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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155514
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】異種金属接合継手の分解方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/35 20220101AFI20241024BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241024BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20241024BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20241024BHJP
   B23K 103/20 20060101ALN20241024BHJP
   B09B 101/05 20220101ALN20241024BHJP
【FI】
B09B3/35 ZAB
B23K26/21 G
B23K26/323
B23K26/322
B23K103:20
B09B101:05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070291
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
【テーマコード(参考)】
4D004
4E168
【Fターム(参考)】
4D004AA26
4D004BA05
4D004CA02
4D004CA12
4D004CA22
4D004CB31
4D004DA06
4E168BA02
4E168BA83
4E168BA87
4E168BA88
4E168BA89
(57)【要約】
【課題】継手の接合方法にかかわらず、簡便な方法で確実に異種金属接合継手を分離することができ、資源を有効に活用するとともに廃棄物の発生を減少させることができる異種金属接合継手の分解方法を提供する。
【解決手段】金属製の第1部材11と、第1部材11と異なる金属からなる第2部材12と、第1部材11と第2部材12との接合部15と、を有する異種金属接合継手10を分解する方法であって、異種金属接合継手10を拘束する拘束工程と、異種金属接合継手10を拘束した状態で加熱する加熱工程と、加熱工程後の異種金属接合継手を冷却する冷却工程と、を有する。加熱工程において、第1部材11及び第2部材12のうち、低融点側の部材の融点をTm(℃)とする場合に、加熱温度を(Tm-150)(℃)以上Tm(℃)未満に設定する。また、第1部材と第2部材との接合方法及び接合領域に基づき、拘束方法や加熱時間を選択する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の第1部材と、前記第1部材と異なる金属からなる第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との接合部と、を有する異種金属接合継手を分解する方法であって、
前記異種金属接合継手を拘束する拘束工程と、
前記異種金属接合継手を拘束した状態で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の前記異種金属接合継手を冷却する冷却工程と、を有し、
前記拘束工程において、前記第1部材と前記第2部材との接合方法及び接合領域に基づき、
第1拘束方法:前記第1部材と前記第2部材とが重ねられた領域を、1箇所で挟持することにより拘束する方法、
第2拘束方法:前記第1部材と前記第2部材とが重ねられた領域を、離隔した2以上の箇所で拘束する方法、及び、
第3拘束方法:前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方のみを、離隔した2以上の箇所で拘束する方法、のいずれか1種の拘束方法を選択し、
前記加熱工程において、
前記第1部材及び前記第2部材のうち、低融点側の部材の融点をTm(℃)とする場合に、加熱温度を(Tm-150)(℃)以上Tm(℃)未満に設定するとともに、
前記第1部材と前記第2部材との接合方法に基づき、加熱時間を選択することを特徴とする、異種金属接合継手の分解方法。
【請求項2】
前記第1部材と前記第2部材との組合せが、鉄又は鉄合金製の第1部材とアルミニウム又はアルミニウム合金製の第2部材、鉄又は鉄合金製の第1部材とチタン又はチタン合金製の第2部材、アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材とチタン又はチタン合金製の第2部材、銅又は銅合金製の第1部材とチタン又はチタン合金製の第2部材、及び、銅又は銅合金製の第1部材とマグネシウム又はマグネシウム合金製の第2部材、のいずれか一種の組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【請求項3】
前記異種金属接合継手は、前記第1部材と、前記第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置された中間層と、を有し、
前記中間層は、純金属、合金及び化合物の少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【請求項4】
前記中間層は、前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方の表面に設けられたコールドスプレー皮膜であることを特徴とする、請求項3に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【請求項5】
前記異種金属接合継手は、前記第1部材と前記第2部材とが、溶融溶接法により接合されたものであり、
前記拘束工程において、前記第1拘束方法及び前記第2拘束方法のいずれか1種の拘束方法を選択することを特徴とする、請求項1又は2に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合継手の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、走行燃費の向上が常に求められており、改善策の一つとして、車体重量の軽量化が挙げられる。軽量化の手段としては、現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金等に置換する手段がある。しかし、全ての部材をこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題がある。そこで、異種金属同士を接合し、強度と軽量化とを同時に実現することができる、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
【0003】
ところで、現在、資源枯渇の観点から、様々なもののリサイクルが進み、多量に消費されている金属のリサイクルも以前から行われてきていた。異種金属の接合継手においても、接合部分を容易に分離することができれば、分解された部品はそれぞれの金属材料としてリサイクルすることができる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、異種金属溶接継手の接合面を、それら金属の融点以下の温度の加熱によりぜい性金属間化合物層を所定以上の厚さで生じさせ、継手を容易に解体することができる、リサイクル溶接継手が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、摩擦撹拌作用により作製した異種金属材料接合体に、大気中で加熱を行うことにより、接合界面近傍に異種金属材料反応相を形成する方法が記載されている。また、上記特許文献2には、この異種金属材料反応相の優先的な破壊により、異種金属材料接合体を接合面近傍で容易に破断させ、当該異種金属材料ごとの部材へと分離させる方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-305542号公報
【特許文献2】特開2007-54848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の方法を利用しても、確実に異種金属材料からなる接合継手を分離することが困難である。また、特許文献2による方法は、摩擦撹拌作用により作製された接合体に限定される。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、継手の接合方法にかかわらず、簡便な方法で確実に異種金属接合継手を分離することができ、これにより、資源を有効に活用するとともに廃棄物の発生を減少させることができる異種金属接合継手の分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、異種金属接合継手の分解方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0010】
(1) 金属製の第1部材と、前記第1部材と異なる金属からなる第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との接合部と、を有する異種金属接合継手を分解する方法であって、
前記異種金属接合継手を拘束する拘束工程と、
前記異種金属接合継手を拘束した状態で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の前記異種金属接合継手を冷却する冷却工程と、を有し、
前記拘束工程において、前記第1部材と前記第2部材との接合方法及び接合領域に基づき、
第1拘束方法:前記第1部材と前記第2部材とが重ねられた領域を、1箇所で挟持することにより拘束する方法、
第2拘束方法:前記第1部材と前記第2部材とが重ねられた領域を、離隔した2以上の箇所で拘束する方法、及び、
第3拘束方法:前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方のみを、離隔した2以上の箇所で拘束する方法、のいずれか1種の拘束方法を選択し、
前記加熱工程において、
前記第1部材及び前記第2部材のうち、低融点側の部材の融点をTm(℃)とする場合に、加熱温度を(Tm-150)(℃)以上Tm(℃)未満に設定するとともに、
前記第1部材と前記第2部材との接合方法に基づき、加熱時間を選択することを特徴とする、異種金属接合継手の分解方法。
【0011】
また、異種金属接合継手の分解方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(5)に関する。
【0012】
(2) 前記第1部材と前記第2部材との組合せが、鉄又は鉄合金製の第1部材とアルミニウム又はアルミニウム合金製の第2部材、鉄又は鉄合金製の第1部材とチタン又はチタン合金製の第2部材、アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材とチタン又はチタン合金製の第2部材、銅又は銅合金製の第1部材とチタン又はチタン合金製の第2部材、及び、銅又は銅合金製の第1部材とマグネシウム又はマグネシウム合金製の第2部材、のいずれか一種の組み合わせであることを特徴とする、(1)に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【0013】
(3) 前記異種金属接合継手は、前記第1部材と、前記第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置された中間層と、を有し、
前記中間層は、純金属、合金及び化合物の少なくとも1種からなることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【0014】
(4) 前記中間層は、前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方の表面に設けられたコールドスプレー皮膜であることを特徴とする、(3)に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【0015】
(5) 前記異種金属接合継手は、前記第1部材と前記第2部材とが、溶融溶接法により接合されたものであり、
前記拘束工程において、前記第1拘束方法及び前記第2拘束方法のいずれか1種の拘束方法を選択することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の異種金属接合継手の分解方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、継手の接合方法にかかわらず、簡便な方法で確実に異種金属接合継手を分離することができ、これにより、資源を有効に活用するとともに廃棄物の発生を減少させることができる異種金属接合継手の分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、本発明の第1実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法を工程順に示す図であり、拘束工程を示す模式的断面図である。
図1B図1Bは、本発明の第1実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法を工程順に示す図であり、加熱工程を示す模式的断面図である。
図1C図1Cは、本発明の第1実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法を工程順に示す図であり、冷却工程を示す模式的断面図である。
図1D図1Dは、本発明の第1実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法を工程順に示す図であり、分離工程を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法を適用することが好適である、中間層を有する異種金属接合継手を示す断面図である。
図3図3は、本発明の第2実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法における拘束工程を示す模式的断面図である。
図4図4は、本発明の第3実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法における拘束工程を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、互いに異なる金属材料が接合された接合継手について、容易にそれぞれの金属材料ごとに分解することができる方法について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、金属材料の線膨張係数の差によって異材間の接合部に応力が発生することに着目し、継手を拘束した状態で加熱することにより接合部を剥離することができることを見出した。本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0019】
以下、本発明に係る異種金属接合継手の分解方法について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。また、本明細書において、鉄又は鉄合金を、単に鉄合金(又は鋼)といい、アルミニウム又はアルミニウム合金を、単にアルミニウム合金といい、チタン又はチタン合金を、単にチタン合金といい、銅又は銅合金を、単に銅合金といい、マグネシウム又はマグネシウム合金を、単にマグネシウム合金ということがある。
【0020】
[異種金属接合継手の分解方法]
<第1実施形態>
図1A図1Dは、本発明の第1実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法を工程順に示す模式的断面図である。
【0021】
(拘束工程:第1拘束方法)
図1Aに示すように、異種金属接合継手10は、鋼製の第1部材11と、アルミニウム合金製の第2部材12とが接合部15によって接合されたものである。第1実施形態においては、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域R1に対して、拘束装置20を使用して1箇所で挟持する第1拘束方法により、異種金属接合継手10を拘束する。
【0022】
(加熱工程)
次に、図1Bに示すように、異種金属接合継手10を拘束した状態で所定の時間加熱する。このとき、第1部材11及び第2部材12のうち、低融点側の部材の融点をTm(℃)とする場合に、加熱温度を(Tm-150)(℃)以上Tm(℃)未満に設定する。本実施形態において、低融点側の部材は、アルミニウム合金製の第2部材12であり、第2部材12の融点が650℃であるため、500℃以上650℃未満の温度で、異種金属接合継手10を加熱する。この加熱により、図1Cに示すように、第1部材11と第2部材12との間の接合部15に、脆弱な金属間化合物16が形成される。
【0023】
(冷却工程)
その後、図1Cに示すように、異種金属接合継手10を冷却する。この冷却工程において、第1部材11と第2部材12との間の接合部に応力がかかり、第1部材11と第2部材12との間の接合部に剥離17が発生する。冷却温度は特に限定されないが、例えば室温まで冷却するとよい。
【0024】
(分離工程)
その後、図1Dに示すように、拘束装置20による拘束を解除し、第1部材11と第2部材12とを分離する。拘束を解除した時点では、第1部材11と第2部材12とは、接合部15の一部で接合されている場合があるが、金属間化合物16が形成されているため、容易に第1部材11と第2部材12とを分離することができる。
【0025】
上記本実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法によると、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域を、1箇所で挟持した状態で、第1部材11と第2部材12とを加熱した後に冷却する。このとき、第1部材11は鋼製であり、第2部材12はアルミニウム合金製であって、両部材の線膨張係数が互いに異なるため、特に冷却時において接合部に歪みの力が加わり、剥離17を発生させることができる。その結果、分離した第1部材11と第2部材12は、それぞれの金属材料として再利用することができ、廃棄物の発生を減少させることができる。
【0026】
異種金属接合継手10における第1部材11と第2部材12との接合方法は、特に限定されず、溶融溶接法及び固相接合法のいずれの接合方法で接合されたものであっても、本発明による異種金属接合継手の分解方法を適用することができる。具体的に、溶融溶接法としては、レーザ溶接、アーク溶接、抵抗スポット溶接等が挙げられる。また、固相接合法としては、コールドスプレー法により形成した中間層を利用する接合や、摩擦撹拌接合等が挙げられる。ただし、本実施形態において、拘束工程における拘束方法及び加熱工程における加熱時間は、第1部材11と第2部材12との接合方法や、接合領域に基づいて、所望の拘束方法及び加熱時間を選択する。拘束方法や加熱時間を選択する方法については後述する。
【0027】
第1部材11と第2部材12との間に中間層を含む異種金属接合継手について、図2を参照して以下に説明する。なお、図2は、中間層36を含む異種金属接合継手30に対して、上記加熱工程を実施した状態を示している。ただし、図2においては、拘束装置20や熱の図示を省略している。
【0028】
図2に示すように、アルミニウム合金製の第2部材12の表面には、鋼製の中間層36が形成されており、その上に鋼製の第1部材11が重ね合わされている。そして、第1部材11側からレーザ溶接が実施され、第1部材11を貫通し、中間層36に到達する溶接金属37が形成されることにより、第1部材11と第2部材12とが接合された異種金属接合継手30が製造されている。
【0029】
上記異種金属接合継手30において、アルミニウム合金からなる第2部材12と中間層36とは、高強度の機械的な結合を得ることができる。また、中間層36と第1部材11とは、互いに同種金属からなるものであるため、レーザ溶接により強固な接合が得られる。したがって、第1部材11と第2部材とは、互いに異なる金属材料からなるものであっても、優れた強度で接合されている。
【0030】
なお、中間層36は、第2部材12の表面に鋼製の金属粉末を低温溶射する方法(コールドスプレー法)を用いて形成することができる。中間層36の材料として、例えば、純金属、合金及び化合物の少なくとも1種から選択すればよく、第1部材11と溶接可能な材料を選択すればよい。
【0031】
異種金属接合継手30を分解する際には、上記第1実施形態と同様に、異種金属接合継手30を拘束した状態で加熱する。これにより、中間層36と第2部材12との間に、脆弱な金属間化合物16が形成されるため、容易に短時間で剥離を発生させることができる。そして、所定の加熱時間の終了後、第1部材11と第2部材12とを分離することにより、それぞれの金属材料に分解することができる。このように、コールドスプレー法を用いて接合された異種金属接合継手30(以下、コールドスプレー継手ということがある。)に対して、本実施形態に係る分解方法を適用すると、より一層容易に短時間で分解することができる。
【0032】
異種金属接合継手の分解方法として、特にコールドスプレー継手に対して本発明を適用する方が、溶融溶接法により接合された異材接合継手(以下、溶融溶接継手ということがある)ことが好適である理由は定かではないが、以下の理由が考えられる。
【0033】
コールドスプレー継手においては、アルミニウム合金からなる第2部材と、鋼からなるコールドスプレー皮膜(中間層36)とが密着している。したがって、これらの界面には、アルミニウム合金と鋼の線膨張係数の差分だけ、応力が印加される。一方、溶融溶接継手においては、第2部材12を構成するアルミニウム合金と溶接金属とが密着しているが、溶接金属は鋼とアルミニウムが混ざった成分となるため、鋼単体よりもアルミニウムに物性値が近くなる。したがって、溶接金属と第2部材12との間の線膨張係数の差は、コールドスプレー継手におけるアルミニウム合金と鋼の線膨張係数の差よりも小さくなる。その結果、溶融溶接継手の方が、加熱工程後の冷却工程によって界面に生じる応力が小さくなる可能性があると考えられる。
【0034】
また、コールドスプレー継手に対して本発明を適用することが好適である他の理由として、溶接金属-アルミニウム界面近傍における溶接欠陥の有無が考えられる。溶融溶接法による継手では、強度確保の観点から、アルミニウムへの溶込み深さを最低でも200μm以上確保する場合が多い。しかしながら、このような多量のアルミニウムの溶融は溶接金属-アルミニウム界面において、割れやブローホールなどの溶接欠陥を誘発しやすい。これら溶接欠陥は、溶接金属-アルミニウム界面において加熱・冷却時に応力を緩和すると考えられる。一方、コールドスプレー継手では、溶接工程においてアルミニウムを溶融させない、もしくはごく少量のみ溶融させるため、コールドスプレー皮膜とアルミニウム界面には溶接欠陥がほとんどなく、加熱・冷却時に生じる応力が大きくなる。そのため、短時間の熱処理で分解が可能になると推定される。
【0035】
上記第1拘束方法において、拘束装置20によって拘束する領域R1の位置は特に限定されず、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域R1で拘束していればよい。領域R1が異種金属接合継手10の端面近傍であると、第1部材11と第2部材12との界面に発生する応力が大きくなるため、より一層容易に剥離17を発生させることができる。したがって、領域R1の位置は、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域の端部近傍、又は異種金属接合継手10の端面近傍とすることが好ましい。
【0036】
さらに、上記第1実施形態においては、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域の1箇所のみを拘束した例について説明した。ただし、第1拘束方法としては、上記重ねられた領域における少なくとも1箇所を拘束すればよく、領域R1と、例えば第1部材11との2箇所で拘束してもよいし、領域R1と、第2部材12の2箇所で拘束してもよい。
【0037】
異種金属接合継手の拘束方法は、上記第1実施形態において説明した方法に限定されず、他の拘束方法を利用することができる。他の拘束方法について、第2実施形態及び第3実施形態として、図面を参照して以下に説明する。
【0038】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法における拘束工程を示す模式的断面図である。第2実施形態は、第2拘束方法により第1部材11と第2部材12とを拘束する方法を使用した例である。なお、第2実施形態及び第3実施形態において、第1実施形態と異なる点は拘束方法のみであるため、それぞれ、図3及び図4を用いて拘束工程のみを説明し、以下の工程は第1実施形態と同様とすることができる。また、図3及び図4において、図1A図1Dに示すものと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0039】
(拘束工程:第2拘束方法)
図3に示すように、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域を、離隔した2箇所の領域R2及び領域R3で拘束する。
【0040】
上記第2拘束方法においても、加熱工程において、第1部材11と第2部材12との間の接合部15に、脆弱な金属間化合物が形成される。そして、加熱工程の後、冷却を実施することにより、接合部15に応力が発生するため、第1部材11と第2部材12との間における脆い金属間化合物が形成されている領域で剥離が発生する。
【0041】
その後、第1部材11と第2部材12とを分離することにより、リサイクルに適した部材に分別することができる。
【0042】
第2拘束方法において、拘束装置20によって拘束する領域R2、R3の位置は特に限定されない。領域R2と領域R3とが接近していると、上記第1実施形態のように、1箇所のみで挟持する場合と同様に、第1部材11と第2部材12との界面に応力が発生し、剥離する効果を得ることができる。ただし、領域R2と領域R3とが離隔していると、界面に発生する応力が大きくなるため、より一層容易に剥離を発生させることができる。したがって、領域R2と領域R3とは離隔していることが好ましく、例えば対向する両端面の近傍で拘束することが好ましい。
【0043】
また、上記第1実施形態においては、第1部材11と第2部材12とが重ねられた領域の2箇所のみを拘束した例について説明した。ただし、第2拘束方法としては、上記重ねられた領域の2箇所のみを拘束する方法に限定されず、重ねられた領域について、2以上の複数の箇所で拘束してもよい。
【0044】
<第3実施形態>
図4は、本発明の第3実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法における拘束工程を示す模式的断面図である。第3実施形態は、第3拘束方法により第1部材11と第2部材12とを拘束する方法を使用した例である。
【0045】
(拘束工程:第3拘束方法)
本実施形態においては、第1部材11の両端面近傍における領域R4と領域R5とを、拘束装置20によって拘束する。
【0046】
上記第3拘束方法においても、加熱工程において、第1部材11と第2部材12との間の接合部15に、脆弱な金属間化合物が形成される。そして、加熱工程の後、冷却を実施することにより、接合部15に応力が発生するため、第1部材11と第2部材12との界面で歪みが発生し、第1部材11と第2部材12との間における脆い金属間化合物が形成されている領域で剥離が発生する。
【0047】
その後、第1部材11と第2部材12とを分離することにより、リサイクルに適した部材に分別することができる。
【0048】
第3拘束方法においても、拘束装置20によって拘束する領域R4、R5の位置は特に限定されず、第1部材11及び第2部材12のいずれか一方のみを、2箇所の領域で拘束していればよい。このとき、領域R4と領域R5とが離隔していると、界面に発生する応力が大きくなるため、より一層容易に剥離を発生させることができる。したがって、領域R4と領域R5とは離隔していることが好ましく、例えば、第1部材11及び第2部材12のいずれか一方の対向する両端面の近傍で拘束することが好ましい。また、拘束する部材の領域R4と領域R5との間に、他の部材との接合部15が配置されるように、拘束する位置を選択することがより好ましい。
【0049】
また、上記第3実施形態においては、第1部材11及び第2部材12のいずれか一方を2箇所の領域R4及び領域R5で拘束した例について説明した。ただし、第3拘束方法としては、第1部材11及び第2部材12のいずれか一方を、2以上の複数の箇所で拘束してもよい。
【0050】
上記第1~第3実施形態の拘束工程において、拘束する手段としては、拘束装置20を利用して板厚方向に挟持する方法を利用したが、拘束手段についても特に限定されない。特に、第2及び第3実施形態においては、異種金属接合継手10の両端面側から、板厚方向に直交する方向に内方に挟持することにより拘束してもよい。このような拘束方法であっても、第1部材11と第2部材12との線膨張係数の差によって、応力を発生させることができ、容易に短時間で第1部材11と第2部材12とを分離することができる。
【0051】
上述のとおり、本実施形態においては、第1部材11と第2部材12との接合方法及び接合領域に基づき、以下の3種類の拘束方法を選択することができる。
第1拘束方法:前記第1部材と前記第2部材とが重ねられた領域を、1箇所で挟持することにより拘束する方法。
第2拘束方法:前記第1部材と前記第2部材とが重ねられた領域を、離隔した2以上の箇所で拘束する方法。
第3拘束方法:前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方のみを、離隔した2以上の箇所で拘束する方法。
【0052】
例えば、本発明に係る分解方法は、コールドスプレー継手を分解する方法としてより好適であるため、溶融溶接継手と比較して分解しやすい。したがって、上記第1~第3拘束方法のいずれを使用しても、短時間で剥離を発生させることができる。一方、溶融溶接継手は、第1部材11と第2部材12との線膨張係数の差による応力を受けにくいことが考えられるため、応力を発生させやすい拘束方法を使用することが好ましい。このため、第1拘束方法又は第2拘束方法を使用すると、より一層確実に第1部材11と第2部材12とを分解することができる。
【0053】
また、加熱時間についても、第1部材11と第2部材12との接合方法等に基づき、好適な加熱時間を選択することができる。例えば、コールドスプレー継手に対して本発明に係る分解方法を適用すると、例えば5分間という極めて短い加熱時間で加熱し、冷却することにより、第1部材11と第2部材12とに分解することができる。一方、溶融溶接継手に対して本発明に係る分解方法を適用する場合には、コールドスプレー継手と比較して加熱時間を長くすればよい。
【0054】
さらに、拘束場所についても、第1部材11と第2部材12との接合方法や接合領域に基づき、好適な場所を選択することができる。例えば、溶接金属が形成されている箇所が1箇所のみである溶融溶接継手に対して、上記第3拘束方法を使用して拘束すると、接合部に応力がかかりにくい。したがって、上記第1拘束方法又は第2拘束方法を使用することが好ましい。また、溶接金属が形成されている箇所が1箇所のみである溶融溶接継手に対して、上記第1拘束方法を使用して拘束する場合に、溶接金属の形成位置と拘束場所が近いと、接合部に応力がかかりにくい。したがって、溶接金属の形成位置から離隔した領域で拘束することが好ましい。
【0055】
上記のように、拘束方法、加熱時間及び拘束位置については、異種金属接合継手の接合方法や接合領域(接合位置)によって最適な条件を選択することが好ましい。分解する工程の条件を選択する方法として、実際に分解が要求される異種金属接合継手と同様の方法及び同様のサイズで接合された試験材に対して、例えば上記第1実施形態~第3実施形態と同様の方法で、拘束工程、加熱工程及び冷却工程を実施する。そして、拘束のしやすさ、加熱時間等を考慮し、効率よく分解することができた条件を選択し、実際の異種金属接合継手の分解の条件とすればよい。
【0056】
上記試験材に対して、最適な加熱時間を検討する場合に、加熱工程は複数回に分けて加熱することができる。例えば、30分間の加熱後に冷却し、接合部を観察した結果、剥離が発生していなかった場合に、さらに30分の加熱試験を行うことができる。そして、この追加した加熱により剥離が発生すると、最初の加熱時間からの累積時間を実際の加熱時間として設定することができる。本実施形態において、加熱時間とは、異種金属接合継手の温度を所定の温度まで上昇させた状態で維持する時間を示す。
【0057】
なお、異種金属接合継手10を拘束する拘束装置20において、異種金属接合継手10に直接接触する拘束部材の材料としては、熱伝導率が低い材料を使用することが好ましい。熱伝導率が高い材料を用いた拘束部材が異種金属接合継手10に接触していると、加熱工程時に熱が伝導してしまい、拘束している領域R1~領域R5の近傍で異種金属接合継手10の温度が上昇しにくくなる。その結果、剥離が発生しにくいことがある。したがって、拘束装置における異種金属接合継手10に接触する拘束部材としては、例えば、セラミック製のものを使用することが好ましい。
【0058】
さらに、上記第1~第3実施形態の加熱工程において、加熱する手段についても特に限定されない。例えば、高周波誘導加熱を利用すると、急速に異種金属接合継手10を加熱することができるため、好ましい。
【0059】
第1部材11と第2部材12との組合せは特に限定されず、一方の部材が金属製であって、他方が上記一方の部材と異なる金属からなるものであればよいが、脆い金属間化合物を形成する組合わせの方が、剥離が発生しやすい。具体的には、例えば鋼のような鉄合金製の第1部材とアルミニウム合金製の第2部材、鉄合金製の第1部材とチタン合金製の第2部材、アルミニウム合金製の第1部材とチタン合金製の第2部材、銅合金製の第1部材とチタン合金製の第2部材、及び、銅合金製の第1部材とマグネシウム合金製の第2部材、のいずれか一種の組み合わせとすることが好ましい。上記第1実施形態~第3実施形態において、第2部材を下板、第1部材を上板として図示したが、第1部材を下板、第2部材を上板としてもよい。したがって、上記組合せは、第1部材と第2部材が入れ替わっていてもよい。
【実施例0060】
以下、本実施形態に係る異種金属接合継手の分解方法の実施例について、具体的に説明する。
【0061】
<異種金属接合継手の作成>
まず、下板として、第2部材の表面に、コールドスプレー法によりコールドスプレー皮膜を形成した。次に、第2部材におけるコールドスプレー皮膜が形成された面上に、上板となる第1部材を重ねて配置し、第1部材の上方からレーザ溶接を実施することにより、異種金属接合継手を作成した。
また、他の下板として、コールドスプレー皮膜を形成していない第2部材を準備した。その後、第2部材の表面に上板となる第1部材を重ねて配置し、第1部材の上方からレーザ溶接を実施することにより、異種金属接合継手を作成した。
【0062】
<異種金属接合継手の分解>
その後、得られた異種金属接合継手を種々の拘束方法で拘束した状態で加熱した後、冷却し、異種金属接合継手の長手方向を2等分した断面を観察することにより、接合部における剥離の発生を確認した。
【0063】
第1部材、第2部材の種類及びサイズ、コールドスプレー皮膜形成時の処理条件、レーザ溶接条件、分解時の熱処理条件、並びに拘束条件を以下に示す。
【0064】
(異種金属接合継手の材料)
第1部材(上板):軟鋼(幅10mm、長さ100mm、板厚1.4mm)
第2部材(下板):アルミニウム合金材(AA7204)(幅10mm、長さ100mm、板厚3mm)
コールドスプレー皮膜(中間層):鉄皮膜(膜厚1.2mm)
【0065】
(コールドスプレー処理条件)
装置:高温高圧タイプ
粉末:水アトマイズ鉄粉(平均粒径:43μm)
ガス種:窒素
ガス圧力:5MPa
ガス温度:1000℃
【0066】
(レーザ溶接条件)
溶接機:ファイバーレーザ(IPG photonics製 YLS-6000)
レーザ出力:2100W
溶接速度:4m/min
スポット径:0.3mm
重ね代:100mm(フルラップ)
溶接長:100mm
【0067】
(拘束方法)
第1拘束方法:第1部材と第2部材とが重ねられた領域を、1箇所で挟持することにより拘束する方法(異種金属接合継手の長手方向片端部をクランプで挟持)。
第2拘束方法:第1部材と第2部材とが重ねられた領域を、離隔した2箇所で拘束する方法(異種金属接合継手の長手方向両端部をクランプで挟持)。
【0068】
(熱処理条件)
加熱装置:加工フォーマスター試験機
加熱雰囲気:大気
熱処理温度:550℃~600℃で所定時間加熱後、室温に冷却
熱処理時間:5分~60分
【0069】
第1部材と第2部材との接合方法、分離時の熱処理条件、拘束方法、及び接合部の分離の有無を下記表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
上記表1に示すように、継手の種類にかかわらず、上記第1~第2拘束方法により異種金属接合継手を拘束して加熱した後に冷却すると、容易に短時間で接合部に剥離を発生させることができた。その後、第1部材と第2部材とを分離することにより、それぞれの金属材料毎に分離することができた。なお、異種金属接合継手の種類がレーザ溶接継手であった場合に、第2拘束方法を用いた方が、第1拘束方法よりも短い加熱時間で剥離を発生させることができた。また、異種金属接合継手の種類がコールドスプレー継手であると、加熱時間をより一層短縮化しても、剥離を発生させることができた。
【符号の説明】
【0072】
10,30 異種金属接合継手
11 第1部材
12 第2部材
16 金属間化合物
17 剥離
20 拘束装置
36 中間層
37 溶接金属
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4