ消失させることができる。
【0162】
本発明の鋳塊において、チタン化合物(炭化物および炭化物以外のチタン化合物)の体積率は、5vol%以下であることが好ましい。また、チタン化合物の平均粒子径は1μm未満であることが好ましい。
【0163】
チタン化合物(炭化物および炭化物以外のチタン化合物)の体積率および平均粒子径は、以下の方法で測定することができる。
【0164】
体積率と平均粒子径のどちらについても、測定サンプルおよび観察サンプル採取は
図4模式図に示す鋳塊中央付近、鋳塊側面表層付近、鋳塊トップ中央付近、鋳塊ボトム中央付近のそれぞれから採取する。
【0165】
鋳塊中央付近とは、鋳塊の上面と下面との中間の高さにおける断面の中央の位置をいう。鋳塊側面表層付近とは、鋳塊の側面の表面から10mmの深さの位置をいう。鋳塊トップ中央付近とは、鋳塊の上面の中央から10mmの深さの位置をいう。鋳塊ボトム中央付近とは鋳塊の下面の中央から10mmの深さの位置をいう。それぞれの位置からサンプルを採取する。なお、上面とは、鋳造方向で見た場合、後方の面であり、下面とは、鋳造方向で見た場合、前方の面である。
【0166】
体積率は、X線回折により、炭化物、炭化物以外のTi化合物、その他の相の回折ピークを測定し、参照強度比法から算出する。測定は、各サンプル採取位置において1測定、合計4測定を行い、各測定位置における体積率を算出する。全採取位置における体積率を平均し、鋳塊における炭化物と炭化物以外のTi化合物の体積率とする。
【0167】
平均粒子径は、採取したサンプルそれぞれの切断面を鏡面研磨した後、フッ化水素水溶液と硝酸水溶液を任意の割合で混合した液を用いてエッチングし粒界を現出させる。エッチングの処理時間は1秒以上60秒以下とする。その後、光学顕微鏡とSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)観察で組織を観察および撮影する。観察および撮影の倍率は、50~1000倍とする。粒子が球状の場合は粒子直径0.5μm以上、粒子が球状でない場合は粒子の短軸長さが0.5μm以上のものを観察対象とする。これらの倍率で観察し、ひとつの視野中に粒子が1個以上30個以下となる倍率を採用する。粒子径は採用した倍率で観察した際のスケールバーと比較して、粒子が球状の場合は粒子直径、粒子が球状でない場合は粒子の短軸長さを測定し粒子径とする。採用した倍率で、各採取位置に対してそれぞれ5視野以上の観察と粒子径測定を実施し、それぞれのサンプル採取位置での平均粒子径を算出する。全採取位置の平均粒子径を平均し、鋳塊の平均粒子径とする。
【0168】
(発明の効果)
(C、Fe、Al、V、Moの偏析低減)
以上の機構により、平均結晶粒径90μm以下の鋳造組織を得ることができる。鋳造組織を微細化する過程で、C、Fe、Al、V、Moなどの偏析を低減した鋳塊を作製できる。これらの元素の偏析は、マクロ偏析とミクロ偏析に2分されるが、本発明においては、どちらの偏析も低減することができる。
【0169】
マクロ偏析およびミクロ偏析の程度は、偏析比指数により評価される。偏析比指数は、以下の(a)式~(e)式により算出される。以下の式の適正範囲は化学組成により異なり、化学組成1の場合では(a)式が1.4以下であり、(b)式が1.3以下であれば本発明を満足する。
【0170】
化学組成2の場合では、(a)式が1.4以下、(b)式が1.3以下、(c)式が1.3以下、(e)式が1.3以下であれば本発明を満足する。
【0171】
化学組成3の場合では、(a)式が1.4以下、(b)式が1.3以下、(c)式が1.3以下、(d)式が1.3以下、(e)式が1.3以下であれば本発明を満足する。
【0172】
化学組成4の場合では(a)式が1.4以下、(b)式が1.3以下、(c)式が1.3以下、(e)式が1.3以下であれば本発明を満足する。
【0173】
[C]max/[C]ave … (a)
[Fe]max/[Fe]ave … (b)
[Al]max/[Al]ave … (c)
[V]max/[V]ave … (d)
[Mo]max/[Mo]ave … (e)
【0174】
[C]max/[C]aveは、この値が大きい場合、局所的にCが多い場所が形成していることを意味する。局所的にCが多い場所では、チタン炭化物が形成し、チタン炭化物は冷却後においても残存する場合がある。チタン炭化物は硬質であり、チタン炭化物の形成箇所およびその周辺部において疵や割れが発生しやすいため望ましくない。また、局所的にCが多い場所では、チタン炭化物が形成せずとも、固体溶強化により硬質化する。そのため、局所的にCが多い場所および周辺部において疵や割れが発生しやすいため望ましくない。よって、[C]max/[C]aveは1.4以下であることが好ましい。
【0175】
[Fe]max/[Fe]ave、[Al]max/[Al]ave、[V]max/[V]ave、[Mo]max/[Mo]aveに関しても同様に、これらの元素が局所的に多い場所では固溶強化により硬質化し、これらの元素が局所的に多い場所および周辺部において疵や割れが発生しやすいため望ましくない。よって、[Fe]max/[Fe]ave、[Al]max/[Al]ave、[V]max/[V]ave、[Mo]max/[Mo]aveはそれぞれ、1.3以下であることが好ましい。
【0176】
なお、(a)式~(e)式において、[C]ave、[Fe]ave、[Al]ave、[V]ave、[Mo]aveはそれぞれ、鋳塊おけるC、Fe、Al、VおよびMoの平均化学組成(質量%)を意味する。これらは、ICP-OES(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer)など一般的な成分分析手法により測定される。測定に際してのサンプルリングは、鋳造し冷却後の鋳塊のボトム部から採取する。ボトム部の鋳肌から5mm以上の深さの位置からシェーパなどで切削した切粉を分析試料とする。この試料を酸に溶解してICP-OESなどにより分析する。
【0177】
[C]
max、[Fe]
max、[Al]
max、[V]
max、[Mo]
maxは、鋳塊におけるC、Fe、Al、VおよびMoの最大濃度(質量%)を意味する。これらは、EPMA分析(Electron Probe Micro Analyzer)により測定される。EPMA分析の測定サンプル採取は、
図4の模式図に示す鋳塊中央付近、鋳塊側面表層付近、鋳塊トップ中央付近、鋳塊ボトム中央付近のそれぞれから採取する。
【0178】
鋳塊中央付近とは、鋳塊の上面と下面との中間の高さにおける断面の中央の位置をいう。鋳塊側面表層付近とは、鋳塊の側面の表面から10mmの深さの位置をいう。鋳塊トップ中央付近とは、鋳塊の上面の中央から10mmの深さの位置をいう。鋳塊ボトム中央付近とは鋳塊の下面の中央から10mmの深さの位置をいう。それぞれの位置からサンプルを採取する。なお、上面とは、鋳造方向で見た場合、後方の面であり、下面とは、鋳造方向で見た場合、前方の面である。
【0179】
各採取位置から採取したサンプルに対してそれぞれ5視野以上、合計20視野以上の分析を行う。合計20の分析視野中で最も大きな分析値を最大化学組成として採用し、それぞれ[C]max、[Fe]max、[Al]max、[V]max、[Mo]maxとする。EPMA分析の測定条件は特に限定する必要はなく、一例として加速電圧10~15kVとする。また、分析時の倍率を決定するため、まず、50倍、100倍、200倍、500倍及び1000倍の倍率で、観察する。そして、観察視野中に2個以上20個以下の結晶粒子を含む画像が得られる倍率を、EPMA分析のために採用する。2通り以上の倍率で2個以上20個以下の結晶粒子を含む場合は、より高い倍率での観察結果を採用する。EPMA分析を行う前に、分析時の倍率と同倍率でサンプルを観察し、化合物粒子を含まない視野を選択してEPMA分析を実施する。
【0180】
(熱間加工疵の低減)
一般的に組織が微細であるほど熱間加工疵が抑制される。本発明では、鋳造組織の微細化によって、分塊圧延や鍛造などの熱間加工時の疵が低減される。熱間加工時の疵を低減することで、後工程での疵や亀裂発生が抑制され、高品質な製品を製造することが可能となる。
【0181】
熱間加工疵の評価は以下の方法で実施できる。鋳塊に大気加熱を施した後に熱間加工を施し、熱間加工材の表面と裏面を肉眼で観察して疵の長さと疵の量を評価する。例えば、疵の長さ10mm以上の疵が確認された場合を不合格、確認されなかった場合を合格と評価すればよい。疵の量は、熱間加工材の表面と裏面における疵部の面積率が5%を超える場合を不合格、5%以下の場合を合格、などと評価できる。なお、熱間加工前の大気加熱条件は特に制限を受けるものではなく、例えば均熱保持温度として700~900℃、保持時間として10~400分といった条件で施せばよい。熱間加工方法についても特に制限を受けるものではなく、例えば厚み500mmの鋳塊に対して圧下率として20~90%の範囲で熱間圧延を施すといった条件で実施すればよい。
【0182】
(鋳塊のC量の低減)
通常、鋳塊をそのまま構造部品などの用途に用いることは少なく、最終的には板材、棒材、線材、型材などに加工された後利用されることが多い。また、用途次第では最終製品においてC量を抑制したい場合もある。このような場合においては、以下の工夫を施すことで、上記鋳造組織を有する鋳塊からC量が低い熱間加工材を作製することも可能である。
【0183】
具体的には、上記の熱間加工前後の加熱により表層にαケースを形成させ、αケース中にCを濃化させた後、表層αケースを機械加工や酸洗などにより除去する。通常αケースは大気に起因するOを多く含むが、本発明においては素材中Cが素材表層に拡散する影響があり、本発明中のαケースはOのみならず高Cのα相から形成される。形成したαケースを切削や酸洗により除去することで、C量を抑制しつつ、マクロ偏析とミクロ偏析が低減され、熱間加工疵も低減された素材を得ることができる。αケースの形成条件は、均熱保持温度として700℃~900℃、保持時間として20分~400分の条件とすることで、高Cのαケースを素材表層に形成し、その後の切削や酸洗で除去することが可能である。
【実施例0184】
(サンプル製造条件)
電子ビーム溶解炉を用いて表1A、表1B、表3A、表3B、表5A、表5B、表7A、表7Bに示す化学組成の鋳塊を鋳造し、表2A、表2B、表4A、表4B、表6A、表6B、表8A、表8Bに示す冷却速度で冷却することで8トンの鋳塊を作製した。作製した鋳塊を以下の方法で評価した。表2A、表2B、表4A、表4B、表6A、表6B、表8A、表8Bに示す冷却速度はいずれも平均冷却速度である。なお、熱間加工疵の評価に関しては、作製した鋳塊を鍛造し熱間圧延して5mm厚の熱延板とした後に評価に用いた。
【0185】
なお、表1A、表1B、表3A、表3B、表5A、表5B、表7A、表7Bにおいて、「<0.001」との表記があるが、これは意図的に当該元素を含有させていないことを示す。また、表2A、表2B、表4A、表4B、表6A、表6B、表8A、表8Bにおける(a)式、(b)式、(c)式、(d)式および(e)式は、以下の通りである。
[C]max/[C]ave … (a)
[Fe]max/[Fe]ave … (b)
[Al]max/[Al]ave … (c)
[V]max/[V]ave … (d)
[Mo]max/[Mo]ave … (e)
【0186】
(評価方法)
(鋳造組織の平均結晶粒径測定方法)
鋳造組織の平均結晶粒径測定には、鋳塊中央付近、鋳塊表層付近、鋳塊トップ付近、鋳塊ボトム付近のそれぞれからサンプルを採取し、採取したそれぞれのサンプルの切断面を鏡面研磨した後、フッ化水素水溶液と硝酸水溶液を任意の割合で混合した液を用いてエッチングし粒界を現出させた。その後、デジタルカメラ、マイクロスコープ、光学顕微鏡およびSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)によって、サンプルの組織を観察および撮影し、JIS G 0551:2020に規定される切断法により平均結晶粒子径を算出した。観察用の写真の撮影倍率を決定するため、まず、1倍、24倍、50倍、100倍、200倍、500倍及び1000倍の倍率で、サンプルの組織を観察した。そして、観察視野中に5個以上100個以下の結晶粒子を含む画像が得られる倍率を、平均結晶粒子径の算出のための観察倍率として採用した。2通り以上の倍率で5個以上100個以下の結晶粒子を含む画像が得られる場合は、より高い倍率での観察結果を採用した。なお、結晶粒子径が大きく1倍で撮影した場合でも観察視野中に5個以上の結晶粒子を含まない場合は、1倍の倍率での撮影写真を採用した。各採取位置に対してそれぞれ5視野以上、合計20視野以上実施し、各採取位置の平均結晶粒径の平均を「各サンプル採取位置の鋳造組織の平均結晶粒径」とし、全ての採取位置の平均結晶粒径の平均を本発明の「全体の鋳造組織の平均結晶粒径」とした。
【0187】
「全体の鋳造組織の平均結晶粒径」が90μmを超えた場合を×と評価し、「全体の鋳造組織平均結晶粒径」が90μm以下である場合を〇と評価した。
【0188】
炭化物と炭化物以外のTi化合物に関する評価は、以下の方法で実施した。
体積率と平均粒子径のどちらについても、測定サンプルおよび観察サンプル採取は鋳塊中央付近、鋳塊側面表層付近、鋳塊トップ中央付近、鋳塊ボトム中央付近のそれぞれから採取した。体積率はX線回折により炭化物、炭化物以外のTi化合物、その他の相の回折ピークを測定し、市販のソフトウェアを用いて参照強度比法から算出した。測定は、各サンプル採取位置において1測定、合計4測定を行い、各測定位置において各相の体積率を算出した。
【0189】
それぞれのサンプル採取位置にて算出した体積率のいずれかにおいて、5vol%を超える場合を×(不合格)、全てのサンプル採取位置において5vol%以下の場合を〇(合格)と評価した。
【0190】
平均粒子径は、採取したサンプルそれぞれの切断面を鏡面研磨した後、フッ化水素水溶液と硝酸水溶液を任意の割合で混合した液を用いてエッチングし粒界を現出させた。エッチングの処理時間は1秒以上60秒以下とした。その後、デジタルカメラ、マイクロスコープ、光学顕微鏡およびSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)により、サンプルの組織を観察した。分析時の撮影倍率を決定するため、まず、1倍、24倍、50倍、100倍、200倍、500倍及び1000倍の倍率で、観察した。粒子が球状の場合は粒子直径0.5μm以上、粒子が球状でない場合は粒子の短軸長さが0.5μm以上のものを観察対象とした。そして、観察視野中に5個以上30個以下の粒子を含む画像が得られる倍率を、平均粒子径の算出のために採用した。平均粒子径は、採用した倍率で観察した際のスケールバーと比較して、粒子が球状の場合は粒子直径、粒子が球状でない場合は粒子の短軸長さを測定し粒子径とした。採用した倍率で、各採取位置に対してそれぞれ5視野以上合計20視野以上の観察と粒子径測定を実施し、それぞれのサンプル採取位置での平均粒子径を算出した。なお、観察した2通り以上の倍率で5個以上30個以下の粒子を含む場合は、より高い倍率での観察結果を採用した。それぞれのサンプル採取位置において、平均粒子径1μm以上の場合を×(不合格)、1μm未満の場合を〇(合格)と評価した。
【0191】
熱間加工疵の評価は以下の方法で実施した。鋳塊に大気加熱を施した後に熱間加工を施し、熱間加工後の素材の表面と裏面を肉眼で観察して疵の長さと疵の量を評価した。疵の長さは10mm以上の疵が確認された場合を×(不合格)、確認されなかった場合を〇(合格)と評価した。疵の量は、熱間加工後の素材の表面と裏面における疵部の面積率が5%を超える場合を×(不合格)、5%以下の場合を〇(合格)と評価した。熱間加工前の大気加熱条件は、均熱保持温度として800℃、保持時間として40分の条件で施した。熱間加工方法は、厚み100mmの鍛造材に対して合計圧下率として95%で熱間圧延を施した。
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
表1A~表8Bに示したように、本発明例は、疵の長さ及び疵の量がいずれも「○」になり、表面疵の発生を抑制することができた。
【0209】
一方、表1A~表8Bに示したように、化学成分が発明範囲から外れるか、または、製造条件が好ましい範囲から外れる比較例は、疵の長さ及び疵の量の少なくとも一方が「×」になり、表面疵の発生を抑制できなかった。