(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155639
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】新型マグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023077492
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】523168722
【氏名又は名称】森 幸信
(71)【出願人】
【識別番号】523168733
【氏名又は名称】株式会社ヤマシン
(72)【発明者】
【氏名】森 幸信
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA02
5H032AS02
5H032AS11
5H032BB02
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE06
5H032EE15
5H032EE17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】資源不足,コスト高、深刻な環境汚染、低い安全性(過熱・炎上・爆発の危険性;可燃性有機溶材使用のため)を全て解決した、リチウムイオン電池に代わる次世代電池を提供する。
【解決手段】ニッケル酸化物でなる正極と、マグネシウム合金でなる負極と、前記正極と負極の間に設けられたセパレータと、前記正極と負極の間に充填されるアルカリ性の電解質とからなり、該電解質がマグネシウムイオンとキレートを作るリガントを含むことを特徴とする新型マグネシウム二次電池である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化物でなる正極と、
マグネシウム合金でなる負極と、
前期正極と負極の間に設けられたセパレータと、
前記正極と負極の間に充填されるアルカリ性の電解質とからなり、
該電解質がマグネシウムイオンとキレートを作るリガントを含むことを特徴とする
[新型マグネシウム二次電池]。
【請求項2】
前記リガンドが、エチレンジアミン四酢酸であることを特徴とする請求項1に記載の[新型マグネシウム二次電池]。
【請求項3】
前記負極の周囲には、貴金属触媒を担持したナノ・カーボンの微粒子を付着させた触媒層を有することを特徴とする請求項1に記載の[新型マグネシウム二次電池]。
【請求項4】
前記負極はカルシウムを含有した難燃性マグネシウム合金であることを特徴とする請求項1に記載の新型マグネシウム二次電池。
【請求項5】
前記正極は水酸化ニッケルを焼結した多孔質の成形体であることを特徴とする請求項1に記載の[新型マグネシウム二次電池]。
【請求項6】
前記正極とセパレータの間には活性炭の層が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の ・マグネシウム電池。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[新型マグネシウム二次電池]に係り、より詳しくは、ニッケル酸化物でなる正極と、マグネシウム合金でなる負極と、正極と負極の間に設けられたセパレータと、アルカリ性の電解質とからなり、電解質がマグネシウムイオンとキレートを作るリガントを含むことを特徴とする[新型マグネシウム電池]に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電気機械は、利便性を高めるために、小型化、軽量化、薄型化、および高機能化が年々着実に進んでおり、これに伴い、これらの機器の電源として用いられる電池には、小さく、軽く、薄型で、高容量、特に充電可能な二次電池であることが求められてきた。
このような要求に応えた小型二次電池がニッケル・カドミウム蓄電池(ニッカド電池)の2.5倍の電気容量(重量エネルギー密度が60~120Wh/kg、体積エネルギー密度が140~200Wh/L)を持ったニッケル・水素充電池であった。これは正極材料にニッケル、負極材料に水素吸蔵合金であるミッシュメタルを使用するNi-MHタイプと呼ばれるものであった。その後さらに電気容量の大きなリチウムイオン二次電池が開発されたため、携帯機器分野ではシェアーを奪われたが、乾電池の分野ではニッカド電池に代わり主流になっている。電気自動車・ハイブリッドカーの分野ではさらに大型のニッケル・水素充電池が開発され、水素を高圧タンクに貯蔵し水素を陰極に共有するNi-Hタイプが検討されている。車載用のニッケル・水素充電池は、体積エネルギー密度が小さいため、大容量の電気を得ようとすると、その形状が大きくなる問題がある。
ニッケル・水素充電池が自動車のモータの駆動電源として使用される理由は後述するリチウムイオン充電池より爆発の危険性が少ないからである。一方、ニッケル・水素充電池の最大の欠点は、ニッケル・水素蓄電池に継ぎ足し充電すると放電中に、一時的に電圧が降下するメモリー現象を起こすことであり、そのため、充電のたびに終止電圧まで急速放電してから再び充電しなければならないことである。
【0003】
ニッケル・水素充電池に続いて登場したのがリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム遷移金属複合酸化物、負極に炭素材料、電解質に有機溶媒などの非水電解質を用い、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や重量エネルギー密度(100~243Wh/kg)及び3倍の体積エネルギー密度(250~456Wh/L)であり、瞬く間に電子・電気器具分野ではニッケル水素電池を席巻した。しかしながら、エネルギー密度が高いゆえに、充電時に異常発熱し、発火事故まで起こしたため、その対策を迫られている。
【0004】
他方、負極に金属マグネシウムを使用し、正極に空気中の酸素を使用する空気マグネシウム電池がある。空気電池および燃料電池の一種であり、電池の放電によって生成される水酸化マグネシウムを太陽熱を利用してマグネシウムに再生すれば、「マグネシウム循環社会」となる旨の構想が提案され注目をあつめたが、未だ完成の域に達していない。これからである。発生する水酸化マグネシウムが電解質に溶解しやすくするための補助剤を加えることで回避する方策や(特許文献1、2参照)や電極にマグネシウムにカルシウムを混ぜた合金を使用し、水酸化物イオンをカルシウムがマグネシウムから奪い不導態の形成を抑制する試みがなされているが、いずれの試みも十分な効果を上げるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2008-191821号公報
【特許文献2】特開2009-064730公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来のリチウムイオン二次電池よりも電気容量が大きく、小型化が可能で、リチウム二次電池よりも安全、安価な[新型マグネシウム二次電池]を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた、本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、ニッケル酸化物でなる正極と、マグネシウム合金でなる負極と、正極と負極の間に設けられたセパレータと、正極と負極の間に充填されるアルカリ性の電解質とからなり、電解質がマグネシウムイオンとキレート錯体を作るリガンドを含むことを特徴とする。
【0008】
リガントが、エチレンジアミン四酢酸であることが好ましい。
負極の周囲には、貴金属触媒を担持したナノ・カーボンの微粒子を付着させた触媒層を有することがよい。
負極はカルシウム、鉄、亜鉛等を含有した難燃性マグネシウム合金であることができる。
【0009】
正極は水酸化ニッケル、ナノ・カーボン、二酸化マンガン等を焼結した多孔質の成形体であることがよい。
正極はセパレータの間には活性炭の層が形成されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、マグネシウム空気電池の最大の問題点であった不導態の形成を、アルカリ性の電解質にマグネシウムとキレート錯体を形成するリガンドを配合することで防止し、従来のリチウムイオン二次電池よりも電気容量が大きい二次電池を提供することができる。
体積エネルギー密度を大きくすることでバッテリーを小型化することができ、電気自動車やハイブリッドカーだけでなく再生エネルギーの蓄電池、人工衛星や宇宙探査機にとっても好適なバッテリーを提供できる。
本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、負極の周囲に貴金属触媒を担持したナノ・カーボン微粒子の触媒層を設けることにより、負極のマグネシウムと電解質の水との反応により発生する水素(H2)を水素イオン(H+)と電子(e-)とに分解し、電池セル内に水素ガスを蓄積することを防止するため、セルの膨張を阻止し、液漏れ等の事故を未然に防止することができる。
本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、正極とセパレータの間にナノ化された活性炭素を設け、充 電時に正極及び負極での激しい酸化・還元反応を緩衝して、安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である角型の[新型マグネシウム二次電池]の断面図である。
【
図2】エチレンジアミン四酢酸(EDTA)によるマグネシウムイオンのキレート錯体の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、スマホ、デジタルカメラ・ビデオ、携帯音楽プレーヤー、ノートパソコンの専用電池等の各種電子、電気機器類用の二次電池、電気自動車やハイブリッドカーのモータや内装機器類を駆動する二次電池等、又、再生エネルギーの蓄電池、人工衛星や宇宙探査機にまでに利用できる[新型マグネシウム二次電池]に関する。
本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、上に列記した多くのニーズに応えられるように多様な形状で提供することができる。例えば、単一形、単二形、単三形、単四形、ボタン形、角形、箱形、その他産業用の特殊品がある。
本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、ニッケル酸化物,ナノ・カーボン、二酸化マンガンからなる正極と、マグネシウム合金(マグネシウム、鉄、亜鉛)からなる負極と、正極と負極の間に設けられたセパレータと、正極と負極の間に充填されるアルカリ性の電解質とからなり、電解質がマグネシウムイオンとキレートを作るリガンドを含むことを特徴とする。
図1は本願発明の一実施形態である角型の[新型マグネシウム二次電池]の断面図である。
図1において、符号1は[新型マグネシウム二次電池]、10は正極、20は負極と、30はセパレータ、40は電解質、50は触媒層、60は活性炭の層である。
【0013】
正極10はニッケル酸化物,からなる多孔質成形体である。正極10では負極20で発生した電子(e-)がセルの中を移動し、正極10で電子(e-)と空気中の酸素(O2)と反応させる。この場合、酸素(O2)の取り込みが律速段階となるため、正極は酸素を吸収しやすくするように多孔質であることが好ましい。
正極10に使用されるニッケ酸化物としては、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、酸化水酸化ニッケル(NiOOH)又は酸化ニッケル(NiO),ナノ・カーボン(C)、二酸化マンガン(Mno2)が挙げられる。
電極に鋳造方法として特に制限はないが、セラミックスの成形・焼結法が応用できる。
例えば、ニッケル酸化物の粉体を金型に入れて加圧成形し、焼結炉の中で焼き固めればよい。また、合成樹脂を溶融しニッケル酸化物の粉体を混合した混合物を射出成型した成形品を加熱焼結して樹脂を除去する方法も利用できる。
【0014】
負極20は金属マグネシウム(Mg)、鉄(Fe),亜鉛(Zn)からなり、放電時には、その表面においてアルカリ性の電解質40と反応して、マグネシウムイオン(Mg2+)と電子(e-)になる。
電子(e-)はセル内を正極10に向かって移動する。負極20は純度99%以上の金属マグネシウム(Mg)で製造することも可能であるが、軟弱で硬度不足になる虞があるため、通常は2~10%のアルミニウム(AI)と1%程度の鉄(Fe)亜鉛(Zn)を混合した合金が使用される。負極から溶出したマグネシウムイオン(Mg2+)は周囲の水酸化物イオン(OH-)と反応して難溶性の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)となり不動態を形成する。
不動態の形成を妨害するために、負極20はカルシウムを含有した難燃性マグネシウム合金であることが好ましい。カルシウムの混合量は負極20の重量に対し通常1~5%程度である。カルシウムの混入量が1重量%未満では、不動態形成を妨害する効果が十分得られない虞があり、5%を超えると電極が脆くなりひび割れを起こす虞がある。
カルシウム(Ca)はマグネシウム(Mg)よりもイオン化傾向が小さいためマグネシウム(Mg)よりもイオン化しやすい。このため水酸化物(OH-)をマグネシウム(Mg)より奪うことができるため、水酸化物イオン(OH-)が結びつく相手を変えた瞬間に電極のマグネシウム(Mg2+)が溶け出し、不動態の形成を遅らせることができる。
【0015】
負極20と正極10の間にはセパレータ30が設けられる。セパレータ30は負極側と正極側を区分するために設けられるもので、放電時には電子(e-)が負極側から正極側へ移行し、充電時には正極側から負極側へ電子(e-)が移行する。このため、セパレータ30は非極性の多孔質膜であることが好ましい。
セパレータ30に使用される素材としては、ガラスウール、ロックウール、スラッジウ―ル等の無機繊維を原料とした不織布、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート、ポリウレタン等の合成繊維を原料とした織布又は不織布、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素化樹脂やセルロースアセテートを原料としたメンブランフィルター、セルロース等の天然素材を原料とした綿布又は和紙、を挙げることができる。
中でも、純粋なセルロースでなる和紙は、[新型マグネシウム二次電池]1のセパレータ30として好ましく使用できる。
【0016】
正極10と負極20の間には電解質40が充填される。電解質40にはアルカリ性の水溶液が使用される。酸性の電解質では電極のマグネシウム(Mg)と反応し水素(H2)を発生して自己放電してしまう。
アルカリ性の電解質40は塩基性化合物を水に溶解すればよい。使用される塩基性物質としては水溶性がアルカリ性を示すものであれば特に制限はないが、価格及び入手のしやすさから、通常、水酸化カリウム(KOH)、又は水酸化ナトリウム(NaOH)が使用され、その濃度は0.3~32%である。
アルカリ性の電解質40を使用すると、マグネシウム(Mg)と水酸化物イオン(OH-)とが反応して水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)と電子(e-)が生成する。電子(e-)は正極10に向かって移動するが、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)は水溶解度が低く100mLの水に1.2mgしか溶解しないため、負極の表面に水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)が析出する。これが不動態になり反応が停止する。
この問題を解決するために、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を水に溶解させる補助剤の研究も行われているが、未だ実用化できるものは開発されていない。
本願発明は、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を溶解させるのではなく、マグネシウムイオン(Mg2+)をキレート錯体として電解質の系外に隔離することにより不導体形成を防止したものである。
【0017】
本発明の[新型マグネシウム二次電池]1の電解質40はマグネシウムイオン(Mg2+)とキレートを作るリガンド(配位子)を含むことを特徴とする。キレートとは、複数の配位座を持つリガンド(配位子)による金属イオンへの結合である。キレート結合でできている化合物をキレート錯体と呼ぶ。マグネシウムイオン(Mg2+)のキレート錯体は、錯体分子(Mg2+)の中心にマグネシウムイオン(Mg2+)が位置し、それを共有電子を持つリガンド(配位子)が取り囲んで錯化合物を形成する。キレート錯体は配位子が複数の配位座を持って金属を包み込んでいるため、配位している物質から金属を分離しにくくなる。これをキレート効果といい、マグネシウムイオン(Mg2+)を電解質溶液の系外に隔離する原理である。
金属キレートには、金属の性質により配位子の数が2、4又は6と決まっており、マグネシウム(Mg)は6である。このためマグネシウムイオン(Mg2+)のキレート錯体の構造は正八面体を取る。正八面体を形成する六座配位子のリガンド(配位子)として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA:(HOCOCH2)2NCH2CH2N(CH2COOH)2)が知られている。
【0018】
図2にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)によるマグネシウムイオン(Mg
2+)のキレート錯体の構造を示した、マグネシウムイオン(Mg
2+)はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の2つの窒素(N)と4つの酸素(O)によって配位されている。
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)はアルカリ水溶掖に自由に溶解する。本発明の電解質中のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の濃度は、0.5~50重量%であり、好ましくは3~30重量%であり、より好ましくは6~24重量%である。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の濃度が0.5重量%未満ではキレートを作れるマグネシウムイオン(Mg
2+)の量が少なく、不動態の生成を十分に抑制できない虞がある。一方、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の濃度が50重量%以上になると、電解質40に溶解している水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)が析出し始めるため電解質の機能が低下する虞がある。
【0019】
マグネシウム(Mg)の粉末は水と反応して激しく水素(H2)を発生する。負極20を形成するマグネシウム(Mg)は金属塊のためアルカリ性の電解質40と激しく反応することはないが、穏やかに反応して水素(H2)を発生する。発生した水素(H2)はセルの中に滞留するため電池の性能を劣化させる虞があり、さらに、セル内に水素ガスが蓄積するとセルが膨張し液漏れを起こす虞がある。電池性能の劣化及び液漏れ事故を防止するために、負極20の周囲に触媒を担持したカーボンの微粒子でなる触媒層50が形成されることがよい。
負極20の周囲に形成された触媒層50は、負極20のマグネシウム(Mg)と電解質40の水の反応によって生じた水素(H2)を、水素イオン(H+)と電子(e-)とに変換し、水素イオン(H+)は電解質40の水酸化物イオン(OH-)と反応させて水(H2O)とし、電子(e-)は正極10に移動させる。
負極20の周囲に形成される触媒層50に担持される触媒は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)等の貴金属を含む触媒より選ばれた1種以上であることが好ましい。貴金属触媒は金属の微粒子であってもよく、また、貴金属触媒を配位結合したキレート触媒であってもよい。中でも、酸化白金(PtO2)の微粒子(アダムス触媒)を還元してできる白金黒触媒が好ましく利用できる。触媒のカーボンへの担持方法は、例えば、塩化白金酸(H2PtCl6)または塩化白金酸アンモニウム((NH4)2PtCl6)を硝酸ナトリウム(NaNO3)に溶融させた状態でナノ・サイズのカーボンに浸漬して白金を担持させた後、水洗して硝酸塩を除去して酸化白金(PtO)とし、水素(H2)又はホルムアルデヒド(HCHO)で還元して白金黒(Pt)を調整すればよい。
触媒を担持したカーボンは負極20の表面に水又は500℃以下の沸点を有する液体を介して塗布され、アルゴン(Ar)又は窒素(N2)雰囲気下でマグネシウム合金の融点付近(500~1000℃)で焼成することにより負極20の表面に触媒層を定着することができる。
触媒層50に含まれる触媒の量は、負極20重量の0.001%程度である。
【0020】
正極10とセパレータ30の間には活性炭の層60が形成される。この活性炭の層60はセルの構造を維持する支持体であると同時に負極20より移動してくる電子(e-)のプールである。
本発明の[新型マグネシウム二次電池]1の律速段階は正極10における酸素(O2)の取り込みにある。このため負極20で生成し、正極10に移動した電子(e-)は酸化される順番を待つことになる。活性炭は導電性のSP2結合型炭素と不導電性のSP3結合型炭素の混合物であり、全体としては不導電性である。SP3結合型炭素の端部は、結合相手がいない共有結合枝が数多く存在しており、この末結合枝が待機中の電子(e-)を滞留するものと考えられる。
正極10とセパレータ30の間の活性炭の層60は正極10及ぶ負極20に供給される電子(e-)の量を調整するため、充電時に正極10及び負極20で起きる激しい酸化・還元反応を緩衝することにより、安全性を確保することができる。
【0021】
本発明の[新型マグネシウム二次電池]1の放電時及び充電時に起きる化学反応を化学式で示すと次のとおりである。
〔放電〕
・負極 Mg+20H- -> Mg(OH)2+2e-
・電解質 Mg(OH)2+EDTA -> EDTA-Mg2++2OH-
・正極 O2+2H2O+4e- -> 4OH-
〔充電〕
・正極 NiOOH+H2O+e- -> Ni(OH)2+OH-
・電解質 EDTA-Mg2++2e- -> Mg+EDTA
・負極 Mg(OH)2+2e- -> Mg+2OH-
放電時、負極20においては、マグネシウム(Mg)と電解質中の水酸化物イオン(OH-)とが反応して水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)と電子(e-)になる。電子(e-)は電解質40の中を正極10に向かって移動する。
水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)によりマグネシウムイオン(Mg2+)のキレート錯体(EDTA-Mg2+)となり、電解質40の中に存在しているイオンとの相互作用は極端に小さくなる。
放電時、正極10においては、大気中の酸素(O2)と電解質中の水(H2O)と、負極20から移動してきた電子(e-)が一緒になり水酸化物イオン(OH-)になる反応が起きる。
一方、充電時に正極10では供給された電子(e-)を使い、酸化水酸化ニッケル(NiOOH)が水酸化ニッケル(Ni(OH)2)になり、電解質中ではキレート錯体(EDTA-Mg2+)として存在していたマグネシウムイオン(Mg2+)が供給された電子(e-)と結びついて金属マグネシウム(Mg)となり、キレート錯体(EDTA-Mg2+)を形成していたエチレンジアミン四酢酸(EDTA)はマグネシウムイオン(Mg)を放出してフリーの状態となる。
充電時、負極20においては水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)が供給された電子を使い、金属マグネシウム(Mg)と水酸化物イオン(OH-)に変換される。
【実施例0022】
以下に、本発明の[新型マグネシウム二次電池]の実施例について説明する。
正極
水酸化ニッケル(住友金属鉱山株式会社製:ニッケル粉)、カーボン、二酸化マンガンを粉砕乾燥して調整した酸化
水酸化ニッケルの微粉末を加圧成形して多孔質のニッケル板を作成し、これをプレス加工して幅100mm、縦1000mm、横1500mmの箱型の容器(セル)を作成した。
これを210℃、窒素雰囲気下で焼結して正極とした。
負極
カルシウムを4%、アルミニウムを7%、鉄1%亜鉛を1%含む難燃性マグネシウム合金(株式会社栗本鐵工所製)の板(厚さ1.25mm)から縦950mm、横1450mmの長方形に切り出し負極とした。
触媒層
塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O:米山薬品工業株式会社製)を硝酸ナトリウム(NaNo3:和光純薬株式会社製)に溶融し、カーボンブラック(三菱化学株式会社製、銘柄:No.44)に浸漬して白金を担持させた後、水洗して硝酸塩を除去して酸化白金(PtO)とし、ホルムアルデヒド(HCHO:和光純薬株式会社製)に浸漬した。60℃で1時間拡販して還元して白金黒(Pt)を調製した。この懸濁液に負極の両面に塗布した後、500℃で窒素雰囲気下で加熱して触媒層を定着させた。
【0023】
セパレータ
表面に触媒層を定着させた負極は、手漉き和紙(美濃紙)で包装され、正極のニッケル酸化物でできたセルの中心に配された。
電解質
脱イオン水に水酸化カリウム(和光純薬株式会社製)とエチレンジアミン四酢酸(EDTA:東京化成工業株式会社製)を溶解し、24重量%水酸化カリウムと16%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むアルカリ性の電解質を調整した。このアルカリ性の電解液に、活性炭(クラレケミカル株式会社製、製品名:クラレコール(登録商標)、銘柄:PW、標準粒度:100μm以下)を懸濁させて、正極と負極の間のスペースに流し込み、電解質を含浸した活性炭層を形成した。
【0024】
正極と負極に端子となるリードを設け電流計、電圧計及び抵抗を接続して発電量を測定した。
その結果、本発明の[新型マグネシウム二次電池]は、重量エネルギー密度が515Wh/kg、体積エネルギー密度が650Wh/Lが得られ、従来のリチウムイオン二次電池の2倍以上の電力容量を有することがわかった。