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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155533
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】共重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 224/00 20060101AFI20241024BHJP
   C08F 4/52 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08F224/00
C08F4/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070324
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】浪江 祐司
(72)【発明者】
【氏名】島影 雅史
(72)【発明者】
【氏名】曽根 卓男
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J015DA05
4J015EA03
4J100AL03P
4J100AL04P
4J100AL05P
4J100AQ01Q
4J100BA11Q
4J100CA04
4J100CA27
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA12
4J100FA28
4J100JA28
4J100JA32
4J100JA43
4J100JA51
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】α-エキソメチレンラクトン化合物に由来する繰り返し単位を含み、かつ分子量及び分子量分布が精密に制御された共重合体を得ることができる共重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】式(3)で表される化合物と、式(4)で表される化合物とを含む単量体を、式(5)で表される化合物及びアニオン性重合開始剤の存在下で重合させる。式(3)中、R10は水素原子又はメチル基である。Rは、炭素数1~20のヒドロカルビル基等を表す。Rは2価の連結基を表す。Arは、式中の酸素原子に対してベンゼン環で結合し、当該ベンゼン環における2位及び6位の炭素に2級炭素又は3級炭素がそれぞれ結合し、4位の炭素に水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数1~6のヒドロカルビルオキシ基が結合した1価の基を表す。Rは炭素数2~10のアルキル基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物とを含む単量体を、下記式(5)で表される化合物及びアニオン性重合開始剤の存在下で重合させる、共重合体の製造方法。
【化1】
(式(3)中、R10は水素原子又はメチル基である。Rは、炭素数1~20のヒドロカルビル基を表し、窒素、酸素、硫黄及びハロゲンよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を有するヘテロ元素含有基で置換されていてもよい。式(4)中、Rは2価の連結基を表す。)
【化2】
(式(5)中、Arは、式中の酸素原子に対してベンゼン環で結合し、当該ベンゼン環における2位及び6位の炭素に2級炭素又は3級炭素がそれぞれ結合し、4位の炭素に水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数1~6のヒドロカルビルオキシ基が結合した1価の基を表す。Rは炭素数2~10のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記アニオン性重合開始剤が、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸のアニオンと、アンモニウムカチオンとの塩である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記共役酸のアニオンが、カルボキシラートイオン、アジ化物イオン又は2,4-ジニトロフェノールイオンである、請求項2に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
重合温度が-10~20℃である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒中で前記単量体を重合させる、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
上記式(3)中のRが、前記ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項7】
上記式(4)中のRが、炭素数2~5のアルカンジイル基又は*-O-CO-R11-(ただし、R11は炭素数1~4のアルカンジイル基であり、「*」は式(4)中のビニル基側との結合手を表す。)である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記上記式(3)で表される化合物と上記式(4)で表される化合物との使用割合が、モル比(上記式(3)で表される化合物/上記式(4)で表される化合物)で、50/50~99/1である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項9】
下記式(3)で表される化合物に由来する繰り返し単位と、下記式(4)で表される化合物に由来する繰り返し単位とを有し、かつ、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸に由来する構造を末端に有する、共重合体。
【化3】
(式(3)中、R10は水素原子又はメチル基である。Rは、炭素数1~20のヒドロカルビル基を表し、窒素、酸素、硫黄及びハロゲンよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を有するヘテロ元素含有基で置換されていてもよい。式(4)中、Rは2価の連結基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及びその製造方法に関し、より詳細には、α-エキソメチレンラクトン化合物に由来する繰り返し単位を含む共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非環状(メタ)アクリレートにα-エキソメチレンラクトンを共重合すると、単独重合体と比べて耐熱性、耐溶剤性、機械特性等に優れたポリマーが得られることから、種々の検討が行われている。特許文献1には、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとメタクリル酸メチルとの共重合、あるいはα-メチレン-γ-ブチロラクトンとメタクリル酸メチルとメタクリル酸ベンジルとの共重合により、α-メチレン-γ-ブチロラクトンに由来する繰り返し単位を含む共重合体を得たことが開示されている。α-メチレン-γ-ブチロラクトンは植物由来の原料から得られる重合性モノマーであり、炭素循環型社会への貢献に寄与し得る点からも注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-83035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重合体が持つ分子量や分子量分布は、その重合体の物性等に深く関係することが知られている。しかしながら、α-エキソメチレンラクトンに由来する繰り返し単位を含む共重合体においては、分子量や分子量分布を精密に制御することの検討が未だ十分でない。
【0005】
具体的には、α-エキソメチレンラクトンのアクリル骨格は、環歪みやs-シス配座に固定されたアクリル骨格のため、メタクリル酸メチル等の非環状(メタ)アクリレートと比べて高い反応性を示す。このため、α-エキソメチレンラクトンと非環状(メタ)アクリレートとの共重合においては、モノマーの反応性差が重合を制御する上での課題になる。例えば、α-メチレン-γ-ブチロラクトンのグループトランスファー重合により、制御された分子量と狭い分子量分布からなる単独重合体が合成されている。しかしながら、メタクリル酸メチルとの共重合では、メタクリル酸メチルを先行して重合したブロック共重合のみが成功しており、逆にα-メチレン-γ-ブチロラクトンの重合を先行させた場合には、メタクリル酸メチルの重合には繋がらず、α-メチレン-γ-ブチロラクトンの単独重合体のみが得られる。すなわち、α-メチレン-γ-ブチロラクトン由来の単位を末端基とする成長種から、メタクリル酸メチルへの交差成長反応を誘起することはできない。このことは、グループトランスファー重合では、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとメタクリル酸メチルのランダム共重合体が得られないことを意味している。また、α-エキソメチレンラクトンとアクリレートとの精密共重合は報告されていない。そこで、α-エキソメチレンラクトンと(メタ)アクリレートとの共重合体において、分子量や分子量分布を精密に制御する技術を開発し、分子量が適度に高く、かつ分子量分布が十分に狭い重合体を提供することが求められる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、α-エキソメチレンラクトン化合物に由来する繰り返し単位を含み、かつ分子量及び分子量分布が精密に制御された共重合体を得ることができる共重合体の製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく、本発明によれば以下の共重合体の製造方法及び共重合体が提供される。
【0008】
下記式(3)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物とを含む単量体を、下記式(5)で表される化合物及びアニオン性重合開始剤の存在下で重合させる、共重合体の製造方法。
【化1】
(式(3)中、R10は水素原子又はメチル基である。Rは、炭素数1~20のヒドロカルビル基を表し、窒素、酸素、硫黄及びハロゲンよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を有するヘテロ元素含有基で置換されていてもよい。式(4)中、Rは2価の連結基を表す。)
【化2】
(式(5)中、Arは、式中の酸素原子に対してベンゼン環で結合し、当該ベンゼン環における2位及び6位の炭素に2級炭素又は3級炭素がそれぞれ結合し、4位の炭素に水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数1~6のヒドロカルビルオキシ基が結合した1価の基を表す。Rは炭素数2~10のアルキル基を表す。)
【0009】
上記式(3)で表される化合物に由来する繰り返し単位と、上記式(4)で表される化合物に由来する繰り返し単位とを有し、かつ、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸に由来する構造を末端に有する、共重合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、α-エキソメチレンラクトン化合物に由来する繰り返し単位を含む共重合体として、分子量及び分子量分布が精密に制御された共重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。各成分については特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を包含する用語である。
【0012】
≪共重合体の製造方法≫
本開示の共重合体の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、下記式(3)で表される化合物(以下、単に「(メタ)アクリル酸エステル化合物」ともいう。)と、下記式(4)で表される化合物とを含む単量体(以下、単に「α-メチレンラクトン化合物」ともいう。)を、下記式(5)で表される化合物(以下、「有機アルミニウム化合物」ともいう。)及びアニオン性重合開始剤の存在下で重合させる工程を含む。
【化3】
(式(3)中、R10は水素原子又はメチル基である。Rは、炭素数1~20のヒドロカルビル基を表し、窒素、酸素、硫黄及びハロゲンよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を有するヘテロ元素含有基で置換されていてもよい。式(4)中、Rは2価の連結基を表す。)
【化4】
(式(5)中、Arは、式中の酸素原子に対してベンゼン環で結合し、当該ベンゼン環における2位及び6位の炭素に2級炭素又は3級炭素がそれぞれ結合し、4位の炭素に水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数1~6のヒドロカルビルオキシ基が結合した1価の基を表す。Rは炭素数2~10のアルキル基を表す。)
【0013】
<単量体>
・(メタ)アクリル酸エステル化合物
上記式(3)において、R10は、共重合性の観点から、水素原子であることが好ましい。Rで表される炭素数1~20のヒドロカルビル基としては、炭素数1~20の1価の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。ここで、本明細書において脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている場合に限らず、その一部に鎖状構造を有していてもよい。また、芳香族炭化水素基は、芳香環構造のみで構成されている場合に限らず、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を有していてもよい。
【0014】
は、炭素数1~20のヒドロカルビル基が有する任意の水素原子が、窒素、酸素、硫黄及びハロゲンよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を有するヘテロ元素含有基(以下、単に「ヘテロ元素含有基」ともいう。)で置換されていてもよい。ヘテロ元素含有基としては、オキセタニル基、オキシラニル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基、ハロ基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等)が挙げられる。
【0015】
は、α-メチレンラクトン化合物との共重合性の観点から、ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基であることが好ましい。また、単量体の反応率を高くできる点や、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn、以下「分子量分布」ともいう。)がより狭い共重合体を得る観点から、Rは、炭素数2以上の置換又は無置換のアルキル基が好ましく、炭素数4以上の置換又は無置換のアルキル基がより好ましく、炭素数8以上の置換又は無置換のアルキル基が更に好ましい。Rで表されるアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。
【0016】
上記式(3)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル及び芳香環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、これらの化合物が有する水素原子がヘテロ元素含有基で置換されていてもよい。
【0017】
上記式(3)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物の更なる具体例としては、ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ブロモエチル、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル等が挙げられる。
【0018】
ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸2-メチルシクロへキシル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,5]デカン-8-イルオキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸(パーフルオロシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル等が挙げられる。
ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい芳香環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロフェニル等が挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、α-メチレンラクトン化合物に由来する繰り返し単位を重合体に導入することによる耐熱性、耐溶剤性、機械特性等の改善効果がより高い点で、上記の中でも、ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(すなわち、上記式(3)中のRがアルキル基である化合物)がより好ましく、上記式(3)中のRが直鎖状のアルキル基である化合物が更に好ましい。
【0020】
・α-メチレンラクトン化合物
上記式(4)において、Rで表される2価の連結基としては、炭素数2~5のヒドロカルビレン基、当該ヒドロカルビレン基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-COO-等で置き換えられた2価の基等が挙げられる。Rが有する炭素数2~5のヒドロカルビレン基は、鎖状構造であることが好ましく、炭素数2~5の直鎖状又は分岐状のアルカンジイル基であることがより好ましい。
【0021】
上記式(4)中のRは、中でも、炭素数2~5のアルカンジイル基、当該アルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-COO-等で置き換えられた2価の基が好ましく、炭素数2~5のアルカンジイル基又は*-O-CO-R11-(ただし、R11は炭素数1~4のアルカンジイル基であり、「*」は式(4)中のビニル基側との結合手を表す。)がより好ましく、炭素数2~5のヒドロカルビレン基が更に好ましい。原料の入手容易性の観点や、上記式(3)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合性の観点から、Rはこれらの中でも、炭素数2~4のアルカンジイル基が好ましく、炭素数2又は3が特に好ましい。
【0022】
上記式(4)で表される化合物の具体例としては、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、α-メチレン-δ-バレロラクトン、下記式
【化5】
で表される化合物等が挙げられる。
【0023】
重合に際して使用する(メタ)アクリル酸エステル化合物とα-メチレンラクトン化合物との使用割合は、モル比((メタ)アクリル酸エステル化合物/α-メチレンラクトン化合物)で、50/50~99/1とすることが好ましい。α-メチレンラクトン化合物に由来する性能を重合体に対し十分に付与しつつ、分子量及び分子量分布の精密制御を高精度に行わせる観点から、(メタ)アクリル酸エステル化合物とα-メチレンラクトン化合物との使用割合(モル比)は、55/45~99/1とすることがより好ましく、60/40~99/1とすることが更に好ましく、60/40~95/5とすることがより更に好ましい。
【0024】
重合に際しては、本開示の効果を損なわない範囲において、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びα-メチレンラクトン化合物とは異なる単量体を併用してもよい。当該単量体の具体例としては、メタクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、スチレン、エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0025】
重合に使用する単量体のうち、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びα-メチレンラクトン化合物の合計の使用量は、分子量及び分子量分布の制御性を高める観点から、80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましく、95モル%以上であることがより更に好ましい。
【0026】
本開示による(メタ)アクリル酸エステル化合物及びα-メチレンラクトン化合物の重合系では、アニオン性重合開始剤と共に使用される有機アルミニウム化合物がルイス酸として機能することにより重合反応(アニオン重合)が進行すると考えられる。以下、本製造方法において使用される有機アルミニウム化合物及びアニオン性重合開始剤について説明する。
【0027】
<有機アルミニウム化合物>
有機アルミニウム化合物は、助触媒としての機能を有する限り、特に限定されない。上記式(5)において、Arで表される1価の基が有するベンゼン環の2位及び6位の炭素には2級炭素又は3級炭素がそれぞれ結合している。すなわち、Arで表される1価の基が有するベンゼン環の2位及び6位にはそれぞれ、2級炭素又は3級炭素を有する基(以下、「特定炭素含有基」ともいう。)が結合している。なお、Arで表される1価の基が有するベンゼン環の2位と6位とに結合する特定炭素含有基は同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、当該ベンゼン環の2位に結合する特定炭素含有基が2級炭素を有する基であって、6位に結合する特定炭素含有基が3級炭素を有する基であってもよい。
【0028】
特定炭素含有基は、ヒドロカルビル基(より詳しくは、2級炭素又は3級炭素を有し、かつ2級炭素又は3級炭素でベンゼン環に結合するヒドロカルビル基)であることが好ましく、具体的には、1価の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。特定炭素含有基は、これらの中でも1価の鎖状炭化水素基が好ましく、2級アルキル基又は3級アルキル基がより好ましい。特定炭素含有基の好ましい具体例としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0029】
なお、ここでいう「2級炭素」は、ベンゼン環との結合手を除いて2個の炭化水素基と結合している炭素をいう。「3級炭素」は、ベンゼン環との結合手を除いて3個の炭化水素基と結合している炭素をいう。
【0030】
Arで表される1価の基が有するベンゼン環の4位の炭素には、水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数1~6のヒドロカルビルオキシ基が結合している。炭素数1~6のヒドロカルビル基、及び炭素数1~6のヒドロカルビルオキシ基中のヒドロカルビル基としては、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。これらのうち、鎖状炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0031】
で表される炭素数2~10のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。Rの具体例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、1,1-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0032】
有機アルミニウム化合物の好ましい例としては下記式(5A)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
(式(5A)中、R及びRは、互いに独立して、2級炭素又は3級炭素を有し、かつ2級炭素又は3級炭素でベンゼン環に結合するヒドロカルビル基を表す。Rは水素原子、塩素原子、フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を表す。Rは炭素数2~10のアルキル基を表す。)
【0033】
及びRは、中でも、3級炭素を有し、かつ3級炭素でベンゼン環に結合するヒドロカルビル基であることが好ましく、3級炭素を有し、かつ3級炭素でベンゼン環に結合するアルキル基であることがより好ましい。
【0034】
上記重合に際して使用される有機アルミニウム化合物の具体例としては、下記式(5-1)~式(5-8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、式中、「Et」はエチル基、「iBu」はイソブチル基、「Oc」はn-オクチル基をそれぞれ表す。
【化7】
【0035】
上記重合に際し、有機アルミニウム化合物の使用量は、重合に使用する単量体の合計100モル部に対して、0.01~10モル部とすることが好ましく、0.1~5モル部とすることがより好ましい。
【0036】
<アニオン性重合開始剤>
アニオン性重合開始剤としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物とα-メチレンラクトン化合物との重合反応を十分に進行させる観点から、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸のアニオンと、アンモニウムカチオンとの塩を好ましく使用することができる。また、アニオン性重合開始剤が有する共役酸のアニオンの酸性度定数(pKa)は、例えば2以上であり、2.5以上が好ましい。
【0037】
アニオン性重合開始剤が有する共役酸のアニオンの具体例としては、カルボキシラートイオン、アジ化物イオン、2,4-ジニトロフェノールイオン等が挙げられる。アニオン性重合開始剤の入手容易性の観点から、アニオン性重合開始剤が有する共役酸のアニオンは、これらのうち、カルボキシラートイオン又はアジ化物イオンが好ましく、カルボキシラートイオンがより好ましい。
【0038】
アニオン性重合開始剤が、カルボキシラートイオンとアンモニウムカチオンとの塩(以下、「カルボキシラート化合物」ともいう。)である場合、カルボキシラート化合物としては、重合系内においてカルボキシラートイオンを生じることによって重合開始剤として機能し得る化合物であればよい。
【0039】
カルボキシラート化合物としては、「RCOON(R 」で表されるカルボン酸アンモニウム塩(ただし、R及びRは互いに独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を表す。複数のRは同一又は異なる。)が挙げられる。カルボン酸アンモニウム塩を与えるカルボン酸(R-COOH)としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。これらの具体例としては、脂肪族カルボン酸として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸;等が挙げられる。芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸等が挙げられる。これらのうち、飽和脂肪酸又は芳香族カルボン酸が好ましく、「R7a-COOH」で表されるカルボン酸(ただし、R7aは炭素数1~12の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はフェニル基である。)がより好ましい。
【0040】
アンモニウム(N(R )について、Rは炭素数1~12の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はフェニル基であることが好ましい。アンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、テトラドデシルアンモニウム等が挙げられる。
【0041】
カルボキシラート化合物の具体例としては、上記で例示したカルボン酸由来のカルボキシアニオンとアンモニウムとを任意に組み合わせてなる化合物が挙げられる。その一例としては、下記式(6-1)~式(6-6)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化8】
【0042】
上記重合に際し、アニオン性重合開始剤の使用量は、重合に使用する単量体の合計100モル部に対して、0.01~10モル部とすることが好ましく、0.1~5モル部とすることがより好ましい。
【0043】
本製造方法において使用する重合法は特に限定されず、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、気相重合法、バルク重合法等が挙げられる。これらのうち、溶液重合法が好ましい。重合形式は、回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。溶液重合とする場合、重合に使用する有機溶媒としては炭化水素類を挙げることができ、その具体例としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。重合に使用する有機溶媒は、これらの中でもトルエンが好ましい。なお、使用する有機溶媒は1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。有機溶媒の使用量は、生産性と重合コントロールの容易性とのバランスを維持する観点から、重合に使用する単量体の合計100質量部に対して、200~3,000質量部とすることが好ましい。
【0044】
重合温度は、-30℃~50℃の範囲内とすることが好ましく、-20℃~40℃の範囲内とすることがより好ましく、-10℃~20℃の範囲内とすることが更に好ましい。本製造方法では、重合温度を-10℃~20℃と比較的高温とした場合にも、数平均分子量(Mn)が20,000以上であって、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.0~3.0である(メタ)アクリル酸エステル化合物/α-メチレンラクトン化合物共重合体を得ることができる。分子量及び分子量分布を精密に制御しつつ、できるだけ穏和な条件で重合を行う観点から、重合温度は-7℃以上が好ましく、-5℃以上がより好ましい。また、副反応を抑制する観点から、重合温度は、15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。重合反応は、モノマーを実質的に液相に保つのに十分な圧力の下で行うことが好ましい。
【0045】
上述した本製造方法によれば、本開示の共重合体、すなわち、上記式(3)で表される化合物に由来する繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(U1)」ともいう。)と、上記式(4)で表される化合物に由来する繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(U2)」ともいう。)とを有し、かつ、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸に由来する構造を末端に有する共重合体を、比較的穏和な温度条件の重合反応によって得ることができる。本製造方法により得られる共重合体は、繰り返し単位(U1)と繰り返し単位(U2)とのランダム共重合体であることが好ましい。
【0046】
本開示の共重合体における繰り返し単位(U1)の含有量は、分子量特性の制御を高める観点から、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。また、十分な量の繰り返し単位(U2)を共重合体中に導入することにより重合体の耐熱性や耐溶剤性、機械特性等を高める観点や、バイオマス由来ポリマーとしての有用性を高める観点から、繰り返し単位(U1)の含有量は、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して、99モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下が更に好ましい。なお、本明細書において「繰り返し単位」とは、重合体の主鎖構造を主に構成する単量体単位であって、1分子内に複数含まれる単位である。
【0047】
本開示の共重合体における繰り返し単位(U2)の含有量は、十分な量の繰り返し単位(U2)を共重合体中に導入して重合体の耐熱性や耐溶剤性、機械特性等を高める観点や、バイオマス由来ポリマーとしての有用性を高める観点から、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して、1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましい。また、繰り返し単位(U2)の含有量は、十分な量の繰り返し単位(U2)を共重合体中に導入しつつ、重合体の分子量特性の制御性を高める観点から、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0048】
本開示の共重合体において、繰り返し単位(U1)と繰り返し単位(U2)との合計量は、共重合体を構成する繰り返し単位の全量に対して80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましく、95モル%以上であることがより更に好ましい。
【0049】
本開示の共重合体につき、数平均分子量(Mn)は20,000以上であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が20,000以上であると、強度や耐熱性、加工性がより良好な重合体とすることができる傾向がある。本開示の共重合体の数平均分子量(Mn)は、22,000以上であることが好ましく、25,000以上であることがより好ましい。また、本開示の共重合体の数平均分子量(Mn)は、流動性や加工性、柔軟性の向上を図る観点から、3,000,000以下であることが好ましく、2,000,000以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、重合体(共重合体を含む)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算値である。
【0050】
本開示の共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~3.0であることが好ましい。分子量分布をより高度に制御する観点からすると、分子量分布(Mw/Mn)は、2.7以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、2.0以下がより更に好ましく、1.9以下が一層好ましい。
【0051】
上記において説明した本開示の共重合体及び本製造方法により得られる共重合体は、α-エキソメチレンラクトン由来の繰り返し単位を含むことにより、高屈折率を示すことや、透明性や耐熱性、耐溶剤性に優れることが期待される。また、重合に使用されるα-エキソメチレンラクトン化合物は、植物由来の原料から得ることができる重合性モノマーである。したがって、本開示の共重合体及び本製造方法により得られる共重合体は、炭素循環型社会への貢献に寄与しつつ、各種用途、例えば、光学部材や電気機器、自動車部材、建築部材、医療用器具等の幅広い用途に適用されることが期待される。
【0052】
以上説明した本開示によれば、次の手段が提供される。
〔手段1〕 上記式(3)で表される化合物と、上記式(4)で表される化合物とを含む単量体を、上記式(5)で表される化合物及びアニオン性重合開始剤の存在下で重合させる、共重合体の製造方法。
〔手段2〕 前記アニオン性重合開始剤が、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸のアニオンと、アンモニウムカチオンとの塩である、〔手段1〕に記載の共重合体の製造方法。
〔手段3〕 前記共役酸のアニオンが、カルボキシラートイオン、アジ化物イオン又は2,4-ジニトロフェノールイオンである、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の共重合体の製造方法。
〔手段4〕 重合温度が-10~20℃である、〔手段1〕~〔手段3〕のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
〔手段5〕 有機溶媒中で前記単量体を重合させる、〔手段1〕~〔手段4〕のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
〔手段6〕 上記式(3)中のRが、前記ヘテロ元素含有基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基である、〔手段1〕~〔手段5〕のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
〔手段7〕 上記式(4)中のRが、炭素数2~5のアルカンジイル基又は*-O-CO-R11-(ただし、R11は炭素数1~4のアルカンジイル基であり、「*」は式(4)中のビニル基側との結合手を表す。)である、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
〔手段8〕 前記上記式(3)で表される化合物と上記式(4)で表される化合物との使用割合が、モル比(上記式(3)で表される化合物/上記式(4)で表される化合物)で、50/50~99/1である、〔手段1〕~〔手段7〕のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
〔手段9〕
上記式(3)で表される化合物に由来する繰り返し単位と、上記式(4)で表される化合物に由来する繰り返し単位とを有し、かつ、酸性度定数(pKa)が5以下の共役酸に由来する構造を末端に有する、共重合体。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。重合体の分子量の測定方法を以下に示す。
【0054】
[重合体の分子量測定]:ゲルパーミエーションクロマトグラフ(商品名;HLC-8420GP、東ソー社製)を使用し、検知器として示差屈折計を用いて以下の条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した。
カラム;商品名「GMHXL-SP」(東ソー社製)2本、カラム温度;40℃
移動相;テトラヒドロフラン、流速;1.0mL/分
サンプル濃度;10mg/20mL
【0055】
1.開始剤(カルボキシラート化合物)の調製
(開始剤1の調製)
乾燥したナスフラスコに、アンモニウム塩としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを10%のメタノール溶液として19.9g入れ、ピバル酸を0.79g入れて50℃で1時間加熱を行い、その後トルエンを10mL加えて共沸脱水を行った。共沸脱水を3回行った後、窒素置換を行い、脱酸素トルエンを28mL加えて活性化したモレキュラーシーブスを入れ、約0.25Mの脱水トルエン溶液とした。これを開始剤1を含む脱水トルエン溶液として共重合体の製造に用いた。
【0056】
(開始剤2の調製)
乾燥したナスフラスコに、アンモニウム塩としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを10%のメタノール溶液として19.9g入れ、酢酸を0.48g入れて開始剤1と同様の操作を行い、約0.25Mの脱水トルエン溶液とした。これを開始剤2を含む脱水トルエン溶液として共重合体の製造に用いた。
【0057】
(開始剤3の調製)
乾燥したナスフラスコに、アンモニウム塩としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを10%のメタノール溶液として19.9g入れ、イソ酪酸を0.71g入れて開始剤1と同様の操作を行い、約0.25Mの脱水トルエン溶液とした。これを開始剤3を含む脱水トルエン溶液として共重合体の製造に用いた。
【0058】
(開始剤4の調製)
乾燥したナスフラスコに、アンモニウム塩としてテトラヘキシルアンモニウムヒドロキシドを10%のメタノール溶液として28.5g入れ、ピバル酸を0.79g入れて開始剤1と同様の操作を行い、約0.25Mの脱水トルエン溶液とした。これを開始剤4を含む脱水トルエン溶液として共重合体の製造に用いた。
【0059】
(開始剤5の調製)
乾燥したナスフラスコに、アンモニウム塩としてテトラヘキシルアンモニウムヒドロキシドを10%のメタノール溶液として28.5g入れ、イソ酪酸を0.71g入れて開始剤1と同様の操作を行い、約0.25Mの脱水トルエン溶液とした。これを開始剤5を含む脱水トルエン溶液として共重合体の製造に用いた。
【0060】
(開始剤6の調製)
乾燥したナスフラスコに、アンモニウム塩としてテトラヘキシルアンモニウムヒドロキシドを10%のメタノール溶液として28.5g入れ、安息香酸を0.98g入れて開始剤1と同様の操作を行い、約0.25Mの脱水トルエン溶液とした。これを開始剤6を含む脱水トルエン溶液として共重合体の製造に用いた。
【0061】
2.アルミニウム触媒(有機アルミニウム化合物)の調製
(Al触媒1の調製)
乾燥したシュレンク管を窒素置換し、その中に2,6-ジ-tert-ブチルフェノールを16.5g入れ、真空引きを行った後に脱酸素トルエンを加えて2Mのトルエン溶液とした。また、別の乾燥したシュレンク管にトリイソブチルアルミニウムの1.0mol/Lトルエン溶液を18mL加え、0℃に冷却したのちに、アルミニウムに対して2モル当量の2,6-ジ-tert-ブチルフェノールの溶液を滴下しながら加え、室温で撹拌しながら一晩放置することで、Al触媒1の0.5Mトルエン溶液を作製した。
【0062】
(Al触媒2の調製)
乾燥したシュレンク管を窒素置換し、その中に2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノールを18.9g入れ、Al触媒1と同様の操作を行い、Al触媒2の0.5Mトルエン溶液を作製した。
【0063】
(Al触媒3の調製)
乾燥したシュレンク管を窒素置換し、その中に2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを17.6g入れ、Al触媒1と同様の操作を行い、Al触媒3の0.5Mトルエン溶液を作製した。
【0064】
(Al触媒4の調製)
乾燥したシュレンク管を窒素置換し、その中に2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノールを7.1g入れ、真空引きを行った後に脱酸素トルエンを加えて2Mのトルエン溶液とした。また、別の乾燥したシュレンク管にトリエチルアルミニウムの1.0mol/Lトルエン溶液を15mL加え、0℃に冷却したのちに、アルミニウムに対して2モル当量の2,6-ジ-tert-ブチルフェノールの溶液を滴下しながら加え、室温で撹拌しながら一晩放置することで、Al触媒4の0.5Mトルエン溶液を作製した。
【0065】
(Al触媒5の調製)
乾燥したシュレンク管を窒素置換し、その中に2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノールを7.1g、イソブチルアルコールを2.6g入れ、真空引きを行った後に脱酸素トルエンを加えて各1Mのトルエン溶液とした。また、別の乾燥したシュレンク管にトリエチルアルミニウムの1.0mol/Lトルエン溶液を15mL加え、0℃に冷却したのちに、アルミニウムに対して各1モル当量の2,6-ジ-tert-ブチルフェノールとイソブチルアルコールの溶液を滴下しながら加え、室温で撹拌しながら一晩放置することで、Al触媒5の0.5Mトルエン溶液を作製した。
【0066】
(Al触媒6の調製)
乾燥したシュレンク管を窒素置換し、その中にイソブチルアルコールを5.2g入れ、真空引きを行った後に脱酸素トルエンを加えて2Mのトルエン溶液とした。また、別の乾燥したシュレンク管にトリエチルアルミニウムの1.0mol/Lトルエン溶液を15mL加え、0℃に冷却したのちに、アルミニウムに対して2モル当量のイソブチルアルコールの溶液を滴下しながら加え、室温で撹拌しながら一晩放置することで、Al触媒5の0.5Mトルエン溶液を作製した。
【0067】
3.共重合体の製造
(実施例1)
乾燥した二口フラスコを窒素置換した後に脱酸素トルエンを15mL添加し、アクリル酸エチルを1.3mL、α-メチレン-γ-ブチロラクトンを0.26mL添加して撹拌を行った。0℃に冷却後、Al触媒1を1.5mL添加し撹拌している中に、開始剤1を0.60mL添加し、0℃で重合を開始した。5分後にエタノール20vol%トルエン溶液を1.0mL添加して反応を停止し、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸エチルからなる共重合体を得た。重合後においては、反応溶液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析し、残モノマーから反応率を算出した。また、反応溶液をメタノールで再沈殿させてポリマーを取り出し、テトラヒドロフランに再溶解させてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて分子量を算出した。
【0068】
(実施例2)
実施例1において、アクリル酸エチルに代えてアクリル酸n-ブチル1.71mLを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸n-ブチルとからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0069】
(実施例3)
実施例1において、アクリル酸エチルに代えてアクリル酸n-ヘキシル2.11mLを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸n-ヘキシルとからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0070】
(実施例4)
実施例1において、アクリル酸エチルに代えてアクリル酸n-オクチル2.51mLを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸n-オクチルとからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0071】
(実施例5)
実施例1において、アクリル酸エチルに代えてアクリル酸n-ドデシル3.32mLに代えて用いる以外は、実施例1と同様にしてα-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸n-ドデシルとからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0072】
(実施例6)
実施例1において、アクリル酸エチルに代えてアクリル酸n-ステアリル3.89mLを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸n-ステアリルとからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0073】
(実施例7)
実施例6において、α-メチレン-γ-ブチロラクトンの量を0.60mLにしたこと、及びアクリル酸n-ステアリルの量を2.66mLに代えたこと以外は、実施例6と同様にしてα-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸n-ステアリルとからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0074】
(実施例8~12)
開始剤として開始剤2~6を用い、実施例1と同様の方法でα-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸エチルからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0075】
(実施例13~15)
触媒としてAl触媒2~4を用い、実施例1と同様の方法でα-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸エチルからなる共重合体を得た。重合後においては、実施例1と同様にして残モノマーから反応率を算出するとともに、GPCにて分子量を算出した。
【0076】
(比較例1)
乾燥した二口フラスコを窒素置換した後に脱酸素トルエンを15mL添加し、アクリル酸エチルを1.3mL、α-メチレン-γ-ブチロラクトンを0.26mL添加して撹拌を行った。0℃に冷却後、開始剤1を0.60mL添加し、0℃で重合を開始した。しかしながら、この条件では重合反応が進行せず、目的とする共重合体を得ることができなかった。
【0077】
(比較例2)
乾燥した二口フラスコを窒素置換した後に脱酸素トルエンを15mL添加し、アクリル酸エチルを1.3mL、α-メチレン-γ-ブチロラクトンを0.26mL添加して撹拌を行った。0℃に冷却後、Al触媒5を1.5mL添加し撹拌している中に、開始剤1を0.60mL添加し、0℃で重合を開始した。しかしながら、この条件では重合反応が進行せず、目的とする共重合体を得ることができなかった。
【0078】
(比較例3)
比較例2において、Al触媒5に代えてAl触媒6を用いたこと以外は比較例2と同様の操作を行い、α-メチレン-γ-ブチロラクトンとアクリル酸エチルとの重合反応を行った。しかしながら、この条件では重合反応が進行せず、目的とする共重合体を得ることができなかった。
【0079】
(比較例4)
乾燥した二口フラスコを窒素置換した後に脱酸素トルエンを15mL添加し、アクリル酸エチルを1.3mL、メタクリル酸メチルアダマンチルを0.58mL添加して撹拌を行った。0℃に冷却後、Al触媒6を1.5mL添加し撹拌している中に、開始剤1を0.60mL添加し、0℃で重合を開始した。しかしながら、この条件では重合反応が進行せず、目的とする共重合体を得ることができなかった。
【0080】
実施例1~15及び比較例1~4における重合条件、並びに重合により得られた共重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。表1中、モノマー比率(mol%)は、重合に使用したモノマーの全量に対する各モノマーの仕込みの比率を表す。なお、比較例1~4では重合反応が進行しなかったため、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の欄には「-」と表記した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示す結果から把握されるように、実施例1~15によれば、(メタ)アクリル酸エステル化合物とα-メチレンラクトン化合物とを用いた共重合を穏和な温度条件で行った場合にも、数平均分子量(Mn)が20,000以上と高分子量であって、かつ分子量分布が3.0以下と狭い共重合体を得ることができた。