(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155573
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】測定方法、測定装置、及び測定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/58 20200101AFI20241024BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20241024BHJP
G01R 31/50 20200101ALI20241024BHJP
G01R 27/16 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01R31/58
G01R31/52
G01R31/50
G01R27/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070398
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
【テーマコード(参考)】
2G014
2G028
【Fターム(参考)】
2G014AA17
2G014AB33
2G014AC15
2G014AC19
2G028BF01
2G028CG03
(57)【要約】
【課題】活線での三相異容量結線の絶縁抵抗測定を実現できる測定方法、測定装置、及び測定システムを提供する。
【解決手段】測定方法は、三相異容量結線の3つの相R、S及びTの配線をクランプして測定した三相リーク電流を取得するステップと、三相異容量結線の3つの相R、S及びTのうち、中点Nで接地している2つの相R及びSの配線をクランプして測定した単相リーク電流を取得するステップと、三相リーク電流及び単相リーク電流に基づいて、三相異容量結線の3つの相R、S及びTのそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出するステップと、三相異容量結線の3つの相R、S及びTのそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分の測定結果を出力するステップとを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相異容量結線の3つの相の配線をクランプして測定した三相リーク電流を取得するステップと、
前記三相異容量結線の3つの相のうち、中点で接地している2つの相の配線をクランプして測定した単相リーク電流を取得するステップと、
前記三相リーク電流及び前記単相リーク電流に基づいて、前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出するステップと、
前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分の測定結果を出力するステップと
を含む、測定方法。
【請求項2】
前記三相リーク電流を取得するステップと、前記単相リーク電流を取得するステップとを並行して実行する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
三相異容量結線の3つの相の配線をまとめてクランプして測定した三相リーク電流と、前記三相異容量結線の3つの相のうち中点で接地している2つの接地相の配線をクランプして測定した単相リーク電流とを取得し、
前記三相リーク電流及び前記単相リーク電流に基づいて、前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出し、
前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分の測定結果を出力する、測定装置。
【請求項4】
前記三相異容量結線の3つの相の配線をまとめてクランプするように構成される三相リーク電流測定部、又は、前記2つの接地相の配線をクランプするように構成される単相リーク電流測定部の少なくとも一方として機能する測定部を更に備える、請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記測定部として、前記三相リーク電流測定部、及び、前記単相リーク電流測定部を両方とも備える、請求項4に記載の測定装置。
【請求項6】
請求項4に記載の測定装置を第1測定装置及び第2測定装置のそれぞれとして備え、
前記第1測定装置の測定部が前記三相リーク電流測定部として機能し、
前記第2測定装置の測定部が前記単相リーク電流測定部として機能し、
前記第1測定装置又は前記第2測定装置のいずれかのプロセッサが前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出する、測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リーク電流の抵抗成分の測定方法、測定装置、及び測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線路にクランプされて配線路に流れるリーク電流を検出する電流検出部と配線路の交流電圧を検出する電圧検出部と有効リーク電流Iorを算出する処理部とを備えるリーク電流測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
R相、S相及びT相を有し、R相とS相との中点が接地されている三相異容量結線において3つの相の配線をまとめてクランプした電流検出部でリーク電流が検出された場合、R相のリーク電流の容量成分の位相とT相のリーク電流の抵抗成分の位相とが一致する。また、T相のリーク電流の容量成分の位相とS相のリーク電流の抵抗成分の位相とが一致する。この場合、3つの相の配線をまとめてクランプして測定したリーク電流に基づいて、各相のリーク電流の抵抗成分の大きさを算出することができない。つまり、三相異容量結線の絶縁抵抗測定を活線で実施することができない。しかし、停電を伴う形で三相異容量結線の絶縁抵抗測定を実施することは、作業負担を増大させる。活線での三相異容量結線の絶縁抵抗測定の実現が求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、活線での三相異容量結線の絶縁抵抗測定を実現できる測定方法、測定装置、及び測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る測定方法は、三相異容量結線の3つの相の配線をクランプして測定した三相リーク電流を取得するステップと、前記三相異容量結線の3つの相のうち、中点で接地している2つの相の配線をクランプして測定した単相リーク電流を取得するステップと、前記三相リーク電流及び前記単相リーク電流に基づいて、前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出するステップと、前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分の測定結果を出力するステップとを含む。
【0007】
配線をクランプして三相リーク電流と単相リーク電流とをそれぞれ測定することによって、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分が活線で測定され得る。三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を活線で測定できることによって、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を測定するために停電が不要になる。その結果、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を測定するための作業負担が低減する。
【0008】
一実施形態に係る測定方法において、前記三相リーク電流を取得するステップと、前記単相リーク電流を取得するステップとが並行して実行されてよい。三相リーク電流と単相リーク電流とが並行に取得されることによって、リーク電流の経時変化の影響が低減され得る。
【0009】
幾つかの実施形態に係る測定装置は、三相異容量結線の3つの相の配線をまとめてクランプして測定した三相リーク電流と、前記三相異容量結線の3つの相のうち中点で接地している2つの接地相の配線をクランプして測定した単相リーク電流とを取得し、前記三相リーク電流及び前記単相リーク電流に基づいて、前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出し、前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分の測定結果を出力する。
【0010】
配線をクランプして三相リーク電流と単相リーク電流とをそれぞれ測定することによって、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分が活線で測定され得る。三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を活線で測定できることによって、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を測定するために停電が不要になる。その結果、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を測定するための作業負担が低減する。
【0011】
一実施形態に係る測定装置は、前記三相異容量結線の3つの相の配線をまとめてクランプするように構成される三相リーク電流測定部、又は、前記2つの接地相の配線をクランプするように構成される単相リーク電流測定部の少なくとも一方として機能する測定部を更に備えてよい。
【0012】
一実施形態に係る測定装置は、前記測定部として、前記三相リーク電流測定部、及び、前記単相リーク電流測定部を両方とも備えてよい。
【0013】
測定装置が測定部を備えることによって、測定装置だけで三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分が測定され得る。
【0014】
幾つかの実施形態に係る測定システムは、上記測定装置を第1測定装置及び第2測定装置のそれぞれとして備える。前記第1測定装置の測定部が前記三相リーク電流測定部として機能する。前記第2測定装置の測定部が前記単相リーク電流測定部として機能する。前記第1測定装置又は前記第2測定装置のいずれかのプロセッサが前記三相異容量結線の3つの相のそれぞれの配線に流れるリーク電流の抵抗成分を算出する。
【0015】
測定システムは、測定部を1つだけ備える汎用的な測定装置によって構成され得る。汎用的な測定装置を利用できることによって、測定装置のコストが低減され得る。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る測定方法、測定装置、及び測定システムによれば、活線での三相異容量結線の絶縁抵抗測定が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】比較例に係る方法で測定した抵抗のベクトル図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る測定装置の一例と、測定対象の三相異容量結線の回路の一例とを示す模式図である。
【
図4A】三相リーク電流の測定結果の一例を示すベクトル図である。
【
図4B】単相リーク電流の測定結果の一例を示すベクトル図である。
【
図6】第2測定部が無線通信で接続される測定装置の構成例を示す模式図である。
【
図7】第2測定部を備えない測定装置の構成例を示す模式図である。
【
図8】第1測定装置と第2測定装置とを備える測定システムの構成例を示す模式図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る測定方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示に係る実施形態が、比較例と対比しながら説明される。
【0019】
(比較例)
比較例に係る方法は、
図1に示される三相異容量結線の回路の絶縁抵抗を測定する方法である。三相異容量結線の回路は、R相、S相及びT相の3つの相から受電する三相負荷30と、R相及びS相の2つの相から受電する単相負荷20とを有する。R相とS相との中点NがGNDとして表される接地点に接続される。
図1に示される三相異容量結線の回路は、R相とT相とが接続されていないV結線である。
【0020】
R相、S相及びT相のそれぞれの配線とGNDとして表される接地点との間の絶縁抵抗は、各相の配線と接地点との間に並列に接続される抵抗と容量とを含む等価回路によって表される。R相、S相及びT相のそれぞれのリーク電流の等価回路は、LR、LS及びLTとして表される。R相、S相及びT相のそれぞれの配線から絶縁抵抗を通じて接地点に向けてリーク電流が生じる。リーク電流が生じている配線を特定するために、各相の絶縁抵抗が測定される。
【0021】
比較例に係る方法において、測定装置90を用いて各相の配線の絶縁抵抗が測定される。測定装置90は、配線をクランプできるように構成された測定部91を備える。比較例に係る方法において、測定部91は、R相、S相、T相、及びN相の4本の配線をまとめてクランプする。このようにすることで、測定装置90は、R相、S相、T相、及びN相の4本の配線に流れる電流の大きさ及び位相を合成した合成電流の大きさ及び位相を測定できる。また、測定装置90は、T相の電圧の位相を測定するプローブ93と、R相の電圧の位相を測定するプローブ94とを備え、T相及びR相の電圧の位相を測定できる。
【0022】
測定装置90を用いて測定した電流のベクトル図が
図2に示される。
図2において横軸は実部を表す。縦軸は虚部を表す。R、S及びTで表される破線は、R相、S相及びT相のそれぞれに入力される三相交流電圧の位相に対応する。Ra及びRbで表される破線は、三相異容量結線において接地されているN点に対するR相及びS相の位相をT相の位相を基準として表した位相に対応する。三相異容量結線において、Ra相及びRb相のベクトルとT相のベクトルとは、直交する関係となる。
【0023】
図2において、測定部91が測定した電流の大きさ及び位相は、Io_3Φのベクトルとして表される。Io_3Φのベクトルは、各相の配線において絶縁抵抗の等価回路を通じて流れるリーク電流のベクトルを合成した合成電流のベクトルである。各相の抵抗成分の電流は、Irとして表される。各相の容量成分の電流は、Icとして表される。
図2に図示される各ベクトルは、以下の電流を表す。
IrRa:Ra相に流れる抵抗成分の電流
IcRa:Ra相に流れる容量成分の電流
IrRb:Rb相に流れる抵抗成分の電流
IcRb_S:Rb相に流れる容量成分の電流
IrT:T相に流れる抵抗成分の電流
IcT:T相に流れる容量成分の電流
【0024】
ここで、Ra相及びRb相のベクトルとT相のベクトルとが直交する関係となっていることによって、Ra相に流れる容量成分の電流の位相と、T相に流れる抵抗成分の電流の位相とが同じになる。また、T相に流れる容量成分の電流の位相と、Rb相に流れる抵抗成分の電流の位相とが同じになる。その結果、比較例に係る方法において、各相の抵抗成分の電流を算出することができない。
【0025】
以上述べてきたように、比較例に係る方法によれば、三相異容量結線の回路において活線で抵抗成分を測定することができない。そこで、停電を伴う形で絶縁抵抗計を用いて抵抗成分が測定される。しかし、停電を伴う抵抗成分の測定は作業負担が大きいという問題がある。
【0026】
以下、三相異容量結線の回路において活線での抵抗成分の測定を実現できる測定方法及び測定装置が説明される。
【0027】
(本開示の実施形態)
図3に示されるように、一実施形態に係る測定装置10は、第1測定部11と第2測定部12とプローブ13及び14とを備える。
【0028】
測定装置10は、三相異容量結線の回路の各相に流れる電流を測定する。測定対象の三相異容量結線の回路は、R相、S相及びT相の3つの相から受電する三相負荷30と、R相及びS相の2つの相から受電する単相負荷20とを有する。R相とS相との中点NがGNDとして表される接地点に接続される。
図3に示される三相異容量結線の回路は、R相とT相とが接続されていないV結線である。本実施形態に係る測定装置10は、
図3に例示されるV結線の回路を対象としてリーク電流の抵抗成分を測定できる。また、測定装置10は、
図3に例示されている回路においてR相とT相とが接続されているΔ結線を対象としてリーク電流の抵抗成分を測定することもできる。
【0029】
R相、S相及びT相のそれぞれの配線とGNDとして表される接地点との間の絶縁抵抗は、各相の配線と接地点との間に並列に接続される抵抗と容量とを含む等価回路によって表される。R相、S相及びT相のそれぞれのリーク電流の等価回路は、LR、LS及びLTとして表される。R相、S相及びT相のそれぞれの配線から絶縁抵抗を通じて接地点に向けてリーク電流が生じる。リーク電流が生じている配線を特定するために、各相の絶縁抵抗が測定される。
【0030】
測定装置10の第1測定部11及び第2測定部12は、配線をクランプできるように構成される。第1測定部11は、R相、S相、T相、及びN相の4本の配線をまとめてクランプする。このようにすることで、測定装置10は、R相、S相、T相、及びN相の4本の配線に流れる電流の大きさ及び位相を合成した合成電流の大きさ及び位相を第1測定部11で測定できる。R相、S相、T相、及びN相の4本の配線に流れる電流を合成した合成電流は、R相、S相及びT相の3つの相の配線に流れるリーク電流を合成した電流に相当し、三相リーク電流とも称される。つまり、第1測定部11は、三相リーク電流を測定できる。
【0031】
第2測定部12は、R相、S相及びN相の3本の配線をクランプする。このようにすることで、測定装置10は、R相、S相、及びN相の3本の配線に流れる電流の大きさ及び位相を合成した合成電流の大きさ及び位相を第2測定部12で測定できる。R相、S相、及びN相の3本の配線に流れる電流を合成した合成電流は、R相及びS相の2つの相の配線に流れるリーク電流を合成した電流に相当し、単相リーク電流とも称される。つまり、第2測定部12は、単相リーク電流を測定できる。
【0032】
第1測定部11と第2測定部12とは入れ替えられてもよい。つまり、第1測定部11が単相リーク電流を測定し、第2測定部12が三相リーク電流を測定してもよい。第1測定部11及び第2測定部12は、区別される必要が無ければ単に測定部とも称される。測定部は、三相リーク電流を測定する機能、又は、単相リーク電流を測定する機能の少なくとも一方を有してよい。測定部は、三相リーク電流を測定する場合、三相リーク電流測定部とも称される。測定部は、単相リーク電流を測定する場合、単相リーク電流測定部とも称される。測定部は、三相リーク電流測定部、又は、単相リーク電流測定部の少なくとも一方として機能してよい。
【0033】
測定装置10は、プローブ13によってT相の電圧の位相を測定し、プローブ14によってR相の電圧の位相を測定する。
【0034】
測定装置10が第1測定部11を用いて測定した電流のベクトル図が
図4Aとして示される。測定装置10が第2測定部12を用いて測定した電流のベクトル図が
図4Bとして示される。また、
図4A及び
図4Bに示される測定結果を重ねたベクトル図が
図4Cとして示される。
図4A、
図4B及び
図4Cにおいて横軸は実部を表す。縦軸は虚部を表す。R、S及びTで表される破線は、R相、S相及びT相のそれぞれに入力される三相交流電圧の位相に対応する。Ra及びRbで表される破線は、三相異容量結線において接地されているN点に対するR相及びS相の位相をT相の位相を基準として表した位相に対応する。三相異容量結線において、Ra相及びRb相のベクトルとT相のベクトルとは、直交する関係となる。
【0035】
図4Aにおいて、第1測定部11が測定した三相リーク電流の大きさ及び位相は、Io_3Φのベクトルとして表される。Io_3Φのベクトルは、各相の配線において絶縁抵抗の等価回路を通じて流れるリーク電流のベクトルを合成したベクトルである。各相の抵抗成分の電流は、Irとして表される。各相の容量成分の電流は、Icとして表される。
図4Aに図示される各ベクトルは、以下の電流を表す。
IrRa:Ra相に流れる抵抗成分の電流
IcRa:Ra相に流れる容量成分の電流
IrRb:Rb相に流れる抵抗成分の電流
IcRb_S:Rb相に流れる容量成分の電流
IrT:T相に流れる抵抗成分の電流
IcT:T相に流れる容量成分の電流
【0036】
図4Aにおいて、第1測定部11が測定した三相リーク電流を表すIo_3ΦのベクトルのRa相に対する位相角はφで表される。
【0037】
図4Bにおいて、第2測定部12が測定した単相リーク電流の大きさ及び位相は、Io_1Φのベクトルとして表される。Io_1Φのベクトルは、各相の配線において絶縁抵抗の等価回路を通じて流れるリーク電流のベクトルを合成したベクトルである。各相の抵抗成分の電流は、Irとして表される。各相の容量成分の電流は、Icとして表される。
図4Bに図示される各ベクトルは、以下の電流を表す。
IrRa:Ra相に流れる抵抗成分の電流
IcRa_R:Ra相に流れる容量成分の電流
IrRb:Rb相に流れる抵抗成分の電流
IcRb_S:Rb相に流れる容量成分の電流
【0038】
図4Bにおいて、第2測定部12が測定した単相リーク電流を表すIo_1ΦのベクトルのRa相に対する位相角はθで表される。
【0039】
図4A及び
図4Bに示される各成分のベクトルを重ねた
図4Cを参照して、三相異容量結線の回路に流れるリーク電流の抵抗成分の算出方法が説明される。
【0040】
まず、R相及びS相のリーク電流の抵抗成分がIor_RSで表されるとする。Ior_RSは、以下の式(1)で算出される。
Ior_RS=Io_1Φ×cosθ (1)
【0041】
ここで、Ior_RS>0である場合、R相のリーク電流の抵抗成分であるIor_RがIor_RSに等しくなるとする。Ior_RS<0である場合、S相のリーク電流の抵抗成分であるIor_SがIor_RSに等しくなるとする。
【0042】
次に、T相のリーク電流の抵抗成分がIor_Tで表されるとする。Ior_Tは、以下の式(2)で算出される。
Ior_T=Io_3Φ×cosφ-Io_1Φ×sinθ (2)
【0043】
R相及びS相のリーク電流の抵抗成分の位相と、T相のリーク電流の抵抗成分の位相とが直交する関係にあることから、三相異容量結線の回路における各相のリーク電流の抵抗成分を合成した値であるIorは、以下の式(3)で算出される。
Ior=SQRT(Ior_RS^2+Ior_T^2) (3)
ここでSQRT(・)は、平方根を表す。つまり、式(3)は、R相及びS相のリーク電流の抵抗成分とT相のリーク電流の抵抗成分との二乗和の平方根を計算する式となっている。
【0044】
測定装置10は、
図5に示されるように、第1測定部11及び第2測定部12の他に、表示部15と、操作部16と、制御部17と、通信部18とを更に備える。測定装置10は、操作部16によってユーザの操作を受け付け、ユーザの操作に応じて第1測定部11及び第2測定部12並びにプローブ13及び14の測定結果を取得してよい。測定装置10は、上述してきたIorの計算を制御部17によって実行し、Iorの測定結果を表示部15に表示してよい。測定装置10は、Iorの測定結果を、通信部18を介して他の装置に出力してもよい。
【0045】
制御部17は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用回路を含んで構成されてもよい。表示部15は、LED(Light Emitting Diode)等の発光デバイスを含んで構成されてもよいし、液晶ディスプレイ又はプラズマディスプレイ等の種々のディスプレイを含んで構成されてもよい。操作部16は、ボタン又はキー等を含んで構成されてもよいし、マウス又はタッチパネル等のポインティングデバイスを含んで構成されてもよい。通信部18は、第2測定部12の測定結果を取得する通信のために用いられてよい。通信部18は、他の装置と通信可能に構成されてよい。
【0046】
図5に例示される測定装置10において、第1測定部11は、制御部17等を収容している筐体の一部として構成され、筐体の内部で制御部17に接続される。第2測定部12は、通信部18を介して制御部17に接続される。
図5の例において、通信部18は、通信配線によって第2測定部12と筐体とを接続する。制御部17は、通信部18を介して第2測定部12による電流の測定結果を取得できる。
【0047】
図6に例示されるように、通信部18は、第2測定部12を無線通信で接続するように構成されてもよい。第2測定部12が無線通信接続されることによって、測定装置10が通信配線を備えなくて済む。測定装置10が通信配線を備えないことによって、第2測定部12を測定対象の回路の配線にクランプするときの取り扱いが容易になる。
【0048】
図7に例示されるように、測定装置10は、第2測定部12を備えなくてもよい。つまり、測定装置10は、測定部を1つだけ備えてもよい。この場合、測定装置10は、第1測定部11でR相、S相、T相、及びN相の4本の配線をクランプして三相リーク電流を測定するステップと、第1測定部11でR相、S相及びN相の3本の配線をクランプして単相リーク電流を測定するステップとを時間をずらして実行する。三相リーク電流を測定するステップと単相リーク電流を測定するステップとのうちどちらのステップが先に実行されてもよい。測定装置10は、各ステップで得られた三相リーク電流と単相リーク電流とを用いて三相異容量結線の回路におけるリーク電流の抵抗成分を算出できる。
【0049】
図7に例示されるように測定装置10が第2測定部12を備えなくても、2つの測定ステップでクランプする対象の配線を異ならせることによって本実施形態に係る測定方法が実行される。したがって、本実施形態に係る測定方法は、第1測定部11だけを備える測定装置10を用いてソフトウェアを変更するだけで実行され得る。言い換えれば、第1測定部11と第2測定部12とを両方とも備える測定装置10を準備しなくても、第1測定部11だけを備える汎用的な測定装置10を利用して、本実施形態に係る測定方法が実行され得る。汎用的な測定装置10を利用できることによって、測定装置10のコストが低減され得る。
【0050】
図8に例示されるように、本実施形態に係る測定方法は、2台の測定装置10a及び10bを備える測定システム1によって実行されてもよい。測定装置10a及び10bは、上述してきた測定装置10と同一に構成されていてよいし一部において異なるように構成されてもよい。
【0051】
測定装置10a及び10bは、それぞれ通信部18a及び18bを備える。通信部18aと通信部18bとは有線又は無線で通信可能に構成される。
【0052】
測定システム1において、測定装置10a及び10bの一方がマスタ装置として機能する。仮に測定装置10aがマスタ装置として機能する場合、測定装置10bがスレーブ装置として機能する。測定装置10aは、第1測定装置とも称される。測定装置10bは、第2測定装置とも称される。この場合において、測定装置10aの測定部は、三相リーク電流又は単相リーク電流の一方を測定する。測定装置10bの測定部は、三相リーク電流又は単相リーク電流の他方を測定する。測定装置10aの制御部17は、測定装置10a及び10bの測定結果を取得することによって、三相リーク電流及び単相リーク電流の測定結果を取得でき、三相異容量結線の回路におけるリーク電流の抵抗成分を算出できる。
【0053】
図8に例示される測定システム1は、第1測定部11だけを備える汎用的な測定装置10によって構成され得る。汎用的な測定装置10を利用できることによって、測定装置10のコストが低減され得る。
【0054】
測定装置10の制御部17は、
図9に例示されるフローチャートの手順を含む測定方法を実行してよい。測定方法は、制御部17を構成するプロセッサに実行させる測定プログラムとして実現されてもよい。測定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0055】
制御部17は、三相リーク電流を取得する(ステップS1)。制御部17は、単相リーク電流を取得する(ステップS2)。制御部17は、三相リーク電流及び単相リーク電流に基づいて、三相異容量結線のR相、S相及びT相の各相のリーク電流の抵抗成分を算出する(ステップS3)。また、制御部17は、三相異容量結線の回路における各相のリーク電流の抵抗成分を合成した値であるIorを算出する。制御部17は、Iorの測定結果を表示部15に表示する(ステップS4)。制御部17は、Iorの測定結果を他の装置に出力してもよい。制御部17は、ステップS4の手順の実行後、
図9のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0056】
(まとめ)
以上述べてきたように、本実施形態に係る測定方法及び測定装置10によれば、三相異容量結線の回路におけるリーク電流の抵抗成分が、配線をクランプして測定した電流に基づいて算出される。したがって、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分が活線で測定され得る。言い換えれば、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を測定するために停電が不要になる。その結果、三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を測定するための作業負担が低減する。
【0057】
測定装置10は、三相リーク電流測定部と単相リーク電流測定部とを両方とも備えてよい。この場合、測定装置10は、三相リーク電流と単相リーク電流とを並行して測定できる。三相リーク電流と単相リーク電流とを並行して測定できることによって、リーク電流の経時変化の影響が低減され得る。
【0058】
測定装置10は、三相リーク電流測定部又は単相リーク電流測定部の少なくとも一方として機能する測定部を1つだけ備えてもよい。この場合、汎用的に構成された測定装置10を用いて三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分が活線で測定され得る。汎用的に構成された測定装置10を使用可能であることによって、特別な装置が不要となる。その結果、装置コストが低減され得る。
【0059】
また、測定装置10が測定部を備えることによって、測定装置10だけで三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分が測定され得る。
【0060】
測定装置10は、測定部を備えなくてもよい。この場合、測定装置10の制御部17は、他の装置で測定された三相リーク電流及び単相リーク電流の測定結果を取得して三相異容量結線の回路のリーク電流の抵抗成分を算出し、測定結果として出力したり表示したりしてよい。
【0061】
上述してきた実施形態において、R相とS相との中点が接地されている三相異容量結線の回路を対象としてリーク電流の抵抗成分が算出された。リーク電流の抵抗成分を算出する対象となる三相異容量結線の回路は、R相とT相との中点が接地された回路であってもよいし、S相とT相との中点が接地された回路であってもよい。三相異容量結線の回路のうち、中点が接地されている2つの相は、接地相とも称される。
【0062】
また、上述してきた実施形態において、V結線の三相異容量結線の回路を対象としてリーク電流の抵抗成分が算出された。リーク電流の抵抗成分を算出する対象となる三相異容量結線の回路は、例えば
図3に示されている回路においてR相とT相とが接続されているΔ結線の回路であってもよい。Δ結線の回路において、中点を接地する2相を選択する組み合わせはどれでもよい。
【0063】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 測定システム(10a、10b:測定装置、18a、18b:通信部)
10 測定装置(11:第1測定部、12:第2測定部、13、14:プローブ、15:表示部、16:操作部、17:制御部、18:通信部)
20 単相負荷
30 三相負荷