(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155552
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20241024BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20241024BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241024BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20241024BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01B7/00 302
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/43
H01B13/00 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070353
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
【テーマコード(参考)】
4J038
5G309
【Fターム(参考)】
4J038DL031
4J038KA08
4J038NA21
4J038PB09
5G309BA03
5G309BA05
5G309BA06
5G309BA07
(57)【要約】
【課題】バスバー本体が複雑な形状であっても所望の領域に絶縁被膜が形成されており、この絶縁被膜の剥離等を抑制することができるバスバー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】バスバー20は、バスバー本体25と、バスバー本体25の表面に形成された絶縁被膜10と、を有する。バスバー本体25は、対向する一対の主面部25aと、対向する主面部25a同士を連結する複数の端面部25bと、主面部25aと端面部25bとの間に構成される角部25cと、を有する。バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の外面はR形状を有している。また、バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の膜厚は、バスバー本体25の主面部25aに形成された絶縁被膜10の膜厚よりも厚い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
対向する一対の主面部と、前記対向する一対の主面部同士を連結する複数の端面部と、前記主面部と前記端面部との間の角部と、を有するバスバー本体と、
前記バスバー本体の表面に形成された絶縁被膜と、を有し、
前記バスバー本体の前記角部に形成された前記絶縁被膜の外面はR形状を有しており、
前記バスバー本体の前記角部に形成された絶縁被膜の膜厚は、前記バスバー本体の前記主面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも厚いことを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記バスバー本体の板厚方向に平行であるとともに前記端面部に直交する方向の断面視において、前記端面部には前記絶縁被膜が弧状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項4】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項3に記載のバスバー。
【請求項5】
前記無機化合物は、シリカ、アルミナ、ムライト及びジルコニアからから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項6】
前記無機化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項7】
前記無機化合物が、フレーク状、繊維状及び粒子状から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項8】
前記無機化合物が、フレーク状ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項9】
前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項3に記載のバスバー。
【請求項10】
前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項11】
前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のバスバーを製造する製造方法であって、
対向する一対の主面部と、前記対向する一対の主面部同士を連結する複数の端面部と、前記主面部と前記端面部との間の角部と、を有する前記バスバー本体の表面に絶縁塗料を被着させる被着工程と、
前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する乾燥工程と、を有し、
前記バスバー本体の前記角部における絶縁被膜の膜厚を、前記バスバー本体の前記主面部における絶縁被膜の膜厚よりも厚く形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項13】
前記被着工程において、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬し、前記バスバー本体の表面に絶縁塗料を被着させることを特徴とする、請求項12に記載のバスバーの製造方法。
【請求項14】
前記被着工程において、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後、前記バスバー本体の前記角部又は前記端面部を鉛直下方に向けた状態で前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げることを特徴とする、請求項13に記載のバスバーの製造方法。
【請求項15】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1~11のいずれか1項に記載のバスバーで接続したことを特徴とする、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車(EV:Electric Vehicle)及びハイブリッド車等には、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
電池セルでは、充放電時に過電流が通電され、バスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。そのため、バスバーには、絶縁性とともに、耐熱性が要求される。例えば、特許文献1では、銅製のバスバー本体に、耐火層としてマイカテープ等のセラミックテープを巻き付けたバスバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国実用新案第216902355号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、セラミックテープをバスバー本体に巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、セラミックテープをバスバー本体の隅々まで巻き付けるのが困難である。セラミックテープに、巻きムラや隙間があると、絶縁性や耐熱性が十分に得られない。また、セラミックテープの粘着面が剥がれることも想定される。
【0006】
また、近時の電気自動車等の需要の拡大に伴って、搭載される蓄電装置の小型化及び高エネルギー化が要求されている。このため、蓄電装置の内部構造も複雑化しており、バスバーはより複雑な形状になるとともに、狭隘な領域で利用される。さらに、量産されたバスバーを利用して蓄電装置を製造する場合に、大量のバスバーを運搬する必要がある。このように、バスバーの運搬時や狭隘な領域での利用時には、バスバーの角部同士が接触し、絶縁被膜が損傷を受けることがある。また、バスバーの角部は放熱しやすいため、バスバー本体の角部の温度が変化しやすく、温度差によって被膜が剥離しやすいという問題点もある。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、バスバー同士又はバスバーと他の部品とが衝突した場合や、繰り返される温度変化によっても、バスバー本体からの絶縁被膜の剥離等を抑制することができるバスバーを提供することを目的とする。また、本発明は、バスバー本体が複雑な形状であっても、所望の領域に簡単な工程でバスバー本体に優れた強度を有する絶縁被膜を形成することができるバスバーの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、絶縁被膜の剥離が抑制されたバスバーにより複数の電池セル又は電池モジュール同士が接続され、異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
対向する一対の主面部と、前記対向する一対の主面部同士を連結する複数の端面部と、前記主面部と前記端面部との間の角部と、を有するバスバー本体と、
前記バスバー本体の表面に形成された絶縁被膜と、を有し、
前記バスバー本体の前記角部に形成された前記絶縁被膜の外面はR形状を有しており、
前記バスバー本体の前記角部に形成された絶縁被膜の膜厚は、前記バスバー本体の前記主面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも厚いことを特徴とする、バスバー。
【0010】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[11]に関する。
【0011】
[2] 前記バスバー本体の板厚方向に平行であるとともに前記端面部に直交する方向の断面視において、前記端面部には前記絶縁被膜が弧状に形成されていることを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
[3] 前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載のバスバー。
[4] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[3]に記載のバスバー。
[5] 前記無機化合物は、シリカ、アルミナ、ムライト及びジルコニアからから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、[4]に記載のバスバー。
[6] 前記無機化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、[4]又は[5]に記載のバスバー。
[7] 前記無機化合物が、フレーク状、繊維状及び粒子状から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[4]~[6]のいずれか1つに記載のバスバー。
[8] 前記無機化合物が、フレーク状ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含むことを特徴とする、[6]又は[7]に記載のバスバー。
[9] 前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[3]~[9]のいずれか1つに記載のバスバー。
[10] 前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[1]~[9]のいずれか1つに記載のバスバー。
[11] 前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[1]~[9]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0012】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[12]の構成により達成される。
【0013】
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載のバスバーを製造する製造方法であって、
対向する一対の主面部と、前記対向する一対の主面部同士を連結する複数の端面部と、前記主面部と前記端面部との間の角部と、を有する前記バスバー本体の表面に絶縁塗料を被着させる被着工程と、
前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する乾燥工程と、を有し、
前記バスバー本体の前記角部における絶縁被膜の膜厚を、前記バスバー本体の前記主面部における絶縁被膜の膜厚よりも厚く形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0014】
また、バスバーの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[13]~[14]に関する。
【0015】
[13] 前記被着工程において、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬し、前記バスバー本体の表面に絶縁塗料を被着させることを特徴とする、[12]に記載のバスバーの製造方法。
[14] 前記被着工程において、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後、前記バスバー本体の前記角部又は前記端面部を鉛直下方に向けた状態で前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げることを特徴とする、[13]に記載のバスバーの製造方法。
【0016】
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[15]の構成により達成される。
【0017】
[15] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]~[11]のいずれか1つに記載のバスバーで接続したことを特徴とする、蓄電装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバスバーによれば、バスバー本体の角部に形成された絶縁被膜の膜厚が、主面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも厚くなっているため、バスバーの運搬時や狭隘な領域での利用時においても、角部における絶縁被膜の剥離を抑制することができる。また、バスバーの断面視において、バスバー本体の角部に形成された絶縁被膜の外面はR形状を有し、角部が尖っていないため、飛来した破片等が絶縁被膜の外面に衝突した場合であっても、破片等によって絶縁被膜が損傷することを抑制することができる。
【0019】
また、本発明のバスバーの製造方法によれば、バスバー本体が複雑な形状であっても、簡便な方法で所望の領域に絶縁被膜を形成することができるため、テープを使用する場合と比較して巻き付け作業等の複雑な作業が不要であって、絶縁被膜の巻きムラや、バスバー本体と絶縁被膜と間に隙間が発生することがなく、絶縁被膜の剥離が抑制されたバスバーを容易に製造することができる。
【0020】
さらに、本発明の蓄電装置によれば、絶縁被膜の剥離の発生が抑制されたバスバーで電池セルまたは電池モジュールを接続しているため、絶縁不良を起こしにくく、耐熱性も優れ、異常時においても高い安全性を示す。また、バスバー本体の角部の温度が変化した場合であっても、絶縁被膜の剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るバスバーを電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すバスバーにおけるバスバー本体の一部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すバスバーのA-A矢視に沿った断面の一部を拡大して示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図3とは異なる形状を有するバスバー本体を用いた場合の、バスバーの断面の一部を拡大して示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る蓄電装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0023】
[バスバー]
図1は、本発明の実施形態に係るバスバー20を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。
図1に示すように、導電性材料からなるバスバー本体25は、例えば、全体がZ字状の金属製の板状部材であり、一方の先端の接続孔26aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体25の他方の先端の接続孔26bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。
【0024】
図2は、
図1に示すバスバーにおけるバスバー本体の一部を示す斜視図である。
図3は、
図1に示すバスバーのA-A矢視に沿った断面の一部を拡大して示す模式図である。なお、
図1に示すように、バスバー20は、例えばZ字状の板状部材であるが、本明細書では、屈曲した部分を除く平板状のものとして、バスバー20の特徴を説明する。
【0025】
図2に示すように、バスバー本体25の角部25cは、断面視で略直角の角度を有する矩形である。また、バスバー本体25は、対向する一対の主面部25aと、この主面部25a同士を連結する複数の端面部25bと、主面部25aと端面部25bとの間の角部25cと、を有する。すなわち、主面部25aは、板厚方向に直交する方向に広がった面であり、端面部25bは、板厚方向に略平行な面である。また、
図3に示すように、バスバー20は、バスバー本体25の表面に、絶縁被膜10が形成されたものである。
【0026】
本実施形態において、
図3に示すように、バスバー本体25の板厚方向に平行であるとともに端面部25bに直交する方向における、バスバー20の断面視において、角部25cに形成された絶縁被膜10の外面はR形状を有している。また、端面部25bには、絶縁被膜10が弧状に形成されている。さらに、バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の膜厚は、バスバー本体25の主面部25aに形成された絶縁被膜10の膜厚よりも厚くなっている。
【0027】
外面がR形状を有する絶縁被膜10とは、バスバー本体25の角部25cが断面視で直角に形成されている場合であっても、絶縁被膜10の外面は、なだらかな面となっていることを表す。また、弧状に形成された絶縁被膜10とは、端面部25bにおける上記断面視で、角部25c側よりも中央側に近づくにしたがって膜厚が厚くなっていることを意味する。
【0028】
なお、図示は省略するが、バスバー本体25は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル110の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0029】
上記のように構成されたバスバー20は、例えば、後述する蓄電装置100(
図5参照)に適用され、電気自動車等に搭載されるが、近時の蓄電装置の小型化及び電池の高容量化に対応するため、バスバーは狭隘な領域で使用される。また、バスバーが量産され、これを運搬する際には、バスバー同士が接触して、特に角部において絶縁被膜10が剥がれやすくなる。さらに、蓄電装置の使用時には、バスバー本体25の角部25cの温度が変化しやすくなっており、バスバー本体25の温度差によっても絶縁被膜10が剥離しやすくなる。
【0030】
本実施形態においては、バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の膜厚は、バスバー本体25の主面部25aに形成された絶縁被膜10の膜厚よりも厚くなっている。したがって、バスバー20同士又はバスバー20と他の部品との接触や、温度変化が発生した場合であっても、絶縁被膜10の剥離の発生を抑制することができる。
【0031】
また、バスバー20の表面における絶縁被膜10には、熱暴走を起こした電池セル110の金属片や、他のバスバーにおける絶縁被膜の被膜片、電池ケース120の破片等が衝突することがある。本実施形態において、バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の膜厚が主面部25aにおける膜厚よりも厚いとともに、角部25cに形成された絶縁被膜10の外面はR形状を有している。したがって、飛来した破片等が絶縁被膜10の外面に衝突した場合であっても、破片等によって絶縁被膜10が損傷することを最小限に留めることができる。さらに、バスバー本体25の端面部25bにおいて、絶縁被膜10が弧状に形成されており、衝突した破片等は斜め方向に反射されるため、破片等によってバスバー20が衝撃を受けることを緩和することができる。
【0032】
さらにまた、バスバー本体25が、
図1に示されるZ字状のような屈曲部25dや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのようにセラミックテープを巻き付ける方式では、その作業が煩雑になる。具体的には、屈曲部25dや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかる。また、バスバー20の使用時においても、振動などによりバスバー本体25とテープとの間に隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。
【0033】
これに対して、本実施形態では、バスバー本体25の表面に絶縁塗料を被着させる方法により、絶縁被膜10を形成することができる。したがって、上記のような問題は起こらない。バスバー本体25の表面に絶縁塗料を被着させる方法として、「ディップ塗装」を使用すると、バスバーの製造工程をより一層簡便にすることができる。このように、バスバー本体25の表面に絶縁塗料を被着させて、乾燥させることにより形成される絶縁被膜10は、テープ等を巻回することにより形成される絶縁層と異なり、剥離性や作業性の点で優れた効果を得ることができる。
【0034】
なお、
図3に示すバスバー20においては、バスバー本体25の角部25cが断面視で矩形であったが、本発明においては、角部25cの断面形状は特に限定されない。
図4に示すように、バスバー本体25の角部25cがR形状を有していてもよい。いずれの場合であっても、バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の膜厚が、主面部25aに形成された絶縁被膜10の膜厚よりも厚くなっており、その表面がR形状を有していれば、上記効果を得ることができる。
【0035】
(角部の膜厚:300μm以上2000μm以下)
バスバー本体25における角部25cに形成される膜厚が大きすぎると、上記のような効果を得ることが困難になる。したがって、角部25cに形成される膜厚は2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更に好ましい。一方、角部25cに形成される膜厚が小さすぎると、バスバー20としての絶縁性や耐熱性を確保することが困難になる。したがって、角部25cに形成される絶縁被膜10の膜厚は、300μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。
【0036】
ここで、バスバー20の角部20cにおける絶縁被膜10の膜厚と主面部25aにおける絶縁被膜10の膜厚の測定方法について、
図2~
図4を参照して以下に説明する。バスバー20が屈曲部や湾曲部を有する場合は、屈曲部又は湾曲部の近傍で切断し、矩形の平板状部材として、絶縁被膜10の膜厚を測定するものとする。
【0037】
主面部に形成された絶縁被膜の膜厚を測定する際には、
図2に示すように、バスバー本体25における一対の主面部のうち、一方の主面部25aの周囲に線状に延びる二対の角部25cをそれぞれ3等分し、主面部25aを9つの領域に分割する。本実施形態においては、9つの領域のうち、中央領域30(
図3及び
図4中では太線で示す。)における任意の3箇所について膜厚を測定し、その平均値を「主面部に形成された絶縁被膜の膜厚Ts」とする。なお、上記方法によれば、バスバー本体25の主面部を9つの領域に分割するが、絶縁被膜10の膜厚を測定する際には、バスバー本体25が露出していないため、厳密に角部25cを3等分することは困難である。ただし、バスバー本体25のサイズと比較して、絶縁被膜10の厚さは無視できる厚さであるため、絶縁被膜10を有する状態で、対向する二対の角部25cを略3等分にして分割すればよい。
【0038】
角部に形成された絶縁被膜の膜厚を測定する際には、まず、上記主面部25aを構成する二対の角部25cのうち、少なくとも一対の対向する角部25cの中央同士を結ぶ線で切断する。そして、その切断面について、
図3又は
図4に示すように、角部における絶縁被膜の膜厚を測定する。具体的には、バスバー本体25において、例えば角部25cを構成する主面部25a及び端面部25bに対してそれぞれ延長線35、36を引き、2本の延長線35、36がなす角の2等分線を角部測定線37とする。そして、角部測定線37において、バスバー本体25の表面から絶縁被膜10の表面までの距離を測定し、その平均値を「角部に形成された絶縁被膜の膜厚Tc」とする。
【0039】
本実施形態に係るバスバーにおいては、バスバー本体25の角部25cに形成された絶縁被膜10の膜厚Tcは、主面部25aに形成された絶縁被膜10の膜厚Tsよりも厚いため、上記の効果を得ることができる。
また、角部25cが複数ある場合において、それぞれの角部25cの膜厚を調整し、最も膜厚が厚い角部25cを意図的に形成することにより、複数の角部25cのうち、特に強度が必要な角部における絶縁被膜の剥離の発生を抑制することができる。
【0040】
上述のとおり、バスバー本体25における角部25cにおける絶縁被膜10の厚さを、主面部25aにおける絶縁被膜10の厚さよりも厚くすることにより、狭隘な場所での使用や運搬時に、角部25cから絶縁被膜10が剥離することを抑制することができる。さらに、絶縁性及び耐熱性をより一層向上させることができる絶縁被膜10の材料について、以下に説明する。
【0041】
絶縁被膜10は、フィラーを含むことが好ましい。フィラーにより、耐熱性を向上させることができる。無機化合物は、融点が高く、耐熱性により優れることから、絶縁被膜10は、フィラーとして無機化合物を含むことがより好ましく、中でもケイ酸塩化合物を含むことがさらに好ましい。本実施形態においては、後述のとおり、絶縁被膜10は、バインダーとしてシリコーン系材料を含むことが好ましい。シリコーン系材料は熱分解によってSiO
2に変化しうるため、絶縁被膜10が、無機化合物として、SiO
2と同じ成分を有するケイ酸塩化合物を含むと、無機化合物とバインダーとの結合力を高めることができる。このようにして、絶縁被膜10の材料を選択すると、絶縁被膜10により、耐熱性や耐火性をより一層向上させることができる。したがって、バスバー20(
図3参照)を蓄電装置100に使用した場合に、熱暴走を起こした電池セル110からの高温や火炎からバスバー20を保護することができる。また、バスバー20を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができる。
【0042】
無機化合物としては、シリカ、アルミナ、ムライト及びジルコニアからから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの化合物は、一般的なバスバー本体に用いられる金属材料の融点以上で想定される熱暴露温度以上の融点を備えるものであるとともに、高い絶縁性を有することから、絶縁被膜10の材料として好適に使用することができる。
【0043】
また、無機化合物として、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種を含むことも好ましい。
【0044】
さらに、無機化合物は、フレーク状、繊維状及び粒子状から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、特にフレーク状ガラスは、被膜中で面状に配向して優れた絶縁性や耐熱性を示す。したがって、無機化合物としてフレーク状ガラスを含むことが特に好ましい。なお、上記したマイカについても、フレーク状ガラスと同様の理由により、用いられることが好ましい。
【0045】
絶縁被膜10中における全成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることが更に好ましい。フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。後述するように、絶縁被膜10は「ディップ塗装」により形成されるが、フィラーの含有量が70体積%を超えると、ディップする絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性に劣るようなる。
【0046】
また、絶縁被膜10には、バインダーとして、不燃性や耐熱性に優れることから、シリコーン系材料を含むことが好ましい。シリコーン系材料としては、シリコーン樹脂が挙げられ、増粘剤としてチクソトロピック剤を併用することにより、絶縁被膜10の膜厚の制御を容易にすることができる。
【0047】
なお、絶縁被膜10は、上記したフィラーやシリコーン系材料の他にも、絶縁性や耐熱性に影響を与えない範囲で、難燃剤や分散剤、顔料などの他の材料を含んでもよい。
【0048】
[バスバーの製造方法]
本発明において、上記バスバーを製造する方法は特に限定されず、絶縁塗料をバスバー本体25に被着させる方法として、ディップ塗装、スプレー塗布、刷毛等による塗布、粉体塗装等、種々の方法を使用することができる。これらの塗装方法のうち、上記バスバーを製造する工程として作業が容易であるという点で、ディップ塗装を利用することが好ましい。ディップ塗装を使用したバスバーの製造方法の例について、
図1を参照して以下に説明する。
【0049】
(バスバー本体及び絶縁塗料の準備工程)
まず、バスバー本体25と絶縁塗料とを準備する。
図2に示すように、バスバー本体25は、対向する一対の主面部25aと、対向する主面部25a同士を連結する複数の端面部25bと、主面部25aと端面部25bとの間の角部25cと、を有する。絶縁塗料は、シリコーン樹脂に所定量のフィラーを投入し、十分に混合することにより調製する。
【0050】
(被着工程)
次に、バスバー本体25の接続孔26a、26bの周囲をマスキングした後に、バスバー本体25の表面に絶縁塗料を被着させる。本実施形態においては、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬し、これを絶縁塗料から引き上げることにより、バスバー本体25の表面の所望の領域に絶縁塗料を被着させる。
【0051】
(乾燥工程)
その後、バスバー本体25の表面に被着した絶縁塗料を乾燥、硬化させて、絶縁被膜10を形成する。
【0052】
本実施形態においては、バスバー本体25の角部25cにおける絶縁被膜10の膜厚を、主面部25aにおける絶縁被膜10の膜厚と比較して厚くする必要がある。その方法としては、上記被着工程において、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬した後、バスバー本体25の角部25c又は端面部25bを鉛直下方に向けた状態で、バスバー本体25を絶縁塗料から引き上げる方法を利用することができる。ただし、バスバー本体25の角部25cにおける絶縁被膜10の膜厚を、主面部25aにおける絶縁被膜10の膜厚と比較して厚くする方法については、特に限定されない。
【0053】
なお、バスバー本体25の表面に絶縁被膜10を形成する方法として、スプレー塗布、刷毛等による塗布、粉体塗装等を利用する場合に、バスバー本体25の角部25cに重点的に絶縁塗料や絶縁材料を配置すればよい。このように、スプレー塗布、刷毛等による塗布、粉体塗装等を利用して得られる絶縁被膜は、「絶縁塗膜」と言い換えることもできる。
【0054】
絶縁塗料の被着量は、引き上げ速度や乾燥温度などを適宜調整すればよい。具体的には、乾燥後のバスバー本体25の角部25cにおける絶縁被膜10の膜厚が300μm以上、好ましくは400μm以上、より好ましくは500μm以上となるように、絶縁塗料を被着させることが好ましい。また、乾燥後のバスバー本体25の角部25cにおける絶縁被膜10の膜厚が2000μm以下、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1000μm以下となるように、絶縁塗料を被着させることが好ましい。
【0055】
また、絶縁塗料中における、全固形成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることがさらに好ましい。上述のとおり、フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。一方、フィラーの含有量が、70体積%を超えると、絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性が低下する可能性がある。
【0056】
バスバー本体25が、
図1に示されるZ字状のような屈曲部25dや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのようにセラミックテープを巻き付ける方式では、作業能率が低下する。具体的には、屈曲部25dや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかることがある。また、バスバーの使用時に、振動等によりバスバー本体とテープ等との間に隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。
【0057】
これに対して、本実施形態のように、例えばディップ塗装を用いたバスバーの製造方法によれば、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬し、引き上げた後、乾燥させることにより絶縁被膜10を形成するため、簡便な工程でバスバーを製造することができる。したがって、製造コストも低減することができる。
【0058】
[蓄電装置]
図5は、本発明の実施形態に係る蓄電装置を示す模式図である。
図5に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー20で接続しており、電極には端子キャップ112が被せられている。
【0059】
バスバー20は、バスバー本体25を上記絶縁被膜10で被覆したものであり、ある電池セル110が熱暴走を起こしてもバスバー20を保護できるとともに、バスバー20を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができる。よって、本実施形態の蓄電装置は、このようなバスバー20により複数の電池セル110や電池モジュール(図示せず)を接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【符号の説明】
【0060】
10 絶縁被膜
20 バスバー
25 バスバー本体
25a 主面部
25b 端面部
25c 角部
25d 屈曲部
26a,26b 接続孔
30 中央領域
37 角部測定線
100 蓄電装置
110 電池セル
111 電極
120 電池ケース