(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155602
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ドアラッチ装置
(51)【国際特許分類】
E05B 77/34 20140101AFI20241024BHJP
E05B 85/02 20140101ALI20241024BHJP
【FI】
E05B77/34
E05B85/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070454
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 陽亮
(72)【発明者】
【氏名】徳一 嘉洸
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250JJ10
2E250JJ42
2E250JJ43
(57)【要約】
【課題】防水性を確保しながら部品点数を抑制し、しかも好適な生産性が得られるドアラッチ装置を提供する。
【解決手段】ドアラッチ装置10は、車外側を覆うケース12および車内側を覆うカバー14を有し、車両のドア内に配置されて該ドアを閉扉状態に保持する。ケース12における上壁38は、車内側に延在して先端がカバー14におけるカバー側壁36に当接する。カバー14はカバー側壁36における上壁38との当接箇所52より外周側の位置から車外側に延在して、当接箇所52を覆う防水壁48を有する。ケース12は上部に車外方向に向かって低くなる傾斜壁40を有する。上壁38は傾斜壁40の上端から車内側に延在している。防水壁48は傾斜壁40の上端よりも車外側に延在している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向の一方である第1方向側の側面を覆う第1ハウジングおよび他方である第2方向側の側面を覆う第2ハウジングを有し、車両のドアに配置されて該ドアを閉扉状態に保持するドアラッチ装置であって、
前記第1ハウジングにおける周壁の少なくとも一部は、前記第2方向に延在して先端が前記第2ハウジングにおいて、前記第2方向側の壁を形成する側壁に当接しており、
前記第2ハウジングは前記側壁における前記周壁との当接箇所より外周側の位置から前記第1方向に延在して、前記当接箇所を覆う防水壁を有する
ことを特徴とするドアラッチ装置。
【請求項2】
前記周壁は上壁であり、
前記第1ハウジングは上部で前記第1方向に向かって低くなる傾斜壁を有し、
前記上壁は前記傾斜壁の上端から前記第2方向に延在しており、
前記防水壁は前記上壁の前記第1方向側端部よりも前記第1方向に延在している
ことを特徴とする請求項1に記載のドアラッチ装置。
【請求項3】
前記第1ハウジングは前記傾斜壁の上端から前記第1方向に突出する突起を有する
ことを特徴とする請求項2に記載のドアラッチ装置。
【請求項4】
前記防水壁は前記突起の端部よりも前記第1方向に延在している
ことを特徴とする請求項3に記載のドアラッチ装置。
【請求項5】
前記突起は前記上壁より高い位置にあって該上壁との間に第1段差を形成し、
前記防水壁は、前記第1方向側で前記突起の上方を覆う先端壁、および前記第2方向側で前記上壁の上方を覆う基端壁を有し、前記先端壁は前記基端壁より高い位置にあり、前記先端壁と前記基端壁との間には前記第1段差に沿う第2段差が形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のドアラッチ装置。
【請求項6】
前記第1ハウジングは前記突起の前記第1方向の先端から前記先端壁の上へ回りこむ係合部を有し、
前記係合部は前記第2方向の先端に設けられた爪が前記第2段差に係合する
ことを特徴とする請求項5に記載のドアラッチ装置。
【請求項7】
前記第2ハウジングは前記突起と前記係合部とのつながり部分の上方を覆う庇部を有する
ことを特徴とする請求項6に記載のドアラッチ装置。
【請求項8】
前記第2ハウジングは前記側壁における前記当接箇所より内周側の位置から前記第1方向に延在する内部壁を有する
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のドアラッチ装置。
【請求項9】
前記周壁は前壁であり、
前記第1ハウジングは、前記防水壁の外周側にあって基端部が前記前壁とつながり、前記第2方向に延在する外周側防水壁を有する
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のドアラッチ装置。
【請求項10】
前記第2ハウジングは、内部のモータに電力を供給するカプラー、および前記カプラーの周囲に形成されたシール座板を備え、
前記外周側防水壁の先端は前記シール座板におけるシール貼付面と反対側面に当接し、
前記外周側防水壁と前記防水壁とによって囲われる隙間は下部に排水口が形成されている
ことを特徴とする請求項9に記載のドアラッチ装置。
【請求項11】
前記周壁は後壁であり、後方に突出する縁突起を備えており、
ストライカと係合するラッチユニットが後方に設けられ、
前記縁突起は前記ラッチユニットの上端に接し、
前記防水壁は上方から前記縁突起上端部まで延在して後方防水壁を形成しており、
前記後方防水壁、前記縁突起および前記ラッチユニットの各境界部は共通のシール材で覆われ、
前記第1ハウジングは前記後方防水壁に形成された嵌合孔に嵌合する嵌合突起を有する
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のドアラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアに配置されて該ドアを閉扉状態に保持するドアラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドア内には本体側のストライカに係合してドアを閉扉状態に保持するドアラッチ装置が設けられている。ドアラッチ装置は内部のモータなどの電気部品や歯車などの機械部品をハウジングで覆う構成となっている。ハウジングは、一般的に車幅方向の一方を覆う第1ハウジングと他方を覆う第2ハウジングとに分かれており、両者の境界部には防水手段が設けられる。例えば、特許文献1の装置では第1ハウジングと第2ハウジングとの境界部を防水カバーで覆い、特許文献2に記載の装置では第1ハウジングと第2ハウジングとの突合せ部を溶着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5070649号公報
【特許文献2】特許第5365574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、第1ハウジングおよび第2ハウジングとは別に防水カバーが必要であり、部品点数、組立工数、重量の増加、およびコストアップの要因となる。特許文献2の装置では、溶着が確実になされていることを確認するために検査に時間がかかり、生産性に課題がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、防水性を確保しながら部品点数を抑制し、しかも好適な生産性が得られるドアラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるドアラッチ装置は、車幅方向の一方である第1方向側の側面を覆う第1ハウジングおよび他方である第2方向側の側面を覆う第2ハウジングを有し、車両のドアに配置されて該ドアを閉扉状態に保持するドアラッチ装置であって、前記第1ハウジングにおける周壁の少なくとも一部は、前記第2方向に延在して先端が前記第2ハウジングにおいて、前記第2方向側の壁を形成する側壁に当接しており、前記第2ハウジングは前記側壁における前記周壁との当接箇所より外周側の位置から前記第1方向に延在して、前記当接箇所を覆う防水壁を有することを特徴とする。
【0007】
このようなドアラッチ装置は、周壁と側壁との当接箇所を防水壁が外周側から覆っていることから、該当接箇所に対する外周側からの直接の被水を防止することができる。したがって、別部品の防水カバーが不要であって、防水性を確保しながら部品点数を抑制することができ、しかも溶着がないため検査に時間がかからず好適な生産性が得られる。
【0008】
前記周壁は上壁であり、前記第1ハウジングは上部で前記第1方向に向かって低くなる傾斜壁を有し、前記上壁は前記傾斜壁の上端から前記第2方向に延在しており、前記防水壁は前記上壁の前記第1方向側端部よりも前記第1方向に延在していてもよい。防水壁が上壁よりも第1方向に延在していることにより、上壁が車幅方向全幅にわたって覆われ、防水壁から落ちる水は傾斜壁によって第1方向に導かれる。
【0009】
前記第1ハウジングは前記傾斜壁の上端から前記第1方向に突出する突起を有してもよい。このような突起は傾斜壁からの跳返り水が第2方向側へ浸水することを防止する。
【0010】
前記防水壁は前記突起の端部よりも前記第1方向に延在していてもよい。これにより、上壁と突起とが防水壁によって覆われる。
【0011】
前記突起は前記上壁より高い位置にあって該上壁との間に第1段差を形成し、前記防水壁は、前記第1方向側で前記突起の上方を覆う先端壁、および前記第2方向側で前記上壁の上方を覆う基端壁を有し、前記先端壁は前記基端壁より高い位置にあり、前記先端壁と前記基端壁との間には前記第1段差に沿う第2段差が形成されていてもよい。第1段差と第2段差とにより簡易的なラビリンスが形成され、経路長が長くなって水が浸入しにくくなる。
【0012】
前記第1ハウジングは前記突起の前記第1方向の先端から前記先端壁の上へ回りこむ係合部を有し、前記係合部は前記第2方向の先端に設けられた爪が前記第2段差に係合してもよい。このような係合部は突起の延長によって形成されており、防水壁の形状は維持されており防水性能が損なわれない。また、第2段差が係合部の係合に有効利用される。
【0013】
前記第2ハウジングは前記突起と前記係合部とのつながり部分の上方を覆う庇部を有してもよい。庇部は突起の先端と係合部との間を覆い、この部分に水が溜まることが防止できる。
【0014】
前記第2ハウジングは前記側壁における前記当接箇所より内周側の位置から前記第1方向に延在する内部壁を有してもよい。仮に周壁と側壁との当接箇所から内部への浸水があった場合でも、該水は内部壁に当たって適切な方向へ導かれる。
【0015】
前記周壁は前壁であり、前記第1ハウジングは、前記防水壁の外周側にあって基端部が前記前壁とつながり、前記第2方向に延在する外周側防水壁を有してもよい。外周側防水壁により、前方から内部への被水を一層防止することができる。
【0016】
前記第2ハウジングは、内部のモータに電力を供給するカプラー、および前記カプラーの周囲に形成されたシール座板を備え、前記外周側防水壁の先端は前記シール座板におけるシール貼付面と反対側面に当接し、前記外周側防水壁と前記防水壁とによって囲われる隙間は下部に排水口が形成されていてもよい。このようなシール座板は一方のシール貼付面がシール材の貼付けに用いられ、他方の面が外周側防水壁との当接箇所の形成に用いられ、両面が有効に利用される。
【0017】
前記周壁は後壁であり、後方に突出する縁突起を備えており、ストライカと係合するラッチユニットが後方に設けられ、前記縁突起は前記ラッチユニットの上端に接し、前記防水壁は上方から前記縁突起上端部まで延在して後方防水壁を形成しており、前記後方防水壁、前記縁突起および前記ラッチユニットの各境界部は共通のシール材で覆われ、前記第1ハウジングは前記後方防水壁に形成された嵌合孔に嵌合する嵌合突起を有していてもよい。このような構成により、後方防水壁、縁突起およびラッチユニットの各面が共通のシール材でシールされる。また、嵌合突起が嵌合孔に嵌って係合することにより、第1ハウジングと第2ハウジングとは後方部分で強く固定され、後壁がカバー側壁に確実に当接する。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかるドアラッチ装置は、周壁と側壁との当接箇所を防水壁が外周側から覆っていることから、該当接箇所に対する外周側からの直接の被水を防止することができる。したがって、別部品の防水カバーが不要であって、防水性を確保しながら部品点数を抑制することができ、しかも溶着がないため検査に時間がかからず好適な生産性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態にかかるドアラッチ装置を車内側から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、ドアラッチ装置の上部を車外側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、ケース単体上部を車内側から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、カバー単体上部を車外側から見た斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1におけるV~V線視による一部断面斜視図である。
【
図6】
図6は、ドアラッチ装置が車両前後方向を軸として傾斜した場合における
図5と同じ箇所を示す模式断面図である。
【
図7】
図7は、
図1におけるVII~VII線視による一部断面斜視図である。
【
図8】
図8は、ドアラッチ装置が車両前後方向を軸として傾斜した場合における
図7と同じ箇所を示す模式断面図である。
【
図9】
図9は、ドアラッチ装置における前方部分の断面平面図である。
【
図10】
図10は、ドアラッチ装置における前方部分の断面側面図である。
【
図11】
図11は、ドアラッチ装置における後方部分の一部拡大断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかるドアラッチ装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態にかかるドアラッチ装置10を車両基準で車内側から見た斜視図である。
図2は、ドアラッチ装置10の車両基準で上部を車外側から見た斜視図である。ドアラッチ装置10は、図には示していないが、四輪自動車の右側に配置された車両基準で前方ヒンジのサイドドア内部に搭載され、ドアハンドルによる開操作やキーによるロック/アンロック操作に従って車両本体に設けられたストライカとの係合状態を変更することにより、サイドドアの開閉操作を行うものである。なお、左側のサイドドアに搭載されるドアラッチ装置は、右側のドアラッチ装置10と対称構造であることから説明を省略する。
【0022】
以下、ドアラッチ装置10の詳細構成について説明を行うが、本願では車両に搭載した状態、かつサイドドアが閉の状態においてそれぞれの構成要素の方向(車幅方向、車両上下方向、車両前後方向)を特定することとする。
【0023】
ドアラッチ装置10は車外方向(第1方向)の側面を覆うケース(第1ハウジング)12、車内方向(第2方向)の側面を覆うカバー(第2ハウジング)14、および後方に設けられたラッチユニット16を有する。カバー14の前方上部にはカプラー18およびカプラー基部20が車内側に突出して形成されている。カプラー18はカプラー基部20の端面を形成するシール座板22の中央から車内側に突出している。カプラー基部20およびシール座板22はカプラー18の周囲に設けられている。カプラー基部20は後方部分が円筒面を形成し、その他の部分は変則形状となっている。シール座板22は前方部、上方部および後方部にかけて円弧の変則D字形状であり、前方部および上方部はカプラー基部20の外周面に対してフランジ状にやや突出している。
【0024】
カプラー18の端子は近傍のモータ24などと電気的に接続されている。カプラー18は、図示しないインナーパネルの孔から突出してコネクタが接続される。シール座板22には室内側のシール貼付面22aにシール材26が取り付けられてインナーパネルとの間を防水する。ケース12の上部後方ではキーシリンダ連結部28が車外側に突出している。ケース12の後方ではラッチユニット16の前方および車外側を覆うユニットケース30が車外側に突出している。
【0025】
ラッチユニット16はキーシリンダ連結部28よりやや下方にあり、後面から車内側面にわたる範囲に設けられており、ユニットケース30によって一部が覆われている。ラッチユニット16にはストライカが進入する溝16aが形成されており、ストライカは該溝16a内で内部のラッチと係合される。ケース12とカバー14とによって構成されるハウジング内には、モータ24や歯車、カムなどの機構があり、電気信号、キー操作およびワイヤ操作に基づいてストライカをラッチと係合させ又は解除する。ケース12、カバー14およびラッチユニット16との各境界部はほとんど隙間がなく、しかもシール材32で覆われて防水されている。なお、
図1ではシール材26,32を仮想線で示している。
【0026】
ドアラッチ装置10の上部はキーシリンダ連結部28の近傍部が略三角状で上に向けて突出しており、鞍部33aから前方に向かいカプラー18の近傍までほぼ水平となっている。鞍部33aから後方のキーシリンダ連結部28へ向かう部分を上方傾斜部33bと呼び、円弧状のキーシリンダ連結部28からさらに後方に向かってラッチユニット16まで急角度で下向きに傾斜している部分を上後方部33cと呼び、鞍部33aから前方に向かう部分を水平部33dと呼ぶ。
【0027】
ケース12は、車外側に突出するキーシリンダ連結部28およびユニットケース30以外のほぼ全面がケース側壁34を形成している。ケース側壁34は多くの低い凸部または浅い凸部を有しているが、全体として概ね車両前後方向および車両上下方向に沿っており、ドアラッチ装置10の車外側の壁を形成している。カバー14は、車内側に突出するカプラー18およびカプラー基部20以外のほぼ全面がカバー側壁36を形成している。カバー側壁36は多くの低い凸部または浅い凸部を有しているが、全体として概ね車両前後方向および車両上下方向に沿っており、ドアラッチ装置10の車内側の壁を形成している。このようなケース側壁34およびカバー側壁36により、ドアラッチ装置10はサイドドア内に配置可能な偏平形状となっている。
【0028】
次に、ドアラッチ装置10における上部の防水構造について説明する。
図3は、ケース12単体上部を車内側から見た斜視図である。
図4は、カバー14単体上部を車外側から見た斜視図である。
図5は、
図1におけるV~V線視による一部断面斜視図である。
図6は、ドアラッチ装置10が車両前後方向を軸として傾斜した場合における
図5と同じ箇所を示す模式断面図である。
図6の矢印は水の流れを模式的に示している。
図8、
図10も同様である。
【0029】
図5に示すように、ケース12の上部には上壁38が車内側に向かって突出している。概念的にはケース側壁34(
図2参照)が車外側を覆うのに対して、上壁38は上部を覆う周壁の一部となっている。上壁38はケース12の上部全域、つまり上方傾斜部33b、上後方部33cおよび水平部33dにわたって形成されている。
【0030】
ケース12は上部でケース側壁34と上壁38との間をつなぐ傾斜壁40と、傾斜壁40の上端から車外方向に突出する突起42とを有する。傾斜壁40は本実施例で20度程度の傾斜であり、車外方向に向かって低くなっている。上壁38は傾斜壁40の上端から車内方向に延在しており、ケース側壁34は傾斜壁40の下端から下方に延在している。突起42は上壁38よりやや高い位置にあって該上壁38との間に第1段差44を形成し、傾斜壁40との間に溝46を形成する。
【0031】
ケース12のほぼ全部は同じ厚さであり、上壁38、突起42および傾斜壁40についてもほぼ同じ厚さとなっている。上壁38は傾斜壁40と比べて短く、本実施例では厚みの3倍程度の長さを有している。突起42は短く、本実施例では上壁38の2/3程度の長さを有している。突起42の車外側下端は面取り形状となっている。第1段差44および後述する第2段差54の段差幅はケース12の厚さと同じ程度に抑えられており、ドアラッチ装置10の高さ寸法が過度に大きくなることがない。
【0032】
カバー14は上部に防水壁48と、内部壁50とを有する。カバー14のほぼ全部はケース12と同じ厚さであり防水壁48、および内部壁50についてもほぼ同じ厚さとなっている。カバー側壁36はケース12の上壁38よりもやや上方まで延在しており、上壁38の先端はカバー側壁36に対して当接している。
【0033】
防水壁48は、カバー側壁36の上端(カバー側壁36における上壁38との当接箇所52より外周側の位置)から車外方向に延在して当接箇所52を覆っており、さらに突起42の車外側端部よりも車外方向に延在している。防水壁48は傾斜壁40の車外側端部より車内側にある。
【0034】
防水壁48は、車外側で突起42の上方を覆う先端壁48a、および車内側で上壁38の上方を覆う基端壁48bを有する。先端壁48aは基端壁48bより高い位置にあり、先端壁48aと基端壁48bとの間には第1段差44に沿う第2段差54が形成されている。上壁38と基端壁48bとの間、および突起42と先端壁48aとの間には狭い隙間が形成されている。先端壁48aの車外側上端は面取り形状となっている。本実施例で基端壁48bの長さは突起42と同じ程度であり、先端壁48aの長さは上壁38と突起42との合計程度である。
【0035】
内部壁50は、カバー側壁36における当接箇所52より内周側の位置から車外方向に延在している。内部壁50と上壁38とは適度に離れている。本実施例で内部壁50の長さは上壁38と同じ程度である。防水壁48および内部壁50は、上方傾斜部33b、上後方部33cおよび水平部33dのほぼ全範囲にわたり、上壁38および突起42に沿って設けられているが、被水などの想定条件によっては一部の形状が異なっていてもよい。
【0036】
このような構成によれば、上壁38とカバー側壁36との当接箇所52を防水壁48が上から覆っていることから、
図6の矢印で模式的に示すように該当接箇所52に対する上方からの直接の被水を防止することができる。この防水構造では、特許文献1の別部品の防水カバーが不要であって部品点数を抑制し、重量およびコストを増加させることなく防水性を確保することができる。また、特許文献2の溶着が不要であり検査に時間がかからず好適な生産性が得られる。なお、本願における防水とは完全防水以外にいわゆる防滴などの防水レベルも含む広義の意味である。防水壁48は防水作用以外に防塵作用などを奏する。
【0037】
上壁38はカバー側壁36の内側面に対して当接しており、端部同士の突合せ構造と比較して確実に当接することができ、例えば寸法誤差により上壁38が多少上下にずれていても確実に当接することができる。上壁38はカバー側壁36との当接箇所52まで延在してある程度の長さが確保される。
【0038】
仮に突起42が設けられていない場合であっても、防水壁48は傾斜壁40の上端よりも車外方向に突出していることから、上壁38の全面が防水壁48で覆われる。したがって、少なくとも車両が水平である状態で水が該上壁38に当たりその上面に沿って当接箇所52に達することがない。また、上壁38は上記のとおり当接箇所52まで延在してある程度の長さが確保されており、水の浸入経路が長くなって内部へ浸水しにくい。
【0039】
防水壁48に当って車外側に流れた水は傾斜壁40へと落ちて下方へ滞留なくスムーズに案内される。また、傾斜壁40へ落ちて跳ね返った水は、突起42によって車内側への浸入が阻止される。突起42は上壁38よりやや上方にあり、跳ね返りの水を阻止しやすい。
【0040】
ドアラッチ装置10は車両への組み付け条件や車両自体の駐車態様によっては
図6に示すように車両前後方向を軸として、車外側が上向き、車内側が下向きに傾斜する場合がある。この場合、当接箇所52は相対的に下方に位置し、防水壁48の下面に当たった跳ね返り水は該防水壁48に沿って当接箇所52に達する事態も想定される。これに対してドアラッチ装置10では、防水壁48の下面は突起42がある程度覆っていることから跳ね返りの水が当たりにくい。さらに、突起42は上壁38より高い位置にあることから、該突起42は傾斜壁40からやや離れており、その上の先端壁48aは傾斜壁40からさらに離れており、それぞれ跳ね返りの水が当たりにくくなっている。
【0041】
防水壁48の先端壁48aおよび基端壁48bと突起42および上壁38との間は第1段差44および第2段差54とによってクランク状の簡易的なラビリンスを形成して経路長が長くなっており水が当接箇所52まで達しにくい。
【0042】
また、仮に当接箇所52から内部への浸水があった場合でも、該水は内部壁50(
図4も参照)に当たって前方または下方に導かれ、それより下にある電気部品や機械部品が被水することがない。
【0043】
なお、防水壁48および内部壁50は、上方傾斜部33b、上後方部33cおよび水平部33dのほぼ全範囲にわたり、上壁38および突起42に沿って設けられているが、被水などの想定条件によっては一部の形状が異なっていてもよい。また、上壁38を含む周壁の少なくとも一部がカバー側壁36に当接し、その当接箇所52の外周側に防水壁48が設けられていれば相応の効果が得られる。設計条件によりケース12の突起42や第1段差44、およびカバー14の第2段差54は省略してもよい。防水壁48は上壁38の全面を覆うことが望ましいが、少なくとも当接箇所52の上部を覆っていれば相応の効果が得られる。
【0044】
図7は、
図1におけるVII~VII線視による一部断面斜視図である。
図8は、ドアラッチ装置10が車両前後方向を軸として傾斜した場合における
図7と同じ箇所を示す模式断面図である。
【0045】
図7、
図3に示すように、突起42の一部は車外方向先端から先端壁48aの上へ回りこむ係合レバー56aと連続的につながっている。係合レバー56aと突起42とは、その中間部56bを含めて略U字形状をなしている。係合レバー56aは、先端壁48aの上面に沿って車内方向へ突出しており、その突出長さは防水壁48とほぼ同じである。
【0046】
係合レバー56aは係合部56の一部である。係合部56は上方傾斜部33bに2つ、水平部33dに1つの合計3つが適度に隣接して設けられている。係合部56は車内方向に突出する一対の係合レバー56aと、これらの先端部を連結するブリッジ部56cとによって略矩形アーチ形状をなしている。ブリッジ部56cの下面には爪56dが形成されている。爪56dは当接箇所52のほぼ真上にあり、車外側が第2段差54に応じた厚みがあり、車内側に向かって上向き傾斜で薄くなる形状となっている。
【0047】
カバー14をケース12に嵌め込むと、係合部56の先端に設けられた爪56dが第2段差54に対してスナップフィット式に係合するようになっている。このようにケース12とカバー14とは簡易操作により、少なくとも上方傾斜部33bおよび水平部33dの部分で確実に係合する。また、第1段差44との間でラビリンス構造を形成する第2段差54が係合作用に対して有効的に利用される。係合部56に係合する被係合部を別に設ける必要がないため簡易形状になり、しかも車両上下方向寸法を抑えることができる。係合部56は当接箇所52の近傍にあり、しかも爪56dは当接箇所52のほぼ真上にあることから、上壁38は当接箇所52で適度に強くカバー側壁36に押圧され止水作用が向上する。係合部56は突起42の延長によって形成されており、防水壁48の形状は維持されており防水性能が損なわれない。
【0048】
3つの係合部56はそれぞれ2つの係合レバー56aを有している。合計6つの係合レバー56aは互いに適度に離間しており、ケース12とカバー14とをバランスよく締結することができる。なお、ドアラッチ装置10における上部以外の箇所については、基本的に係合部56と同様のスナップフィット式の係合とするがネジ留めなど他の係合手段を併用してもよい。
【0049】
先端壁48aの上面からは6つの脚部58aが上方に向かって車外側へ寄るように突出している。脚部58aは下部から上部へ向かって車幅方向幅が広くなる変則形状である。6つの脚部58aのうち一対ずつの合計3組は係合部56を車両前後方向に挟む位置に設けられており、その間は庇部58bでつながっている。一対の脚部58aとその間をつなぐ庇部58bとは庇体58を構成している。つまり、各庇体58はそれぞれ係合部56に対応して3つ設けられている。
【0050】
本実施例で庇部58bおよび脚部58aの上辺は車幅方向長さが先端壁48aとほぼ同じである。庇部58bは先端壁48aおよび係合レバー56aとほぼ平行である。庇部58bは係合レバー56aからやや離れており、該係合レバー56aが第2段差54に係合する際の一時的な弾性変形を妨げない。庇部58bと係合レバー56aとの隙間幅は、先端壁48aおよび係合レバー56aの厚みと同じ程度である。
【0051】
庇部58bは中間部56bの上方位置を基準として車内方向および車外方向に同じ程度延在しており、該中間部56bおよび防水壁48の先端を上方から覆っている。このような庇部58bによれば、中間部56bと先端壁48aとの間およびその周辺部への被水が防止されてこれらの部分に水が溜まらない。また、庇部58bは上方からの工具などによる不正操作に対して係合部56を覆って保護することができる。
【0052】
上記のとおりドアラッチ装置10は車両前後方向を軸として傾斜する場合がある。このような場合、
図8の矢印で模式的に示すように中間部56bは庇部58bで覆われていることから被水しない。また、係合部56のうち庇部58bに覆われていない部分の被水は車内側に流れ落ちる。したがって、係合レバー56aの根元に相当する中間部56bと先端壁48aとの間に水が入り込んで溜まり、または突起42と先端壁48aとの隙間に浸入することを防止することができる。
【0053】
次に、ドアラッチ装置10における前方部分の防水構造について説明する。
図9は、ドアラッチ装置10における前方部分の断面平面図である。
図10は、ドアラッチ装置10における前方部分の断面側面図である。
【0054】
図9に示すように、ドアラッチ装置10の前方部分ではカバー側壁36がカプラー基部20よりやや前方に突出しており、シール座板22はカバー側壁36よりもさらに突出している。カバー側壁36からは小さい内部壁50および防水壁48が車外側に突出している。内部壁50はドアラッチ装置10の上方部(
図4参照)から前方部まで連続している。内部壁50はカプラー基部20に近い位置にあって、突出長さは防水壁48の1/3程度である。防水壁48はカバー側壁36の端部よりやや後方に設けられている。ドアラッチ装置10の上方部分(
図5参照)における防水壁48は段差形状であるのに対し、前方部分における防水壁48は直線状となっている。
【0055】
ドアラッチ装置10の前方部分におけるケース12は、前壁60がカバー側壁36の内面に対して当接箇所52で当接している。前壁60は上記の上壁38から連続する周壁の一部である。前壁60は幅の狭い先端部60aおよび幅の広い基端部60bとからなる。先端部60aは、幅が内部壁50と防水壁48との間にちょうど嵌り込む程度であり、長さは内部壁50より若干長い。基端部60bは幅が先端部60aの2倍程度である。先端部60aと基端部60bとの段差面は内部壁50の端面と狭い隙間を介して対向する。基端部60bと内部壁50とは後面がほぼ同一面を形成している。
【0056】
ドアラッチ装置10の前方部分におけるケース12には、防水壁48の外周側で車内方向の延在する外周側防水壁62が設けられている。外周側防水壁62は基端部62aが防水壁48よりもやや車外側の位置で前壁60とつながっている。外周側防水壁62の先端はシール座板22におけるシール貼付面22aと反対側である車外側面22bに当接している。このようにシール座板22は一方のシール貼付面22aがシール材26の貼付けに用いられ、他方の車外側面22bが外周側防水壁62との当接箇所64の形成に用いられ、両面が有効に利用されている。外周側防水壁62とカバー側壁36との間には狭い隙間がある。
【0057】
このような構成によれば、前壁60、防水壁48および外周側防水壁62の合計3枚の壁があり、しかもケース12とカバー14とは前壁60とカバー側壁36との当接箇所52および外周側防水壁62とシール座板22との当接箇所64の2か所で接しており、前方からの被水に対してハウジング内への水の浸入を防ぐことができる。また、当接箇所64からハウジングの内部までは、外周側防水壁62とカバー側壁36との隙間、防水壁48と前壁60との隙間、当接箇所52、先端部60aと内部壁50との隙間、および前壁60の段差部と内部壁50の端面との隙間によって形成される複雑なラビリンス構造が形成されており、水が浸入しづらい。外周側防水壁62の後方部分にはモータ24があり(
図1、
図10参照)、該モータ24を特に保護することができる。
【0058】
図10、
図2に示すように、防水壁48はドアラッチ装置10の前方上部で分岐した庇48cを形成している。庇48cは前方に向かって二段階に斜め下方に折れ曲がる形状である。外周側防水壁62は上端が庇48cの下部に嵌り込んでおり、外周側防水壁62より内周側に水が入り込まないようになっている。
【0059】
外周側防水壁62は、庇48cの下部に嵌り込んでいる上端部から防水壁48に沿って設けられ、上部62bは前方に向かって急角度の下向き傾斜しており、下部62cは鉛直向きとなっておりモータ24の前方部分まで延在している。外周側防水壁62は上部62bがシール座板22に当接しており、下部62cは上部62bより幅が狭くなっている。外周側防水壁62と防水壁48との間の隙間66(
図9参照)は、上部62bではシール座板22によって塞がれるが、下部62cでは前方に向かって開口している。また、カバー14にはケース12の一部と係合する係合部68がモータ24の前方部における防水壁48の下方延長上に設けられている。外周側防水壁62と前壁60との間には係合部68が配置されるための開口部(排水孔)70が形成されている。
【0060】
つまり、隙間66は外周側防水壁62の下部62cで車内側に開口するとともに、開口部70により車外側に開口し、これらは排水孔となっており、仮に該隙間66に水が入り込んでも外部に排水される。防水壁48と前壁60との隙間に入り込んだ水も同様に排水される。
【0061】
次に、ドアラッチ装置10における後方部分の防水構造について説明する。
図11は、ドアラッチ装置10における後方部分の一部拡大断面側面図である。
【0062】
図11、
図1に示すように、防水壁48は上方からラッチユニット16の直上部分まで延在している。防水壁48におけるこの部分を後方防水壁72とする。後方防水壁72により上方からの水を後方に滞留なく導くことができる。ドアラッチ装置10の後方部分におけるケース12には後壁74が後方防水壁72の内周側(前方)に設けられている。後壁74は上記の上壁38から連続する周壁の一部である。図示を省略するが後壁74はカバー側壁36に当接している。
【0063】
後壁74には下端に沿って外周側(後方)にやや突出する縁突起76が設けられている。縁突起76の突出幅は後方防水壁72の厚みと同じ程度である。後壁74の下端、つまり縁突起76はラッチユニット16の上面に当接している。後方防水壁72、縁突起76およびラッチユニット16の各後面は同一面を形成している。これらの後方防水壁72からラッチユニット16の上部にわたる範囲にはシール材32が貼られている。つまり、1共通のシール材32で後方防水壁72と縁突起76との境界部、および縁突起76とラッチユニット16との境界部とを兼用的に防水している。
【0064】
図1に示すように、縁突起76の車内側端部76aは下半分が切り欠かれた形状であり、該切欠部分は後方防水壁72の一部で埋められ、互いに噛合って車両上下方向に安定している。後方防水壁72の略中間高さで車内側の位置には小さい嵌合孔78が形成されている。嵌合孔78からは車内側に向かって広がる形状の浅い凹部80が形成されている。後壁には嵌合孔78に嵌合する低い嵌合突起82が設けられている。嵌合突起82の頂部は車内側が緩い傾斜面を形成しており、後方防水壁72の内面に摺動しながら嵌合孔78に対して嵌りやすくなっている。嵌合突起82が嵌合孔78に嵌って係合することにより、ケース12とカバー14とは後方部分で強く固定され、後壁74がカバー側壁36に確実に当接する。また、嵌合突起82と嵌合孔78とによる嵌合形態によれば、簡易構成で後方防水壁72の形状にほとんど影響を与えることがない。
【0065】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
10 ドアラッチ装置
12 ケース(第1ハウジング)
14 カバー(第2ハウジング)
16 ラッチユニット
18 カプラー
22 シール座板
22b 車外側面
24 モータ
26,32 シール材
34 ケース側壁
36 カバー側壁(側壁)
38 上壁(周壁)
42 突起
44 第1段差
48 防水壁
48a 先端壁
48b 基端壁
50 内部壁
52,64 当接箇所
54 第2段差
56 係合部
58 庇体
60 前壁(周壁)
62 外周側防水壁
70 開口部(排水孔)
72 後方防水壁
74 後壁(周壁)
78 嵌合孔
82 嵌合突起