(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155717
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20241024BHJP
B28B 3/20 20060101ALI20241024BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20241024BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B28B3/20 E
C04B38/06 B
C04B35/195
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006674
(22)【出願日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】202310433188.8
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】増田 沙智子
【テーマコード(参考)】
4D019
4G054
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA05
4D019BB06
4D019BC07
4D019BD01
4D019CA01
4D019CB06
4G054AA06
4G054AB09
4G054BD19
(57)【要約】
【課題】排ガス浄化用の触媒を担持した際に、捕集効率を向上させ、且つ、圧力損失の上昇を抑制することが可能なハニカムフィルタを提供する。
【解決手段】複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する柱状のハニカム構造体4と、セル2のいずれか一方の端部に配設された目封止部5と、を備え、隔壁1が、コージェライトを主成分として含む材料から構成され、隔壁1の気孔率が、60~70%であり、隔壁1の単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2の割合(S2/S1×100%)が、58~70%であり、隔壁1の平均細孔径D(μm)に対する、隔壁1の表面に存在する円相当径3μm超の細孔の平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が、0.3~0.8である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、
前記セルの前記流入端面側の端部又は前記流出端面側の端部のいずれか一方に配設された多孔質の目封止部と、を備え、
前記隔壁が、コージェライトを主成分として含む材料から構成され、
前記隔壁の気孔率が、60~70%であり、
前記隔壁の単位表面積S1に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2の割合(S2/S1×100%)が、58~70%であり、
水銀圧入法によって測定された前記隔壁の平均細孔径D(μm)に対する、前記隔壁の表面に存在する円相当径3μm超の細孔の平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が、0.3~0.8である、ハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径40μm以上の細孔の開口面積の総和S3の割合(S3/S2×100%)が、3~5%である、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
レーザー顕微鏡によって求めた、前記隔壁の表面における細孔の孔深さが、1.0~3.0μmである、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記隔壁の厚さが、190.5~254μmである、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。更に詳しくは、排ガス浄化用の触媒を担持した際に、捕集効率を向上させ、且つ、圧力損失の上昇を抑制することが可能なハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジン等の内燃機関より排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタや、CO,HC,NOxなどの有毒なガス成分を浄化する装置として、ハニカム構造体を用いたハニカムフィルタが知られている(特許文献1参照)。ハニカム構造体は、コージェライトなどの多孔質セラミックスによって構成された隔壁を有し、この隔壁によって複数のセルが区画形成されたものである。ハニカムフィルタは、上述したハニカム構造体に対して、複数のセルの流入端面側の開口部と流出端面側の開口部とを交互に目封止するように目封止部を配設したものである。即ち、ハニカムフィルタは、流入端面側が開口し且つ流出端面側が目封止された流入セルと、流入端面側が目封止され且つ流出端面側が開口した流出セルとが、隔壁を挟んで交互に配置された構造となっている。そして、ハニカムフィルタにおいては、多孔質の隔壁が、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタの役目を果たしている。以下、排ガスに含まれる粒子状物質を、「PM」ということがある。「PM」は、「particulate matter」の略である。
【0003】
ハニカムフィルタによる排ガスの浄化は、以下のようにして行われる。まず、ハニカムフィルタは、その流入端面側が、排ガスが排出される排気系の上流側に位置するように配置される。排ガスは、ハニカムフィルタの流入端面側から、流入セルに流入する。そして、流入セルに流入した排ガスは、多孔質の隔壁を通過し、流出セルへと流れ、ハニカムフィルタの流出端面から排出される。多孔質の隔壁を通過する際に、排ガス中のPM等が捕集され除去される。また、このようなハニカムフィルタには、PMの酸化(燃焼)を促進するための酸化触媒や、NOxなどの有害成分を浄化する排ガス浄化触媒などが担持されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の向けの排ガス規制は年々厳化しており、排ガスの浄化に使用されるハニカムフィルタの性能向上が必要となっている。例えば、PMの捕集性能を改善するために、多孔質の隔壁の平均細孔径を小さくすること等が検討されている。一方で、上述したように、ハニカムフィルタには排ガス浄化触媒(以下、単に「触媒」ともいう)などが担持されて使用されることがある。ハニカムフィルタに触媒を担持して使用する場合には、触媒担持後の圧力損失の低減のため、また、隔壁の細孔内に触媒が担持され易くするため、隔壁表面における細孔の開口径は、なるべく大きい方が望ましかった。
【0006】
しかしながら、隔壁表面における細孔の開口径を大きくすると、触媒を担持した後、隔壁表面に大きな穴が残り、ハニカムフィルタの捕集性能が悪化してしまうことがある。また、ハニカムフィルタの捕集性能の改善策として、隔壁の表面上に触媒を層状に担持する手法も検討されているが、上述したように隔壁表面における細孔の開口径を大きくすると、隔壁の表面を触媒にて覆いきれず、触媒を担持したことによる捕集性能の改善効果が小さくなってしまう。一方で、捕集性能の改善に鑑み、隔壁全体の細孔径を小さくすると、隔壁中の排ガス流路の流路閉塞が起きやすく、触媒を担持した後に、圧力損失の上昇が大きくなってしまう。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明によれば、排ガス浄化用の触媒を担持した際に、捕集効率を向上させ、且つ、圧力損失の上昇を抑制することが可能なハニカムフィルタが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、ハニカムフィルタが提供される。
【0009】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、
前記セルの前記流入端面側の端部又は前記流出端面側の端部のいずれか一方に配設された多孔質の目封止部と、を備え、
前記隔壁が、コージェライトを主成分として含む材料から構成され、
前記隔壁の気孔率が、60~70%であり、
前記隔壁の単位表面積S1に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2の割合(S2/S1×100%)が、58~70%であり、
水銀圧入法によって測定された前記隔壁の平均細孔径D(μm)に対する、前記隔壁の表面に存在する円相当径3μm超の細孔の平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が、0.3~0.8である、ハニカムフィルタ。
【0010】
[2] 前記単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径40μm以上の細孔の開口面積の総和S3の割合(S3/S2×100%)が、3~5%である、前記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0011】
[3] レーザー顕微鏡によって求めた、前記隔壁の表面における細孔の孔深さが、1.0~3.0μmである、前記[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0012】
[4] 前記隔壁の厚さが、190.5~254μmである、前記[1]~[3]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハニカムフィルタは、排ガス浄化用の触媒を担持した際に、捕集効率を向上させ、且つ、圧力損失の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すハニカムフィルタの流入端面側を示す平面図である。
【
図3】
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
(1)ハニカムフィルタ:
本発明のハニカムフィルタの一の実施形態は、
図1~
図3に示すようなハニカムフィルタ100である。ここで、
図1は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示すハニカムフィルタの流入端面側を示す平面図である。
図3は、
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【0017】
図1~
図3に示すように、ハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4と、目封止部5と、を備えている。ハニカム構造体4は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する柱状のものである。ハニカムフィルタ100において、ハニカム構造体4は、柱状を呈し、その外周側面に、外周壁3を更に有している。即ち、外周壁3は、格子状に配設された隔壁1を囲繞するように配設されている。
【0018】
目封止部5は、それぞれのセル2の流入端面11側又は流出端面12側の開口部に配設されている。
図1~
図3に示すハニカムフィルタ100においては、所定のセル2の流入端面11側の端部の開口部、及び残余のセル2の流出端面12側の端部の開口部に、目封止部5がそれぞれ配設されている。流出端面12側の開口部に目封止部5が配設され、流入端面11側が開口したセル2を、流入セル2aとする。また、流入端面11側の開口部に目封止部5が配設され、流出端面12側が開口したセル2を、流出セル2bとする。流入セル2aと流出セル2bとは、隔壁1を隔てて交互に配設されていることが好ましい。そして、それによって、ハニカムフィルタ100の両端面に、目封止部5と「セル2の開口部」とにより、市松模様が形成されていることが好ましい。
【0019】
本実施形態のハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4を構成する多孔質の隔壁1の構成において、特に主要な特性を有している。以下、ハニカム構造体4を構成する多孔質の隔壁1の構成について説明する。
【0020】
まず、隔壁1は、コージェライトを主成分として含む材料から構成される。即ち、隔壁1は、コージェライトを主成分として含む材料から構成された多孔体である。ここで、「主成分」とは、その成分中に、90質量%以上存在する成分のことを意味する。隔壁1を構成する材料は、コージェライトを92質量%以上含むことが好ましく、94質量%以上含むことが更に好ましい。そして、隔壁1は、不可避的に含有される成分を除いてコージェライトからなることが特に好ましい。
【0021】
また、ハニカムフィルタ100は、隔壁1の気孔率が60~70%である。隔壁1の気孔率は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の気孔率の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。隔壁1の気孔率の測定は、ハニカム構造体4から隔壁1の一部を切り出して試料片とし、このようにして得られた試料片を用いて行うことができる。なお、隔壁1の気孔率は、ハニカム構造体4の全域において一定の値であることが好ましい。隔壁1の気孔率が60%未満又は70%を超えると、隔壁1に排ガス浄化用の触媒を担持した際に、圧力損失の上昇が大きくなる。隔壁1の気孔率は、65~70%であることが好ましく、67~70%であることが更に好ましい。
【0022】
また、ハニカムフィルタ100は、隔壁1の単位表面積S1に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2の割合(S2/S1×100%)が、58~70%である。このように構成することによって、排ガス浄化用の触媒を担持した際に、捕集効率を向上させ、且つ、圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0023】
隔壁1の単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2は、以下の方法によって測定することができる。まず、ハニカム構造体4の隔壁1表面が観察できるように、ハニカム構造体4から測定用の試料を切り出す。そして、測定用の試料の隔壁1表面を、レーザー顕微鏡で撮影する。レーザー顕微鏡は、例えば、キーエンス社製の「VK X250/260(商品名)」の形状解析レーザー顕微鏡を用いることができる。隔壁1表面の撮影において、倍率は480倍とし、10視野の任意の箇所を撮影する。撮影した画像の画像処理を行い、隔壁1表面の各細孔の開口面積Sx(μm2)及び円相当径(μm)を求める。なお、画像処理は、当該画像処理を行う領域中に、隔壁1表面以外の隔壁1部位を含まないよう領域を選択し、隔壁1表面の傾きを水平に修正する。その後、細孔と認識する高さの上限を基準面より-3.0μmに変更する。円相当径が3μm以下の細孔を無視する条件にて、撮影画像の各細孔の開口面積Ax(μm2)及び円相当径Rx(μm)を画像処理ソフトにて算出する。隔壁1表面の細孔の円相当径Rx(μm)は、各細孔の開口面積Ax(μm2)をそれぞれ計測し、計測した開口面積Ax(μm2)に対して、円相当径Rx(μm)=√{4×(開口面積Ax(μm2))/π}にて算出することができる。そして、隔壁1の単位表面積S1に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2の割合(S2/S1×100%)を算出する。以下、上記した割合を、「円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)」ということがある。「単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2」は、上記方法にて測定された「開口面積Ax(μm2)」の単位表面積S1当たりの総和として求めることができる。また、「単位表面積S1」は任意の大きさとすることができ、例えば、「単位表面積S1」としては、1mm2とすることができる。円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)は、10視野の測定結果(即ち、10視野の各撮影画像の円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%))の平均値とする。画像処理ソフトとしては、例えば、キーエンス社製の「VK X250/260(商品名)」の形状解析レーザー顕微鏡に付属の「VK-X(商品名)」を用いることができる。各細孔の円相当径の測定、及びの所定の円相当径の細孔を無視した画像解析は、上記した画像処理ソフトにて行うことができる。
【0024】
隔壁1の表面に存在する円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)は、58~70%であればよいが、例えば、60~70%であることが好ましく、65~70%であることが更に好ましい。
【0025】
また、ハニカムフィルタ100は、水銀圧入法によって測定された隔壁1の平均細孔径D(μm)に対する、隔壁1の表面に存在する円相当径3μm超の細孔の平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が、0.3~0.8である。このように構成することによって、排ガス浄化用の触媒を担持した際に、捕集効率を向上させ、且つ、圧力損失の上昇を抑制することができる。以下、隔壁1の表面に存在する上記細孔の平均開口円相当径R(μm)を、単に「隔壁1表面の細孔の平均開口円相当径R(μm)」又は「隔壁1表面の細孔の平均開口径R(μm)」ということがある。
【0026】
隔壁1表面の細孔の平均開口円相当径R(μm)は、上述した円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)を算出する際の画像解析の結果から求めることができる。即ち、画像解析にて計測した各細孔の開口面積Ax(μm2)から、上述した計算式により、各細孔の円相当径Rx(μm)を算出することができる。隔壁1表面の細孔の平均開口円相当径R(μm)の値は、10視野の測定結果(即ち、10視野の各撮影画像の円相当径Rx(μm))の平均値とする。特に限定されることはないが、隔壁1表面の細孔の平均開口円相当径R(μm)は、5~12μmであることが好ましい。
【0027】
一方で、隔壁1の平均細孔径D(μm)は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の平均細孔径D(μm)の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。平均細孔径D(μm)の測定は、気孔率を測定するための上記した試験片を用いて行うことができる。特に限定されることはないが、隔壁1の平均細孔径D(μm)は、9~15μmであることが好ましい。隔壁1の平均細孔径D(μm)は、水銀圧入法により総細孔容積の半分の容積を与える細孔径と定義して算出した値である。
【0028】
隔壁1の平均細孔径D(μm)に対する、隔壁1表面の細孔の平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)は、0.3~0.8であればよいが、例えば、0.3~0.7であることが好ましく、0.3~0.5であることが更に好ましい。
【0029】
また、ハニカムフィルタ100は、隔壁1の単位表面積S1中に存在する円相当径3μm超の細孔の開口面積の総和S2に対する、当該単位表面積S1中に存在する円相当径40μm以上の細孔の開口面積の総和S3の割合(S3/S2×100%)が、3~5%であることが好ましい。このように構成することによって、ハニカムフィルタ100の捕集効率をより優れたものとすることができる。円相当径40μm以上の細孔の開口面積の総和S3は、上述した円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)を算出する際の画像解析の結果から求めることができる。即ち、隔壁1表面の各細孔の円相当径Rx(μm)を求めた後、円相当径Rx(μm)が40μm以上の細孔のみの開口面積Ax(μm2)の総和が、円相当径40μm以上の細孔の開口面積の総和S3となる。以下、上記した円相当径40μm以上の細孔の開口面積の総和S3の割合を、「円相当径40μm以上の細孔の総開口面積の割合(%)」ということがある。
【0030】
ハニカムフィルタ100は、レーザー顕微鏡によって求めた、隔壁1の表面における細孔の孔深さが、1.0~3.0μmであることが好ましい。このように構成することによって、触媒が隔壁1上に塗布されやすく、ハニカムフィルタ100の触媒コート後の捕集効率をより優れたものにすることができる。隔壁1の表面における細孔の孔深さは、多孔体からなる隔壁1の表面に開口した細孔の深さを表すものである。以下、「隔壁1の表面における細孔の孔深さ」を、「隔壁1表面の細孔深さ」ということがある。
【0031】
隔壁1の表面における細孔の孔深さは、以下の方法によって測定することができる。まず、ハニカムフィルタ100から隔壁1の一部を切り出して測定試料とし、測定試料の隔壁1の表面の凹凸を、レーザー顕微鏡によって撮影する。レーザー顕微鏡としては、キーエンス社製の形状解析レーザー顕微鏡「VK-X250/260(商品名)」を用いることができる。測定時の倍率は240倍とする。撮影により得られた画像を、マルチファイル解析アプリケーションVK-H1XMを用いて画像処理し、光量が特異的な領域を排除する。更に、画像に対して面形状補正を行う。隔壁の表面から-3μmとして基準面を設定し、その基準面からの細孔の直径が3.8μm以上の細孔の孔深さを測定する。測定した値の個数平均値を、隔壁1の表面の細孔深さ(μm)とする。
【0032】
隔壁1の厚さについては特に制限はないが、例えば、隔壁1の厚さが190.5~254μmであることが好ましく、215.9~241.3μmであることが更に好ましい。隔壁1の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡又はマイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。隔壁1の厚さが190.5μm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。一方、隔壁1の厚さが254μmを超えると、ハニカムフィルタ100の圧力損失が増大することがある。
【0033】
隔壁1によって区画されるセル2の形状については特に制限はない。例えば、セル2の延びる方向に直交する断面における、セル2の形状としては、多角形、円形、楕円形等を挙げることができる。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等を挙げることができる。なお、セル2の形状は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形であることが好ましい。また、セル2の形状については、全てのセル2の形状が同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。例えば、図示は省略するが、四角形のセルと、八角形のセルとが混在したものであってもよい。また、セル2の大きさについては、全てのセル2の大きさが同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、図示は省略するが、複数のセルのうち、一部のセルの大きさを大きくし、他のセルの大きさを相対的に小さくしてもよい。なお、本発明において、セルとは、隔壁によって取り囲まれた空間のことを意味する。
【0034】
ハニカム構造体4のセル密度については特に制限はないが、例えば、ハニカム構造体4のセル密度が43.4~49.6個/cm2であることが好ましく、45.0~48.1個/cm2であることが更に好ましい。このように構成することによって、ハニカムフィルタ100の捕集性を維持しつつ、圧力損失の増大を抑制することができる。
【0035】
ハニカム構造体4の形状については特に制限はない。ハニカム構造体4の形状としては、流入端面11及び流出端面12の形状が、円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。
【0036】
ハニカム構造体4の大きさ、例えば、流入端面11から流出端面12までの長さや、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。ハニカムフィルタ100を、排ガス浄化用のフィルタとして用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。
【0037】
目封止部5の材料については特に制限はない。例えば、上述した隔壁1の材料と同様の材料であってもよいし、隔壁1の材料とは異なる材料であってもよい。
【0038】
ハニカムフィルタ100は、複数のセル2を区画形成する隔壁1に排ガス浄化用の触媒が担持されていることが好ましい。隔壁1に触媒を担持するとは、隔壁1の表面及び隔壁1に形成された細孔の内壁に、触媒がコーティングされることをいう。このように構成することによって、排ガス中のCOやNOxやHCなどを触媒反応によって無害な物質にすることができる。また、捕集した煤等のPMの酸化を促進させることができる。
【0039】
隔壁1に担持する触媒については特に制限はない。例えば、このような触媒として、白金族元素を含有する触媒であって、アルミニウム、ジルコニウム、及びセリウムのうちの少なくとも一種の元素の酸化物を含む触媒を挙げることができる。触媒の担持量は、50~100g/Lであることが好ましい。なお、本明細書における、触媒の担持量(g/L)は、ハニカムフィルタ100の単位容積(L)当たりに担持される触媒の量(g)を示す。
【0040】
(2)ハニカムフィルタの製造方法:
本発明のハニカムフィルタを製造する方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造体を作製するための可塑性の坏土を調製する。ハニカム構造体を作製するための坏土は、原料粉末として、前述の隔壁の好適な材料の中から選ばれた材料に、適宜、バインダー等の添加剤、造孔材、及び水を添加することによって調製することができる。なお、本発明のハニカムフィルタを製造する際に、坏土を調製するための原料粉末として、カオリン、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ等を用い、これらの原料粉末を、シリカが42~56質量%、アルミナが30~45質量%、マグネシアが12~16質量%の範囲に入る化学組成となるようにして調製することができる。なお、造孔材は平均粒径10~25μmの球体のものを使用し、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムは平均粒径が7μm以下のものを使用することができる。
【0041】
次に、このようにして得られた坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及びこの隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を作製する。押出成形においては、押出成形用の口金として、坏土の押出面に、成形するハニカム成形体の反転形状となるスリットが設けられた口金を用いることができる。
【0042】
得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥し、ハニカム成形体の作製に用いた材料と同様の材料で、セルの開口部を目封止することで目封止部を作製する。目封止部を作製した後に、ハニカム成形体を更に乾燥してもよい。
【0043】
次に、目封止部を作製したハニカム成形体を焼成することにより、ハニカムフィルタを製造する。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
コージェライト原料粉末として、カオリン、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカを用い、それらを混合してコージェライト化原料を調製した。そして、調製したコージェライト化原料に、造孔材、分散媒、及びバインダーを、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。なお、造孔材は平均粒径20μmの球体のものを使用し、タルクは平均粒径が7μmのものを、カオリンは平均粒径が4μmのものを、アルミナは平均粒径が5μmのものを、水酸化アルミニウムは平均粒径が4μmのものを使用した。
【0046】
次に、得られた坏土を、押出成形機を用いて成形し、ハニカム成形体を作製した。次に、得られたハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて更に乾燥した。ハニカム成形体におけるセルの形状は、四角形とした。
【0047】
次に、乾燥後のハニカム成形体に、目封止部を形成した。まず、ハニカム成形体の流入端面にマスクを施した。次に、マスクの施された端部(流入端面側の端部)を目封止スラリーに浸漬し、マスクが施されていないセル(流出セル)の開口部に目封止スラリーを充填した。このようにして、ハニカム成形体の流入端面側に、目封止部を形成した。そして、乾燥後のハニカム成形体の流出端面についても同様にして、流入セルにも目封止部を形成した。
【0048】
次に、目封止部を形成したハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。次に、乾燥したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカムフィルタを製造した。
【0049】
実施例1のハニカムフィルタは、端面の直径が132mmであり、セルの延びる方向の長さが110mmであった。また、隔壁の厚さが215.9μmであり、セル密度が46個/cm2であった。隔壁の厚さの値を表1に示す。
【0050】
実施例1のハニカムフィルタについて、以下の方法で、隔壁の「気孔率(%)」及び「平均細孔径D(μm)」の測定を行った。また、これまでに説明した方法で、「円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)」、「隔壁表面の細孔の平均開口円相当径R(μm)」、「平均細孔径D(μm)に対する平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)」、及び「円相当径40μm以上の細孔の総開口面積の割合(%)」を求めた。また、これまでに説明した方法で、隔壁の表面における「細孔の孔深さ(μm)」を求めた。各結果を、表1に示す。
【0051】
[気孔率(%)及び平均細孔径D(μm)]
隔壁の気孔率(%)及び平均細孔径D(μm)は、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定した。気孔率(%)及び平均細孔径D(μm)の測定においては、ハニカムフィルタから隔壁の一部を切り出して試験片とし、得られた試験片を用いて測定を行った。試験片は、縦、横、高さのそれぞれの長さが、約10mm、約10mm、約20mmの直方体のものとした。試験片の採取箇所については、ハニカム構造体の軸方向の中心付近とした。
【0052】
【0053】
実施例1のハニカムフィルタについて、以下の方法で、捕集効率、及び圧力損失の評価を行った。なお、捕集効率、圧力損失の各評価においては、評価を行う各ハニカムフィルタに対して、以下の方法によって白金族元素含有触媒を担持し、触媒担持後においてそれぞれ測定を行った。各結果を、表2に示す。
【0054】
(触媒の担持方法)
まず、平均粒子径30μmの酸化アルミニウムを含む触媒スラリーを調製した。そして、調製した触媒スラリーを用いて、ハニカムフィルタに触媒を担持した。具体的には、触媒の担持は、ハニカムフィルタをディッピング(Dipping)することによって行い、その後、余分な触媒スラリーを空気にて吹き飛ばすことによって、ハニカムフィルタの隔壁に所定量の触媒を担持した。その後、触媒を担持したハニカムフィルタを100℃の温度で乾燥し、更に500℃、2時間の熱処理を行うことにより、触媒付きハニカムフィルタを得た。実施例1のハニカムフィルタに担持した触媒の担持量は、75g/Lであった。
【0055】
(捕集効率)
まず、各実施例及び比較例の触媒付きハニカムフィルタを排ガス浄化用フィルタとした排ガス浄化装置を作製した。次に、作製した排ガス浄化装置を、1.2L直噴ガソリンエンジン車両のエンジン排気マニホルドの出口側に接続して、排ガス浄化装置の流出口から排出されるガスに含まれる煤の個数を、PN測定方法によって測定した。走行モードに関しては、RDE走行のワーストを模擬した走行モード(RTS95)を実施した。モード走行後に排出された煤の個数の累計を、判定対象となる排ガス浄化装置の煤の個数とし、その煤の個数から捕集効率(%)を算出した。そして、比較例1の触媒付きハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値を100%とした場合における、各実施例及び比較例の触媒付きハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値(%)を求めた。捕集効率評価においては、下記評価基準に基づき、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの評価を行った。
評価「優」:捕集効率比(%)の値が、120%を超える場合、その評価を「優」とする。
評価「良」:捕集効率比(%)の値が、110%を超え、120%以下である場合、その評価を「良」とする。
評価「可」:捕集効率比(%)の値が、100%を超え、110%以下である場合、その評価を「可」とする。
評価「不可」:捕集効率比(%)の値が、100%以下の場合、その評価を「不可」とする。
【0056】
(圧力損失)
1.2L直噴ガソリンエンジンから排出される排ガスを700℃、600m3/hの流量で流入させて、触媒付きハニカムフィルタの流入端面側と流出端面側との圧力を測定した。そして、流入端面側と流出端面側との圧力差を算出することにより、ハニカムフィルタの圧力損失(kPa)を求めた。そして、比較例1の触媒付きハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合における、各実施例及び比較例の触媒付きハニカムフィルタを圧力損失の値(%)を求めた。圧力損失評価においては、下記評価基準に基づき、各実施例のハニカムフィルタの評価を行った。
評価「優」:圧力損失比(%)の値が、90%以下である場合、その評価を「優」とする。
評価「良」:圧力損失比(%)の値が、90%を超え、95%以下である場合、その評価を「良」とする。
評価「可」:圧力損失比(%)の値が、95%を超え、100%以下である場合、その評価を「可」とする。
評価「不可」:圧力損失比(%)の値が、100%を超える場合、その評価を「不可」とする。
【0057】
(実施例2~7)
実施例2~7においては、ハニカム構造体の構成を表1に示すように変更した。なお、実施例2~7においては、実施例2~7の特徴になるように、造孔材の平均粒径と,カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムの平均粒径を調整し、ハニカム構造体を作製した。
【0058】
(比較例1~6)
比較例1~6においては、ハニカム構造体の構成を表1に示すように変更した。なお、比較例1~6においては、破砕状の造孔材と、平均粒径7μm超のカオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムを使用した。
【0059】
実施例2~7及び比較例1~6のハニカムフィルタについても、実施例1と同様の方法で、捕集効率、及び圧力損失の評価を行った。結果を表2に示す。なお、比較例1のハニカムフィルタは、各評価において評価基準となっている。
【0060】
【0061】
(結果)
実施例1~7のハニカムフィルタは、捕集効率、及び圧力損失の評価において、評価基準となる比較例1のハニカムフィルタよりも優れた結果を示すものであった。特に、実施例2のハニカムフィルタは、隔壁の気孔率(%)が69%であり、且つ細孔の孔深さが3μmであり、圧力損失の評価結果が特に優れたものであった。また、実施例3のハニカムフィルタは、平均開口円相当径が5μmであり、且つ円相当径40μm以上の細孔の割合が5%であり、捕集効率の評価結果が特に優れたものであった。
【0062】
一方、比較例2のハニカムフィルタは、円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)が71%であり、且つ平均細孔径D(μm)に対する平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が0.9であり、捕集効率の評価結果(判定)が不可となった。
比較例3のハニカムフィルタは、円相当径3μm超の細孔の総開口面積の割合(%)が57%であり、圧力損失の評価結果(判定)が不可となった。
比較例4のハニカムフィルタは、隔壁の気孔率(%)が71%であり、且つ平均細孔径D(μm)に対する平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が0.9であり、圧力損失の評価結果(判定)が不可となった。
比較例5のハニカムフィルタは、隔壁の気孔率(%)が59%であり、圧力損失の評価結果(判定)が不可となった。
比較例6のハニカムフィルタは、平均細孔径D(μm)に対する平均開口円相当径R(μm)の比率(R/D)が1.9であり、圧力損失の評価結果(判定)が不可となった。