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特開2024-155572カーテンウォール用複層耐火ボード支持構造、及び合成耐火被覆構造
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  • 特開-カーテンウォール用複層耐火ボード支持構造、及び合成耐火被覆構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155572
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】カーテンウォール用複層耐火ボード支持構造、及び合成耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20241024BHJP
   E04B 2/96 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
E04B1/94 L
E04B2/96
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070397
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真美
(72)【発明者】
【氏名】田村 知久
(72)【発明者】
【氏名】浮田 長志
【テーマコード(参考)】
2E001
2E002
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA04
2E001GA12
2E001GA42
2E001GA46
2E001HA21
2E001HB01
2E001LA01
2E001LA11
2E001LA12
2E001LA15
2E002PA01
2E002QA04
(57)【要約】
【課題】意匠性の低下を抑制しつつ、3枚以上のけい酸カルシウム板が積層されたカーテンウォール用の複層耐火ボードの耐火性能を高めることを目的とする。
【解決手段】カーテンウォール用複層耐火ボード支持構造は、積層される3枚以上のけい酸カルシウム板42を有するカーテンウォール用の複層耐火ボード40と、複層耐火ボード40を貫通せず、少なくとも2枚のけい酸カルシウム板42に亘って埋設されるインサートナット50と、インサートナット50にボルト接合され、複層耐火ボードを支持する支持部材60と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層される3枚以上のけい酸カルシウム板を有するカーテンウォール用の複層耐火ボードと、
前記複層耐火ボードを貫通せず、少なくとも2枚の前記けい酸カルシウム板に亘って埋設されるインサートナットと、
前記インサートナットにボルト接合され、前記複層耐火ボードを支持する支持部材と、
を備えるカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造。
【請求項2】
前記支持部材は、前記複層耐火ボードの下端部を保持する下端フック部と、
前記下端フック部から前記複層耐火ボードの表面に沿って上方へ延出するベース部と、
を有し、
前記インサートナットは、前記ベース部にボルト接合される、
請求項1に記載のカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造。
【請求項3】
前記インサートナットにボルト接合されるフランジ部を有し、躯体に支持されるブラケットを備え、
前記フランジ部に形成されたボルト孔は、該フランジ部の上下方向の中央部に位置する、
請求項1又は請求項2に記載のカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造。
【請求項4】
躯体と、
積層される3枚以上のけい酸カルシウム板を有し、前記躯体を構成する鉄骨梁の室外側に配置されるカーテンウォール用の複層耐火ボードと、
前記複層耐火ボードを貫通せず、少なくとも2枚の前記けい酸カルシウム板に亘って埋設されるインサートナットと、
前記躯体に支持されるとともに、前記インサートナットにボルト接合される支持部材と、
前記鉄骨梁における前記複層耐火ボードと反対側の側面、及び下面を耐火被覆するとともに、該鉄骨梁と前記複層耐火ボードとの隙間を塞ぐ耐火被覆材と、
を備える合成耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーテンウォール用複層耐火ボード支持構造、及び合成耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
カーテンウォール用耐火ボードの上部に取り付けられ、前記カーテンウォール用耐火ボードの両面を挟んで保持する耐火ボード支持構造、及び、前記カーテンウォール用耐火ボードと対向する鉄骨梁を耐火被覆する合成耐火被覆構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、カーテンウォール用耐火ボード(スパンドレル耐火板)の上端部及び下端部を支持する支持金物が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、石膏ボード、及びけい酸カルシウム板を積層した耐火ボードが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-190613号公報
【特許文献2】特開2014-173379号公報
【特許文献3】特開2017-122322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カーテンウォールのスパンドレル部に設置する耐火ボードとしてトバモライト系けい酸カルシウム板を使用する場合、例えば、3枚のけい酸カルシウム板が積層された耐火ボード(以下、「複層耐火ボード」という)が使用される。
【0007】
複層耐火ボードは、火災時に、先ず、加熱側の1枚目のけい酸カルシウム板に爆裂等によって亀裂が入り、当該亀裂から複層耐火ボードの内部に火災熱が入る。さらに加熱が進むと、1枚目のけい酸カルシウム板が、その両面の温度差によって加熱側へ凸を成すように湾曲変形して脱落し易くなる。
【0008】
1枚目のけい酸カルシウム板が脱落すると、2枚目のけい酸カルシウム板が火災熱を直接受ける。これにより、1枚目のけい酸カルシウム板と同様に、2枚目のけい酸カルシウム板が、加熱側へ凸を成すように湾曲変形して脱落し易くなる。
【0009】
2枚目のけい酸カルシウム板が脱落すると、3枚目のけい酸カルシウム板が火災熱を直接受ける。この結果、3枚目のけい酸カルシウム板が、加熱側へ凸を成すように湾曲変形して脱落し易くなる。そのため、複層耐火ボードでは、長期の耐火性能を確保することが難しい。
【0010】
この対策として、例えば、3枚のけい酸カルシウム板を、ビス留めすることが考えられる。
【0011】
しかしながら、トバモライト系けい酸カルシウム板は、密度が高く、密実であるため、ビス留めする際に、けい酸カルシウム板が割れる可能性がある。
【0012】
また、例えば、3枚のけい酸カルシウム板にビスを貫通させると、ビスの先端が露出するため、意匠性が低下する可能性がある。
【0013】
本発明は、上記の事実を考慮し、意匠性の低下を抑制しつつ、3枚以上のけい酸カルシウム板が積層されたカーテンウォール用の複層耐火ボードの耐火性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載のカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造は、積層される3枚以上のけい酸カルシウム板を有するカーテンウォール用の複層耐火ボードと、前記複層耐火ボードを貫通せず、少なくとも2枚の前記けい酸カルシウム板に亘って埋設されるインサートナットと、前記インサートナットにボルト接合され、前記複層耐火ボードを支持する支持部材と、を備える。
【0015】
請求項1に係るカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造によれば、カーテンウォール用の複層耐火ボードは、積層された3枚以上のけい酸カルシウム板を有する。また、複層耐火ボードには、インサートナットが埋設される。インサートナットは、複層耐火ボードを貫通せず、少なくとも2枚のけい酸カルシウム板に亘って埋設される。このインサートナットには、複層耐火ボードを支持する支持部材がボルト接合される。
【0016】
このように複層耐火ボードに埋設されたインサートナットに支持部材をボルト接合することにより、本発明では、複層耐火ボードに支持部材をビス留めする場合と比較して、けい酸カルシウム板の割れが抑制される。
【0017】
また、インサートナットは、少なくとも2枚のけい酸カルシウム板に亘って埋設される。このインサートナットによって、少なくとも2枚のけい酸カルシウム板が接合される。これにより、インサートナットによって接合されたけい酸カルシウム板が、火災時に、加熱側へ凸を成すように湾曲変形することが抑制される。したがって、複層耐火ボードの耐火性能が高められる。
【0018】
さらに、インサートナットは、複層耐火ボードを貫通しない。したがって、支持部材と反対側の複層耐火ボードの表面にインサートナットが露出しないため、複層耐火ボードの意匠性の低下が抑制される。
【0019】
このように本発明では、意匠性の低下を抑制しつつ、複層耐火ボードの耐火性能を高めることができる。
【0020】
請求項2に記載のカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造は、請求項1に記載の複層耐火ボード支持構造において、前記支持部材は、前記複層耐火ボードの下端部を保持する下端フック部と、前記下端フック部から前記複層耐火ボードの表面に沿って上方へ延出するベース部と、を有し、前記インサートナットは、前記ベース部にボルト接合される。
【0021】
請求項2に係るカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造によれば、支持部材は、下端フック部と、ベース部とを有する。下端フック部は、複層耐火ボードの下端部を保持する。ベース部は、下端フック部から複層耐火ボードの表面に沿って上方へ延出する。このベース部に、インサートナットがボルト接合される。
【0022】
このように支持部材の下端フック部によって複層耐火ボードの下端部を保持することにより、火災時に、けい酸カルシウム板の脱落が抑制される。
【0023】
また、支持部材のベース部にインサートナットをボルト接合することにより、複層耐火ボードがベース部に支持されるため、複層耐火ボードから下端フック部に作用する鉛直荷重が低減される。したがって、火災時における下端フック部の変形が抑制されるため、けい酸カルシウム板の脱落がさらに抑制される。
【0024】
請求項3に記載のカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造は、前記インサートナットにボルト接合されるフランジ部を有し、躯体に支持されるブラケットを備え、前記フランジ部に形成されたボルト孔は、該フランジ部の上下方向の中央部に位置する。
【0025】
請求項3に係るカーテンウォール用複層耐火ボード支持構造によれば、ブラケットは、躯体に支持される。このブラケットは、インサートナットにボルト接合されるフランジ部を有する。
【0026】
ここで、フランジ部に形成されたボルト孔は、当該フランジ部の上下方向の中央部に位置する。これにより、例えば、側面視にて、複層耐火ボードがフランジ部を中心として回転したときに、インサートナットに作用する引抜き力が低減される。したがって、けい酸カルシウム板の破損や、脱落等が抑制される。
【0027】
請求項4に記載の合成耐火被覆構造は、躯体と、積層される3枚以上のけい酸カルシウム板を有し、前記躯体を構成する鉄骨梁の室外側に配置されるカーテンウォール用の複層耐火ボードと、前記複層耐火ボードを貫通せず、少なくとも2枚の前記けい酸カルシウム板に亘って埋設されるインサートナットと、前記躯体に支持されるとともに、前記インサートナットにボルト接合される支持部材と、前記鉄骨梁における前記複層耐火ボードと反対側の側面、及び下面を耐火被覆するとともに、該鉄骨梁と前記複層耐火ボードとの隙間を塞ぐ耐火被覆材と、を備える。
【0028】
請求項4に係る合成耐火被覆構造によれば、カーテンウォール用の複層耐火ボード、及び耐火被覆材によって、鉄骨梁を耐火被覆することにより、鉄骨梁の耐火性能を効率的に高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、意匠性の低下を抑制しつつ、3枚以上のけい酸カルシウム板が積層されたカーテンウォール用の複層耐火ボードの耐火性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一実施形態に係る合成耐火被覆構造が適用された鉄骨梁を示す断面図である。
図2図1に示される複層耐火ボードを室内側から見て立面図である。
図3図2の3-3線断面図である。
図4】複層耐火ボード、支持部材、及びブラケットを示す図1の拡大断面図である。
図5図1に示されるクリップ下地を示す斜視図である。
図6】(A)及び(B)は、比較例に係る複層耐火ボード支持構造によって支持された複層耐火ボードの火災時の挙動を示す断面図である。
図7】(A)及び(B)は、比較例に係る複層耐火ボード支持構造によって支持された複層耐火ボードの火災時の挙動を示す断面図である。
図8】一実施形態に係る複層耐火ボード支持構造によって支持された複層耐火ボードの火災時の挙動を示す図4に対応する断面図である。
図9】一実施形態に係る支持部材の変形例の示す図4に対応する断面図である。
図10】一実施形態に係る合成耐火被覆構造の変形例を示す図11の10-10線断面図である。
図11図10の11-11線断面図である。
図12】(A)及び(B)は、一実施形態に係るインサートナットの変形例を示す図4に対応する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る複層耐火ボード支持構造、及び合成耐火被覆構造について説明する。
【0032】
(合成耐火被覆構造)
図1には、本実施形態に係る合成耐火被覆構造が適用された鉄骨梁10が示されている。この合成耐火被覆構造は、一例として、カーテンウォール30のスパンドレル部に設けられた複層耐火ボード40と、吹付けロックウール80とによって鉄骨梁10を耐火被覆する。なお、吹付けロックウール80は、耐火被覆材の一例である。
【0033】
(鉄骨梁)
図1に示されるように、鉄骨梁10は、H形鋼で形成されている。この鉄骨梁10は、上下方向に互いに対向する上側フランジ部12及び下側フランジ部14と、上側フランジ部12及び下側フランジ部14を接続するウェブ部16とを有している。
【0034】
鉄骨梁10は、スラブ20の端部に沿って配置され、当該スラブ20の端部を支持している。スラブ20は、鉄筋コンクリート造とされており、鉄骨梁10の上に設けられている。また、スラブ20は、複数階からなる構造物の所定階の床を形成している。これらの鉄骨梁10、及びスラブ20の室外側(矢印OUT側)には、カーテンウォール30、及び複層耐火ボード40が設置されている。
【0035】
なお、鉄骨梁10、及びスラブ20は、躯体の一例である。
【0036】
(カーテンウォール)
カーテンウォール30は、スラブ20の上下階に亘って配置されており、構造物の外壁(外装)を構成している。このカーテンウォール30は、格子状に連結された複数の方立32及び無目34と、これらの方立32及び無目34によって形成された格子枠内に設けられた窓ガラス36とを備えている。
【0037】
複数の方立32及び無目34は、一例として、アルミ製とされている。複数の方立32は、水平方向に間隔を空けて立てられている。各方立32は、スラブ20の端部と対向して配置されており、図示しない方立ブラケット及びファスナ等を介して、スラブ20又は鉄骨梁10等の躯体に支持されている。隣り合う方立32には、複数の無目34が架設されている。複数の無目34は、上下方向に間隔を空けて配置されている。
【0038】
(複層耐火ボード)
カーテンウォール30におけるスパンドレル部には、層間区画部材としての複層耐火ボード(カーテンウォール用複層耐火ボード)40が設けられている。複層耐火ボード40は、カーテンウォール30の室内側に、窓ガラス36と対向した状態で取り付けられている。この複層耐火ボード40の外周部は、方立32、及び無目34に沿って設けられた枠状の保持部(レール部)38によって保持されている。また、複層耐火ボード40は、後述する複層耐火ボード支持構造によって支持されている。
【0039】
複層耐火ボード40は、スラブ20の室外側に、スラブ20の上下階に亘って配置されるとともに、スラブ20の端部との間に間隔を空けて配置されている。この複層耐火ボード40とスラブ20の端部との間には、ロックウール等の層間塞ぎ材22が設けられている。この層間塞ぎ材22によって、火災時に、複層耐火ボード40とスラブ20の端部との間の空間から、スラブ20の上階に熱気や炎が流入することが抑制されている。
【0040】
複層耐火ボード40は、鉄骨梁10の室外側(矢印OUT側)の側方に配置され、鉄骨梁10の室外側の側面と対向している。この複層耐火ボード40によって、鉄骨梁10の室外側の側面が耐火被覆されている。
【0041】
図4に示されるように、複層耐火ボード40は、一例として、積層接着された3枚のけい酸カルシウム板42を有している。けい酸カルシウム板42は、トバモライト系けい酸カルシウム板とされている。具体的には、けい酸カルシウム板42は、かさ密度が0.60g/mm以上で、かつ、曲げ強度が10.0N/mm以上とされている。
【0042】
3枚のけい酸カルシウム板42は、厚み方向に積層されている。また、隣り合うけい酸カルシウム板42は、重ねられる表面(積層面)に塗布された接着剤を介して互いに接着されている。この複層耐火ボード40には、複層耐火ボード支持構造が適用されている。なお、複層耐火ボード40は、3枚に限らず、3枚以上のけい酸カルシウム板42を有しても良い。
【0043】
(複層耐火ボード支持構造)
図4に示されるように、複層耐火ボード支持構造は、複数のインサートナット50と、複数の支持部材60を有している。インサートナット50は、複層耐火ボード40の上部における室内側に埋設されており、その一端が複層耐火ボード40における室内側(矢印IN側)の内面40Aから露出している。このインサートナット50の一端には、後述する支持部材60及びブラケット70を接合するためのボルト52が捻じ込まれている。
【0044】
インサートナット50は、一例として、鬼目ナットとされている。このインサートナット50は、例えば、複層耐火ボード40に形成された下穴にインサートナット50を打ち込み、又は捻じ込むことにより、けい酸カルシウム板42に埋設される。
【0045】
インサートナット50は、ボルト52が捻じ込まれるナット部50Aと、ナット部50Aの外周面から突出する複数の突起部50Bを有している。これらの突起部50Bが、複層耐火ボード40に形成された下穴の内周面に引っ掛かることにより、けい酸カルシウム板42からインサートナット50が抜け落ちることが抑制されている。
【0046】
ここで、インサートナット50は、複層耐火ボード40を厚み方向に貫通せず、かつ、少なくとも2枚のけい酸カルシウム板42に亘って埋設されている。本実施形態のインサートナット50は、3枚のけい酸カルシウム板42のうち、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42に亘って配置されており、これら2枚のけい酸カルシウム板42を厚み方向に貫通している。これにより、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42がインサートナット50を介して接合されている。
【0047】
なお、インサートナット50は、複層耐火ボード40に埋設可能であれば良く、その形状は適宜変更可能である。例えば、インサートナット50は、つばありでも良いし、つばなしでも良い。
【0048】
(支持部材)
図2及び図3に示されるように、複数の支持部材(支持金物)60は、鋼板等の金属板によって形成されており、複層耐火ボード40の横幅方向(矢印W方向)に間隔を空けて配置されている。
【0049】
図4に示されるように、各支持部材60は、ベース部62と、下端フック部64と、上端フック部66とを有している。ベース部62は、帯状に形成されており、複層耐火ボード40の室内側(鉄骨梁10側)の内面40Aに沿って配置されている。
【0050】
ベース部62は、複層耐火ボード40の高さ方向(上下方向)に沿って配置されており、複層耐火ボード40の下端から上端に亘っている。このベース部62の下端部には、下端フック部64が設けられている。一方、ベース部62の上端部には、上端フック部66が設けられている。
【0051】
下端フック部64は、側面視にて、L字形状に屈曲されている。この下端フック部64は、ベース部62の下端部から複層耐火ボード40の下面に沿って室外側へ延出する延出部64Aと、延出部64Aの先端部から複層耐火ボード40の室外側の外面40Bに沿って上方へ延出する折返し部64Bとを有している。
【0052】
下端フック部64の内側には、複層耐火ボード40の下端部が挿入されている。この下端フック部64によって、複層耐火ボード40の下端部が保持されている。より具体的には、下端フック部64によって、複層耐火ボード40の下端部の厚み方向(面外方向)の移動が制限されている。
【0053】
上端フック部66は、側面視にて、L字形状に屈曲されている。この上端フック部66は、ベース部62の上端部から複層耐火ボード40の上面に沿って室外側へ延出する延出部66Aと、延出部66Aの先端部から複層耐火ボード40の室外側の外面40Bに沿って下方へ延出する折返し部66Bとを有している。
【0054】
上端フック部66の内側には、複層耐火ボード40の上端部が挿入されている。この上端フック部66によって、複層耐火ボード40の上端部が保持されている。より具体的には、上端フック部66によって、複層耐火ボード40の上端部の厚み方向の移動が制限されている。
【0055】
ここで、支持部材60のベース部62は、ボルト52によってインサートナット50に接合されている。具体的には、ベース部62は、インサートナット50と重なるように配置されている。そして、ベース部62の高さ方向において、インサートナット50と重なる部分(以下、「取付部62A」という)には、ボルト孔62Hが形成されている。
【0056】
また、ベース部62の取付部62Aには、後述するブラケット70のフランジ部70Aが重ねられている。フランジ部70Aには、ボルト孔70Hが形成されている。これらのボルト孔62H,70Hを介して、インサートナット50にボルト52が捻じ込まれている。このボルト52によって、ブラケット70のフランジ部70A、及び支持部材60の取付部62Aが、インサートナット50に接合(共締め)されている。
【0057】
また、ボルト孔70Hは、フランジ部70Aの上下方向の中央部に位置している。そのため、ボルト52は、フランジ部70Aの上下方向の略中央部に位置している。これにより、例えば、図4に矢印Rで示されるように、側面視にて、複層耐火ボード40が風圧等によってフランジ部70Aを中心として回転したときに、ボルト52からインサートナット50に作用する引抜き力が低減される。
【0058】
なお、ベース部62の取付部62Aとブラケット70のフランジ部70Aとは、例えば、溶接等によって接合されても良い。
【0059】
(ブラケット、躯体側ファスナ)
図1に示されるように、ブラケット70は、躯体側ファスナ72を介してスラブ20に固定されている。躯体側ファスナ72は、一例として、断面L字状に形成されている。この躯体側ファスナ72は、スラブ20の端部の上面に、ボルトによって固定されている。また、躯体側ファスナ72には、ブラケット70がボルトによって固定されている。
【0060】
なお、ブラケット70及び躯体側ファスナ72の形状や配置等は、適宜変更可能である。また、ブラケット70及び躯体側ファスナ72は、別体とせず、一体に形成することも可能である。さらに、ブラケット70及び躯体側ファスナ72は、スラブ20に限らず、例えば、鉄骨梁10に固定されても良いし、鉄骨梁10に設けられたガセットプレート等に固定されても良い。
【0061】
(吹付けロックウール)
吹付けロックウール80は、鉄骨梁10における複層耐火ボード40と反対側(矢印IN側)の側面、及び鉄骨梁10の下面を耐火被覆するとともに、鉄骨梁10の下を通って複層耐火ボード40側に張り出している。
【0062】
図5に示されるように、鉄骨梁10の下側フランジ部14には、一例として、クリップ下地82を介して力骨84が取り付けられている。力骨84には、ラス等の耐火被覆下地材86が取り付けられている。なお、図1では、耐火被覆下地材86の図示が省略されている。
【0063】
耐火被覆下地材86は、鉄骨梁10の下面から複層耐火ボード40側に張り出している。この耐火被覆下地材86の下面、及び鉄骨梁10の下面、及び鉄骨梁10における複層耐火ボード40と反対側(矢印IN側)の側面に吹付けロックウール80が吹き付けられている。この吹付けロックウール80によって、鉄骨梁10が耐火被覆されるとともに、複層耐火ボード40と鉄骨梁10との間の空間が塞がれている。
【0064】
なお、鉄骨梁10に対する耐火被覆下地材86の取付構造は、適宜変更可能である。例えば、鉄骨梁10の下側フランジ部14にクリップを介して取り付けられたアングルスタッドに、ラス等の耐火被覆下地材を取り付けても良い。
【0065】
複層耐火ボード40と吹付けロックウール80との隙間は、裏打ち材88によって塞がれている。裏打ち材88は、けい酸カルシウム板や石膏ボード等の耐火材によって形成されており、支持部材60のベース部62に図示しない固定ピン等によって固定されている。
【0066】
なお、鉄骨梁10を耐火被覆する耐火被覆材は、吹付けロックウール80等の吹付け耐火被覆材に限らず、例えば、巻付け耐火被覆材や、けい酸カルシウム板及び石膏ボード等のボード系耐火被覆材でも良い。
【0067】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0068】
一般に、カーテンウォール30の雨仕舞の方式としては、フィルドジョイント方式と、オープンジョイント方式の2種類がある。フィルドジョイント方式は、隣り合うカーテンウォールの接合部に、不定形シール材等を充填して密閉することにより、雨の侵入を防ぐ方式である。
【0069】
一方、オープンジョイント方式は、隣り合うカーテンウォールの接合部を外気に開放し、カーテンウォールの内外の圧力差を無くすことにより、水の侵入を防ぐ方式(等圧方式)である。このオープンジョイント方式では、カーテンウォールの内側(室内側)に外気が入り込むため、スパンドレル部に設けられた耐火ボードに大きな風圧が作用する可能性がある。
【0070】
ここで、耐火ボードに用いられるけい酸カルシウム板には、ゾノトライト系と、トバモライト系がある。ゾノトライト系けい酸カルシウム板は、トバモライト系けい酸カルシウム板と比較して耐火性能に優れるが、剛性が低い。そのため、前述したオープンジョイント方式のカーテンウォールの耐火ボードとして、ゾノトライト系けい酸カルシウム板を採用する場合は、アルミ複合板等によってゾノトライト系けい酸カルシウム板を補強する必要があり、コストがかかる可能性がある。
【0071】
一方、トバモライト系けい酸カルシウム板は、ゾノトライト系けい酸カルシウム板と比較して剛性が高い。そのため、トバモライト系けい酸カルシウム板は、オープンジョイント方式のカーテンウォールの耐火ボードとして採用されるケースが多い。
【0072】
ただし、トバモライト系けい酸カルシウム板は、ゾノトライト系けい酸カルシウム板と比較して密実であるため、加熱されると、早期に爆裂し易い。また、トバモライト系けい酸カルシウム板は、一般に、3枚以上の積層接着板とされる。そのため、火災時には、積層接着された3枚以上のけい酸カルシウム板が順に剥がれ落ちる可能性がある。
【0073】
以下、一例として、比較例に係る複層耐火ボード支持構造によって支持された複層耐火ボード40の火災時の挙動について説明する。
【0074】
図6(A)、図6(B)、図7(A)、及び図7(B)には、比較例に係る複層耐火ボード支持構造に支持された複層耐火ボード40が示されている。比較例に係る複層耐火ボード支持構造では、複層耐火ボード40にインサートナット50(図4参照)が埋設されておらず、複層耐火ボード40が支持部材60等を介してスラブ20(図1参照)に支持されている。
【0075】
図6(A)に示されるように、火災時には、複層耐火ボード40を構成する3枚のけい酸カルシウム板42のうち、先ず、加熱側の1枚目のけい酸カルシウム板42に爆裂等によって亀裂Vが入る。次に、図6(B)に示されるように、亀裂Vから1枚目と2枚目のけい酸カルシウム板42とを張り合わせる接着剤に火が引火して燃焼する。
【0076】
図7(A)に示されるように、さらに加熱が進むと、1枚目のけい酸カルシウム板42が、その両面の温度差によって加熱側(室外側)へ凸を成すように湾曲変形する。この際、支持部材60の下端フック部64及び上端フック部66によって、1枚目のけい酸カルシウム板42の下端部及び上端部がそれぞれ保持されるため、1枚目のけい酸カルシウム板42の脱落が抑制される。
【0077】
ただし、下端フック部64の下面が加熱されると、下端フック部64の強度が低下し、図7(B)に示されるように、複層耐火ボード40の自重によって下端フック部64が徐々に下方へ変形する(垂れ下がる)。この結果、1枚目のけい酸カルシウム板42が脱落し易くなる。
【0078】
1枚目のけい酸カルシウム板42が脱落すると、2枚目のけい酸カルシウム板42が火災熱を直接受ける。これにより、1枚目のけい酸カルシウム板42と同様に、2枚目のけい酸カルシウム板42が、加熱側へ凸を成すように湾曲変形して脱落する。
【0079】
2枚目のけい酸カルシウム板42が脱落すると、3枚目のけい酸カルシウム板42が火災熱を直接受ける。この結果、3枚目のけい酸カルシウム板42が、加熱側へ凸を成すように湾曲変形して脱落する。
【0080】
これに対して本実施形態に係る複層耐火ボード支持構造では、図8に示されるように、複層耐火ボード40にインサートナット50が埋設されている。インサートナット50は、複層耐火ボード40を貫通せず、3枚のけい酸カルシウム板42のうち、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42に亘って埋設されている。このインサートナット50によって、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42が接合されている。
【0081】
これにより、インサートナット50によって接合された室内側の2枚のけい酸カルシウム板42が、火災時に、加熱側へ凸を成すように湾曲変形することが抑制される。したがって、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42の脱落が抑制される。
【0082】
また、インサートナット50には、複層耐火ボード40を支持する支持部材60、及びブラケット70がボルト接合されている。つまり、複層耐火ボード40は、インサートナット50及びボルト52を介して、ブラケット70に支持されている。
【0083】
これにより、複層耐火ボード40から、支持部材60の下端フック部64に作用する鉛直荷重が低減される。この結果、下端フック部64の下面が加熱されたときに、下端フック部64が下方へ変形することが抑制される。したがって、けい酸カルシウム板42の脱落がさらに抑制される。
【0084】
また、複層耐火ボード40を構成するけい酸カルシウム板42は、トバモライト系のけい酸カルシウム板とされている。このトバモライト系のけい酸カルシウム板は、ゾノトライト系のけい酸カルシウム板と比較して、密実で硬いため、ビス留めすることが難しい。
【0085】
これに対して本実施形態では、複層耐火ボード40に埋設されたインサートナット50に支持部材60をボルト接合することにより、複層耐火ボード40に支持部材60をビス留めする場合と比較して、けい酸カルシウム板42の割れが抑制される。
【0086】
さらに、インサートナット50は、複層耐火ボード40を貫通しない。したがって、支持部材60と反対側の複層耐火ボード40の表面、すなわち複層耐火ボード40の室外側の外面40Bにインサートナット50が露出しない。したがって、複層耐火ボード40の意匠性の低下が抑制される。
【0087】
このように本実施形態では、意匠性の低下を抑制しつつ、複層耐火ボード40の耐火性能を高めることができる。特に、本実施形態では、オープンジョイント方式のカーテンウォールに有効である。
【0088】
また、図1に示されるように、ブラケット70は、躯体側ファスナ72を介してスラブ20に支持されている。図4に示されるように、このブラケット70のフランジ部70Aは、支持部材60の取付部62Aと共にインサートナット50にボルト接合されている。
【0089】
ここで、フランジ部70Aに形成されたボルト孔70Hは、当該フランジ部70Aの上下方向の中央部に位置している。そのため、ボルト52は、フランジ部70Aの上下方向の略中央部に位置している。これにより、図4に矢印Rで示されるように、側面視にて、複層耐火ボード40が風圧等によってフランジ部70Aを中心として回転したときに、ボルト52からインサートナット50に作用する引抜き力が低減される。したがって、複層耐火ボード40の破損や、脱落等が抑制される。
【0090】
さらに、本実施形態では、複層耐火ボード40、及び吹付けロックウール80によって、鉄骨梁10を耐火被覆することにより、鉄骨梁10の耐火性能を効率的に高めることができる。
【0091】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0092】
上記実施形態では、支持部材60に上端フック部66及び下端フック部64が設けられている。しかし、支持部材60の形状は、適宜変更可能であり、例えば、図9に示される変形例のように、支持部材60から上端フック部66を省略しても良い。
【0093】
また、図9に示される変形例のように、複層耐火ボード40に複数のインサートナット50を埋設し、これらのインサートナット50に支持部材60のベース部62をボルト接合しても良い。これにより、火災時に、支持部材60から複層耐火ボード40が脱落することがさらに抑制される。
【0094】
また、上記実施形態では、複層耐火ボード40が2つの支持部材60によって支持されている。しかし、支持部材60の数や配置は、適宜変更可能である。
【0095】
また、上記実施形態に係る合成耐火被覆構造は、鉄骨梁10に適用されている。しかし、図10及び図11に示される変形例のように、上記実施形態に係る合成耐火被覆構造は、鉄骨柱90にも適用可能である。
【0096】
鉄骨柱90は、一例として、角形鋼管によって形成されている。この鉄骨柱90の室外側には、複層耐火ボード100が配置されている。複層耐火ボード100は、図示しないカーテンウォールのスパンドレル部に設けられるとともに、上記実施形態に係る複層耐火ボード支持構造が適用されている。この複層耐火ボード100、及び吹付けロックウール110によって、鉄骨柱90が耐火被覆されている。
【0097】
ここで、鉄骨柱90を耐火被覆する複層耐火ボード100は、鉄骨梁10を耐火被覆する複層耐火ボード40と比較して、上下方向の長さが長い。そのため、複層耐火ボード100は、上下方向に間隔を空けて配置された複数(図10では、2つ)の支持部材60によって支持されている。これにより、火災時における複層耐火ボード40の脱落がさらに抑制される。
【0098】
なお、各支持部材60は、鉄骨柱90に溶接等によって接合されている。また、上下方向に隣り合う支持部材60には、図示しないラス等の耐火被覆下地材が架け渡されている。そして、図11に示されるように、吹付けロックウール110は、鉄骨柱90の室外側以外の側面、及び前述した耐火被覆下地材に吹付けられている。
【0099】
このように上記実施形態に係る合成耐火被覆構造は、鉄骨柱90にも適宜適用可能である。なお、鉄骨柱90は、角形鋼管に限らず、例えば、円形鋼管や、H形鋼、CFT(コンクリート充填鋼管)によって形成されても良い。
【0100】
また、上記実施形態のインサートナット50は、複層耐火ボード40を構成する3枚のけい酸カルシウム板42のうち、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42に亘っている。しかし、インサートナット50は、複層耐火ボード40を貫通しなければ良く、例えば、図12(A)に示される変形例のように、3枚のけい酸カルシウム板42に亘っても良い。
【0101】
また、インサートナット50は、少なくとも2枚のけい酸カルシウム板42に亘れば良く、例えば、図12(B)に示される変形例のように、室内側の2枚のけい酸カルシウム板42を貫通せずに、インサートナット50の先端部が室内側から2枚目(中央)のけい酸カルシウム板42の内部に位置しても良い。
【0102】
また、上記実施形態では、ブラケット70のフランジ部70Aが、複層耐火ボード40に埋設されたインサートナット50にボルト接合されている。しかし、ブラケット70のフランジ部70Aは、インサートナット50にボルト接合せずに、支持部材60における取付部62A以外の部位に溶接等によって接合されても良い。
【0103】
また、上記実施形態に係る複層耐火ボード支持構造は、カーテンウォール30のスパンドレル部に設けられた複層耐火ボード40に適用されている。しかし、上記実施形態に係る複層耐火ボード支持構造は、カーテンウォール30のスパンドレル部に設けられた複層耐火ボード40に限らず、他の複層耐火ボードにも適宜適用可能である。
【0104】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0105】
10 鉄骨梁(躯体)
20 スラブ(躯体)
40 複層耐火ボード
42 けい酸カルシウム板
50 インサートナット
52 ボルト
60 支持部材
62 ベース部
64 下端フック部
70 ブラケット
70A フランジ部
70H ボルト孔
80 吹付けロックウール(耐火被覆材)
100 複層耐火ボード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12