(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155528
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両用熱管理制御システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/24 20060101AFI20241024BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20241024BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B60H1/24 661A
B60H1/22 651C
B60H1/00 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070313
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 渉
(72)【発明者】
【氏名】高沢 修
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 厚博
(72)【発明者】
【氏名】大庭 健三
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA12
3L211BA27
3L211EA20
3L211EA43
3L211EA79
3L211GA04
(57)【要約】
【課題】車両用の熱管理制御システムにおいて、高価なセンサを省いて車両コストの高騰を抑えながら、省いたセンサを搭載する場合と同等の高精度な熱管理制御を実現できるようにする。
【解決手段】車両用熱管理制御システムは、特定の熱管理情報を検知するための特定センサと、特定の熱管理情報とは異なる他の情報を検知する複数のセンサと、特定センサと複数のセンサの検知情報に基づいた熱管理制御を含む車両制御を行う制御装置とを備える第1車両と、特定センサを省き、第1車両と同等の熱管理制御を含む車両制御を行う制御装置を備える第2車両とを有し、第2車両の制御装置は、第1車両が検知した特定の熱管理情報及び特定の熱管理情報との関連性がある関連情報を教師データとした学習済み推定モデルを用い、当該学習済み推定モデルによって求められる特定センサの推定情報に基づいて熱管理制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が取得した熱管理情報に基づいて車両の熱管理制御を行う車両用熱管理制御システムであって、
特定の熱管理情報を検知するための特定センサと、前記特定の熱管理情報とは異なる他の情報を検知する複数のセンサと、前記特定センサと前記複数のセンサの検知情報に基づいた熱管理制御を含む車両制御を行う制御装置とを備える第1車両と、
前記特定センサを省き、前記第1車両と同等の熱管理制御を含む車両制御を行う制御装置を備える第2車両とを有し、
前記第2車両の制御装置は、前記第1車両が検知した前記特定の熱管理情報及び前記特定の熱管理情報との関連性がある関連情報を教師データとした学習済み推定モデルを用い、当該学習済み推定モデルによって求められる前記特定センサの推定情報に基づいて熱管理制御を行うことを特徴とする車両用熱管理制御システム。
【請求項2】
前記関連情報は、前記検知情報と前記第1車両及び前記第2車両の制御出力から選択された情報であることを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理制御システム。
【請求項3】
前記特定センサが、車室内CO2濃度センサであり、
前記特定の熱管理情報に基づいて前記第1車両と前記第2車両が行う熱管理制御は、車両空調における内気循環と外気導入の切り替え制御であることを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理制御システム。
【請求項4】
前記特定センサが、着霜検知センサであり、
前記特定の熱管理情報に基づいて前記第1車両と前記第2車両が行う熱管理制御は、車両空調における除霜モードへの切り替え制御であることを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理制御システム。
【請求項5】
前記第1車両及び前記第2車両と情報交換可能なサーバーを備え、
前記サーバーが前記第1車両から前記教師データを受信して前記学習済み推定モデルを作成することを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理制御システム。
【請求項6】
前記第1車両は、設定された時間毎に前記教師データを前記サーバーに送信し、前記サーバーは、更新された前記学習済み推定モデルを設定された時間毎に前記第2車両に配信することを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理制御システム。
【請求項7】
前記第1車両は、前記特定センサとして第1特定センサを備え、前記第2車両が備える第2特定センサが省かれており、
前記第2車両の制御装置は、前記第2特定センサの検知情報に基づく熱管理制御を含む車両制御を行い、
前記第1車両の制御装置は、前記第2特定センサの検知情報とそれに関連する関連情報を教師データとした学習済み推定モデルを用い、当該学習済み推定モデルによって求められる前記第2特定センサの推定情報に基づいて熱管理制御を行うことを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理制御システム。
【請求項8】
前記第1特定センサが車室内CO2濃度センサであり、前記第2特定センサが車室外微小粒子状物質検知センサであることを特徴とする請求項7記載の車両用熱管理制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の熱管理制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車室内空調を含む車両用の熱管理制御装置は、冷媒回路における冷媒温度や冷媒圧力などを検知するためのセンサや、冷媒と熱交換する熱媒体の温度や流速などを検知するセンサを備えており、これらセンサの検知情報に基づいて、冷媒回路及び熱媒体回路或いは空調ユニットなどを制御する。
【0003】
また、車両用の熱管理制御装置は、更にきめ細かな制御を行う場合、前述した冷媒の状態や熱媒体の状態などを検知するセンサだけでなく、車室内の二酸化炭素濃度を検知するためのCO2濃度センサなどを備えたものが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用の熱管理制御装置において、各種制御を行うためには、前述したように各種センサが必要になる。しかしながら、各車両において、CO2濃度センサのように高価なセンサを搭載させると、複数車両を統括管理する場合には、各車両のコスト高で統括車両全体での管理コストが大きく高騰してしまう問題が生じる。
【0006】
これに対しては、車両単体の中で各種センサの検知情報からCO2濃度などの高価なセンサの検知情報を推定して熱管理制御を行い、高価なセンサを省いてコストを抑えることが考えらえる。しかしながら、これによると、実際にCO2濃度センサを用いる場合と比較して、精度の高い熱管理制御を行うことができない問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。すなわち、車両用の熱管理制御システムにおいて、高価なセンサを省いて車両コストの高騰を抑えながら、省いたセンサを搭載する場合と同等の高精度な制御を実現できるようにすること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
車両が取得した熱管理情報に基づいて車両の熱管理制御を行う車両用熱管理制御システムであって、特定の熱管理情報を検知するための特定センサと、前記特定の熱管理情報とは異なる他の情報を検知する複数のセンサと、前記特定センサと前記複数のセンサの検知情報に基づいた熱管理制御を含む車両制御を行う制御装置とを備える第1車両と、前記特定センサを省き、前記第1車両と同等の熱管理制御を含む車両制御を行う制御装置を備える第2車両とを有し、前記第2車両の制御装置は、前記第1車両が検知した前記特定の熱管理情報及び前記特定の熱管理情報との関連性がある関連情報を教師データとした学習済み推定モデルを用い、当該学習済み推定モデルによって求められる前記特定センサの推定情報に基づいて熱管理制御を行うことを特徴とする車両用熱管理制御システム。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する本発明は、車両用の熱管理制御システムにおいて、高価なセンサを省いて車両コストの高騰を抑えながら、省いたセンサを搭載する場合と同等の高精度な熱管理制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用熱管理制御システムの構成例を示した説明図。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用熱管理制御システムにおける第1車両の制御装置を示した説明図。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両用熱管理制御システムにおける第2車両の制御装置を示した説明図。
【
図5】第2車両の制御装置における熱管理制御ECUの制御ロジックの一例を説明する説明図。
【
図6】第2車両の制御装置における熱管理制御ECUの制御ロジックの他の例を説明する説明図。
【
図7】第2車両の制御装置における熱管理制御ECUの制御ロジックの他の例を説明する説明図。
【
図8】本発明の実施形態に係る車両用熱管理制御システムの活用例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1に、本発明の実施形態に係る車両用熱管理制御システム(以下、システム)の構成例を示す。図示の例では、第1車両V1と第2車両V2とクラウドCR上のサーバーCSによってシステム1が構築される。ここでは、クラウドCR上のサーバーCSを用いる例を示しているが、第1車両V1と第2車両V2が相互に情報通信可能な状況であれば、クラウドCR上のサーバーCSと同様の機能を第1車両V1又は第2車両V2が備える制御装置(図示省略)に持たせて、サーバーCSを介することなく、車両間でシステム1の制御を行うことができる。
【0013】
第1車両V1は、特定センサS1が搭載されている車両である。特定センサS1は、システム1が、熱管理制御を行う上で必要な特定の熱管理情報を検知するためのセンサである。特定センサS1は、一種類のセンサであってもよいし、複数種類のセンサであってもよい。また、特定センサS1は、単体のセンサであってもよいし、複数個からなるセンサ群であってもよい。
【0014】
第2車両V2は、前述した特定センサS1が搭載されていない車両である。ここでは、特定センサS1は、比較的コスト高のセンサであり、この特定センサS1を省いた第2車両V2は、特定センサS1が搭載されている第1車両V1に対して低コストでの生産が可能になる。因みに、第2車両V2は、特定センサS1が非搭載である以外は、第1車両V1と同等(同機種・同サイズ・同型式)であることが好ましい。
【0015】
また、第2車両V2は、システム1の構成要素として、一つの第1車両V1に対して複数(例えば、1000台の車両を含むシステム1においては、1台の第1車両V1に対して999台の第2車両V2)存在することが好ましい。なお、第1車両V1は、システム1内に複数存在してもよい。
【0016】
特定センサS1を有する第1車両V1の情報に基づいて特定センサS1を有していない第2車両V2でも同様の制御ができるように制御モデルを構築・追加することで、第2車両V2に特定センサS1を追加することなく、精度の高い制御を実行することができるため、第2車両V2のセンサ増加を抑制し、結果として車両のコストダウンを実現することができる。
【0017】
第1車両V1は、
図2に示すような制御装置100を備えている。制御装置100は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などの車載ネットワーク101を介して複数の車載ECU(Electronic Control Unit)が相互に情報通信可能に接続されることで構成されている。複数の車載ECUは、その一つが、車載ネットワーク101における複数系統のバスライン間の中継機能を有する中継用ECU102(CGWECU:Central Gateway ECU)であり、他の一つが、車両と外部との情報通信を双方向で行うための通信用ECU103(TCU:Telematics Control Unit)であり、他の一つが、車両の熱管理制御を行う熱管理制御ECU104である。
【0018】
前述した各車載ECUは、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサや電気回路、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶素子により構成することができる。また、車載ECUが実行する動作の一部又は全部を、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)やGPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェアにより実現することもできる。
【0019】
図示の例では、熱管理制御ECU104は、CPU110、ROM111、RAM112、および外部I/F(Interface)113を備え、これらの各ハードウェアが、バスライン114を介して相互に接続され、バスライン114がゲートウェイ115を介して車載ネットワーク101に接続されている。ここで、CPU110は、ROM111に記憶されている各種プログラムを実行することにより、熱管理制御ECU104の動作を制御する。ROM111は、不揮発性メモリであり、例えば、CPU110により実行されるプログラム、CPU110がプログラムを実行するために必要なデータなどを記憶する。RAM112は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)などの主記憶装置であり、例えば、CPU110がプログラムを実行する際に利用する作業領域として機能する。外部I/F113は、外部に対する信号の送受信を制御するものであり、例えば、複数のセンサからなるセンサ部から制御に必要な検知情報を受信し、制御対象の動作を実行するアクチュエータに制御信号を送信する。なお、全ての車載ECUは、図示した熱管理制御ECUと同様のハードウェア構成を採用することができる。
【0020】
そして、熱管理制御ECU104の外部I/F113には、熱管理制御を行う上で必要となる熱管理情報を検知するためのセンサ部120が接続されている。センサ部120は、各所に設置される複数の各種センサの群(センサ群)であり、その一つが前述した特定センサS1である。また、センサ部120は、外気温度、内気温度、吹出風量、冷媒温度、冷媒圧力、熱媒体温度、熱媒体流速、バッテリー温度などを検知するための複数のセンサ(センサ(1)、センサ(2)、センサ(3)…)121を含んでいる。
【0021】
また、熱管理制御ECU104の外部I/F113には、熱管理制御ECU104の制御対象である、空調ユニット(HVAC:Heating, Ventilation, and Air Conditioning)130、冷媒回路131、熱媒体回路132などが接続されており、熱管理制御ECU104は、この制御対象に制御信号を送信する。空調ユニット130は、外気導入モードと内気循環モードの切り替え制御を適宜行いながら、車室内に冷暖房の空調風を送風する。冷媒回路131は、車両の熱源となるものであり、圧縮機で加圧した気体冷媒を凝縮・減圧・気化させる冷凍サイクルを実行して冷媒の吸放熱を行う。熱媒体回路132は、冷媒回路131の冷媒と熱交換する熱媒体を循環させて車両各所の熱管理を行う。
【0022】
車載ネットワーク101には、前述した車載ECUに加えて、車両の各種制御を行うために、多数の車載ECUが接続されている。
図2には、その一例を示している。駆動系ECU105は、センサ部として車速センサなどを有し、駆動用モーターなどを制御する。ドア制御ECU106は、センサ部として、ドア開閉センサや窓開閉センサなどを有し、ドアロック機構やパワーウインドウなどの動作を制御する。シート制御ECU107は、センサ部として、乗員の着座センサやシートベルトの装着検知センサなどを有し、座席シートの調整移動やシートヒータのオンオフなどを制御する。車載カメラ制御ECU108は、センサ部として、車室内カメラや車外カメラを有し、取得画像の画像処理などを行う。
【0023】
これに対して、第2車両V2は、
図3に示すような制御装置200を備えている。制御装置200は、前述した特定センサS1を備えていないという以外は、第1車両V1の制御装置100と同様であるから、重複説明を省略する。
【0024】
以下、システム1の制御について説明する。ここでは、特定センサS1として、車室内のCO2濃度センサを例にして説明するが、本発明の実施形態としては、特にこれに限定されるものでは無い。
【0025】
図1において、第1車両V1が、制御装置100の熱管理制御ECU104による熱管理制御を行いつつ、制御装置100の各種車載ECUによる車両制御を行いながら走行することで、制御装置100の通信用ECU103から各種の情報が随時クラウドCR上のサーバーCSに送信される。この際、第1車両V1は、教師データをサーバーCSに送信する。教師データは、特定の熱管理情報(車室内のCO
2濃度)を検知するための特定センサS1であるCO
2濃度センサの検知情報とこれに関連する関連情報からなる。関連情報は、複数のセンサの検知情報及び、熱管理制御を含む車両制御を行う上での制御装置100の制御出力から選択される情報であり、特定の熱管理情報(車室内のCO
2濃度)との相関性がある情報である。
【0026】
具体的には、第1車両V1からサーバーCSに送信される情報は、車両運転中に特定センサS1が検知した車室内のCO2濃度の情報と、これに関連する情報であり、例えば、第1車両V1運転中における、車速、空調ユニット130の吹出風量、乗員数、乗員属性(大人と子供の割合など)、空調ユニット130の内気循環モードと外気導入モードの切り替え、ドア窓開閉、ドア開閉、などの情報である。ここで、車速は駆動系ECU105のセンサ部から得られ、吹出風量は熱管理制御ECU104のセンサ部から得られ、乗員数はシート制御ECU107のセンサ部から得られ、乗員属性は車載カメラ制御ECUの画像処理出力から得られ、内気循環モードと外気導入モードの切り替え(以下、モード切り替え)は熱管理制御ECU104の制御出力から得られ、ドア窓開閉とドア開閉はドア制御ECUのセンサ部から得られる。
【0027】
サーバーCS或いはサーバーCSが接続されるクラウドCRには、
図1に示すように、送信されてきた教師データのデータベースDBが構築される。
図4は、教師データをデータベース化するための一形態を示し、時系列毎に教師データをテーブル化した教師データテーブルTbを示している。図中の「ID」は、特定センサS1を搭載した第1車両V1を識別するためのID(identification)である。ここでは、第1車両V1が複数存在する場合を示している。図中の「TIME」は、教師データの受信日時を示す。図中の「IGN」は、車両の作動状態を示し、「ON」が作動状態、「OFF」が非作動状態を示す。図中の「SPEED」の数値は、車速をkm/h単位で示す。図中の「BAV」は、吹出風量の風量大を「H」、風量小を「L」で示す。図中の「OPA」は、乗員属性(Occupant attributes)を考慮して、大人を「1」子供を「0.5」とした合算値を示す。図中の「WOC」は窓開閉であり、「0」がドア窓の閉を示し、「1」がドア窓の開を示す。図中の「DOC」はドア開閉であり、「0」がドア閉を示し、「1」がドア開を示す。図中の「MODE」は、内気循環・外気導入のモード切り替えを示し、「0」が内気循環モード、「1」が外気導入モードを示す。図中の「CO
2」はCO
2濃度であり、特定センサS1で検知したCO
2濃度をppm単位で示している。
【0028】
第1車両V1は、通信用ECU103がサーバーCSと通信可能なタイミングで随時教師データを送信するようにしてもよいし、第1車両V1の制御装置100内のメモリで、一定期間(例えば1日分)の教師データを蓄積して教師データテーブルTbを作成し、所定のタイミングで一定期間(1日分)の教師データテーブルTbをサーバーCSに送信するようにしてもよい。第1車両V1の運転期間を十分に確保することで、教師データテーブルTbは大量のデータ量になり、データベースDBには教師データのビックデータが構築されることになる。
【0029】
クラウドCR上のサーバーCSは、自身が備えるか或いはクラウドCR上で利用可能なAI(人工知能:Artificial Intelligence)による機械学習機能(機械学習プログラム)を用い、データベースDBに蓄積された教師データテーブルTbに基づいて、特定センサS1の検知情報(CO2濃度)を推定するためのAIモデル(推定モデル)を作成する。推定モデルの一例としては、推定する特定センサS1の検知情報(CO2濃度)を目的変数として、教師データにおける関連情報を説明変数とする多重回帰分析モデルを採用することができるが、これに限らず、既知の機械学習機能によって作成される適宜の推定モデルを採用することができる。
【0030】
サーバーCSが多数の教師データテーブルTbを機械学習して作成した推定モデルは、学習済み推定モデルとして、複数の第2車両V2に配信される。第2車両V2は、サーバーCSが配信した学習済み推定モデルを受信すると、自身の制御装置200内に格納することで、学習済み推定モデルを用いて、特定センサS1の推定情報を出力する。
【0031】
第1車両V1と第2車両V2における車室内のCO2濃度に関する熱管理制御ロジックを説明する。第1車両V1の制御装置100における熱管理制御ECU104は、センサ部120からの各種検知情報を取得して空調制御を含む熱管理制御を行いながら、特定センサS1が検知したCO2濃度の検知情報を取得して、検知されたCO2濃度が設定値より高いか低いかの判断を行い、設定値より高い場合には、空調ユニット130を外気導入モードに切り替え、設定値より低い場合には、現状が内気循環モードの場合は現状を維持し、現状が外気導入モードの場合には内気循環モードに切り替える。
【0032】
これに対して、第2車両V2の制御装置200における熱管理制御ECU104は、
図5に示すように、熱管理制御部104Aと、サーバーCSから配信された学習済み推定モデル104Cと、学習済み推定モデル104Cに入力する関連情報を選択する関連情報選択部104Bと、学習済み推定モデル104Cによって推定された推定CO
2濃度(推定情報)に基づいてCO
2濃度の判定を行うCO
2濃度判定部104Dの各機能(プログラム)を備える。
【0033】
熱管理制御部104Aは、センサ部120の各種検知情報に基づいて、冷媒回路131や熱媒体回路132や空調ユニット130に制御信号を送り、冷媒回路131と熱媒体回路132における熱管理制御と、空調ユニット130における通常空調動作(130A)を行う。また、熱管理制御部104Aは、DEFモードや乗員によるモード選択によって、内気循環・外気導入モードの切り替え制御を行う。これによって、車室内のCO2濃度は変化するが、この際のモード切り替えの情報は、関連情報として、後述する学習済み推定モデル104Cに入力される。
【0034】
関連情報選択部104Bは、センサ部120の各種検知情報の一部を取得すると共に、他の車載ECU(駆動系ECU105、ドア制御ECU106、シート制御ECU107、車載カメラ制御ECU108など)から制御出力を取得して、学習済み推定モデル104Cに入力するために関連情報(ここでは、車速、吹出風量、乗員数、乗員属性、外気導入と内気循環モードの切り替え情報、ドア窓開閉情報、ドア開閉情報など)を選択して、選択した関連情報を学習済み推定モデル104Cに入力する。
【0035】
学習済み推定モデル104Cは、入力された関連情報に基づいて、第2車両V2が搭載していない特定センサS1の推定情報(推定CO2濃度)を求め、これをCO2濃度判定部104Dに出力する。CO2濃度判定部104Dは、入力された推定CO2濃度が設定値より高いか低いかの判断を行い、設定値より高い場合には、空調ユニット130の内気循環・外気導入モード切り替え(130B)を実行することで、外気導入モードに切り替え、設定値より低い場合には、同切り替え(130B)の実行で、現状が内気循環モードの場合は現状を維持し、現状が外気導入モードの場合には内気循環モードに切り替える。
【0036】
このように、第2車両V2の制御装置200における熱管理制御ECU104は、センサ部120が高価な特定センサ(CO2濃度センサ)S1を搭載していなくても、特定センサS1を搭載している第1車両V1と同等の制御を行うことができ、これによって、車室内におけるCO2濃度を適正化することができる。
【0037】
第1車両V1における特定センサS1は、前述した車室内CO2濃度センサだけでなく、様々なセンサを対象とすることができる。その一例は、着霜検知センサである。着霜検知センサは、冷媒回路131における室外熱交換器が着霜したことを検知するセンサであり、冷媒回路131の室外熱交換器を撮像するカメラや室外熱交換器の通風量を検知するセンサなどで構成することができる。
【0038】
特定センサS1が前述した着霜検知センサの場合には、第1車両V1からサーバーCSに送信される教師データは、着霜検知センサの検知情報(カメラ画像や痛風量センサの値)とこれに関連する関連情報である。この際の関連情報は、車速、吹出風量、冷媒回路131の圧縮機回転数、外気温度、室外熱交換器の出口水温(熱媒体温度)、冷媒回路131の冷媒圧力、などである。そして、サーバーCSは、この教師データにより着霜検知センサの推定情報を得るために学習済み推定モデルを作成して、これを第2車両V2に配信する。
【0039】
特定センサS1が着霜検知センサの場合における、第2車両V2の制御装置200における熱管理制御ECU104の制御ロジックを、
図6にて説明する。この場合は、第2車両V2の制御装置200における熱管理制御ECU104は、除霜モードの切り替え制御を行わない熱管理制御部104A1と、サーバーCSから配信された着霜検知センサの推定情報を得るための学習済み推定モデル104C1と、学習済み推定モデル104C1に入力する関連情報を選択する関連情報選択部104B1と、学習済み推定モデル104C1によって推定された推定情報に基づいて室外熱交換器の着霜判定を行う着霜判定部104D1の各機能(プログラム)を備える。
【0040】
熱管理制御部104A1は、センサ部120の各種検知情報に基づいて、空調ユニット130や冷媒回路131や熱媒体回路132に制御信号を送り、空調ユニット130及び熱媒体回路132における熱管理制御と、冷媒回路131における通常熱管理動作(131A)を行う。
【0041】
関連情報選択部104B1は、センサ部120の各種検知情報の一部を取得すると共に、他の車載ECU(駆動系ECU105、ドア制御ECU106、シート制御ECU107、車載カメラ制御ECU108など)から制御出力を取得して、学習済み推定モデル104C1に入力するために前述した関連情報を選択して、選択した関連情報を学習済み推定モデル104C1に入力する。
【0042】
学習済み推定モデル104C1は、入力された関連情報に基づいて、第2車両V2が搭載していない特定センサS1の推定情報(着霜検知情報)を求め、これを着霜判定部104D1に出力する。着霜判定部104D1は、入力された推定情報が設定状態より高いか低いかの判断を行い、設定状態より高い場合(着霜が進んでいる場合)には、冷媒回路131の除霜モード切り替え動作(131B)を実行して、除霜モードを実行し、設定状態より低い場合(着霜が進んでいない場合)には、冷媒回路131の除霜モードへの切り替えを行わない。
【0043】
特定センサS1の他の例は、バッテリーセルの温度分布を検知するためのバッテリー温度センサである。バッテリー温度センサは、通常、バッテリーを冷却する熱媒体回路におけるバッテリーケースへの入り口と出口に設けられている。ところが、バッテリーケース内のバッテリーセル間で温度差が大きくなると、バッテリーの劣化に繋がるため、バッテリーを精緻に温度管理するためには、バッテリーケース内に複数個(好ましくはバッテリーセル毎に)バッテリー温度センサを設けて、バッテリーセルの温度分布を把握することが必要になる。
【0044】
しかしながら、バッテリー温度センサの数が増えると、その分コストが増すため、第1車両V1では、バッテリーケース内に複数個のバッテリー温度センサを設けてバッテリーセルの温度分布に対応した精緻なバッテリーの温度管理を行い、第2車両V2では、通常のバッテリー温度センサでバッテリーの温度管理を行いながら、学習済み推定モデルを用いてバッテリーセルの温度分布を推定し、推定情報に基づいて、バッテリーセルの温度分布に対応した熱管理制御を行う。
【0045】
特定センサS1が、バッテリーセルの温度分布を検知する複数個のバッテリー温度センサの場合には、第1車両V1からサーバーCSに送信される教師データは、複数個のバッテリー温度センサによって検知されたバッテリーセルの温度分布の検知情報と、これに関連する関連情報である。この際の関連情報は、車速、バッテリー残量、バッテリー電流、外気温度、バッテリー温調水温、バッテリー温調水流量、などである。そして、サーバーCSは、この教師データによりバッテリーセルの温度分布を検知する推定情報を得るために学習済み推定モデルを作成して、これを第2車両V2に配信する。
【0046】
特定センサS1がバッテリーセルの温度分布を検知する複数個のバッテリー温度センサの場合における、第2車両V2の制御装置200における熱管理制御ECU104の制御ロジックを、
図7にて説明する。この場合は、第2車両V2の制御装置200における熱管理制御ECU104は、バッテリーセル温度分布対応制御を行わない熱管理制御部104A2と、サーバーCSから配信された学習済み推定モデル104C2と、学習済み推定モデル104C2に入力する関連情報を選択する関連情報選択部104B2と、学習済み推定モデル104C2によって推定された推定情報に基づいてバッテリーセルの温度分布を判定するバッテリーセル温度分布判定部104D2の各機能(プログラム)を備える。
【0047】
熱管理制御部104A2は、センサ部120の各種検知情報に基づいて、空調ユニット130や冷媒回路131や熱媒体回路132に制御信号を送り、空調ユニット130及び熱媒体回路132における熱管理制御と、熱媒体回路132における通常熱管理動作(132A)を行う。
【0048】
関連情報選択部104B2は、センサ部120の各種検知情報の一部を取得すると共に、他の車載ECU(駆動系ECU105、ドア制御ECU106、シート制御ECU107、車載カメラ制御ECU108など)から制御出力を取得して、学習済み推定モデル104C2に入力するために前述した関連情報を選択して、選択した関連情報を学習済み推定モデル104C2に入力する。
【0049】
学習済み推定モデル104C2は、入力された関連情報に基づいて、第2車両V2が搭載していない特定センサS1であるバッテリーセルの温度分布を検知する複数個のバッテリー温度センサ推定情報を求め、これをバッテリーセル温度分布判定部104D2に出力する。バッテリーセル温度分布判定部104D2は、入力された推定情報が設定状態より高いか低いかの判断を行い、設定状態より高い場合(バッテリーセル毎の温度差が大きい場合)には、熱媒体回路132をバッテリーセル温度分布対応動作(132B)に切り替え、バッテリーセルの温度が小さくなるように温調制御を行い、設定状態より低い場合(バッテリーセル毎の温度差が小さい場合)には、熱媒体回路132のバッテリーセル温度分布対応動作を行わない。
【0050】
図8には、システム1の活用例を示している。この例では、前述した特定センサS1を第1特定センサS01と第2特定センサS02として、第1車両V1は、第1特定センサS01を搭載しているが、第2特定センサS02は非搭載であり、第2車両V2は、第1特定センサS01を非搭載で、第2特定センサS02を搭載しているシステム構成にする。そして、第1車両V1は、第1特定センサS01の検知情報とそれに関連した関連情報からなる教師データをサーバーCSに送信し、第2車両V2は、第2特定センサS02の検知情報とそれに関連した関連情報からなる教師データをサーバーCSに送信する。
【0051】
この際のサーバーCSは、第1車両V1から送信された教師データを基にして第2車両V2に配信するための学習済み推定モデルを作成すると共に、第2車両V2から送信された教師データを基にして第1車両V1に配信するための学習済み推定モデルを作成する。ここで、第1車両V1に配信される学習済み推定モデルは、第1車両V1が非搭載の第2特定センサS02の推定情報をえるためのモデルであり、第2車両V2に配信される学習済み推定モデルは、第2車両V2の非搭載の第1特定センサS01の推定情報を得るためのモデルである。
【0052】
このようなシステム1の活用例によると、第1車両V1と第2車両V2で相互に非搭載のセンサを推定情報によって補うことができるので、コストを抑えながら精緻な熱管理制御を実行することができる。第1特定センサS01の一例は、車室内のCO2濃度センサとすることができ、第2特定センサS02の一例は、車外のPM2.5検知センサ(微小粒子状物質検知センサ)とすることができる。
【0053】
この例では、第1車両V1と第2車両V2の熱管理制御ECU104で空調ユニット130における内気循環・外気導入モード切り替え制御を行うに際して、第1車両V1では、CO2濃度センサの検知情報で車室内のCO2濃度が高いと判断される場合に外気導入モードへの切り替えを行い、PM2.5検知センサの推定情報で車外のPM2.5が高いと判断される場合に外気導入モードから内気循環モードへの切り替えを行うことができる。また、第2車両V2では、CO2濃度センサの推定情報で車室内のCO2濃度が高いと判断される場合に外気導入モードへの切り替えを行い、PM2.5検知センサの検知情報で車外のPM2.5が高いと判断されると外気導入モードから内気循環モードへの切り替えを行うことができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成などに特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:車両用熱管理制御システム(システム),
V1:第1車両,V2:第2車両,CS:サーバー,CR:クラウド,
S1:特定センサ,S01:第1特定センサ,S02:第2特定センサ,
DB:データベース,Tb:教師データテーブル,
100,200:制御装置,
101:車載ネットワーク,102:中継用ECU,103:通信用ECU,
104:熱管理制御ECU,105:駆動系ECU,106:ドア制御ECU,
107:シート制御ECU,108:車載カメラ制御ECU,
110:CPU,111:ROM,112:RAM,113:外部I/F,
114:バスライン,115:ゲートウェイ,
120:センサ部,121:センサ,
130:空調ユニット,131:冷媒回路,132:熱媒体回路,
104A,104A1,104A2:熱管理制御部,
104B,104B1,104B2:関連情報選択部,
104C,104C1,104C2:学習済み推定モデル,
104D:CO2濃度判定部,104D1:着霜判定部,
104D2:バッテリーセル温度分布判定部,
130A:通常空調動作,131A,132A:通常熱管理動作,
130B:内気循環・外気導入モード切り替え,
131B:除霜モード切り替え動作,
132B:バッテリーセル温度分布対応動作