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特開2024-155654廃棄物の燃焼制御方法および廃棄物の燃焼制御装置
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  • 特開-廃棄物の燃焼制御方法および廃棄物の燃焼制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155654
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】廃棄物の燃焼制御方法および廃棄物の燃焼制御装置
(51)【国際特許分類】
   F23G 5/50 20060101AFI20241024BHJP
   F23C 9/08 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F23G5/50 R
F23G5/50 N
F23C9/08 402
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099105
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2023069360
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 翔汰
(72)【発明者】
【氏名】奥村 拓也
【テーマコード(参考)】
3K062
3K065
【Fターム(参考)】
3K062AA02
3K062AB01
3K062AC01
3K062CB01
3K062CB10
3K062DA22
3K062DA27
3K062DA36
3K062DB17
3K065TA01
3K065TC01
3K065TC04
3K065TD06
3K065TL02
3K065TN03
(57)【要約】
【課題】廃棄物焼却炉における燃焼変動に伴うNOx濃度の変動を抑制することができる廃棄物の燃焼制御方法を提供する。
【解決手段】燃焼室にて廃棄物を燃焼させて発生した排ガスの一部を、再循環排ガスとして燃焼室に供給する、廃棄物の燃焼制御方法であって、少なくとも排ガス中の酸素および水分の成分濃度から廃棄物の発熱量を算出するステップと、廃棄物の発熱量に基づいてボイラ蒸発量を算出するステップと、算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、再循環排ガスの流量を制御するステップと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室にて廃棄物を燃焼させて発生した排ガスの一部を、再循環排ガスとして前記燃焼室に供給する、廃棄物の燃焼制御方法であって、
少なくとも排ガス中の酸素および水分の成分濃度から廃棄物の発熱量を算出するステップと、
前記廃棄物の発熱量に基づいてボイラ蒸発量を算出するステップと、
算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、前記再循環排ガスの流量を制御するステップと、を含む、廃棄物の燃焼制御方法。
【請求項2】
前記廃棄物の発熱量を算出するステップにおいて、排ガス中の酸素および水分の成分濃度、並びに燃焼空気量および廃棄物供給量から廃棄物の発熱量を算出する、請求項1に記載の廃棄物の燃焼制御方法。
【請求項3】
前記再循環排ガスの流量を制御するステップは、
予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値に対し前記ボイラ蒸発量の算出値が高い場合には前記再循環排ガス流量を増やし、予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値に対し前記ボイラ蒸発量の算出値が低い場合には前記再循環排ガス流量を減らすように制御するステップである、請求項1又は2に記載の廃棄物の燃焼制御方法。
【請求項4】
前記再循環排ガスの流量を制御するステップは、
予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値を変数とした関数に基づき演算される再循環排ガスの基準流量に、前記ボイラ蒸発量の算出値を用いて演算した補正流量を加減するステップである、請求項1又は2に記載の廃棄物の燃焼制御方法。
【請求項5】
燃焼室にて廃棄物を燃焼させて発生した排ガスの一部を、再循環排ガスとして前記燃焼室に供給する、廃棄物の燃焼制御装置であって、
少なくとも排ガス中の酸素および水分の成分濃度から廃棄物の発熱量を算出し、前記廃棄物の発熱量に基づいてボイラ蒸発量を算出し、算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、前記再循環排ガスの流量を制御する制御部を含む、廃棄物の燃焼制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の燃焼制御方法および廃棄物の燃焼制御装置である。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の焼却において窒化酸化物(NOx)の発生を抑制する方法として、排ガス再循環法が知られている。排ガス中の窒素酸化物濃度は、燃焼量の大小を受けて変動するが、燃焼負荷および燃焼変動を適切に検出してそれに対応して再循環排ガスの流量を制御することで、窒素酸化物濃度のピーク濃度を抑制することができる。
【0003】
下記特許文献1では、一次燃焼室内温度分布を赤外線カメラによって計測することに加えて、二次燃焼室内に設けた放射温度計を用いて燃焼室内温度を計測することで、燃焼状態を計測し、燃焼状態が予め設定されている基準状態より激しいか、穏やかかによって再循環排ガス量を増減させている。
【0004】
下記特許文献2では、焼却炉から排出される排ガスの酸素、NOx、COのうち少なくとも一つのガス成分濃度を計測し、その値が所定範囲より増大あるいは減少したときに高温ガス(再循環排ガスと高温空気の混合ガス)の流量を増減させる制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6040054号公報
【特許文献2】特許第6218117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示では、廃棄物焼却炉における燃焼変動に伴うNOx濃度の変動を抑制することができる廃棄物の燃焼制御方法および廃棄物の燃焼制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の廃棄物の燃焼制御方法は、
燃焼室にて廃棄物を燃焼させて発生した排ガスの一部を、再循環排ガスとして前記燃焼室に供給する、廃棄物の燃焼制御方法であって、
少なくとも排ガス中の酸素および水分の成分濃度から廃棄物の発熱量を算出するステップと、
前記廃棄物の発熱量に基づいてボイラ蒸発量を算出するステップと、
算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、前記再循環排ガスの流量を制御するステップと、を含む。
【0008】
前記廃棄物の燃焼制御方法において、
前記廃棄物の発熱量を算出するステップにおいて、排ガス中の酸素および水分の成分濃度、並びに燃焼空気量および廃棄物供給量から廃棄物の発熱量を算出する、という方法でもよい。
【0009】
前記廃棄物の燃焼制御方法において、
前記再循環排ガスの流量を制御するステップは、
予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値に対し前記ボイラ蒸発量の算出値が高い場合には前記再循環排ガス流量を増やし、予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値に対し前記ボイラ蒸発量の算出値が低い場合には前記再循環排ガス流量を減らすように制御するステップである、という方法でもよい。
【0010】
前記廃棄物の燃焼制御方法において、
前記再循環排ガスの流量を制御するステップは、
予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値を変数とした関数に基づき演算される再循環排ガス基準流量に、前記ボイラ蒸発量の算出値を用いて演算した補正流量を加減するステップである、という方法でもよい。
【0011】
前記廃棄物の燃焼制御方法において、
予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値に対し前記ボイラ蒸発量の算出値が高い場合には、前記再循環排ガスの基準流量に前記補正流量を加え、予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値に対し前記ボイラ蒸発量の算出値が低い場合には、前記再循環排ガスの基準流量から前記補正流量を減ずる、という方法でもよい。
【0012】
本開示の廃棄物の燃焼制御装置は、
燃焼室にて廃棄物を燃焼させて発生した排ガスの一部を、再循環排ガスとして前記燃焼室に供給する、廃棄物の燃焼制御装置であって、
少なくとも排ガス中の酸素および水分の成分濃度から廃棄物の発熱量を算出し、前記廃棄物の発熱量に基づいてボイラ蒸発量を算出し、算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、前記再循環排ガスの流量を制御する制御部を含む。
【0013】
他の開示の廃棄物の燃焼制御プログラムは、少なくとも1つのプロセッサーあるいは情報処理装置により、上記廃棄物の燃焼制御方法を実現するプログラムである。
【0014】
他の開示のコンピュータ命令が記憶されているコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、前記コンピュータ命令がプロセッサーにより実行されることで、上記廃棄物の燃焼制御プログラムのステップを実現するコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0015】
(1)廃棄物の発熱量に基づいて算出されたボイラ蒸発量の算出値を用いることで、燃焼変動に伴うNOx濃度の変動を精度良くかつ時間遅れのない状態で捉えることができ、さらに、ボイラ蒸発量の算出値に基づいて、再循環排ガスの流量を制御することで、燃焼変動に伴うNOx濃度の変動を抑制できる。
(2)ボイラ蒸発量の算出値とボイラ蒸発量の制御目標値との差分に基づいて再循環排ガスの流量に補正を加えることで、NOx濃度の変動を適切に抑制できる。
(3)NOx濃度のピークを抑制することで、無触媒脱硝装置又は触媒脱硝装置の薬剤噴霧量の制御が安定し、薬剤噴霧量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る廃棄物燃焼炉の構成を示す図
図2】本実施形態に係る燃焼制御方法の実施手順を例示する概略図
図3】本実施形態に係る燃焼制御方法の導入前後の廃棄物焼却炉の運転データ
図4】本実施形態に係る燃焼制御方法の導入前後の運転結果の比較表
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0018】
図1に廃棄物焼却炉の構成の一例を示す。廃棄物焼却炉1は、廃棄物が投入されるホッパ2と、ホッパ2に投入された廃棄物が給じん装置4によって給送されるストーカ3とを備えている。なお、ストーカ3は、燃焼装置の一例であり、燃焼装置としてはストーカ式以外の方式であってもよい。ストーカ3は、乾燥ストーカ3a、燃焼ストーカ3b、および後燃焼ストーカ3cを備えている。ストーカ3は、往復移動駆動されて廃棄物を炉本体5に送給する。炉本体5は、ストーカ3の上部に設けられた一次燃焼室5aと、さらにその上部の二次燃焼室5bと、焼却灰を排出する灰排出口5cと、炉内の排ガスを排出する排ガス出口5dとを備えている。
【0019】
また、廃棄物焼却炉1は、ストーカ3および一次燃焼室5aに一次燃焼空気を供給する一次燃焼空気供給装置(押込送風機ともいう)6と、二次燃焼室5bに二次燃焼空気を供給する二次燃焼空気供給装置(二次空気送風機ともいう)7と、炉本体5に接続されるボイラ8と、ボイラ8に接続されるエコノマイザ9と、エコノマイザ9に接続されるろ過式集じん器10と、ろ過式集じん器10に接続される誘引通風機11とを備えている。
【0020】
さらに、廃棄物焼却炉1は、例えば、ろ過式集じん器10の下流側から排ガスの一部を抽気し、抽気した排ガスを一次燃焼室5aの下流側流域内へ再循環排ガスとして吹き込む再循環排ガス送風機12を備えている。再循環排ガスの吹き込みにより、炉内の燃焼ガスの混合・撹拌を促進し、均一な還元雰囲気を形成して、窒素酸化物(NOx)の生成を抑制することができる。
【0021】
また、廃棄物焼却炉1は、各部を制御するための不図示の制御装置を備えている。制御装置は、CPUおよびMPU等のプロセッサー、ROMおよびRAM等のメモリ、各種インターフェイス等を備えるコンピュータである。そして、メモリに格納されたプログラムをプロセッサーが実行し、ソフトウェアおよびハードウェアが協働することによって、制御装置の各部が実現されている。
【0022】
廃棄物焼却炉1は、無触媒脱硝装置15又は触媒脱硝装置16を備えていてもよい。無触媒脱硝装置15は、例えば、二次燃焼室5bの中部に配置され、排ガスにアンモニアや尿素などの薬剤(還元剤)を噴霧し、窒素酸化物を還元除去する。また、触媒脱硝装置16は、例えば、ろ過式集じん器10と誘引通風機11の間(又は誘引通風機11の下流側)に配置され、排ガスにアンモニア等の薬剤(還元剤)を噴霧し、触媒層を通過させ、窒素酸化物を窒素と水に分解する。なお、無触媒脱硝装置15および触媒脱硝装置16は、何れか一方のみ設けられてもよい。
【0023】
ストーカ3に送られた廃棄物は、一次燃焼室5aにおいて、燃焼により生じる高温燃焼ガスによって乾燥され、一次燃焼空気によって、部分燃焼され、さらに完全燃焼される。燃焼によって発生するガスは、水分(HO,廃棄物中に含まれていた水分の蒸発による水蒸気を含む)、乾留によって生じる炭化水素ガス(HC)、不完全燃焼によって生じる一酸化炭素(CO)や完全燃焼によって生じる二酸化炭素(CO)等である。一次燃焼室5aでの未燃物又は不完全燃焼物は、二次燃焼室5bにおいて、供給される二次燃焼空気によって、完全燃焼される。燃焼によって発生した焼却灰は、灰排出口5cから排出され、炉内の排ガスは、排ガス出口5dから排出される。なお、高温条件での燃焼において発生する窒素酸化物(NOx)や廃棄物中に含まれる塩素や硫黄等を起源とする塩素化合物や硫黄酸化物(SOx)等は微量であり、発熱量に与える影響が少ないことから、ここでは直接的には触れない。
【0024】
(a)燃焼空気の供給量測定部
燃焼空気は、一次燃焼室5aにおいては、ストーカ3に載置され移送される廃棄物の最適な燃焼状態が形成されるように、一次燃焼空気供給装置6から複数段に分けて供給される。例えば、乾燥ステップ、燃焼ステップ、および後燃焼ステップに分けて、それぞれの燃焼空気の供給量が制御される。さらに、燃焼空気は、二次燃焼室5bにおいては、一次燃焼室5aにおいて未燃又は不完全燃焼した成分の完全燃焼を行うために、少なくとも1カ所以上の吹込口を有する二次燃焼空気供給装置7から炉内に供給される。例えば、二次燃焼室5bの上部および下部(さらに中部)から、排ガス中の成分濃度や温度および排ガスの流量等をモニタしながら、それぞれの燃焼空気の供給量が制御される。ここで、燃焼空気の供給量とは、一次燃焼空気供給装置6および二次燃焼空気供給装置7の各段に設けられた流量計(図示せず)によって測定された、これらの総流量をいう。
【0025】
(b)排ガス中の成分濃度測定部
炉本体5内には、廃棄物の燃焼状態および燃焼結果を検出するセンサ部が設けられている。具体的には、O濃度計13、HO濃度計14が排ガス出口5dに設けられている。ここで、O濃度計13、HO濃度計14としては、レーザ方式を採用することが好ましい。測定対象となる排ガスを、非接触でリアルタイムに検出できるとともに同一部位における検出情報を同時に得ることができる点において好適である。また、各ガスの成分濃度を検出する公知のセンサを使用しても良い。排ガス中の各成分濃度から、燃焼された廃棄物の組成を算出することができるとともに、燃焼空気の供給量との関係から廃棄物の発熱量を算出することができる。なお、以下各成分濃度について、個別には酸素成分濃度を酸素濃度、窒素成分濃度を窒素濃度、等ということがある。
【0026】
次に、本発明に係る廃棄物の燃焼制御方法について説明する。廃棄物の燃焼制御方法は、所定量の廃棄物を燃焼処理するプロセスにおいて、以下の手順に基づき廃棄物焼却炉1の燃焼制御を行う。燃焼している廃棄物の発熱量に係る情報をリアルタイムに精度よく連続して取得し、これを用いて現在の燃焼状態に対して時間遅れのない廃棄物の燃焼制御を行うことができる。
(1)排ガス中の実測の成分濃度から、廃棄物の発熱量を算出する。
(2)算出された廃棄物の発熱量に基づいて、ボイラ蒸発量を算出する。
(3)算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、焼却炉(炉本体5)に投入される廃棄物および燃焼空気の供給量を制御する。
(4)算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、再循環排ガスの流量を制御する。
【0027】
以下に各手順(1)~(4)の詳細について説明する。
【0028】
(1)廃棄物の発熱量の算出
排ガス中の実測の成分濃度から廃棄物の発熱量(以下、廃棄物発熱量ともいう)を算出する。具体的には、例えば以下の方法を用いて算出する。
【0029】
(1-1)排ガス中の酸素および水分の成分濃度を測定する。
排ガス出口5dに設けられたO濃度計13、HO濃度計14により、排ガス中の酸素および水分の成分濃度を測定することによって、燃焼状態の情報をリアルタイムに得ることができる。
【0030】
(1-2)測定された酸素および水分の成分濃度から、下式1を基に排ガス中の二酸化炭素濃度を算出する。
[CO]=Ro×(100-[HO])/100-[O] …式1
ここで、[ ]内は百分率表示濃度を示し、Roは大気中の酸素濃度から灰分に取り込まれる酸素成分量を減じて設定された係数を示す。
【0031】
つまり、廃棄物が完全燃焼し、廃棄物中の酸素および窒素が排ガス中の酸素および窒素の成分濃度に影響を与えない条件の場合、燃焼空気中の二酸化炭素濃度[CO]と酸素濃度[O]は、下式2~5の関係が成り立つ(d:乾燥状態、w:湿潤状態を示す)。
[CO(d)]+[O(d)]=21 …式2
[CO(d)]=[CO(w)]×100/(100-[HO]) …式3
[O(d)]=[O(w)]×100/(100-[HO]) …式4
[CO(w)]=21×(100-[HO])/100-[O2(w)] …式5
しかしながら、実動状態においては、式5における「21」は成立せず、例えば「19:Ro」となることが実証されている。燃焼反応によって発生する灰分に取り込まれる酸素成分量がその差であると解される。[CO(d)]および[O(d)]は、予め実操業中に、手分析等分析・測定を行うことにより設定可能である。
【0032】
(1-3)酸素濃度、水分濃度および二酸化炭素濃度を用い、排ガス中の窒素濃度を算出する。
具体的には、下式6に基づき、実測の酸素濃度、水分濃度および算出された二酸化炭素濃度から、排ガス中の窒素(N)濃度を算出する。
【0033】
[N(w)]=100-([O(w)]+[CO(w)]+[HO]) …式6
【0034】
(1-4)算出された窒素濃度を基に燃焼空気中の窒素濃度に対する換算係数を算出し、該換算係数を乗じた酸素、二酸化炭素および水分の換算成分濃度を算出する。
【0035】
(1-4-1)燃焼空気中の窒素濃度に対する換算係数の算出
燃焼反応前後において不変の要素である窒素を基準に、これを燃焼空気供給時の分圧(基準窒素濃度Tn:燃焼空気を100としたとき79)に換算する係数(換算係数)tを、下式7に基づき算出する。
t=Tn(=79)/[N(w)] …式7
【0036】
(1-4-2)酸素、二酸化炭素、水分の換算成分濃度の算出
酸素、二酸化炭素、水分の各成分濃度に換算係数tを乗じた酸素、二酸化炭素および水分の換算成分濃度を算出する。下式8に基づき、それぞれ、換算酸素濃度Tx、換算二酸化炭素濃度Td、換算水分濃度Twを算出する。このとき、各数値は、燃焼空気の単位供給量当りの酸素量、二酸化炭素量および水分量となる。
Tx=[O(w)]×t,Td=[CO(w)]×t,Tw=[HO]×t …式8
【0037】
(1-5)換算された前記酸素、二酸化炭素および水分の成分濃度から、燃焼処理に用いられた燃焼空気の単位供給量当りの酸素消費量を算出する。
燃焼空気中の酸素濃度(基準酸素濃度)Toを基に、下式9に基づき、換算された換算酸素濃度Txから、燃焼処理に用いられた燃焼空気の単位供給量当りの酸素消費量Doを算出する。
Do=To-Tx …式9
ここで、To=(100-Tn)であり、21[%]に置き換えることができる。
【0038】
(1-6)算出された前記酸素消費量から、燃焼空気の単位供給量当りの、該燃焼処理において生成した二酸化炭素および水分に係る発熱量、該生成水分量と前記廃棄物中に含まれていた水分量の総量からの潜熱量を算出する。
【0039】
(1-6-1)燃焼空気の単位供給量当りの二酸化炭素および水分に係る発熱量の算出
算出された酸素消費量Doから、燃焼空気の単位供給量当りの、該燃焼処理において生成した二酸化炭素に係る発熱量Hdおよび水分に係る発熱量Hwを算出する。つまり、廃棄物中の炭素成分および水素成分の完全燃焼に要する酸素総量が酸素消費量Doとなり、そのうち炭素成分によって消費される酸素量は、下反応式1から換算二酸化炭素濃度Tdと同量であり、残量が水素成分によって消費される酸素量となる(下反応式2)。つまり、反応式1および2におけるHcおよびHhは、各反応による反応熱(発熱量)を示す。
C+O→CO+Hc … 反応式1
4H+O→2HO+Hh …反応式2
従って、発熱量HdおよびHwは、発熱量HcおよびHhを基に、下式10,11により算出することができる。
Hd=Hc×Td …式10
Hw=Hh×(Do-Td) …式11
【0040】
(1-6-2)水分量の総量からの潜熱量の算出
水の潜熱Loを基に、下式12に基づき、燃焼生成水分量と廃棄物中に含まれていた水分量の総量Twの潜熱量Lwを算出する。
Lw=Lo×Tw …式12
【0041】
(1-7)燃焼処理された廃棄物の供給量から、燃焼空気の単位供給量当りの処理された廃棄物量を算出する。
燃焼処理された廃棄物Wの供給量Wiおよびそのときの燃焼空気の供給量Aiから、下式13に基づき、燃焼空気の単位供給量当りの処理された廃棄物量(換算廃棄物量)Woを算出する。
Wo=Wi/Ai …式13
【0042】
(1-8)算出された前記発熱量、前記潜熱量および廃棄物量から、処理された廃棄物量当りの推算発熱量Aを算出する。
算出された発熱量(Hd+Hw)、潜熱量Lwおよび廃棄物量Woから、下式14に基づき、処理された廃棄物量当りの推算発熱量Aを算出する。
A=(Hd+Hw-Lw)/Wo …式14
このとき、算出された推算発熱量Aは、燃焼空気の単位供給量当りの数値であり、実測の燃焼空気の供給量を用いることによって、廃棄物の単位供給量当りの推算発熱量Aに変換することができる。廃棄物の質(特性)に対する客観性の高い評価値とすることができる。
【0043】
(2)ボイラ蒸発量の算出
上記(1)において算出された廃棄物発熱量を基に、ボイラ蒸発量を算出する。具体的には、下式15,16に示すような廃棄物発熱量とボイラ蒸発量の関係を基に、算出された廃棄物発熱量からボイラ蒸発量を得ることができる。
(廃棄物燃焼熱量)=(廃棄物発熱量)×(廃棄物投入量)
=(ボイラ蒸発量×蒸気エンタルピ+持出熱量-持込熱量) …式15
(ボイラ蒸発量)=(廃棄物燃焼熱量-持出熱量+持込熱量)/(蒸気エンタルピ) …式16
ここで、廃棄物投入量、蒸気エンタルピ、持出熱量および持込熱量は、本プロセスにおける各計測値によって、リアルタイムに算出することができる。
【0044】
(3)廃棄物および燃焼空気の供給量の制御
算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、廃棄物焼却炉1に投入される廃棄物および燃焼空気の供給量を制御する。具体的には、図2に例示するように、例えば、廃棄物および燃料空気の供給量について、算出されたボイラ蒸発量の算出値を基準としてフィードバック制御されるとともに、その他の要素(例えば燃焼室内温度等)によって補正されることによって、リアルタイムに燃焼状態に対して時間遅れのない廃棄物の燃焼制御を行うことができる。
【0045】
(4)再循環排ガスの流量の制御
算出されたボイラ蒸発量の算出値に基づいて、再循環排ガスの流量を制御する。具体的には、例えば以下の方法を用いて再循環排ガスの流量を制御する。
【0046】
(4-1)再循環排ガスの基準流量を決定する。
下式17を基に、再循環排ガスの基準流量を決定する。
(再循環排ガスの基準流量)=f(ボイラ蒸発量の制御目標値) …式17
再循環排ガスの基準流量を演算する関数は、ボイラ蒸発量の制御目標値に比例するように決定されてもよく、また、ボイラ蒸発量の制御目標値に対し予め決定される理論燃焼空気流量に比例するように決定されてもよい。また、比例でなく、ボイラ蒸発量の制御目標値を変数とする別の関数(例えば、傾きが異なる区間が存在する関数)であってもよい。燃焼量に応じて再循環排ガスの流量を増減させることで、燃焼室内のガス温度の維持とNOx濃度低減の両立を図ることが可能になる。
【0047】
(4-2)ボイラ蒸発量の算出値を用いて補正流量を演算する。
ボイラ蒸発量の算出値と、予め設定されたボイラ蒸発量の制御目標値とを比較し、ボイラ蒸発量の算出値の方が高いときは、燃焼量が過大になっておりNOx濃度が上昇するため、再循環排ガスの流量を増大させるプラス補正を行う。一方、ボイラ蒸発量の算出値の方が低いときは、再循環排ガスの流量を減少させるマイナス補正を行うか、あるいは補正しない。再循環排ガスの流量をプラス補正又はマイナス補正をするための補正流量は、PID演算により求められてもよい。
【0048】
(4-3)再循環排ガスの基準流量に補正流量を加減する。
上記のように、ボイラ蒸発量の算出値の方がボイラ蒸発量の制御目標値よりも高いときは、再循環排ガスの基準流量に補正流量を加える。一方、ボイラ蒸発量の算出値の方がボイラ蒸発量の制御目標値よりも低いときは、再循環排ガスの基準流量から補正流量を減ずるか、あるいは補正せずに基準流量のままとする。なお、再循環排ガスの流量の制御は、VVVFによる再循環排ガス送風機12の回転数制御でもダンパ開度制御のいずれか、または両方による。
再循環排ガスの流量は、その他の要素によっても補正される。再循環排ガスの流量を増やすとNOx濃度は減る傾向にあるが、再循環排ガスの流量を増やし過ぎると、燃焼室内温度が低下する。そのため、例えば、二次燃焼室5b内の温度を測定し、二次燃焼室5b内の温度が所定の温度よりも低下する場合は再循環排ガスの流量を減らすよう補正することが好ましい。
【0049】
<実証実験>
図3に本実施形態に係る燃焼制御方法の導入前後の廃棄物焼却炉1の運転データを示す。図3において、(a)が導入前の運転データ、(b)が導入後の運転データであり、上図が再循環排ガスの流量の時間変化を表すグラフ、下図がボイラ蒸発量の算出値とボイラ蒸発量の制御目標値の偏差、および発生するNOx濃度の時間変化を表すグラフである。
【0050】
図3(a)に示す導入前のデータと比較すると、図3(b)に示す導入後のデータでは、ボイラ蒸発量の算出値とボイラ蒸発量の制御目標値との偏差が小さくなっていることと、NOx濃度の変動幅が抑制できていることが分かる。
【0051】
また、図4に本実施形態に係る燃焼制御方法の導入前後の運転結果の比較表を示す。図4において、「流量固定」は再循環排ガスの流量を固定して運転した場合であり、「自動制御」は再循環排ガスの流量を本願の制御方法および制御装置を用いて制御して運転した場合である。再循環排ガスの流量制御を行ったときの方が、NOx濃度を低減することができ、かつNOx濃度のバラつきを示す標準偏差を小さくできることを確認できた。
【0052】
また、図4において、「尿素水量」とは、二次燃焼室5bの中部に配置した無触媒脱硝装置15で噴霧する尿素水の量であるが、再循環排ガスの流量制御を行ったときの方が、尿素水量を低減することができることを確認できた。
【符号の説明】
【0053】
1 :廃棄物焼却炉
2 :ホッパ
3 :ストーカ
3a :乾燥ストーカ
3b :燃焼ストーカ
3c :後燃焼ストーカ
4 :装置
5 :炉本体
5a :一次燃焼室
5b :二次燃焼室
5c :灰排出口
5d :排ガス出口
6 :一次燃焼空気供給装置
7 :二次燃焼空気供給装置
8 :ボイラ
9 :エコノマイザ
10 :ろ過式集じん器
11 :誘引通風機
12 :再循環排ガス送風機
13 :O濃度計
14 :HO濃度計
15 :無触媒脱硝装置
16 :触媒脱硝装置
図1
図2
図3
図4