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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001557
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ラック倉庫の制振構造
(51)【国際特許分類】
   B65G 1/14 20060101AFI20231227BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20231227BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B65G1/14 F
E04H9/02 341B
E04H9/02 331E
E04H9/02 331A
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100287
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
【テーマコード(参考)】
2E139
3F022
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC10
2E139BB26
2E139BB36
2E139CA02
2E139CA22
3F022FF01
3F022MM51
3J048AA06
3J048AD07
3J048BF14
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】収容物の収容スペースを減少させることがないとともに、設置が容易であるラック倉庫の制振構造を提供する。
【解決手段】基礎床部12と、基礎床部12の上に設置され複数のラック21が上下方向および水平方向に配列されて連結されたラック構造体2と、ラック構造体2の剛心および重心のいずれかの両側それぞれに設けられる制振装置3と、を有し、制振装置3は、ラック構造体2の頂部にラック構造体2と一体に設けられた剛性部材4と、剛性部材4と基礎床部12とを連結する軸力部材5と、基礎床部12と軸力部材5との間に設けられ軸力部材5に生じる張力が伝達されることによって錘が回転し回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパ6と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎床部と、
前記基礎床部の上に設置され複数のラックが上下方向および水平方向に配列されて連結されたラック構造体と、
前記ラック構造体の剛心および重心のいずれかの両側それぞれに設けられる制振装置と、を有し、
前記制振装置は、
前記ラック構造体の頂部に前記ラック構造体と一体に設けられた剛性部材と、
前記剛性部材と前記基礎床部とを連結する軸力部材と、
前記基礎床部と前記軸力部材との間に設けられ前記軸力部材に生じる張力が伝達されることによって錘が回転し回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパと、を有するラック倉庫の制振構造。
【請求項2】
前記回転慣性質量が生じる回転質量および前記軸力部材の軸剛性により定まる軸剛性を前記ラック構造体の固有振動数に同調させる請求項1に記載のラック倉庫の制振構造。
【請求項3】
前記基礎床部と前記軸力部材との間に設けられ前記軸力部材の軸剛性を調整する付加ばねを有する請求項2に記載のラック倉庫の制振構造。
【請求項4】
前記ラック構造体は、前記複数のラックが上下方向および第1水平方向に配列され、前記第1水平方向に延びる長尺形状であり、
前記制振装置は、
前記ラック構造体の前記第1水平方向に交差する第2水平方向の一方側に設けられる第1制振装置と、
前記ラック構造体の前記第2水平方向の他方側に設けられる第2制振装置と、から構成され、
前記第1制振装置と前記第2制振装置とは、前記第1水平方向に配列される前記ラックごとに交互に設けられている請求項1に記載のラック倉庫の制振構造。
【請求項5】
前記制振装置は、前記ラック構造体の両側それぞれに設けられ、
前記剛性部材は、前記ラック構造体の頂部から側方に跳ね出す跳ね出し部を有し、
前記軸力部材は、前記ラック構造体の側方に設けられ、前記跳ね出し部と前記基礎床部とを連結する請求項1に記載のラック倉庫の制振構造。
【請求項6】
前記基礎床部は、免震支承を介して基礎部の上に設けられた免震床である請求項1に記載のラック倉庫の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック倉庫の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災では、ラック倉庫などの物流施設において被害が多く見られた。ラック倉庫には、ラックを多段に連ねたラック構造体が設けられているが、被害はラック構造体そのものの被害よりも、ラック構造体に収容された収容物の荷崩れや落下による被害のほうが多いことが判明している。このため、地震が生じた際に、収容物を収容する各パレットの加速度を低減させるラック倉庫の制振構造が提案されている。例えば、特許文献1には、ラック構造体にTMD(チューンドマスダンパ)やマスダンパを設けるラック倉庫の制振構造が開示されている。特許文献2には、パレットを支持するラックの支持部材とパレットとの間に傾斜すべり支承を設けるラック倉庫の制振構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-141314号公報
【特許文献2】特開2014-201385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ラック構造体にTMDやマスダンパを設けるラック倉庫の制振構造では、TMDやマスダンパによって収容物の収容スペースが減少するという問題がある。パレットを支持するラックの支持部材とパレットとの間に傾斜すべり支承を設けるラック倉庫の制振構造では、パレットごとに傾斜すべり支承を設置する必要があるため、傾斜すべり支承の設置に手間やコストがかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、設置による収容物の収容スペースの減少を抑えることができるとともに、設置が容易であるラック倉庫の制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るラック倉庫の制振構造は、基礎床部と、前記基礎床部の上に設置され複数のラックが上下方向および水平方向に配列されて連結されたラック構造体と、前記ラック構造体の剛心および重心のいずれかの両側それぞれに設けられる制振装置と、を有し、前記制振装置は、前記ラック構造体の頂部に前記ラック構造体と一体に設けられた剛性部材と、前記剛性部材と前記基礎床部とを連結する軸力部材と、前記基礎床部と前記軸力部材との間に設けられ前記軸力部材に生じる張力が伝達されることによって錘が回転し回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパと、を有する。
【0007】
本発明では、地震の振動によってラック構造体に曲げ変形が生じると、ラック構造体の剛心および重心のいずれかの両側それぞれに設けられる制振装置のうちの曲げ変形によって引っ張られる側の制振装置の軸力部材に張力が発生する。軸力部材に張力が発生した制振装置は、その張力によって回転慣性質量ダンパが軸方向に変形して回転し、減衰性能が発揮される。回転慣性質量ダンパの減衰性能が軸力部材および剛性部材を介してラック構造体の頂部に作用することによって、ラック構造体の頂部の加速度および変位を低減できる。
制振装置の回転慣性質量は、実際の錘質量の10から500倍に相当し、大きな質量を有する振動低減機構と同等の性能を有するため、制振装置の軽量化および小型化を図ることができる。これにより、ラック倉庫の制振構造を設置することによる収容物の収容スペースの減少を抑えることができる。
さらに、本発明では、複数のラックが連結されたラック構造体に対して設置可能であることにより、ラック構造体に設置された各パレットに制振装置を設置する制振構造と比べて、設置が容易である。
【0008】
本発明に係るラック倉庫の制振構造では、前記回転慣性質量が生じる回転質量および前記軸力部材の軸剛性により定まる軸剛性を前記ラック構造体の固有振動数に同調させてもよい。
【0009】
このような構成とすることにより、ラック構造体の応答加速度を大幅に低減させることができる。
【0010】
本発明に係るラック倉庫の制振構造では、前記基礎床部と前記軸力部材との間に設けられ前記軸力部材の軸剛性を調整する付加ばねを有していてもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、軸力部材の軸剛性を容易に調整でき、ラック構造体の応答加速度を大幅に低減させることができる。
【0012】
本発明に係るラック倉庫の制振構造では、前記ラック構造体は、前記複数のラックが上下方向および第1水平方向に配列され、前記第1水平方向に延びる長尺形状であり、前記制振装置は、前記ラック構造体の前記第1水平方向に交差する第2水平方向の一方側に設けられる第1制振装置と、前記ラック構造体の前記第2水平方向の他方側に設けられる第2制振装置と、から構成され、前記第1制振装置と前記第2制振装置とは、前記第1水平方向に配列される前記ラックごとに交互に設けられていてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、ラック構造体の側方に制振装置を設置しないスペースを設けつつ、制振装置をバランスよく配置することができる。
【0014】
本発明に係るラック倉庫の制振構造では、前記剛性部材は、前記ラック構造体の頂部から側方に跳ね出す跳ね出し部を有し、前記軸力部材は、前記ラック構造体の側方に設けられ、前記跳ね出し部と前記基礎床部とを連結するように構成されていてもよい。
【0015】
制振装置がラック構造体の側方に配置されることより、制振装置がラック構造体の収容スペースを減少させることがない。また、ラック構造体の内側に設けられたスペースにスタッカクレーンが配置される場合には、制振装置がスタッカクレーンの作業や収容物の出し入れに影響することがない。
【0016】
本発明に係るラック倉庫の制振構造では、前記基礎床部は、免震支承を介して基礎部の上に設けられた免震床であってもよい。
【0017】
このような構成とすることにより、ラック構造体の応答加速度を大幅に低減できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラック倉庫の制振構造を設置することによる収容物の収容スペースの減少を抑えることができるとともに、設置が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態によるラック倉庫の制振構造の模式図である。
図2】(a)ラック構造体の平面図、(b)ラック構造体の立面図、(c)ラック構造体の側面図である。
図3】ラック構造体の斜視図である。
図4】交錯設置された制振装置の配置を示す平面図である。
図5】ラック構造体がY方向に曲げ変形する様子を示す模式図である。
図6】ラック構造体がY方向の反対側に曲げ変形する様子を示す模式図である。
図7】全設置された制振装置の配置を示す平面図である。
図8】解析に使用した地震波を示すグラフである。
図9】制振装置が全設置された場合のラック構造体頂部中央の加速度を示すグラフである。
図10】制振装置が交錯設置された場合のラック構造体頂部中央の加速度を示すグラフである。
図11】実施形態の第1変形例によるラック倉庫の制振構造の模式図である。
図12】実施形態の第2変形例によるラック倉庫の制振構造の模式図である。
図13】実施形態の第3変形例によるラック倉庫の制振構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態によるラック倉庫の制振構造について、図1図6に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1は、自動ラック倉庫などのラック倉庫11に設けられている。ラック倉庫の制振構造1は、基礎床部12と、基礎床部の上に設置されたラック構造体2と、ラック構造体2の両側それぞれに設けられる制振装置3と、を有する。基礎床部12は、ラック倉庫11の基礎部14であり、固定床である。基礎床部12は、ラック倉庫11の基礎部14の上に構築された固定床であってもよい。
【0021】
図2および図3に示すように、ラック構造体2は、複数のラック21が上下方向および水平方向に配列されて連結されている。本実施形態のラック構造体2は、上下方向および第1水平方向に配列されて連結された2つのラック群22,22を有する。2つのラック群は、第1水平方向に直交する第2方向に間隔をあけて配置され、互いの頂部どうしが連結されている。ラック構造体2は、上下方向から見た平面視の形状が第1水平方向に延びる長尺の形状である。以下では、平面視においてラック構造体2が延びる第1水平方向をX方向と表記し、第1水平方向に直交する第2水平方向をY方向と表記する。図2では、後述する解析のモデルの寸法が記載されている。ラック構造体2の寸法は図2に記載の数値に限定されない。
図1に示すように、2つのラック群22,22の間のスペース23には、スタッカクレーン13が設置される。ラック21には、例えばパレットに収容された収容物が収納される。
【0022】
制振装置3は、ラック構造体2のY方向の両側それぞれに設けられる。ラック構造体2のY方向の一方側に設けられる制振装置3を第1制振装置31と表記し、ラック構造体2のY方向の他方側に設けられる制振装置3を第2制振装置32と表記する。第1制振装置31および第2制振装置32は、設置される位置以外は同じ構成である。第1制振装置31と第2制振装置32とは、ラック構造体2の剛心および重心のいずれかの両側それぞれに配置される。すなわち、第1制振装置31と第2制振装置32とは、ラック構造体2の剛心および重心のいずれかを挟んだ位置に配置される。なお、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1には、第1制振装置31と第2制振装置32とが、ラック構造体2の剛心および重心の両方を挟んだ位置に配置される形態も含む。
【0023】
制振装置3は、ラック構造体2の頂部にラック構造体2と一体に設けられた剛性部材4と、剛性部材4と基礎床部12とを連結する軸力部材5と、基礎床部12と軸力部材5との間に設けられる回転慣性質量ダンパ6と、を有する。
【0024】
剛性部材4は、ラック構造体2と略同じ剛性を有し、ラック構造体2と構造的に一体となるように設けられている。第1制振装置31の剛性部材4と、第2制振装置32の剛性部材4とは、一体に設けられている。剛性部材4は、ラック構造体2の頂部からY方向の外側に跳ね出す跳ね出し部41を有している。
第1制振装置31の跳ね出し部41は、ラック構造体2の頂部からY方向の一方側に突出する。第2制振装置32の跳ね出し部41は、ラック構造体2の頂部からY方向の他方側に突出する。
【0025】
軸力部材5は、上下方向に延びる部材で、上端部が剛性部材4の跳ね出し部41と接合され、下端部が回転慣性質量ダンパ6と接合されている。軸力部材5は、回転慣性質量ダンパ6を介して基礎床部12と接合されている。軸力部材5と回転慣性質量ダンパ6とは、剛性部材4と基礎床部12との間に直列に設けられている。
回転慣性質量ダンパ6は、軸力部材5に生じる張力が伝達されることによって錘が回転し回転慣性質量を生じる。回転慣性質量ダンパ6は、錘の回転慣性モーメントと回転角加速度とにより錘に生じる慣性モーメントを制御力として利用して振動低減効果を得ることができる。
【0026】
図4に示すように、第1制振装置31および第2制振装置32は、ラック構造体2にそれぞれ複数設けられる。複数の第1制振装置31と複数の第2制振装置32とは、1つずつX方向に交互に配列される。すなわち、複数の第1制振装置31と複数の第2制振装置32とは、互い違いに交錯して配置され、第1制振装置31と第2制振装置32とがY方向に並ばないように配置される。本実施形態では、X方向に配列されたラックごとに第1制振装置31と第2制振装置32とが1つずつX方向に交互に配列される。
【0027】
図5および図6に示すように、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、地震の振動によってラック構造体2にY方向の曲げ変形が生じると、第1制振装置31および第2制振装置32の一方の制振装置3の軸力部材5に張力が発生する。軸力部材5に張力が発生した制振装置3は、その張力によって回転慣性質量ダンパ6が軸方向に変形して回転し、減衰性能が発揮される。回転慣性質量ダンパ6の減衰性能が軸力部材5および剛性部材4を介してラック構造体2の頂部に作用することによって、ラック構造体2の頂部の加速度および変位を低減できる。制振装置3は、軸力部材5に張力が発生する場合には減衰性能を発揮するが、軸力部材5に軸方向の圧縮力が発生する場合には、減衰性能を発揮しない。
【0028】
本実施形態では、回転慣性質量ダンパ6に回転慣性質量が生じる回転質量および軸力部材5の軸剛性により定まる軸剛性をラック構造体2の固有振動数に同調させている。
軸力部材5の軸剛性を調整するために基礎床部12と軸力部材5との間に付加ばねを設けてもよい。
【0029】
本実施形態では、回転慣性質量ダンパ6の慣性質量とラック構造体2の全重量との質量比α、および軸力部材5の軸剛性と回転慣性質量ダンパ6の同調軸剛性との剛性比βを以下のように設定した。
【0030】
【数1】
【0031】
次に、本実施形態によるラック倉庫の制振構造の作用・効果について説明する。
本実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、地震の振動によってラック構造体2に曲げ変形が生じると、ラック構造体2の両側それぞれに設けられる制振装置3のうちの曲げ変形によって引っ張られる側の制振装置3の軸力部材5に張力が発生する。軸力部材5に張力が発生した制振装置3は、その張力によって回転慣性質量ダンパ6が軸方向に変形して回転し、減衰性能が発揮される。回転慣性質量ダンパ6の減衰性能が軸力部材5および剛性部材4を介してラック構造体2の頂部に作用することによって、ラック構造体2の頂部の加速度および変位を低減できる。
制振装置3の回転慣性質量は、実際の錘質量の10から500倍に相当し、大きな質量を有する振動低減機構と同等の性能を有するため、制振装置3の軽量化および小型化を図ることができる。これにより、ラック倉庫の制振構造1を設置することによる収容物の収容スペースの減少を抑えることができる。
また、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、ラック21を複数連結したラック構造体2に対して設置可能であることにより、各ラック21や、各パレットに制振装置を設置する制振構造と比べて、設置が容易である。
更に、制振装置3は、ラック構造体2の側方に配置されることより、ラック構造体2の収容スペースを減少させることがない。本実施形態のように、2つのラック群22の間のスペース23にスタッカクレーン13が配置される場合には、スタッカクレーン13の作業や収容物の出し入れに影響することがない。
【0032】
また、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、回転慣性質量が生じる回転質量および軸力部材5の軸剛性により定まる軸剛性をラック構造体2の固有振動数に同調させている。このような構成とすることにより、ラック構造体2の応答加速度を大幅に低減させることができる。
【0033】
また、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、基礎床部12と軸力部材5との間に設けられ軸力部材5の軸剛性を調整する付加ばねを設けてもよい。付加ばねを設けることにより、軸力部材5の軸剛性を容易に調整でき、ラック構造体2の応答加速度を大幅に低減させることができる。
【0034】
また、本実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、ラック構造体2の平面形状は、X方向に延びる長尺形状であり、第1制振装置31と第2制振装置32とは、X方向に交互に配列されている。このような構成とすることにより、ラック構造体2の側方に制振装置3を設置しないスペースを確保しつつ、制振装置3をバランスよく配置することができる。
【0035】
本実施形態のラック倉庫の制振構造の効果を確認するための解析手法とその結果について説明する。
(解析条件)
対象となるラック構造体2は、図2および図3に示す、X方向寸法22.7m、Y方向寸法4.1m、高さ20mである。1.42mのラックがX方向に16台配列されている。図7に示す第1制振装置31と第2制振装置32とがX方向に交互に配列された交錯設置のケースと、図7に示す第1制振装置31および第2制振装置32がX方向に配列されたラック21ごとに設けられた全設置のケースの2つのケースについて解析を行った。
ラック構造体2に収容される収容物のみの重量は、2772kNである。ラック構造体2の自重は、213kNである。
地震波は、図8に示すEL Centro Imperial Valley地震 NS成分(1940.5.18,M7.1)50kineを基準化とした。
解析方向は、揺れがより大きく収容物の出し入れ方向となるY方向とした。
質量比αおよび剛性比βのパラメータは以下である。
質量比α(=回転慣性質量ダンパの慣性質量/ラック全重量)=0.1,0.3,0.5,0.7,0.9
剛性比β(=軸力部材の軸剛性/回転慣性質量ダンパの同調剛性)=0.5,1,2,3,4
軸力部材の剛性は、軸力部材5が半径23mmの鋼棒として計算した。
【0036】
【数2】
【0037】
図9および図10に示すように、本実施形態のラック倉庫の制振構造1は、回転慣性質量ダンパを設けない場合ラック構造体と比べて、ラック構造体の頂部の加速度を低減できることが確認できる。
本実施形態のラック倉庫の制振構造1では、加速度の低減効果を達成するためには、剛性比β≧2、質量比α≧0.4とすることが望ましいことが確認できる。
第1制振装置31と第2制振装置32とが交錯設置のケースでは、全設置のケースとほぼ同じ加速度低減効果を達成することが確認できる。
【0038】
以上、本発明によるラック倉庫の制振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、ラック構造体2は、2つのラック群22,22が連結されているが、3つ以上のラック群22が連結されていてもよいし、1つのラック群22で構成されていてもよい。連結されるラック群22の間にスタッカクレーン13が設けられていなくてもよい。
また、上記の実施形態では、第1制振装置31および第2制振装置32は、ラック構造体2に対して交錯設置されているが、図7に示すように第1制振装置31および第2制振装置32がX方向にラックごとに設けられていてもよい。
【0039】
また、上記の実施形態によるラック倉庫の制振構造1では、制振装置3は、ラック構造体2のY方向の両側それぞれに配置される。
これに対し、図11に示すラック倉庫の制振構造1Bのように、制振装置3Bは、ラック構造体2のラック群22,22の間のスペース23に配置されてもよい。このような場合も第1制振装置31Bと第2制振装置32Bとは、ラック構造体2の剛心および重心のいずれかを挟むように配置される。このような場合、剛性部材4Bには、上記の実施形態のような跳ね出し部41が設けられていなくてもよい。軸力部材5Bは、ラック群22,22の間のスペース23において上下方向に延びる。軸力部材5Bと基礎床部12との間には、上記の実施形態と同様に回転慣性質量ダンパ6が設けられる。
【0040】
また、図12に示すラック倉庫の制振構造1Cの制振装置3Cのように、軸力部材5Cが斜め方向に延び、ラック群22を貫通するように設けられていてもよい。このような場合も第1制振装置31Cと第2制振装置32Cとは、ラック構造体2の剛心および重心のいずれかを挟むように配置される。例えば、軸力部材5C上端部が平面視形状におけるラック構造体2の内側部分(例えば、ラック群22,ラック群22の間のスペース23)において剛性部材4Cに接合され、軸力部材5Cの下端部がラック構造体2の側方において回転慣性質量ダンパ6を介して基礎床部12に接合されることによって軸力部材5Cが斜め方向に延びていてもよい。このような場合も、剛性部材4Cには、跳ね出し部41が設けられていなくてもよい。
いずれの場合も、連結されるラック群22の間にスタッカクレーン13が設けられる場合は、制振装置3B,3Cをスタッカクレーン13と干渉しないように設けることが好ましい。
【0041】
また、上記の実施形態では、基礎床部12は、固定床であるが、図13に示すラック倉庫の制振構造1Dの基礎床部12Dのように、免震支承72を介して基礎部14の上に設けられた免震床71であり、免震床71の上にラック構造体2および制振装置3が設けられていてもよい。免震支承72は、例えば、積層ゴム支承、球面滑り支承、傾斜滑り支承、傾斜弾性すべり支承などである。
このような構成とすることにより、ラック構造体2の応答加速度を大幅に低減できる。
【符号の説明】
【0042】
1,1B-1D ラック倉庫の制振構造
2 ラック構造体
3,3B,3C 制振装置
4,4B,4C 剛性部材
5 軸力部材
6 回転慣性質量ダンパ
11 ラック倉庫
12 基礎床部
14 基礎部
21 ラック
22 ラック群
31 第1制振装置
32 第2制振装置
41 跳ね出し部
71 免震床
72 免震支承
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13