(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155622
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241024BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070495
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 耕作
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA12
4F100AA17
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(57)【要約】
【課題】温度変化に対して優れた耐久性を発揮する化粧シートを提供すること。
【解決手段】本発明の化粧シート10は、印刷層14と、透明フィルム16と、樹脂コート層20とを備え、これらが、この順で積層された積層体で構成されるものであり、樹脂コート層20および透明フィルム16は、それぞれ、第1樹脂材料および第2樹脂材料を含み、化粧シート10は、マイクロスラリージェットエロージョン法を用いて、多角アルミナ粒子を化粧シート10に対して投射して化粧シート10の厚さ方向におけるエロージョン率を測定したとき、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフにおける、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域での傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であることを満足する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷層と、
透明フィルムと、
樹脂コート層とを備え、これらが、この順で積層された積層体で構成され、
前記樹脂コート層および前記透明フィルムは、それぞれ、第1樹脂材料および第2樹脂材料を含み、下記要件Aを満足することを特徴とする化粧シート。
要件A:当該化粧シートは、マイクロスラリージェットエロージョン法を用いて、シリコンウエハに対するエロージョン率が0.481μm/gとなる投射力で、平均粒子径D50が0.3μmである多角アルミナ粒子を、前記樹脂コート層側から当該化粧シートに対して投射して、前記多角アルミナ粒子を投射した位置の当該化粧シートの厚さ方向におけるエロージョン率[μm/g]を測定したとき、前記エロージョン率[μm/g]をy軸、前記エロージョン率を示す前記厚さ方向における位置であるエロージョン深さ[μm]をx軸とする、前記エロージョン率と前記エロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフにおける、前記樹脂コート層と前記透明フィルムとの間に位置する領域での傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であること。
【請求項2】
前記透明フィルムは、前記第2樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレートを含有する請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記樹脂コート層は、前記第1樹脂材料として、メラミン系樹脂を含有する請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記樹脂コート層は、その平均厚さが5.0μm以上30.0μm以下である請求項3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記樹脂コートは、さらに、艶消しフィラーを含み、その表面が前記艶消しフィラーの形状に追随した凸部を備える凹凸面で構成される請求項1に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記艶消しフィラーは、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびシリカのうちの少なくとも1種を含有する請求項5に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記樹脂コート層は、前記艶消しフィラーの含有量が10体積%以上50体積%以下である請求項5に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記艶消しフィラーは、そのメジアン径(D50)が7.0μm以上50.0μm以下である請求項5に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記積層体は、前記印刷層の前記透明フィルムとは反対側に積層された隠蔽層をさらに備える請求項1に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マンションのような住宅や、ビル、ホテル等のロビー、室内、オフィス、会議室およびエレベーター等の内壁や外装の施工においては、壁部の意匠性を高めるために、例えば、木目調、石目調や、ストライプ調等の模様を有する化粧シートを、壁部に貼付することが行われている。
【0003】
このような化粧シートとして、透明フィルムの裏面に、意匠性を有する印刷層が積層され、さらに、透明フィルムの表面に、透明フィルムを保護する樹脂コート層が積層された構成をなすものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
かかる構成をなす化粧シートでは、壁部に対する貼付後における、気温の変化に起因する温度変化により、樹脂コート層においてクラックや剥離が生じることに基づき、外観の低下を招くと言う問題があった。すなわち、かかる構成をなす化粧シートに、温度変化に対して、より優れた耐久性を付与することが求められているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、温度変化に対して優れた耐久性を発揮する化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)~(9)に記載の本発明により達成される。
(1) 印刷層と、
透明フィルムと、
樹脂コート層とを備え、これらが、この順で積層された積層体で構成され、
前記樹脂コート層および前記透明フィルムは、それぞれ、第1樹脂材料および第2樹脂材料を含み、下記要件Aを満足することを特徴とする化粧シート。
要件A:当該化粧シートは、マイクロスラリージェットエロージョン法を用いて、シリコンウエハに対するエロージョン率が0.481μm/gとなる投射力で、平均粒子径D50が0.3μmである多角アルミナ粒子を、前記樹脂コート層側から当該化粧シートに対して投射して、前記多角アルミナ粒子を投射した位置の当該化粧シートの厚さ方向におけるエロージョン率[μm/g]を測定したとき、前記エロージョン率[μm/g]をy軸、前記エロージョン率を示す前記厚さ方向における位置であるエロージョン深さ[μm]をx軸とする、前記エロージョン率と前記エロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフにおける、前記樹脂コート層と前記透明フィルムとの間に位置する領域での傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であること。
【0008】
(2) 前記透明フィルムは、前記第2樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレートを含有する上記(1)に記載の化粧シート。
【0009】
(3) 前記樹脂コート層は、前記第1樹脂材料として、メラミン系樹脂を含有する上記(1)または(2)に記載の化粧シート。
【0010】
(4) 前記樹脂コート層は、その平均厚さが5.0μm以上30.0μm以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の化粧シート。
【0011】
(5) 前記樹脂コートは、さらに、艶消しフィラーを含み、その表面が前記艶消しフィラーの形状に追随した凸部を備える凹凸面で構成される上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の化粧シート。
【0012】
(6) 前記艶消しフィラーは、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびシリカのうちの少なくとも1種を含有する上記(5)に記載の化粧シート。
【0013】
(7) 前記樹脂コート層は、前記艶消しフィラーの含有量が10体積%以上50体積%以下である上記(5)または(6)に記載の化粧シート。
【0014】
(8) 前記艶消しフィラーは、そのメジアン径(D50)が7.0μm以上50.0μm以下である上記(5)ないし(7)のいずれかに記載の化粧シート。
【0015】
(9) 前記積層体は、前記印刷層の前記透明フィルムとは反対側に積層された隠蔽層をさらに備える上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の化粧シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、気温の変化に起因する温度変化に対して優れた耐久性を発揮する化粧シートとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の化粧シートの実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】実施例1、比較例1の化粧シートにおける、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の化粧シートを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明の化粧シート10は、印刷層14と、透明フィルム16と、樹脂コート層20とを備え、これらが、この順で積層された積層体で構成されるものであり、樹脂コート層20および透明フィルム16は、それぞれ、第1樹脂材料および第2樹脂材料を含み、下記要件Aを満足する。
【0020】
要件A:化粧シート10は、マイクロスラリージェットエロージョン法を用いて、シリコンウエハに対するエロージョン率が0.481μm/gとなる投射力で、平均粒子径D50が0.3μmである多角アルミナ粒子を、樹脂コート層20側から化粧シート10に対して投射して、多角アルミナ粒子を投射した位置の化粧シート10の厚さ方向におけるエロージョン率[μm/g]を測定したとき、エロージョン率[μm/g]をy軸、前記エロージョン率を示す前記厚さ方向における位置であるエロージョン深さ[μm]をx軸とする、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフにおける、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aでの傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であること。
【0021】
このように、本発明では、要件Aにおいて、エロージョン率分布グラフにおける、前記傾きが-1.0/g以上0.0/g以下の範囲内の大きさに設定されており、これにより、気温の変化に起因した温度変化に基づき、樹脂コート層20において、クラックや剥離が生じるのを、的確に抑制または防止することができる。そのため、樹脂コート層20におけるクラックや剥離の発生に起因した外観の低下を、的確に抑制または防止することができる。よって、化粧シート10を、気温の変化に起因した温度変化に対して、優れた耐久性を発揮するものであると言うことができる。
【0022】
以下、化粧シート10について、このものを構成する各部(各層)について説明する。なお、以下では、化粧シート10が、印刷層14と、透明フィルム16と、樹脂コート層20との他に、さらに、印刷層14側に積層された隠蔽層12とを備える場合、すなわち、化粧シート10が、隠蔽層12と、印刷層14と、透明フィルム16と、樹脂コート層20とを備え、これらが、この順で積層された積層体で構成される場合を一例として説明する。
【0023】
(化粧シート10)
図1は、本発明の化粧シートの実施形態を示す縦断面図である。なお、以下では、説明の都合上、
図1の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0024】
(隠蔽層12)
隠蔽層12は、化粧シート10を、壁部に貼付した際に、壁部側に位置する最内層、すなわち、ユーザーにより視認される化粧シート10の表面と反対側に位置する最内層を構成する。
【0025】
この隠蔽層12が壁部側に位置する最内層を構成することにより、壁部、換言すれば、化粧シート10を施工する施工面を、隠蔽層12の壁部と反対側に位置する印刷層14に対して隠蔽することができる。その結果、壁部(施工面)が、樹脂コート層20側、すなわち化粧シート10の表面側から視認されるのを、的確に抑制または防止することができる。
【0026】
また、この隠蔽層12は、ユーザーが樹脂コート層20側から見る際に、後述する印刷層14との組み合わせに応じて、印刷層14が備える模様の視認性を向上させたり、色彩を変化させる機能をも有している。
【0027】
この隠蔽層12は、本実施形態では、樹脂フィルム12aと、金属蒸着層12bとからなり、樹脂フィルム12aが壁部側、金属蒸着層12bが印刷層14側に位置する積層体で構成される。
【0028】
樹脂フィルム12aは、樹脂材料(第4樹脂材料)を主材料として構成され、金属蒸着層12bを支持する基材として機能するものである。
【0029】
なお、本明細書中において、「主材料」とは、このものを含有する層(フィルム)を構成する構成材料のうち、50重量%以上含有する構成材料のことを言うこととする。
【0030】
この樹脂材料としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂および硬化性樹脂材料等が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン(COP)、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-12、ナイロン6-66)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン(poly-para-xylylene)、ポリモノクロロパラキシリレン(poly-monochloro-para-xylylene)、ポリジクロロパラキシリレン(poly-dichloro-para-xylylene)、ポリモノフルオロパラキシリレン(poly-monofluoro-para-xylylene)、ポリモノエチルパラキシリレン(poly-monoethyl-para-xylylene)等のポリパラキシリレン樹脂等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、本実施形態においては、樹脂材料は、熱可塑性樹脂、特に、ポリ塩化ビニルであることが好ましい。
【0031】
金属蒸着層12bは、樹脂フィルム12aの印刷層14側に積層して設けられ、隠蔽層12の主層として機能する。
【0032】
この金属蒸着層12bは、特に限定されないが、例えば、金属酸化物および金属窒化物等を主材料として構成されるものが挙げられる。また、金属酸化物および金属窒化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
金属蒸着層12bと樹脂フィルム12aとの積層体で構成される隠蔽層12の平均厚さ(層厚)は、特に限定されないが、好ましくは10.0μm以上300μm以下程度、より好ましくは50.0μm以上250μm以下程度に設定される。これにより、隠蔽層12としての機能を確実に付与することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、金属蒸着層12bは、樹脂フィルム12aの印刷層14側に形成される場合について説明したが(
図1参照)、金属蒸着層12bが形成される位置は、これに限定されず、樹脂フィルム12aの印刷層14と反対側に形成されていてもよい。
【0035】
また、かかる構成をなす隠蔽層12(金属蒸着層12bと樹脂フィルム12aとの積層体)は、隠蔽層12により、壁部(化粧シート10を施工する施工面)を、印刷層14に対して隠蔽する必要がない場合には、化粧シート10の最内層としての形成が省略されていてもよい。
【0036】
(印刷層14)
印刷層14は、木目調模様、石材調模様、ストライプ模様のような幾何学模様等の各種の模様を備え、化粧シート10の外観、審美性に大きな影響を与える層であり、ユーザーが樹脂コート層20側、すなわちユーザーが化粧シート10の表面から見る場合において、当該模様が視認される。したがって、この印刷層14の模様が、化粧シート10が貼付された壁部に対して付与される。
【0037】
印刷層14は、樹脂材料を主材料として、着色剤を含有しており、着色剤が印刷層14に含まれることで、木目調、石材調、筋目加工、各種幾何学模様等の各種模様が印刷層14に付与される。
【0038】
印刷層14に含まれる樹脂材料(第3樹脂材料)としては、例えば、樹脂フィルム12aで例示したものと同様の樹脂材料(第4樹脂材料)を挙げることができる。また、着色剤としては、各種の顔料、染料等を用いることができる。
【0039】
印刷層14の平均厚さ(層厚)は、特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上15.0μm以下程度、より好ましくは1.0μm以上5.0μm以下程度に設定される。これにより、印刷層14としての機能を確実に付与することができる。
【0040】
(透明フィルム16)
透明フィルム16は、樹脂コート層20と、印刷層14との間に位置する中間層であり、化粧シート10が、この透明フィルム16を備えることにより、化粧シート10により優れた可撓性を付与することができる。さらに、印刷層14で反射した光を透過させることで、樹脂コート層20側、すなわち化粧シート10のユーザーにより視認される表面から、印刷層14の模様をユーザーに視認させることができる。
【0041】
透明フィルム16は、樹脂材料(第2樹脂材料)を主材料として含有する。この樹脂材料としては、例えば、樹脂フィルム12aで例示したものと同様の樹脂材料(第4樹脂材料)を挙げることができ、中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリ塩化ビニルであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。これにより、透明フィルム16としての機能を確実に付与することができる。
【0042】
また、透明フィルム16の平均厚さ(層厚)は、特に限定されないが、好ましくは10.0μm以上300μm以下程度、より好ましくは50.0μm以上200μm以下程度に設定される。これにより、透明フィルム16としての機能を確実に付与することができる。
【0043】
(樹脂コート層20)
樹脂コート層20は、化粧シート10を、壁部に貼付した際に、壁部とは反対側に位置する最外層、すなわち、ユーザーが視認する側の表面(最外層)を構成し、さらに、透明フィルム16を保護する保護層としても機能する。
【0044】
この樹脂コート層20は、本実施形態では、艶消しフィラー18と、この艶消しフィラー18を樹脂コート層20に保持するバインダー樹脂としての樹脂材料(第1樹脂材料)とを含み、透明フィルム16と反対側の面に艶消しフィラー18の形状に追随した凸部20aを備える、透明フィルム16と反対側の面が凹凸面で構成されるものである。
【0045】
このように、樹脂コート層20の透明フィルム16と反対側の面を、凸部20aを備える凹凸面で構成することで、化粧シート10の表面を構成する樹脂コート層20において、反射する反射光が不本意に拡散するのを防止する拡散防止の効果を得ることができ、化粧シート10を、艶が抑制され審美性に優れるものとし得る。
【0046】
また、かかる構成をなす樹脂コート層20において、艶消しフィラー18は、その含有量が10体積%以上50体積%以下であることが好ましく、20体積%以上35体積%以下であることがより好ましい。
【0047】
樹脂コート層20における艶消しフィラー18の含有量を、前記範囲内に設定することで、
図1に示すように、樹脂コート層20の少なくとも一部おいて、艶消しフィラー18同士が、その厚さ方向で確実に重なることとなるため、樹脂コート層20の表面を、その表面に艶消しフィラー18の形状に追随した凸部20aを備える凹凸面で確実に構成することができる。したがって、化粧シート10を、艶が抑制され審美性に優れるものに、確実にすることができる。
【0048】
なお、前記艶消しフィラー18の含有量が10体積%未満であると、艶消しフィラー18のメジアン径によっては、艶消しフィラー18同士が、その厚さ方向で十分に重なることができず、その結果、樹脂コート層20の表面を、凸部20aを備える凹凸面で構成することができないおそれがある。
【0049】
さらに、前記艶消しフィラー18の含有量が50体積%を超えると、艶消しフィラー18のメジアン径によっては、艶消しフィラー18同士が、その厚さ方向で重なる領域が過剰に生じ、樹脂コート層20の表面に、必要以上に凸部20aが形成されることに起因して、化粧シート10の表面の艶を抑制する効果を、十分に得られないおそれがある。
【0050】
この場合、艶消しフィラー18は、メジアン径(D50)が好ましくは7.0μm以上50.0μm以下程度、より好ましくは8.0μm以上40.0μm以下程度、さらに好ましくは8.0μm以上18.0μm以下程度に設定される。
【0051】
また、樹脂コート層20は、その平均厚さ(層厚)が好ましくは5.0μm以上30.0μm以下程度、より好ましくは6.0μm以上25.0μm以下程度、さらに好ましくは8.0μm以上20.0μm以下程度に設定される。
【0052】
艶消しフィラー18のメジアン径(D50)および樹脂コート層20の平均厚さを、前記範囲内に設定することで、樹脂コート層20の少なくとも一部おいて、艶消しフィラー18同士が、その厚さ方向で重なりが生じた際に、重なりが生じた艶消しフィラー18の合計の厚さを、樹脂コート層20の厚さよりも、確実に大きく設定することができる。そのため、樹脂コート層20の透明フィルム16と反対側の面に、凸部20aをより確実に形成することができる。
【0053】
なお、本明細書中において、樹脂コート層20の「平均厚さ」は、その厚さ方向において、艶消しフィラー18に由来する凸部20aが形成されていない領域において測定された、樹脂コート層20の厚さの平均値のことを言うこととする。
【0054】
樹脂コート層20に含まれる樹脂材料(第1樹脂材料)としては、例えば、樹脂フィルム12aで例示したものと同様の樹脂材料(第4樹脂材料)を挙げることができるが、中でも、熱可塑性樹脂またはメラミン系樹脂であることが好ましく、また、熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂であることがより好ましい。これにより、樹脂材料にバインダー樹脂としての機能を確実に発揮させて、艶消しフィラー18を、樹脂コート層20に確実に保持させることができる。
【0055】
また、艶消しフィラー18は、樹脂材料または無機材料を主材料として構成されるが、この樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、無機材料としては、特に限定されないが、例えば、シリカが挙げられる。
【0056】
このような艶消しフィラー18としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン系樹脂粒子、ポリスチレン系樹脂粒子、シリカ粒子が挙げられる他、これらの樹脂とシリカとの複合粒子等が挙げられるが、中でも、アクリル系樹脂粒子またはメラミン系樹脂粒子であることが好ましい。これにより、印刷層14の視認性の向上を図ることができる。
【0057】
また、この艶消しフィラー18としては、具体的には、例えば、メタブレン(アクリル系樹脂粒子、三菱ケミカル社製)、タフチック(アクリル系樹脂粒子、東洋紡社製)、テクポリマー(アクリル系樹脂粒子、積水化成品工業社製)、テクポリマー(ポリスチレン系樹脂粒子、積水化成品工業社製)、シリカ粒子(デンカ社製)、エポスター(メラミン系樹脂粒子、日本触媒社製)、オプトビーズ(メラミン系樹脂・シリカ複合粒子、日産化学社製)等を挙げることができる。
【0058】
また、艶消しフィラー18は、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料との屈折率差が0.2以下の透明な材質からなるものを使用することが好ましい。ここで、艶消しフィラー18の屈折率が、艶消しフィラー18を保持する樹脂材料を主材料として構成される樹脂層(樹脂コート層20の艶消しフィラー18以外の部分)の屈折率と著しく相違していると、樹脂コート層20の透明度が低下することから、換言すれば、樹脂コート層20の鮮明度が低下することから、外観の意匠性が低下する。したがって、前記屈折率差を、0.2以下に設定することで、樹脂コート層20の外観の意匠性の改善を図ることができる。
【0059】
この場合、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料の屈折率は、好ましくは1.4以上1.7以下程度であり、また、樹脂コート層20と艶消しフィラー18との双方に好ましく用いられるメラミン系樹脂は屈折率が1.6程度であるので、艶消しフィラー18の屈折率は、好ましくは1.3以上1.8以下程度に設定される。これにより、艶消しフィラー18と、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料との屈折率差の大きさを、0.2以下に確実に設定することができる。
【0060】
さらに、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料の線膨張係数と、艶消しフィラー18の線膨張係数との差は、好ましくは10×10-5/℃以下、より好ましくは8×10-5/℃以下、さらに好ましくは5×10-5/℃以下に設定されている。前記線膨張係数の差が前記範囲内であれば、温度変化に対する艶消しフィラー18と樹脂コート層20に含まれる樹脂材料との伸縮度合いの差が小さく、樹脂コート層20が備える複数の凸部20aを維持することができる。そのため、化粧シート10において、表面の艶の抑制効果、防汚効果が得られる。
【0061】
以上のことを考慮すると、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料がメラミン系樹脂であり、艶消しフィラー18に含まれる樹脂がアクリル系樹脂である組み合わせ、または、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料が熱可塑性樹脂であり、艶消しフィラー18に含まれる樹脂がメラミン系樹脂である組み合わせであることが好ましい。
【0062】
なお、化粧シート10の艶を抑制する必要がない場合、すなわち、樹脂コート層20の透明フィルム16と反対側の面を、凸部20aを備える凹凸面で構成する必要がなく、平坦面で構成する場合には、樹脂コート層20は、艶消しフィラー18の添加が省略され、バインダー樹脂としての第1樹脂材料で構成されるものであってもよい。
【0063】
また、以上のような各層が積層された積層体で構成される化粧シート10は、かかる構成をなすものに限らず、例えば、隠蔽層12の印刷層14と対向する面とは反対側の面に、すなわち、隠蔽層12の樹脂フィルム12a側の表面に、接着層(図示せず)を備えるものであってもよい。これにより、接着剤等を化粧シート10に塗布する必要なく、化粧シート10を、壁部すなわち施工面に対して、直接、貼り付けることが可能な構成をなすものとし得る。
【0064】
ここで、化粧シート10の壁部に対する貼付後において、気温の変化に基づいて、化粧シート10が備える樹脂コート層20で、クラックや剥離が生じることに起因して、化粧シート10の外観の低下を招くと言う問題があった。
【0065】
本発明者らは、このような問題点に鑑み、検討を行った結果、上記のように、樹脂コート層20においてクラックや剥離が生じるのは、樹脂コート層20と、この樹脂コート層20の下層である透明フィルム16との間において、優れた密着力が得られていないことに基づくことが判ってきた。また、マイクロスラリージェットエロージョン法(MSE法)を用いた、化粧シート10の厚さ方向に対する、多角アルミナ粒子の投射により測定されるエロージョン率[μm/g]を、樹脂コート層20と透明フィルム16との間の領域aすなわち界面において測定することで、樹脂コート層20と透明フィルム16との間の領域a(界面)における接合(密着)の状態を知ることが可能であった。
【0066】
そして、本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、マイクロスラリージェットエロージョン法を用いて、シリコンウエハに対するエロージョン率が0.481μm/gとなる投射力で、平均粒子径D50が0.3μmである多角アルミナ粒子を、樹脂コート層20側から化粧シート10に対して投射して、多角アルミナ粒子を投射した位置の化粧シート10の厚さ方向におけるエロージョン率[μm/g]を測定したとき、エロージョン率[μm/g]をy軸、前記エロージョン率を示す前記厚さ方向における位置であるエロージョン深さ[μm]をx軸とする、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフにおける、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aでの傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であること(要件A)を、化粧シート10が満足することで、樹脂コート層20において、温度変化に基づきクラックや剥離が生じることに起因する、化粧シート10の外観の低下を的確に抑制または防止し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0067】
上記のように、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフにおける、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域a(界面)において、化粧シート10の厚さ方向(エロージョン深さ[μm])で測定されたエロージョン率[μm/g]に基づいて、例えば、最小二乗法を用いて線形近似して近似直線を求めたとき、この近似直線の傾きが、-1.0/g以上0.0/g以下の範囲内の大きさに設定されることで、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aが、樹脂コート層20から透明フィルム16へと緩やかに遷移(移行)する遷移層で構成されていると言うことができる。したがって、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aが、このような遷移層で構成されることで、結果的に、樹脂コート層20と透明フィルム16との間において、強い相互作用が得られていることとなる。よって、樹脂コート層20と透明フィルム16とを、優れた密着力をもって接合することができる。そのため、気温の変化に基づいて、樹脂コート層20において、クラックや剥離が生じるのを、的確に抑制または防止し得ることから、樹脂コート層20におけるクラックや剥離の発生に起因した外観の低下を、的確に抑制または防止することができる。したがって、化粧シート10は、気温の変化に対して、優れた耐久性を発揮する。
【0068】
また、本発明では、前記近似直線は、その傾きが-1.0/g以上0.0/g以下の範囲内の大きさに設定されればよいが、-0.6/g以上-0.3/g以下の範囲内の大きさに設定されるのが好ましい。これにより、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aにおいて、樹脂コート層20から透明フィルム16へとより緩やかに遷移する遷移層が形成されていると言えるため、前記効果がより顕著に発揮されることとなる。
【0069】
さらに、前記近似直線は、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域a、すなわち、遷移層において、そのエロージョン率の最大値および最小値が、ともに、好ましくは0.3μm/g以上3.0μm/g以下の範囲内の大きさ、より好ましくは0.5μm/g以上2.0μm/g以下の範囲内の大きさであることを満足しているのがよい。これにより、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aを構成する遷移層は、優れた強度を発揮するため、かかる観点からも、この遷移層において、温度変化に基づいて、クラックや剥離が発生するのを的確に抑制または防止することができる。
【0070】
また、化粧シート10の厚さ方向におけるエロージョン率[μm/g]の測定は、より詳しくは、以下のようにして実施される。
【0071】
すなわち、室温(25℃)×大気圧(1013hPa)の条件下に、化粧シート10を、樹脂コート層20が上側、透明フィルム16が下側となるように配置する。そして、この状態で、化粧シート10に対して垂直をなす垂直方向を投射方向として、化粧シート10(樹脂コート層20)の上側から、投射位置から樹脂コート層20の表面までの投射距離(離間距離)を4.0mmとして、平均粒子径D50が0.3μmである多角アルミナ粒子を、樹脂コート層20側から化粧シート10に対して投射する。
【0072】
このとき、多角アルミナ粒子の投射は、多角アルミナ粒子を微粒子として含む水分散液を化粧シート10に投射することにより実施され、この水分散液は、平均粒子径D50が0.3μmの多角アルミナ粒子を、精製水中に1.0質量%の含有量で分散させることで調製される。また、化粧シート10に対する多角アルミナ粒子の投射力は、シリコンウエハに対するエロージョン率が、0.481μm/gとなる大きさに設定される。なお、この投射力は、多角アルミナ粒子を含む水分散液の投射速度および投射圧力を適宜設定することで調整することができる。
【0073】
また、前記エロージョン率が測定される化粧シート10の厚さ方向における位置であるエロージョン深さ[μm]、すなわち、樹脂コート層20の透明フィルム16とは反対側の表面から投射部位までの深さは、触針式表面形状測定器を用いて、化粧シート10の平面視で、水分散液が着弾した位置の中央において測定され、さらに、エロージョン率[μm/g]は、エロージョン深さ[μm]と、このエロージョン深さ[μm]に到達する迄に要した投射粒子量[g]とに基づいて算出することができる。
【0074】
以上のように、要件Aを満足する化粧シート10、すなわち、エロージョン率分布グラフにおいて、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aでの傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であることを満足する化粧シート10は、例えば、化粧シート10の製造方法において、透明フィルム16上に樹脂コート層20を形成(積層)するのに先立って、透明フィルム16の樹脂コート層20を形成すべき表面に、コロナ処理のような親水化処理を施すことにより、得ることができる。以下、この親水化処理が適用された、化粧シート10の製造方法について説明する。
【0075】
(化粧シートの製造方法)
前述したような構成をなす化粧シート10は、例えば、隠蔽層12と、印刷層14と、透明フィルム16と、艶消しフィラー18を含む樹脂コート層20と、をこの順で積層することにより製造することができる。
【0076】
以下では、この順で各層を積層することで、化粧シート10を製造する、化粧シート10の製造方法について説明する。
【0077】
具体的には、本実施形態においては、化粧シート10の製造方法は、透明フィルム16の一方の面に印刷層14を印刷することで形成する工程aと、透明フィルム16の他方の面に樹脂コート層20を形成する工程bと、印刷層14を隠蔽層12の一方の面に積層する工程cと、を有し、さらに、隠蔽層12の他方の面に剥離層を形成する工程dを有している。
【0078】
<a> まず、工程aにおいては、透明フィルム16を用意し、その後、この透明フィルム16の一方の面に、各種印刷法により印刷層14を印刷することで形成することができる。
【0079】
この印刷法としては、特に限定されないが、例えば、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、タコ印刷法等を挙げることができる。インクは、固形分として、通常、着色剤を含む。着色剤としては、例えば、各種顔料や各種染料等を用いることができる。また、インクは、溶剤等を含んでいてもよい。
【0080】
<b> 次いで、工程bにおいては、透明フィルム16の印刷層14が形成された面とは反対側の面に、樹脂コート層20を形成する。
【0081】
この樹脂コート層20は、例えば、浸漬法(ディッピング)、スプレー法、キスコーター、コンマコーター、ロールコーター、ナイフコーター、ブレードコーター等の各種コーターを用いたコート法、各種印刷法等の各種方法により、樹脂コート層形成用組成物からなる層を透明フィルム16の面上に形成した後に、硬化反応を行うことにより樹脂コート層20を形成することができる。
【0082】
この工程<b>における、透明フィルム16の印刷層14とは反対側の面に対する樹脂コート層20の形成に先立って、本発明では、透明フィルム16の樹脂コート層20を形成すべき表面に、親水化処理を施す。
【0083】
これにより、透明フィルム16の樹脂コート層20を形成すべき表面の親水化がなされ、その結果、透明フィルム16の印刷層14とは反対側の面に樹脂コート層20を形成する際に、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aを、樹脂コート層20から透明フィルム16へと緩やかに遷移する遷移層で構成することができる。そのため、得られる化粧シート10を、要件Aを満足するものとして得ることができる。すなわち、化粧シート10を、エロージョン率分布グラフにおいて、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aでの前記傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であることを満足するものとして得ることができる。
【0084】
親水化処理としては、特に限定されないが、例えば、プラズマ処理、紫外線処理、オゾン処理、コロナ処理および溶剤塗布処理等の表面改質処理が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、コロナ処理であることが好ましい。コロナ処理によれば、透明フィルム16の表面の親水化を、比較的容易かつ均一に実施することができる。
【0085】
また、親水化処理が施された透明フィルム16の表面における親水化の程度は、例えば、透明フィルム16の表面における純水の接触角を測定することで知ることができ、この透明フィルム16の表面に対する純水の接触角は、例えば、60.0°以下であることが好ましく、5.0°以上55.0°以下であることがより好ましく、40.0°以上55.0°以下であることがさらに好ましい。これにより、透明フィルム16の表面が、適切に親水化がなされていると言え、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aでの前記傾きの大きさを、確実に-1.0/g以上0.0/g以下の範囲内に設定することができる。なお、純水の接触角は、例えば、接触角計を用いて測定し得る(協和界面科学社製、「DM-SA」、水1.5μLをフィルムに着滴して6秒後の値)。
【0086】
樹脂コート層20の形成に用いる樹脂コート層形成用組成物は、本実施形態では、樹脂コート層20に含まれる樹脂材料(第1樹脂材料)およびその前駆体のうちの少なくとも1種と、艶消しフィラー18とを含有する。
【0087】
樹脂コート層形成用組成物は、例えば、樹脂材料およびその前駆体のうちの少なくとも1種と、艶消しフィラー18と、必要に応じて溶剤等とを、公知の方法により混合して得ることができる。溶剤を用いることにより、当該組成物が艶消しフィラー18の形状に容易に追随し、凸部20aを効率的に形成することができる。さらに樹脂材料やその前駆体が溶解または分散するため、樹脂コート層形成用組成物の取り扱いが容易となる。また、透明フィルム16と樹脂コート層20との密着性を向上させることもできる。
【0088】
樹脂コート層形成用組成物中に含まれる溶剤としては、特に限定されないが、極性溶媒を好適に用いることができる。
【0089】
樹脂コート層形成用組成物中に含まれる溶剤としては、それぞれ、特に限定されないが、極性溶媒を好適に用いることができる。
【0090】
この極性溶媒としては、具体的には、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール性溶媒;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
さらに、樹脂コート層形成用組成物は、それぞれ、必要に応じて、触媒、離型剤、重合開始剤、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、消泡剤、増感剤(増感色素)等を含有していてもよい。
【0092】
<c> 次いで、工程cにおいては、印刷層14を隠蔽層12の金属蒸着層12b上に積層する。印刷層14と金属蒸着層12bとは、接着層を介して積層することもできる。
【0093】
<d> 次いで、工程dにおいては、隠蔽層12の樹脂フィルム12a上に接着層および剥離層を積層することもできる。化粧シート10を、かかる工程dを経たものとすることで、化粧シート10を、壁部のような施工面に施行する際に、化粧シート10から剥離層を剥がした後に、接着層を介して施工面に、直接、貼り付けることが可能なものとし得る。
【0094】
以上、本発明の化粧シートについて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、化粧シートを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
【0095】
例えば、前記実施形態では、隠蔽層12を、樹脂フィルム12aと金属蒸着層12bとから構成した例によって示したが、隠蔽層12は、かかる構成をなすものに限定されず、例えば、樹脂フィルム12aと、別途準備された金属層とを積層した積層体から構成することができ、または着色された樹脂フィルム12aのみからなる単独層で構成することができ、さらに内部空隙により白色化した樹脂フィルム12aからなる単独層で構成することもできる。
【実施例0096】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0097】
1.原材料の準備
まず、各実施例および比較例の化粧シート10の製造に用いた原材料を以下に示す。
【0098】
・樹脂コート層20を構成するメラミン系樹脂
メラミン系樹脂は、次の方法で合成した。まず、反応釜に原料メラミンとホルマリンとを所定配合比率で仕込み、触媒を添加後、沸点まで昇温して還流反応させた。メラミン溶解が完了したことを確認した上で、反応終点に達した後、脱水処理にて樹脂固形分を調製し冷却した。かかる方法によりメラミン系樹脂が合成された。
【0099】
・樹脂コート層20を構成する艶消しフィラー18
メラミン系樹脂粒子(日本触媒社製、「エポスター」、メジアン径(D50):9.0μm、屈折率:1.68、線膨張係数(10-5/℃):4)
【0100】
2.化粧シート10の製造
(実施例1)
まず、透明フィルム16として、インク受容層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。この透明フィルムは、厚さが38.0μmであった。
【0101】
次に、この透明フィルム16のインク受容層が設けられた面側に、インクジェット法により、所定のパターン(木目調のパターン)で印刷層14を形成した。
【0102】
木目調のパターンの印刷層14の形成に際しては、着色剤と、紫外線硬化型樹脂としてのアクリル系樹脂とを含むインクを用いることにより、外観が木目調のパターンとなるように調整を行った。また、インクジェット法によるインクの吐出後、透明フィルム16に着弾したインクに対して、紫外線を照射して硬化させた。これにより、厚さが3μmの印刷層14が形成された。
【0103】
次に、透明フィルム16の印刷層14が設けられた面とは反対の面に対してコロナ処理を施すことで、その表面の親水化を行った。なお、コロナ処理を施した面の表面、すなわち、樹脂コート層20を形成すべき面の表面における純水の接触角は、51.4°であった。
【0104】
次に、透明フィルム16の印刷層14が設けられた面とは反対の面側、すなわち、透明フィルム16のコロナ処理を施した面側に、メラミン系樹脂(反応モル比:1.4、樹脂固形分:50質量%)100体積%と、艶消しフィラー18(メラミン系樹脂粒子、日本触媒社製、「エポスター」)13体積%と、を含む樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した。その後、120℃の熱風乾燥機にて90秒間、塗膜を乾燥し、第1のBステージ層(Bステージの硬化性樹脂(メラミン系樹脂)および艶消しフィラー18(アクリル系樹脂粒子)を含む材料で構成された樹脂コート層20)を得た。
【0105】
以上により、印刷層14と、透明フィルム16と、Bステージ層(艶消しフィラー18を含む樹脂コート層20)と、が積層された積層体を得た。
【0106】
一方、酸化チタンを含む材料で構成された白色のポリ塩化ビニルフィルム(80μm、樹脂フィルム12a)の表面に、アルミニウムを抵抗加熱蒸着法で蒸着し金属蒸着層12b(厚み0.1μm)を形成し、隠蔽層12を得た。
【0107】
次に、得られた積層体の印刷層14を隠蔽層12の金属蒸着層12b上に積層し、140℃、2MPaの条件で40分間、得られた積層体を加熱加圧成形した。これにより、硬質樹脂材料で構成された樹脂コート層20(平均厚さ:10.0μm)、透明フィルム16(厚さ:38.0μm)、印刷層14(厚さ:3.0μm)、および隠蔽層12(厚さ:80.1μm)がこの順で積層されてなる実施例1の化粧シート10(メラミン化粧シート)を得た(
図1参照)。
【0108】
なお、各層の平均厚さ(μm)は、電子顕微鏡(日本電子社製、「JSM-7401F」)を用いて断面観察を行うことで計測した。
【0109】
また、樹脂コート層20は、その表面が、前記艶消しフィラー形状に追随した凸部20aを備える凹凸面で構成されていた。
【0110】
(実施例2)
透明フィルム16の印刷層14が設けられた面とは反対の面に対するコロナ処理の条件を変更して、コロナ処理を施した面の表面における純水の接触角が54.7°に設定されたものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の化粧シート10を製造した。
【0111】
(比較例1)
透明フィルム16の印刷層14が設けられた面とは反対の面に対するコロナ処理を省略して、コロナ処理が省略された面の表面における純水の接触角を、68.0°としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の化粧シート10を製造した。
【0112】
3.評価
各実施例および比較例の化粧シート10を、以下の方法で評価した。
【0113】
<化粧シート10のMSE法によるエロージョン率の測定>
まず、室温(25℃)×大気圧(1013hPa)の条件下に、各実施例および比較例の化粧シート10を、樹脂コート層20が上側、透明フィルム16が下側となるように配置した。そして、この状態で、MSE試験装置(パルメソ社製、「A203」)を用い、化粧シート10に対して垂直をなす垂直方向を投射方向として、化粧シート10(樹脂コート層20)の上側から、投射位置から樹脂コート層20の表面までの投射距離(離間距離)を4.0mmとして、平均粒子径D50が0.3μmである多角アルミナ粒子を、樹脂コート層20側から化粧シート10に対して投射した。
【0114】
このとき、多角アルミナ粒子の投射は、口径1mmのノズルを用いて、多角アルミナ粒子を微粒子として含む水分散液を、化粧シート10に投射することにより実施した。また、この水分散液としては、平均粒子径D50が0.3μmの多角アルミナ粒子を、精製水中に1.0質量%の含有量で分散させることで調製したものを用いた。さらに、口径1mmのノズルから投射する化粧シート10に対する多角アルミナ粒子の投射力は、シリコンウエハに対するエロージョン率が、0.481μm/gとなる大きさとした。
【0115】
さらに、エロージョン深さ[μm]、すなわち、樹脂コート層20の透明フィルム16とは反対側の表面から投射部位までの深さは、触針式表面形状測定器(パルメソ社製、「PU-EU2」)を用いて、化粧シート10の平面視で、水分散液が着弾した位置の中央において測定した。
【0116】
このとき、触針式表面形状測定器が備える接触子として、先端Rが2.0μmのものを用い、接触子による荷重を150μNに設定した。また、この接触子を用いた触針式表面形状測定器の測定条件を、それぞれ、計測倍率:10000倍、測長:3.0mm、および計測速度:0.2mm/secに設定した。そして、エロージョン率[μm/g]を、測定されたエロージョン深さ[μm]と、このエロージョン深さ[μm]に到達する迄に要した投射粒子量[g]とに基づいて算出した。
【0117】
以上のようにして得られたエロージョン率[μm/g]について、エロージョン率[μm/g]をy軸、エロージョン深さ[μm]をx軸とする、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフを作成した。そして、このロージョン率分布グラフにおいて、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域a(界面)における、エロージョン深さ[μm]と、このエロージョン深さ[μm]で測定されたエロージョン率[μm/g]とについて、最小二乗法を用いて直線に線形近似することで、この直線(近似直線)の傾きを求めた。
【0118】
<化粧シート10の温度変化に対する耐久性評価>
各実施例および比較例の化粧シート10について、それぞれ、60℃・90%RHの条件下に3時間配置した後に、-10℃の条件下に3時間配置することを1サイクルとして、これを61サイクルまで実施する耐久性試験を実施した。
【0119】
この耐久性試験における、20サイクル後、35サイクル後、45サイクル後おより61サイクル後について、それぞれ、その外観(クラックの有無)、および、樹脂コート層20の剥離の有無を、目視にて確認し、確認された結果を、以下の評価基準に従って評価した。
【0120】
・評価基準
各サイクル後の化粧シート10において、
A:クラックの発生および樹脂コート層20の剥離が共に認められない。
B:クラックの発生のみを認めるものの、化粧シートとしての使用に問題はない。
C:明確なクラックの発生が認められ、化粧シートとしての使用に影響を及ぼす。
D:クラックの発生および樹脂コート層20の剥離が共に認められ、
明らかに化粧シートとして使用できるものではない。
【0121】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の化粧シート10における評価結果を、それぞれ、下記の表1および
図2に示す。なお、
図2は、実施例1、比較例1の化粧シートにおける、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すエロージョン率分布グラフである。
【0122】
【0123】
表1および
図2に示したように、実施例1、2では、エロージョン率分布グラフにおける、樹脂コート層20と透明フィルム16との間に位置する領域aでの傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であること、すなわち要件Aを満足しており、これにより、温度変化に基づき、樹脂コート層20において、クラックや剥離が生じるのを、的確に抑制または防止し得る結果を示した。
【0124】
これに対して、比較例1では、前記領域aでの傾きの大きさが-1.0/g以上0.0/g以下であること、すなわち要件Aを満足しておらず、そのため、温度変化に基づき、樹脂コート層20において、クラックや剥離が生じてしまうことが明らかとなった。