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特開2024-155580表面処理装置、整流部材及び表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155580
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】表面処理装置、整流部材及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20241024BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D21/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070414
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】391020665
【氏名又は名称】ミカドテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】寺山 孝男
(57)【要約】
【課題】表面処理の精度を向上できる表面処理装置、整流部材及び表面処理方法。
【解決手段】被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記電極と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部と、前記ハウジング内に配された整流部材とを備え、前記ハウジングは、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路を含み、前記整流部材は、該整流部材を介して前記供給流路から前記液室に供給される前記電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されており、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、
前記ハウジング内に配された電極と、
前記電極と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、
前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部と、
前記ハウジング内に配された整流部材と
を備え、
前記ハウジングは、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路を含み、
前記整流部材は、該整流部材を介して前記供給流路から前記液室に供給される前記電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されており、
前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記整流部材は、前記電解液を通過可能な複数の孔を有する第1多孔部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記整流部材は、前記電解液を通過可能な複数の孔を有する第2多孔部を備え、
前記第2多孔部は、前記第1多孔部よりも前記電解液の流動方向下流側に前記第1多孔部と対向して配置される
ことを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記整流部材は、前記ハウジングの内壁に取り付けられる支持体を備え、
前記支持体は、前記第1多孔部を支持するよう構成されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記支持体は、前記電解液の流動方向と交差する方向に伸びる長方形状を有すると共に、前記イオン伝導膜と対向する側の面に凹凸部を有し、
前記凹凸部は、前記支持体の長手方向に凹部と凸部が隣接して設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記凹凸部は、2以上の前記凹部を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記凹部の底は、前記供給流路の吐出口よりも上方に位置している
ことを特徴とする請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記凹部の底は、傾斜を有し、
前記凸部の先端から前記凹部の前記底までの高さは、流動方向上流側の高さよりも流動方向下流側の高さの方が高くなるによう構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項9】
被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記電極と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部とを備え、前記ハウジングは、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路を含み、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する表面処理装置に用いられる整流部材であって、
該整流部材を介して前記供給流路から前記液室に供給される前記電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されている
ことを特徴とする整流部材。
【請求項10】
電極と被処理物との間にイオン伝導膜を配置し、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した液室内の溶液の電気分解により前記被処理物の表面を処理する表面処理方法であって、
一の流れを複数の流れに分散可能な整流部材により、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路から前記液室に供給される前記電解液を整流する
ことを特徴とする表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置、整流部材及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に配置された固体電解質膜と、陽極と陰極との間に電圧を印加する電源部とを備え、陽極と陰極との間に電圧を印加して、電解質膜を通過した金属イオンを陰極側に析出させることにより、金属被膜を基板の表面に成膜する成膜装置が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
この成膜装置は、陽極と固体電解質膜との間に金属イオンを含む溶液を収容する溶液収容部を備えている。溶液収容部の底部には、開口が形成されており、開口を覆うように固体電解質膜が配置されている。また、溶液収容部の蓋部には、移動部が連結されている。移動部は、溶液収容部と共に固体電解質膜を基板に向かって移動させ、溶液を加圧することにより、固体電解質膜を基板の成膜領域に加圧するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-051701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の成膜装置では、溶液収容部に形成された密閉空間内に溶液が供給される際に、密閉空間の入り口に到達した溶液の流れが乱れ、密閉空間内の気体の一部が溶液の流れに巻き込まれることにより、溶液内に気泡が発生してしまう。そして、発生した気泡の一部が陽極と固体電解質膜の間に残留し、表面処理の精度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、表面処理の精度を向上できる表面処理装置、整流部材及び表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る表面処理装置は、被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記電極と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部と、前記ハウジング内に配された整流部材とを備え、前記ハウジングは、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路を含み、前記整流部材は、該整流部材を介して前記供給流路から前記液室に供給される前記電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されており、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る表面処理装置において、前記整流部材は、前記電解液を通過可能な複数の孔を有する第1多孔部を備えてもよい。
【0009】
本発明に係る表面処理装置において、前記整流部材は、前記電解液を通過可能な複数の孔を有する第2多孔部を備え、前記第2多孔部は、前記第1多孔部よりも前記電解液の流動方向下流側に前記第1多孔部と対向して配置されてもよい。
【0010】
本発明に係る表面処理装置において、前記整流部材は、前記ハウジングの内壁に取り付けられる支持体を備え、前記支持体は、前記第1多孔部を支持するよう構成されてもよい。
【0011】
本発明に係る表面処理装置において、前記支持体は、前記電解液の流動方向と交差する方向に伸びる長方形状を有すると共に、前記イオン伝導膜と対向する側の面に凹凸部を有し、前記凹凸部は、前記支持体の長手方向に凹部と凸部が隣接して設けられてもよい。
【0012】
本発明に係る表面処理装置において、前記凹凸部は、2以上の前記凹部を有してもよい。
【0013】
本発明に係る表面処理装置において、前記凹部の底は、前記供給流路の吐出口よりも上方に位置してもよい。
【0014】
本発明に係る表面処理装置において、前記凹部の底は、傾斜を有し、前記凸部の先端から前記凹部の前記底までの高さは、流動方向上流側の高さよりも流動方向下流側の高さの方が高くなるように構成されてもよい。
【0015】
本発明に係る整流部材は、被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記電極と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部とを備え、前記ハウジングは、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路を含み、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する表面処理装置に用いられる整流部材であって、該整流部材を介して前記供給流路から前記液室に供給される前記電解液一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る表面処理方法は、電極と被処理物との間にイオン伝導膜を配置し、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した液室内の溶液の電気分解により前記被処理物の表面を処理する表面処理方法であって、一の流れを複数の流れに分散可能な整流部材により、前記液室に対して電解液を供給可能な供給流路から前記液室に供給される前記電解液を整流することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面処理の精度を向上できる表面処理装置、整流部材及び表面処理方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の本実施形態に係る表面処理装置の型開き状態を示す概略図である。
図1B図1Aの領域Aを拡大した拡大断面図である。
図2】本実施形態に係る表面処理装置の型閉じ状態を示す概略図である。
図3】本実施形態に係る表面処理装置の傾斜状態を示す概略図である。
図4】本実施形態に係る整流部材を示す概略図である。
図5】本実施形態に係る支持体を示す斜視図である。
図6】本実施形態に係る支持体を示す底面図である。
図7】本実施形態に係る支持体の変形例を示す底面図である。
図8】本実施形態に係る支持体の変形例を示す底面図である。
図9】本実施形態に係る支持体の変形例を示す断面図である。
図10】本実施形態に係る支持体の変形例を示す断面図である。
図11】本実施形態に係るハウジングを底面側から見た概略図である。
図12】本実施形態に係る電解液の流れを示す模式図である。
図13】本実施形態に係る電解液の流れを示す模式図である。
図14】本実施形態に係る表面処理方法の一例を示すフローチャートである。
図15】本実施形態に係る支持体の凹凸部の変形例を示す正面図である。
図16】本実施形態に係る支持体の凹凸部の変形例を示す正面図である。
図17】本実施形態に係る支持体の凹凸部の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
[本実施形態に係る表面処理装置の全体構成]
まず、図1A及び図1Bを参照して、本発明の本実施形態に係る表面処理装置1を概説する。図1Aに示すように、本実施形態に係る表面処理装置1は、例えば、金属イオンを還元することで金属を析出させて、金属からなる被膜を被処理物Cの表面Eに形成するめっき処理装置として用いられ得る。ただし、表面処理装置1は、これに限定されるものではなく、被処理物Cの表面Eを処理することができる装置であれば、種々のものに適用可能である。
【0021】
なお、本実施形態において、被処理物Cは、金属材料などの導体であるものとして説明するが、これに限定されない。例えば、被処理物Cが、樹脂基材や、ガラス基板、シリコンウエハ-、セラミックス基板等の上に導体層が形成されている材料の場合、表面処理装置1は、導体層の表面を処理することもできる。
【0022】
表面処理装置1は、被処理物Cと対向して配置され、内部に液室(閉鎖空間、密閉空間)3を形成可能なハウジング4と、ハウジング4内に配された電極20と、電極20と被処理物Cとの間に配置されたイオン伝導膜6と、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電源部7とを備えている。また、表面処理装置1は、図1Bに示すように、ハウジング4内に配された整流部材60を備えている。
【0023】
さらに、表面処理装置1は、被処理物Cを載置可能な載置基台2と、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる移動機構5と、液室3内に電解液を供給又は排出する溶液供給部(図示せず)と、イオン伝導膜6を保持する保持治具35とを更に備えている。保持治具35は、内枠膜治具36と、内枠膜治具36に係合する外枠膜治具37とを含む。
【0024】
本実施形態において、電解液は、例えば、被処理物Cの表面Eに析出される金属をイオンの状態で含有している液体であり、含有される金属は、例えば、銅、金、銀、ニッケル等が挙げられる。電解液は、これらの金属をイオン化したものであり、公知の各種の電解液を用いることができる。なお、電解液は、ここに例示したものに限定されるものではない。
【0025】
載置基台2は、支持基台8とハウジング4との間に配置されており、被処理物Cをその表面に載置可能に構成されている。本実施形態では、表面処理装置1が、被処理物Cを嵌め込むことが可能なトレイ9を有すると共に、載置基台2がトレイ9を嵌め込むことが可能な凹部を有しているが、例えば、トレイ9を介さずに被処理物Cを載置基台2に嵌め込む構成や、被処理物Cを単に載置基台2上に載置させる構成等であってもよい。
【0026】
載置基台2及びトレイ9は、被処理物Cを載置した際に、被処理物Cに接続する電極部(図示せず)を有する。載置基台2及びトレイ9の電極部、ひいては、被処理物Cは、電源部7の負極(-極)に接続されている。これにより、被処理物Cは、表面処理装置1における陰極を構成する。
【0027】
ハウジング4は、載置基台2の鉛直方向の上方に配置されており、内部上面と内部側面とを有する液室3を構成する有底筒状(有底円筒状、有底角筒状等)に形成されている。有底筒状の開口部には、矩形状のイオン伝導膜6が取り付けられている。ハウジング4は、ハウジング4の壁面を貫通して形成され、液室3内の気体を排出可能な排出流路31と、液室3に対して電解液を供給可能な供給流路41と、ハウジング4を載置基台2に嵌合させるためのクランプ部39とを含む。
【0028】
ハウジング4の内部側面の最下部には、開口部を持つ供給流路41が形成され、供給流路41に後述する流路開閉弁40が接続される。供給流路41のハウジング4の内部側面側の端部は、吐出口42を有する。また、ハウジング4の内部側面(好ましくは、対向した内部側面)の最上部には、開口部を持つ排出流路31が形成され、排出流路31に後述する加圧機構30が接続される。
【0029】
ここで、「対向した」とは、供給流路41が、排出流路31と、ハウジング4において、ハウジング4の中心軸に対して互いに対称となる位置に配置されていることを意味する。供給流路41が排出流路31と対向して位置する構成であると、ハウジング4の液室3内への電解液及び空気の注入や排出がスムーズになる。
【0030】
ハウジング4は、排出流路31の外壁面にハウジング4の側面から突出するように加圧機構30が設けられている。さらに、ハウジング4には、供給流路41を開閉させる流路開閉弁40が設けられている。流路開閉弁40は、給排ポートを有する。ハウジング4は、上記のように載置基台2と対向配置されると共に、例えば、移動機構5によって載置基台2側へ移動された状態のときに、載置基台2との間に閉鎖空間となる液室3を形成可能に構成されている。
【0031】
加圧機構30は、排出流路31に接続されており、排出流路31を開閉する開閉弁を有する。加圧機構30は、排出流路31を開閉可能に構成されると共に、液室3内に供給された電解液を加圧可能に構成されている。具体的には、加圧機構30は、ハウジング4の壁面を貫通して形成された排出流路31の外壁面に装着され、流路開閉弁40とはハウジング4の鉛直中心に対して対向した位置(対角の位置を含む)に、ハウジング4の側面から突出するように設けられている。
【0032】
これら加圧機構30及び流路開閉弁40は、例えばハウジング4の短辺側に対向配置されている。加圧機構30は、開閉弁を閉じてから液室3内の容積を減少させて液室3内の電解液を加圧する。
【0033】
クランプ部39は、クランプ部39と載置基台2とが嵌合した状態において、載置基台2とイオン伝導膜6との間の下方空間の空気を排気(好適には真空排気)するための排気手段が設けられている。排気手段は、上記の下方空間を減圧するために開閉される開閉弁47を有する。開閉弁47は、上記の下方空間に開口すると共にクランプ部39の下方に連通する減圧流路48の外側に配置されるように設けられている。
【0034】
減圧流路48は、液室3(イオン伝導膜6の上方空間)に連通する減圧流路、流路開閉弁及びバイパス流路(いずれも図示せず)を介して接続されている。バイパス流路は、減圧用の真空ポンプ等を有する減圧ユニット(図示せず)が接続されている。このような減圧系の回路は、加圧機構30や流路開閉弁40等の溶液供給系の回路とは別回路で設けられている。
【0035】
電極20は、金属板であり、任意の金属材料(例えば、銅等)で構成されている。電極20は、ハウジング4の内部上面から吊り下げられており、電極20の底部23がイオン伝導膜6の直上に位置するように液室3内に配置されている。
【0036】
電極20は、ハウジング4を介して、電源部7の正極(+極)に接続されている。このような構成を備えることにより、電極20は、表面処理装置1における陽極を構成する。なお、電極20は、金属板に限定されず、液室3内の電解液に浸かる位置に配置され得るものであれば、種々の構成(例えば、任意形状の金属が入っている籠状部材等)、配置態様を採用可能である。
【0037】
電源部7は、陽極となる電極20と陰極となる被処理物Cとの間に電圧を印加する。電源部7は、種々の公知の構成を採用可能である。
【0038】
移動機構5は、図3に示すように、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を他方に対して接近又は離間する方向に相対移動させる。具体的には、移動機構5は、直動ロッド51を有し、直動ロッド51によってハウジング4を昇降させることにより、ハウジング4を載置基台2に対して接近又は離間させるように構成されている。
【0039】
また、移動機構5は、ハウジング4が載置基台2に対して最も離間された上昇端位置(原位置:図1A参照)と、ハウジング4及び載置基台2の間に液室3を形成すると共に、該液室3及びイオン伝導膜6の下部に載置基台2とクランプ部39とが嵌合して形成される下方空間の減圧を実行する減圧位置と、該減圧位置よりも更にハウジング4を載置基台2に接近させて表面処理を実行する処理位置(図2参照)との少なくとも3か所において、ハウジング4を停止させることが可能に構成されている。
【0040】
なお、本実施形態において、移動機構5は、ハウジング4を載置基台2に対して接近又は離間させるが、これに限定されない。また、移動機構5は、上述した直動ロッド51を備える構成に限定されず、ハウジング4を載置基台2に対して接近又は離間させることが可能な構成であれば、任意の構成を採用することが可能である。
【0041】
また、本実施形態に係る表面処理装置1は、図3に示すように、載置基台2及びハウジング4を所定の角度(例えば、2°)に傾斜させるための傾斜機構50が設けられている。本実施形態において、傾斜機構50は、直動ロッド51によって支持基台8の側縁部の一部を昇降させることにより、載置基台2及びハウジング4を傾斜させるよう構成されている。
【0042】
この傾斜機構50により、ハウジング4の液室3を含む流路系全体を所定の角度で傾斜させることで、例えば、電解液を液室3内に注入する際の残留空気をより確実に排除したり、電解液を液室3内から排出する際の残留溶液をより確実に排水したりすることが可能である。
【0043】
なお、傾斜機構50により載置基台2及びハウジング4を傾斜させると、例えば、載置基台2の上面が、供給流路41の開口部近傍側を最下部として鉛直方向に対して傾斜している状態となる。載置基台2がハウジング4のクランプ部39と嵌合したときに、供給流路41の開口部の真下になる部分が僅かに低くなる。したがって、液室3内の電解液が供給流路41の開口部付近に集まり、排液しやすくなる。このため、排液能力を高め、電解液の漏洩リスクを低減し、被処理物Cが電解液に完全に曝露されてしまうリスクが低減される。
【0044】
具体的には、傾斜機構50によって、ハウジング4は全体が傾斜すると共に、載置基台2は、ハウジング4の傾斜方向と同じ方向に傾斜する。より詳細には、据付床面に対し、流路系全体、すなわち、支持基台8、載置基台2、ハウジング4、加圧機構30、流路開閉弁40及び移動機構5等が所定の角度だけ同じ方向に傾斜する。
【0045】
被処理物Cは、トレイ9(又は載置基台2の凹部)に嵌め込まれているため、傾斜機構50によって傾斜した場合であっても、位置がずれてしまう等の問題は生じない。このように、傾斜機構50の傾斜によって排液力を増すことができるので、排液能力をさらに向上させることができる。
【0046】
イオン伝導膜6は、数μm~数百μm(例えば、5~450μm)の膜厚で形成された枚葉状の薄膜部材である。イオン伝導膜6は、例えば、多孔質膜、固体電解質膜等が挙げられ、ポリエチレンや、ポリプロピレン、炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂を用いることができる。なお、イオン伝導膜6は、液室3内に供給された電解液に接触することで、電解液中の金属イオンを含浸し、電源部7により電圧を印加した際に金属イオン由来の金属を被処理物Cの表面Eに析出可能なものであれば、これらに限定されない。
【0047】
イオン伝導膜6は、図1Aに示すように、保持治具35の内枠膜治具36及び外枠膜治具37の間に挟持されている。イオン伝導膜6は、内枠膜治具36及び外枠膜治具37で挟持することにより、均一に張られた状態で保持されている。内枠膜治具36及び外枠膜治具37は、ハウジング4の下部に取り付けられており、イオン伝導膜6は、液室3内に配置された電極20の直下に配置されている。なお、イオン伝導膜6の取り付けは、上述した構成に限定されず、イオン伝導膜6を弛みなく張ることができる構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0048】
整流部材60は、図1B及び図4に示すように、電解液を通過可能な複数の孔を有する第1多孔部62及び第2多孔部64と、ハウジング4の内壁に取り付けられる支持体66とを備え、整流部材60を介して供給流路41から液室3に供給される電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されている。本実施形態において、「整流」は、供給流路41から液室3に供給される電解液の流れの乱れを抑制することを意味する。
【0049】
なお、本実施形態において、「電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流する」には、供給流路41から液室3に供給される二つ以上の電解液の流れのうちの少なくとも一つの流れを複数の流れに分散して整流することも含まれる。
【0050】
本実施形態において、第1多孔部62及び第2多孔部64は、網状に形成されたメッシュ部材であり、網目から電解液を通過させることができる。第2多孔部64は、図1Bに示すように、第1多孔部62よりも電解液の流動方向下流側に第1多孔部62と対向して配置される。なお、第1多孔部62及び第2多孔部64の間隔は、数mm~十数mm程度が好ましい。
【0051】
第1多孔部62及び第2多孔部64は、流動方向と交差する方向を長手方向、ハウジング4の高さ方向を短手方向とする長方形状を有する。本実施形態において、第1多孔部62及び第2多孔部64の長手方向の長さは、図11に示すように、吐出口42の幅と同程度の長さであるが、これに限定されず、吐出口42の幅よりも長くてもよい。また、第1多孔部62及び第2多孔部64は、長方形状の短手方向の長さ(高さ)が吐出口42の高さ以上の長さを有する。
【0052】
第1多孔部62及び第2多孔部64としては、例えば、ステンレスメッシュ及びチタンメッシュ等の金属メッシュや、ポリエステルメッシュ等の合成繊維メッシュ等を採用可能である。なお、金属メッシュを第1多孔部62及び第2多孔部64に採用する場合、金属メッシュに絶縁されていることが好ましい。また、液室3内への電解液の供給速度が低下することを防ぐために、第1多孔部62(第2多孔部64)の開口部の合計面積が供給流路41の断面積よりも大きいことが好ましい。
【0053】
本実施形態における整流部材60は、厚さ数十μm~数百μmの枚葉状のメッシュ部材を、支持体66を間に挟むようにして曲げることで、互いに対向する第1多孔部62及び第2多孔部64を構成しているが、これに限定されない。例えば、第1多孔部62及び第2多孔部64は、別々のメッシュ部材でもよい。また、別々のメッシュ部材の場合、第1多孔部62及び第2多孔部64は、互いに異なる厚みやメッシュ数を有してもよい。
【0054】
また、本実施形態における整流部材60は、支持体66にメッシュ部材を固定するための固定板65を備えるが、これに限定されず、整流部材60は、固定板65を備えなくてもよい。整流部材60は、固定板65を備えることにより、メッシュ部材の変形を防ぐことができる。
【0055】
支持体66は、例えば、ステンレス鋼やチタン、耐薬品性及び耐熱性を有する樹脂等で構成されており、図4に示すように、第1多孔部62及び第2多孔部64を支持する。また、支持体66は、図5図9及び図11に示すように、電解液の流動方向と交差する方向に伸びる長方形状を有すると共に、イオン伝導膜6と対向する側の面に凹凸部68を有し、凹凸部68は、支持体66の長手方向に凹部68aと凸部68bが隣接して設けられている。
【0056】
支持体66の長手方向の長さは、第1多孔部62及び第2多孔部64と同程度の長さであることが好ましい。支持体66の厚さは、第1多孔部62及び第2多孔部64の間隔に応じて任意の厚さが採用される。例えば、第1多孔部62及び第2多孔部64の間隔を約3mmとする場合、支持体66の厚さは、約3mmであり、第1多孔部62及び第2多孔部64の間隔を約6mmとする場合、支持体66の厚さは、約6mmである。
【0057】
凹凸部68は、図5及び図6に示すように、2以上の凹部68aを有する。凹部68aの数は、第1多孔部62に加わる流体圧力に応じて任意の数を採用可能である。また、凹部68aの幅及び高さは、複数の凹部68aの合計断面積が供給流路41の断面積以上であれば、種々の任意の構成を採用可能である。凸部68bの幅及び高さは、第1多孔部62の変形を防ぐことが可能であれば、種々の任意の構成を採用可能である。なお、凹部68a及び凸部68bの間隔は、図6に示すように等間隔でもよいし、例えば、中心部の間隔が密で両端部の間隔が粗のような不等間隔でもよい。
【0058】
凸部68bの平面視における形状は、図6に示すように、四角形状でもよいし、図7に示すように、角丸形状でもよい。また、凸部68bの形状は、円形や四角形以外の多角形であってもよい。さらに、凸部68bの平面視における形状は、図6に示すように、全ての凸部68bの形状が同じであってもよいし、各凸部68bの形状が異なっていてもよい。
【0059】
例えば、図8に示すように、支持体66の長手方向の両端部に配置された凸部68bの形状のみが台形に形成されてもよい。また、全ての凸部68bが吐出口42側から液室3側に向かって広がる放射状や、逆放射状に形成及び配置されてもよい。
【0060】
凹部68aの底は、図1B及び図11に示すように、供給流路41の吐出口42よりも上方に位置していることが好ましい。本実施形態において、凹部68aの底は、凹部68aのイオン伝導膜6と対向する側の面である。また、凹部68aの底は、平坦に構成されてもよいし、傾斜を有してもよい。具体的には、凸部68bの先端から凹部68aの底までの高さは、図9に示すように、流動方向上流側の高さh1よりも流動方向下流側の高さh2の方が高くなるように構成されてもよい。また、凸部68bの先端から凹部68aの底までの高さは、図10に示すように、流動方向上流側の高さh1よりも流動方向下流側の高さh2の方が低くなるように構成されてもよい。
【0061】
また、整流部材60は、イオン伝導膜6の一部を、ハウジング4側から覆う板状部材(電解質膜保護板69)を備えることが好ましい。このような電解質膜保護板69を供給流路41の吐出口42の下方側に位置するように取り付けることにより、供給流路41を介して電解液が注入・排出される際の流速増大に起因する局所的減圧効果による吐出口42下方に位置するイオン伝導膜6の浮き上がりを効果的に防止することができ、繰り返し使用されるイオン伝導膜6の破れ等の不具合を防止することができる。
【0062】
このような構成を備える整流部材60は、図12及び図13に示すように、外部の溶液供給部から供給流路41を介して液室3内に供給される電解液の流れを供給流路41の吐出口42よりも流動方向下流で整流する。なお、図12及び図13中の矢印は、供給流路41及び液室3内での電解液の流れを示している。
【0063】
具体的には、まず、供給流路41から流出した電解液はテーパ状に広がる吐出口42により流れの方向が広がり、第1多孔部62に到達する。第1多孔部62は、電解液が該第1多孔部62を通過する際に、流れの乱れを平均化(乱れを細分化)する。これにより、電解液の流れが均一になり、流れの乱れが抑えられる。
【0064】
そして、第2多孔部64は、電解液が該第2多孔部64を通過する際に、流れの乱れをさらに平均化する。これにより、電解液の流速分布は、より一定になる。また、第2多孔部64を通過した電解液の流れは、図13に示すように、平面視において、山形等になる。これらの作用により、液室3内に電解液が供給される際に、液室3内に残留している気体が電解液の流れに巻き込まれにくくなり、電解液内に発生した気泡の一部が電極20とイオン伝導膜6の間に残留するのを抑制することができる。
【0065】
以上の構成を備える表面処理装置1は、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加することで、イオン伝導膜6を介した電気分解により被処理物Cの表面Eを処理する。
【0066】
[本実施形態に係る表面処理方法の説明]
本実施形態に係る表面処理装置1を用いた表面処理方法の一例について図14を参照して説明する。図14は、本実施形態に係る表面処理装置1を用いた表面処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る表面処理方法は、概略的には電極20と被処理物Cとの間にイオン伝導膜6を配置し、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加することで、イオン伝導膜6を介した液室3内の溶液の電気分解により被処理物Cの表面Eを処理する表面処理方法であって、一の流れを複数の流れに分散可能な整流部材60により、液室3に対して電解液を供給可能な供給流路41から液室3に供給される電解液を整流する。
【0067】
また、本実施形態に係る表面処理方法は、ハウジング4を載置基台2に接近させる接近工程と、イオン伝導膜6と被処理物Cの間の空間(下方空間)を減圧する減圧工程と、イオン伝導膜6と被処理物Cの表面Eを接触させる当接工程と、液室3内を加圧する加圧工程と、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電圧印加工程と、ハウジング4を載置基台2から離間させる離間工程とを備える。
【0068】
また、表面処理方法は、液室3内に溶液を注入する給液工程と、液室3内の溶液を排出する排液工程とを更に備える。以下この方法について詳述する。なお、本実施形態において、溶液は、電解液であるものとして説明するが、これに限定されない。
【0069】
まず、表面処理の前段階として、ハウジング4が載置基台2と離間した状態(原位置:図1A参照)において、ユーザによって載置基台2上に、被処理物Cを載置したトレイ9がセットされ、ハウジング4に、イオン伝導膜6がセットされる。これにより表面処理装置1の準備が完了する。
【0070】
準備完了後、移動機構5によって、ハウジング4を上記の減圧位置まで下降させると共に、ハウジング4のクランプ部39と、載置基台2とを嵌合させる(図14のS1:接近工程)。このとき、クランプ部39と載置基台2との嵌合位置は、イオン伝導膜6が被処理物Cの表面Eと可能な限り近づいた状態となる位置に設定される。被処理物Cは、載置基台2とイオン伝導膜6との間に形成される下方空間内に密閉され、液室3とは隔てられている。
【0071】
次に、ハウジング4のクランプ部39と、被処理物Cを載置した載置基台2とを嵌合させた状態で、クランプ部39に設けられた開閉弁47を開状態にすると共に、上述した減圧系の流路開閉弁を開状態にして、減圧流路48と図示しない減圧流路をバイパス流路を介して連通させ、液室3及び下方空間を減圧する(図14のS2:減圧工程)。
【0072】
そして、減圧状態を継続したまま、ハウジング4のクランプ部39を載置基台2に完全嵌合させるべく、移動機構5によってハウジング4を上述の処理位置(図2参照)まで下降させ、イオン伝導膜6を被処理物Cの表面Eに接触させる(図14のS3:膜当接工程)。次に、傾斜機構50によって、図3に示すように、載置基台2及びハウジング4を、例えば、排出流路31側が傾斜上方となるように所定の角度で傾斜させる。
【0073】
その後、載置基台2及びハウジング4を傾斜させた状態で、外部の溶液供給部から供給流路41を介して電解液を液室3内に注入する(図14のS4:給液工程)。この際に、整流部材60は、液室3に供給される電解液の流れを整流する。具体的には、整流部材60は、第1多孔部62及び第2多孔部64が電解液の流れの乱れを細分化し、支持体66が電解液の平面視における流動方向をコントロールする。
【0074】
そして、液室3の内部を電解液で満たしていくと、液室3の内部に残留している空気は、加圧機構30の接続流路である排出流路31から、溶液供給部に排気される。電解液の注入をさらに続けると、液室3の内部は常圧の電解液で完全に満たされる。
【0075】
次に、ハウジング4の外部側面に設けられた加圧機構30によって、液室3内の電解液を加圧する(図14のS5:加圧工程)。その後、液室3内の電解液が加圧されている状態で、電源部7によって、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する(図14のS6:電圧印加工程)。これにより、被処理物Cの表面Eの処理部分に、金属イオンを析出させて金属の被膜を形成する表面処理を実行する。
【0076】
なお、ハウジング4に液室3の内部の圧力を計測可能な圧力センサを設置し、この計測値を基に、加圧機構30による作動空気圧力を制御すれば、電解液を所望の圧力に加圧制御することが可能である。この状態を所定の時間保持し、所定の電圧印加時間が経過すれば、表面処理が完了する。
【0077】
表面処理完了後、ハウジング4に開口部を有する供給流路41から液室3内の電解液を排出する(図14のS7:排液工程)。具体的には、流路開閉弁40と加圧機構30とを開状態にし、加圧機構30から低圧の空気を送気して、流路開閉弁40の給排ポートから電解液を排液する。
【0078】
排液完了後、傾斜機構50による傾斜状態を解除し、移動機構5によって、ハウジング4を原位置まで上昇させることで、ハウジング4を載置基台2から離間する(図14のS8:離間工程)。ハウジング4が原位置に移動した後、被処理物Cが載置されたトレイ9を載置基台2から取り出す。以上の工程により、本実施形態に係る表面処理装置1による一連の表面処理方法が実行される。
【0079】
[本実施形態に係る表面処理装置、整流部材及び表面処理方法の利点]
以上説明したように、本実施形態に係る表面処理装置1は、被処理物Cと対向して配置され、内部に液室3を形成可能なハウジング4と、ハウジング4内に配された電極20と、電極20と被処理物Cとの間に配置されたイオン伝導膜6と、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電源部7と、ハウジング4内に配された整流部材60とを備え、ハウジング4は、液室3に対して電解液を供給可能な供給流路41を含み、整流部材60は、該整流部材60を介して供給流路41から液室3に供給される電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流するよう構成されており、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加することで、イオン伝導膜6を介した電気分解により被処理物Cの表面Eを処理する。
【0080】
そして、本実施形態に係る表面処理装置1は、このような構成を備えることにより、液室3内に電解液が供給される際に、電解液の流れの乱れが抑えられ、液室3内の気体が電解液の流れに巻き込まれずに液室3外に抜けやすくなる。これにより、電解液内に気泡が発生しにくくなるため、電極20とイオン伝導膜6の間に気泡が残留しにくくなり、表面処理の精度を向上することができるという利点を有している。
【0081】
また、本実施形態に係る表面処理装置1において、整流部材60は、電解液を通過可能な複数の孔を有する第1多孔部62を備える。このような構成を備えることにより、電解液の流れが均一になり、流れの乱れが抑えられることで気泡の残留が抑制され、より表面処理の精度を向上することができるという利点を有している。
【0082】
さらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、整流部材60は、電解液を通過可能な複数の孔を有する第2多孔部64を備え、第2多孔部64は、第1多孔部62よりも電解液の流動方向下流側に第1多孔部62と対向して配置される。このような構成を備えることにより、第1多孔部62を通過した電解液の流れがより均一化され、流れの乱れがより抑えられるため、さらに表面処理の精度を向上することができるという利点を有している。
【0083】
またさらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、整流部材60は、ハウジング4の内壁に取り付けられる支持体66を備え、支持体66は、第1多孔部62を支持するよう構成されている。このような構成を備えることにより、第1多孔部62が補強され、第1多孔部62が電解液の流れにより変形しにくくなり、効果を発揮しやすくなるという利点を有している。
【0084】
また、本実施形態に係る表面処理装置1において、支持体66は、電解液の流動方向と交差する方向に伸びる長方形状を有すると共に、イオン伝導膜6と対向する側の面に凹凸部68を有し、凹凸部68は、支持体66の長手方向に凹部68aと凸部68bが隣接して設けられている。このような構成を備えることにより、液室3内での電解液の平面視における流動方向をコントロールすることができるという利点がある。また、凸部68bにより、電解液の圧力による第1多孔部62の変形を抑制できるという利点を有している。
【0085】
さらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、凹凸部68は、2以上の凹部68aを有する。このような構成を備えることにより、液室3内での電解液の平面視における流動方向をより細かくコントロールすることができるという利点がある。
【0086】
またさらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、凹部68aの底は、供給流路41の吐出口42よりも上方に位置している。このような構成を備えることにより、電解液がより多く第1多孔部62及び第2多孔部64を通過するようになり、電解液の流量を損なうことなく電解液を液室3内に供給することができるという利点がある。
【0087】
また、本実施形態に係る表面処理装置1において、凹部68aの底は、傾斜を有し、凸部68bの先端から凹部68aの底までの高さは、流動方向上流側の高さh1よりも流動方向下流側の高さh2の方が高くなるように構成されている。このような構成を備えることにより、整流部材60を通過する電解液が高さを持った流れとなり、電解液が緩やかに液室3内に入るため、さらに電解液の流れの乱れが抑えられ、より表面処理の精度を向上することができるという利点を有している。また、傾斜を設けることにより、気泡の巻き込みが発生しにくくなるという利点を有している。
【0088】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上述した実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0089】
例えば、本実施形態において、整流部材60は、電解液を通過可能な複数の孔を有する第1多孔部62を備えるものとして説明したが、これに限定されない。整流部材60は、供給流路41から液室3に供給される電解液の一の流れを複数の流れに分散して整流することができる構成であれば、第1多孔部62を備えなくてもよい。例えば、整流部材60は、ワイヤーブラシや、マイクロピラー、複数のフィン、不織布等でもよい。
【0090】
本実施形態において、整流部材60は、電解液を通過可能な複数の孔を有する第2多孔部64を備え、第2多孔部64は、第1多孔部62よりも電解液の流動方向下流側に第1多孔部62と対向して配置されるものとして説明したが、これに限定されない。整流部材60は、第2多孔部64を備えなくてもよい。また、整流部材60は、第2多孔部64に代えて、第1多孔部62とワイヤーブラシや、マイクロピラー、複数のフィン、不織布等を備えてもよい。
【0091】
本実施形態において、整流部材60は、ハウジング4の内壁に取り付けられる支持体66を備え、支持体66は、第1多孔部62を支持するよう構成されているものとして説明したが、これに限定されない。整流部材60は、支持体66を備えなくてもよい。
【0092】
本実施形態において、支持体66は、電解液の流動方向と交差する方向に伸びる長方形状を有すると共に、イオン伝導膜6と対向する側の面に凹凸部68を有し、凹凸部68は、支持体66の長手方向に凹部68aと凸部68bが隣接して設けられているものとして説明したが、これに限定されない。支持体66は、凹凸部68を有さなくてもよい。
【0093】
本実施形態において、凹凸部68は、2以上の凹部68aを有するものとして説明したが、これに限定されず、凹凸部68は、1つの凹部68aを有してもよい。
【0094】
本実施形態において、凹部68aの底は、供給流路41の吐出口42よりも上方に位置しているものとして説明したが、これに限定されず、凹部68aの底は、供給流路41の吐出口42と同じ高さに位置してもよい。
【0095】
本実施形態において、表面処理装置1は、傾斜機構50が設けられているものとして説明したが、これに限定されず、表面処理装置1は、傾斜機構50が設けられていなくてもよい。
【0096】
本実施形態において、第1多孔部62及び第2多孔部64は、網状に形成されたメッシュ部材であるものとして説明したが、これに限定されない。第1多孔部62及び第2多孔部64は、電解液の圧力損失が小さい構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0097】
本実施形態において、整流部材60の第1多孔部62及び第2多孔部64と支持体66は、別部材で構成されているものとして説明したが、これに限定されず、第1多孔部62及び第2多孔部64と支持体66は、一体に構成されてもよい。
【0098】
本実施形態において、凹凸部68は、凹部68a及び凸部68bの正面視における形状が櫛歯状であることを前提として説明したが、これに限定されず、種々の任意の構成を採用可能である。例えば、凹凸部68は、図15に示すように、凹部68a及び凸部68bが台形状であってもよい。また、凹凸部68は、図16に示すように、凹部68a及び凸部68bが波状であってもよい。さらに、凹凸部68は、図17に示すように、三角形状であってもよい。
【0099】
本実施形態において、供給流路41から液室3に供給される電解液の流れは、一つの流れであることを前提として説明したが、これに限定されず、二つ以上の流れであってもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 表面処理装置
2 載置基台
3 液室
4 ハウジング
5 移動機構
6 イオン伝導膜
7 電源部
8 支持基台
9 トレイ
10 載置基台側排液流路
10a 端部
20 電極
23 底部
30 加圧機構
31 排出流路
35 保持治具
36 内枠膜治具
37 外枠膜治具
39 クランプ部
40 流路開閉弁
41 供給流路
42 吐出口
47 開閉弁
48 減圧流路
50 傾斜機構
50a 直動ロッド
51 直動ロッド
60 整流部材
62 第1多孔部
64 第2多孔部
65 固定板
66 支持部材
68 凹凸部
68a 凹部
68b 凸部
69 電解質膜保護板
C 被処理物
E 表面
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17