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特開2024-155601電動車両の制御方法、及び電動車両の制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155601
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】電動車両の制御方法、及び電動車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241024BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070452
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 真人
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CB02
5H125EE42
5H125EE52
5H125EE66
(57)【要約】
【課題】自車両と先行車両との車間距離に基づいて自車両の制動トルクを制御する場合において、ドライバーが意図しない制動トルクの低下を抑制する電動車両の制御方法、及び電動車両の制御システムを提供する。
【解決手段】自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離が長くなるほど高くなる制動トルクとなる下限トルクを算出し、アクセル開度に基づいて生成される基本トルク指令値が下限トルクよりも高い場合に基本トルク指令値をモータトルク指令値に設定してモータトルク指令値に基づいて駆動モータを制御するとともに基本トルク指令値が下限トルクと一致したときのトルクをモータトルク指令値の前回値として保持し、下限トルクの現在値がモータトルク指令値の前回値よりも高い場合に、基本トルク指令値の現在値及びモータトルク指令値の前回値のうち値が高い方をモータトルク指令値の現在値として設定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度に基づいて基本トルク指令値を生成するとともに前記アクセル開度が減少するときの前記基本トルク指令値が自車両の駆動モータに対する制動トルクとなる電動車両の制御方法において、
前記制動トルクであって、前記自車両と前記自車両の前方を走行する先行車両との車間距離が長くなるほど、又は前記車間距離を前記自車両の車速で除算して得られる除算値が高くなるほど高くなる下限トルクを算出し、
前記基本トルク指令値が前記下限トルクよりも高い場合に前記基本トルク指令値をモータトルク指令値に設定して前記モータトルク指令値に基づいて前記駆動モータを制御するとともに前記基本トルク指令値が前記下限トルクと一致したときのトルクを前記モータトルク指令値の前回値として保持し、
前記下限トルクの現在値が前記モータトルク指令値の前回値以下の場合に、前記基本トルク指令値の現在値及び前記下限トルクの現在値のうち値が高い方を前記モータトルク指令値の現在値として設定し、
前記下限トルクの現在値が前記モータトルク指令値の前回値よりも高い場合に、前記基本トルク指令値の現在値及び前記モータトルク指令値の前回値のうち値が高い方を前記モータトルク指令値の現在値として設定する電動車両の制御方法。
【請求項2】
前記車間距離が所定の閾値以上のときにゼロであり、前記車間距離が前記閾値よりも低くなるとゼロよりも低くなるとともに前記車間距離が低くなるほど単調に低下する補正トルクを前記基本トルク指令値に加算する請求項1に記載の電動車両の制御方法。
【請求項3】
アクセル開度に基づいて基本トルク指令値を生成するとともに前記アクセル開度が減少するときの前記基本トルク指令値が自車両の駆動モータに対する制動トルクとなる電動車両の制御システムにおいて、
前記制動トルクであって、前記自車両と前記自車両の前方を走行する先行車両との車間距離が長くなるほど、又は前記車間距離を前記自車両の車速で除算して得られる除算値が高くなるほど高くなる下限トルクを算出する下限トルク算出部と、
前記基本トルク指令値が前記下限トルクよりも高い場合に前記基本トルク指令値をモータトルク指令値に設定して前記モータトルク指令値に基づいて前記駆動モータを制御するとともに前記基本トルク指令値が前記下限トルクと一致したときのトルクを前記モータトルク指令値の前回値として保持するモータトルク指令値設定部と、を含み、
前記モータトルク指令値設定部は、
前記下限トルクの現在値が前記モータトルク指令値の前回値以下の場合に、前記基本トルク指令値の現在値及び前記下限トルクの現在値のうち値が高い方を前記モータトルク指令値の現在値として設定し、
前記下限トルクの現在値が前記モータトルク指令値の前回値よりも高い場合に、前記基本トルク指令値の現在値及び前記モータトルク指令値の前回値のうち値が高い方を前記モータトルク指令値の現在値として設定する電動車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御方法、及び電動車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクセルペダルの操作のみで自車両の加減速を行う所謂1ペダルモードで電動車両10を走行させる技術が知られている。この技術において前方に先行車両がおらず一定速度で走行したい場合にもアクセルペダルを放すと減速しすぎてしまい違和感があった。同様にアクセルを緩めると、ドライバーの意図以上に減速しすぎて車速が低下してしまい、ドライバーが再加速することで燃費が悪化することがあった。これに対応して、電動車両において自車両と先行車両との車間距離に基づいて自車両の制動トルクを制御する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術により、車間距離が長い場合は制動トルクが弱くなるため、交通状況に適した制動トルクとなり、ドライバーのアクセル操作の負担を軽減し、意図しない加減速による燃費の悪化を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6625039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、自車両が減速中に先行車両との車間距離が長くなる、又は先行車両が自車両の走行車線から離れた場合、ドライバーがアクセルペダルを用いた減速を行っているにもかかわらず制動トルクが小さくなり違和感が発生する。
【0005】
本発明は、自車両と先行車両との車間距離に基づいて自車両の制動トルクを制御する場合において、ドライバーが意図しない制動トルクの低下を抑制する電動車両の制御方法、及び電動車両の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電動車両の制御方法は、アクセル開度に基づいて基本トルク指令値を生成するとともにアクセル開度が減少するときの基本トルク指令値が自車両の駆動モータに対する制動トルクとなる電動車両の制御方法である。この制御方法において、制動トルクであって、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離が長くなるほど、又は車間距離を自車両の車速で除算して得られる除算値が高くなるほど高くなる下限トルクを算出し、基本トルク指令値が下限トルクよりも高い場合に基本トルク指令値をモータトルク指令値に設定してモータトルク指令値に基づいて駆動モータを制御するとともに基本トルク指令値が下限トルクと一致したときのトルクをモータトルク指令値の前回値として保持する。そして、下限トルクの現在値がモータトルク指令値の前回値以下の場合に、基本トルク指令値の現在値及び下限トルクの現在値のうち値が高い方をモータトルク指令値の現在値として設定する。また、下限トルクの現在値がモータトルク指令値の前回値よりも高い場合に、基本トルク指令値の現在値及びモータトルク指令値の前回値のうち値が高い方をモータトルク指令値の現在値として設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、下限トルクの現在値に関わらず基本トルク指令値の現在値がモータトルク指令値の前回値を超えるまで、モータトルク指令値、即ち制動トルクはモータトルク指令値の前回値による制動トルク以下となるので、ドライバーが意図しない制動トルクの低下を抑制できる。また、下限トルクの現在値がモータトルク指令値の前回値よりも低くなると、モータトルク指令値の現在値は下限トルクの現在値に設定されるので、車間距離が短くなる場合に制動トルクを増加させ、ドライバーのアクセルペダルの操作量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態の電動車両の制御方法が適用される電動車両システムの基本構成を説明するブロック図である。
図2図2は、電動車両の駆動制御の主要な処理を説明するフローチャートである。
図3図3は、アクセルモードにおけるアクセル開度-トルクテーブルの一例を示す図である。
図4図4は、1ペダルモードにおけるアクセル開度-トルクテーブルの一例を示す図である。
図5図5は、モータトルク指令値算出処理を説明するフローチャートである。
図6図6は、アクセル開度に基づいて算出される基本トルク指令値に加算される補正トルクに関して、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離との関係を示す補正トルクテーブルである。
図7図7は、アクセル開度に基づいて算出される基本トルク指令値と比較される下限トルクに関して、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離との関係を示す下限トルクテーブルである。
図8図8は、モータトルク指令値算出処理のロジックを示す図である。
図9図9は、比較例のモータトルク指令値の算出の流れを説明するための図である。
図10図10は、比較例で適用される基本トルク指令値と、第3の補正トルクと、モータトルク指令値と、アクセル開度との関係を示す図であって、図10(a)は第3の補正トルクと車間距離との関係、図10(b)は車速と基本トルク指令値を軸とする座標空間において、アクセル開度をゼロとしたときの基本トルク指令値の特性曲線に比較例の第3の補正トルクを適用したときのモータトルク指令値の分布、図10(c)は、アクセル開度と基本トルク指令値を軸とする座標空間において図10(b)に示す車速(V1)を一定としてアクセル開度を変化させた場合の基本トルク指令値の特性曲線と基本トルク指令値に対して比較例の第3の補正トルクを適用したときのモータトルク指令値の分布を示す。
図11図11は、本実施形態で適用され基本トルク指令値と、補正トルクと、モータトルク指令値と、アクセル開度との関係を示す図であって、図11(a)は補正トルクと車間距離との関係、図11(b)は車速Vと基本トルク指令値を軸とする座標空間において、アクセル開度をゼロとしたときの基本トルク指令値の特性曲線に本実施形態の補正トルクと下限トルクを適用したときのモータトルク指令値の分布、図11(c)は、アクセル開度と基本トルク指令値を軸とする座標空間において図11(b)に示す車速(V1)を一定としてアクセル開度を変化させた場合の基本トルク指令値の特性曲線と基本トルク指令値に対して本実施形態の補正トルクと下限トルクを適用したときのモータトルク指令値の分布を示す。
図12図12は、本実施形態の電動車両の制御方法(制御システム)により電動車両のアクセル開度を変化させたときに車間距離が変化する場合の、モータトルク指令値及び車速のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<電動車両10のシステム構成>
図1は、本実施形態の電動車両10の制御装置を備えた電動車両10のシステム構成を示すブロック図である。電動車両10とは、車両の駆動源の一部又は全部としてモータ18を備え、モータ18の駆動力により走行可能な自動車のことであり、電気自動車や、ハイブリッド自動車が含まれる。なお、図1に示す電動車両10はモータ18を一つ搭載しているが、本実施形態はモータ18を複数搭載した構成にも適用できる。
【0011】
モータコントローラ12(制御装置)には、アクセル開度APO、車速V、モータ18の回転子位相α、モータ18の三相交流電流iu、iv、iw等の車両状態を示す信号がデジタル信号として入力される。モータコントローラ12は、電動車両10に搭載されたレーダー又はナビゲーション装置から、自車両と、自車両と同じ走行車線を走る車両であって自車両よりも先行して走行する先行車両と、の車間距離Dの情報が入力される。モータコントローラ12は、入力された信号に基づいてモータ18を制御するためのPWM信号tu、tv、twを生成する。また、生成したPWM信号tu、tv、twに応じてインバータ16の駆動信号を生成する。
【0012】
また、モータコントローラ12には、運転者の操作に基づいて、電動車両10の走行モードを決定するモードスイッチ(モードSW)からの信号が入力される。走行モードとしては、アクセル操作を解除しても制動トルクがほとんど発生しないアクセルモードと、アクセル操作を解除したときに強力な制動トルクとなる回生トルク(回生電流)を発生させて電動車両10を停止可能な1ペダルモードがある。
【0013】
インバータ16は、相毎に備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS-FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ14から供給される直流の電流を交流に変換し、モータ18に所望の電流を流す。
【0014】
モータ18(三相交流モータ)は、インバータ16から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機20及び駆動軸22を介して、左右の駆動輪24a,24bに駆動力を伝達する。また、モータ18は、車両の走行時に駆動輪24a,24bに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ16は、モータ18の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ14に供給する。
【0015】
電流センサ26は、モータ18に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
【0016】
回転センサ28は、例えばレゾルバやエンコーダであり、モータ18の回転子位相αを検出する。
【0017】
<システム全体の制御フロー>
図2は、モータコントローラ12によって行われる処理の流れを示すフローチャートである。ステップS201からステップS204に係る処理は、車両システムが起動している間、一定間隔で常時実行される。
【0018】
ステップS201では、車両状態を示す信号(車両情報)がモータコントローラ12に入力される。ここでは、車速V(km/h)、アクセル開度APO(%)、モータ18の回転子位相α(rad)が入力される。また、モータ18の回転数N(rpm)、モータ18に流れる三相交流電流iu、iv、iw、及びバッテリ14の直流電圧値Vdc(V)が入力される。
【0019】
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得される。又は、モータコントローラ12は、モータ角速度検出値ωmにタイヤ動半径rを乗算し、ファイナルギヤのギヤ比で除算することにより車速V(m/s)を求め、3600/1000を乗算することで単位変換して、車速V(km/h)を求める。
【0020】
アクセル開度APO(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得されるか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得される。
【0021】
モータ18の回転子位相α(rad)は、回転センサ28から取得される。モータ18の機械的な角速度であるモータ角速度検出値ωmは、回転子角速度ω(電気角)をモータ18の極対数pで除算して求められる。モータ18の回転数N(rpm)は、求めたモータ角速度検出値ωmに60/(2π)を乗算することによって求められる。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求められる。
【0022】
モータ18に流れる三相交流電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ26から取得される。
【0023】
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリ14とインバータ16間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)により検出する。なお、直流電圧値Vdc(V)は、バッテリコントローラ(不図示)から送信される電源電圧値に係る信号から検出するようにしてもよい。
【0024】
ステップS202では、モータコントローラ12がモータトルク指令値Tmf*を設定する。
【0025】
走行モードがアクセルモードの場合において、モータコントローラ12は、ステップS201で入力されたアクセル開度APO及び回転数N(車速Vでもよい)に基づいて、図3に示すアクセル開度APO-トルクテーブルを参照することにより、ドライバーが要求する基本トルク指令値Tm1を算出し、当該基本トルク指令値Tm1をモータトルク指令値Tmf*として設定する。
【0026】
走行モードが1ペダルモードの場合において、モータコントローラ12は、ステップS201で入力されたアクセル開度APO及び回転数N(車速Vでもよい)に基づいて、図4に示すアクセル開度-トルクテーブルを参照することにより、ドライバーが要求する基本トルク指令値Tm1を算出し、後述のモータトルク指令値算出処理を実行することでモータトルク指令値Tmf*を設定する。ただし、アクセル開度-トルクテーブルは一例であり、図3図4に示すものに限定されるものではない。
【0027】
ステップS203では、モータコントローラ12がステップS202で算出したモータトルク指令値Tmf*、モータ角速度検出値ωm、及び、直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流指令値id*、q軸電流指令値iq*を求める。例えば、モータトルク指令値Tmf*、モータ18の回転数N、及び直流電圧値Vdcと、d軸電流指令値及びq軸電流指令値との関係を定めたテーブルを予め用意しておく。そして、このテーブルを参照することにより、d軸電流指令値id*、q軸電流指令値iq*を求める。
【0028】
ステップS204では、モータコントローラ12がd軸電流id及びq軸電流iqをそれぞれ、ステップS203で求めたd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流iu、iv、iwと、モータ18の回転子位相αと、に基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを求める。続いて、d軸電流指令値id*とd軸電流idの偏差からd軸電圧指令値vdを算出し、q軸電流指令値iq*とq軸電流iqとの偏差からq軸電圧指令値vqを算出する。なお、算出したd軸電圧指令値vd、q軸電圧指令値vqに対して、d-q直交座標軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧を加算するようにしてもよい。
【0029】
次に、d軸電圧指令値vd、q軸電圧指令値vqと、モータ18の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。そして、求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ16のスイッチング素子を開閉することによって、モータ18をモータトルク指令値Tmf*で指示された所望のトルクで駆動させることができる。
【0030】
[モータトルク指令値算出処理]
図5は、モータトルク指令値算出処理を説明するフローチャートである。図6は、アクセル開度APOに基づいて算出される基本トルク指令値Tm1に加算される補正トルクΔT(オフセット量)に関して、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離Dとの関係を示す補正トルクテーブルである。図7は、アクセル開度APOに基づいて算出される基本トルク指令値Tm1と比較される下限トルクTLに関して、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離Dとの関係を示す下限トルクテーブルである。
【0031】
ここでは、モータコントローラ12に入力される走行モードが1ペダルモードであることを前提としている。
【0032】
ステップS501において、モータコントローラ12は、アクセル開度APO、車速V、車間距離Dの情報を入力する。なお、ステップS501はステップS201の一部と捉えてもよい。
【0033】
ステップS502において、モータコントローラ12は、図4に示すアクセル開度APO-トルクテーブルにアクセル開度APO及び回転数N(車速Vでもよい)を入力してドライバーが要求する基本トルク指令値Tm1を算出する。
【0034】
ステップS503において、モータコントローラ12は、図6に示すトルク補正テーブルに車間距離Dを入力して補正トルクΔTを算出し(図11のステップS503a)、基本トルク指令値Tm1に補正トルクΔTを加算することで基本トルク指令値Tm1を補正する(図11のステップS503b)。図6に示す補正トルクΔTは、先行車両との車間距離DがD1(例えば20[m])以上の場合はゼロとし、D1よりも短くなると負の値になりD1よりも短くなるほど単調に低くなる特性を有し、先行車両との衝突を回避する。なお、図6に示すトルク補正テーブルの横軸は、車間距離Dを車速Vで乗じた除算値「車間距離D/車速V」を適用する場合がある。
【0035】
ステップS504において、モータコントローラ12は、図7に示す下限トルクテーブルに車間距離Dを入力して下限トルクTLを算出する。下限トルクTLは基本トルク指令値Tm1と比較対象となるトルクであって、車間距離DがD2(例えば50[m])以上の場合は、制動トルクはゼロよりもやや低い値、例えばアクセルモードでアクセル開度APOをゼロにしてコースト走行を行っているときの減速度を実現する値に設定されている。また車間距離DがD2よりも短くなるほど単調に減少する特性を有している。なお、図7に示す下限トルクテーブルの横軸は、車間距離Dを車速Vで乗じた除算値「車間距離D/車速V」を適用する場合がある。
【0036】
ステップS505において、モータコントローラ12は、下限トルクTLに対してフィルタ処理を行い、下限トルクTLに含まれるノイズ成分(車間距離Dの情報に含まれるノイズ)を除去する。フィルタ処理は、例えば算出した下限トルクTLの現在値と前回値(1個、又は複数個)との平均値を算出して当該平均値を下限トルクTLの現在値に設定する。
【0037】
ステップS506において、モータコントローラ12は、基本トルク指令値Tm1(現在値)と下限トルクTL(現在値)とを比較して、基本トルク指令値Tm1が下限トルクTLよりも高い場合に基本トルク指令値Tm1(現在値)をモータトルク指令値Tmf*に設定する(図11のステップS506a)。また、モータコントローラ12は、基本トルク指令値Tm1(現在値)が下限トルクTL(現在値)と一致したときのトルクをモータトルク指令値Tmf*の前回値として保持する。
【0038】
ステップS507において、モータコントローラ12は、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高いか否かを判断し、NOであればステップS508に移行し、YESであればステップS509に移行する。
【0039】
ステップS508において、モータコントローラ12は、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下と判断した場合において、基本トルク指令値Tm1の前回値及び前記下限トルクTLの現在値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定する。
【0040】
よって、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合であって基本トルク指令値Tm1の現在値よりも高い場合は、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定され、モータトルク指令値Tmf*の現在値が前回値よりも低くなる場合が発生する。
【0041】
一方、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合であって基本トルク指令値Tm1の現在値よりも低い場合は、基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定される。この場合、基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合は、モータトルク指令値Tmf*の現在値はモータトルク指令値Tmf*の前回値以下となり、基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高い場合は、モータトルク指令値Tmf*の現在値はモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高くなる。
【0042】
ステップS509において、モータコントローラ12は、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高いと判断した場合において、基本トルク指令値Tm1の前回値及びモータトルク指令値Tmf*のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定する。この場合、例えば基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高い場合に、モータトルク指令値Tmf*の現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高くなる。
【0043】
ステップS508において、下限トルクTLの現在値が下限トルクTLの前回値以下となった場合に、それがモータトルク指令値Tmf*の現在値に反映されモータトルク指令値Tmf*の前回値以下になる場合がある。
【0044】
しかし、ステップS508及びステップS509において、下限トルクTLの現在値が下限トルクTLの前回値よりも高くなった場合に、それがモータトルク指令値Tmf*の現在値に反映されることはない。
【0045】
図8は、モータトルク指令値算出処理のロジックを示す図である。図8に示すようにモータコントローラ12は、モータトルク指令値算出処理を実行する構成要素として、比較要素121、スイッチ要素122、選択要素123、遅延要素124を含む。
【0046】
比較要素121には、下限トルクTL(現在値、ステップS505)と遅延要素124の出力(モータトルク指令値Tmf*の前回値)が入力される。比較要素121は、遅延要素124の出力が下限トルクTL以上の場合は1を出力し、遅延要素124の出力が下限トルクTLよりも低い場合は0を出力する。
【0047】
スイッチ要素122には、遅延要素124の出力、下限トルクTL、比較要素121の出力が入力される。スイッチ要素122は、比較要素121の出力が1の場合は、遅延要素124の出力を選択して出力し、比較要素121の出力が0の場合は、下限トルクTLを選択して出力する。
【0048】
選択要素123には、スイッチ要素122の出力と基本トルク指令値Tm1(現在値、ステップS503)が入力される。選択要素123はスイッチ要素122の出力及び基本トルク指令値Tm1のうち値が大きい方をモータトルク指令値Tmf*(現在値)として出力し、選択要素123はスイッチ要素122の出力及び基本トルク指令値Tm1が一致する場合はいずれかの値をモータトルク指令値Tmf*(現在値)として出力する。
【0049】
遅延要素124には、モータトルク指令値Tmf*(現在値)が入力される。遅延要素124は、モータトルク指令値Tmf*(現在値)をZ変換して関数(z-1)を掛け合わせてサンプル遅延させた出力、すなわち比較要素121及びスイッチ要素122に対してモータトルク指令値Tmf*(前回値)となる値を生成し、これを比較要素121及びスイッチ要素122に出力する。
【0050】
[比較例で出力されるモータトルク指令値Tmf*]
図9は、比較例のモータトルク指令値Tmf*の算出の流れを説明するための図である。図10は、比較例で適用される基本トルク指令値Tm1と、第3の補正トルクΔT3と、モータトルク指令値Tmf*と、アクセル開度APOとの関係を示す図であって、図10(a)は第3の補正トルクΔT3と車間距離Dとの関係、図10(b)は車速Vと基本トルク指令値Tm1を軸とする座標空間において、アクセル開度APOをゼロとしたときの基本トルク指令値Tm1の特性曲線に比較例の第3の補正トルクΔT3を適用したときのモータトルク指令値Tmf*の分布、図10(c)は、アクセル開度APOと基本トルク指令値Tm1を軸とする座標空間において図10(b)に示す車速V(V1)を一定としてアクセル開度APOを変化させた場合の基本トルク指令値Tm1の特性曲線と基本トルク指令値Tm1に対して比較例の第3の補正トルクΔT3を適用したときのモータトルク指令値Tmf*の分布を示す。
【0051】
比較例では、図5に示すステップS502に並行して、ステップS901とステップS902を実行する。
【0052】
ステップS901において、モータコントローラ12は、第1のトルク補正テーブル(図6に示すトルク補正テーブルと同様)に車間距離D(及び車速V)を入力して第1の補正トルクΔT1を算出する。第1の補正トルクΔT1は、車間距離DがD1以上のときはゼロであるが、D1よりも短くなるとゼロよりも低い値となり、車間距離Dが短くなるほど単調に減少する。
【0053】
ステップS902において、モータコントローラ12は、第2のトルク補正テーブルに車間距離D(及び車速V)を入力して第2の補正トルクΔT2を算出する。第2の補正トルクΔT2は、車間距離DがゼロからD2(>D1)まではゼロであるが、車間距離DがD2よりも長くなるとゼロよりも大きくなるとともに車間距離DがD2よりも長いD3に到達するまで単調に増加し、車間距離DがD3以上で一定となる。
【0054】
ステップS903において、モータコントローラ12は、第1の補正トルクΔT1と第2の補正トルクΔT2を加算して第3の補正トルクΔT3を生成する。
【0055】
ステップS904において、モータコントローラ12は、ステップS502で算出した基本トルク指令値Tm1と第3の補正トルクΔT3を加算することで、モータトルク指令値Tmf*を算出する。
【0056】
図10(a)に示すように、第3の補正トルクΔT3は、車間距離DがD1よりも低いとゼロよりも低くなり、車間距離DがD1よりも低くなるほど単調に減少する。第3の補正トルクΔT3は車間距離DがD1以上且つD2以下のときにゼロになる。第3の補正トルクΔT3は車間距離DがD2よりも長くなるとゼロよりも高くなるとともに車間距離DがD2よりも長くなるほど単調に増加し、車間距離DがD2よりも長いD3に到達すると一定値となる。
【0057】
図10(b)に示す横軸が車速V、縦軸がトルクとなる座標空間において、アクセル開度APOをゼロとしたときの車速Vと基本トルク指令値Tm1との関係は、一本の特性曲線(APO:0%)により表すことができる。
【0058】
ここで、基本トルク指令値Tm1に第3の補正トルクΔT3を適用した場合であって車間距離DがD1よりも短くなると、モータトルク指令値Tmf*は縦軸方向であって特性曲線(APO:0%)よりも低い領域Aにシフトし、領域Aにおいてモータトルク指令値Tmf*を設定可能となる。
【0059】
一方、車間距離DがD2よりも長くなるとモータトルク指令値Tmf*は縦軸方向であって特性曲線(APO:0%)よりも高い領域Cにシフトする。より詳細には、モータトルク指令値Tmf*は、アクセル開度APOがゼロのときの基本トルク指令値Tm1を表す特性曲線(APO:0%)と、アクセル開度APOがゼロのときの基本トルク指令値Tm1に第3の補正トルクΔT3(車間距離D≧D3)を加算して得られるモータトルク指令値Tmf*を表す特性曲線Bの間の領域Cにおいてモータトルク指令値Tmf*を設定可能となる。この場合、モータトルク指令値Tmf*が正の値とならないように第2の補正トルクΔT2の最大値(車間距離DがD3以上となるときの値)が適宜設定される。
【0060】
よって、アクセル開度APOがゼロであって車間距離Dが短くなる場合、ドライバーに違和感を与えることなくモータトルク指令値Tmf*を減少させ(制動トルクを大きくし)、逆に車間距離Dが長くなるとドライバーに違和感を与えることなくモータトルク指令値Tmf*を増加させる(制動トルクを小さくする)ことができる。
【0061】
しかし比較例では、アクセル開度APOの開度、即ち基本トルク指令値Tm1の高さに関わらず第3の補正トルクΔT3(第1の補正トルクΔT1+第2の補正トルクΔT2)が加算される。
【0062】
よって、図10(c)に示すように、アクセル開度APOが「x2」以上の領域では基本トルク指令値Tm1が正となるが、この場合にも第3の補正トルクΔT3(第2の補正トルクΔT2成分)が加算されたモータトルク指令値Tmf*となる。よってドライバーが要求した以上の駆動トルクとなるのでドライバーに違和感を与えることになる。
【0063】
さらにアクセル開度APOが「x2」よりも低く、且つ「x1」以上となる領域では基本トルク指令値Tm1は負となるが、この場合にも第3の補正トルクΔT3(第2の補正トルクΔT2成分)が加算され正となるモータトルク指令値Tmf*が発生し得る。よって、ドライバーが制動トルクを要求しているにも関わらず電動車両10が加速する駆動トルクが印加されるのでドライバーに違和感を与えることになる。
【0064】
[本実施形態で出力されるモータトルク指令値Tmf*]
図11は、本実施形態で適用され基本トルク指令値Tm1と、補正トルクΔTと、モータトルク指令値Tmf*と、アクセル開度APOとの関係を示す図であって、図11(a)は補正トルクΔTと車間距離Dとの関係、図11(b)は車速Vと基本トルク指令値Tm1を軸とする座標空間において、アクセル開度APOをゼロとしたときの基本トルク指令値Tm1の特性曲線に本実施形態の補正トルクΔTと下限トルクTLを適用したときのモータトルク指令値Tmf*の分布、図11(c)は、アクセル開度APOと基本トルク指令値Tm1を軸とする座標空間において図11(b)に示す車速V(V1)を一定としてアクセル開度APOを変化させた場合の基本トルク指令値Tm1の特性曲線と基本トルク指令値Tm1に対して本実施形態の補正トルクΔTと下限トルクTLを適用したときのモータトルク指令値Tmf*の分布を示す。
【0065】
図11(a)に示すように、本実施形態では、基本トルク指令値Tm1に対して補正トルクΔTを加算するが、当該補正トルクΔTは車間距離DがD1以上でゼロであり、D1よりも低くなると単調に減少するものであり、基本トルク指令値Tm1を高くする方向の補正は実行しない。また本実施形態では、補正後の基本トルク指令値Tm1と下限トルクTLとを比較して値が高い方をモータトルク指令値Tmf*に設定する。さらに、本実施形態では、補正後の基本トルク指令値Tm1と下限トルクTLが一致したときのトルクをモータトルク指令値Tmf*の前回値として保持する。
【0066】
そして、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及び下限トルクTLの現在値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定する。又は、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高い場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及びモータトルク指令値Tmf*の前回値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定する。
【0067】
図11(b)に示す横軸が車速V、縦軸がトルクとなる座標空間において、アクセル開度APOをゼロとしたときの車速Vと基本トルク指令値Tm1との関係は、図10と同様に一本の特性曲線(APO:0%)により表すことができる。
【0068】
ここで、基本トルク指令値Tm1に補正トルクΔTを適用した場合であって車間距離DがD1よりも短くなると、モータトルク指令値Tmf*は縦軸方向であって特性曲線(APO:0%)よりも低い領域Eにシフトし、領域Eの範囲でモータトルク指令値Tmf*を設定できる。
【0069】
一方、基本トルク指令値Tm1が下限トルクTLに一致したときのトルクをモータトルク指令値Tmf*の前回値として保持できるが、その上限値は車間距離DがD2以上の場合となる。よって、車間距離DがD1以上の場合において、モータトルク指令値Tmf*は、アクセル開度APOがゼロのときの基本トルク指令値Tm1を表す特性曲線(APO:0%)とモータトルク指令値Tmf*を下限トルクTLの上限値に設定したときの特性曲線Fの間となる領域Gにおいて設定可能となる。
【0070】
本実施形態では、前記のように、基本トルク指令値Tm1にその値が高くなる方向の補正トルクが印加されることはなく、基本トルク指令値Tm1と下限トルクTLが一致したときのトルクをモータトルク指令値Tmf*の前回値として保持する。
【0071】
よって、例えば図11(b)に示すように、車速V=V1の縦線と特性曲線Fとが交差する位置を通過する横線Hを図11(c)に延伸させる。そして、図11(c)に示すように、横線Hと、基本トルク指令値Tm1の特性曲線と、横線Hと基本トルク指令値Tm1の特性曲線との交差する位置を通過する縦線Iと、により囲まれた領域Jにおいて基本トルク指令値Tm1よりも高い値となるモータトルク指令値Tmf*は許容されるが、領域J以外の領域において基本トルク指令値Tm1よりも高くなるモータトルク指令値Tmf*の設定は禁止される。
【0072】
よって、モータトルク指令値Tmf*の上昇は、基本トルク指令値Tm1がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高くなる場合に許容されるので、ドライバーが意図しない制動トルクの低下又は加速を低減できる。
【0073】
[タイムチャート]
図12は、本実施形態の電動車両10の制御方法(制御システム)により電動車両10のアクセル開度APOを変化させたときに車間距離Dが変化する場合の、モータトルク指令値Tmf*及び車速Vのタイムチャートである。
【0074】
図12に示すように、時刻t1以前においてドライバーがアクセル開度APOをX2に設定して自車両を等速で走行させ、時刻t1においてアクセル開度APOの減少を開始して時刻t4においてアクセル開度APOをX1にまで減少させて時刻t4から時刻t7までアクセル開度APOをX1に維持し、時刻t7でアクセル開度APOを増加させて時刻t11においてアクセル開度APOを元の開度であるX2に戻して等速で走行させる動作を行った場合を前提とする。
【0075】
また、先行車両との車間距離Dは常時D1よりも長く、時刻t3まで略一定であるが、時刻t3から時刻t5にかけて減少し、時刻t5と時刻t6の間で略一定となり、時刻t6移行において増加し時刻t9においてD2に到達した場合を前提とする。
【0076】
時刻t1以前において基本トルク指令値Tm1は下限トルクTLより高い値となるので、基本トルク指令値Tm1がモータトルク指令値Tmf*として設定される。
【0077】
時刻t1においてアクセル開度APOの減少に伴ってモータトルク指令値Tmf*及び基本トルク指令値Tm1が減少し始め、時刻t2においてモータトルク指令値Tmf*が下限トルクTLと一致する。時刻t2におけるモータトルク指令値Tmf*又は下限トルクTLの値がモータトルク指令値Tmf*の前回値として保持される。
【0078】
時刻t2以降において基本トルク指令値Tm1は下限トルクTLよりも低い値となる。
【0079】
このとき、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及び下限トルクTLの現在値のうち値の高い方がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定される。よって、時刻t2から時刻t3まで下限トルクTLがモータトルク指令値Tmf*に設定され、モータトルク指令値Tmf*は時刻t2における値を維持する。
【0080】
時刻t3において下限トルクTLが減少し始める。この場合においても、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及び下限トルクTLの現在値のうち値の高い方がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定される。すなわち、時刻t3から時刻t5の間において、下限トルクTLは基本トルク指令値Tm1よりも低く且つ減少するので、モータトルク指令値Tmf*も下限トルクTLの減少に伴って減少する。
【0081】
時刻t5から時刻t6の間は、下限トルクTLは一定であるが基本トルク指令値Tm1よりも高い値のため下限トルクTLがモータトルク指令値Tmf*として設定され、モータトルク指令値Tmf*は時刻t5における値を維持する。
【0082】
時刻t6において下限トルクTLが上昇に転じる。この場合、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高くなる。このとき、基本トルク指令値Tm1の現在値及びモータトルク指令値Tmf*の前回値のうち値の高い方がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定される。時刻t6から時刻t8の間は、モータトルク指令値Tmf*の前回値が基本トルク指令値Tm1の現在値よりも高い状態を維持するので、モータトルク指令値Tmf*は時刻t6の時の値を維持する。
【0083】
時刻t8において基本トルク指令値Tm1がモータトルク指令値Tmf*に到達し、その後モータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高くなる。このとき、基本トルク指令値Tm1の現在値及びモータトルク指令値Tmf*の前回値のうち値の高い方がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定されるので、基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定される。時刻t8以降において、基本トルク指令値Tm1がモータトルク指令値Tmf*に設定される。
【0084】
このとき車速Vの時間推移(V(Tmf*))は、時刻t1以降において減少を開始し、時刻t11において等速となるが、先行車両との車間距離Dを考慮し且つ下限トルクTLの上昇に伴う制動トルクの減少を抑制しドライバーの違和感を低減できる。
【0085】
モータトルク指令値Tmf*が基本トルク指令値Tm1により設定される場合、車速Vの時間推移(V(Tm1))は、時刻t1以降において減少を開始し、時刻t11において等速となる点で時間推移(V(Tmf*))と共通である。しかし、制動トルクが大きくなるので車間距離Dが十分にあるにも関わらず過減速となるのでドライバーに違和感を与えることになる。
【0086】
ここで、車間距離Dは、時刻t9において、D2に到達し、以後D2よりも長くなる場を前提とする。このとき、時刻t9において下限トルクTLは最大値となり以後のその値を維持するものとする。また図12では、時刻t10において基本トルク指令値Tm1と下限トルクTLが一致する。そこで、時刻t6から時刻t10の間において、下限トルクTLがモータトルク指令値Tmf*に設定される場合を前提とし、このときの車速Vの時間推移(V(TL))を考える。
【0087】
この場合、時間推移(V(TL))は、時間推移(V(Tmf*))よりも減速が低く抑えられ、先行車両の車間距離Dも時間推移(V(Tmf*))の場合よりも短くなる。しかし、時刻t6以降においてドライバーのアクセル操作なしで制動トルクが抑制される形となるので、ドライバーに違和感を与えることになる。
【0088】
[本実施形態の効果]
本実施形態の電動車両10の制御方法によれば、アクセル開度APOに基づいて基本トルク指令値Tm1を生成するとともにアクセル開度APOが減少するときの基本トルク指令値Tm1が自車両の駆動モータ(モータ18)に対する制動トルクとなる電動車両10の制御方法において、制動トルクであって、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離Dが長くなるほど、又は車間距離Dを自車両の車速Vで除算して得られる除算値が高くなるほど高くなる下限トルクTLを算出し、基本トルク指令値Tm1が下限トルクTLよりも高い場合に基本トルク指令値Tm1をモータトルク指令値Tmf*に設定してモータトルク指令値Tmf*に基づいて駆動モータ(モータ18)を制御するとともに基本トルク指令値Tm1が下限トルクTLと一致したときのトルクを前記モータトルク指令値Tmf*の前回値として保持し、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及び下限トルクTLの現在値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定し、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高い場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及びモータトルク指令値Tmf*の前回値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定する。
【0089】
上記方法により、下限トルクTLの現在値に関わらず基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値を超えるまで、モータトルク指令値Tmf*、即ち制動トルクはモータトルク指令値Tmf*の前回値による制動トルク以下となるので、ドライバーが意図しない制動トルクの低下を抑制できる。また、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも低くなると、モータトルク指令値Tmf*の現在値は下限トルクTLの現在値に設定されるので、車間距離Dが短くなる場合に制動トルクを増加させ、ドライバーのアクセルペダルの操作量を低減できる。
【0090】
本実施形態において、車間距離Dが所定の閾値(D1)以上のときにゼロであり、車間距離Dが閾値(D1)よりも低くなるとゼロよりも低くなるとともに車間距離Dが低くなるほど単調に低下する補正トルクΔTを基本トルク指令値Tm1に加算する。
【0091】
上記方法により、車間距離Dが閾値(D1)よりも短くなる場合に基本トルク指令値Tm1が低くなるように補正することで、先行車両との車間距離Dを近接しすぎないように制御できる。
【0092】
本実施形態の電動車両10の制御システムによれば、アクセル開度APOに基づいて基本トルク指令値Tm1を生成するとともにアクセル開度APOが減少するときの基本トルク指令値Tm1が自車両の駆動モータに対する制動トルクとなる電動車両10の制御システムにおいて、制動トルクであって、自車両と自車両の前方を走行する先行車両との車間距離Dが長くなるほど、又は車間距離Dを自車両の車速Vで除算して得られる除算値が高くなるほど高くなる下限トルクTLを算出する下限トルクTL算出部(モータコントローラ12)と、基本トルク指令値Tm1が下限トルクTLよりも高い場合に基本トルク指令値Tm1をモータトルク指令値Tmf*に設定してモータトルク指令値Tmf*に基づいて駆動モータ(モータ18)を制御するとともに基本トルク指令値Tm1が下限トルクTLと一致したときのトルクをモータトルク指令値Tmf*の前回値として保持するモータトルク指令値設定部(モータコントローラ12)と、を含み、モータトルク指令値設定部(モータコントローラ12)は、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値以下の場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及び下限トルクTLの現在値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定し、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも高い場合に、基本トルク指令値Tm1の現在値及びモータトルク指令値Tmf*の前回値のうち値が高い方をモータトルク指令値Tmf*の現在値として設定する。
【0093】
上記構成により、下限トルクTLの現在値に関わらず基本トルク指令値Tm1の現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値を超えるまで、モータトルク指令値Tmf*、即ち制動トルクはモータトルク指令値Tmf*の前回値による制動トルク以下となるので、ドライバーが意図しない制動トルクの低下を抑制できる。また、下限トルクTLの現在値がモータトルク指令値Tmf*の前回値よりも低くなると、モータトルク指令値Tmf*の現在値は下限トルクTLの現在値に設定されるので、車間距離Dが短くなる場合に制動トルクを増加させ、ドライバーのアクセルペダルの操作量を低減できる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 電動車両,12 モータコントローラ,18 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12