(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155565
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20241024BHJP
A61B 8/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61B8/14
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070380
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】西原 財光
(72)【発明者】
【氏名】掛江 明弘
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB21
4C601BB22
4C601BB24
4C601DE02
4C601DE03
4C601DE04
4C601EE09
4C601GB03
4C601GB18
4C601JB30
4C601JB32
4C601KK12
4C601KK19
(57)【要約】
【課題】精度劣化を低減できること。
【解決手段】実施形態に係る超音波診断装置は、判定部と、ドプラ処理部とを含む。判定部は、一方向に対して間欠的にまたは連続的に超音波を送受信するドプラモードを含む、複数の画像表示モードによるスキャンが実行されるか否かを判定する。ドプラ処理部は、前記複数の画像表示モードによるスキャンが実行される場合、前記ドプラモードにおけるウォールフィルタとして、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを適用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に対して間欠的にまたは連続的に超音波を送受信するドプラモードを含む、複数の画像表示モードによるスキャンが実行されるか否かを判定する判定部と、
前記複数の画像表示モードによるスキャンが実行される場合、前記ドプラモードにおけるウォールフィルタとして、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを適用するドプラ処理部と、
を具備する、超音波診断装置。
【請求項2】
前記ドプラモードにおいて描出されるドプラ波形の形状に応じて、前記FIRフィルタのパラメータを設定する設定部をさらに具備する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記ドプラ波形に生じるノイズが閾値以下となるように、前記FIRフィルタのタップ数およびカットオフ周波数を設定する、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記ドプラモードは、パルスドプラモードまたは連続波ドプラモードである、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記ドプラ処理部は、前記ドプラモードのみによるスキャンが実行される場合、前記ドプラモードにおけるウォールフィルタとして、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを適用する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置では、撮像対象からのエコーの強度を輝度で表現したBモード画像を収集することに加えて、血流や組織の動きなどを示すドプラ画像を収集するためのドプラモードがある。ドプラモードの一例として、一方向に間欠的に超音波を送受信するパルスドプラ(PWD:Pulsed Wave Doppler)モード、一方向に連続的に超音波を送受信する連続波ドプラ(CWD:Continuous Wave Doppler)モードがある。これらのドプラモードにおいて、ドプラの時系列データに信号強度の大きい直流成分付近の信号が含まれていると、信号のダイナミックレンジが不足する。よって、FFT(Fast Fourier Transform)による周波数解析の結果を得る前に、いわゆるウォールフィルタとしてハイパスフィルタ(HPF)を適用することが多い。ウォールフィルタとしては、IIR(Infinite Impulse Response)型のフィルタを適用することが多いが、過渡応答を予測しにくいというデメリットがある。
【0003】
例えばBモードとパルスドプラモードとを併用し、Bモード画像とドプラ画像とを同時表示する撮影法(いわゆるDuplex)では、Bモード用に超音波を送受信している期間は、ドプラモード用の超音波を送受信できないため、ドプラモードの受信不感区間が発生する。そのため、ウォールフィルタとしてIIR型のフィルタを用いた場合、過渡応答領域のデータはドプラ画像用のデータとして用いることができず、ドプラ波形の精度が劣化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、精度劣化を低減できることにある。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る超音波診断装置は、判定部と、ドプラ処理部とを含む。判定部は、一方向に対して間欠的にまたは連続的に超音波を送受信するドプラモードを含む、複数の画像表示モードによるスキャンが実行されるか否かを判定する。ドプラ処理部は、前記複数の画像表示モードによるスキャンが実行される場合、前記ドプラモードにおけるウォールフィルタとして、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを適用する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、超音波診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、FIRフィルタとIIRフィルタとの比較例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る超音波診断装置で得られるドプラ波形の一例と、IIR型手法により得られるドプラ波形の一例とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る超音波診断装置について説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示す図である。
図1の超音波診断装置1は、プローブ制御装置を含む装置本体100と、超音波プローブ101とを有している。装置本体100は、入力装置102および出力装置103と接続されている。また、装置本体100は、ネットワークNWを介して外部装置104と接続されている。外部装置104は、例えば、PACS(Picture Archiving and Communication Systems)を搭載したサーバおよびポスト処理を実行可能なワークステーションなどである。
【0010】
超音波プローブ101は、例えば、装置本体100からの制御に従い、被検体である生体P内のスキャン領域について超音波スキャンを実行する。超音波プローブ101は、例えば、音響レンズ、一つ以上の整合層、複数の振動子(圧電素子)、およびバッキング材等を有する。音響レンズは、例えばシリコンゴムで形成され、超音波ビームを収束させる。一つ以上の整合層は、複数の振動子と生体との間のインピーダンスマッチングを行う。バッキング材は、複数の振動子から放射方向に対して後方への超音波の伝搬を防止する。超音波プローブ101は、例えば、リニアプローブ、コンベックスプローブを想定するが、360度スキャンが可能なラジアル式プローブであってもよい。超音波プローブ101は、装置本体100と着脱自在に接続される。超音波プローブ101には、オフセット処理、および超音波画像をフリーズさせる操作(フリーズ操作)等の際に押下されるボタンが配置されてもよい。
【0011】
複数の振動子は、装置本体100が有する後述の超音波送信回路110から供給される駆動信号に基づいて超音波を発生する。これにより、超音波プローブ101から生体Pへ超音波が送信される。超音波プローブ101から生体Pへ超音波が送信されると、送信された超音波は、生体Pの体組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として複数の圧電振動子にて受信される。受信されるエコー信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流または心臓壁等の表面で反射された場合のエコー信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向の速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。超音波プローブ101は、生体Pからのエコー信号を受信して電気信号に変換する。
【0012】
図1には、一つの超音波プローブ101と装置本体100との接続関係を例示している。しかしながら、装置本体100には、複数の超音波プローブを接続することが可能である。接続された複数の超音波プローブのうちいずれを超音波スキャンに使用するかは、例えば、後述するタッチパネル上のソフトウェアボタンによって任意に選択することができる。
【0013】
装置本体100は、超音波プローブ101により受信されたエコー信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体100は、超音波送信回路110と、超音波受信回路120と、内部記憶回路130と、画像メモリ140と、入力インタフェース150と、出力インタフェース160と、通信インタフェース170と、処理回路180とを有している。
【0014】
超音波送信回路110は、超音波プローブ101に駆動信号を供給するプロセッサである。超音波送信回路110は、例えば、トリガ発生回路、遅延回路、およびパルサ回路等により実現される。トリガ発生回路は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返して発生する。遅延回路は、超音波プローブから発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な複数の圧電振動子毎の遅延時間を、トリガ発生回路が発生する各レートパルスに対し与える。パルサ回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ101に設けられる複数の超音波振動子へ駆動信号(駆動パルス)を印加する。遅延回路により各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、複数の圧電振動子の表面からの送信方向が任意に調整可能となる。
【0015】
また、超音波送信回路110は、駆動信号によって、超音波の出力強度を任意に変更することができる。超音波診断装置では、出力強度を大きくすることにより、生体P内での超音波の減衰の影響を小さくすることができる。超音波診断装置は、超音波の減衰の影響を小さくすることによって、受信時において、信号対雑音比(SNR)の大きいエコー信号を取得することができる。
【0016】
一般的に、超音波が生体P内を伝播すると、出力強度に相当する超音波の振動の強さ(これは、音響パワーとも称する)が減衰する。音響パワーの減衰は、吸収、散乱および反射などによって起こる。また、音響パワーの減少の度合いは、超音波の周波数および超音波の放射方向の距離に依存する。例えば、超音波の周波数を大きくすることにより、減衰の度合いは大きくなる。また、超音波の放射方向の距離が長くなるほど、減衰の度合いは大きくなる。
【0017】
超音波受信回路120は、超音波プローブ101が受信したエコー信号に対して各種処理を施し、受信信号を生成するプロセッサである。超音波受信回路120は、超音波プローブ101によって取得された超音波のエコー信号に対する受信信号を生成する。具体的には、超音波受信回路120は、例えば、プリアンプ、A/D変換器、復調器、およびビームフォーマ(加算器)等により実現される。プリアンプは、超音波プローブ101が受信したエコー信号をチャネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正されたエコー信号をディジタル信号に変換する。復調器は、ディジタル信号を復調する。ビームフォーマは、例えば、復調されたディジタル信号に受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与えて、遅延時間が与えられた複数のディジタル信号を加算する。ビームフォーマの加算処理により、受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調された受信信号が発生する。なお、受信信号は、IQ信号と呼ばれてもよい。また、超音波受信回路120は、受信信号を、後述する内部記憶回路130に記憶させてもよいし、通信インタフェース170を介して外部装置104へ出力してもよい。
【0018】
内部記憶回路130は、例えば、磁気的記憶媒体、光学的記憶媒体、または半導体メモリ等、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体等を有する。内部記憶回路130は、超音波送受信を実現するためのプログラムおよび各種データ等を記憶している。プログラムおよび各種データは、例えば、内部記憶回路130に予め記憶されていてもよい。また、プログラムおよび各種データは、例えば、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されて内部記憶回路130にインストールされてもよい。また、内部記憶回路130は、入力インタフェース150を介して入力される操作に従い、処理回路180で生成されるBモード画像データ、造影画像データ、および血流映像に関する画像データ等を記憶する。内部記憶回路130は、記憶している画像データを、通信インタフェース170を介して外部装置104等に転送することも可能である。なお、内部記憶回路130は、超音波受信回路120で生成した受信信号(IQ信号)を記憶してもよいし、通信インタフェース170を介して外部装置104等に転送してもよい。
【0019】
なお、内部記憶回路130は、CDドライブ、DVDドライブ、およびフラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。内部記憶回路130は、記憶しているデータを可搬性記憶媒体へ書き込み、可搬性記憶媒体を介してデータを外部装置104に記憶させることも可能である。
【0020】
画像メモリ140は、例えば、磁気的記憶媒体、光学的記憶媒体、または半導体メモリ等、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体等を有する。画像メモリ140は、入力インタフェース150を介して入力されるフリーズ操作直前の複数フレームに対応する画像データを保存する。画像メモリ140に記憶されている画像データは、例えば、連続表示(シネ表示)される。
【0021】
上記の内部記憶回路130および画像メモリ140は、必ずしもそれぞれが独立した記憶装置により実現されなくてもよい。内部記憶回路130および画像メモリ140は、単一の記憶装置により実現されてもよい。また、内部記憶回路130および画像メモリ140は、それぞれ複数の記憶装置により実現されてもよい。
【0022】
入力インタフェース150は、入力装置102を介し、操作者からの各種指示を受け付ける。入力装置102は、例えば、マウス、キーボード、パネルスイッチ、スライダースイッチ、トラックボール、ロータリーエンコーダ、操作パネル、およびタッチコマンドスクリーン(TCS:Touch Command Screen)である。入力インタフェース150は、例えばバスを介して処理回路180に接続され、操作者から入力される操作指示を電気信号へ変換し、電気信号を処理回路180へ出力する。なお、入力インタフェース150は、マウスおよびキーボード等の物理的な操作部品と接続するものだけに限られない。例えば、超音波診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力される操作指示に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路180へ出力する回路も入力インタフェースの例に含まれる。
【0023】
出力インタフェース160は、例えば処理回路180からの電気信号を出力装置103へ出力するためのインタフェースである。出力装置103は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイ等の任意のディスプレイである。出力装置103は、入力装置102を兼ねたタッチパネル式のディスプレイでもよい。出力装置103は、ディスプレイの他に、音声を出力するスピーカーを更に含んでもよい。出力インタフェース160は、例えばバスを介して処理回路180に接続され、処理回路180からの電気信号を出力装置103に出力する。
【0024】
通信インタフェース170は、例えばネットワークNWを介して外部装置104と接続され、外部装置104との間でデータ通信を行う。
【0025】
処理回路180は、例えば、超音波診断装置1の中枢として機能するプロセッサである。処理回路180は、内部記憶回路130に記憶されているプログラムを実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。処理回路180は、例えば、Bモード処理機能181と、ドプラ処理機能182と、画像生成機能183と、判定機能184と、表示制御機能186と、システム制御機能187とを有している。
【0026】
Bモード処理機能181は、超音波受信回路120から受け取った受信信号に基づき、Bモードデータを生成する機能である。Bモード処理機能181において処理回路180は、例えば、超音波受信回路120から受け取った受信信号に対して包絡線検波処理、および対数圧縮処理等を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。生成されたBモードデータは、2次元的な超音波走査線(ラスタ)上のBモードRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0027】
ドプラ処理機能182は、超音波受信回路120から受け取った受信信号を周波数解析することで、スキャン領域に設定される関心領域(ROI:Region of Interest)内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラ情報)を生成する機能である。生成されたドプラ情報は、2次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータ(ドプラデータとも称する)として不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0028】
具体的には、処理回路180は、ドプラ処理機能182により、例えば移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値などを複数のサンプル点それぞれで推定し、推定した運動情報を示すドプラデータを生成する。移動体は、例えば、血流や、心壁などの組織、造影剤である。また、処理回路180は、ドプラ処理機能182により、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流速度の分散値、血流信号のパワー値などを、複数のサンプル点それぞれで推定し、推定した血流情報を示すドプラデータを生成する。
【0029】
ドプラ処理機能182により処理回路180は、例えば、超音波受信回路120から受け取った受信信号に対して、直交検波処理により、ドプラ偏移を検出する基準となる周波数である参照周波数を乗算し、ローパスフィルタ(LPF)を適用することでドプラ偏移を抽出する。その後、ドプラ処理機能182により処理回路180は、観測したい部位の信号に対しゲートをかけて信号を取り出し、取り出した信号に対してウォールフィルタを適用する。ドプラ処理機能182により処理回路180は、ウォールフィルタ適用後の信号に対して、A/D変換処理、FFT処理を適用し、ドプラデータを生成すればよい。
【0030】
さらに、処理回路180は、ドプラ処理機能182により、カラーフローマッピング(CFM:Color Flow Mapping)法とも呼ばれるカラードプラ法を実行することができる。CFM法では、超音波の送受信が複数の走査線上で複数回行われる。そして、CFM法では、例えば、同一位置のデータ列に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、静止している組織、又は動きの遅い組織に由来する信号(クラッタ信号)を抑制して、血流に由来する信号を抽出する。そして、CFM法では、抽出した血流信号を用いて、血流の速度、血流の分散、血流のパワーなどの血流情報を推定する。後述する画像生成機能183では、推定した血流情報の分布を、例えば、2次元でカラー表示した超音波画像データ(カラードプラ画像データ)として生成する。なお、カラー表示とは、血流情報の分布を所定のカラーコードに対応させて表示させるものであり、グレースケールもカラー表示に含まれるものとする。
【0031】
血流映像モードには、所望する臨床情報によって様々な種類がある。一般的には、血流の方向や血流の平均速度が可視化可能な速度表示用血流映像モードや、血流信号のパワーを可視化可能なパワー表示用血流映像モードがある。
【0032】
速度表示用血流映像モードは、血流の方向や血流の平均速度によってドプラシフト周波数に対応した色を表示するモードである。例えば、速度表示用血流映像モードは、流れの方向として、向かってくる流れを赤系色、遠ざかる流れを青系色で表し、それぞれの速度の違いを色相の違いで表す。速度表示用血流映像モードは、カラードプラモードや、カラードプライメージング(Color Doppler Imaging:CDI)モードと呼ばれることもある。
【0033】
パワー表示用血流映像モードは、例えば、血流信号のパワーを赤系色の色相、色の明るさ(明度)または彩度の変化で表すモードである。パワー表示用血流映像モードは、パワードプラ(Power Doppler:PD)モードと呼ばれることもある。パワー表示用血流映像モードは、速度表示用血流映像モードと比べて高感度に血流を描出できることから、高感度血流映像モードと呼ばれてもよい。
【0034】
画像生成機能183は、Bモード処理機能181により生成されたデータに基づいて、Bモード画像データを生成する機能である。例えば、画像生成機能183において処理回路180は、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の画像データ(表示用画像データ)を生成する。具体的には、処理回路180は、RAWデータメモリに記憶されたBモードRAWデータに対してRAW-ピクセル変換、例えば、超音波プローブ101による超音波の走査形態に応じた座標変換を実行することで、ピクセルから構成される2次元Bモード画像データ(超音波画像データとも称する)を生成する。言い換えると、処理回路180は、画像生成機能183により、超音波の送受信によって、連続する複数のフレームにそれぞれ対応する複数の超音波画像(医用画像)を生成する。
【0035】
また、画像生成機能183は、ドプラ処理機能182により生成されたデータに基づいて、ドプラ波形データ、ドプラ画像データを生成する機能も有する。例えば、画像生成機能183は、RAWデータメモリに記憶されたドプラRAWデータに対してRAW-ピクセル変換を実行することで、血流情報が映像化されたドプラ画像データを生成する。ドプラ画像データは、平均速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又はこれらを組み合わせた画像データである。処理回路180は、ドプラ画像データとして、血流情報がカラーで表示されるカラードプラ画像データ、および一つの血流情報がグレースケールで波形状に表示されるドプラ画像データを生成する。カラードプラ画像データは、前述の血流映像モードの実行時に生成される。
【0036】
判定機能184は、一方向に対して間欠的にまたは連続的に超音波を送受信するドプラモード、すなわちPWD法に基づくドプラモード(以下、PWDモードという)またはCWD法に基づくドプラモード(以下、CWDモードという)を含む、複数の画像表示モードによるスキャンが実行されるか否かを判定する。
設定機能185は、ドプラモードにおいて描出されるドプラ波形の形状に応じて、ウォールフィルタのパラメータを設定する。具体的には、設定機能185は、ドプラ波形に生じるノイズが閾値以下となるように、ウォールフィルタのパラメータとして、フィルタのタップ数、フィルタ係数およびカットオフ周波数を設定する。なお、設定機能185の処理は、ドプラ処理機能182の一部として実行されてもよい。
【0037】
表示制御機能186は、画像生成機能183により生成された各種超音波画像データに基づく画像を出力装置103としてのディスプレイに表示させる機能である。具体的には、例えば、表示制御機能186により処理回路180は、画像生成機能183により生成されたBモード画像データ、ドプラ波形データ、ドプラ画像データ、又はこれらの全てを含む画像データに基づく画像のディスプレイにおける表示を制御する。
【0038】
より具体的には、表示制御機能186により処理回路180は、例えば、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用画像データを生成する。また、処理回路180は、表示用画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、及びγカーブ補正、並びにRGB変換等の各種処理を実行してもよい。また、処理回路180は、表示用画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディマーク等の付帯情報を付加してもよい。また、処理回路180は、操作者が入力装置により各種指示を入力するためのユーザインタフェース(GUI:Graphical User Interface)を生成し、GUIをディスプレイに表示させてもよい。
システム制御機能187は、超音波診断装置1全体の動作を統括して制御する機能である。
【0039】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の動作例について
図2のフローチャートを参照して説明する。
【0040】
ステップSA1では、判定機能184により処理回路180が、複数の画像表示モードが設定されているか否かを判定する。言い換えれば、Mモード、Bモード、PWDモードまたはCWDモード、カラードプラモード、といった異なる種類の画像表示モードが、リアルタイムに並列表示可能な撮影法、いわゆるDuplexまたはTriplexによる撮影であるか否かを判定する。判定機能184により処理回路180は、撮像モードとして複数の画像表示モードが設定される場合、ステップSA2に進む。一方、複数の画像表示モードではなく、Bモードのみ、PWDモードのみといった単一の画像表示モードでの撮像モードが設定される場合、ステップSA4に進む。
【0041】
ステップSA2では、判定機能184により処理回路180が、複数の画像表示モードにPWDモードまたはCWDモードが含まれるか否かを判定する。PWDモードまたはCWDモードが含まれる場合、ステップSA3に進む。一方、PWDモードまたはCWDモードが含まれない場合、つまりBモードとカラードプラモードとのDuplexが設定されている場合などは、PWDモードまたはCWDモードに応じたウォールフィルタの設定が不要であるため、処理を終了する。
【0042】
ステップSA3では、設定機能185により処理回路180が、ドプラ処理機能182で利用するウォールフィルタとして、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを設定する。これは、PWDモードまたはCWDモードを含む複数の画像表示モードであるため、過渡応答領域の影響が少ないフィルタを採用するためである。
【0043】
ステップSA4では、判定機能184により処理回路180が、画像表示モードがPWDモードまたはCWDモードであるか否かを判定する。画像表示モードがPWDモードまたはCWDモードである場合、ステップSA5に進み、画像表示モードがPWDモードまたはCWDモードではない場合、PWDモードまたはCWDモードに応じたウォールフィルタの設定が不要であるため、処理を終了する。
【0044】
ステップSA5では、設定機能185により処理回路180が、ドプラ処理機能182で利用するウォールフィルタとして、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを設定する。これは、複数の画像表示モードではなく過渡応答の影響が少ないため、フィルタの肩特性の良いフィルタを採用すればよいからである。
【0045】
次に、FIRフィルタとIIRフィルタとの比較例について
図3を参照して説明する。
図3(a)は、Bモード(B)と、PWDモードと、カラードプラモード(CDI)との3つの画像表示モードがリアルタイムに並列表示される、Triplexにおける画像表示モードのスキャン期間を図示する。PWDモードのスキャン期間は、ウォールフィルタ適用区間ともいえる。なお、ここではPWDモードを例に説明するが、CWDモードであってもPWDモードの場合と同様に処理できる。
【0046】
図3(b)は、本実施形態に係る超音波診断装置1で利用される、PWDモードのスキャン期間において、FIRフィルタを用いる場合のPWD実データ区間34と、推定区間33とを示す。一方、
図3(c)は、PWDモードのスキャン期間において、IIRフィルタを用いる場合のPWD実データ区間34と、推定区間36とを示す。
【0047】
図3(a)に示すように、隣り合うPWDモードのスキャン期間の間に、Bモードまたはカラードプラモードのスキャン期間31が存在するため、当該Bモードまたはカラードプラモードのスキャン期間31においては、PWDモード用のスキャンを実行できない。よって、Bモードまたはカラードプラモードのスキャン期間31は、PWDモードにとっては、受信不感区間となる。そのため、当該受信不感区間においてはPWDモードのスキャンデータを推定して補間する必要がある。
【0048】
このとき、ウォールフィルタのメリットとして、受信不感区間における推定データと実際にPWDモードで取得した実データとの間の不連続を低減する役割を果たす。一方、ウォールフィルタを適用する場合、ウォールフィルタのフィルタ特性により、最初の数データサンプルは過渡応答領域(過渡応答中のタイミング)での取得となるため、ドプラ波形の精度劣化を考慮すれば、過渡応答領域でのデータは利用しないことが望ましい。つまり、他の画像表示モードからPWDモードに切り替わった最初の数サンプルは、ドプラ波形の生成に利用しない。
【0049】
ここで、受信不感区間がある場合において適用される、本実施形態に係る
図3(b)のウォールフィルタ、すなわちFIRフィルタの過渡応答期間32は、IIR型に係る
図3(c)の過渡応答期間35と比較して短い。
よって、本実施形態に係る
図3(b)の場合のほうが、IIR型に係る
図3(c)の場合よりも、ドプラ波形の生成に利用可能なPWD実データ区間34が長くなる。よって、PWD実データ区間34において破棄されるデータ数を低減しつつ波形推定を実行できるかつ、PWD実データ区間が長くなるため、ドプラ波形の精度を向上させることができる。
【0050】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置1で得られるドプラ波形の一例と、IIR型手法により得られるドプラ波形の一例について
図4を参照して説明する。
図4(a)は、PWDモードまたはCWDモードにおいて受信不感区間がある場合の本実施形態に係る超音波診断装置1で得られたドプラ波形の一例である。
図4(b)は、PWDモードまたはCWDモードにおいて受信不感区間がある場合のIIR型手法により得られたドプラ波形の一例である。
【0051】
図4(a)に示すドプラ波形は、
図4(b)に示すドプラ波形よりも、利用しているデータサンプル数が多い。そのため、
図4(a)に示す領域41のほうが、
図4(b)に示す領域42よりもインパルス状のノイズを低減できていることがわかる。
なお、受信不感区間がある場合におけるFIRフィルタのパラメータの設定値は、デフォルト値でもよいし、ユーザ指示により可変としてもよい。FIRフィルタのパラメータの設定値は、例えば、フィルタのタップ数、フィルタ係数およびカットオフ周波数で決定されるため、ユーザがディスプレイに表示されるドプラ波形を視認しながら、所望のドプラ波形となるように、フィルタのタップ数、フィルタ係数およびカットオフ周波数の少なくとも1つを変更してもよい。
【0052】
または、学習済みモデルを用いてFIRフィルタのパラメータが設定されてもよい。例えば、撮影対象情報を入力データとし、ユーザ所望のドプラ波形の形状を得たときに当該ユーザが決定したFIRフィルタのタップ数、フィルタ係数およびカットオフ周波数に関するパラメータを正解データとを組とする学習データを用意する。撮影対象情報は、例えば患者の性別、年齢、既往歴などの患者情報、撮影対象部位といった情報を含む。当該学習データを用いてネットワークモデルを教師あり学習により訓練することにより、学習済みモデルを生成すればよい。ネットワークモデルは、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)といった機械学習において一般的に用いられるモデルを用いればよいため、モデルの詳細については省略する。また、教師あり学習の手法についても、一般的な機械学習の手法を用いればよいため、ここでの説明は省略する。
【0053】
学習済みモデルの推論時は、撮影対象情報を学習済みモデルに入力することで、学習済みモデルからFIRフィルタのパラメータの設定値が出力される。これにより、ユーザは撮影対象情報から最適なドプラ波形の形状を得るための、FIRフィルタのパラメータを、ユーザの技量を問わずに容易に取得できる。
【0054】
以上に示した本実施形態によれば、PWDモードまたはCWDモードを含むDuplex、Triplexなどの複数の画像表示モードにおいて、PWDモードまたはCWDモードで用いるウォールフィルタとしてFIRフィルタを適用する。これにより、IIRフィルタを用いる場合と比較して、過渡応答期間を短く見積もれるため、ドプラ波形の生成の際にデータサンプル数を多く利用できる。よって、ドプラ波形の精度劣化を低減でき、視認性の高い良好なドプラ波形を生成できる。
【0055】
なお、上述の実施形態に係るウォールフィルタの設定処理は、装置本体100の処理回路180で実行する例を示すが、これに限らない。例えば、処理回路180が搭載された超音波プローブ101と、外付けのディスプレイとで構成される超音波診断装置であっても同様に適用できる。すなわち、超音波プローブ101内の処理回路180において、受信不感区間がある場合であるか否かを判定し、上述したウォールフィルタの設定処理が実行されることで、外付けのディスプレイに表示されるドプラ波形の精度劣化を低減できる。
【0056】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0057】
加えて、実施形態に係る各機能は、上述の処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに上述の手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0058】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
1 超音波診断装置
31 スキャン期間
32,35 過渡応答期間
33,36 推定区間
34 PWD実データ区間
40 超音波画像
4142 領域
100 装置本体
101 超音波プローブ
102 入力装置
103 出力装置
104 外部装置
110 超音波送信回路
120 超音波受信回路
130 内部記憶回路
140 画像メモリ
150 入力インタフェース
160 出力インタフェース
170 通信インタフェース
180 処理回路
181 Bモード処理機能
182 ドプラ処理機能
183 画像生成機能
184 判定機能
185 設定機能
186 表示制御機能
187 システム制御機能
NW ネットワーク