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特開2024-155683アンモニアを燃焼させるシステムと方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155683
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アンモニアを燃焼させるシステムと方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 43/00 20060101AFI20241024BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F02B43/00 Z
F01N3/08 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181578
(22)【出願日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2023069008
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517271935
【氏名又は名称】前田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 和幸
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091BA14
3G091CA17
(57)【要約】
【課題】ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンにおいて、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼装置に供給するとともに、良好に燃焼させて燃焼時に生成される窒素酸化物を低減することが可能なシステムに関する。
【解決手段】アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にすることに
より、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するとともに、燃焼時に生成される窒素酸化物を低減するために、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置、吸引した気化したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させ排気管に設置された窒素酸化物低減装置(SCR)に供給する装置、圧縮して温度と圧力が上昇した気体状のアンモニアの温度を下げることにより凝縮・液化させる装置、液化したアンモニアをアンモニアタンクに戻す装置により構成される、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステムと方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するために、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にするための装置が設置されていることを特徴とする、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項2】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するために、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にするという方法を用いることを特徴とする、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させる方法。
【請求項3】
アンモニアが蒸発する際の気化熱を利用してアンモニア自身の温度を下げることにより、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にしてもアンモニアが液化した状態を保つことができるようにする装置が設置されていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項4】
アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にしてもアンモニアが液化した状態を保つことができるように、アンモニアが蒸発する際の気化熱を利用してアンモニア自身の温度を下げるという方法を用いることを特徴とする、請求項2に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させる方法。
【請求項5】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にすることにより、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するために、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置、吸引した気化したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置、圧縮して温度と圧力が上昇した気体状のアンモニアの温度を下げることにより凝縮・液化させる装置、液化したアンモニアをアンモニアタンクに戻す装置が設置されていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項6】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置、吸引した気化したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置、圧縮して温度と圧力が上昇した気体状のアンモニアの温度を下げることにより凝縮・液化させる装置、液化したアンモニアをアンモニアタンクに戻す装置を設置して、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にするという方法を用いることにより、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止することができることを特徴とする、請求項2に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させる方法。
【請求項7】
アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生して空気が流入した場合、タンク内における液体アンモニア、気化したアンモニア、流入した外気(空気)の密度差から、タンク内においてはタンク上部から順に、気化したアンモニア、流入した空気、液化アンモニアの層が形成されるという特性を利用して、アンモニアタンク内部の液面付近に設置された酸素濃度センサーにより、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に発生した隙間から流入した外気を検知できるシステムを備えていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項8】
タンク及び、アンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部の隙間から流入した外気は、その密度差から、タンク内においてタンク下部の液体状のアンモニアとタンク上部の気体状のアンモニアの中間に留まるという特性を利用して、アンモニアの貯蔵・供給系統に流入してタンク下部の液体状のアンモニアとタンク上部の気体状のアンモニアの中間に留まった外気を連続的に吸引して、そのまま、又は何らかの後処理をした後に大気中に連続して放出する装置を備えることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項9】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、助燃タンクから供給される炭素(C)を含む燃料の混焼率をゼロにすることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロとするために、電気エネルギーを供給する装置から供給された電気エネルギーを用いてアンモニアの燃焼を改善させるための装置が設置されていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項10】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、電気エネルギーを供給する装置から供給された電気エネルギーを用いてアンモニアの燃焼を改善させて助燃タンクから供給される炭素(C)を含む燃料の混焼率をゼロにするという方法を用いることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロとすることができることを特徴とする、請求項2に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させる方法。
【請求項11】
アンモニアを貯蔵するタンクの全周又は周囲の一部に真空断熱装置を設置して密閉構造とし、タンクと真空断熱装置との間に構成される密閉空間の複数箇所に弁を設置することにより、全ての弁を閉じて真空断熱装置を作動させた場合はタンク内の温度を低温に保つことが可能になり、一部の弁を開いてタンクに貯蔵されたアンモニアの沸点よりも高い温度の流体を流動させた場合は、タンク内に貯蔵されたアンモニアの気化を促進することが可能になることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項12】
アンモニアの燃焼によって生成された窒素酸化物(NOx)を低減させるために、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引して圧縮することにより温度と圧力を上昇させ、排気管に設置された窒素酸化物低減装置(SCR)に供給するための装置を備えていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項13】
アンモニアの供給系統からの漏洩を未然に防止するために、アンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置に供給するためのポンプ(アンモニア供給ポンプ)を作動させた状態で、アンモニア貯蔵タンクの供給元弁と、アンモニア供給ポンプの吐出側に設置された圧力調整弁の開度を調整して、アンモニアの貯蔵タンクからアンモニアの供給ポンプに至るアンモニアの供給系統内部の圧力を大気圧よりも低い値に保持する装置を備えていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
【請求項14】
アンモニアの供給系統において、内部の圧力が大気圧よりも高くなる場合、アンモニアの供給系統からアンモニアが漏洩しても外部に放出されることがないという安全性を保つとともに、アンモニアが漏洩した場合、速やかにこれを検知することが可能になるように、内部の圧力が大気圧よりも高くなる部分を容器で覆い、内部を密閉状態にした状態でその一部をブロワーによって吸引し、吸引された密閉容器内の気体の温度を任意の値に設定可能な熱交換器を備えるとともに、ブロワーと熱交換器の間にアンモニアの濃度計を設置されていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステム。
























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクに貯蔵された毒性を持つアンモニアを、ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに安全に供給し、燃焼室において効果的・効率的に燃焼させるとともに、燃焼時に生成される窒素酸化物を低減するための装置を備えるシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素成分(C)を多量に含む化石燃料の燃焼が地球温暖化を促進しているとの観点から、炭素成分を含まない燃料として水素とアンモニアが注目されている。水素は貯蔵や輸送面で解決すべき課題が多いが、アンモニアは主に肥料の原料として、既に生産・運搬・貯蔵に関する技術が確立されており、世界的に流通しているため、アンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃料として活用する研究が実施されている。しかし、アンモニアは毒性を持つとともに、現在のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの主燃料である化石燃料に比べ、着火性が悪い、燃焼速度が遅い、燃焼時に他の大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)を生成する可能性が高いなどの燃焼に関する解決すべき課題を持つだけではなく、単位質量(容積)当たりの発熱量が極端に小さい(石油系燃料の約2.5分の1)という物理的な特性を持っているため、これをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃料として使用できる状態にするには多くの技術的な課題を克服する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、「アンモニアの燃焼率を高めて未燃アンモニアを減少させ、CO2削減を図るために、燃焼室内に点火源となる燃料油とガス状のアンモニアとを投入する燃料投入手段とを有する、燃焼室内でアンモニア予混合気を形成して混合燃焼させるディーゼルエンジンに関する技術」が記載されている。
特許文献2には、「アンモニア燃焼エンジンにおいて効率よくアンモニアを燃焼させるために、アンモニア分解触媒を用いて分解したアンモニアガスを、アンモニア分解ガスに含まれる水素の当量比が所定の下限値以上となるように調節した後に、主燃焼室に噴出孔を介して連通した副燃焼室に提供し、燃料過剰条件下で点火して燃焼させ、未燃水素の混じる可能燃焼ガスを噴出孔から噴流トーチ火炎として主燃焼室に噴出させ、噴流トーチ火炎による未燃水素の燃焼により、主燃焼室に供給されたアンモニアと空気の予混合気体に点火して燃焼させる技術」が記載されている。
特許文献3には、「燃料としてアンモニアを用いた内燃機関では、燃焼室に供給したアンモニアの一部が燃焼室内で燃焼せずに排出される可能性があるとともに、燃焼室内での混合気の燃焼に伴ってNOxが生成される可能性があるため、燃焼室から排出された排気ガス中に含まれる未燃アンモニア及びNOxを後処理装置によって良好に浄化する技術」が記載されている。
【0004】
しかし、いずれの技術も「アンモニアは毒性を持つとともに、現在のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの主燃料である化石燃料に比べ、着火性が悪い、燃焼速度が遅い」という基本的な課題には対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6702475号公報
【特許文献2】特開2021-161921号公報
【特許文献3】特願2012-512766
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンモニア(NH3)は炭素成分(C)を含まないため、燃焼(酸化反応)に際してCO2を排出しない燃料とされているが、着火性、燃焼速度、燃焼時に大気汚染物質であるNOxを多く生成する可能性があるなどの燃焼に係わる特性を石油系燃料と比較した場合、毒性を持つとともに、現在のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの主燃料である化石燃料に比べ、着火性が悪い、燃焼速度が遅い、燃焼時に他の大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)を生成する可能性が高いなどの燃焼に関する解決すべき課題を持つだけではなく、単位質量(容積)当たりの発熱量が極端に小さい(石油系燃料の約2.5分の1)という物理的な特性を持っているため、技術的に改善すべき課題が多い。ことに起因する事項として、単位質量当たりの発熱量が石油系燃料(軽油やA重油)の約40%(2.5分の1)と大幅に少ないため、ディーゼルエンジンやボイラーにおいて同一の性能(出力)を得るためには、約2.5倍の燃料タンクと燃料噴射装置を必要とする。
【0007】
そこで本発明は、下記の要素を備えた、既存のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置にも適用可能な、アンモニアを安全にタンクに貯蔵して移送するとともに、ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置においてアンモニアの燃焼を改善し、排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を低減するシステムを提供することを目的とする。
1.アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にすることにより、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止する。
2.アンモニアが蒸発する際の気化熱を利用してアンモニア自身の温度を下げることにより、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にしてもアンモニアが液化した状態を保つことができるようにする。
3.アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置、吸引した気化したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置、圧縮して温度と圧力が上昇した気体状のアンモニアの温度を下げることにより凝縮・液化させる装置、液化したアンモニアをアンモニアタンクに戻す装置によって構成されるシステムに、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にしてもアンモニアが液化した状態を保つことができるようにするための構造と機能を持たせる。
4.アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、助燃タンクから供給される石油系燃料の混焼率をゼロにすることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロとするために、電気エネルギーを供給する装置から供給された電気エネルギーを用いてアンモニアの燃焼を改善させる。
5.アンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管の外周部を密閉された二重構造として内部を真空にするとともに、二重構造の内部にアンモニアの漏洩検知装置を設置することにより、大気中を含む外部への放出を防止できるとともにアンモニアの漏洩検知器により漏洩をリアルタイムで知ることにより素早い対応が可能になる。
6.アンモニアを貯蔵するタンクの全周又は周囲の一部に真空断熱装置を設置して密閉構造とし、タンクと真空断熱装置との間に構成される密閉空間の複数箇所に弁を設置することにより、全ての弁を閉じた場合はタンク内の温度を低温に保つことが可能になり、弁を開いてタンクに貯蔵されたアンモニアの沸点よりも高い温度の流体を流動させた場合は、タンク内に貯蔵されたアンモニアの気化を促進することが可能になる
7.アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引して圧縮することにより温度と圧力を上昇させ、排気管に設置された窒素酸化物低減装置(SCR)に供給することにより、アンモニアの燃焼によって生成された窒素酸化物(NOx)を低減させることができる。
8.アンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置に供給するためのポンプ(アンモニアの供給ポンプ)を作動させた状態で、アンモニアの貯蔵タンクの供給元弁の開度を調整することにより、アンモニアの貯蔵タンクからアンモニアの供給ポンプに至るアンモニアの供給系統内部の圧力を大気圧よりも低い値に保持することにより、
アンモニアの供給系統からの漏洩を未然に防止することが可能となる。
9.アンモニアの供給系統において、内部の圧力が大気圧よりも高くなる部分を容器で覆い、内部を密閉状態にした状態でその一部をブロワーによって吸引し、吸引された密閉容器内の気体の温度を任意の値に設定可能な熱交換器を備えるとともに、ブロワーと熱交換器の間にアンモニアの濃度計を設置することにより、密閉されたアンモニアの供給系統からアンモニアが漏洩しても、外部に放出されることがないという安全性を保つとともに、アンモニアが漏洩した場合、速やかにこれを検知することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
アンモニアは、現在のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの主燃料である化石燃料に比べ、毒性を有する、着火性が悪い、燃焼速度が遅い、燃焼時に他の大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)を生成する可能性が高いなどの燃焼に関する解決すべき課題を持つだけではなく、単位質量(容積)当たりの発熱量が極端に小さい(石油系燃料の約2.5分の1)という物理的な特性を持っている。また、燃焼時に多くの窒素酸化物(NOx)を生成する可能性があるため、これに対応する技術を開発する必要がある。
本発明は、これらの課題を解決するために、次に示すようなシステムを提供する。
【0009】
請求項1に記載の発明は、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するために、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にするための装置が設置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するために、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にするという方法を用いることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、アンモニアが蒸発する際の気化熱を利用してアンモニア自身の温度を下げることにより、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にしてもアンモニアが液化した状態を保つことができるようにする装置が設置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にしてもアンモニアが液化した状態を保つことができるように、アンモニアが蒸発する際の気化熱を利用してアンモニア自身の温度を下げるという方法を用いることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にすることにより、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止するために、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置、吸引した気化したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置、圧縮して温度と圧力が上昇した気体状のアンモニアの温度を下げることにより凝縮・液化させる装置、液化したアンモニアをアンモニアタンクに戻す装置が設置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置されたアンモニアを貯蔵して移送するタンク及び配管において、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置、吸引した気化したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置、圧縮して温度と圧力が上昇した気体状のアンモニアの温度を下げることにより凝縮・液化させる装置、液化したアンモニアをアンモニアタンクに戻す装置を設置して、アンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧力よりも低い値にするという方法を用いることにより、アンモニアがタンク及び配管から大気中を含む外部へ漏洩するのを防止することができることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生して空気が流入した場合、タンク内における液体アンモニア、気化したアンモニア、流入した外気(空気)の密度差から、タンク内においてはタンク上部から順に、気化したアンモニア、流入した空気、液化アンモニアの層が形成されるという特性を利用して、アンモニアタンク内部の液面付近に設置された酸素濃度センサーにより、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に発生した隙間から流入した外気を検知できるシステムを備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、アンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部の隙間から流入した外気は、その密度差から、タンク内においてタンク下部の液体状のアンモニアとタンク上部の気体状のアンモニアの中間に留まるという特性を利用して、アンモニアの貯蔵・供給系統に流入してタンク下部の液体状のアンモニアとタンク上部の気体状のアンモニアの中間に留まった外気を連続的に吸引して、そのまま、又は何らかの後処理をした後に大気中に連続して放出する装置を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、助燃タンクから供給される炭素(C)を含む燃料の混焼率をゼロにすることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロとするために、電気エネルギーを供給する装置から供給された電気エネルギーを用いてアンモニアの燃焼を改善させるための装置が設置されていることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、電気エネルギーを供給する装置から供給された電気エネルギーを用いてアンモニアの燃焼を改善させて助燃タンクから供給される炭素(C)を含む燃料の混焼率をゼロにするという方法を用いることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロとすることができることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、アンモニアを貯蔵するタンクの全周又は周囲の一部に真空断熱装置を設置して密閉構造とし、タンクと真空断熱装置との間に構成される密閉空間の複数箇所に弁を設置することにより、全ての弁を閉じて真空断熱装置を作動させた場合はタンク内の温度を低温に保つことが可能になり、一部の弁を開いてタンクに貯蔵されたアンモニアの沸点よりも高い温度の流体を流動させた場合は、タンク内に貯蔵されたアンモニアの気化を促進することが可能になることを特徴とする。
【0020】
なお、請求項11に記載の発明は、「アンモニアを貯蔵するタンクの全周又は周囲の一部に真空断熱装置を設置して密閉構造とし、タンクと真空断熱装置との間に構成される密閉空間の複数箇所に弁を設置するという方法を用いることにより、全ての弁を閉じて真空断熱装置を作動させた場合はタンク内の温度を低温に保つことが可能になり、一部の弁を開いてタンクに貯蔵されたアンモニアの沸点よりも高い温度の流体を流動させた場合は、タンク内に貯蔵されたアンモニアの気化を促進することが可能になる」というアンモニアを安全に貯蔵して燃焼させる方法にも活用できる。
【0021】
請求項12に記載の発明は、アンモニアの燃焼によって生成された窒素酸化物(NOx)を低減させるために、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引して圧縮することにより温度と圧力を上昇させ、排気管に設置された窒素酸化物低減装置(SCR)に供給するための装置を備えていることを特徴とする。
【0022】
なお、請求項12に記載の発明は、「アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引して圧縮することにより温度と圧力を上昇させ、排気管に設置された窒素酸化物低減装置(SCR)に供給するという方法を用いることにより、アンモニアの燃焼によって生成された窒素酸化物(NOx)を低減させることが可能になる。」という、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼させる方法にも活用できる。
【0023】
請求項13に記載の発明は、アンモニアの供給系統からの漏洩を未然に防止するために、アンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置に供給するためのポンプ(アンモニア供給ポンプ)を作動させた状態で、アンモニア貯蔵タンクの供給元弁と、アンモニア供給ポンプの吐出側に設置された圧力調整弁の開度を調整して、アンモニアの貯蔵タンクからアンモニアの供給ポンプに至るアンモニアの供給系統内部の圧力を大気圧よりも低い値に保持する装置を備えていることを特徴とする。
【0024】
なお、請求項13に記載の発明は、「アンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置に供給するためのポンプ(アンモニア供給ポンプ)を作動させた状態で、アンモニア貯蔵タンクの供給元弁と、アンモニア供給ポンプの吐出側に設置された圧力調整弁の開度を調整して、アンモニアの貯蔵タンクからアンモニアの供給ポンプに至るアンモニアの供給系統内部の圧力を大気圧よりも低い値に保持するという方法を用いることにより、アンモニアの供給系統からの漏洩を未然に防止することが可能になる。」というアンモニアを安全に貯蔵して燃焼させるシステムにも活用できる。
【0025】
請求項14に記載の発明は、アンモニアの供給系統において、内部の圧力が大気圧よりも高くなる場合、アンモニアの供給系統からアンモニアが漏洩しても外部に放出されることがないという安全性を保つとともに、アンモニアが漏洩した場合、速やかにこれを検知することが可能になるように、内部の圧力が大気圧よりも高くなる部分を容器で覆い、内部を密閉状態にした状態でその一部をブロワーによって吸引し、吸引された密閉容器内の気体の温度を任意の値に設定可能な熱交換器を備えるとともに、ブロワーと熱交換器の間にアンモニアの濃度計を設置されていることを特徴とする。
【0026】
なお、請求項14に記載の発明は、「アンモニアの供給系統において、内部の圧力が大気圧よりも高くなる部分を容器で覆い、内部を密閉状態にした状態でその一部をブロワーによって吸引し、吸引された密閉容器内の気体の温度を任意の値に設定可能な熱交換器を備えるとともに、ブロワーと熱交換器の間にアンモニアの濃度計を設置するという方法を用いることにより、アンモニアの供給系統内部の圧力が大気圧よりも高くなる場合、アンモニアの供給系統からアンモニアが漏洩しても外部に放出されることがないという安全性を保つとともに、アンモニアが漏洩した場合、速やかにこれを検知することが可能になる。」という、アンモニアを安全に貯蔵して燃焼される方法にも適用できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明を用いることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンにおいて、アンモニアを安全に貯蔵して移送して、燃焼装置において効果的・効率的に燃焼させることが可能になるとともに、アンモニアの燃焼によって生成されるNOxを排気管に設置されたNOx低減装置において低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施の形態に係る基本構成の例を示したものである。
図2】本発明の実施の形態に係る、燃焼に係わる構成の例を示したものである。
図3】本発明の実施の形態に係る、燃料供給タンク内部に設置された、アンモニアの供給系統の損傷により空気を吸入した場合の検知及び排出機能の例を示したものである。
図4】本発明の実施の形態に係る、燃料供給タンクにおける真空断熱により保温システムと、アンモニアの蒸発を促進させる装置の例を示したものである。
図5】本発明の実施の形態に係る、燃料供給タンクにおいてアンモニアを効果的に蒸発させる装置の例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、図1を用いて本システムの概要について説明する。
図1において、アンモニアの貯蔵タンク(1)に貯蔵されているアンモニアは、アンモニアの供給元弁”V-1”を経てアンモニアの供給タンク(2)に至る。アンモニアの供給タンク(2)には、気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク(1)及び、又は(2)と、配管内部の圧力を大気圧よりも低くするとともに、吸引したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置(3)と、温度と圧力が上昇したアンモニアを冷却して凝縮させる装置(4)が設置されている。また、装置(3)から吐出された温度と圧力が上昇したガス状のアンモニアは、流量調整弁”V-2”を経て、素酸化物低減装置(5)の還元剤として活用される。
アンモニアの供給タンク(2)のアンモニアは、アンモニアの供給ポンプ(6)によりディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置(7)に供給され、ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼室(8)に噴射される。
図1において、破線で囲まれた装置(3)、装置(4)、ポンプ(6)及び装置(7)を含む空間は閉ざされた密閉空間である。この密閉空間には、ブロワー(9)、アンモニア検知器(10)、熱交換器(11)が設置されており、密閉空間内の気体はブロワー(9)により吸引され、アンモニア検知器(10)、熱交換器(11)を経て再びに戻るといる閉ループの循環を繰り返すことにより、密閉空間内にある気体の温度管理と性状確認(アンモニア漏洩の有無)を行うことができる。
【0030】
次に、アンモニアのタンク及び供給系統内の圧力を大気圧よりも低く保つことにより、
タンクや管に設置された継手やバルブに設置されたパッキンの破孔、亀裂、ゆるみなどの原因により、アンモニアが貯蔵・移送系統の外に漏洩するのを未然に防止する装置と方法について説明する。
アンモニア供給タンク(2)において、液体アンモニアの液面が一定になるように、アンモニア貯蔵タンク(1)からアンモニアが供給される。これと同時に、装置(3)を用いてアンモニア貯蔵タンク(1)からアンモニアの供給ポンプ(6)に至る配管内の圧力が大気圧よりも低くなるように気化したアンモニアを吸引する。その結果、液体アンモニアの温度は大気圧下における沸点である約マイナス33.34℃よりも低くなるが、このような状態において、外部からの入熱によりその一部が蒸発すると気化熱により液体アンモニアそのものの温度が低下するため、気化したアンモニアを装置(3)で吸入し、装置(4)により凝縮させてタンク(2)に戻すシステムにより、安定した状態を保つことが可能になる。
このように、装置(3)を用いてアンモニアの貯蔵タンク(1)から、アンモニアの供給ポンプに至るアンモニアの貯蔵・供給系統内の圧力を大気圧以下に保持することにより、
アンモニアの貯蔵・供給系統に設置されたタンクや管に設置された継手やバルブに設置されたパッキンなどに破孔、亀裂、ゆるみなどの原因によりアンモニアが漏洩するような事態に至った場合は、その箇所から外気(空気)を吸入し、アンモニアが外部に漏洩するような事態を避けることが可能となる。
【0031】
タンク(2)に設置された装置(3)と装置(4)を用いてアンモニアのタンク及び供給系統内の圧力を大気圧よりも低く保つ場合、装置(3)と装置(4)を作動させるための動力を必要とするが、これらの装置を作動させることなく、図1に示すシステムを用いてアンモニアのタンク及び供給系統内の圧力を大気圧よりも低く保つ方法について説明する。
図1において、燃焼装置に供給されるアンモニアは、アンモニアの貯蔵タンク(1)からアンモニアの供給元弁V-1、アンモニアの供給タンク(2)を経てアンモニアの供給ポンプ(6)に吸入されるが、これらの供給系統の管路抵抗により、通常、大気圧よりも低くなる。これに対し、ポンプ(6)の吐出圧力は、燃焼装置においてアンモニアの温度を上昇させても気化しないだけの高い圧力(例えば50℃に対する飽和蒸気圧力である約2MPa)を必要とする。このため、本システムにおいてはポンプ(6)と燃焼装置(7)を連結する配管の途中にポンプ(6)の吸入側に接続される分岐管を設けて、その途中に圧力調整弁が設置するとこにより、燃焼装置(7)に安定した圧力でアンモニアを供給することができる。このシステムにおいて、アンモニアの供給元弁の開度を絞ることにより、アンモニアの供給元弁からポンプ(6)に至るアンモニアの供給系統の圧力を大気圧よりも低い値に設定するとともに、圧力調整弁V-3の開度を絞ることにより燃焼装置(7)に供給されるアンモニアの圧力と供給量を維持することにより、アンモニアの供給ポンプ(6)の運転中はタンク(2)に設置された装置(3)と装置(4)を作動させなくても、アンモニア貯蔵タンク(1)からアンモニアの供給ポンプ(6)に至る配管内の圧力が大気圧よりも低い値になるようにして、タンクや管に設置された継手やバルブに設置されたパッキンの破孔、亀裂、ゆるみなどの原因により、アンモニアが漏洩するのを未然に防止することができる。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態に係る基本構成の例を示したものである。
図において、アンモニア供給するタンク(2)から出たアンモニアは、アンモニアを移送する配管を経てディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置(7)に到る。アンモニアは、現在のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの主燃料である化石燃料に比べ、着火性が悪い、燃焼速度が遅いなどの燃焼特性を有するため、燃焼装置(7)において、アンモニアの助燃剤としての役割を持つ石油系燃料を貯蔵するタンク(12)から移送された軽油、重油、LNGなどの燃料を混合、層状噴射、独立噴射させることにより、アンモニアの着火性と燃焼速度を改善することが可能となる。この際、燃焼装置(7
)において噴射されるアンモニアの状態を液体とするか気体とするかは、石油系燃料を混合、層状噴射、独立噴射することにより燃焼を改善する構造と機能を有する燃焼装置の形態によって決定される。
【0033】
本発明の目的は、炭素成分を含まない燃料であるアンモニアを、ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに安全に供給し、燃焼室において効果的・効率的に燃焼させるとともに、燃焼時に生成される窒素酸化物を低減するためのシステムと方法を提供することにより地球温暖化防止に貢献することにあるが、アンモニアの助燃剤としての役割を持つ軽油、重油、LNGなどの燃料は炭素分を含むため、これらの燃料の混焼率を出来るだけ低くすることが技術的な課題となるが、ゼロにすることは困難である。この課題を解決するために、本発明では電気エネルギーを用いてアンモニアの着火・燃焼特性を改善する装置と方法を用いてGHG(温室効果ガス)の排出量をゼロにする。
【0034】
電気エネルギーを供給する装置(12)から送電された電気は、燃焼装置(7)に設置された放電装置及び、又は加熱装置によって高温域を形成してアンモニアの燃焼を助けることにより、アンモニアの着火性が悪い、燃焼速度が遅いという燃焼特性を改善することが可能となる。なお、電気エネルギーを供給する装置(12)に供給される電気を、再生可能エネルギーを用いた発電、GHGを生成しないアンモニア、水素のみを燃料とする燃焼装置が設置されたディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンを用いて発電することにより、システム全体としてもGHGの排出量をゼロにすることが可能になる。
【0035】
アンモニアを燃料として用いる場合、現在のディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの主燃料である化石燃料に比べ、着火性が悪い、燃焼速度が遅いという燃焼特性上の課題を解決する必要があるが、アンモニアを貯蔵して移送する際の安全性の確保も重要な課題となる。アンモニアの大気圧下における沸点は約マイナス33℃であるため、エネルギー密度の高い液体の状態で輸送・貯蔵するためには、大気圧下における温度をそれ以下に保つ必要がある。また、大気温度下において液体状態を保つためには、例えば0℃においては0.43MPa、20℃においては0.86MPa、40℃においては1.55MPaという高い圧力を必要とする。このため、液体アンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃料として用いる場合、断熱された低温の貯蔵容器及び燃料供給系統、又は加圧された貯蔵容器及び燃料供給系統を必要とする。
【0036】
アンモニアの大気圧下における沸点は約マイナス33℃であるため、加圧して貯蔵した場合、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部からの漏洩が発生した場合、アンモには気化して気体状で噴出することになる。気化したアンモニア(NH3)の分子量は17であり、空気の分子量約29よりも軽いため大気中においては上方へ移動することになる。このため、アンモニアを貯蔵して移送する設備の設置場所が屋外の場合は安全上の問題は軽減されるが、屋内の施設、特に船舶など密閉空間の最下部に設置されている場合などは、密閉空間(機関室)全体に広がるとともに、最下部からアンモニアが噴出し続ける状態となるため、大惨事となる可能性が高い。
【0037】
これに対し、アンモニアの気化熱(蒸発熱)は約1370kJ/kgであり、水の約2250kJ/kgには及ばないものの、他の物質よりも高い値を示すという特性を利用して、アンモニアが蒸発する際の気化熱(蒸発熱)を利用してアンモニア自身の温度を下げて液体の状態を維持するという装置と方法を用いることにより、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部からの漏洩が発生した場合でも、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の圧力が大気圧と同じであれば噴出することはなく、マイナス33℃未満の液体状態でアンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管に比べ、大気中を含む外部の温度はそれよりも高いため、漏洩したアンモニアが気化することにより気化したアンモニア及びその周辺部分の温度を下げるため、アンモニアの噴出(漏洩)が抑制される。
【0038】
このような特性を活かして、本発明においては、アンモニアタンク及び配管内部の気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧以下に保持する装置(3)を設置することにより、アンモニアが蒸発する際の気化熱(蒸発熱)を利用してアンモニア自身の温度を下げて液体の状態を維持するとともに、アンモニアを供給するタンク(2)及び移送する配管内の圧力を大気圧以下に保持しておくことにより、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生した場合でも、アンモニアが外部に漏洩することはなく、逆に外気を吸入することになる。吸入された外気は液体アンモニアよりも低密度のため、アンモニアを供給するタンク(2)の液面よりも高い位置に留まることになり、アンモニアを供給するタンク(2)の下部に設置されたアンモニアをディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに供給する配管内に混入することはない。
【0039】
アンモニアを供給するタンク(2)及び移送する配管内の圧力が大気圧以下に保持された状態で、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生して外気が流入してタンク内に留まった場合、タンク内における液体アンモニア、気化したアンモニア、流入した外気(空気)の密度差から、タンク内においてはタンク上部から順に、気化したアンモニア、流入した外気(空気)、液化アンモニアの層が形成される。この特性を利用して、液体アンモニアの液面よりも少し上に流入した気体を検知するセンサー、例えば空気を対象とする場合は酸素濃度センサー、を設置しておくことにより、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生して外気が流入した場合、これを検知することが可能になる。
【0040】
アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置(7)から多量の窒素酸化物が発生するため、これを触媒と還元剤を用いて窒素と水に変換するための窒素酸化物低減装置(5)が必要になる。現在、窒素酸化物低減装置における還元剤として尿素から生成されたアンモニアが用いられているが、本システムでは、気化したアンモニアを吸引し、これを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置(3)を用いて、この装置から吐出される温度と圧力が上昇した、気化したアンモニアを直接還元剤として用いることにより、尿素タンク、尿素の噴射装置、尿素をアンモニアに変換する装置を必要としなくなる。
【0041】
図2において、気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧よりも低くするとともに、吸引したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置の出口におけるアンモニアの温度を大気温度よりも高くするとともに、圧力を大気よりも高くすることにより、気化したアンモニアを直接、窒素酸化物低減装置(5)の還元剤として使用することが可能になる。本発明においては、気化したアンモニアを吸引し、これを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置(3)と窒素酸化物低減装置(5)の間に、気化したアンモニアの流量調整弁V-2を設置することにより、排ガス中に含まれる窒素酸化物に最適な量の気化したアンモニアを窒素酸化物低減装置(5)に供給している。
【0042】
図3は、本発明の実施の形態に係る、アンモニアタンク内部に設置された、アンモニアの供給系統の損傷により空気を吸入した場合の検知及び排出機能の例を示したものである。
図3において、アンモニアの液面よりも数センチ上部に酸素濃度センサー(14)を設置することにより、アンモニアを貯蔵するタンクやアンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生して空気が流入した場合、これを検知することが可能になる。なお、酸素濃度センサー(14)は、アンモニアの液面にセンサーが設置されたフロートを浮かべておくことにより、液体アンモニアの補給、消費によって液面の位置が変化しても、常に液面付近に滞留した空気の存在を検知することが可能になる。これは、アンモニアを貯蔵するタンク(1)やアンモニアを供給タンク(2)及び、アンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部に隙間が発生して外気が流入してタンク内に留まった場合、タンク内における液体アンモニア、気化したアンモニア、流入した外気(空気)の密度差から、タンク内においてはタンク上部から順に、気化したアンモニア、流入した空気、液化アンモニアの層が形成されるためである。
なお、タンク及び、アンモニアを供給する配管の亀裂、破孔や接合部の隙間から流入した外気は、タンク内において、タンク下部の液体状のアンモニアとタンク上部の気体状のアンモニアの中間に留まるため、これを連続的に吸引して、そのまま、又は何らかの後処理をした後に大気中に放出することにより、アンモニアの貯蔵・供給系統に流入した外気を連続的に排出して運転を継続することが可能になる。
【0043】
図4は、本発明の実施の形態に係る具体的な構成の例を示したものである。
図4において、アンモニアを供給するタンク(2)は密閉可能な二重構造物によって囲まれており、この二重構造物の内部は真空ポンプ(15)及び送風機(16)とつながっている。真空ポンプと二重構造物は開閉弁V-4を用いて切り離すことができる。また、送風機(16)と二重構造物は開閉弁V-5を用いて切り離すことができる。二重構造物に設置された開閉弁V-5の反対側には開閉弁V-6が設置されており、開閉弁V-6を開くと二重構造物は外部と開かれた状態になり、開閉弁V-6を閉じると二重構造物は外部と閉ざされた状態、すなわち密閉空間となる。
【0044】
この装置は、図1に示す窒素酸化物低減装置(5)に供給するアンモニアの量を増加させる必要がある場合に使用する。
図4において、開閉弁V-5、開閉弁V-6を閉じるとともに、開閉弁V-4を開いて真空ポンプ(15)を作動させることにより、密閉された二重空間内部が真空になり、アンモニアの供給タンク(2)内の温度を維持することができる。なお、密閉された二重空間内の圧力が設定された値になると真空ポンプ(15)の運転を停止し、開閉弁V-4を閉じることにより、密閉された二重空間の圧力は維持される。
【0045】
図4において、開閉弁V-4を閉じ、開閉弁V-5と開閉弁V-6を開いた状態で送風機(16)を運転することにより、外気(空気)がアンモニアの供給タンク(2)の周囲に形成された二重構造の内部に、タンク内に貯蔵されたアンモニアの温度(約マイナス33℃以下)よりも高温の外気(空気)が流入、流出して、タンク内に貯蔵されたアンモニアの気化を促進する。これにより、図1に示す窒素酸化物低減装置(5)に供給するアンモニアの量を増加させることが可能となる。
【0046】
図5は、本発明の実施の形態に係る、燃料供給タンクにおいてアンモニアを効果的に蒸発させる装置の例を示したものである。
図5において、送風機(16)と二重構造物の間に加熱装置(17)を設置することにより、アンモニアの供給タンク(2)に貯蔵されたアンモニアの気化を促進させ、図1に示された窒素酸化物低減装置(5)に供給するアンモニアの量を増加させることが可能になる。また、図5に示すように、タンク内に仕切りを設けて、二重構造物に流入した空気が二重構造物に接する面積と留まる時間を長くすることにより、供給タンク(2)に貯蔵されたアンモニアの気化を更に促進させ、図1に示された窒素酸化物低減装置(5)に供給するアンモニアの量を更に増加させることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明を、ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置することにより、アンモニアを安全に貯蔵して供給し、燃焼室において効果的・効率的に燃焼させるとともに、燃焼時に生成される窒素酸化物を低減することが可能になる。
【符号の説明】
【0048】
1.アンモニアの貯蔵タンク
2.アンモニアの供給タンク
3.気化したアンモニアを吸引してアンモニアタンク及び配管内部の圧力を大気圧よりも低くするとともに、吸引したアンモニアを圧縮して温度と圧力を上昇させる装置
4.温度と圧力が上昇したアンモニアを冷却して凝縮させる装置
5.窒素酸化物低減装置
6.アンモニアの供給ポンプ
7.ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼装置
8.ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンの燃焼室
9.ブロワー
10.アンモニア検知器
11.熱交換器
12.燃料(アンモニアの助燃用燃料)タンク
13.電気エネルギーを供給する装置
14.酸素濃度センサー
15.真空ポンプ
16.送風機
17.加熱器
V-1.アンモニアの供給元弁
V-2.窒素酸化物低減装置へ供給するアンモニアの流量調整弁
V-3.圧力調整弁
V-4.真空ポンプとの連絡弁
V-5.送風機との連絡弁









図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-10-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを混焼するディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンにおいて、炭素成分を含まない燃料であるアンモニアの燃焼を改善するために、電気エネルギーを用いて燃焼室に高温域を形成するための装置が設置されていることを特徴とする、アンモニアを燃焼させるシステム。
【請求項2】
アンモニアを混焼するディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンにおいて、電気エネルギーによって燃焼室に高温域を形成するという方法を用いることにより、炭素成分を含まない燃料であるアンモニアの燃焼が改善できることを特徴とする、アンモニアを燃焼させる方法。
【請求項3】
アンモニアを混焼するディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、助燃タンクから供給される炭素(C)を含む燃料の混焼率をゼロにすることにより、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロにするために、電気エネルギーを用いてアンモニアの燃焼を改善するための装置が設置されていることを特徴とする、請求項1に記載された、アンモニアを燃焼させるシステム。
【請求項4】
アンモニアを混焼するディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンに設置された燃焼装置において、アンモニアを燃料とするディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービンから排出されるCO2をゼロにするために、電気エネルギーによってアンモニアの燃焼を改善するという方法を用いることにより、助燃タンクから供給される炭素(C)を含む燃料の混焼率をゼロにすることが可能になることを特徴とする、請求項2に記載された、アンモニアを燃焼させる方法。