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特開2024-155696炭素系微生物電子シャント材料、その製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155696
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】炭素系微生物電子シャント材料、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241024BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241024BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20241024BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C01B32/05
C12N15/09 Z ZNA
C12N1/20 A
C12N1/20 D
C12M1/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200255
(22)【出願日】2023-11-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】202310440432.3
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522356234
【氏名又は名称】広東省科学院生態環境與土壤研究所
【氏名又は名称原語表記】Institute of Eco-environmental and Soil Sciences, Guangdong Academy of Sciences
【住所又は居所原語表記】No.808, Tianyuan Road, Tianhe District, Guangzhou, Guangdong 510650, China
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】李芳柏
(72)【発明者】
【氏名】方利平
(72)【発明者】
【氏名】劉凱
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4G146
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB02
4B029CC10
4B029DG10
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BB02
4B065BB12
4B065BC05
4B065CA53
4B065CA54
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB01
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD15
4G146AD21
4G146BA34
4G146BB03
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC33B
4G146CB23
4G146CB35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】稲田湛水過程でのヒ素の還元及び放出を大幅に低減させて土壌中のヒ素の生物活性を低下させ、イネによるヒ素の吸収を減少させるとともに、メタン生成過程での電気生成微生物とメタン生成微生物の種間の電子伝達を遮断し、稲田土壌からのメタン排出を効果的に抑制し、最終的に稲田土壌中のヒ素活性の低減と温室効果ガス排出削減の目標を同時に達成する、炭素系微生物電子シャント材料の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質炭素材料とドーパミンとを反応させて、ドーパミン変性多孔質炭素材料を得るステップ(1)と、前記ドーパミン変性多孔質炭素材料とレザズリンとを反応させて、炭素系微生物電子シャント材料を得るステップ(2)と、を含む、炭素系微生物電子シャント材料の製造方法を提供する。製造された炭素系微生物電子シャント材料は、電荷を蓄積する能力を有し、微生物駆動による異化ヒ素及び鉄の還元過程での電子を遮断することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素材料とドーパミンとを反応させて、ドーパミン変性多孔質炭素材料を得るステップ(1)と、
前記ドーパミン変性多孔質炭素材料とレザズリンとを反応させて、炭素系微生物電子シャント材料を得るステップ(2)と、
を含む、ことを特徴とする炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質炭素材料と前記レザズリンとの質量比が20:1~5である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパミンと前記レザズリンとのモル濃度比が10:1~5である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、前記反応の時間が1~3hである、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【請求項5】
ステップ(1)において、前記反応の温度が25℃である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【請求項6】
ステップ(2)において、前記反応の時間が0.5~3hである、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【請求項7】
ステップ(2)において、前記反応の温度が25~35℃である、ことを特徴とする請求項1に記載の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料の技術分野に関し、特に炭素系微生物電子シャント材料、その製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲は、中国の最も重要な食糧作物である。稲田土壌は、貴重な自然資源であるが、近年、人間活動の影響のため、稲田土壌の重金属(メタロイド)汚染は厳しくなり、農産物の産量や安全性に深刻な危害を及ぼし、人間の健康に脅威を与えている。ヒ素(As)は、汚染面積の割合が最大ではないが、その毒性が強く(グループ1発がん性物質)、生態系や人間へのリスクが高いため、注目されている。また、稲田は陸地湿地の主要な構成部分でもあり、無視できない温室効果ガスの排出源であり、報告によると、世界で毎年稲田から排出されるメタンは総排出量の15~20%を占め、しかも、メタンによる温度上昇効果は二酸化炭素の28倍である。そのため、いかに稲田土壌のヒ素汚染修復と温室効果ガス削減を同時に実現するかは現在解決すべき重大な環境問題であり、これは、国の食糧の安全な生産の保障や炭素ニュートラル目標の実現に対して重要な意義を持つ。
【0003】
稲田の湛水条件下で微生物駆動による異化ヒ素の還元放出はヒ素活性を高める主要な原因である。現在稲田土壌のヒ素汚染修復技術は、例えば土壌の溶出、物理的修復法、植物抽出法で表土を除去するなど、主に原位置安定化と除去に基づいているが、大面積の工事応用では、土壌の溶出と物理的修復法は、工事量が多く、表土の物理構造が破壊され、土壌の肥沃力が低下し、大量の有機肥料を加えて表土の再構築を行う必要があり、しかもコストが高い。植物抽出法は、時間がかかり、土壌の正常な耕作に影響する。原位置安定化技術は、ヒ素不動態化剤を添加することにより、末端で土壌中のヒ素を吸着固定することができ、土壌中のヒ素のリスクを低減し、修復しながら生産することを可能にするため、ますます注目されているが、ヒ素不動態化剤は温室効果ガスの削減を同時に実現することができない。例えば、関連技術では、ゼロ価鉄とバイオ炭を利用して鉄系バイオ炭を製造し、稲田土壌のヒ素の酸化と吸着固定を促進し、土壌中のヒ素の生物有効性を低下させ、また、泥炭、還元性鉄粉及び/又は第一鉄塩を利用して稲田土壌中のカドミウムとヒ素の不動態化を同時に実現する関連技術特許もある。しかし、上記の技術は、温室効果ガスの排出削減を考慮していない一方で、ゼロ価鉄が電子供与体として微生物のメタン産生を促進することを発見した研究がある。泥炭はメタン生成微生物の基質となり、メタン生成を促進することができる。さらに、稲田の温室効果ガス削減について、中国特許出願CN202010690911.7(中国特許出願公開第111972233号:特許文献1)は、稲田にバイオ炭と木酢酸を加えて稲田の温室効果ガスを削減させる技術を提案しているが、バイオ炭の表面はマイナスの電気を帯びており、メタロイドであるヒ素に対する不動態化に不利であることが研究によりわかった。したがって、これらの技術は、稲田土壌のヒ素汚染修復と温室効果ガス削減を同時に実現するのに適していない。
【0004】
以上から、稲田土壌のヒ素汚染リスクを効果的に低減しつつ、稲田の温室効果ガス排出を削減させるという複数目標の共同対策をいかに実現するかは現在直面している重大な技術的課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第111972233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術に存在する上記技術的課題の少なくとも1つを解決することを目的とする。そのために、本発明は、循環充放電機能を有する炭素系微生物電子シャント材料、その製造方法及びその使用を提供することを目的とする。本発明による炭素系微生物電子シャント材料は、電荷を蓄積する能力を有し、微生物駆動による異化ヒ素及び鉄の還元過程での電子を遮断し、稲田湛水過程でのヒ素の還元及び放出を大幅に低減することができ、これにより、土壌中のヒ素の生物活性を低下させ、イネによるヒ素の吸収を減少させるとともに、メタン生成過程での電気生成微生物とメタン生成微生物の種間の電子伝達を遮断し、稲田土壌からのメタン排出を効果的に抑制し、最終的に稲田土壌中のヒ素活性の低減と温室効果ガス排出削減の目標を同時に達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明が採用する技術的解決手段は、以下の通りである。
【0008】
本発明の第1態様は、
多孔質炭素材料とドーパミンとを反応させて、ドーパミン変性多孔質炭素材料を得るステップ(1)と、
前記ドーパミン変性多孔質炭素材料とレザズリンとを反応させて、炭素系微生物電子シャント材料を得るステップ(2)と、
を含む、炭素系微生物電子シャント材料の製造方法を提案する。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態では、前記多孔質炭素材料と前記レザズリンとの質量比が20:1~5である。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、前記多孔質炭素材料と前記レザズリンとの質量比が10:1である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態では、前記ドーパミンと前記レザズリンとのモル濃度比が10:1~5である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態では、前記ドーパミンと前記レザズリンとのモル濃度比が5:1である。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(1)において、前記反応の時間が1~3hである。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(1)において、前記反応の温度が25℃である。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(2)において、前記反応の時間が0.5~3hである。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(2)において、前記反応の時間が1hである。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(2)において、前記反応の温度が25~35℃である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、前記多孔質炭素材料の製造方法は、
動物の骨を粉砕し、乾燥して、動物の骨粉顆粒を得るステップS1と、
前記動物の骨粉顆粒を不活性雰囲気下で昇温し熱分解し、降温して、炭素材料を得るステップS2と、
前記炭素材料を酸性溶液に浸漬して反応させた後、後処理し、多孔質炭素材料を得るステップS3と、を含む。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップS1において、前記動物の骨は、牛の骨、豚の骨、鶏の骨のうちの少なくとも1種を含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップS2において、前記昇温は700℃~1100℃まで行われる。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップS2において、前記昇温は900℃まで行われる。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップS2において、前記熱分解の時間は1~2hである。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップS3において、前記酸性溶液は、塩酸、硝酸、硫酸のうちの少なくとも1種を含む。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップS3において、前記後処理は、粗生成物をリンス液のpHが変化しないように水でリンスし、乾燥することである。
【0025】
本発明の第2態様は、前記炭素系微生物電子シャント材料の製造方法によって製造された炭素系微生物電子シャント材料を提案する。
【0026】
本発明の第3態様は、前記炭素系微生物電子シャント材料の、以下の(1)~(2)のうちの少なくとも1つにおける使用を提案する。
(1)土壌中のヒ素に対する対策
(2)土壌からのメタン排出の削減
【0027】
本発明のいくつかの実施形態では、前記炭素系微生物電子シャント材料の使用量は、土壌質量の0.5~3%である。
【発明の効果】
【0028】
従来技術と比較して、本発明は以下のような有益な効果を有する。
(1)本発明の炭素系微生物電子シャント材料は、電荷を蓄積する能力を有し、微生物駆動による異化ヒ素及び鉄の還元過程での電子を遮断し、稲田湛水過程でのヒ素の還元及び放出を大幅に低減することができ、これにより、土壌中のヒ素の生物活性を低下させ、イネによるヒ素の吸収を減少させるとともに、メタン生成過程での電気生成微生物とメタン生成微生物の種間の電子伝達を遮断し、稲田土壌からのメタン排出を効果的に抑制し、最終的に稲田土壌中のヒ素活性の低減と温室効果ガス排出削減の目標を同時に達成することができる。
(2)本発明では、電子受容能を有するレザズリンをドーパミンによって多孔質炭素材料の表面にグラフトすることにより、炭素系微生物電子シャント材料の表面の電子受容能を効果的に高めることができる。稲田土壌のヒ素汚染に対して、炭素系微生物電子シャント材料は稲田土壌の嫌気条件下におけるヒ素の還元放出とメタン排出を効果的に同時に抑制する。
(3)本発明の炭素系微生物電子シャント材料の製造方法は、簡便であり、製造コストが安価である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】炭素系微生物電子シャント材料CGの走査電子顕微鏡像(a)及び赤外分光図(b)である。
図2】炭素系微生物電子シャント材料CG及びバイオ炭のサイクリックボルタンメトリーテストチャートである。
図3】炭素系微生物電子シャント材料CG及びバイオ炭の定電流充放電図である。
図4】バイオ炭、CD、炭素系微生物電子シャント材料(CG、CG1、CG2)の電子交換能図である。
図5】バイオ炭及びCG処理の場合のMR-1駆動による鉄還元過程における水溶解状態Fe(II)の濃度変化(a)、水溶解状態As(III)の濃度変化(b)である。
図6】バイオ炭及びCG処理の場合の土壌のメタン放出濃度(a)及び水溶解状態As(III)の濃度(b)である。
図7】バイオ炭及びCG処理の場合の土壌のヒ素還元機能遺伝子arrAのコピー数(a)、及びメタン生成機能遺伝子mcrAのコピー数(b)である。
図8】炭素系微生物電子シャント材料による土壌からのヒ素放出の抑制とメタン排出削減を同時に達成させる原理の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の内容について、具体的な実施例を用いてさらに詳細に説明する。実施例及び比較例で使用される原料、試薬又は装置は、特段の説明がない場合、通常の商業的経路から入手することができるか、又は従来技術の方法により入手することができる。特に明記されていない限り、試験方法又はテスト方法は、当該技術分野における従来の方法である。
【実施例0031】
本実施例は、炭素系微生物電子シャント材料を提供する。具体的なプロセスは、以下の通りである。
ステップ1:牛の骨を破砕処理し、粒径2mm未満の粉粒体を得た後、オーブンに移して80℃で乾燥した。
ステップ2:乾燥後の粉粒体を真空管式炉に移し、窒素雰囲気下で900℃まで昇温し、1h熱分解し、常温まで下げてから取り出し、炭素材料を得た。
ステップ3:ステップ2で得られた炭素材料3gを2M HCl 50mLに浸漬し、1h振とうした後、超純水でリンス液のpHが変わらないまでリンスし、その後80℃のオーブンに置いて乾燥し、多孔質炭素材料を得た。
ステップ4:多孔質炭素材料0.5gを1mMドーパミン水溶液50mLに浸漬し、200rpmの条件下、反応温度25℃で2h撹拌反応し、遠心乾燥し、ドーパミン変性多孔質炭素材料(CD)を得た。ドーパミン変性多孔質炭素材料を0.2mMのレザズリン水溶液50mLに入れて、200rpmの条件下、反応温度25℃で1h撹拌反応し、遠心乾燥し、炭素系微生物電子シャント材料(CG)を得た。
【0032】
本実施例では、ドーパミンとレザズリンのモル濃度比は5:1である。
【実施例0033】
本実施例は、実施例1と比べて、レザズリンの濃度のみが異なる炭素系微生物電子シャント材料を提供する。
【0034】
実施例1の0.2mMのレザズリン水溶液を0.1mMのレザズリン水溶液に置き換え、系中のドーパミンとレザズリンの濃度比を10:1とした以外、残りのステップを実施例1と同様にして、炭素系微生物電子シャント材料(CG1)を得た。
【実施例0035】
本実施例は、実施例1と比べて、レザズリンの濃度のみが異なる炭素系微生物電子シャント材料を提供する。
【0036】
実施例1の0.2mMのレザズリン水溶液を0.5mMのレザズリン水溶液に置き換え、系中のドーパアミンとレザズリンの濃度比を2:1とした以外、残りのステップを実施例1と同様にして、炭素系微生物電子シャント材料(CG2)を得た。
【0037】
性能テスト
1.実施例1で製造された炭素系微生物電子シャント材料CGの構造を以下のテスト方法でテストした。
走査型電子顕微鏡テスト:製造された粉末炭素系微生物電子シャント材料CGを走査型電子顕微鏡の試料台に置き、走査型電子顕微鏡テストに供した。
赤外分光テスト:製造された炭素系微生物電子シャント材料CGを1:100の質量比で臭化カリウムと混合して粉砕し、プレスして試料を作製し、フーリエ赤外分光計でテストした。
図1に示すように、走査型電子顕微鏡像から、実施例1で製造された炭素系微生物電子シャント材料CGは明らかな多孔質構造を有しており、さらに赤外分光分析から明らかに、ドーパミンとレザズリンで変性されたCGは、それぞれ、1595cm-1、1116cm-1、844cm-1、592cm-1に、顕著な内部曲げ振動ピークが出現し、この特徴ピークは主にドーパミン又はレザズリンに由来する振動ピークであり、これらの結果は、レザズリンを多孔質炭素表面にグラフトすることに成功し、CGの電子受容能を高めることができることを示している。
実施例2と実施例3の材料について同様のテストを行ったところ、その技術的効果が実施例1の材料と類似していることがわかった。
【0038】
2.実施例1で製造された炭素系微生物電子シャント材料CG及びバイオ炭の電気化学的性能を以下の方法でテストした。
比較材料であるバイオ炭の製造:乾燥後の稲わらを真空管式炉に置き、窒素雰囲気下で500℃まで昇温し、1h熱分解し、常温まで降温した後、取り出し、バイオ炭を得た。
実施例1で製造された炭素系微生物電子シャント材料CG(5mg)とバイオ炭(5mg)をそれぞれ0.05%Wt Nafionアルコール溶液0.5mLに置き、10min超音波処理し、分散した混合液をそれぞれ得た。上記の分散液をそれぞれ10μL吸引して、活性化したガラス状炭素作用電極に滴下し、風乾して電気化学テストに用いた。
サイクリックボルタンメトリー(CV)テストを行い、ここで、サイクリックボルタンメトリー(CV)テストに用いた電解質溶液は0.1mol/L KClであり、電位窓は-0.6~0.4Vであり、掃引速度は0.02V/sである。
定電流充放電テストを行い、ここで、定電流充放電テストに用いられる電解液は0.1mol/L KClであり、定電流は0.0001Aであり、サイクルは5回である。
図2から分かるように、炭素系微生物電子シャント材料CGのCV曲線図は、長方形になる傾向があり、明らかな電気二重層コンデンサの性質を示し、かつ、CGのCV曲線図の面積もバイオ炭より明らかに大きく、炭素系微生物電子シャント材料の比静電容量は196.17F/gと大きいことが示された。さらに、図3から分かるように、炭素系微生物電子シャント材料CGの5回充放電曲線は安定しており、炭素系微生物電子シャント材料CGがスーパーキャパシタのような安定した充放電特性を有していることを示している。これに対し、バイオ炭は、充放電回数が増えるにつれて、充電時間が短くなり、静電容量の性質が不安定になる。したがって、本実施例で製造された炭素系微生物電子シャント材料CGは、高い比静電容量を有し、かつ安定した充放電特性を有する。
実施例2と実施例3の材料について同様のテストを行ったところ、その技術的効果が実施例1の材料と類似していることがわかった。
【0039】
3.電気化学ワークステーションを用いて、製造されたCD、CG、CG1、CG2及び性能のテスト2で製造された比較材料のバイオ炭の電子交換能をテストした。テスト方法は以下のとおりである。
炭素系材料の電子受容能(EAC)及び電子供与能(EDC)の測定において、電気化学作用電極の電位をそれぞれ-0.49V及び+0.61Vに設定した。電子伝達媒体としては、メチルビオロゲン(ZiV)及び2,2’-ビス(3-エチルベンゾチアゾール-6-スルホン酸)二アンモニウム塩(ABTS)が選択された。作用電極を電解質(0.1M KCl;0.1Mリン酸緩衝液、pH7)30mLに入れて、バックグラウンド電流応答が安定になると、ZiV又はABTS溶液(10mM)を電解質に1mL加えた。バックグラウンド電流が不変になった後、10g/L CG懸濁液0.2mLを電解質に加えて、電流変化を監視した。
図4から分かるように、製造されたCG、CG1、CG2のEACは、電子付与能よりも明らかに高く、CG材料が電子を受容しやすく、受容した電子を保存することを示している。EACは、レザズリンとドーパミンの濃度比の増加に伴い徐々に上昇した。バイオ炭と比較すると、CG、CG1、CG2のEACとEDCは、バイオ炭とCDより明らかに高く、より優れた電子交換能を示した。
【0040】
4.炭素系微生物電子シャント材料はヒ素の放出を抑制する。具体的なテストステップを以下に示す。
【0041】
実施例1で製造されたCGとバイオ炭について、微生物のマイクロクロスミオ培養実験をそれぞれ行い、OD値0.2の鉄還元微生物Shewanella oneidensisMR-1 100mM乳酸、0.2g/Lの水鉄鉱、5mMのピペラジン-1,4-ジエタンスルホン酸(PIPES)を含み、pHを7±0.2に保持した、ヒ素を吸着した2mM 水鉄鉱懸濁液30mLをペニシリンバイアル50mLに加え、さらに、系中の材料の最終濃度が50mg/Lとなるように、等量のCG又はバイオ炭をそれぞれ加え、その後、窒素を1h曝気し、系中の酸素を十分に除去した後、キャッピングした。30℃の恒温培養器で培養し、反応の進行に伴い、各時間帯でサンプリングし、水溶解状態Fe(II)とAs(III)の濃度を分析し、その結果を図5に示した。
【0042】
図5より、図5aでは、バイオ炭処理系でのFe(II)の濃度変化は、炭素系微生物電子シャント材料を加えていない対照処理と同様に、微生物駆動による異化鉄還元に影響を与えないが、CG処理系では、Fe(II)濃度が対照やバイオ炭処理よりも有意に低く、微生物駆動による異化鉄還元を抑制していることが分かった。また、系中の水溶解状態As(III)を測定した結果、図5bの結果により、バイオ炭処理群の水溶解状態As(III)は対照処理群よりわずかに高いが、CG処理群は明らかにAs(III)の放出を抑制し、対照群に比べて44%低下した。その原因は、CGによる異化鉄の還元過程における細胞外電子の遮断により、水鉄鉱の還元溶解が抑制され、吸着状態As(III)の放出が減少したからである。
【0043】
実施例2と実施例3の材料について同様のテストを行ったところ、その技術的効果が実施例1の材料と類似していることがわかった。
【0044】
5.炭素系微生物電子シャント材料によるヒ素の転化制御とメタン排出削減の効果を評価し、具体的なステップは以下のとおりである。
【0045】
実施例1で製造されたCGとバイオ炭に対して土壌嫌気性のマイクロクロスミオ培養実験をそれぞれ行い、中国湖南省のある場所から採取したヒ素汚染稲田土壌5gを50mLペニシリンバイアルに置き、100mgのCG又はバイオ炭をそれぞれ加えて、その後、脱イオン水25mLを加えて、土壌懸濁液を嫌気性グローブボックスに入れて培養し、脱酸素を行い、脱酸素が終わってからキャッピングし、25日間の嫌気性培養実験を行った。
【0046】
25日間の培養が終了すると、嫌気性培養瓶内のガスを別々に採取して、メタン濃度をテストし、それと同時に、土壌懸濁液を遠心分離して上清を得て、水溶解状態As(III)の濃度をそれぞれテストし、その結果を図6に示す。
【0047】
図6より、炭素系微生物電子シャント材料を加えていない対照処理では、メタン濃度が2.63mmol/Lに達し、バイオ炭処理では、メタン濃度がわずかに低下したが、CG処理では、明らかに低下し、対照とバイオ炭処理に対してそれぞれ84%、80%低下していることが分かった。CGは土壌からのメタン排出を明らかに低減できることを示した。また、土壌懸濁液中の水溶解状態As(III)の濃度を測定した結果、CGでも土壌からのヒ素放出は有意に減少したが、バイオ炭はヒ素放出をわずかに促進した。以上から、炭素系微生物電子シャント材料は土壌からのヒ素放出抑制とメタン排出削減を同時に実現できることが分かった。
【0048】
実施例2と実施例3の材料について同様のテストを行ったところ、その技術的効果が実施例1の材料と類似していることがわかった。
【0049】
6.炭素系微生物電子シャント材料による土壌微生物の遺伝子発現の制御を評価し、具体的なステップは以下のとおりである。
【0050】
QIamp PowerSoil Pro DNA Kitキットを用いて土壌の総DNA(DNAテンプレートとして)を抽出し、具体的には、嫌気性マイクロクロスミオ培養を終えた湿土0.35gをそれぞれ秤量し、DNA抽出試薬を加えて土壌DNAを抽出し、蛍光定量PCR装置を用いて異なるDNA試料中のヒ素還元機能遺伝子arrAとメタン生成機能遺伝子mcrAを絶対的に定量化した。ヒ素還元機能遺伝子増幅プライマーはarrA-CVF/arrA-CVRであり、増幅により得られた増幅フラグメントの長さは約330bpである。メタン生成機能遺伝子mcrA増幅プライマーはmcrA-F/mcrA-Rであり、増幅により得られた増幅フラグメントの長さは約470bpである。
ここで、PCR増幅にはqPCRを用い、使用したqPCR増幅系を表1に示す。
【0051】
表1 qPCR増幅系
【0052】
ベクターpUC19をarrA又はmcrA遺伝子PCR増幅産物に連結し、陽性モノクローナルを抽出した後、プラスミドDNAを抽出し、Qubit3.0 FluorometerでDNA濃度を測定し、遺伝子コピー数を計算し、次に、EASY dilution希釈液で10~10(単位はコピー数/μL)の検量線に希釈した。arrA又はmcrA遺伝子プライマーは以下のとおりである。
上流プライマーarrA-CVF1:5’-CACAGCGCCATCTGCGCCGA-3’(SEQ ID NO:1)
下流プライマーarrA-CVR1:5’-CCGACGAACTCCYTGYTCCA-3’(SEQ ID NO:2)
上流プライマーmcrA-F:5’-GGTGGTGTMGGATTCACACARTAYGCWACAGC-3’(SEQ ID NO:3)
下流プライマーmcrA-R:5’-TTCATTGCRTAGTTWGGRTAGTT-3’(SEQ ID NO:4)
【0053】
arrA増幅反応手順:94℃で5min予備変性し、94℃で30s変性し、60℃で1minアニールし、72℃で1min伸長し、40サイクルとする。
【0054】
mcrA増幅反応手順:95℃で5min予備変性し、95℃で60s変性し、55℃で43sアニールし、72℃で1min伸長し、35サイクルとする。
【0055】
図7より、材料を加えていない土壌対照群では、ヒ素還元機能遺伝子arrAとメタン生成機能遺伝子のコピー数は、それぞれ、1.2×10及び1.7×10コピー数/g湿土であるのに対し、バイオ炭処理群は、対照処理より、ヒ素還元機能遺伝子arrAのコピー数がやや上昇し、メタン生成機能遺伝子のコピー数がやや低下し、変化は明らかではなかった。しかし、CG処理群では、ヒ素還元機能遺伝子arrAとメタン生成機能遺伝子のコピー数は著しく低下し、低下の幅は、それぞれ64%、及び91%に達し、このように、ヒ素還元機能遺伝子とメタン生成機能遺伝子の低下を同時に実現した。
【0056】
以上の性能テストにより、炭素系微生物電子シャント材料によるヒ素放出抑制とメタン排出削減の原理を提案する。図8に示すように、炭素系微生物電子シャント材料は、電荷を貯蔵する能力を有し、微生物駆動による異化鉄還元過程での電子伝達、及び電気生成微生物とメタン生成微生物の種間の電子伝達を遮断でき、稲田湛水過程の土壌からのヒ素放出の抑制とメタン排出削減を同時に実現できる。
【0057】
上記の実施例は本発明の好ましい実施態様であるが、本発明の実施態様は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の精神的本質及び原理の下で行われた変更、修飾、代替、組み合わせ、簡略化などの等価な置換形態は、すべて、本発明の請求範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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