(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155535
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】測距装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4865 20200101AFI20241024BHJP
【FI】
G01S7/4865
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070327
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 景太朗
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084CA07
5J084CA24
5J084EA07
(57)【要約】
【課題】光を走査して測距を行う測距装置において、従来よりも測距距離を長くする。
【解決手段】波長域ごとに異なる周期で強度変調させた光を物体に照射し、当該光が物体で反射したときの反射光の位相差を用いて当該物体までの距離を測定する。処理部14は、変調部12を制御して、R,G,Bの波長域ごとに異なる周期で強度変調したR,G,Bの各照射光を光源11から照射させる。次に、処理部14は、受光部13において光電変換されて蓄積された電荷量に基づいて、R,G,Bの位相差を用いてR,G,Bごとに距離を算出し、これらの距離の組を用いて現実の距離を求める。処理部14は、これらの処理を受光部13の撮像素子ごとに行うことにより、距離画像を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長域ごとに異なる周期で強度変調させた光を物体に照射し、当該光が物体で反射したときの反射光の位相差を用いて当該物体までの距離を測定する測距装置。
【請求項2】
前記光は拡散光である請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記周期は人の目の時間分解能よりも短い請求項1に記載の測距装置。
【請求項4】
前記波長域はR,G,Bに相当する波長域である請求項1に記載の測距装置。
【請求項5】
前記周期を変更可能とした請求項1に記載の測距装置。
【請求項6】
コンピュータに、
波長域ごとに異なる周期で強度変調させた光を物体に照射させ、当該光が物体で反射したときの反射光の位相差を用いて当該物体までの距離を測定させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体までの距離を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物体に光を照射してその反射光を受光するまでの時間差を用いて、その物体までの距離を測定する技術が知られている。例えば特許文献1には、測距機能を搭載したレーザープロジェクタにおいて、タイムオブフライト方式で物体を光で走査して距離画像を生成する技術が開示されている。また、特許文献2には、光を変調させて通信を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-62982号公報
【特許文献2】特開2018-157390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、長距離に存在する物体に対する測距の用途には適さない。また、特許文献2に記載の技術は、変調光を用いた通信に関するものであり、物体までの測距を目的とした技術ではない。
【0005】
本発明は、光を走査して測距を行う測距装置において、従来よりも測距距離を長くすることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、波長域ごとに異なる周期で強度変調させた光を物体に照射し、当該光が物体で反射したときの反射光の位相差を用いて当該物体までの距離を測定する測距装置を第1の態様として提供する。第1の態様の測距装置によれば、単一波長の光を用いた測距に比べて、測距距離を長くすることが可能となる。
【0007】
本発明は、前記光は拡散光である測距装置を第2の態様として提供する。第2の態様の測距装置によれば、広域な空間に対して短期間での測距が可能となる。
【0008】
本発明は、前記周期は人の目の時間分解能よりも短い測距装置を第3の態様として提供する。第3の態様の測距装置によれば、人の目に対するちらつきを抑制する。
【0009】
本発明は、前記波長域はR,G,Bに相当する波長域である測距装置を第4の態様として提供する。第4の態様の測距装置によれば、人の目には白色光に見えるようになるので、例えば車両のヘッドライトとして利用可能となる。
【0010】
本発明は、前記周期を変更可能とした測距装置を第5の態様として提供する。第5の態様の測距装置によれば、測距精度又は測距距離を調整することが可能となる。
【0011】
本発明は、コンピュータに、波長域ごとに異なる周期で強度変調させた光を物体に照射させ、当該光が物体で反射したときの反射光の位相差を用いて当該物体までの距離を測定させるためのプログラムを第6の態様として提供する。第6の態様のプログラムによれば、単一波長の光を用いた測距に比べて、測距距離を長くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る測距装置10の構成の一例を示す図。
【
図2】同実施形態に係る処理部14のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図3】タイムフライト方式の測距の原理を説明するタイミングチャート。
【
図4】同実施形態に係るR,G,Bの各照射光のタイミングチャート。
【
図5】同実施形態に係るR,G,Bの各反射光のタイミングチャート。
【
図6】同実施形態に係る処理部14の動作の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る測距装置10の構成の例を示す図である。この測距装置10は、例えば列車や自動車等の車両に搭載されており、その車両の進行方向の空間に対して光走査してその空間に存在する物体Oまでの距離を測定する。測距装置10は、光源11と、変調部12と、受光部13と、処理部14とを備えている。
【0014】
光源11は、例えばR(レッド),G(グリーン),B(ブルー)というように、予め決められた波長域に相当する光(以下、照射光という)を照射する。これらR,G,Bの各照射光は、広範囲且つ短時間の測距を可能とするべく、拡散光であることが望ましい。
【0015】
変調部12は、R,G,Bの波長域ごとに異なる周期で、R,G,Bの各照射光を強度変調する。このときのR,G,Bの各照射光の周期は、人の目の時間分解能よりも短い周期である。本実施形態では、例えば、Rの照射光の周期がTr=90nsであり、Gの照射光の周期がTg=120nsであり、Bの照射光の周期がTb=125nsであるが、必ずしもこの例示に限定されない。人の目の時間分解能よりも短い周期のR,G,Bの照射光が照射されるから、人の目では、ちらつきが抑えられるとともに、これらR,G,Bが合成された白色光として認識されることになる。
【0016】
受光部13は、所要の解像度に応じた十分な数の撮像素子を備えている。これら各撮像素子はそれぞれ、R,G,Bのカラーフィルタを有する。受光部13は、R,G,Bの照射光が物体で反射した反射光をR,G,Bごとに受光する。
【0017】
処理部14は、いわゆるタイムオブフライト方式の測距を行う。具体的には、処理部14は、R,G,Bの照射光とその反射光との位相差(つまり時間差)を距離に換算して、物体までの距離を表す画像である距離画像を生成する。
【0018】
処理部14は、
図2に示すように、プロセッサ141、メモリ142及びストレージ143を備えたコンピュータとして構成されている。プロセッサ141は、メモリ142からプログラムを読出して実行することにより処理部14を制御する。
【0019】
プロセッサ141は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。また、プロセッサ141は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)であってもよいし、FPGAを含んでもよい。また、このプロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又は他のプログラマブル論理デバイスを有してもよい。
【0020】
メモリ142は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、RAM(Random Access Memory)などの少なくとも1つによって構成されてもよい。メモリ142は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ(主記憶装置)などと呼ばれてもよい。メモリ142は、本実施形態に係る方法を実施するために実行可能なプログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュールなどを保存することができる。
【0021】
ストレージ143は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、光ディスク、ハードディスクドライブ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、スマートカード、フラッシュメモリ、などの少なくとも1つによって構成されてもよい。
【0022】
ここで、
図3は、タイムオブフライト方式の測距の原理を説明する図である。
図3の例では、照射光の強度変調の周波数fを10MHzとし、Dutyを50%とする。
図3の上方に示したタイミングチャートは、照射光の強度の時系列変化を示しており、
図3の下方に示したタイミングチャートは、その反射光の強度の時系列変化を示している。照射光が照射されたタイミングからその反射光が受光されたタイミングまでは、物体までの距離に比例した光の進行時間分だけ遅れることになる。
【0023】
この光の照射から受光までの時間的な遅れを位相差として、物体までの距離を受光部の画素(撮像素子)毎に算出する。具体的には、各撮像素子において、フォトダイオードで光電変換された電荷をLED(Light-Emitting Diode)の変調に同期して、複数の電荷蓄積部に振り分ける。
図3の例では、0°、90°、180°、270°という位相に応じた4つの電荷蓄積部に電荷を振り分ける。ここで、位相0°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をC1とし、位相90°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をC2とし、位相180°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をC3とし、位相270°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をC4としたとき、位相差φは次式により算出される。
【0024】
φ=Atan((C2-C4)/(C1-C3))
【0025】
さらに、物体までの距離Dは位相差φを用いて次式により算出される。
D=(φ/2π)×(c/2f)
ただし、cは光速である3×108m/sとする。
【0026】
ここで、前述したように強度変調の周波数f=10MHzであるから、周期T=1/f=100nsとなる。よって、1周期に相当する100nsで光が進行する距離Lは、次式で算出される。
L=c×T=3×108×100×10-9=30m
【0027】
物体に照射されて反射するまでの光の進行距離は、物体までの距離の2倍となる。よって、上記条件においては、30m/2=15mまでの距離の範囲内にある物体までに対する測距が可能である。一方、15mより遠い距離にある物体については、照射光と反射光との位相差が1周期以上ずれることになるため、正確な距離を測定することができない。例えば、現実には15m離れた位置にある物体までの距離を0mであると誤認識してしまったり、また、現実には20m離れた位置にある物体までの距離を5mであると誤認識してしまったりする。
【0028】
そこで、本実施形態では、R,G,Bごとに異なる周期で強度変調させた照射光を用いる。つまり、前述したように、例えばRの照射光の周期Tr=90nsとし、Gの照射光の周期Tg=120nsとし、Bの照射光の周期Tb=125nsとする。
【0029】
ここで、
図4は、周期Tr=90ns、Tg=120ns、Tb=125nsという異なる周期で強度変調させたR,G,Bの照射光の強度の時系列変化を示しており、
図5は、その反射光の強度の時系列変化を示している。なお、
図4において、Dutyは50%である。
【0030】
この場合、Rの照射光が1周期で進行する距離Lr、Gの照射光が1周期で進行する距離Lg、Bの照射光が1周期で進行する距離Lbはそれぞれ次式で算出される。
Lr=c×T=3×108×90×10-9=27m
Lg=c×T=3×108×120×10-9=36m
Lb=c×T=3×108×125×10-9=37.5m
【0031】
受光部13は、R,G,Bごとに、0°、90°、180°、270°という位相に応じた4つの電荷蓄積部に電荷を振り分ける。ここで、Rにおいて、位相0°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCr1とし、位相90°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCr2とし、位相180°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCr3とし、位相270°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCr4としたとき、位相差φrは次式により算出される。
φr=Atan((Cr2-Cr4)/(Cr1-Cr3))
【0032】
同様に、Gにおいて、位相0°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCg1とし、位相90°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCg2とし、位相180°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCg3とし、位相270°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCg4としたとき、Gにおける位相差φgは次式により算出される。
φg=Atan((Cg2-Cg4)/(Cg1-Cg3))
【0033】
同様に、Bにおいて、位相0°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCb1とし、位相90°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCb2とし、位相180°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCb3とし、位相270°に対応する電荷蓄積部に蓄積された電荷量をCb4としたとき、Bにおける位相差φbはそれぞれ次式により算出される。
φb=Atan((Cb2-Cb4)/(Cb1-Cb3))
【0034】
処理部14は、これらR,G,Bの位相差φr、φg、φbをそれぞれ用いてR,G,Bごとに距離を算出し、さらに、これらの距離の組を用いて現実の距離を求める。例えば現実には27m離れた位置にある物体までの距離は、照射光Rで測定した場合には0mとなるが、照射光G,Bでそれぞれ測定した場合には27mとなる。また、例えば現実には500m離れた位置にある物体までの距離は、照射光Rで測定した場合には14mとなり、照射光Gで測定した場合には32mとなり、照射光Gで測定した場合には12.5mとなる。また、例えば現実には1000m離れた位置にある物体までの距離は、照射光Rで測定した場合には1mとなり、照射光Gで測定した場合には28mとなり、照射光Gで測定した場合には25mとなる。そして、現実には1350m離れた位置にある物体までの距離は、照射光Rで測定した場合には0mとなり、照射光Gで測定した場合には0mとなり、照射光Gで測定した場合には0mとなる。
【0035】
つまり、処理部14は、Lr=27m、Lg=36m、Lb=37.5mの最小公倍数である1350m未満の距離であれば、R,G,Bごとに算出した距離の組が、現実の距離に固有の値の組み合わせとなるから、現実の距離を求めることが可能である。一方、1350m以上の距離は測定することができないことになるが、R,G,Bをそれぞれ単独で用いたときの算出可能距離27m、36m、37.5mに比較して格段に長い距離を測定することが可能となる。なお、処理部14は、上記のように位相差φr、φg、φbからR,G,Bごとの距離を算出し、さらに、これらの距離の組から換算アルゴリズムを用いて現実の距離を求めてもよいし、位相差φr、φg、φbの組から換算アルゴリズムを用いて現実の距離を求めるようにしてもよい。
【0036】
図6は、処理部14の動作の一例を示すフローチャートである。処理部14は、変調部12を制御して、R,G,Bの波長域ごとに異なる周期で強度変調したR,G,Bの各照射光を光源11から照射させる(ステップS101)。
【0037】
次に、処理部14は、受光部13において光電変換されて蓄積された電荷量に基づいて、R,G,Bの位相差を用いてR,G,Bごとに距離を算出し、これらの距離の組を用いて現実の距離を求める。処理部14は、これらの処理を受光部13の撮像素子ごとに行うことにより、画素ごとに距離が算出された距離画像を生成する(ステップS102)。以上の処理は照射光が照射されるたび(つまり光走査のたび)に行われる。
【0038】
本実施形態によれば、単一波長の照射光を用いた場合に比べて、測距可能な奥行き方向の距離を長くすることが可能となる。また、拡散光を用いることで、幅方向に広範囲で且つ短時間での測距が可能となる。
【0039】
また、R,G,Bの照射光を人間の目の分解能よりも短い周期で変調させることで、人の目に対するちらつきを抑制する。さらに、人の目にはR,G,Bが合成された白色光に知覚されるため、例えば車両のヘッドライトのような照明光として使用することも可能となる。
【0040】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0041】
<変形例1>
上記実施形態では、波長域をR,G,Bに相当する波長域としていたが、これはあくまで例示過ぎず、この例示とは違う波長域を用いてもよい。
【0042】
<変形例2>
照射光の波長域ごとにその照射光の周期を変更可能としてもよい。このため、測距装置10は、ユーザが照射光の周期を変更する操作を受け付ける操作部(例えばボタン、キーボード、タッチパネル、マウス等)を備える。ユーザの操作により、照射光の波長域ごとの周期の最小公倍数を大きくするように各周期を変更すれば、測距可能な距離はより長くなる。一方、照射光の波長域ごとの周期の最小公倍数を小さくするように各周期を変更した場合、測距可能な距離は短くなるものの、測距精度を向上させることができる。このように照射光の波長域ごとにその照射光の周期を変更可能とすることで、測距精度又は測距距離を調整することが可能となる。
【0043】
<変形例3>
本発明は、
図6に示す各ステップをコンピュータに実行させるように記述されたプログラムとしても観念され得る。すなわち、このプログラムは、コンピュータに、波長域ごとに異なる周期で強度変調させた光を物体に照射し、当該光が物体で反射したときの反射光の位相差を用いて当該物体までの距離を測定させるためのプログラムである。
【符号の説明】
【0044】
10…測距装置、11…光源、12…変調部、13…受光部、14…処理部、141…プロセッサ、142…メモリ、143…ストレージ、O…物体。