(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155576
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 35/06 20060101AFI20241024BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20241024BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20241024BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F16C35/06 Z
F16C19/38
F16C43/04
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070402
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平川 裕雅
(72)【発明者】
【氏名】藤川 雄兵
(72)【発明者】
【氏名】塩野 泰宏
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB06
3J117DB10
3J117HA02
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA80
3J701FA04
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】支持軸への組み付け作業時に、軸方向外側の内輪に備えられた係止凹溝から連結環が脱落するのを防止できる、転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】連結環21を、複数の開口窓36と、複数の開口窓36の開口縁部の軸方向両側部に形成された、内輪19a、19bの係止凹溝26a、26bに係止される複数の係止凸部37a、37bとを有するものとする。係止凸部37a、37bを、膨出形状をなし、剪断面40を含む抑え面38a、38bを有するものとする。剪断面40の径方向外側の端部を、係止凹溝26a、26bの被抑え面27a、27bに備えられた面取り部28a、28bの径方向外側の端部よりも径方向外側に位置させ、剪断面40を、被抑え面27a、27bのうちで面取り部28a、28bよりも径方向外側部分に当接させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面の軸方向中間部に単列の内輪軌道を、外周面の軸方向両側の端部に大鍔部及び小鍔部をそれぞれ有し、かつ、内周面に係止凹溝をそれぞれ有する1対の内輪と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の転動体と、
円周方向に離隔して配置された複数の開口窓と、前記複数の開口窓のそれぞれの開口縁部の軸方向両側部に形成された複数の係止凸部とを有し、前記複数の係止凸部を前記1対の内輪の前記係止凹溝に係止することにより前記1対の内輪を連結する、連結環と、を備え、
複数の前記係止凹溝のそれぞれは、軸方向に関して前記大鍔部側を向き、かつ、径方向内側の端部に面取り部が形成された被抑え面を有し、
前記複数の係止凸部のそれぞれは、径方向外側に向けて突出した膨出形状をなし、前記被抑え面と対向する部分に剪断面を含む抑え面を有し、
前記剪断面の径方向外側の端部は、前記面取り部の径方向外側の端部よりも径方向外側に位置しており、前記抑え面のうちの前記剪断面が、前記被抑え面のうちで前記面取り部よりも径方向外側部分に当接する、
転がり軸受装置。
【請求項2】
前記複数の係止凸部のそれぞれは、部分球殻状をなし、
前記抑え面は、軸方向視で、径方向外側が凸となるように湾曲している、
請求項1に記載した転がり軸受装置。
【請求項3】
前記連結環は、円周方向に隣り合う前記開口窓同士の間に、屈曲部を有する、請求項1に記載した転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を回転自在に支持するために、ハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置が使用されている。
図16及び
図17は、トラックやバスなどの重量が嵩む車両の車輪(駆動輪)を、回転自在に支持しかつ回転駆動するために用いられる転がり軸受装置の1例として、特開2011-27130号公報(特許文献1)に記載された構造を示している。
【0003】
転がり軸受装置100は、車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持する。車軸管101の内側には、駆動軸103が挿通されている。駆動軸103の端部にはフランジ104が備えられており、該フランジ104には、ハブ輪102が固定されている。ハブ輪102には、駆動輪105及び制動用回転体106がそれぞれ固定されている。このような構成により、駆動輪105及び制動用回転体106を車軸管101に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸103からのトルクを駆動輪105及び制動用回転体106に伝達可能としている。
【0004】
転がり軸受装置100は、
図17に示すように、複列円すいころ軸受であり、使用状態で回転する外輪107と、使用状態で回転しない1対の内輪108a、108bと、複数個の転動体109a、109bと、連結環110とを備える。
【0005】
なお、転がり軸受装置100に関して、軸方向外側とは、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図16及び
図17の左側をいい、軸方向内側とは、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図16及び
図17の右側をいう。
【0006】
外輪107は、内周面に複列の外輪軌道111a、111bを有している。外輪107は、ハブ輪102に締り嵌めで内嵌されている。
【0007】
内輪108a、108bは、外周面の軸方向中間部に単列の内輪軌道112a、112bを、外周面の軸方向両側の端部に大鍔部113a、113b及び小鍔部114a、114bをそれぞれ有している。1対の内輪108a、108bは、互いに対向する小径側端面同士を突き合わせた状態で、車軸管101に隙間嵌めで外嵌されている。
【0008】
転動体109a、109bは、円すいころであり、外輪軌道111a、111bと内輪軌道112a、112bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0009】
連結環110は、円周方向1箇所に不連続部を有する欠円環状に構成されており、U字状の断面形状を有している。連結環110は、円輪形状を有する1対の鍔部115a、115bと、1対の鍔部115a、115bの径方向内側の端部同士をつないだ円筒部116とを有する。
【0010】
連結環110は、1対の鍔部115a、115bを、内輪108a、108bの内周面に備えられた係止凹溝117a、117bに係止することで、1対の内輪108a、108bを連結している。
【0011】
なお、特開2011-27130号公報には、転がり軸受装置100により、駆動輪105を車軸管101に対し回転自在に支持する構造が開示されているが、例えば特開2006-105304号公報に開示されているように、転がり軸受装置により従動輪をナックルスピンドルに対して回転自在に支持する、従動輪支持装置の構造も、従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011-27130号公報
【特許文献2】特開2006-105304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
転がり軸受装置を車軸管やナックルスピンドルなどの支持軸に組み付ける際には、重量の嵩むハブ輪を転がり軸受装置に組み合わせた組立体の状態で、支持軸に組み付ける必要がある。
【0014】
図18に示すように、従動輪用のハブ輪102aと転がり軸受装置100との組立体118をナックルスピンドル119に組み付ける際、ナックルスピンドル119の嵌合面部120に対して、軸方向内側の内輪108bは外嵌しているが、軸方向外側の内輪108aは外嵌していない状態が生じる。このような状態においては、軸方向外側の内輪108aは、矢印αで示すように、軸方向内側の内輪108bに対して鉛直方向下側(路面側、
図18の下側)に偏心するため、軸方向外側の内輪108aの内周面に備えられた係止凹溝117aのうちの鉛直方向上側部分と、ナックルスピンドル119の外周面に存在する段差部121などとが干渉しやすくなる。この結果、ナックルスピンドル119から内輪108aに対して、内輪108aの中心軸に対し傾斜した軸方向荷重が加わり、係止凹溝117aから連結環110の鍔部115aが脱落するといった問題を生じる可能性がある。
【0015】
特に、
図18に示したような従動輪支持装置の構造では、組立体118の状態での重心位置が軸方向外側に偏りやすいことから、組立体118に矢印βで示す方向の傾きが生じ、上記問題が発生しやすくなる。
【0016】
特開2011-27130号公報には、軸方向外側の内輪に備えられた係止凹溝のうち、軸方向に関して小鍔部側を向いた面の径方向内側の端部に面取り部を形成するとともに、車軸管の段差部に面取り部を形成することで、軸方向外側の内輪に生じる偏心を自動的に修正する技術が開示されている。
【0017】
ただし、特開2011-27130号公報に記載された従来構造では、連結環110として、U字形の断面形状を有するプレス加工品を使用しており、鍔部115a、115bは、円筒部116に対していわゆる片持ち支持された状態のため、鍔部115a、115bの剛性が不足しやすく、かつ、連結環110の中心軸に対する鍔部115a、115bの直角度が大きくなりやすい。したがって、軸方向外側の内輪108aに生じる偏心を自動的に修正した場合にも、軸方向外側の内輪108aに備えられた係止凹溝117aから、連結環110の鍔部115aが脱落するのを十分に防止することは難しい。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、車軸管やナックルスピンドルなどの支持軸への組み付け作業時に、軸方向外側の内輪に備えられた係止凹溝から連結環が脱落するのを防止できる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置は、外輪と、1対の内輪と、複数の転動体と、連結環とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記1対の内輪は、外周面の軸方向中間部に単列の内輪軌道を、外周面の軸方向両側の端部に大鍔部及び小鍔部をそれぞれ有し、かつ、内周面に係止凹溝をそれぞれ有する。
前記複数の転動体のそれぞれは、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置される。
前記連結環は、円周方向に離隔して配置された複数の開口窓と、前記複数の開口窓のそれぞれの開口縁部の軸方向両側部に形成された複数の係止凸部とを有し、前記複数の係止凸部を前記1対の内輪の前記係止凹溝に係止することにより、前記1対の内輪を連結する。
複数の前記係止凹溝のそれぞれは、軸方向に関して前記大鍔部側を向き、かつ、径方向内側の端部に面取り部が形成された被抑え面を有する。
前記複数の係止凸部のそれぞれは、径方向外側に向けて突出した膨出形状をなし、前記被抑え面と対向する部分に剪断面を含む抑え面を有する。
前記剪断面の径方向外側の端部を、前記面取り部の径方向外側の端部よりも径方向外側に位置させて、前記抑え面のうちの前記剪断面を、前記被抑え面のうちで前記面取り部よりも径方向外側部分に当接させる。
【0020】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記複数の係止凸部のそれぞれを、部分球殻状に構成し、前記抑え面を、軸方向視で、径方向外側が凸となるように湾曲した面とすることができる。
【0021】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記連結環のうちで、円周方向に隣り合う前記開口窓同士の間に屈曲部を設けることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置によれば、車軸管やナックルスピンドルなどの支持軸への組み付け作業時に、軸方向外側の内輪に備えられた係止凹溝から連結環が脱落するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を取り出して示す、半部断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置から内輪を取り出して示す、断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置に組み込む連結環の製造方法を説明するために示す図であり、(A)は素板の平面図であり、(B)は、素板に膨出部を形成する工程を示す断面模式図であり、(C)は、膨出部の幅方向中間部に窓開口を形成する工程を示す断面模式図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例に関して、素板から得られる中間素材を、該中間素材の幅方向から見た側面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の第1例に関して、中間素材から得られる連結環を、自由状態で、該連結環の外周面側から見た平面図である。
【
図16】
図16は、従来構造の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図17】
図17は、従来構造の転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
【
図18】
図18は、従来構造の転がり軸受装置に従動輪用のハブ輪を組み合わせた組立体を、支持軸に組み付ける工程を説明するために示す、半部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図13を用いて説明する。本例では、本発明の転がり軸受装置を、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置に適用している。
【0025】
〔駆動輪支持装置の全体構成〕
駆動輪支持装置1は、
図1に全体構成を示すように、転がり軸受装置2と、支持軸である車軸管3と、ハブ輪4と、駆動軸5とを備える。駆動輪支持装置1は、トラックの後輪などの駆動輪6及び制動用回転体7を回転自在に支持するとともに、駆動輪6及び制動用回転体7に駆動トルクを伝達するものであり、全浮動式の構成を有する。
【0026】
なお、駆動輪支持装置1に関して、軸方向外側とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1の左側をいい、軸方向内側とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1の右側をいう。
【0027】
転がり軸受装置2は、車軸管3の軸方向外側の端部の周囲に、ハブ輪4を回転自在に支持している。転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面とハブ輪4の内周面との間に配置されている。
【0028】
車軸管3は、アクスルハウジングとも呼ばれており、円筒形状を有し、軸方向内側の端部が図示しないデフケースにつながっている。このため、車軸管3は、使用時にも回転しない。車軸管3の内部空間は、デフケースの内部空間に連通している。
【0029】
車軸管3の外周面には、軸方向外側から順に、雄ねじ部8、外側段差部9、内径側嵌合面部10、内側段差部11が設けられている。雄ねじ部8は、車軸管3の外周面の軸方向外側の端部に備えられている。雄ねじ部8には、転がり軸受装置2を車軸管3に固定するとともに、1対の内輪19a、19bに軸力を付与して転がり軸受装置2の内部隙間を適正化するためのナット12が螺合されている。内径側嵌合面部10は、円筒面状で、車軸管3の外周面の軸方向中間部に備えられている。内径側嵌合面部10は、雄ねじ部8よりも大きな外径を有している。外側段差部9は、軸方向に関して、雄ねじ部8と内径側嵌合面部10との間に備えられており、雄ねじ部8と内径側嵌合面部10とを接続している。内側段差部11は、軸方向外側を向いた円輪面であり、内径側嵌合面部10の軸方向内側に隣接する部分に備えられている。
【0030】
駆動軸5は、アクスルシャフトとも呼ばれており、中実状で、車軸管3の内側に挿通されている。駆動軸5は、車軸管3と同軸に配置されている。駆動軸5の軸方向内側の端部は、図示しないディフェレンシャルギアに連結されている。このため、駆動軸5は、使用時に回転する。駆動軸5は、車軸管3から突出した軸方向外側の端部に、外向フランジ状のフランジ13を備えている。フランジ13には、複数本のボルト14によりハブ輪4が固定されている。
【0031】
ハブ輪4は、円環形状を有している。ハブ輪4は、内周面に円筒面状の外径側嵌合面部15を有しており、外周面の軸方向中間部に回転フランジ16を有している。回転フランジ16には、ハブボルトやスタッドなどの結合部材17により、駆動輪6が固定されている。ハブ輪4の軸方向内側には、制動用回転体7がボルト14により固定されている。
【0032】
駆動輪支持装置1は、上記構成により、駆動輪6及び制動用回転体7を車軸管3に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸5からのトルクを駆動輪6及び制動用回転体7に伝達可能としている。また、全浮動式の駆動輪支持装置1においては、車両の荷重は、駆動軸5によっては支承されず、車軸管3によって支承される。駆動軸5は、トルクの伝達のみを負担する。
【0033】
以下、本例の転がり軸受装置2の具体的な構造について、
図2~
図6を参照して説明する。
なお、転がり軸受装置2に関して、軸方向外側とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図2~
図6の左側をいい、軸方向内側とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図2~
図6の右側をいう。
【0034】
〈転がり軸受装置〉
転がり軸受装置2は、背面組み合わせ型の複列円すいころ軸受であり、外輪回転型である。転がり軸受装置2は、使用状態で回転する外輪18と、使用状態で回転しない1対の内輪19a、19bと、複数個の転動体20a、20bと、連結環21とを備える。
【0035】
《外輪》
外輪18は、軸受鋼などの硬質金属製であり、円環形状を有している。外輪18は、内周面に、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど内径が大きくなる円すい凹面状の複列の外輪軌道22a、22bを有している。外輪18の外周面は、略円筒面状に構成されている。外輪18は、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、ハブ輪4の内周面に備えられた外径側嵌合面部15に対し締り嵌めで内嵌固定される。このため、外輪18は、ハブ輪4とともに回転する。
【0036】
《内輪》
内輪19a、19bのそれぞれは、軸受鋼などの硬質金属製であり、円環形状を有している。内輪19a、19bは、外周面の軸方向中間部に円すい凸面状の単列の内輪軌道23a、23bを、外周面の軸方向両側の端部に大鍔部24a、24b及び小鍔部25a、25bをそれぞれ有する。大鍔部24a、24b及び小鍔部25a、25bは、内輪軌道23a、23bの軸方向両側に配置されている。内輪19a、19bの外径は、大鍔部24a、24bを備えた大径側端部で、小鍔部25a、25bを備えた小径側端部よりも大きい。
【0037】
内輪19a、19bは、内周面のうちで小鍔部25a、25bの径方向内側に位置する部分に、係止凹溝26a、26bを有する。係止凹溝26a、26bは、環状溝であり、内輪19a、19bの内周面に全周にわたり形成されている。係止凹溝26a、26bは、略矩形状の断面形状を有しており、内輪19a、19bの内周面にのみ開口している。
【0038】
係止凹溝26a、26bは、軸方向に関して大鍔部24a、24b側を向いた被抑え面27a、27bを有する。このため、1対の被抑え面27a、27bは、1対の内輪19a、19bを互いの小径側端面同士を突き合わせた状態で、軸方向に関して反対側を向いている。
【0039】
被抑え面27a、27bは、径方向内側の端部に、円弧形の母線形状を有する面取り部28a、28bを有し、面取り部28a、28bの径方向外側に隣接した部分に、内輪19a、19bの中心軸に直交する円輪状の平面部29a、29bを有する。
【0040】
図4に示すように、平面部29a、29bの径方向寸法h
29は、面取り部28a、28bの径方向寸法h
28よりも大きい(h
29>h
28)。
【0041】
内輪19a、19bは、内周面の軸方向中間部に、円筒面状の小径面部30a、30bを有する。内輪19a、19bは、内周面のうちで、軸方向に関して係止凹溝26a、26bを挟んで小径面部30a、30bとは反対側部分に、内径が、小径面部30a、30bよりも大きくかつ係止凹溝26a、26bの底面よりも小さい、円筒面状の大径面部31a、31bを有する。大径面部31a、31bは、被抑え面27a、27bの面取り部28a、28bに接続されている。
【0042】
内輪19a、19bは、内周面のうちで大鍔部24a、24bの径方向内側に位置する部分に、シール溝32a、32b(
図2参照)を有する。シール溝32a、32bは、環状溝であり、内輪19a、19bの内周面に全周にわたり形成されている。シール溝32a、32bのうち、軸方向内側の内輪19bに備えられたシール溝32bには、円環状のシールリング33が係止されている。シールリング33は、内輪19bと車軸管3の内側段差部11との間に挟持され、当該部分を密封している。
【0043】
1対の内輪19a、19bは、互いの小径側端面同士を突き合わせた状態で、外輪18の径方向内側に、外輪18と同軸に配置されている。1対の内輪軌道23a、23bは、複列の外輪軌道22a、22bと径方向に対向する位置に、複列に配置されている。
【0044】
内輪19a、19bは、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、車軸管3の外周面に備えられた内径側嵌合面部10に対し隙間嵌めで外嵌されている。また、内輪19a、19bは、車軸管3の外周面に備えられた内側段差部11とナット12との間に、軸方向に挟持されている。これにより、転がり軸受装置2が車軸管3に固定されるとともに、1対の内輪19a、19bに軸力が付与され、転がり軸受装置2の内部隙間が適正化される。ナット12の螺合量(螺合位置)は、例えば、転がり軸受装置2のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ又は若干量の正もしくは負の値になるように設定されている。
【0045】
本例では、1対の内輪19a、19bは、同一部材によって構成されており、軸方向に関して反対向きに配置されている。このため、内輪19a、19bは、軸方向に関する向きが反対である点を除いて、各部の形状及び寸法は互いに同じである。ただし、本発明を実施する場合に、1対の内輪として、各部の形状及び寸法が互いに異なる部材を使用することもできる。
【0046】
《転動体》
複数個の転動体20a、20bのそれぞれは、円すいころであり、例えば軸受鋼製又はセラミック製である。複数個の転動体20a、20bは、外輪軌道22a、22bと内輪軌道23a、23bとの間に、保持器34a、34bにより転動自在に保持された状態で配置されている。また、軸方向外側列の転動体20aは、軸方向外側の端面の一部を大鍔部24aに接触対向させ、かつ、軸方向内側の端面の一部を小鍔部25aに近接対向させている。軸方向内側列の転動体20bは、軸方向内側の端面の一部を大鍔部24bに接触対向させ、かつ、軸方向外側の端面の一部を小鍔部25bに近接対向させている。
【0047】
《連結環》
連結環21は、1対の内輪19a、19bを軸方向に連結するためのもので、金属板製である。連結環21は、自由状態で、円弧状に湾曲した湾曲板状に構成されている。連結環21は、C字形の端面形状を有する欠円環状又は円環状に弾性変形された状態で、1対の内輪19a、19bに装着されている。
【0048】
連結環21の軸方向寸法は、1対の内輪19a、19bを突き合わせた状態での、1対の係止凹溝26a、26bの遠位側(小径面部30a、30b側)の端部同士の軸方向寸法よりも少しだけ小さい。
【0049】
連結環21は、複数の開口窓36と、複数の係止凸部37a、37bとを有する。
【0050】
複数の開口窓36は、連結環21の円周方向に等間隔に離隔して配置されている。開口窓36は、連結環21を径方向に貫通した貫通孔であり、径方向視で角丸四角形状(図示の例では角丸正方形状)を有している。開口窓36は、連結環21の軸方向中間部に形成されている。
【0051】
開口窓36の軸方向寸法は、連結環21の軸方向寸法よりも小さい。具体的には、開口窓36の軸方向寸法は、連結環21の軸方向寸法の2/5~3/5程度である。また、開口窓36の軸方向寸法は、1対の内輪19a、19bを突き合わせた状態での、1対の被抑え面27a、27b(平面部29a、29b)同士の軸方向距離と同じか、又は、該軸方向距離よりもわずかに大きい。
【0052】
複数の係止凸部37a、37bは、複数の開口窓36のそれぞれの開口縁部の軸方向両側部に形成されている。本例では、複数の係止凸部37a、37bは、複数の開口窓36のそれぞれの開口縁部の軸方向両側部の円周方向中央部に形成されている。このため、係止凸部37a、37bの円周方向に関する位相と開口窓36の円周方向に関する位相とは、互いに一致している。係止凸部37a、37bのうち、一方の係止凸部37aは、開口窓36の開口縁部の軸方向外側部に形成されており、他方の係止凸部37bは、開口窓36の開口縁部の軸方向内側部に形成されている。
【0053】
複数の係止凸部37a、37bのそれぞれは、径方向外側に向けて突出した膨出形状をなす。本例では、複数の係止凸部37a、37bのそれぞれは、部分球殻状(四分の一球殻状)に構成されている。
【0054】
軸方向外側の係止凸部37aは、軸方向内側の端部の周方向中央部に備えられた頂部の外径(及び内径)が最も大きく、当該頂部から周方向両側及び軸方向外側にそれぞれ向かう程外径(及び内径)が曲線的に小さくなる。軸方向内側の係止凸部37bは、軸方向外側の端部の周方向中央部に備えられた頂部の外径(及び内径)が最も大きく、当該頂部から周方向両側及び軸方向内側にそれぞれ向かう程外径(及び内径)が曲線的に小さくなる。このため、係止凸部37a、37bの周方向中央部における連結環21の断面形状は、
図3に示すように、略ハ字形状となる。また、本例の係止凸部37a、37bは、それぞれの頂部において、連結環21のおよそ板厚分だけ径方向外側に突出している。
【0055】
連結環21を1対の内輪19a、19bに装着した状態で、複数の係止凸部37a、37bは、内輪19a、19bの内周面に備えられた係止凹溝26a、26bの内側に径方向内側から進入し、係止凹溝26a、26bに対して係止される。
【0056】
係止凸部37a、37bは、軸方向に関して係止凹溝26a、26bの被抑え面27a、27bと対向する部分に、抑え面38a、38bを有する。
【0057】
図4に示すように、抑え面38a、38bは、径方向内側から順に、ダレ面39、剪断面40、破断面41、バリ42を有する。本例では、抑え面38a、38bは、軸方向視で、径方向外側が凸となるように円弧状に湾曲している(
図11参照)。
【0058】
ダレ面39は、凸円弧状の断面形状を有しており、抑え面38a、38bの径方向内側の端部に備えられている。ダレ面39は、径方向外側に向かう程、軸方向に関して開口窓36の中央部に近づく方向に曲線的に傾斜している。
【0059】
剪断面40は、抑え面38a、38bの径方向中間部に備えられており、ダレ面39の径方向外側に隣接配置されている。剪断面40は、連結環21の中心軸に対して直交する平滑面である。剪断面40は、抑え面38a、38bの中で最も連結環21の軸方向中央側に位置している。別の言い方をすれば、剪断面40は、抑え面38a、38bの中で最も被抑え面27a、27b側に位置している。
【0060】
破断面41は、抑え面38a、38bの径方向外側部に備えられており、剪断面40の径方向外側に隣接配置されている。破断面41は、径方向外側に向かう程、軸方向に関して開口窓36の中央部から離れる方向に傾斜した面である。
【0061】
バリ42は、抑え面38a、38bの径方向外側の端部に備えられており、破断面41の径方向外側に隣接配置されている。なお、研磨加工や砥粒加工などを施すことにより、抑え面からバリを除去しておくこともできる。
【0062】
本例では、抑え面38a、38bのうちで、ダレ面39の径方向内側の端部から剪断面40の径方向外側の端部までの径方向寸法H38を、被抑え面27a、27bに備えられた面取り部28a、28bの径方向寸法h28よりも大きくしている(H38>h28)。
【0063】
連結環21は、複数の切り欠き43(
図2参照)をさらに有する。切り欠き43は、プレス加工時の位相合わせ用(インデックス用)の切り欠きであり、連結環21の軸方向両側の端部に備えられているが、軸方向片側だけに設けることもできる。本例では、切り欠き43は、連結環21のうちで、円周方向に関する位相が、開口窓36及び係止凸部37a、37bのそれぞれの位相と一致する部分に備えられているが、開口窓36及び係止凸部37a、37bと同ピッチであれば、必ずしも同位相に設ける必要はない。
【0064】
連結環21は、複数の係止凸部37a、37bを内輪19a、19bの内周面に備えられた係止凹溝26a、26bに係止することで、1対の内輪19a、19bを軸方向に連結している。
【0065】
本例では、複数の係止凸部37a、37bを係止凹溝26a、26bに係止した状態で、係止凸部37a、37bの周方向中間部において、抑え面38a、38bに備えられた剪断面40の径方向外側の端部を、当該剪断面40と軸方向に対向する周方向位置に備えられた、面取り部28a、28bの径方向外側の端部よりも径方向外側に位置させている。
【0066】
また、複数の係止凸部37a、37bを係止凹溝26a、26bに係止した状態で、連結環21のうちで開口窓36から円周方向に外れた部分の外周面は、内輪19a、19bの大径面部31a、31bに対して弾性的に接触している。このため、係止凸部37a、37bの周方向中央部において、ダレ面39の径方向内側の端部と面取り部28a、28bの径方向内側の端部との径方向位置は、互いに同じになる。
【0067】
また、複数の係止凸部37a、37bを係止凹溝26a、26bに係止した状態で、連結環21の内周面は、内輪19a、19bの小径面部30a、30bと同軸かつ同径の仮想円筒面上に位置しているか、又は、該仮想円筒面よりも径方向外側に位置している。
【0068】
本例では、係止凸部37a、37bの周方向中間部において、剪断面40の径方向外側の端部を、面取り部28a、28bの径方向外側の端部よりも径方向外側に位置させているため、剪断面40は、面取り部28a、28よりも径方向外側に位置する平面部29a、29bに当接している。
【0069】
《シール部材》
本例の転がり軸受装置2は、転がり軸受装置2の内部空間に封入したグリースが車軸管3内の空間に漏洩することを防止するとともに、車軸管3内に存在するデフオイルが、転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止するため、1対の内輪19a、19b同士の突き合わせ部44を密封するシール部材45をさらに備える。
【0070】
シール部材45は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR、高硬度ニトリル)などの弾性材製で、全体が円環状に構成されている。シール部材45は、略T字形の断面形状を有している。シール部材45の径方向内側部は、1対の内輪19a、19bの小径側端面同士の間に軸方向に挟持されている。シール部材45の径方向外側部は、突き合わせ部44を軸方向に跨ぐように小鍔部25a、25bに係止されている。なお、本発明を実施する場合には、シール部材を、弾性材製のシール部と、金属製の芯金とからを構成することもできる。また、シール部材を、突き合わせ部の径方向内側に配置することもできる。
【0071】
《密封装置》
本例の転がり軸受装置2は、外輪18の内周面と1対の内輪19a、19bの外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部を塞ぐために、1対の密封装置46a、46bをさらに備える。一方の密封装置46aは、ガータスプリング式のシールリングであり、外輪18の内周面の軸方向外側部と内輪19aを構成する大鍔部24aの外周面との間に配置され、転がり軸受装置2の内部空間に封入したグリースが車軸管3内の空間に漏洩することを防止するとともに、車軸管3内に存在するデフオイルが転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止している。他方の密封装置46bは、組み合わせシールリングであり、外輪18の内周面の軸方向内側部と内輪19bを構成する大鍔部24bの外周面との間に配置され、転がり軸受装置2の内部空間に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止するとともに、外部空間に存在する泥水などの異物が、転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止している。
【0072】
次に、本例の連結環21の製造方法について、
図7~
図13を参照して説明する。
先ず、鋼板等の金属板をプレス加工により打ち抜くことで、
図7の(A)に示すような、幅方向両側の端部に複数のインデックス用の切り欠き43が等間隔に形成された、帯状の素板(ブランク)47を得る。
【0073】
次いで、
図7の(B)に示すように、第1パンチ48及び第1ダイ49を用いて、素板47にプレス加工を施す。第1パンチ48は、略長円形の平面形状及び円弧形の断面形状を有する押圧部50を備えている。押圧部50の幅方向両側の端部における外面形状は、係止凸部37a、37bの内面形状に合致している。第1ダイ49は、凹状の受面51を有している。受面51の幅方向両側の端部における内面形状は、係止凸部37a、37bの外面形状に合致している。
【0074】
本工程では、素板47に備えられたインデックス用の切り欠き43を利用して、素板47と第1パンチ48及び第1ダイ49とを位置決めしながら、素板47のうちで、切り欠き43と位相が一致する箇所に、全体がドーム状(中空状)で、平面視が長円形状の膨出部52を1つずつ形成して、
図8及び
図9に示したような、中間素材53を得る。
【0075】
膨出部52を形成する際、素板47の肉の一部が、第1パンチ48の押し込み方向(
図7の(B)の下側)に移動する。このため、
図8に示すように、円周方向の複数箇所に膨出部52が形成された中間素材53は、膨出部52が形成された側の面が凸となるように円弧状に湾曲する。
【0076】
次いで、
図7の(C)に示すように、第2パンチ54及び第2ダイ55を用いて、中間素材53にプレスによる打ち抜き加工(剪断加工)を施す。第2パンチ54は、略四角柱形状の加工部56を有している。加工部56は、開口窓36の開口形状に合致した輪郭形状を有している。第2ダイ55は、中央部に打ち抜き孔57を有し、かつ、上面のうちで打ち抜き孔57の両側に凹状の受面58を有する。打ち抜き孔57は、加工部56を挿通可能なテーパ孔である。受面58は、膨出部52の長手方向両側の端部(係止凸部37a、37b)の外面形状に合致した内面形状を有している。
【0077】
本工程では、中間素材53に備えられたインデックス用の切り欠き43を利用して、中間素材53と第2パンチ54及び第2ダイ55とを位置決めしながら、中間素材53のうちで、切り欠き43と位相が一致する箇所を順次打ち抜く。これにより、膨出部52の長手方向中間部に開口窓36を形成するとともに、膨出部52の長手方向両側部分(残部)から係止凸部37a、37bを形成して、
図10~
図13に示したような、自由状態で湾曲板形状をなす、連結環21を得る。
【0078】
本工程では、膨出部52の凹状の内面側から加工部56の刃部を接触させるため、加工部56の刃部は、膨出部52に対して一様には当接せずに部分的に当接する。これにより、膨出部52は、加工部56の刃部が当接した部分から鋏で切るように順次切断される(シャー切断される)ため、シャーリング効果が得られる。この結果、開口窓36の開口縁部を構成する切断面に占める、剪断面の割合を大きくできる。したがって、係止凸部37a、37bの抑え面38a、38bに占める、剪断面40の割合を大きくできる。連結環21は、自由状態で、円弧状に湾曲した湾曲板状に構成されているため、1対の内輪19a、19bに装着する際に、工具などを利用して欠円環状又は円環状に弾性変形させる。
【0079】
以上のような本例の転がり軸受装置2によれば、車軸管3への組み付け作業時に、軸方向外側の内輪19aに備えられた係止凹溝26aから連結環21が脱落するのを有効に防止できる。
【0080】
すなわち、本例では、係止凸部37a、37bの周方向中間部において、抑え面38a、38bに備えられた剪断面40の径方向外側の端部を、被抑え面27a、27bに備えられた面取り部28a、28bの径方向外側の端部よりも径方向外側に位置させることで、剪断面40を、面取り部28a、28よりも径方向外側に位置する平面部29a、29bに当接させている。つまり、本例では、抑え面38a、38bのうちで、連結環21の中心軸に対する直角度の小さい剪断面40を、被抑え面27a、27bの平面部29a、29bに当接させている。
【0081】
また、本例では、剪断面40を備えた抑え面38a、38bを、膨出形状をなすことで剛性の高い係止凸部37a、37bに設けている。また、抑え面38a、38bを、周囲が閉じた開口窓36の一部に設けることで、抑え面38a、38bの変形に対する剛性を高めている。
【0082】
したがって、本例では、ハブ輪4と転がり軸受装置2との組立体を車軸管3に組み付ける際に、軸方向外側の内輪19aが、軸方向内側の内輪19bに対して鉛直方向下側に偏心し、軸方向外側の内輪19aの内周面に備えられた係止凹溝26aが、車軸管3の外周面に備えられた外側段差部9などに干渉した場合にも、係止凹溝26aから連結環21の係止凸部37aが脱落することを有効に防止できる。この結果、本例の転がり軸受装置2によれば、1対の内輪19a、19bが分離することを防止できるとともに、軸方向外側の内輪19aが車軸管3から軸方向外側に抜け出ることも防止できるため、ハブ輪4と転がり軸受装置2との組立体を車軸管3に組み付ける作業の作業性を向上できる。
【0083】
さらに本例では、連結環21の素材となる素板47に、膨出部52を形成する際に、素板47を円弧状に湾曲させることができる。このため、素板47を湾曲させる工程を別に行わなくても、連結環21を欠円環状又は円環状に容易に弾性変形させることができる。このため、転がり軸受装置2の製造コストの低減を図れるとともに、連結環21の装着作業の作業性の向上も図れる。
【0084】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図14及び
図15を用いて説明する。
【0085】
本例では、連結環21aの構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0086】
本例の連結環21aは、円周方向に隣り合う開口窓36同士の間に、屈曲部59を有している。屈曲部59は、連結環21aの外周面側が凸状で、かつ、連結環21aの内周面側が凹状に構成されている。屈曲部59の曲率は、該屈曲部59から円周方向に外れた部分の曲率よりも大きい。連結環21aは、複数の屈曲部59が形成されているため、実施の形態の第1例の連結環21に比べて、自由状態での曲率が大きい。
【0087】
本例では、上述のような屈曲部59を備えた連結環21aを形成するために、前記
図7に示した工程を経て、実施の形態の第1例の連結環21の形状まで加工した後、円周方向に隣り合う開口窓36同士の間に、ベンダー曲げ加工を施し、連結環21aの曲率を増加させている。なお、屈曲部59についても、切り欠き43を利用して、円周方向に隣り合う開口窓36同士の間に1つずつ形成する。
【0088】
以上のような本例では、連結環21aの自由状態での曲率を増加させることができるため、1対の内輪19a、19bに対する連結環21aの装着作業の作業性を向上できる。
【0089】
また、本例では、屈曲部59をベンダー加工により形成しているため、開口窓36及び係止凸部37a、37bとプレス加工機とを干渉させずに、屈曲部59を形成することができる。なお、連結環の曲率は、ロール曲げ加工によって増加させることもできるが、ロール曲げ加工を行う場合には、膨出部52(
図9参照)又は係止凸部37a、37b(
図10参照)とプレス加工機との干渉が問題になるため、膨出部52を形成する以前に、ロール曲げ加工を行う必要がある。ただし、この場合には、素板に加工硬化が生じることで、切断面により構成される係止凸部の抑え面に関して、剪断面が減り、かつ、破断面が増えるといった問題が生じる。本例では、ベンダー加工により屈曲部59を形成しているため、切断面により構成される係止凸部37a、37bの抑え面38a、38b(
図13参照)に関して、シャーリング効果により剪断面40の割合を十分に大きくできる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0090】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0091】
本発明を実施する場合に、突き合わせ部を密封するためのシール部材、及び、転がり軸受装置の内部空間を密封するための1対の密封装置については、実施の形態で説明したものに限定されず、適宜変更することができる。また、本発明の転がり軸受装置は、駆動輪支持装置に限らず、従動輪支持装置を含む各種機械装置の回転支持部に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 駆動輪支持装置
2 転がり軸受装置
3 車軸管
4 ハブ輪
5 駆動軸
6 駆動輪
7 制動用回転体
8 雄ねじ部
9 外側段差部
10 内径側嵌合面部
11 内側段差部
12 ナット
13 フランジ
14 ボルト
15 外径側嵌合面部
16 回転フランジ
17 結合部材
18 外輪
19a、19b 内輪
20a、20b 転動体
21、21a 連結環
22a、22b 外輪軌道
23a、23b 内輪軌道
24a、24b 大鍔部
25a、25b 小鍔部
26a、26b 係止凹溝
27a、27b 被抑え面
28a、28b 面取り部
29a、29b 平面部
30a、30b 小径面部
31a、31b 大径面部
32a、32b シール溝
33 シールリング
34a、34b 保持器
35、35a 不連続部
36 開口窓
37a、37b 係止凸部
38a、38b 抑え面
39 ダレ面
40 剪断面
41 破断面
42 バリ
43 切り欠き
44 突き合わせ部
45 シール部材
46a、46b 密封装置
47 素板
48 第1パンチ
49 第1ダイ
50 押圧部
51 受面
52 膨出部
53 中間素材
54 第2パンチ
55 第2ダイ
56 加工部
57 打ち抜き孔
58 受面
59 屈曲部
100 転がり軸受装置
101 車軸管
102、102a ハブ輪
103 駆動軸
104 フランジ
105 駆動輪
106 制動用回転体
107 外輪
108a、108b 内輪
109a、109b 転動体
110 連結環
111a、111b 外輪軌道
112a、112b 内輪軌道
113a、113b 大鍔部
114a、114b 小鍔部
115a、115b 鍔部
116 円筒部
117a、117b 係止凹溝
118 組立体
119 ナックルスピンドル
120 嵌合面部
121 段差部