(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155485
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20241024BHJP
C10M 147/02 20060101ALN20241024BHJP
C10M 107/38 20060101ALN20241024BHJP
C10M 129/34 20060101ALN20241024BHJP
C10M 129/42 20060101ALN20241024BHJP
C10M 129/52 20060101ALN20241024BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241024BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241024BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241024BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M147/02
C10M107/38
C10M129/34
C10M129/42
C10M129/52
C10N50:10
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070244
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】井内 基之
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB18C
4H104BB23C
4H104CD02B
4H104CD04A
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA50
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】金属部材同士の摺動において、高い摩擦力及び優れた耐摩耗性を示す潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの基油と、増ちょう剤と、少なくとも1つの摩擦調整剤を含有する潤滑剤組成物であって、前記基油が、側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油及び合成炭化水素油の少なくとも1つを含み、前記側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油と前記合成炭化水素油の含有量が、前記基油の総量に対して85質量%以上であり、前記増ちょう剤が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、前記摩擦調整剤が、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを含み、前記摩擦調整剤の含有量が、前記増ちょう剤と前記摩擦調整剤の総量に対して3質量%以上35質量%以下である潤滑剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基油と、増ちょう剤と、少なくとも1つの摩擦調整剤を含有する潤滑剤組成物であって、
前記基油が、側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油及び合成炭化水素油の少なくとも1つを含み、
前記側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油と前記合成炭化水素油の含有量が、前記基油の総量に対して85質量%以上であり、
前記増ちょう剤が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、
前記摩擦調整剤が、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを含み、
前記摩擦調整剤の含有量が、前記増ちょう剤と前記摩擦調整剤の総量に対して3質量%以上35質量%以下であることを特徴とする、前記潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記基油が側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油を含む、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記増ちょう剤がポリテトラフルオロエチレンである、請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記摩擦調整剤が脂肪族ジカルボン酸の金属塩を含む、請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ジカルボン酸の金属塩がセバシン酸の金属塩である、請求項4に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
下記試験条件1における下記摺動試験1により測定される摩擦力が350g以上であり、下記試験条件2における下記摺動試験2により測定される摩耗痕径が0.50mm未満であることを特徴とする潤滑剤組成物。
<摺動試験1>
往復動試験機を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件1で試験片を摺動し、6往復目の摩擦力を測定する。
<試験条件1>
上部試験片:S45C製の金属球(直径10mm)
下部試験片:S45C製の金属プレート
荷重:3.0kg
塗布量:0.12g
摺動速度 :0.5mm/秒
試験温度:25℃
摺動距離(ストローク):10mm
<摺動試験2>
SRV試験機(振動摩擦摩耗試験機)を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件2で試験片を摺動し、摺動試験後に上部試験片の摩耗痕径を測定する。
<試験条件2>
上部試験片:SUJ2製の金属球(直径10mm)
下部試験片:SUJ2製のディスク
荷重:100N
塗布量:0.05g
周波数:50Hz
摺動振幅:1.0mm
試験温度:25℃
試験時間:30分
【請求項7】
金属部材同士の摺動部分に使用される、請求項1又は6に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
トルクリミッタ用潤滑剤組成物である、請求項1又は6に記載の潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ、歯車、ベルト、チェーン等の動力伝達部品、転がり軸受、すべり軸受等の金属部材同士の接触が生じる部分には、これらを含む機械を長期的に且つ安定して維持するために潤滑剤が使用されている。潤滑剤には、用途や環境に応じて、低温性、耐熱性、耐荷重性、防錆性等の様々な機能が付与されおり、各種機械の長寿命化が図られている。
【0003】
例えば、機械の動作制御、破損防止等に使用されるトルクリミッタにおいては、内輪と内輪を締め付けるコイルばねの緊縛力によりトルクの伝達と遮断が行われるため、トルク伝達時は内輪とコイルばねの間で滑りが発生しないことが要求されている(特許文献1)。また、自動車部品に使用される減速装置の歯車等においても、安全性、防犯の観点から、静止時に滑りが発生しないことが要求されており、潤滑剤には高い摩擦力、優れた耐摩耗性が必要とされる。
【0004】
例えば、特許文献2には、固体潤滑剤にメラミンシアヌレートとポリテトラフルオロエチレンを用いることで、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つ潤滑グリース組成物が得られることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、基油として直鎖型パーフルオロポリエーテルと側鎖を有するパーフルオロポリエーテルを所定の混合比で用いることにより、低温から高温まで広い温度範囲で良好な温度特性を有し、低速、中速、高速回転における耐久性、耐スティックスリップ性及び耐摩耗性に優れた潤滑グリース組成物が得られることが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2においては、樹脂部材同士の摺動、又は樹脂部材と金属部材との摺動による潤滑特性については評価されているものの、金属部材間の摺動による潤滑特性については言及されていない。また、特許文献3においては、基油に含まれる直鎖型パーフルオロポリエーテルが高価であるため、コスト面で改善の余地がある。
【0007】
さらに、近年では機械部品の小型化、高性能化、軽量化、低コスト化に伴い、機械部品に用いられる部材への負荷が高くなっている。そのため、より過酷な環境下においても十分な静止機能及び耐久性を発揮する潤滑剤組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08-270675号公報
【特許文献2】特開2009-13351号公報
【特許文献3】特開2018-16686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、金属部材同士の摺動において、高い摩擦力及び優れた耐摩耗性を示す潤滑剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施態様に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの基油と、増ちょう剤と、少なくとも1つの摩擦調整剤を含有する潤滑剤組成物であって、前記基油が、側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油及び合成炭化水素油の少なくとも1つを含み、前記側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油と前記合成炭化水素油の含有量が、前記基油の総量に対して85質量%以上であり、前記増ちょう剤が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、前記摩擦調整剤が、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを含み、前記摩擦調整剤の含有量が、前記増ちょう剤と前記摩擦調整剤の総量に対して3質量%以上35質量%以下である。
【0011】
本発明の一実施態様において、前記基油が側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油を含む。
【0012】
本発明の一実施態様において、前記増ちょう剤がポリテトラフルオロエチレンである。
【0013】
本発明の一実施態様において、前記摩擦調整剤が脂肪族ジカルボン酸の金属塩を含む。
【0014】
本発明の一実施態様において、前記脂肪族ジカルボン酸の金属塩がセバシン酸の金属塩である。
【0015】
本発明の他の実施態様に係る潤滑剤組成物は、下記試験条件1における下記摺動試験1により測定される摩擦力が350g以上であり、下記試験条件2における下記摺動試験2により測定される摩耗痕径が0.50mm未満である。
<摺動試験1>
往復動試験機を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件1で試験片を摺動し、6往復目の摩擦力を測定する。
<試験条件1>
上部試験片:S45C製の金属球(直径10mm)
下部試験片:S45C製の金属プレート
荷重:3.0kg
塗布量:0.12g
摺動速度 :0.5mm/秒
試験温度:25℃
摺動距離(ストローク):10mm
<摺動試験2>
SRV試験機(振動摩擦摩耗試験機)を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件2で試験片を摺動し、摺動試験後に上部試験片の摩耗痕径を測定する。
<試験条件2>
上部試験片:SUJ2製の金属球(直径10mm)
下部試験片:SUJ2製のディスク
荷重:100N
塗布量:0.05g
周波数:50Hz
摺動振幅:1.0mm
試験温度:25℃
試験時間:30分
【0016】
本発明の一実施態様において、前記潤滑剤組成物は金属部材同士の摺動部分に使用される。
【0017】
本発明の一実施態様において、前記潤滑剤組成物はトルクリミッタ用潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属部材同士の摺動において、高い摩擦力及び優れた耐摩耗性を示す潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る潤滑剤組成物は、所定の試験条件で実施した摺動試験により測定される摩擦力が350g以上であるとの特性を有する。具体的には、以下の試験条件1において以下の摺動試験1を実施して測定される摩擦力が350g以上であり、380g以上であることが好ましく、400g以上であることがさらに好ましい。
<摺動試験1>
往復動試験機を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件1で試験片を摺動し、6往復目の摩擦力を測定する。
<試験条件1>
上部試験片:S45C製の金属球(直径10mm)
下部試験片:S45C製の金属プレート
荷重:3.0kg
塗布量:0.12g
摺動速度 :0.5mm/秒
試験温度:25℃
摺動距離(ストローク):10mm
【0020】
さらに、本実施形態に係る潤滑剤組成物は、所定の試験条件で実施した摺動試験により測定される摩耗痕径が0.50mm未満であるとの特性を有する。具体的には、以下の試験条件2において以下の摺動試験2を実施して測定される摩耗痕径が0.50mm未満であり、0.45mm以下であることが好ましく、0.40mm以下であることがさらに好ましい。
<摺動試験2>
SRV試験機(振動摩擦摩耗試験機)を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件2で試験片を摺動し、摺動試験後に上部試験片の摩耗痕径を測定する。
<試験条件2>
上部試験片:SUJ2製の金属球(直径10mm)
下部試験片:SUJ2製のディスク
荷重:100N
塗布量:0.05g
周波数:50Hz
摺動振幅:1.0mm
試験温度:25℃
試験時間:30分
【0021】
このように、本実施形態に係る潤滑剤組成物は、上述した特定の試験条件で実施した摺動試験により測定される摩擦力が350g以上であり、且つ摩耗痕径が0.50mm未満であるため、金属部材同士の摺動において、高い摩擦力(高い静止機能)と優れた耐摩耗性を示す。このような潤滑剤組成物は、主成分として少なくとも1つの基油と、増ちょう剤と、少なくとも1つの摩擦調整剤を含んでいる。潤滑剤組成物は、後述する特定の基油が所定の含有量で配合され、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンが含まれ、さらには、後述する特定の摩擦調整剤が所定の含有量で配合されている。潤滑剤組成物に含まれる成分及びその含有量を適切に制御することにより、金属部材同士の摺動において、高い摩擦力と耐摩耗性に優れる潤滑剤組成物を得ることができる。以下、本実施形態に係る潤滑剤組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0022】
<基油>
本実施形態において、基油は、側鎖を有するパーフルオロポリエーテル(PFPE)油(以下、「側鎖型パーフルオロポリエーテル油」ともいう)及び合成炭化水素油の少なくとも1つを含んでおり、側鎖型パーフルオロポリエーテル油を含んでいることが好ましく、側鎖型パーフルオロポリエーテル油であることがより好ましい。基油として、側鎖型パーフルオロポリエーテル油及び合成炭化水素油の少なくとも1つを使用することにより、高い摩擦力を示すと共に、耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を得ることができ、特に基油として、側鎖型パーフルオロポリエーテルを使用することにより、摩擦力をより向上させることができる。
【0023】
基油は、側鎖型パーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油の両方を含んでいてもよい。一方で、基油は、側鎖型パーフルオロポリエーテル油を含でいなくてもよく、合成炭化水素油であってもよい。これらの中でも、基油は、側鎖型パーフルオロポリエーテル油であって、合成炭化水素油を含んでいないことが特に好ましい。基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
側鎖型パーフルオロポリエーテル油は、炭素原子に結合する全ての水素原子がフッ素原子に置換されており、側鎖を有し、且つポリエーテル構造を有するものであれば特に限定されるものではない。ここで、「側鎖」とは、最長の炭素鎖である主鎖から分岐し、且つ1以上の炭素原子を有する基を表す。パーフルオロポリエーテル油は主鎖の1箇所又は複数の箇所に側鎖を有している。典型的には、パーフルオロポリエーテル油は主鎖中にエーテル基として-CaF2aO-(aは整数である。)で表される二価の基を有する。この二価の基としては例えば、-CF2O-、-C2F4O-、-C3F6O-を挙げることができる。パーフルオロポリエーテル油は主鎖中に、-O-、-CbF2b-(bは整数である。)その他の二価の基を有することができる。また、上記二価のエーテル基の1つ又は複数の炭素原子に側鎖が結合していてもよく、主鎖の末端部に側鎖が結合していてもよい。側鎖型パーフルオロポリエーテル油の主鎖の末端基は、炭素原子に結合する全ての水素原子がフッ素原子に置換されているものであれば特に限定されるものではないが、例えば、-OCcF2c+1、-CcF2c+1(cは整数である。)等が挙げられる。側鎖型パーフルオロポリエーテル油は、側鎖として-CdF2d+1(dは1~5の整数である。)を含むことが好ましく、パールフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルフルオロペンチル基等が挙げられ、これらの側鎖のうち、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基が好ましく、パーフルオロメチル基(-CF3)がより好ましい。側鎖型パーフルオロポリエーテル油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
側鎖型パーフルオロポリエーテル油は、下記一般式(1)~(3)で表されるパーフルオロポリエーテルからなる群から選択されることがより好ましい。
Rf1O[CF(CF3)CF2O]mRf2 (1)
(一般式(1)中、Rf1及びRf2はそれぞれ独立して炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表し、mは2~200の整数を表す。)
F(CF(CF3)CF2O)nCF2CF3 (2)
(一般式(2)中、nは10~60の整数を表す。)
CF3[(OCF(CF3)CF2)o(OCF2)p]OCF3 (3)
(一般式(3)中、o+pは5~50の整数を表す。)
【0026】
側鎖型パーフルオロポリエーテルの市販品として、例えば、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製の「FOMBLIN(登録商標)YPL1500」、NOKクリューバー社製の「BARRIERTA(登録商標)J25 FLUID」、「BARRIERTA(登録商標)J180 FLUID」、「BARRIERTA(登録商標)J800 FLUID」等が挙げられる。
【0027】
合成炭化水素油としては、例えば、ポリα-オレフィン、エチレン・α-オレフィンオリゴマー、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられ、ポリα-オレフィンが好ましい。合成炭化水素油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
合成炭化水素油の市販品として、例えば、イネオスオリゴマーズジャパン社製の「DURASYN(登録商標)164」、「DURASYN(登録商標)166」、「DURASYN(登録商標)170」、「DURASYN(登録商標)174」、エクソンモービル社製の「SpectraSyn(登録商標)4」等が挙げられる。
【0029】
基油は、側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油及び合成炭化水素油以外の油性成分を含んでいてもよく、例えば、側鎖を有しない(直鎖構造を有する)パーフルオロポリエーテル油(以下、「直鎖型パーフルオロポリエーテル」ともいう)を含むことができる。直鎖型パーフルオロポリエーテルは特に限定されるものではないが、例えば、下記一般式(4)~(6)で表されるパーフルオロポリエーテルからなる群から選択されるパーフルオロポリエーテル油を用いることができる。
F(CF2CF2CF2O)qCF2CF3 (4)
(一般式(4)中、qは2~200の整数を表す。)
Rf3O[CF2CF2O]rRf4 (5)
(一般式(5)中、rは2~200の数を表し、Rf3及びRf4はそれぞれ独立して炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)
Rf5O(CF2CF2O)s(CF2O)tRf6 (6)
(一般式(6)中、s及びtはs+t=3~200を満たす数を表し、Rf5及びRf6はそれぞれ独立して炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)
【0030】
直鎖型パーフルオロポリエーテルの市販品として、例えば、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製の「FOMBLIN(登録商標)M03」、「FOMBLIN(登録商標)M15」、「FOMBLIN(登録商標)M30」、ダイキン工業社製の「デムナム(登録商標)S-20」、「デムナム(登録商標)S-65」、「デムナム(登録商標)S-200」等が挙げられる。
【0031】
基油の動粘度(40℃)は、特に制限されるものではないが、10mm2/秒以上2000mm2/秒以下であることが好ましく、20mm2/秒以上1500mm2/秒以下であることがより好ましい。
【0032】
側鎖型パーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油の含有量は、基油の総量に対して85質量%以上であり、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。側鎖型パーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油の含有量が、基油の総量に対して85質量%以上であることにより、耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を得ることができる。特に側鎖型パーフルオロポリエーテル油の含有量が基油の総量に対して95質量%以上である場合、耐摩耗性をより向上させることができる。
【0033】
潤滑剤組成物中に含まれる基油の含有量は、潤滑剤組成物の全質量に対して50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
<増ちょう剤>
本実施形態において、増ちょう剤はポリテトラフルオロエチレンを含んでおり、ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンを使用することにより、耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を得ることができる。増ちょう剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ポリテトラフルオロエチレンの平均粒子径は0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの市販品として、例えば、3M社製の「Dyneon(登録商標)TF9207Z」、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製の「Algoflon(登録商標)L203」、三井・ケマーズフロロプロダクツ社製の「TLP 10F-1」、ダイキン工業社製の「ルブロン(登録商標)L-5」等の市販品を用いることができる。
【0036】
潤滑剤組成物中に含まれる増ちょう剤の含有量は、潤滑剤組成物の全質量に対して5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
<摩擦調整剤>
摩擦調整剤は、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを含んでおり、脂肪族ジカルボン酸の金属塩を含んでいることが好ましい。摩擦調整剤として、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを使用することにより、摩擦力を顕著に高めることができ、特に、脂肪族ジカルボン酸の金属塩を使用することにより、耐摩擦性も向上させることができる。摩擦調整剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
脂肪族ジカルボン酸は、炭素数が2~20の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。このような脂肪族ジカルボン酸として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸が好ましく、アゼライン酸、セバシン酸がより好ましく、セバシン酸が特に好ましい。
【0039】
芳香族カルボン酸は、炭素数が7~15の芳香族カルボン酸であることが好ましく、モノカルボン酸であっても、ジカルボン酸であってもよい。このような芳香族カルボン酸として、例えば、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。これらの中でも、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸が好ましく、安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸がより好ましく、安息香酸が特に好ましい。
【0040】
脂肪族ジカルボン酸及び芳香族カルボン酸の金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属塩であることが好ましく、アルカリ金属の金属塩であることがより好ましい。アルカリ金属として、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)が挙げられ、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)が好ましく、リチウム(Li)及びナトリウム(Na)がより好ましい。アルカリ土類金属として、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、Ba(バリウム)が挙げられ、カルシウム(Ca)が好ましい。
【0041】
複数の摩擦調整剤を使用する場合、2種以上の脂肪族ジカルボン酸の金属塩を使用してもよく、2種以上の芳香族カルボン酸の金属塩を使用してもよく、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の両方を使用してもよい。これらの場合、脂肪族ジカルボン酸及び芳香族カルボン酸の金属塩として使用される金属は、いずれも同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
これらの摩擦調整剤の中でも、摩擦調整剤は、セバシン酸の金属塩であることが好ましく、セバシン酸の金属塩として、セバシン酸リチウム、セバシン酸ナトリウム又はセバシン酸カルシウムであることが好ましく、セバシン酸リチウム又はセバシン酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0043】
摩擦調整剤の含有量は、増ちょう剤と摩擦調整剤の総量に対して、3質量%以上35質量%以下であり、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。増ちょう剤と摩擦調整剤の総量に対する摩擦調整剤の含有量が3質量%以上35質量%以下であることにより、耐摩耗性に優れた潤滑剤組成物を得ることができる。
【0044】
本実施形態において、潤滑剤組成物は、その効果に影響を与えない範囲で他の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤として、例えば、公知の酸化防止剤、極圧剤、防錆剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤等を適宜選択して含有させることができる。これらの添加剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、使用する目的に合わせて任意に種類、配合量等を決定することができる。
【0045】
酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0046】
極圧剤としては、例えば、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTP)等の金属有機化合物等が挙げられる。
【0047】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0048】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
【0049】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る潤滑剤組成物は、上述した基油と、増ちょう剤と、摩擦調整剤と、任意に他の添加剤を、通常の混合手段を用いて混合することにより製造することができる。混合手段としては、特に制限されるものではないが、例えば、3本ロール及び高圧ホモジナイザー等を好適に用いることが可能である。
【0051】
本実施形態に係る潤滑剤組成物は、金属部材間の摺動において高い摩擦力及び優れた耐摩耗性を有するため、金属部材間の摺動部分に使用するのに適している。そのため、このような潤滑剤組成物は、金属部材間の摺動において優れた潤滑性能を発揮し、トルクリミッタに使用されるトルクリミッタ用潤滑剤組成物として有効である。また、本実施形態に係る潤滑剤組成物は、金属部材間の摺動部分の他にも、樹脂部材間の摺動部分、金属部材と樹脂部材間の摺動部分にも適用し得る。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0053】
以上の実施形態に基づき、本発明は以下の[1]~[8]に関するものである。
[1]
少なくとも1つの基油と、増ちょう剤と、少なくとも1つの摩擦調整剤を含有する潤滑剤組成物であって、
前記基油が、側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油及び合成炭化水素油の少なくとも1つを含み、
前記側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油と前記合成炭化水素油の含有量が、前記基油の総量に対して85質量%以上であり、
前記増ちょう剤が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、
前記摩擦調整剤が、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを含み、
前記摩擦調整剤の含有量が、前記増ちょう剤と前記摩擦調整剤の総量に対して3質量%以上35質量%以下であることを特徴とする、前記潤滑剤組成物。
[2]
前記基油が側鎖を有するパーフルオロポリエーテル油を含む、上記[1]に記載の潤滑剤組成物。
[3]
前記増ちょう剤がポリテトラフルオロエチレンである、上記[1]又は[2]に記載の潤滑剤組成物。
[4]
前記摩擦調整剤が脂肪族ジカルボン酸の金属塩を含む、上記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の潤滑剤組成物。
[5]
前記脂肪族ジカルボン酸の金属塩がセバシン酸の金属塩である、上記[4]に記載の潤滑剤組成物。
[6]
下記試験条件1における下記摺動試験1により測定される摩擦力が350g以上であり、下記試験条件2における下記摺動試験2により測定される摩耗痕径が0.50mm未満であることを特徴とする潤滑剤組成物。
<摺動試験1>
往復動試験機を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件1で試験片を摺動し、6往復目の摩擦力を測定する。
<試験条件1>
上部試験片:S45C製の金属球(直径10mm)
下部試験片:S45C製の金属プレート
荷重:3.0kg
塗布量:0.12g
摺動速度 :0.5mm/秒
試験温度:25℃
摺動距離(ストローク):10mm
<摺動試験2>
SRV試験機(振動摩擦摩耗試験機)を用いて試験片に潤滑剤組成物を塗布した後、試験条件2で試験片を摺動し、摺動試験後に上部試験片の摩耗痕径を測定する。
<試験条件2>
上部試験片:SUJ2製の金属球(直径10mm)
下部試験片:SUJ2製のディスク
荷重:100N
塗布量:0.05g
周波数:50Hz
摺動振幅:1.0mm
試験温度:25℃
試験時間:30分
[7]
金属部材同士の摺動部分に使用される、上記[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の潤滑剤組成物。
[8]
トルクリミッタ用潤滑剤組成物である、上記[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の潤滑剤組成物。
【実施例0054】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
基油として側鎖型パーフルオロポリエーテル(「BARRIERTA(登録商標)J180 FLUID」、NOKクリューバー社製)80質量部、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE:「TLP 10F-1」、三井・ケマーズフロロプロダクツ社製)19質量部、摩擦調整剤として脂肪族ジカルボン酸の金属塩B(セバシン酸Na)1質量部を配合して撹拌した後、3本ロールミルで十分に混合し、潤滑剤組成物を作製した。
【0056】
<摩擦力の測定及び評価>
往復動試験機を用いて、試験片上に得られた潤滑剤組成物を塗布し、下記の試験条件で摺動試験を行い、金属-金属間における摩擦力を測定した。試験開始の5往復までは慣らし運転とし、6往復目の摩擦力を測定した。摩擦力が390g以上であれば「〇」、摩擦力が350g以上390g未満であれば「△」、摩擦力が350g未満であれば「×」と評価し、「△」以上であれば高い摩擦力を有していると評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
上部試験片:S45C製の金属球(直径10mm)
下部試験片:S45C製の金属プレート
荷重:3.0kg
塗布量:0.12g
摺動速度:0.5mm/秒
試験温度:25℃
摺動距離(ストローク):10mm
【0058】
<耐摩耗性の測定及び評価>
SRV試験機(III型、Optimol社製)を用いて、試験片上に得られた潤滑剤組成物を塗布し、下記の試験条件で摺動試験を行い、試験後の上部試験片に形成された摩耗痕径を測定した。試験後の摩耗痕径が0.5mm未満であれば「〇」、摩耗痕径が0.5mm以上であるか、試験終了前にSRV試験機が自動停止し、摩耗痕径が測定不能であった場合には「×」と評価し、「〇」であれば耐摩耗性に優れていると評価した。評価結果を表1に示す。尚、摩擦力の測定値が325g以下であった場合には、耐摩耗性については測定及び評価をしていない(表1、2において「-」は未測定を表す)。
【0059】
上部試験片:SUJ2製の金属球(直径10mm)
下部試験片:SUJ2製の金属ディスク
荷重:100N
塗布量:0.05g
周波数:50Hz
摺動振幅:1.0mm
試験温度:25℃
試験時間:30分
【0060】
<総合評価>
摩擦力の評価と耐摩耗性の評価の両方が「〇」であれば「◎」、摩擦力の評価と耐摩耗性の評価のうちいずれか一方が「〇」であり他方が「△」であれば「〇」、摩擦力の評価と耐摩耗性の評価のうちいずれか一方が「×」であれば「×」と評価した。
【0061】
(実施例2)
ポリテトラフルオロエチレンの配合量を18質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を2質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例3)
ポリテトラフルオロエチレンの配合量を17質量部に変更し、摩擦調整剤として脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bに代えて脂肪族ジカルボン酸の金属塩A(セバシン酸Li)を3質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
摩擦調整剤として脂肪族ジカルボン酸の金属塩Aに代えて脂肪族ジカルボン酸の金属塩C(セバシン酸Ca)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例5)
摩擦調整剤として脂肪族ジカルボン酸の金属塩Aに代えて芳香族カルボン酸の金属塩(安息香酸Na)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例6)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を79質量部、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を15質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を6質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例7)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を69質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を5質量部にそれぞれ変更し、さらに基油として直鎖型パーフルオロポリエーテル(「FOMBLIN(登録商標)M30」、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製)8質量部を加えたこと以外は、実施例2と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例8)
側鎖型パーフルオロポリエーテルに代えて、基油として合成炭化水素油A(「DURASYN(登録商標)170」、イネオスオリゴマーズジャパン社製)33質量部、合成炭化水素油B(「DURASYN(登録商標)174」、イネオスオリゴマーズジャパン社製)34質量部を加え、さらにポリテトラフルオロエチレンの配合量を30質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を3質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を82質量部、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を9質量部にそれぞれ変更し、さらに増ちょう剤としてメラミンシアヌレート(「MC-6000」、日産化学社製)9質量部を加え、摩擦調整剤を不含としたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0069】
(比較例2)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を83質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を3質量部にそれぞれ変更し、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンに代えてメラミンシアヌレート(「MC-6000」、日産化学社製)14質量部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0070】
(比較例3)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を79質量部、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を21質量部にそれぞれ変更し、摩擦調整剤を不含としたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0071】
(比較例4)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を78.5質量部、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を21質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を0.5質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0072】
(比較例5)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を79質量部、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を13質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を8質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0073】
(比較例6)
ポリテトラフルオロエチレンの配合量を10質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を11質量部にそれぞれ変更したこと以外は、比較例5と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0074】
(比較例7)
側鎖型パーフルオロポリエーテルに代えて、基油として直鎖型パーフルオロポリエーテル(「FOMBLIN(登録商標)M30」、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製)を使用し、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を16質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を5質量部にそれぞれ変更したこと以外は、比較例5と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0075】
(比較例8)
側鎖型パーフルオロポリエーテルの配合量を56質量部、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を18質量部、脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bの配合量を5質量部にそれぞれ変更し、さらに基油として直鎖型パーフルオロポリエーテル(「FOMBLIN(登録商標)M30」、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製)21質量部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0076】
(比較例9)
ポリテトラフルオロエチレンの配合量を17質量部に変更し、摩擦調整剤として脂肪族ジカルボン酸の金属塩Bに代えて脂肪族モノカルボン酸の金属塩A(ステアリン酸Li)3質量部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0077】
(比較例10)
摩擦調整剤として脂肪族モノカルボン酸の金属塩Aに代えて脂肪族モノカルボン酸の金属塩B(ステアリン酸Na)を使用したこと以外は、比較例9と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0078】
(比較例11)
側鎖型パーフルオロポリエーテルに代えて、基油として合成炭化水素油A(「DURASYN(登録商標)170」、イネオスオリゴマーズジャパン社製)38質量部、合成炭化水素油B(「DURASYN(登録商標)174」、イネオスオリゴマーズジャパン社製)39質量部を加え、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を8質量部に変更し、さらに増ちょう剤としてメラミンシアヌレート(「MC-6000」、日産化学社製)を8質量部、12ヒドロキシステアリン酸Li(「Li-OHST」、勝田化工社製)を7質量部加え、摩擦調整剤を不含としたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を作製した。評価結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
上記1表及び表2に示される各成分は、下記の通りである。尚、上記表1及び表2中の上記各成分の値は、特に言及されない限り「質量部」を表す。
【0082】
<基油>
・側鎖型パーフルオロポリエーテル:製品名「BARRIERTA(登録商標)J180 FLUID」(NOKクリューバー社製)
・直鎖型パーフルオロポリエーテル:製品名「FOMBLIN(登録商標)M30」(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製)
・合成炭化水素油A:ポリα-オレフィン、製品名「DURASYN(登録商標)170」(イネオスオリゴマーズジャパン社製)
・合成炭化水素油B:ポリα-オレフィン、製品名「DURASYN(登録商標)174」(イネオスオリゴマーズジャパン社製)
<増ちょう剤>
・ポリテトラフルオロエチレン:製品名「TLP 10F-1」(三井・ケマーズフロロプロダクツ社製)
・メラミンシアヌレート:製品名「MC-6000」(日産化学社製)
・12ヒドロキシステアリン酸Li:製品名「Li-OHST」(勝田化工社製)
・脂肪族ジカルボン酸の金属塩A:セバシン酸Li
・脂肪族ジカルボン酸の金属塩B:セバシン酸Na
・脂肪族ジカルボン酸の金属塩C:セバシン酸Ca
・芳香族カルボン酸の金属塩:安息香酸Na
・脂肪族モノカルボン酸の金属塩A:ステアリン酸Li
・脂肪族モノカルボン酸の金属塩B:ステアリン酸Na
【0083】
表1より、実施例1~8では、潤滑剤組成物が、側鎖型パーフルオロポリエーテル及び合成炭化水素油の少なくとも1つを含む基油と、ポリテトラフルオロエチレンを含む増ちょう剤と、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩の少なくとも1つを含む摩擦調整剤とを含み、側鎖型パーフルオロポリエーテル及び合成炭化水素油の含有量が基油の総量に対して85質量%以上であり、且つ、摩擦調整剤の含有量が、増ちょう剤と摩擦調整剤の総量に対して3質量%以上35質量%以下である。このような潤滑剤組成物は、金属部材同士の摺動において、高い摩擦力を有し、且つ耐摩耗性に優れていた。特に、基油として、側鎖型パーフルオロポリエーテルを使用した実施例1~7では、より高い摩擦力を示した。また、側鎖型パーフルオロポリエーテル油の含有量が基油の総量に対して95質量%以上であり、摩擦調整剤として脂肪族ジカルボン酸の金属塩を使用した実施例1~4、6では耐摩耗性をより向上させることができた。
【0084】
一方、摩擦調整剤を含んでいない比較例1、3、11では、摩擦力が低く、特に、比較例11では、非常に低い摩擦力を示した。また、比較例3では、耐摩耗性試験においてSRV試験機が終了前に自動停止したため、摩耗痕径が測定不能であり、耐摩耗性に劣っていた。さらに、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンを使用していない比較例2では、摩擦力の評価は「△」であったものの、摩耗痕径が大きく、耐摩耗性に劣っていた。
【0085】
また、摩擦調整剤の含有量が、増ちょう剤と摩擦調整剤の総量に対して3質量%以上35質量%以下の範囲外である比較例4~6では、高い摩擦力を示したものの、耐摩耗性試験においてSRV試験機が終了前に自動停止したため、摩耗痕径が測定不能であり、耐摩耗性に劣っていた。
【0086】
基油として直鎖型パーフルオロポリエーテルを使用し、側鎖型パーフルオロポリエーテル及び合成炭化水素のいずれも使用していない比較例7では、摩擦力が低いだけでなく、耐摩耗性にも劣っていた。
【0087】
側鎖型パーフルオロポリエーテル及び合成炭化水素油の含有量が基油の総量に対して73質量%である比較例8では、高い摩擦力を示したものの、摩耗痕径が大きく、耐摩耗性に劣っていた。
【0088】
摩擦調整剤として、脂肪族モノカルボン酸の金属塩を使用し、脂肪族ジカルボン酸の金属塩及び芳香族カルボン酸の金属塩のいずれも使用していない比較例9~10では、いずれも低い摩擦力を示した。
本発明に係る潤滑剤組成物は、金属部材同士の摺動において、高い摩擦力を有し、且つ耐摩耗性に優れることから、例えば、ねじ、歯車、ベルト、チェーン等の動力伝達部品、転がり軸受、すべり軸受等の金属部材同士の接触が生じる部分への適用に有効である。