(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155681
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20241024BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20241024BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20241024BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20241024BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01L21/205
C30B29/38 D
C30B25/18
C23C16/34
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176099
(22)【出願日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2023069139
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、環境省、革新的な省CO2型感染症対策技術等の実用化加速のための実証事業(高効率・長寿命深紫外LEDの技術開発と細菌・ウイルス不活化および脱炭素効果の実証)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義樹
(72)【発明者】
【氏名】永田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】石黒 永孝
(72)【発明者】
【氏名】可知 朋晃
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真帆
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
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5F152NQ17
(57)【要約】
【課題】高品質なIII族窒化物半導体を提供する。
【解決手段】III族窒化物半導体の製造方法は、サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核11Aを発生させて結晶核層11を形成する結晶核層形成工程と、結晶核層形成工程よりも低い温度で、核11AからAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う核11Aからの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層12Aを形成する低温三次元成長層形成工程と、低温三次元成長層形成工程よりも高い温度であって結晶核層形成工程の温度以下で、低温三次元成長層12AからAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層12Bを形成する高温三次元成長層形成工程と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させて結晶核層を形成する結晶核層形成工程と、
前記結晶核層形成工程よりも低い温度で、前記核からAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う前記核からの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層を形成する低温三次元成長層形成工程と、
前記低温三次元成長層形成工程よりも高い温度であって前記結晶核層形成工程の温度以下で、前記低温三次元成長層からAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層を形成する高温三次元成長層形成工程と、を有するIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記結晶核層形成工程の温度は1100℃以上1200℃以下であり、
前記低温三次元成長層形成工程の温度は900℃以上1100℃以下であり、
前記高温三次元成長層形成工程の温度は1050℃以上1200℃以下である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記高温三次元成長層形成工程の後、前記高温三次元成長層形成工程以上の温度で、前記高温三次元成長層からAlGaNまたはGaドープのAlNを成長させて二次元成長層を形成する二次元成長層形成工程をさらに有する、請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記二次元成長層形成工程において、Gaの供給量は時間の経過とともに増加させる、請求項3に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記二次元成長層形成工程の温度は、1100℃以上1200℃以下である、請求項3に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記二次元成長層の成長終了時におけるウェハの曲率は50km-1以上300km-1以下である、請求項3に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項7】
サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させて結晶核層を形成する結晶核層形成工程と、
前記結晶核層よりも遅い成長速度で、前記核からAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う前記核からの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層を形成する低温三次元成長層形成工程と、
前記低温三次元成長層よりも速い成長速度であって前記結晶核層の成長速度以下で、前記低温三次元成長層からAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層を形成する高温三次元成長層形成工程と、を有するIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項8】
前記結晶核層の成長速度は5nm/min以上100nm/min以下であり、
前記低温三次元成長層の成長速度は2nm/min以上20nm/min以下であり、
前記高温三次元成長層の成長速度は5nm/min以上50nm/min以下である、請求項7に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項9】
前記高温三次元成長層形成工程の後、前記高温三次元成長層の成長速度以上で、前記高温三次元成長層からAlGaNまたはGaドープのAlNを成長させて二次元成長層を形成する二次元成長層形成工程をさらに有する、請求項7または請求項8に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項10】
前記二次元成長層形成工程において、Gaの供給量は時間の経過とともに増加させる、請求項9に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項11】
前記二次元成長層形成工程の成長速度は、5nm/min以上50nm/min以下である、請求項9に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項12】
前記二次元成長層の成長終了時におけるウェハの曲率は50km-1以上300km-1以下である、請求項9に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項13】
前記結晶核層形成工程前に、前記サファイア基板を水素が支配的な雰囲気で前記結晶核層形成工程の温度よりも高い温度で熱処理するサーマルクリーニング工程を有する、請求項1または請求項7に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項14】
前記核は、Al組成が60~98%のAlGaNである、請求項1または請求項7に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体を用いた固体発光素子の紫外線の波長は約210~400nmの範囲の波長帯に対応している。特にUVC(波長100~280nm)は効率的に殺菌、除菌できることが知られており、発光波長がUVCに対応する紫外光を放射するIII族窒化物半導体LEDの需要が高まっている。紫外線LEDは、サファイア基板上にAlN層を形成し、AlN層上にAlGaNからなるn型層、発光層、p型層を積層した構成である。
【0003】
非特許文献1には、AlNにGaをドープして高品質なAl0.99Ga0.01Nを成膜可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-154964号公報
【特許文献2】特表2012-522388号公報
【特許文献3】特開2005-72409号公報
【特許文献4】特開2016-157951号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 56 015504 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AlNは高融点でかつNの解離蒸気圧が高い材料であり、GaNの成長温度帯である1000~1200℃帯では結晶成長中での原子のマイグレーションが悪く、三次元成長してしまい平坦な結晶面とすることが難しい。また、Al原料ガスであるTMAl(トリメチルアルミニウム)は反応性が高く、TMAlが基板に到達する前に分解・反応し化合物を形成してしまい、結晶成長に寄与できる原料濃度が低下し、原料効率が悪化し易い。このような理由により、減圧成長下で成長が実施され、一般的には1000℃程度の低温で核を成長させた後に1200℃程度でAlNを三次元成長させ、その後1300℃以上の高温でAlNを成長させ平坦化していた。
【0007】
しかし、一般的な成長装置はそのような高温に対応しておらず、高温に対応した成長装置を使用する必要がある。たとえば、出力の高い加熱装置や効率のよい冷却装置が必要であったり、高温でも分解、軟化しない部材で構成する必要があったりした。また、高温により部材の劣化も加速する。たとえば、ヒーター部材、サセプタ、真空パッキンなどの劣化が著しい。そのため、ランニングコストが増大してしまう。
【0008】
そこで、一般的な成長装置で対応可能な温度範囲において、高品質なAlNを成膜することができる技術が求められていた。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、高品質なIII族窒化物半導体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、
サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させて結晶核層を形成する結晶核層形成工程と、
前記結晶核層形成工程よりも低い温度で、前記核からAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う前記核からの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層を形成する低温三次元成長層形成工程と、
前記低温三次元成長層形成工程よりも高い温度であって前記結晶核層形成工程の温度以下で、前記低温三次元成長層からAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層を形成する高温三次元成長層形成工程と、を有するIII族窒化物半導体の製造方法にある。
【0011】
本発明の他の態様は、
サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させて結晶核層を形成する結晶核層形成工程と、
前記結晶核層よりも遅い成長速度で、前記核からAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う前記核からの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層を形成する低温三次元成長層形成工程と、
前記低温三次元成長層よりも速い成長速度であって前記結晶核層の成長速度以下で、前記低温三次元成長層からAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層を形成する高温三次元成長層形成工程と、を有するIII族窒化物半導体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させ結晶核層を形成した後に温度を下げて核からAlGaNまたはAlNを成長させて合体させて低温三次元成長層を形成し、その後に温度を上げている。そのため、高品質なIII族窒化物半導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る発光素子の構成を示した模式図。
【
図3】各成長段階における基板の反りを示した模式図。
【
図4】AlN層形成時の温度と圧力の時間変化を示したグラフ。
【
図6】AlN層の基板主面に垂直な方向での断面を示したTEM像。
【
図7】AlN層形成時の温度の時間変化を示したグラフ。
【
図9】比較例におけるAlN層形成時の温度の時間変化を示したグラフ。
【
図10】比較例におけるウェハの曲率の時間変化を示したグラフ。
【
図11】変形形態におけるp型層の表面を撮影したAFM像。
【
図12】TMGaの気相比と二次元成長層のX線半値幅の関係を示したグラフ。
【
図13】AlN層のa軸およびc軸の値を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
III族窒化物半導体の製造方法は、サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させて結晶核層を形成する結晶核層形成工程と、結晶核層形成工程よりも低い温度で、核からAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う核からの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層を形成する低温三次元成長層形成工程と、低温三次元成長層形成工程よりも高い温度であって結晶核層形成工程の温度以下で、低温三次元成長層からAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層を形成する高温三次元成長層形成工程と、を有する。
【0015】
結晶核層形成工程の温度は1100℃以上1200℃以下であり、低温三次元成長層形成工程の温度は900℃以上1100℃以下であり、高温三次元成長層形成工程の温度は1050℃以上1200℃以下であってもよい。
【0016】
高温三次元成長層形成工程の後、高温三次元成長層形成工程以上の温度で、高温三次元成長層からAlGaNまたはGaドープのAlNを成長させて二次元成長層を形成する二次元成長層形成工程をさらに有していてもよい。この二次元成長層形成工程において、Gaの供給量は時間の経過とともに変化させてもよい。たとえば、低い供給量から高い供給量へ増加させる変化である。
【0017】
二次元成長層形成工程の温度は、1100℃以上1200℃以下であってもよい。
【0018】
また、III族窒化物半導体の製造方法は、サファイア基板上に、GaN、AlGaNまたはAlNの核を発生させて結晶核層を形成する結晶核層形成工程と、結晶核層よりも遅い成長速度で、核からAlGaNまたはAlNを成長させて隣り合う核からの結晶同士を合体させ、低温三次元成長層を形成する低温三次元成長層形成工程と、低温三次元成長層よりも速い成長速度であって結晶核層の成長速度以下で、低温三次元成長層からAlGaNまたはAlNを成長させて高温三次元成長層を形成する高温三次元成長層形成工程と、を有する。
【0019】
結晶核層の成長速度は5nm/min以上100nm/min以下であり、低温三次元成長層の成長速度は2nm/min以上20nm/min以下であり、高温三次元成長層の成長速度は5nm/min以上50nm/min以下であってもよい。
【0020】
高温三次元成長層形成工程の後、高温三次元成長層の成長速度以上で、高温三次元成長層からAlGaNまたはGaドープのAlNを成長させて二次元成長層を形成する二次元成長層形成工程をさらに有していてもよい。この二次元成長層形成工程において、Gaの供給量は時間の経過とともに増加させてもよい。
【0021】
二次元成長層形成工程の成長速度は、5nm/min以上50nm/min以下であってもよい。
【0022】
結晶核層形成工程前に、サファイア基板を水素が支配的な雰囲気で結晶核層形成工程の温度よりも高い温度で熱処理するサーマルクリーニング工程を有していてもよい。
【0023】
核は、Al組成が60~98%のAlGaNであってもよい。
【0024】
二次元成長層の成長終了時におけるウェハの曲率は50km-1以上300km-1以下であってもよい。
【0025】
(実施形態1)
1.発光素子の構成
図1は、実施形態1に係る発光素子の構成を示した図である。実施形態1に係る発光素子は、
図1に示すように、基板10と、結晶核層11と、三次元成長層12と、二次元成長層13と、n型層14と、活性層15と、電子ブロック層16と、p型層17と、p電極18と、n電極19と、を有している。実施形態1に係る発光素子はフリップチップ型であり、発光波長がUVC帯である。
【0026】
基板10は、c面を主面とするサファイアからなる基板である。サファイアの主面の面方位はa面でもよい。サファイア基板は大口径、低コストで、深紫外から可視光全般に対して透明なことから窒化物半導体およびその発光素子の基板として広く普及している。また、m軸方向またはa軸方向に0.1~2度のオフ角を有している。基板10の裏面(結晶核層11側とは反対側の面)には反射防止膜を設け、光取り出し率の向上を図ってもよい。また、基板10表面に凹凸を設けて光取り出し率の向上を図ってもよい。
【0027】
結晶核層11は、基板10上に位置している。結晶核層11は、基板10表面にAlNからなる核11Aを発生させ、三次元成長させた層である。
【0028】
結晶核層11の厚さ(核11Aの高さ)は、1~200nmが好ましい。結晶核層11の厚さがこの範囲であれば、核11Aは十分に大きく、核11A以降に成膜される結晶層の品質を高めることができる。結晶核層11のより好ましい厚さは、2~40nm、さらに好ましくは3~30nmである。核11Aが十分に大きいため、核11Aの密度は小さくなる。たとえば、結晶核層11の厚さが5~100nmの範囲において核11Aの密度は、3×1011/cm-2以下とすることが好ましい。
【0029】
核11Aの大きさ(平面視での直径の平均)は、20~50nmが好ましい。ここで直径は核11Aを同一面積の円に換算したときの直径である。また、結晶核層11の厚さが5~100nmのときの核11Aの大きさである。核11Aの大きさをこのような範囲とすることで引張応力を十分に低減することができる。また、核11Aの大きさのばらつき(最大直径と直径の平均との差、および直径の平均と最小直径との差)は、10nm以下が好ましい。
【0030】
核11Aが大きいことは重要である。結晶核同士が合体して平坦膜になる時に、その表面に引っ張り応力が生じる。そのため、核サイズが小さく密度が高いと合体して平坦膜になったときの表面に生じる応力も大きくなる。したがって、核密度を小さくする必要がある。そのためには核サイズを大きくすることが有効である。
【0031】
核密度が小さいことにはもう一つの利点がある。貫通転位は核11A同士が合体する会合面に形成される。核密度が小さいことは核11Aが合体する会合面も少なくなる。したがって、核密度を小さくすることで貫通転位の形成を少なくすることができ、高品質な結晶膜を成膜することができる。
【0032】
三次元成長層12は、結晶核層11上に位置している。三次元成長層12は、AlNからなる。三次元成長層12は、核11Aを三次元成長させて隣り合う核11A同士を合体させ、合体後のAlNをさらに3次元成長させた層である。三次元成長層12は、低温三次元成長層12A、高温三次元成長層12Bの積層となっている。高温三次元成長層12Bは低温三次元成長層12Aよりも高温で成長させた層である。核11Aを一気に二次元的な平坦膜に成長させるのではなく、三次元的に合体させることで、表面に生じる応力を緩和させることができる。
【0033】
低温三次元成長層12Aの表面において、基板10の主面に平行な平坦な結晶面の割合は、斜めに傾いた結晶面の割合に比べて小さいことが好ましい。斜めに傾いた面は低次もしくは高次のファセット面で形成されていても良い。たとえば{10-11}面、{11-22}面などである。
【0034】
低温三次元成長層12Aの厚さは、100~500nmが好ましい。この範囲であれば、核11Aを十分に合体させ転位密度を低減することができる。また、低温三次元成長層12Aの表面粗さRMSは、たとえば10~100nmである。低温三次元成長層12Aのより好ましい厚さは、250~400nm、さらに好ましくは250~350nmである。
【0035】
高温三次元成長層12Bの表面において、基板10主面に平行な平坦な結晶面の割合は、斜めに傾いた結晶面の割合に比べて大きいことが好ましい。つまり、高温三次元成長層12Bは低温三次元成長層12Aよりも平坦な膜になっている。
【0036】
高温三次元成長層12Bの厚さは、750~2000nmである。このような厚さであれば核11Aおよび低温三次元成長層12Aを十分に隙間なく合体させることができ、転位密度を低減することができる。高温三次元成長層12Bのより好ましい厚さは1000~1750nm、さらに好ましくは1250~1500nmである。
【0037】
なお、結晶核層11や三次元成長層12の結晶中にボイドを有していてもよい。ボイドは核11Aの成長で埋めきれなかった領域であり、キャリアガスが満たされた結晶中の空隙である。ボイドが膜に残留する応力を緩和し、クラック発生を抑制することもできる。
【0038】
二次元成長層13は、三次元成長層12上に位置している。二次元成長層13は、Gaを供給しながらAlNを成長させた層である。二次元成長層13は、Gaを含むAlNまたはAlGaNからなる。GaはAlN成膜中の横方向成長を促進するサーファクタントとして供給するものである。サーファクタント効果を発揮させるためには、成膜したAlN中のAlに対するGaのモル比が0より大きければよい。サーファクタント効果により、二次元成長層13の表面は、ピットや結晶のファセット面による凹凸の無い二次元的な平坦面となっている。
【0039】
Gaを含むAlNとは、AlNにGaが固溶した状態であり、GaNとAlNの混晶を形成しない程度のGaを含んだAlNである。たとえば、二次元成長層13中のAlに対するGaのモル比は0より大きく0.5%以下である。
【0040】
Gaのサーファクタント効果は、AlNのGa含有量が増えてAlNとGaNの混晶(AlGaN)を形成するレベルでも発揮される。混晶が形成されているレベルは、Alに対してGaのモル比が0.5%よりも大きい場合である。一方で、AlGaNのGa組成が高くなりすぎると、活性層15からの紫外光を吸収する可能性が高くなる。そこで、二次元成長層13をAlGaNとする場合にはGa組成を0.5%よりも大きく10%以下とすることが好ましい。
【0041】
二次元成長層13のGa供給量は、厚さ方向に変化していてもよく、基板10から遠ざかるにつれて連続的または段階的に増加していてもよい。二次元成長層13の裏面側の領域(三次元成長層12側)ではAlNにGaが固溶した状態であり、表面側ではAlNとGaNの混晶状態(つまりAl1-xGaxN)であると考えられる。またAl1-xGaxNのGa組成xも厚さ方向に変化しており、基板10から遠ざかるにつれてGa組成xが連続的または段階的に0から所定値まで増加するような組成となっている。Ga組成xの最大値(つまり二次元成長層13の表面近傍でのGa組成x)は、0.01~0.1である。
【0042】
このように、二次元成長層13の表面近傍はAlNではなくAlNとGaNの混晶となっているが、Ga組成xは十分に低く、深紫外発光素子の下地層としてAlNと同等に機能させることができる。また、二次元成長層13は平坦でクラックの発生が少なく、転位密度も低い。Ga比を連続的に増加させることで、その上に積層されるn型層14(n型のAlGaN層)との格子不整合差も小さくなり、n型層14の結晶品質向上にも寄与できるようになる。
【0043】
二次元成長層13の厚さは、750~2000nmである。このような厚さであれば、二次元成長層13の表面が十分に平坦化される。たとえば、二次元成長層13の表面粗さRMSを0.5~5nmとすることができる。二次元成長層13の表面にステップバンチング(ステップの束)があってもよい。二次元成長層13のより好ましい厚さは1000~1750nm、さらに好ましくは1250~1500nmである。
【0044】
高温三次元成長層12Bおよび二次元成長層13の貫通転位密度は、結晶核層11および低温三次元成長層12Aの貫通転位密度よりも低い。高温三次元成長層12Bおよび二次元成長層13の貫通転位密度は、たとえば5×109cm-2以下であり、結晶核層11および低温三次元成長層12Aの貫通転位密度は、たとえば1×1010cm-2以上である。
【0045】
また、二次元成長層13の転位は、刃状転位成分を持つ転位の転位密度の方が、らせん転位成分を持つ転位の転位密度よりも高い。たとえば刃状転位成分を持つ転位の転位密度の方が10倍以上高い。
【0046】
二次元成長層13のX線回折パターンにおける(002)回折線の半値幅(FWHM)は、たとえば20~200arcsecであり、(102)回折線の半値幅は、たとえば200~800arcsecである。
【0047】
n型層14は、二次元成長層13上に位置している。n型層14は、n―AlGaNからなり、二次元成長層13のGa組成よりも高いGa組成を有する。n型不純物はSiであり、Si濃度が5×1018~5×1019/cm3である。n型層14は複数の層で構成されていてもよい。
【0048】
活性層15は、n型層14上に位置している。活性層15は、井戸層と障壁層が交互に繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し数はたとえば2~5である。井戸層はAlGaNからなり、そのAl組成は所望の発光波長に応じて設定される。障壁層は、井戸層よりもAl組成の大きなAlGaNである。井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きなAlGaInNでもよい。また、活性層15はSQW構造でもよい。
【0049】
電子ブロック層16は、活性層15上に位置している。電子ブロック層16は、活性層15の障壁層よりもAl組成比の高いAlGaNもしくはAlNからなる。電子ブロック層16にはp型となる不純物がドープされていてもよい。ドープ方法は一定でも変調されていてもよいし、非ドープ層との組み合わせでもよい。電子ブロック層16によって、n電極19から注入した電子が活性層15を超えてp型層17側に拡散してしまうのを抑制している。
【0050】
p型層17は、電子ブロック層16上に位置している。p型層17は、p-AlGaNからなる。実施形態1における発光素子は、n型層14からp型層17まですべての半導体層がAlGaNであり、これによって活性層15から放射される紫外光の半導体層による吸収を抑制している。p型不純物はMgである。Mg濃度は、1×1018/cm3以上である。p型層17はAl組成やMg濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。その場合、p電極18と接する層をp-GaNとすることでコンタクト抵抗の低減を図ってもよい。
【0051】
p型層17のうち最も低いAl組成は、活性層15から放射される発光波長を吸収しないバンドギャップを持つAl組成が好ましい。たとえば活性層15の井戸層のAl組成が40%であれば、p型層17のうち最も低いAl組成は40%以上が好ましい。しかしながら、Al組成が高いとp電極18とのコンタクト抵抗が増加するので、0~40%の組成の層をコンタクト層として1~50nmの範囲で薄く積層してもよい。0~40%の組成の層は活性層15で放射される紫外光を吸収する層になるが、薄いためにある程度透過する。そのため、LEDの外部量子効率の大きな低下を避けることができる。
【0052】
さらに、Al組成が0~90%の範囲で層を組み合わせてもよい。その場合は、活性層15側から連続的もしくは段階的にAl組成が低くなるように設定されるとよい。超格子構造を形成し、平均的なAl組成が段階的に減少していく構造でもよい。
【0053】
p型層17表面の一部領域には、n型層14に達する深さの溝が設けられている。この溝は、n型層14を露出させてn電極19を設けるためのものである。
【0054】
p電極18は、p型層17上に設けられている。p電極18は、活性層15から放射される紫外線を基板10側に反射させて光取り出し効率を高める反射電極である。p電極18の材料は、Ru、Rh、Ni/Au、Ni/Alなどである。
【0055】
n電極19は、溝の底面に露出するn型層14上に設けられている。n電極19の材料は、Ti/Al、V/Alなどである。
【0056】
2.発光素子の製造方法
次に、実施形態1に係る発光素子の製造方法について説明する。なお、III族窒化物半導体はMOCVD法を用いて形成し、原料ガスとして、たとえば、窒素原料ガスにアンモニア、Ga原料ガスにTMGa(トリメチルガリウム)またはTEGa(トリエチルガリウム)、Al原料ガスにTMAl(トリメチルアルミニウム)を用い、キャリアガスは水素や窒素を用いる。
【0057】
また、下記製造方法の説明において、
図2~4を適宜参照する。
図2は、二次元成長層13の形成までの各成長段階における各層の構成を模式的に示した図である。
【0058】
また、
図3は、二次元成長層13の形成までの各成長段階におけるウェハの反りを概念的に示した図である。なお、ウェハの反りは、何も成長していないバルク基板にも生じている場合がある。なぜならば、基板10表面は水素などのキャリアガスによって冷却されるため、基板10裏面側とは厳密には温度が異なり、その温度差による熱膨張の違いにより反りが生じる場合がある。したがって、
図3の反りの描写は異種材料を積層時、その格子不整合差や熱膨張係数差の違いによる挙動を概念的に示したものであり、現実に生じている反りの状態と若干異なる可能性がある。したがって、
図3は、層の積層によって膜中に生じる応力とその結果による反りを概念的に示したものである。
【0059】
また、
図4は、二次元成長層13の形成までの成長温度と成長圧力について時間変化を示したグラフである。
【0060】
2-1.サーマルクリーニング
まず、c面サファイアからなる基板10を用意し、水素雰囲気、温度1150~1250℃で1秒~15分間、サーマルクリーニングを行う。これにより基板10表面の不純物除去、平坦化を行う(
図2(a)、
図3(a)、
図4参照)。
図4では、一例として成長温度1190度、圧力4kPaとしている。また
図4では、このサーマルクリーニングと次工程の窒化処理の期間を期間T1として示している。このサーマルクリーニングによって基板10表面から酸素が離脱し、Alリッチな表面となると考えられる。
【0061】
サーマルクリーニングの温度は、後述の結晶核層形成工程よりも高い温度であればよい。サーマルクリーニングの温度のより好ましい範囲は1170~1230℃、さらに好ましくは1180~1210℃である。また、雰囲気は水素が支配的な雰囲気、たとえば水素80体積%以上の混合ガスであってもよい。また、混合ガスは、たとえば水素と窒素の混合ガスである。圧力は常圧でもよいが減圧が好ましく、たとえば1~80kPa、好ましくは1~50kPa、さらに好ましくは1~20kPaである。水素ガスもしくは水素と窒素混合ガスの基板10上の流速は、5~500m/min(メートル/分)、好ましくは10~300m/min、さらに好ましくは15~150m/minとすればよい。
【0062】
2-2.窒化処理
次に、サーマルクリーニングよりも温度を低くし、アンモニアを供給することにより、Alリッチとなった基板10表面を窒化する。圧力はサーマルクリーニングと同様である。キャリアガス(水素もしくは水素と窒素の混合ガス)の流速もサーマルクリーニングの最適範囲と同様もしくは大きくする方が良い。アンモニアの流量は次工程と同じかそれ以下であり、水素もしくは水素と窒素の混合ガスであるキャリアガス中のアンモニア分圧が0.001~0.1atm、さらに好ましくは0.01~0.05atmの範囲であることが好ましい。窒化処理の時間は0.5秒~10分、さらに好ましくは60~300秒である。基板10の表面には、核発生の起点となる1モノレイヤーから数モノレイヤーのAlN層(図示しない)が形成される。
【0063】
2-3.結晶核層11形成工程
次に、前工程の窒化処理と同温で、もしくは前工程の窒化処理よりも温度を下げて、窒素原料ガスとAl原料ガスを供給し、基板10にAlNの核11Aを発生させ、核11Aを三次元成長させて結晶核層11を形成する(
図2(b)、
図4参照)。
図4では、この工程の期間を期間T2として示し、一例として温度1155℃の場合を示している。圧力は前工程と同様である。従来、核11Aは1000℃程度で発生させ三次元成長させていたが、実施形態1ではこれよりも高い温度とすることで、原料原子の表面マイグレーションを高め、核11Aを従来よりも大きく形成している。これによってAlNからなる核11Aを高品質にすることができる。
【0064】
核11Aとサファイアからなる基板10との格子不整合により結晶核層11には圧縮応力がかかるが、核11Aと基板10との格子不整合差が大きいため、数nmで応力が緩和してしまい、基板10と核11Aとの界面における応力は小さい。
【0065】
結晶核層11は、厚さが1~200nmとなるまで三次元成長させるとよい。核11Aを十分に大きくすることができる。また、核11Aの大きさや密度については前述の範囲とすることが好ましい。
【0066】
結晶核層11の成長温度の好ましい温度は1100~1200℃である。温度をこの範囲とすることで核11Aを十分に大きくすることができる。原料原子の表面マイグレーションを高めることができるからである。より好ましくは1125~1190℃、さらに好ましくは1150~1180℃である。前工程の窒化処理と同じ温度としてもよい。核11Aを大きくすることで核密度が減少する。したがって、核11A同士の界面も減少する。膜に生じる引っ張り応力は核11A同士が合体し、平坦になる時に生じる可能性があるが、上記のように核密度を減少させることで核11A同士が合体した後に生じる応力を減少させることができる。
【0067】
また、結晶核層11の成長温度は段階的、または連続的に変化させてもよい。その場合、成長温度の平均が1100~1200℃であればよい。
【0068】
また、成長速度は5~100nm/minとするのが好ましい。成長速度を速くすることで核11Aの直径を大きくすることができる。より好ましくは10~70nm/min、さらに好ましくは20~50nm/minである。
【0069】
V/III比は5~500とするのが好ましい。V/III比をこのような範囲とすることで成長速度を上記範囲に制御することができる。より好ましくは5~400、さらに好ましくは5~300である。
【0070】
なお、窒化処理された基板10上には-c面のAlNが形成されている可能性があるが、核11Aの低いV/III比や高い成長速度などの成長条件によって+c面とすることができる。通常、+c面の結晶層が好ましく、結晶核層11に+cと-cが混在していても、-cの割合が少なく、成長過程によって+cが支配的になり、最終的に+c面だけの表面を持つ結晶層となればよい。
【0071】
2-4.低温三次元成長層12A形成工程
結晶核層11が所定の厚さまで成長したら、結晶核層11の形成工程(期間T2)よりも成長温度を低くする。これにより結晶核層11の核11Aを三次元成長させ、隣り合う核11A同士を合体させ、低温三次元成長層12Aを形成する(
図2(c)、
図4参照)。
図4では、この工程の期間を期間T3として示し、一例として温度975℃の場合を示している。圧力は前工程と同様である。核11Aを合体させることで貫通転位を低減することができ、高品質な低温三次元成長層12Aを形成することができる。
【0072】
ここで、核11Aの形成温度よりも低い温度としているため、基板10との線膨張係数差によって低温三次元成長層12Aまでの層にかかる応力は圧縮応力となる(
図3(b)参照)。一般的に、成長層にクラックが発生する場合は、引っ張り応力の場合である。低温三次元成長層12Aまでの層には圧縮歪が生じているのでクラックを抑制することができる。
【0073】
また、温度を低くすることで低温三次元成長層12Aをゆっくりと成長させることができ、核11Aを起点に成長する低温三次元成長層12Aの合体もゆっくりと進行させることができる。引っ張り応力は核11Aが合体するときに生じる可能性があるが、上記のように低温三次元成長層12Aをゆっくりと成長させるため、核11A上の低温三次元成長層12Aが合体し連続的な膜になるときに発生する引っ張り応力によるクラックも抑制することができる。
【0074】
低温三次元成長層12Aは、結晶核層11よりも厚く成長させるとよく、たとえば厚さが200~500nmとなるまで成長させるとよい。核11Aを起点に核形状から膜形状になるように十分に合体させることで、貫通転位密度を低減することができる。さらに、低温三次元成長層12Aが厚いほど、より凹凸の大きい三次元的な表面にすることができる。これによって、次以降の工程で促進される横方向成長により、貫通転位を曲げて成長層表面へ伝搬する貫通転位を低減させることができる。より好ましい厚さは250~400nm、さらに好ましくは250~350nmである。
【0075】
低温三次元成長層12Aの成長温度の好ましい温度は900~1100℃である。900℃以上とすることで結晶に不純物が入りにくくなり、光吸収を低減することができる。より好ましくは950~1050℃、さらに好ましくは975~1025℃である。
【0076】
また、低温三次元成長層12Aの成長速度は、結晶核層11の成長速度よりも遅くする。成長速度を遅くして核11Aを起点としてゆっくりと合体させることで転位を効率的に低減することができる。加えて、核11A同士の合体により平坦化するときに生じる引っ張り応力の形成を緩和させることができる。成長速度は2~20nm/minとするのが好ましい。より好ましくは2~15nm/min、さらに好ましくは2~10nm/minである。
【0077】
また、低温三次元成長層12AのV/III比は結晶核層11のV/III比よりも大きくし、500~2000とするのが好ましい。成長速度を上記範囲に制御することができる。より好ましくは750~1750、さらに好ましくは1000~1500である。
【0078】
2-5.高温三次元成長層12B形成工程
核11Aを起点に成長した低温三次元成長層12Aが十分に合体し、低温三次元成長層12Aが所定の厚さまで成長したら、低温三次元成長層12Aの形成工程(期間T3)よりも成長温度を高く、かつ結晶核層11形成工程の成長温度以下として、低温三次元成長層12A上にさらに成長させて高温三次元成長層12Bを形成する(
図2(d))、
図4参照)。
図4では、この工程の期間を期間T4として示し、一例として温度1155℃の場合を示している。圧力は前工程と同様である。
【0079】
高温三次元成長層12Bは、低温三次元成長層12Aの三次元成長から、二次元成長層13の二次元成長へと、スムーズに移行するために成長させる層である。高温三次元成長層12Bは、横方向成長が低温三次元成長層12Aよりも速い三次元成長であり、高温三次元成長層12Bの成長温度は低温三次元成長層12Aよりも高くするため、横方向の成長が低温三次元成長層12Aよりも速くなり、結晶の合体をより進めることができる。その結果、貫通転位を横方向に曲げることで表面方向へ伝搬する貫通転位を低減することができ、貫通転位密度の少ない結晶膜が得られるようになる。
【0080】
ここで、高温三次元成長層12Bは低温三次元成長層12Aの形成温度よりも高く、基板10との線膨張係数差によって低温三次元成長層12A成長時に対して高温三次元成長層12Bまでの結晶層に引っ張り応力が生じる(
図3(c)参照)。そのため、高温三次元成長層12Bは完全な平坦膜にするのではなく、部分的にピットやファセット面を有する三次元的な表面にすることで、表面に生じる引っ張り応力を緩やかにして成長させるとよい。
【0081】
高温三次元成長層12Bは、低温三次元成長層12Aよりも厚く成長させるとよく、たとえば厚さが750~2000nmとなるまで成長させるとよい。この範囲であれば、結晶の合体をより進めて、貫通転位密度をさらに低減することができる。より好ましい厚さは1000~1750nm、さらに好ましくは1250~1500nmである。
【0082】
高温三次元成長層12Bの成長温度の好ましい温度は1050~1200℃である。このような範囲とすることで三次元成長から二次元成長へと効率的に成長モードを変換することができる。より好ましくは1075~1175℃、さらに好ましくは1100~1150℃である。
【0083】
また、高温三次元成長層12Bの成長速度は、低温三次元成長層12Aの成長速度よりも速く、かつ結晶核層11の成長速度以下とし、5~50nm/minとするのが好ましい。成長速度をこの範囲とすることで、結晶をゆっくり合体させ、結晶層表面に発生する引っ張り応力の変化を緩やかにすることで、結晶の合体時のクラック発生を抑制することができる。より好ましくは10~40nm/min、さらに好ましくは15~30nm/minである。
【0084】
また、高温三次元成長層12BのV/III比は、低温三次元成長層12AのV/III比よりも小さく、かつ結晶核層11のV/III比以上とし、100~1000とするのが好ましい。成長速度を上記範囲に制御することができる。より好ましくは150~700、さらに好ましくは200~500である。
【0085】
2-6.二次元成長層13形成工程
高温三次元成長層12Bが所定の厚さまで成長したら、高温三次元成長層12Bの形成工程(期間T4)と同温もしくはそれよりも高く、窒素原料ガス、Al原料ガスに加えてGa原料ガスを供給し、Gaを含むAlNまたはAlGaNからなる二次元成長層13を形成する(
図2(e)、
図4参照)。
図4では、この工程の期間を期間T5として示している。圧力は前工程と同様である。
【0086】
AlN成長中にGaを供給すると、Al原子よりも表面マイグレーションの高いGa原子によってAlNの成長モードは横方向成長が促進され二次元成長となる。そのため二次元成長層13によって結晶を平坦化することができる。また、Gaの供給量は、時間の経過とともに連続的、段階的に増加させる。これにより、横方向の成長速度をゆっくりと上げ、結晶が合体したときに発生する引っ張り応力の変化を緩やかにすることで、二次元成長層13のクラック発生を抑制することができる。
【0087】
Ga供給量は、Al原料ガスに対するGa原料ガスのモル比によって制御する。Al原料ガスに対するGa原料ガスのモル比は、0.05~0.5が好ましく、より好ましくは0.08~0.4、さらに好ましくは0.1~0.3である。
【0088】
Ga原料ガスの比率が非常に高いが、実際に上記比率でAlN中にGaが取り込まれるわけではない。なぜならば、AlN表面上ではAl原子に比べて、Ga原子が蒸発し易いので、実際にAlN結晶に取り込まれるGa原子は、原料ガスのモル比が0.3であっても数パーセントである。成長温度が高いほど、Ga原子の方が優先的に蒸発するため、AlN結晶に取り込まれるGa原子はさらに少なくなる。成長温度などの条件にもよるが、上記モル比の範囲において成長するAl1-xGaxNのGa固相比はx=0.01~0.1%程度である。
【0089】
上記モル比の範囲で連続的、段階的な傾斜をかけることで、Ga供給量が時間経過とともに増加するように傾斜をかける。Gaの供給によって二次元成長層13はAlNからAlNとGaNとの混晶(Al1-xGaxN)に変化する。ここでGa組成は0.01~0.1が好ましい。
【0090】
二次元成長層13は、高温三次元成長層12B以上の厚さに成長させるとよく、たとえば厚さが750~2000nmとなるまで成長させるとよい。この範囲であれば、二次元成長層13の表面を十分に平坦化することができる。たとえば表面粗さRMSを0.5~5nmとすることができる。より好ましい厚さは1000~1750nm、さらに好ましくは1250~1500nmである。
【0091】
二次元成長層13の成長温度の好ましい温度は1100~1200℃である。温度がこの範囲であれば二次元成長層13を十分に平坦化することができる。より好ましくは1120~1190℃、さらに好ましくは1140~1180℃である。結晶核層11の形成工程や高温三次元成長層12Bの形成工程と同温としてもよい。
【0092】
また、二次元成長層13の成長速度は、高温三次元成長層12Bの成長速度以上、かつ結晶核層11の成長速度以下とし、5~50nm/minとするのが好ましい。成長速度がこの範囲であれば、成長速度は十分に遅く、結晶の平坦化による引張応力の変化を緩やかにすることができ、クラック発生を抑制することができる。より好ましくは10~40nm/min、さらに好ましくは15~30nm/minである。
【0093】
また、二次元成長層13のV/III比は、高温三次元成長層12BのV/III比以下、かつ結晶核層11のV/III比以上とし、50~500とするのが好ましい。成長速度を上記範囲に制御することができる。より好ましくは100~400、さらに好ましくは150~300である。
【0094】
また、二次元成長層13の成長終了時におけるウェハの曲率は50km-1以上300km-1以下であることが好ましい。ここで曲率は凹状の反りを正の値、凸状の反りを負の値とする。ウェハの曲率がこの範囲であれば、結晶層のクラックをより抑制することができる。より好ましくは100km-1以上200km-1以下である。
【0095】
以上の製造工程により、平坦でクラック発生が抑制され、転位密度の低い、高品質な二次元成長層13を得ることができる。特に、1250℃以下の温度で高品質な二次元成長層13が得られる。そのため、結晶成長装置として部材に石英を用いた一般的なものを使用することができ、装置コストやランニングコストを低減することができる。
【0096】
二次元成長層13の形成後、温度を室温まで下げると、基板10との線膨張係数差によって二次元成長層13までの結晶層には圧縮応力がかかり、ウェハは凸状に反る(
図3(d)参照)。
【0097】
期間T1~T5の切り替え時には、温度を変化させる前に原料ガスの供給を一旦停止し、所定の温度に変化させてから再び原料ガスを供給するとよい。
【0098】
結晶核層11、三次元成長層12、二次元成長層13は減圧で成長させているが、これはTMAlの反応性が高いため、減圧とすることで反応性を抑え、高品質な結晶が得られるようにするためである。実施形態1では圧力一定としているが、成長温度が高いほど圧力を下げるようにしてもよい。より高品質な結晶を得ることができる。
【0099】
2-7.素子構造形成工程
次に、二次元成長層上にn型層14、活性層15、電子ブロック層16、p型層17を順に積層する。そして、p型層17の一部領域をドライエッチングしてn型層14に達する溝を形成する。そして、p型層17上にp電極18、溝の底面に露出するn型層14上にn電極19を形成する。以上によって
図1に示した実施形態1に係る発光素子が製造される。
【0100】
実施形態1では、高品質な二次元成長層13を下地層として発光素子が作製されているため、発光素子の発光効率向上、駆動電圧の低減、歩留まりの向上などを図ることができる。
【0101】
なお、実施形態1では、二次元成長層13上に半導体層を連続的に成長させて発光素子を作製しているが、二次元成長層13を成長させた段階で製造を終了し、AlNテンプレート基板として利用してもよい。
【0102】
また、実施形態1では、成長温度によって核11Aの形成から二次元成長層13の形成までの期間T1~T5の切り替えを制御しているが、成長速度によって制御してもよい。成長速度は、たとえば成長温度とV/III比によって制御することができる。
【0103】
3.実験結果
次に、実施形態1に係る各種実験結果について説明する。
【0104】
実験1
基板10上に結晶核層11、低温三次元成長層12A、高温三次元成長層12B、二次元成長層13の各段階まで形成した試料を作製した。成長温度と成長圧力は
図4のグラフの通りとした。結晶核層11は成長速度30nm/min、厚さ50nmとし、低温三次元成長層12Aは成長速度4nm/min、厚さ250nmとし、高温三次元成長層12Bは成長速度18nm/min、厚さ1300nmとし、二次元成長層13は成長速度18nm/min、厚さ1400nmとした。また、二次元成長層13においてTMAlに対するTMGaのモル比を13%から30%まで連続的に変化させた。
【0105】
図5は、結晶核層11、低温三次元成長層12A、高温三次元成長層12B、二次元成長層13の各表面のAFM像である。
図5(a)は結晶核層11の表面、
図5(b)は低温三次元成長層12A表面、
図5(c)は高温三次元成長層12Bの成長前期の表面、
図5(d)は高温三次元成長層12Bの成長後期の表面、
図5(e)は二次元成長層13の表面である。
【0106】
図5(a)のように、直径が40nm前後の大きな核11Aが生じていることが分かる。また、
図5(b)~
図5(d)のように、核11Aが成長して隣り合う核同士が合体していく様子が見て取れる。また、
図5(e)のように、二次元成長層13の表面はステップを有した平坦な状態であることが分かる。
【0107】
図6は、基板10から二次元成長層13までの積層構造について、基板10主面に垂直な断面を示したTEM像である。
図6のように、低温三次元成長層12Aでの核11Aの合体で貫通転位が大きく減少し、高温三次元成長層12Bにおいて貫通転位がさらに減少し、二次元成長層13の貫通転位密度が非常に低くなっていることが分かる。
図5、6から、平坦でクラック発生が抑制され、転位密度の低い高品質なAlNが得られていることがわかる。
【0108】
実験2
基板10上に結晶核層11、低温三次元成長層12A、高温三次元成長層12B、二次元成長層13を順に形成した試料を作製した。成長温度の時間変化は
図7のグラフの通りとした。結晶核層11は成長温度1100~1150℃、厚さ140nmとし、低温三次元成長層12Aは成長温度1000℃、厚さ120nmとし、高温三次元成長層12Bと二次元成長層13の成長温度は1150℃、厚さは2600nmとした。なお、
図7において成長初期と終了時に温度が400℃で一定となっている区間が存在しているが、これは温度計測に使用した温度計が高温対応のもので400℃以下の温度を計測できなかったためであり、実際は室温まで低下している。
【0109】
この実験2の試料の作製中、ウェハの反りをその場観察した。
図8はウェハの曲率の時間変化を示したグラフである。曲率が+の値は凹状の反りで-の値は凸状の反りである。
図8中の期間T2~T5は
図4と同様であり、T2は結晶核層11形成工程、T3は低温三次元成長層12A形成工程、T4、T5は高温三次元成長層12B、二次元成長層13形成工程である。
【0110】
図8のように、結晶核層11の成長から二次元成長層13の成長まで、低温三次元成長層12Aの成長中を除いて、反りは時間に対しておよそ一定であり、曲率50km
-1程度に抑えられている。
【0111】
結晶核層11の成長前までの反りの増加は、サセプタと接触する基板10裏面と、ガスが接触する基板10表面との温度差によって生じるものである。ウェハの反りは、低温三次元成長層12Aの成長時に一旦小さくなっている。これは、基板10と結晶層との熱膨張係数差によって圧縮歪の方向に移行したためである。その後、高温三次元成長層12B、二次元成長層13の成長時には、反りが再び増加するが、これも熱膨張係数差に起因するものである。
【0112】
ここで、高温三次元成長層12B、二次元成長層13の成長温度は、結晶核層11の成長温度と同程度であるため、反りも高温三次元成長層12B、二次元成長層13の成長時と結晶核層11の成長時とで同程度となっている。
【0113】
このように、結晶核層11の成長温度を基準にして、基準よりも温度が高ければ引っ張り歪が増大し、基準より温度が低ければ圧縮歪が増大する。したがって、結晶層全体の歪は、基板10上に最初に形成される結晶核層11の成長温度とその後の結晶層の成長温度に依存する。
【0114】
結晶層にクラックが発生することを抑制するためには、結晶層に引っ張り歪が生じないことが重要である。そのためには、結晶核層11の成長温度以下の温度で、結晶核層11上に結晶層を成長させればよい。
【0115】
二次元成長層13の成長終了後、温度を室温に戻すと、基板10と結晶層との熱膨張係数差によりウェハは凸状に反るが、結晶に生じるのは圧縮歪であるためクラックは発生しない。
【0116】
なお、低温三次元成長層12Aは貫通転位密度の低減のために設けているが、低温三次元成長層12Aを形成してもクラックの抑制と両立できることがわかる。
【0117】
実験3
比較例として、基板10上に結晶核層11、高温三次元成長層12B、二次元成長層13を順に形成した試料を作製した。成長温度の時間変化は
図9のグラフの通りとした。結晶核層11は成長温度950~1000℃、厚さ140nmとし、高温三次元成長層12Bと二次元成長層13の成長温度は1150℃、厚さは2600nmとした。実験2との違いは、結晶核層11を実験2よりも低温で成長させている点と、低温三次元成長層12Aを設けていない点である。
【0118】
この実験3の試料を作製中、ウェハの反りをその場観察した。
図10はウェハの曲率の時間変化を示したグラフである。
図10のように、ウェハの反りは時間とともに単調に増加していき、曲率200km
-1まで到達した。このように、結晶核層11を低温で成長した後、昇温して結晶層を形成すると、膜中に引っ張り歪が形成され、結晶層の成長とともに(膜厚の増加とともに)歪が蓄積し、凹状の反りが増大する。これにより結晶層にクラックが生じる。発生したクラックは成長終了後も残存し、デバイス特性や歩留まりの悪化を招く。
【0119】
(実施形態1の変形形態)
実施形態1における核11Aとして、AlNに替えてAlGaNやGaNを用いてもよい。GaNやAlGaNを用いれば、基板10であるサファイアとの格子定数差がより大きくなり、基板10と核11Aの界面での歪緩和が大きくなる。加えて、核11AをAlGaNやGaNとした場合、この上に形成される低温三次元成長層12Aの格子定数は核11AよりもAl組成が高いため、核11Aの上に成長する低温三次元成長層12Aは引っ張り歪を受ける。なぜならば成長する結晶は下地の格子定数に整合して形成するからである。したがって、成長が終了し、温度が室温になった時に生じる基板と結晶層の熱応力による低温三次元成長層12A以降に発生する圧縮歪を緩和させることができる。
【0120】
また、基板10と核11Aの界面での歪緩和では、核11Aが膜状ではなく離散的に形成されるため、クラックの発生が抑制される。また、結晶核層11上に形成される低温三次元成長層12Aは、格子定数差によって結晶核層11から引っ張り応力を受けるが、三次元成長であるため引っ張り応力によるクラックの発生は抑制される。以上の結果、二次元成長層13の貫通転位密度を低減することができる。
【0121】
また、核11AをGaNやAlGaNとすると、Gaのサーファクタント効果によって核11Aを大きくすることができ、核密度を小さくすることができる。前述の通り、核密度が小さいと、合体して平坦膜になったときの表面に生じる引っ張り応力を小さくすることができる。また、核11Aが合体する会合面が少なくなり、貫通転位の形成を少なくすることができ、高品質な結晶膜を成膜することができる。
【0122】
核11AはAlをドープしたGaNでもよい。核11AはGaNよりもAlGaNの方が好ましく、Al組成は60%以上98%以下とすることが好ましい。歪をより緩和させ、核11Aをより大きくすることができる。より好ましくは60%以上98%以下である。
【0123】
核11AをGaNやGaを含むAlGaNとする場合、レーザーリフトオフによって基板10を分離することが容易となる。つまり、AlNに比べてバンドギャップエネルギーが小さくなるので、結晶核層11にレーザー光を吸収させることが容易となる。また、GaはAlに比べて融点が非常に低いため、レーザー光の照射によって結晶核層11が分解した際に液状となる。そのため、結晶核層11にGaが含まれる場合、基板10を容易に分離することができる。このように、核11AをGaNやGaを含むAlGaNとした場合、結晶核層11はレーザーリフトオフの犠牲層として有効である。
【0124】
核11AをGaNやAlGaNとする場合、核11Aの大きさは、20~100nmとすることが好ましい。核11Aの大きさをこのような範囲とすることで引張応力を十分に低減することができる。また、核11Aの大きさのばらつき(最大直径と直径の平均との差、および直径の平均と最小直径との差)は、20nm以下が好ましい。
【0125】
また、核11AをGaNやAlGaNとする場合、結晶核層11の厚さは5~100nmとすることが好ましい。核11AをAlNとする場合よりも核11Aが大きくなるので、結晶核層11も厚くなる。核11Aが大きくなる結果、核11A以降に成膜される結晶層の品質をさらに高めることができる。結晶核層11のより好ましい厚さは、5~50nmである。核がAlGaNであってGaの組成が高いほど、アニールによって結晶が動きやすくなり、固相成長によって核を大きくすることも容易になる。アニールによって三次元成長層を成長させる直前の核の大きさを大きくし、密度を下げることもできる。
【0126】
また、核11AをGaNやAlGaNとする場合、核11Aの密度は、3×1011/cm-2以下とすることが好ましい。核11AがAlNの場合よりも大きくなるので、核11Aの密度もAlNの場合より小さくなる。より好ましくは1.5×1011/cm-2以下、さらに好ましくは1×1011/cm-2以下である。また核11AがGaNやAlGaNの場合はアニールによって核11Aを大きくすることができる。すなわち、核密度を1×1011/cm-2以下とすることができる。
【0127】
また、実施形態1では低温三次元成長層12AはAlNとしていたが、AlNに限らずAlGaNとしてもよい。ただし、歪緩和や結晶性の点から、低温三次元成長層12AのAl組成と結晶核層11のAl組成との差は40%以下とすることが好ましい。
【0128】
また、実施形態1では高温三次元成長層12BはAlNとしていたが、AlNに限らずAlGaNとしてもよい。ただし、歪緩和や結晶性の点から、高温三次元成長層12BのAl組成と低温三次元成長層12AのAl組成との差は30%以下とすることが好ましい。
【0129】
また、実施形態1では二次元成長層13はAlNとしていたが、AlNに限らずAlGaNとしてもよい。ただし、歪緩和や結晶性の点から、二次元成長層13のAl組成と高温三次元成長層12BのAl組成との差は20%以下とすることが好ましい。
【0130】
加えて、二次元成長層13以下の結晶層は二次元成長層13の上に形成されるデバイスが発光デバイスの場合、光を吸収しないAl組成にする必要がある。二次元成長層13の上に成膜させるデバイスが紫外線発光LEDの場合、二次元成長層13のAl組成は、LEDのn型層のAl組成と同様か、大きいことが好ましい。
【0131】
以上のことから、デバイス構造の大部分は二次元成長層13のAl組成よりも低いAl組成で形成されることが多い。デバイス構造の歪を緩和させるためには段階的に格子不整合差を変化させることが好ましい。結晶核層11を除く三次元成長層12以降の層は段階的にAl組成が低下していくことが好ましい。このようにすることで、デバイス構造部分にかかる歪を緩和することができる。
【0132】
核11AのAl組成が低くなるほど、格子定数がAlNからGaNのものへ変化する。すなわち平面内の格子定数が大きくなる。したがって、核11Aの上に形成する核11AのAl組成よりも大きいAl組成を持つ三次元成長層12は核11Aから引っ張り歪を受けるようになる。核11AのAl組成が低くなるほど、三次元成長層12の平面内格子定数は大きくなる傾向になる。成長中の三次元成長層12は引っ張り歪を受けることになり、クラックの形成の可能性が高まるので、核11Aと三次元成長層12のAl組成差には最適値が存在し、上述した通りである。成長中に形成される三次元成長層12以降の引っ張り歪は、成長が終了し、室温まで高温した時、サファイアからなる基板10との熱膨張係数差によって、圧縮歪になる。しかしながら、成長時と同様に、核11Aの格子定数が大きいほど、室温における三次元成長層12以降に発生する圧縮歪が緩和される。
【0133】
また、核11AをGaNやAlGaNとする場合、二次元成長層13の厚さは0.5~5μmとすることが好ましい。二次元成長層13の表面を十分に平坦化することができる。たとえば、表面粗さRMSを0.5~5nmとすることができる。二次元成長層13のより好ましい厚さは1~3μmである。
【0134】
また、核11AをGaNやAlGaNとする場合でも、二次元成長層13の貫通転位密度は5×1011cm-2以下とすることができ、良質な結晶を得ることができる。また、二次元成長層13のX線回折におけるロッキングカーブ測定の(002)回折線の半値幅(FWHM)は、たとえば100~300arcsecとすることができ、(102)回折線の半値幅は、たとえば300~600arcsecとすることができる。これは、貫通転位密度の低減によって半値幅を十分に低減できるためである。
【0135】
なお、核11AをGaNやAlGaNとする場合において各層の成長温度、成長速度などの成長条件については、実施形態1と同様の範囲とすることができる。
【0136】
次に、変形形態に関する実験結果を説明する。
【0137】
基板10上に結晶核層11、AlNからなる低温三次元成長層12A、AlNからなる高温三次元成長層12B、GaドープAlNからなる二次元成長層13を順に成長させ、さらに二次元成長層13上にn型層14、活性層15、電子ブロック層16、p型層17を積層させた試料を作製した。結晶核層11は、TMGaとTMAlの合計に対するTMGaの気相割合(以下、TMGaの気相比と呼ぶ)を変化させて複数の試料を作製した。TMGaの気相比は、0%、13.9%、30.3%、46.5%の4通りにした。このときのAlGaN結晶におけるAl組成は、それぞれ100%、98%、93%、89%であった。各層の厚さや成長条件は実施形態1における実験と同様とした。
【0138】
図11は、p型層17の表面のAFM像である。
図11のように、TMGaの気相比が0%から30.3%の場合よりも、TMGaの気相比が46.5%の方が表面の平坦性が高いことが分かる。また、表面のRMSを算出すると、TMGaの気相比0%では7.95nm、13.9%では8.61nm、30.3%では7.97nm、46.5%では4.96nmであり、RMSの値から見てもTMGaの気相比が46.5%の方が表面の平坦性が高いことが分かる。このように、核11AのAl組成を低くすると結晶の歪が緩和し、三次元成長が抑制され、結晶層の表面平坦性が向上することが分かった。
【0139】
また、二次元成長層13のX線回折におけるロッキングカーブを測定し、(002)回折線および(102)回折線の半値幅(FWHM)を求めた。
図12は、TMGaの気相比と半値幅の関係を示したグラフである。
図12のように、TMGaの気相比が大きいほど(Al組成が低いほど)、(002)回折線、(102)回折線のいずれも半値幅が小さくなることが分かった。これは、核11AのAl組成が低いほど核11Aが大きくなって核密度が低下し、その結果、貫通転位密度が小さくなるためと考えられる。核11AをAlGaNとすることで、その上に成長する三次元成長層12が格子不整合差により引っ張り歪を受け、クラックが発生する可能性が高まるが、Gaのサーファクタント効果によって核11Aを大きくすることができ、核密度を小さくすることができるので、核11Aが合体して平坦膜になったときの表面に生じる引っ張り応力も緩和されると考えられる。
【0140】
次に、X線回折のデータから低温三次元成長層12Aと高温三次元成長層12BのAlNの格子定数の値を算出した。
図13は、低温三次元成長層12Aと高温三次元成長層12Bおよび理論上のAlNのa軸、c軸の値を示したグラフである。また、
図13のグラフ中、右下下がりの斜線は、応力によって歪が発生した場合に任意のAl組成におけるAlGaNの格子定数が変動する方向を示している。また、
図13のグラフ中、右上上がりの斜線は、Al組成の変化により格子定数が変動する方向を示している。
【0141】
図13のように、TMGaの気相比が大きくなるほど(核11AのAl組成が低くなるほど)、格子定数がAlNの理論値に近づくことが分かる。これは、核11AのAl組成が低くなるほど低温三次元成長層12Aと高温三次元成長層12BのAlNの圧縮歪が緩和することを示している。
【符号の説明】
【0142】
10:基板
11:結晶核層
12:三次元成長層
13:二次元成長層
14:n型層
15:活性層
16:電子ブロック層
17:p型層
18:p電極
19:n電極