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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155697
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/74 20060101AFI20241024BHJP
   C10M 105/72 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20241024BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C10M105/74
C10M105/72
C10M135/10
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201518
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2023070202
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉矢 正
(72)【発明者】
【氏名】古井 恵里
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104LA03
4H104LA14
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】従来のイオン液体を基油とする潤滑油より広い温度範囲で長時間使用可能であり、優れた潤滑性能を有する潤滑剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤を提供するものである。
【化1】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を表し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤。
【化1】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を表し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のRが、下記一般式(2)で表される基である請求項1に記載の潤滑剤。
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)中のAが、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンである請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項4】
下記一般式(3)で表される化合物をさらに含有する請求項1に記載の潤滑剤。
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Bはアニオンを表す。)
【請求項5】
前記一般式(3)で表される化合物が、トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである請求項4に記載の潤滑剤。
【請求項6】
請求項1又は4に記載の潤滑剤を用いた転がり軸受。
【請求項7】
請求項6に記載の転がり軸受を用いたエンジン。
【請求項8】
請求項6に記載の転がり軸受を用いたモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩を含有する潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械技術の進歩からエンジン及びモータは、高出力化及び高回転化が求められており、より過酷な条件で使用可能な高性能な潤滑剤が求められている。例えば、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火性の危険もなく、耐熱性にも優れ、さらに従来の潤滑油と較べても遜色ない耐摩耗性を有しており、高温下、真空下などの厳しい条件でも長時間使用できる潤滑剤が求められている。
【0003】
この様な背景から、優れた熱安定性を有し、空気中で安定なイオン液体が着目されている(特許文献1及び2)。
イオン液体は、カチオンとアニオンから構成される常温で液状の塩であり、蒸発しにくく、広い温度範囲で安定である。しかし、イオン液体は、低温で流動性を失い固化するものが多く、低温での使用には適しない場合が多い。
【0004】
特許文献1には、高温から低温まで広い温度範囲で良好に使用できる錆止め性に優れたイオン液体を基油とした潤滑剤が記載されており、好ましいイオン液体として、アニオンが、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、(トリフルオロメチルスルホニル)(へプタフルオロプロピルスルホニル)イミド及びトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、カチオンが、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピラゾリウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、モルホリン、ピロール、ホスホニウム、四級アンモニウム塩、スルホニウム及びイソオキサゾリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であるイオン液体が記載されている。
【0005】
特許文献2には、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができる潤滑油として、カチオンとアニオンから構成され、イオン濃度が1mol/dm以上であるイオン性液体を基油として含む潤滑油が記載されている。
【0006】
非特許文献1には、アルキルホスホニウム塩系イオン液体の室温での摩擦特性が記載されており、アルキルイミダゾール塩系イオン液体よりアルキルホスホニウム塩系イオン液体が摩擦特性で優れていることが記載されている。
【0007】
しかしながら、これらのイオン液体を基油とした潤滑剤は、粘度、摩擦特性及び低温での流動性等の点で、必ずしも十分な特性を有しているとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-36294号公報
【特許文献2】国際公開第2005-035702号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tribol Lett(2010)40:225-235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、従来のイオン液体を基油とする潤滑油より広い温度範囲で長時間使用可能であり、優れた潤滑性能を有する潤滑剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ホスホニウム型イオン液体において、ホスホニウムカチオンに機能性の官能基を導入し、さらにフッ素原子を有するアニオンと組み合わせることにより、優れた潤滑剤としての特性を発現すること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤である。
【0013】
【化1】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を表し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、広い温度範囲で長時間使用可能であり、優れた潤滑性能を有する潤滑剤の基油として好適な化合物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記特性に加えて、導電性を有する潤滑剤の基油としても好適な化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の潤滑剤は、下記一般式(1)で表される、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩を含有する。
【0016】
【化2】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を表し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【0017】
一般式(1)中のR、R及びRは、炭素数1~20、好ましくは2~18、特に好ましくは3~15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。R、R及びRは、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。
【0018】
一般式(1)中のRは、炭素数1~20、好ましくは2~18、特に好ましくは3~15の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を表す。
【0019】
前記R、R及びRで表される炭素数1~20の直鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等が挙げられる。
【0020】
前記R、R及びRで表される炭素数1~20の分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
前記Rで表される炭素数1~20のフルオロアルキル基としては、前記炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基中の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
【0022】
前記Rで表される炭素数1~20のフルオロアルキル基としては、優れた潤滑性能を有し、極低温においても流動性を維持できる潤滑剤となる点で、下記一般式(2)で表される基が特に好ましい。
【0023】
【化3】
(式中、Rは、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表す。)
【0024】
前記炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基及びパーフルオロデシル基等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)中のAはフッ素原子を有するアニオンを表し、例えば、テトラフルオロボレート(BF )、ヘキサフルオロホスフェート(PF )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N(SOCF )、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SOF) )、トリフルオロメタンスルホネート(SOCF )、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート((CPF )及びトリフルオロ酢酸(CFCOO)等が挙げられ、これらの中でビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SOF) )及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N(SOCF )が、優れた潤滑性能を有し、極低温においても流動性を維持できる潤滑剤となる点で好ましい。
【0026】
本発明の一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0027】
前記一般式(1)で表される化合物は、例えば、トリアルキルホスフィンとハロゲン化フルオロアルキルを不活性ガス雰囲気下で反応させ、アニオンがハロゲンであるホスホニウム塩を得た後、所望により中和・酸化処理を行い、次いで得られたホスホニウム塩に所望するアニオン成分を滴下して混合し、アニオン交換することで得られる。アニオン交換後に得られた前記一般式(1)で表される化合物は、所望により洗浄、濃縮、乾燥及び粉砕等の工程を経ることにより、後述する潤滑剤の基油として使用することができる。
【0028】
本発明の潤滑剤は、前記一般式(1)で表される化合物であるホスホニウム塩を有効成分とすることを特徴としている。イオン液体としてはアンモニウム塩やピリジニウム塩も知られているが、ホスホニウム塩は他のオニウム塩と比べて耐熱性が高い。またフルオロアルキル基を有するホスホニウム塩であることで、優れた潤滑性能を有し、低温でも固化せず流動性を有する潤滑剤となる。さらに、組み合わせるアニオンがフッ素原子を有することで、より優れた潤滑性能を有し、極低温でも固化せず流動性を有する潤滑剤となるため、使用温度範囲が広く、他のオニウム塩では使用できない温度領域であっても問題なく使用することができる。
また、本発明の潤滑剤は、上記特性に加えて、更に導電性を有する潤滑剤でもある。そのため、例えば、自動車分野、産業機械分野及びエレクトロニクス分野等における各種エンジンやモータで使用される転がり軸受け用潤滑剤のように、耐電食性が要求される潤滑剤としても有用である。
【0029】
本発明の潤滑剤は、下記一般式(3)で表される化合物をさらに含有してもよい。
【0030】
【化4】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Bはアニオンを表す。)
【0031】
一般式(3)中のR、R、R及びRは、炭素数1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。R、R、R及びRは、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、合成上の観点から、その中の2つ以上が同一であることが好ましく、その中の3つ以上が同一であることがより好ましい。
【0032】
前記R、R、R及びRで表される、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、前記R、R及びRで表される炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基と同様の基が挙げられる。
【0033】
一般式(3)中のBで表されるアニオンとしては、例えば、前記Aで表されるフッ素原子を有するアニオンと同様のアニオン、メタンスルホネート(SOCH )、アミノ酸、ビスオキサラトボレート(B(C )、p-トルエンスルホネート(SOCH )、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN) )、ハロゲン、ジアルキルリン酸((RO)POO)、ジアルキルジチオリン酸((RO)PSS)、脂肪族カルボン酸(RCOO)等が挙げられ、これらの中でビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SOF) )及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N(SOCF )が、優れた潤滑性能を有し、極低温においても流動性を維持できる潤滑剤となる点で好ましい。
【0034】
本発明の潤滑剤は、前記一般式(1)で表される化合物と、前記一般式(3)で表される化合物とを組み合わせて用いることが、より低温での流動性に優れた潤滑剤となるため好ましい。また、本発明の潤滑剤は、前記一般式(1)で表される化合物と、前記一般式(3)で表される化合物とを組み合わせて用いることにより、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする潤滑剤に比べて、電気伝導度が高く、低粘度となる点においても好ましい。
【0035】
本発明の潤滑剤が、前記一般式(1)で表される化合物と、前記一般式(3)で表される化合物とを組み合わせて用いる潤滑剤である場合、前者の含有量は10質量%より大きいことが好ましく、20質量%以上であることが、優れた潤滑性能を有し、極低温においても流動性を維持できる潤滑剤となる点でより好ましい。
【0036】
本発明の潤滑剤において、前記一般式(1)で表される化合物とともに使用される他の基油は特に制限されない。例えば、パラフィン系鉱油及びナフテン系鉱油等の鉱物油;ポリアルファオレフィン油等の合成炭化水素油;ジエステル油、ポリオールエステル油、及びこれらのコンプレックスエステル油、並びに芳香族エステル油等のエステル油;ジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油及びアルキルテトラフェニルエーテル油等のエーテル油等が挙げられる。
【0037】
また、本発明の潤滑剤は、必要に応じて増ちょう剤や防錆剤が添加されていてもよい。増ちょう剤としては、金属石鹸、複合金属石鹸、ウレア化合物、ウレタン化合物、カーボンブラック、ベントナイト、シリカ化合物及び非金属無機導電性フィラー等が挙げられる。非金属無機導電性フィラーとしては、酸化亜鉛系(ZnO(Al))、硫酸バリウム系(SnO(Sb)/BaSO、SnO/BaSO)、ホウ酸アルミニウム系(SnO(Sb)/9Al・2B)、酸化チタン系(SnO(Sb)/TiO)、酸化スズ系(SnO(Sb))、チタンブラック系(TiO(N))、チタン酸カリウム系(SnO2(Sb)/KO・nTiO)等が挙げられる。これら非金属無機導電性フィラーは金属がドープされていてもよく、特にSbドープSnOが好ましい。
金属石鹸及び複合金属石鹸は、基油がイオン性液体以外の成分を含む場合に使用するのが好ましい。金属石鹸としては、アルミニウム石鹸、カルシウム石鹸、リチウム石鹸、ナトリウム石鹸及びバリウム石鹸等が挙げられる。また複合金属石鹸としては、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸及びアルミニウムコンプレックス石鹸等が挙げられる。
防錆剤としては、従来使用されているスルホネート、脂肪酸アミド、窒素原子を二個以上持つ化合物、コハク酸エステル、コハク酸ハーフエステル、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、二塩基酸塩及び脂肪酸アミン塩(例えば炭素数1~22、好ましくは1~20の脂肪酸と、アミンとの塩)等が挙げられる。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
[製造例1]
温度計、滴下ロート、マグネチックスターラーを備えた300ml四口フラスコを十分に窒素置換し、トリブチルホスフィン40.4g(0.2モル)、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルアイオダイド94.8g(0.2モル)を仕込み、50~55℃で6時間反応させた。サンプリングした反応液を二硫化炭素で発色試験した結果、トリブチルホスフィンの残留が認められなかったので、室温まで冷却し、融点41.7~43.3℃の微黄色固体124.4g(粗収率92%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;34.88ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.54ppm(-CH-CH-,12H),2.60ppm(P-CH-,8H),2.79ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、得られた微黄色固体は、トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・アイオダイドであることが確認された。
【0040】
次いでトリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・アイオダイド67.6g(0.1モル)を100mlのジクロロメタンに溶解し、リチウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド19.1g(0.102モル)の100ml水溶液を室温で混合すると白濁した。ジクロロメタン相を分液し、純水100mで洗浄した。ジクロロメタン相は無水硫酸ナトリウムで一昼夜脱水し、濾別後エバポレーターでの濃縮することで、微黄色粘性液体68.6g(粗収率94%)を得た。得られた微黄色液体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.39ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.51ppm(-CH-CH-,12H),2.20ppm(P-CH-,8H),2.50ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、得られた微黄色液体はトリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、5-FSIという)であることが確認された。
【0041】
[製造例2]
500ml三角フラスコに撹拌子を入れ、メチルトリブチルホスホニウム・アイオダイド(日本化学工業(株)製ヒシコーリンPX-4MI)68.9g(0.2モル)を純水200ml、エタノール200mlの混合溶媒に室温で溶解させた。別途500ml三角フラスコにリチウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(日本触媒(株)製イオネルLF-101)37.4g(0.2モル)を純水300mlに室温で溶解させた。二液を混合すると白濁した。ジクロロメタン500mlを加えて抽出し、純水500mlで1回洗浄した。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで脱水後濾別し、エバポレーターで濃縮することで、無色透明液体75.8g(粗収率95.3%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;32.08ppm
H-NMR;0.97ppm(t,9H,-CH),1.50~1.53ppm(m,12H,-CH-),1.77ppm(d,3H,P-CH),2.10~2.16(m,6H,P-CH-)
この結果、得られた無色透明液体は、メチルトリブチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、P[4441]FSIという)であることが確認された。
【0042】
[実施例1~5及び比較例1~3]
表1に示す組成の潤滑剤を用いて、以下の方法により凍結試験、静摩擦係数及び動摩擦係数測定、並びに流動点測定を行った。結果を表2にまとめて示した。
【0043】
表1中の各成分は以下の通りである。
5-FSI:(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(製造例1で得られた化合物)
PX-25TFSI:トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(ヒシコーリンPX-25TFSI 日本化学工業(株)製)
P[4441]FSI:メチルトリブチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(製造例2で得られた化合物)
PX-4MP:メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(ヒシコーリンPX-4MP 日本化学工業(株)製)
【0044】
<凍結試験>
ドライアイス/メタノール浴(-62~-68℃)で1時間冷却して、凍結するか不凍結であるかを外観で確認した。
【0045】
<摩擦係数>
以下の装置及び条件で静摩擦係数および動摩擦係数を測定した。

測定装置:トライボギアTYPE40 新東科学(株)製
速度:100mm/min
距離:10mm
使用圧子:10mmボール圧子(SUS球10mm)
SUS球 VS SUS板(アズワン テストピースSUS304表面仕上げ板)
荷重:300g
【0046】
<流動点>
JIS2219-1993ギヤー油規定に従い流動点を測定した。具体的には、試料を試験管に入れてドライアイス/エタノール浴で冷却し、試料の温度が2.5℃下がるごとに試験管を冷却浴から取り出し、試料が5秒間、全く動かなくなったときの温度を読み取り、この値に2.5℃を加え流動点とした。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示した結果から、実施例1~5の潤滑剤は、優れた潤滑性能を有し、極低温においても流動性を維持できることが判る。特に、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩とテトラアルキルホスホニウム塩とを組み合わせた実施例2~5の潤滑剤は、流動点が-50℃以下であり、低温での流動性に優れていることが判る。
【0050】
また、実施例1~5の潤滑剤を用いて、以下の方法により電気伝導度及び粘度を測定した。結果を表3にまとめて示した。
【0051】
<電気伝導度>
実施例1~5の潤滑剤を20ml容量のメスシリンダーに約15ml入れて、室温(25℃)の温度条件で、電気伝導度を測定した。なお、測定時には堀場製作所製ポータブル電気伝導時計METER D-74を用いた。
【0052】
<粘度>
室温(25℃)の温度条件で、Thermo Fisher Scientific 社製コーンプレート型粘度計HAAKE MARS 60を用いて、コーンプレート間のギャップ間にサンプル約1mlを入れ、実施例1~5の潤滑剤の各せん断率に対する粘度を三回測定し、その平均値を求めた。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示した結果から、実施例1~5の潤滑剤は、導電性を有しており、特に、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩とテトラアルキルホスホニウム塩とを組み合わせた実施例2~5の潤滑剤は、耐電食性が要求される潤滑剤としても好適であることが判る。