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特開2024-155553香気が向上したアルコール飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155553
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】香気が向上したアルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/07 20060101AFI20241024BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20241024BHJP
【FI】
C12G3/07
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070354
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】天方 迪也
(72)【発明者】
【氏名】藤居 知宏
(72)【発明者】
【氏名】野畑 順子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 功志
(72)【発明者】
【氏名】目瀬 友一朗
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115AG02
4B115AG17
4B115LG02
4B115LH12
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】樽による長期間の熟成を経ることなく、フルーティな香気が向上したアルコール飲料を製造する方法の提供
【解決手段】アルコール飲料の製造において、原料となるアルコール飲料と木酢液または酢酸とを接触させて中間物を得、さらに中間物を特定の条件下で静置(熟成)する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
香気が向上したアルコール飲料の製造方法であって、
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記接触工程において、前記第1の中間物における前記木酢液の量が、前記第1の中間物の総質量に対して0.1~10質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
香気が向上したアルコール飲料の製造方法であって、
原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記製造方法。
【請求項4】
前記接触工程において、前記中間物における前記酢酸の量が、前記第1の中間物の総質量に対して50~5000ppmである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料アルコール飲料のアルコール濃度を25~70体積%に調整する工程をさらに含む、請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料アルコール飲料が穀物の発酵蒸留液を含む、請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1または3に記載の製造方法により得られる、アルコール飲料。
【請求項8】
アルコール飲料の香気を向上させる方法であって、
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記方法。
【請求項9】
前記接触工程において、前記第1の中間物における前記木酢液の量が、前記第1の中間物の総質量に対して0.1~10質量%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルコール飲料の香気を向上させる方法であって、
原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記接触工程において、前記第1の中間物における前記酢酸の量が、前記第1の中間物の総質量に対して50~5000ppmである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記原料アルコール飲料のアルコール濃度を25~70体積%に調整する工程をさらに含む、請求項8または10に記載の方法。
【請求項13】
前記原料アルコール飲料が穀物の発酵蒸留液を含む、請求項8または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気が向上したアルコール飲料の製造方法に関する。また、本発明は、アルコール飲料の香気を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料の香気は、その売れ行きに大きく影響する重要な特性の一つであるだけでなく、他の飲料と差別化し、独自性を出すための重要な特性でもあるため、従来、飲料の開発において検討される事項の一つである。アルコール飲料の分野においても、豊かな香気を有するアルコール飲料のニーズが従来から存在し、原料に由来する香気成分に基づく香気の付与や、熟成等の製造過程において香気成分を生成させることによる香気の付与等の工夫がなされている。例えば、ウイスキー等の蒸留酒の製造においては、発酵蒸留物を木製の樽に入れて静置(樽熟成)し、樽素材に含まれる香気成分を発酵蒸留物に移すことにより、得られる蒸留酒の香気を向上させることが行われている。
【0003】
しかしながら、そのような樽熟成には数年から数十年の時間を要するが一般的であるため、製品の完成までに長い時間を要し、さらには様々なコストが求められる。そのため、従来、アルコール飲料において、より短い時間で樽熟成による香気成分の付与を実現するための工夫がなされている。例えば、蒸留酒を樽中で熟成させる際に加温をすることにより、蒸留酒にシナピルアルデヒド等の樽素材に含まれる香気成分を移し、蒸留酒の香気を向上させることができることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、ウイスキー等の蒸留酒の促進やフルーティな香気の付与のために、蒸留酒における酢酸エチルの濃度を調整することが知られている(例えば、特許文献2および3)。さらに、蒸留酒の熟成進行の指標として、蒸留酒における酢酸エチルの濃度が用いられることも知られている(例えば、特許文献4および5)。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、長期の樽熟成を行った場合に特徴的に現出する、酢酸エチルに代表されるフルーティな香気の付与は十分には達成されないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2017-501750号公報
【特許文献2】特開平6-62829号公報
【特許文献3】特開2018-161号公報
【特許文献4】特開2021-522856号公報
【特許文献5】特開2017-501750号公報
【発明の概要】
【0007】
このような状況下、アルコール飲料、特に蒸留酒において、樽による長期間の熟成を経ることなく、その香気、特にフルーティな香気を向上させることが継続的な課題として存在する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来の樽による長期間の熟成を経ることなく、香気、特にフルーティな香気が向上したアルコール飲料、特に蒸留酒を製造する方法を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、従来の樽による長期間の熟成を経ることなく、アルコール飲料、特に蒸留酒における香気、特にフルーティな香気を向上させる方法を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、アルコール飲料の製造において、原料となるアルコール飲料と木酢液または酢酸とを接触させて中間物を得、さらに中間物を特定の条件下で静置(熟成)することにより、従来の長期の樽熟成を経ることなく、そのような樽熟成を経た場合と同程度のフルーティな香気をアルコール飲料に付与し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]香気が向上したアルコール飲料の製造方法であって、
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記製造方法。
[2]前記接触工程において、前記第1の中間物における前記木酢液の量が、前記第1の中間物の総質量に対して0.1~10質量%である、[1]に記載の製造方法。
[3]香気が向上したアルコール飲料の製造方法であって、
原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記製造方法。
[4]前記接触工程において、前記第1の中間物における前記酢酸の量が、前記第1の中間物の総質量に対して50~5000ppmである、[3]に記載の製造方法。
[5]前記原料アルコール飲料のアルコール濃度を25~70体積%に調整する工程をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記原料アルコール飲料が穀物の発酵蒸留液を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られる、アルコール飲料。
[8]アルコール飲料の香気を向上させる方法であって、
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記方法。
[9]前記接触工程において、前記第1の中間物における前記木酢液の量が、前記第1の中間物の総質量に対して0.1~10質量%である、[8]に記載の方法。
[10]アルコール飲料の香気を向上させる方法であって、
原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて第1の中間物を得る接触工程、および
前記第1の中間物を40~80℃で1週間以上静置して第2の中間物を得る熟成工程
を含む、前記方法。
[11]前記接触工程において、前記第1の中間物における前記酢酸の量が、前記第1の中間物の総質量に対して50~5000ppmである、[10]に記載の方法。
[12]前記原料アルコール飲料のアルコール濃度を25~70体積%に調整する工程をさらに含む、[8]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]前記原料アルコール飲料が穀物の発酵蒸留液を含む、[8]~[12]のいずれかに記載の方法。
【0011】
本発明によれば、従来の樽による長期間の熟成を経ることなく、香気、特にフルーティな香気が向上したアルコール飲料、特に蒸留酒を製造することができる。また、本発明によれば、従来の樽による長期間の熟成を経ることなく、アルコール飲料、特に蒸留酒における香気、特にフルーティな香気を向上させることができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
[アルコール飲料の製造方法]
本発明の一つの態様によれば、香気が向上したアルコール飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも言う。)が提供される。本明細書において、アルコール飲料について「香気」とは、主に酢酸エチルに起因するパイナップル様の香気を意味する。すなわち、本発明の製造方法によれば、そのような酢酸エチルに起因するパイナップル様の香気が向上したアルコール飲料を得ることができる。
【0013】
本発明の製造方法により得られるアルコール飲料は、好ましくは蒸留酒であり、より好ましくはウイスキーである。
【0014】
本発明の製造方法は、原料となるアルコール飲料と木酢液または酢酸とを接触させて第1の中間物を得る工程(接触工程)、および得られた第1の中間物を特定の条件下で静置(熟成)して第2の中間物を得る熟成工程を含む。以下、各工程について詳述する。
【0015】
(接触工程)
接触工程は、原料となるアルコール飲料(以下、「原料アルコール飲料」とも言う。)と木酢液および/または酢酸とを接触させて第1の中間物を得る工程である。原料アルコール飲料と木酢液および/または酢酸との接触の方法は特に限定されないが、例えば、原料アルコール飲料と木酢液および/または酢酸とを容器に入れ、必要に応じて撹拌をして、混合することにより行われる。
【0016】
第1の中間物は、必要に応じて原料アルコール飲料、木酢液および酢酸以外の原料(その他の原料)を含んでいてもよい。従って、本明細書において「第1の中間物の総質量」とは、原料アルコール飲料、木酢液および/または酢酸、ならびにその他の原料が含まれる場合にはその他の原料の合計の質量を意味する。
【0017】
原料となるアルコール飲料は、本発明の効果が奏されるアルコール飲料であれば特に限定されず、目的とするアルコール飲料の種類に応じて適宜選択することができる。原料アルコール飲料は、そのまま喫飲に供されるアルコール飲料であってもよく、アルコール飲料を製造する過程における中間物であってもよい。例えば、本発明の製造方法により得られるアルコール飲料がウイスキーである場合、原料アルコール飲料としてはウイスキーそのものを用いてもよく、ウイスキーを製造する過程における中間物、例えば、ウイスキー原料である穀物の発酵蒸留液を用いてもよい。原料アルコール飲料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
原料アルコール飲料のアルコール(エタノール)濃度は特に限定されることなく、目的とするアルコール飲料の種類やアルコール濃度、他のアルコール含有成分の添加の有無等によって適宜設定することができる。例えば、本発明の製造方法により得られるアルコール飲料がウイスキーである場合、原料アルコール飲料のアルコールの濃度は、好ましくは25~70体積%、より好ましくは25~50体積%である。
【0019】
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて第1の中間物を得る場合、原料アルコール飲料と接触させる木酢液の量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、第1の中間物の総質量に対する木酢液の質量が、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.1~2質量%、より一層好ましくは0.5~1質量%となるように調整される。原料アルコール飲料と接触させる木酢液の量を上述した範囲に調整することにより、本発明の製造方法により得られるアルコール飲料において、フルーティな香気を奏する酢酸エチルの含有量を増大させることができる。
【0020】
本明細書において、「木酢液」とは、木材を乾留した際に生じる乾留液の上澄分のことを意味する。一般に、木酢液は、木材由来の有機酸を含む。本発明において、木酢液は、好ましくは酢酸を含む。
【0021】
原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて第1の中間物を得る場合、原料アルコール飲料と接触させる酢酸の量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、第1の中間物の総質量に対する酢酸の質量が、好ましくは50~5000ppm、より好ましくは50~1000ppm、より一層好ましくは250~500ppmとなるように調整される。原料アルコール飲料と接触させる酢酸の量を上述した範囲に調整することにより、本発明の製造方法により得られるアルコール飲料において、フルーティな香気を奏する酢酸エチルの含有量を増大させることができる。
【0022】
接触工程において用いられる木酢液が酢酸を含む場合、原料アルコール飲料と接触させる木酢液の量は、第1の中間物の総質量に対する木酢液そのものの量を基準として決定されるものとし、第1の中間物の総質量に対する酢酸(すなわち、木酢液に含まれる酢酸)の量を基準として決定されるものではない。
【0023】
また、接触工程において木酢液と酢酸とが組み合わせて用いられる場合、原料アルコール飲料と接触させるそれらの量は、第1の中間物の総質量に対する酢酸の総質量(すなわち、木酢液に含まれる酢酸と、別途添加される酢酸との合計量)を基準として決定される。
【0024】
接触工程において、原料アルコール飲料と木酢液および/または酢酸とを入れる容器としては、アルコール飲料の熟成に用いられる容器であれば特に限定されず、目的とするアルコール飲料の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の製造方法により得られるアルコール飲料がウイスキーである場合、ステンレス製容器、木樽等を用いることができる。
【0025】
また、接触工程においては、必要に応じて、第1の中間物と、アルコール飲料の熟成に用いられる材料(熟成材料)とを接触させてもよい。そのような熟成材料としては、例えば、オーク樽、ミズナラ樽等の木樽の破片(ウッドチップ)等が挙げられる。第1の中間物と接触させる熟成材料の量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、目的とするアルコール飲料の種類、香味等に応じて適宜設定することができる。例えば、本発明の製造方法により得られるアルコール飲料がウイスキーであり、熟成材料としてオーク樽のウッドチップが用いられる場合、ウイスキーとウッドチップとの接触面積が、一般的なオーク樽での熟成時のオーク樽と発酵蒸留液との接触表面積と同程度(例えば、発酵蒸留液1mL当たりのウッドチップ表面積が0.1cm)となるように、ウッドチップの量が調整される。
【0026】
(熟成工程)
熟成工程は、上述した接触工程で得られた第1の中間物を特定の条件下で静置(熟成)して第2の中間物を得る工程である。熟成の方法は特に限定されないが、例えば、第1の中間物を入れたステンレス製容器を、所定の温度に加温した恒温槽内で静置することにより行われる。
【0027】
熟成の温度は40~80℃に調整され、好ましくは40~65℃に調整される。熟成の温度を上述した範囲に調整することにより、特に上述したような木樽で熟成する場合や、熟成材料としてウッドチップを用いる場合には、木樽やウッドチップに由来する成分と熟成中に生成する香気成分とのバランスを適切に保つことができる。
【0028】
熟成の時間は1週間以上であり、好ましくは1~10週間、より好ましくは1~8週間、より一層好ましくは1~6週間、特に好ましくは1~4週間である。従来の方法によりアルコール飲料を熟成してフルーティな香気を付与するには数年~数十年の時間を要するところ、本発明の製造方法によれば上述したような極めて短い時間でアルコール飲料にフルーティな香気を付与することができる。
【0029】
熟成工程で得られる第2の中間物は、さらなる加工工程を経ずにそのままアルコール飲料として供してもよく、さらなる加工工程を経た上でアルコール飲料として供してもよい。
【0030】
第2の中間物に対するさらなる加工工程としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、目的とするアルコール飲料の種類や特性等に応じて適宜設定することができる。さらなる加工工程としては、例えば、配合(ブレンド、ヴァッティング)する工程等のアルコール飲料の製造において行われる加工工程が挙げられる。
【0031】
[アルコール飲料の香気を向上させる方法]
本発明の別の態様によれば、アルコール飲料の香気を向上させる方法((以下、「本発明の方法」とも言う。)が提供される。本発明の方法によれば、アルコール飲料に、主に酢酸エチルに起因するパイナップル様の香気を付与することができる。
【0032】
本発明の方法は、原料となるアルコール飲料と木酢液または酢酸とを接触させて第1の中間物を得る工程(接触工程)、および得られた第1の中間物を特定の条件下で静置(熟成)して第2の中間物を得る熟成工程を含む。接触工程および熟成工程は、いずれも上述した本発明の製造方法について説明したのと同様にして行うことができる。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1-1:アルコール飲料の香気成分の分析1
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させる場合の温度および木酢液の濃度と、得られるアルコール飲料における香気成分(酢酸エチル)の含有量との相関を以下の手順に従って確認した。
【0035】
原料アルコール飲料の作製
発芽させた穀類および水を準備し、発芽させた穀類を粉砕・糖化させて糖化液を得た。次いで、糖化液を発酵させてアルコール含有物中間物を得、得られたアルコール含有中間物を蒸留して発酵蒸留液を得た。次いで、得られた発酵蒸留液に加水してアルコール濃度を50体積%に調整して、本実施例の原料アルコール飲料とした。発酵蒸留液および原料アルコール飲料中のアルコールの濃度の測定は、日本国国税庁が定める方法(日本国国税庁が発行する「国税庁所定分析方法」)に従って行った。
【0036】
試験サンプルの作製
300mL容量のステンレス製容器に、上述した手順に従って作製された原料アルコール飲料と、下記表1に示す所定の濃度となるように木酢液を入れて各第1の中間物を作製した。次いで、さらに各第1の中間物にオークチップを投入した。なお、オークチップとしては、原料アルコール飲料とオークチップとの接触面積が原料アルコール飲料1mL当たりオークチップ表面積0.1cmとなるように切断し、次いでガスコンロの直火で全面を炙ったオークチップを用いた。
【0037】
【表1】
【0038】
次いで、各第1の中間物およびオークチップを入れたステンレス製容器を65℃に保った恒温槽内に1か月間静置して、各第1の中間物を熟成して第2の中間物を得た。得られた第2の中間体を、さらなる加工工程を行うことなくそのまま試験サンプル(試験区1-1および1-2のアルコール飲料)とした。なお、各試験区について、3つの試験サンプルを作製した。
【0039】
酢酸エチルの含有量の測定
各試験サンプルの酢酸エチルの含有量を、BCOJビール分析法(財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集1996年4月1日発行)の「8.22 低沸点香気成分」に記載の方法に従って、FID検出器付きガスクロマトグラフを用いて測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1には、測定結果として、3つの試験サンプルの平均値および標準偏差をそれぞれ示す。
【0040】
表1に示す結果から、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて65℃で熟成させた試験区1-2のアルコール飲料においては、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区1-1のアルコール飲料と比較して、酢酸エチルの含有量が増大していることが分かる。酢酸エチルはパイナップル様の香気を呈することから、試験区1-2のアルコール飲料は、試験区1-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が向上していることが示唆される。
【0041】
実施例1-2:アルコール飲料の香気成分の分析2
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させる場合の温度および木酢液の濃度と、得られるアルコール飲料における香気成分(酢酸エチル)の含有量との相関を以下の手順に従って確認した。
【0042】
原料アルコール飲料の作製
実施例1-1と同様の手順に従って発酵蒸留液を得、得られた発酵蒸留液に実施例1-1の手順と同様にして加水してアルコール濃度を25体積%に調整して、本実施例の原料アルコール飲料を作製した。
【0043】
試験サンプルの作製
用いる原料アルコール飲料を本実施例の原料アルコール飲料に変更したこと以外は実施例1-1と同様の手順に従って、1か月間静置して、試験サンプル(試験区2-1および2-2のアルコール飲料)を作製した。なお、各試験区について、3つの試験サンプルを作製した。
【0044】
酢酸エチルの含有量の測定
実施例1-1と同様の手順に従って、各試験サンプルの酢酸エチル含有量を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2には、測定結果として、3つの試験サンプルの平均値および標準偏差をそれぞれ示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示す結果から、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて65℃で熟成させた試験区2-2のアルコール飲料においては、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区2-1のアルコール飲料と比較して、酢酸エチルの含有量が増大していることが分かる。酢酸エチルはパイナップル様の香気を呈することから、試験区2-2のアルコール飲料は、試験区2-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が向上していることが示唆される。
【0047】
実施例1-3:アルコール飲料の香気成分の分析3
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させる場合の温度および木酢液の濃度と、得られるアルコール飲料における香気成分(酢酸エチル)の含有量との相関を以下の手順に従って確認した。
【0048】
試験サンプルの作製
実施例1-1と同様の手順に従って、原料アルコール飲料として用いるアルコール濃度が50体積%の発酵蒸留液を作製した。次いで、原料アルコール飲料と木酢液との接触を、下記表3に示す所定の濃度に変更し、熟成期間を1週間に変更したこと以外は実施例1-1と同様の手順に従って、試験サンプル(試験区3-1~3-16のアルコール飲料)を作製した。
【0049】
酢酸エチルの含有量の測定
実施例1-1と同様の手順に従って、各試験サンプルの酢酸エチル含有量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示す結果から、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて20℃、40℃、65℃および80℃のいずれかで熟成させた試験区3-2~3-6、3-8~3-12、3-14および3-16のアルコール飲料においては、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに20℃、40℃、65℃および80℃のいずれかで熟成させた試験区3-1、3-7、3-13および3-15のアルコール飲料とそれぞれ比較して、酢酸エチルの含有量が増大していることが分かる。酢酸エチルはパイナップル様の香気を呈することから、試験区3-2~3-6、3-8~3-12、3-14および3-16のアルコール飲料は、それぞれ試験区3-1、3-7、3-13および3-15のアルコール飲料とそれぞれ比較して、フルーティな香気が向上していることが示唆される。
【0052】
実施例1-4:アルコール飲料の香気成分の分析4
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させる場合の温度および木酢液の濃度と、得られるアルコール飲料における香気成分(酢酸エチル)の含有量との相関を以下の手順に従って確認した。
【0053】
試験サンプルの作製
実施例1-2と同様の手順に従って、原料アルコール飲料として用いるアルコール濃度が25体積%の発酵蒸留液を作製した。次いで、原料アルコール飲料と接触させる木酢液の濃度を、下記表4に示す所定の濃度に変更し、熟成期間を1週間に変更したこと以外は実施例1-1と同様の手順に従って、試験サンプル(試験区4-1~4-4のアルコール飲料)を作製した。
【0054】
酢酸エチルの含有量の測定
実施例1-1と同様の手順に従って、各試験サンプルの酢酸エチル含有量を測定した。測定結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示す結果から、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて40℃および65℃のいずれかで熟成させた試験区4-2および4-4のアルコール飲料においては、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに40℃および65℃のいずれ下で熟成させた試験区4-1および4-3のアルコール飲料とそれぞれ比較して、酢酸エチルの含有量が増大していることが分かる。酢酸エチルはパイナップル様の香気を呈することから、試験区4-2および4-4のアルコール飲料は、それぞれ試験区4-1および4-3のアルコール飲料とそれぞれ比較して、フルーティな香気が向上していることが示唆される。
【0057】
実施例1-5:アルコール飲料の香気成分の分析5
原料アルコール飲料と木酢液とを接触させる場合の温度および木酢液の濃度と、得られるアルコール飲料における香気成分(酢酸エチル)の含有量との相関を以下の手順に従って確認した。
【0058】
原料アルコール飲料の作製
実施例1-1と同様の手順に従って、発酵蒸留液を得、得られた発酵蒸留液に実施例1-1の手順と同様にして加水してアルコール濃度を69.2体積%に調整して、本実施例の原料アルコールを作製した。
【0059】
試験サンプルの作製
用いる原料アルコール飲料を本実施例の原料アルコール飲料に変更し、原料アルコール飲料と接触させる木酢液の濃度を下記表5に示す所定の濃度に変更し、熟成期間を1週間に変更したこと以外は実施例1-1と同様の手順に従って、試験サンプル(試験区5-1および5-2のアルコール飲料)を作製した。
【0060】
酢酸エチルの含有量の測定
実施例1-1と同様の手順に従って、各試験サンプルの酢酸エチル含有量を測定した。測定結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示す結果から、アルコール濃度69.2体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて65℃で熟成させた試験区5-2のアルコール飲料においては、アルコール濃度69.2体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区5-1のアルコール飲料と比較して、酢酸エチルの含有量が増大していることが分かる。酢酸エチルはパイナップル様の香気を呈することから、試験区5-2のアルコール飲料は、試験区5-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が向上していることが示唆される。
【0063】
実施例1-6:アルコール飲料の香気成分の分析6
原料アルコール飲料と酢酸とを接触させる場合の温度および酢酸の濃度と、得られるアルコール飲料における香気成分(酢酸エチル)の含有量との相関を以下の手順に従って確認した。
【0064】
試験サンプルの作製
300mL容量のステンレス製容器に、実施例1-1と同様の手順にして作製された原料アルコール飲料と、下記表6に示す所定の濃度となるように酢酸を入れて各第1の中間物を作製した。次いで、実施例1-1と同様にして各第1の中間物にオークチップを投入した。
【0065】
【表6】
【0066】
次いで、実施例1-1と同様にして各第1の中間物およびオークチップを入れたステンレス製容器を恒温槽内に1か月間静置して、各第1の中間物を熟成して第2の中間物を得た。得られた第2の中間体を、さらなる加工工程を行うことなくそのまま試験サンプル(試験区6-5~6-5のアルコール飲料)とした。
【0067】
酢酸エチルの含有量の測定
実施例1-1と同様の手順に従って、各試験サンプルの酢酸エチル含有量を測定した。測定結果を表6に示す。
【0068】
表6に示す結果から、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて65℃で熟成させた試験区6-2~6-5のアルコール飲料においては、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区6-1のアルコール飲料と比較して、酢酸エチルの含有量が増大していることが分かる。酢酸エチルはパイナップル様の香気を呈することから、試験区6-2~6-5のアルコール飲料は、いずれも試験区6-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が向上していることが示唆される。
【0069】
実施例2-1:アルコール飲料の官能評価試験1
上述した実施例1-1で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、以下の手順に従って官能評価を行った。
【0070】
実施例1-1で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気を、よく訓練され蒸留酒の評価に熟練した5名のパネラーにより、以下の基準に基づき官能評価を行った。結果を表7に示す。なお、官能評価の点数は、それぞれ5名のパネラーの平均点および標準偏差として示す。
1:フルーティな香気が感知されない。
2:フルーティな香気がわずかに感知される。
3:フルーティな香気が明確に感知される。
4:フルーティな香気が強く感知される。
5:フルーティな香気が非常に強く感知される。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に示す結果から、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて65℃で熟成させた試験区1-2のアルコール飲料においては、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区1-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が増大していることが分かる。
【0073】
実施例2-2:アルコール飲料の官能評価試験2
上述した実施例1-2で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、以下の手順に従って官能評価を行った。
【0074】
実施例1-2で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、実施例2-2と同様の手順に従って官能評価を行った。結果を表8に示す。
【0075】
【表8】
【0076】
表8に示す結果から、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて65℃で熟成させた試験区2-1のアルコール飲料においては、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区2-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が増大していることが分かる。
【0077】
実施例2-3:アルコール飲料の官能評価試験3
上述した実施例1-3で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、以下の手順に従って官能評価を行った。
【0078】
実施例1-3で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、実施例2-1と同様の手順に従って官能評価を行った。結果を表9に示す。
【0079】
【表9】
【0080】
表9に示す結果から、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて20℃、40℃、65℃および80℃のいずれかで熟成させた試験区3-2~3-5、3-9~3-11および3-14のアルコール飲料においては、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに20℃、40℃、65℃および80℃のいずれかで熟成させたア試験区3-1、3-7および3-13のアルコール飲料とそれぞれ比較して、フルーティな香気が増大していることが分かる。
【0081】
実施例2-4:アルコール飲料の官能評価試験4
上述した実施例1-4で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、以下の手順に従って官能評価を行った。
【0082】
実施例1-4で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、実施例2-1と同様の手順に従って官能評価を行った。結果を表10に示す。
【0083】
【表10】
【0084】
表10に示す結果から、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて40℃および65℃のいずれかで熟成させた試験区4-2および4-4のアルコール飲料においては、アルコール濃度25体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに40℃および65℃のいずれ下で熟成させた試験区4-1および4-3のアルコール飲料とそれぞれ比較して、フルーティな香気が増大していることが分かる。
【0085】
実施例2-5:アルコール飲料の官能評価試験5
上述した実施例1-5で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、以下の手順に従って官能評価を行った。さらに、熟成温度を40℃に変更したこと以外は実施例1-5と同様の手順に従って新たに作製した試験サンプル(試験区5-3および5-4のアルコール飲料)について、同様にして官能評価を行った。
【0086】
実施例1-5で作製した各試験区のアルコール飲料、および上述した手順に従って新たに作製した試験区5-3および5-4のアルコール飲料のフルーティな香気について、実施例2-1と同様の手順に従って官能評価を行った。結果を表11に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
表11に示す結果から、アルコール濃度69.2体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させて40℃および65℃のいずれかで熟成させた試験区5-2および5-4のアルコール飲料においては、アルコール濃度69.2体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに40℃および65℃のいずれかで熟成させた試験区5-1および5-3のアルコール飲料とそれぞれ比較して、フルーティな香気が増大していることが分かる。
【0089】
実施例2-6:アルコール飲料の官能評価試験6
上述した実施例1-6で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、以下の手順に従って官能評価を行った。
【0090】
実施例1-6で作製した各試験区のアルコール飲料のフルーティな香気について、実施例2-1と同様の手順に従って官能評価を行った。結果を表12に示す。
【0091】
【表12】
【0092】
表6に示す結果から、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と酢酸とを接触させて65℃で熟成させた試験区6-2~6-5のアルコール飲料においては、アルコール濃度50体積%の原料アルコール飲料と木酢液とを接触させずに65℃で熟成させた試験区6-1のアルコール飲料と比較して、フルーティな香気が増大していることが分かる。