(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155718
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ガイダンス方法、中間排滓方法、溶銑の精錬方法、溶鋼の製造方法、ガイダンスシステム、精錬システム、及びモデル生成方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C21C5/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008200
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023069633
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】吉泉 瑛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】加▲瀬▼ 寛人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 太
(72)【発明者】
【氏名】渡久地 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】島田 祐輔
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB02
4K070AB03
4K070AB06
4K070AC14
4K070BA12
4K070BC04
(57)【要約】
【課題】操業条件の変化を考慮しつつ安定した中間排滓を実現するための情報を出力するガイダンス方法及びガイダンスシステム、炉の傾動パターンを選択して中間排滓を実行する中間排滓方法、溶銑の精錬方法、精錬システム及び溶鋼の製造方法、並びに、ガイダンス方法で用いるモデルを生成するモデル生成方法を提供する。
【解決手段】ガイダンス方法は、溶銑3を処理する炉40からスラグ2を排滓する工程において炉40の傾動パターンを選択するための情報を出力する。ガイダンス方法は、スラグ2の質量、粘度若しくは固相率、又は炉40の中で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいたスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を、モデルに入力する工程と、複数の傾動パターンのそれぞれを用いて炉40を傾動する場合において投入する石灰量又は溶銑3の流出量の少なくとも1つに基づく損失コストをモデルから出力する工程とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑を処理する炉からスラグを排滓する工程において前記炉の傾動パターンを選択するための情報を出力するガイダンス方法であって、
前記スラグの質量、前記スラグの粘度、前記スラグの固相率、又は前記炉の中で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいた前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を、モデルに入力する工程と、
複数の前記傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合において投入する石灰量又は前記溶銑の流出量の少なくとも1つに基づく損失コストを前記モデルから出力する工程と
を含む、ガイダンス方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガイダンス方法を実行することによって出力された損失コストに基づいて、前記複数の傾動パターンの中から1つの傾動パターンを選択する工程と、
選択した傾動パターンを用いて前記炉を制御することによって前記スラグの排滓を行う工程と
を含む、中間排滓方法。
【請求項3】
副原料を添加した炉の中で吹錬を実行する工程と、請求項2に記載の中間排滓方法を実行する工程とを含む、溶銑の精錬方法。
【請求項4】
請求項3に記載の溶銑の精錬方法を実行することによって処理した溶銑を炉から流し出す工程を含む、溶鋼の製造方法。
【請求項5】
溶銑を処理する炉からスラグを排滓する工程において前記炉の傾動パターンを選択するための情報を出力するガイダンスシステムであって、
モデルと、算出装置とを備え、
前記モデルは、
前記スラグの質量、前記スラグの粘度、前記スラグの固相率、又は前記炉の中で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいた前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を入力として受け付け、
複数の前記傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合において投入する石灰量又は前記溶銑の流出量の少なくとも1つに基づく損失コストを出力し、
前記算出装置は、前記モデルに前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を入力する処理と、前記モデルから出力された前記損失コストを含む、前記傾動パターンを選択するための情報を出力する処理とを実行する、ガイダンスシステム。
【請求項6】
副原料を添加した炉の中で吹錬を行う中間排滓を実行する精錬装置と、
請求項5に記載のガイダンスシステムと、を備え、
前記ガイダンスシステムは、溶銑を処理するために前記炉からスラグを排滓する際において、前記炉の前記傾動パターンを選択するための情報を出力し、
前記精錬装置は、前記ガイダンスシステムが出力した情報に基づいて選択された前記炉の前記傾動パターンを用いて前記炉を制御する、
精錬システム。
【請求項7】
請求項1に記載のガイダンス方法においてスラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を入力するモデルを生成するモデル生成方法であって、
前記スラグの質量、前記スラグの粘度、前記スラグの固相率又は炉内で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいた前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を元に、前記炉の中においてフォーミングしたスラグの体積及び見かけの粘度を算出する工程と、
前記炉を傾動させるパターンとして複数の傾動パターンを設定し、前記複数の傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合における前記炉の中の溶銑及びスラグの流体解析を実施することによって、前記複数の傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合における前記炉からの排滓スラグ量又は前記炉からの流出溶銑量の少なくとも1つを算出する工程と、
前記排滓スラグ量を算出した場合に、前記排滓スラグ量に基づいて次の吹錬の実行において前記炉に投入する石灰量を推定することによって前記炉への石灰投入コストを算出する工程と、
前記流出溶銑量を算出した場合に、前記流出溶銑量に基づいて前記炉からの溶銑流出コストを算出する工程と、
前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報が入力された場合に、前記複数の傾動パターンのそれぞれについて前記石灰投入コスト又は前記溶銑流出コストの少なくとも1つを損失コストとして出力するモデルを生成する工程と
を含む、モデル生成方法。
【請求項8】
前記モデルを生成する工程において、前記モデルとして、前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報と、前記石灰投入コスト又は前記溶銑流出コストの少なくとも1つとを、前記複数の傾動パターンのそれぞれについて関連づけたデータベースを生成する、請求項7に記載のモデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転炉での脱珪及び脱燐等の吹錬処理後において一酸化炭素ガスを含有してフォーミングしたスラグを炉外へ排出するための炉の傾動パターンを選択するために用いる案内情報を生成するガイダンス方法に関する。本開示は、案内情報を出力するモデルを生成するモデル生成方法に関する。本開示は、炉を傾動してスラグを排出する手順を含む中間排滓方法、溶銑の精錬方法、及び溶鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶銑の予備処理技術が進み、転炉型精錬炉を用いた様々な溶銑の予備処理方法が開発されている。代表的なものとして、前チャージの脱炭スラグを排滓することなく次チャージの溶銑を転炉に装入して脱珪及び脱燐処理を行い、炉内スラグの一部を排出した後に、引き続き脱燐及び脱炭処理を行う方法がある。脱珪、脱燐及び脱炭処理の途中でスラグを排滓する工程は、スラグの中間排滓工程とも称される。
【0003】
上述したように、スラグの中間排滓工程を実行する精錬手法において、コスト削減のために、溶銑流出量を抑えつつ、なるべく多くのスラグを安定的に炉外排出することが重要である。スラグの中間排滓工程の後に引き続き精錬を実施する場合、炉内に残留したスラグ質量が少ないほど、脱珪、脱燐及び脱炭処理のために新規に投入する副原料の添加量が削減される。
【0004】
一方でスラグの中間排滓工程において、精錬炉の操業条件によっては安定して大量のスラグを炉外に排出することが難しい場合がある。例えば、特定の操業条件下において炉内でフォーミングしたスラグの体積の減少又はスラグの見かけの粘度の増加が顕著になった場合に、スラグ排滓速度が大きく低下することによって、安定して大量のスラグを炉外に排出することが難しくなる。
【0005】
このような課題を解決すべく、特定の操業条件を回避することによってスラグの排滓量を安定化させる手法が提案されている。例えば、特許文献1に記載の構成において、スラグの固相率の増加又はスラグの粘度の増加によるスラグの排滓性能低下を防止するために、スラグの塩基度又は温度を調整する方法が提案されている。また、特許文献2に記載の構成において、スラグの排滓率を安定させるために、全てのチャージにおいて排滓前のスラグのフォーミング高さが一定となるように吹錬を実施する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-262576号公報
【特許文献2】特開2022-105886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スラグの中間排滓工程において、炉外に排滓するスラグ量を増加させることは、次工程における投入石灰量を低減するために重要である。特許文献1に記載の操業条件の制御、又は、特許文献2に記載のスラグ高さの制御等による排滓性能の向上及び安定化方法は、操業条件をコントロールすることに主眼が置かれている。しかし、これらの方法において、操業条件が変化した場合にも安定に排滓を持続させることは困難である。
【0008】
そこで、本開示は、操業条件の変化を考慮しつつ安定した中間排滓を実現するための情報を出力するガイダンス方法及びガイダンスシステム、炉の傾動パターンを選択して中間排滓を実行する中間排滓方法、溶銑の精錬方法、精錬システム及び溶鋼の製造方法、並びに、ガイダンス方法で用いるモデルを生成するモデル生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示の一実施形態に係るガイダンス方法は、溶銑を処理する炉からスラグを排滓する工程において前記炉の傾動パターンを選択するための情報を出力するガイダンス方法であって、前記スラグの質量、前記スラグの粘度、前記スラグの固相率、又は前記炉の中で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいた前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を、モデルに入力する工程と、複数の傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合において投入する石灰量又は前記溶銑の流出量の少なくとも1つに基づく損失コストを前記モデルから出力する工程とを含む。
【0010】
(2)本開示の一実施形態に係る中間排滓方法は、上記(1)に記載のガイダンス方法を実行することによって出力された損失コストに基づいて、前記複数の傾動パターンの中から1つの傾動パターンを選択する工程と、選択した傾動パターンを用いて前記炉を制御することによって前記スラグの排滓を行う工程とを含む。
【0011】
(3)本開示の一実施形態に係る溶銑の精錬方法は、副原料を添加した炉の中で吹錬を実行する工程と、上記(2)に記載の中間排滓方法を実行する工程とを含む。
【0012】
(4)本開示の一実施形態に係る溶鋼の製造方法は、上記(3)に記載の溶銑の精錬方法を実行することによって処理した溶銑を炉から流し出す工程を含む。
【0013】
(5)本開示の一実施形態に係るガイダンスシステムは、溶銑を処理する炉からスラグを排滓する工程において前記炉の傾動パターンを選択するための情報を出力する。前記ガイダンスシステムは、モデルと、算出装置とを備える。前記モデルは、前記スラグの質量、前記スラグの粘度、前記スラグの固相率、又は前記炉の中で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいた前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を入力として受け付け、複数の前記傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合において投入する石灰量又は前記溶銑の流出量の少なくとも1つに基づく損失コストを出力する。前記算出装置は、前記モデルに前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を入力する処理と、前記モデルから出力された前記損失コストを含む、前記傾動パターンを選択するための情報を出力する処理とを実行する。
【0014】
(6)本開示の一実施形態に係る精錬システムは、副原料を添加した炉の中で吹錬を行う中間排滓を実行する精錬装置と、上記(5)に記載のガイダンスシステムとを備える。前記ガイダンスシステムは、溶銑を処理するために前記炉からスラグを排滓する際において、前記炉の前記傾動パターンを選択するための情報を出力する。前記精錬装置は、前記ガイダンスシステムが出力した情報に基づいて選択された前記炉の前記傾動パターンを用いて前記炉を制御する。
【0015】
(7)本開示の一実施形態に係るモデル生成方法は、上記(1)に記載のガイダンス方法においてスラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を入力するモデルを生成するモデル生成方法であって、前記スラグの質量、前記スラグの粘度、前記スラグの固相率又は炉内で発生するガス流量の少なくとも1つに基づいた前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報を元に、前記炉の中においてフォーミングしたスラグの体積及び見かけの粘度を算出する工程と、前記炉を傾動させるパターンとして複数の傾動パターンを設定し、前記複数の傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合における前記炉の中の溶銑及びスラグの流体解析を実施することによって、前記複数の傾動パターンのそれぞれを用いて前記炉を傾動する場合における前記炉からの排滓スラグ量又は前記炉からの流出溶銑量の少なくとも1つを算出する工程と、前記排滓スラグ量を算出した場合に、前記排滓スラグ量に基づいて次の吹錬の実行において前記炉に投入する石灰量を推定することによって前記炉への石灰投入コストを算出する工程と、前記流出溶銑量を算出した場合に、前記流出溶銑量に基づいて前記炉からの溶銑流出コストを算出する工程と、前記スラグのフォーミング及び鎮静に関する情報が入力された場合に、前記複数の傾動パターンのそれぞれについて前記石灰投入コスト又は前記溶銑流出コストの少なくとも1つを損失コストとして出力するモデルを生成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、操業条件の変化を考慮しつつ安定した中間排滓を実現するための情報を出力するガイダンス方法及びガイダンスシステム、炉の傾動パターンを選択して中間排滓を実行する中間排滓方法、溶銑の精錬方法、精錬システム及び溶鋼の製造方法、並びに、ガイダンス方法で用いるモデルを生成するモデル生成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示に係る精錬システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】精錬炉においてスラグをフォーミングする処理の一例を示す断面図である。
【
図3】精錬炉を傾斜させてスラグを排滓する処理の一例を示す断面図である。
【
図4】本開示に係るガイダンス方法の手順例を示すフローチャートである。
【
図5】精錬炉の傾動パターンの例を示すグラフである。
【
図6】各傾動パターンで精錬炉を傾動した場合における損失コストの例を示すグラフである。
【
図7】本開示に係るモデル生成方法の手順例を示すフローチャートである。
【
図8】精錬炉の炉体形状の一例を示す断面図である。
【
図9】精錬炉の炉口形状の一例を示す平面図である。
【
図11】炉の形状に基づくガイダンス方法の手順例を示すフローチャートである。
【
図12】炉の形状に基づくモデル生成方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示に係る精錬システム100(
図1等参照)及び算出装置50(
図1等参照)、並びに、ガイダンス方法及び中間排滓方法の実施形態が図面に基づいて説明される。各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置又は方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
本開示に係る精錬システム100及び算出装置50、並びに、モデル生成方法、ガイダンス方法及び中間排滓方法によれば、操業条件の変化を考慮しつつ安定した中間排滓を実現できるように炉の傾動パターンが選択される。炉の傾動パターンの説明は後述される。安定した中間排滓が実現されることによって、中間排滓後に炉内に残留する不純物量が低減される。不純物量の低減によって、次工程における投入石灰量が削減される。その結果、精錬の操業コストが削減される。
【0020】
本開示に係るモデル生成方法は、複数の傾動パターンの候補のそれぞれを用いて炉を傾動させた場合における、スラグ2(
図2等参照)のフォーミング及び鎮静の様々な条件に対する損失コストをモデル化する工程を含む。モデル生成方法は、炉の傾動パターンの候補のそれぞれの損失コストを様々な操業条件に対してデータベース化してよい。
【0021】
本開示に係るガイダンス方法は、炉の操業情報又は計測値に基づいてスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を導出してモデルに入力することによって、複数の傾動パターンの候補のそれぞれで炉を傾動させた場合の損失コストを出力する工程を含む。本開示に係る中間排滓方法は、複数の傾動パターンの候補の中から1つの傾動パターンを選択して炉の傾動を実行し、スラグ2の排滓を実行する工程を含む。
【0022】
(精錬システム100の構成例)
図1に示されるように、一実施形態に係る精錬システム100は、算出装置50と、精錬装置40と、データベース30とを備える。
【0023】
<精錬装置40>
精錬装置40は、
図2に例示されるように、精錬炉1と上吹きランス42とを備える。本実施形態において、精錬炉1は、転炉型であるとする。精錬炉1は、転炉型に限られず他の種々の態様であってよい。精錬炉1は、単に炉とも称される。また、本実施形態に係る精錬装置40は、精錬炉1の中に収容した溶銑3に対して脱珪処理を実行するように構成されるとする。精錬装置40は、脱珪処理に限られず脱燐処理等の他の種々の処理を実行できるように構成されてよい。
【0024】
精錬装置40において、精錬炉1の中の溶銑3に対して脱珪処理が実行される。脱珪処理において、溶銑3に対して上吹きランス42から酸素含有ガスが供給される。上吹きランス42から供給された酸素含有ガスと溶銑3の中の珪素(Si)とが反応することによって、スラグ2が生成される。スラグ2は、脱珪スラグとも称される。スラグ2の密度が溶銑3の密度より低いことによって、スラグ2は、溶銑3の上方に浮く。
【0025】
上吹きランス42から供給された酸素含有ガスと溶銑3の中の炭素とが反応することによって、一酸化炭素(CO)ガスが発生する。スラグ2は、COガス気泡を内包することによって泡状になる。スラグ2の見かけ上の体積は、COガス気泡を内包することによって数倍以上に増大する。このような状態は、フォーミング状態とも称される。
【0026】
精錬装置40は、
図3に例示されるように、θで表される精錬炉1の傾斜角度を制御して傾動させることによって、溶銑3を精錬炉1から流出させずに、スラグ2の少なくとも一部を精錬炉1から排出できる。スラグ2を排出する処理は、排滓処理とも称される。精錬炉1の傾斜角度(θ)は、破線で表される鉛直方向の軸と、一点鎖線で表される精錬炉1の軸との間の角度である。精錬装置40は、精錬炉1の傾斜角度を所定の傾動パターンに基づいて制御することによって精錬炉1を傾動させる。傾動パターンは、精錬炉1の傾斜角度の時間変化のパターンである。傾動パターンは、単位時間当たりの精錬炉1の傾斜角度の変化量を特定してよい。単位時間当たりの精錬炉1の傾斜角度の変化量は、傾斜速度とも称される。傾動パターンは、傾斜速度を変化させるときの精錬炉1の傾斜角度を特定してよい。傾動パターンは、精錬炉1の最大の傾斜角度を特定してよい。精錬炉1の最大の傾動角度は、精錬炉1から溶銑3が流出しないように、又は、精錬炉1から流出する溶銑3の量が少なくなるように設定されてよい。
【0027】
精錬装置40は、精錬炉1に副原料を投入する投入装置を更に備えてよい。副原料は、例えば、石灰等を含んでよい。投入装置は、精錬炉1に投入する副原料の種類又は量を制御するように構成されてよい。
【0028】
精錬装置40は、上吹きランス42から供給するガスの流量、精錬炉1に投入する添加物の種類若しくは量、又は、精錬炉1の傾動角度等を制御するプロセスコンピュータを備えてよい。プロセスコンピュータは、例えばCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等を備えてよい。プロセスコンピュータは、例えば半導体メモリ又は電磁記録媒体等の記憶デバイスを備えてよい。プロセスコンピュータは、算出装置50等の他の装置と通信する通信インタフェースを備えてよい。
【0029】
精錬装置40は、精錬炉1の形状を測定するための測定装置を備えてよい。精錬炉1の形状は、精錬炉1の内壁6の形状、すなわち炉体形状を含んでよい。精錬炉1の形状は、精錬炉1の炉口5の形状、すなわち炉口形状を含んでよい。測定装置は、精錬炉1の3次元形状を測定できるように構成されてよい。測定装置は、精錬炉1の各部までの距離を測定するレーザー距離計等の測距センサを含んでよい。測定装置は、精錬炉1を撮影するカメラを含んでよい。測定装置は、精錬炉1の点群データを取得できるように構成されてよい。測定装置は、精錬システム100に含まれない外部の装置であってもよい。
【0030】
測定装置は、精錬炉1から溶銑3及びスラグ2が排出された状態で、精錬炉1の形状を測定してよい。測定装置がカメラである場合、カメラは、精錬炉1から溶銑3及びスラグ2が排出された状態で精錬炉1を撮影してもよいし、精錬炉1の中に溶銑3又はスラグ2が充填されている状態で精錬炉1を撮影してもよい。
【0031】
<算出装置50>
算出装置50は、精錬炉1からスラグ2を排滓する工程において精錬炉1の傾動パターンを選択するための情報を、精錬炉1の中のスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報に基づいて生成して出力する。スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報は、精錬炉1の操業情報又は精錬炉1における計測値に基づいて算出される。精錬炉1の傾動パターンを選択するための情報は、傾動パターンの複数の候補のそれぞれで精錬炉1を傾動した場合の損失コストを含む。損失コストは、スラグ2を排滓した後の工程における石灰投入コスト、又は、スラグ2を排滓するときの溶銑流出コストの少なくとも1つを含む。精錬炉1の中のスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報は、精錬炉1の中のスラグ2の質量、スラグ2の粘度、スラグ2の固相率、又は、精錬炉1の中で発生するCOガス等のガス流量の少なくとも1つを含む。算出装置50は、精錬炉1の中のスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を、精錬炉1の操業情報又は精錬炉1における計測値に基づいて算出してよい。
【0032】
算出装置50は、プロセッサ52と、記憶部54と、インタフェース56とを備える。
【0033】
プロセッサ52は、算出装置50の種々の機能を制御及び管理するために、例えばCPU又はGPU等を含んで構成されてよい。プロセッサ52は、記憶部54に格納されたプログラムを読み込んで実行することによって、算出装置50の機能を実現してよい。
【0034】
記憶部54は、算出装置50で用いる各種の情報又はデータ等を格納する。記憶部54は、例えばプロセッサ52において実行されるプログラム、又は、プロセッサ52において実行される処理で用いられるデータ若しくは処理の結果等を格納してよい。記憶部54は、プロセッサ52のワークメモリとして機能してよい。記憶部54は、例えば半導体メモリ等を含んで構成されてよいがこれに限定されない。記憶部54は、例えば、プロセッサ52の内部メモリとして構成されてもよいし、プロセッサ52からアクセス可能なハードディスクドライブ(HDD)等の電磁記録媒体として構成されてもよい。記憶部54は、非一時的な読み取り可能媒体として構成されてもよい。記憶部54は、プロセッサ52と一体に構成されてもよいし、プロセッサ52と別体として構成されてもよい。
【0035】
インタフェース56は、有線又は無線によって精錬装置40又はデータベース30等の他の装置と通信するための通信インタフェースを含んで構成されてよい。通信インタフェースは、ネットワークを介して他の装置と通信可能に構成されてよい。インタフェース56は、他の装置との間でデータを入出力する入出力ポートを含んで構成されてよい。インタフェース56は、プロセスコンピュータ又は上位システムに対して、必要なデータ及び信号を送受信する。インタフェース56は、有線通信規格に基づいて通信してよいし、無線通信規格に基づいて通信してもよい。例えば無線通信規格は3G、4G及び5G等のセルラーフォンの通信規格を含んでよい。また、例えば無線通信規格は、IEEE802.11及びBluetooth(登録商標)等を含んでよい。インタフェース56は、これらの通信規格の1つ又は複数をサポートしてよい。インタフェース56は、これらの例に限られず、種々の規格に基づいて他の装置と通信したりデータを入出力したりしてよい。
【0036】
インタフェース56は、プロセッサ52から取得した情報を出力するように構成されてよい。インタフェース56は、直接又は外部装置等を介して、文字、図形、又は画像等の視覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してよい。インタフェース56は、表示デバイスを備えてもよいし、表示デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。インタフェース56は、直接又は外部装置等を介して、音声等の聴覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。インタフェース56は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよいし、音声出力デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。インタフェース56は、振動デバイスを備えてもよい。インタフェース56は、視覚情報、聴覚情報又は触覚情報だけでなく、直接又は外部装置等を介して、ユーザが他の感覚で知覚できる情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。
【0037】
インタフェース56は、ユーザからの入力を受け付ける入力デバイスを含んでもよい。入力デバイスは、例えば、キーボード又は物理キーを含んでもよいし、タッチパネル若しくはタッチセンサ又はマウス等のポインティングデバイスを含んでもよい。入力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでもよい。
【0038】
<データベース30>
データベース30は、算出装置50が精錬炉1の傾動パターンを選択するための情報を生成するために用いる、損失コストとスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報とを関連づけた情報を格納する。損失コストは、傾動パターンの複数の候補のそれぞれで精錬炉1を傾動した場合における石灰投入コスト又は溶銑流出コストの少なくとも1つを含む。
【0039】
データベース30は、算出装置50の記憶部54の一部として構成されてもよい。データベース30は、算出装置50と別体の記憶装置として構成されてもよい。データベース30は、クラウドサービスで構成されてもよい。
【0040】
(スラグ2の排滓を実行する動作例)
本実施形態に係る精錬システム100において、算出装置50は、精錬炉1の傾動パターンを選択するための情報を生成する。また、精錬装置40は、選択された傾動パターンで精錬炉1を傾動させてスラグ2を排滓する。以下、
図4に例示されるフローチャートの手順に基づく精錬システム100の動作例が説明される。
【0041】
<ガイダンス方法の手順例>
算出装置50のプロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を算出する(ステップS1)。プロセッサ52は、精錬装置40の操業情報又は計測値に基づいて、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を算出してよい。操業情報又は計測値は、例えば、溶銑量、スクラップ量、副原料投入量、排ガスの流量若しくは成分、又は底吹きガス流量等を含んでよい。スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報は、スラグ2の質量、スラグ2の粘度、スラグ2の固相率、又は精錬炉1の中で発生するガス流量の推移のうち少なくとも1つを含んでよい。
【0042】
プロセッサ52は、例えば以下に説明するように、精錬装置40の操業情報又は計測値に基づいて、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を算出してよい。
【0043】
プロセッサ52は、溶銑量、スクラップ量及び副原料投入量に含まれる石灰成分及び不純物成分量に基づいて、スラグ2のFeO以外の組成及びスラグ2の質量を導出する。また、プロセッサ52は、スラグ2のFeO以外の組成、スラグ2の質量、及び排ガスの流量又は成分を用いて、反応熱及び顕熱の計算を行うことによって、吹錬直後のFeO質量及びスラグ2の温度を推定する。プロセッサ52は、FeO質量及びスラグ2の温度を、例えば特開2018-150589号公報に記載される方法を用いて推定してよい。
【0044】
プロセッサ52は、スラグ2のFeO以外の質量と、FeO質量とを合算することによってスラグ2の質量を算出する。また、プロセッサ52は、スラグ2の組成、スラグ2の質量及びスラグ2の温度を使用して状態図に基づく物性計算を実施することによって、スラグ2の粘度及びスラグ2の固相率を算出する。
【0045】
プロセッサ52は、精錬炉1の中で発生するガス流量の推移を、排ガス流量及び成分に基づいて推定される吹錬末期に発生するCOガス量と、スラグ2の中間排滓時の底吹きガス流量に基づいて推定されるCOガス量とを合算することによって算出する。
【0046】
プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報をモデルに入力する処理を実行する(ステップS2)。モデルは、入力されたスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報に対応する損失コストを、精錬炉1の傾動パターンの候補毎に算出する。
【0047】
精錬炉1の傾動パターンは、例えば
図5にグラフとして例示されるように、精錬炉1の傾斜角度の時間変化として特定される。
図5のグラフにおいて横軸は時間を表す。縦軸は精錬炉1の傾斜角度を表す。傾動パターンとしてCase1~5の5つのパターンが例示されている。各傾動パターンにおいて、精錬炉1の傾斜角度は、所定角度まで同じ傾斜速度で増加する。精錬炉1の傾斜角度が所定角度まで達した後、傾斜速度が遅くなる。各傾動パターンにおいて、遅くなった傾斜速度は同じであるとする。精錬炉1の傾斜角度は、遅くなった傾斜速度で増加し続け、最大の傾斜角度に達する。
【0048】
Case1の傾動パターンにおいて、所定角度はθ1で表される。θ1は、精錬炉1の最大の傾斜角度と同じである。したがって、Case1の傾動パターンにおいて、傾斜速度が変わらない間に、精錬炉1の傾斜角度が最大の傾斜角度に達する。Case2~5の傾動パターンにおいて、所定角度はθ2~θ5で表される。
【0049】
Case5の傾動パターンにおいて精錬炉1の傾斜角度が所定角度(θ5)に達するまでの期間は、P1として表されている。精錬炉1の傾斜角度が最大の傾斜角度に達するまでの期間は、P2として表されている。P2で表される期間において傾斜速度が遅くなっている。精錬炉1の傾斜角度が最大の傾斜角度に達した後の期間は、P3として表されている。言い換えれば、P2で表される期間よりも前の期間がP1で表される。P2で表される期間よりも後の期間がP3で表される。Case1においてP2で表される期間は存在しない。Case2~5においてP2で表される期間の長さが互いに異なる。各傾動パターンにおける所定角度が小さいほど、その傾動パターンにおいてP2で表される期間が長くなる。言い換えれば、所定角度が小さいほど、精錬炉1がゆっくり傾動される。
【0050】
傾動パターンは、
図5に例示されるパターンに限られない。P1で表される期間における傾斜速度を異ならせたパターンが候補として設定されてもよい。P2で表される期間における傾斜速度を異ならせたパターンが候補として設定されてもよい。最大の傾斜角度を異ならせたパターンが候補として設定されてもよい。傾動パターンを表すグラフは、直線の組み合わせに限られず、曲線を含んでもよい。
【0051】
モデルは、精錬炉1の傾動パターンの複数の候補のそれぞれについて生成されてよい。モデルが傾動パターンの候補毎に生成される場合、プロセッサ52は、傾動パターンの各候補に対応するモデルにスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を入力し、傾動パターンの各候補に対応する損失コストをモデルに算出させる。傾動パターンの各候補に対応するモデルが生成されている場合、各モデルが並列に動作できる。その結果、傾動パターンの各候補に対応する損失コストが並列に算出され得る。
【0052】
モデルは、傾動パターンの候補を特定する情報を入力として受け付けるように構成されてもよい。モデルが傾動パターンの候補を特定する情報を入力として受け付ける場合、プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と、損失コストを算出する対象とする傾動パターンの各候補を特定する情報とをモデルに入力し、傾動パターンの各候補に対応する損失コストをモデルに算出させる。傾動パターンの候補を特定する情報を入力として受け付けるモデルが生成されている場合、モデルが1つにまとめられる。その結果、モデルが簡便に管理され得る。
【0053】
モデルは、傾動パターンの各候補について、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と損失コストとを関連づけたデータベース30そのものであるデータベース形式のモデルとして構成されてよい。モデルは、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と損失コストとの関係の回帰分析モデルの形式で構成されてもよい。モデルは、あらかじめ準備されていてもよい。モデルは、算出装置50又は他の装置によって生成されてもよい。モデルは、データベース形式であるかにかかわらずデータベース30に格納されてよい。算出装置50又は他の装置がモデルを生成する手順例は、後述される。
【0054】
図4のフローチャートに戻って、プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を入力したモデルから、傾動パターンの各候補で精錬炉1を傾動させた場合の損失コストを出力させる(ステップS3)。モデルが精錬炉1の傾動パターンの各候補について生成されている場合、プロセッサ52は、傾動パターンの各候補のモデルにスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を入力し、各候補で精錬炉1を傾動させた場合の損失コストを各候補のモデルから出力させる。モデルが傾動パターンの候補を特定する情報を入力として受け付けるように構成されている場合、プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と傾動パターンの各候補を特定する情報とを入力し、各候補で精錬炉1を傾動させた場合の損失コストをモデルから出力させる。
【0055】
図6に傾動パターンの各候補について算出された損失コストが棒グラフとして例示される。損失コストは、右上がり斜線で表される石灰投入コストと、右下がり斜線で表される溶銑流出コストとに区別して出力されてよい。
図6のグラフにおいて、横軸は傾動パターンに対応する。縦軸は傾動パターンがCase2である場合の石灰投入コストと溶銑流出コストとを合計した損失コストが1になるように損失コストを規格化した値に対応する。
図6の例において、傾動パターンがCase2である場合に損失コストが最小になっている。
【0056】
以上述べてきたステップS1からS3までの手順で得られた、傾動パターンの各候補の損失コストは、スラグ2の排滓を実行する際に、精錬炉1の傾動の制御に用いる傾動パターンを選択するために参照される。したがって、傾動パターンの各候補の損失コストは、傾動パターンを選択するための案内情報として用いられる。精錬システム100を操作又は管理するユーザは、傾動パターンの各候補の損失コストを案内情報として参照し、精錬炉1を制御するために用いる傾動パターンを選択してよい。言い換えれば、プロセッサ52は、ユーザが傾動パターンを選択できるようにガイダンスを実施できる。また別の言い方をすれば、プロセッサ52は、モデルから出力された損失コストを含む傾動パターンを選択するための情報を出力する処理を実行する。
【0057】
以上述べてきたステップS1からS3までの手順は、ガイダンス方法として実行されてよい。ガイダンス方法は、プロセッサ52に実行させるガイダンスプログラムとして実現されてもよい。ガイダンスプログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。算出装置50は、ガイダンス方法又はガイダンスプログラムを実行する場合、ガイダンス装置とも称される。算出装置50とモデルを格納するデータベース30とを備える構成は、ガイダンスシステムとも称される。言い換えれば、ガイダンスシステムは、算出装置50とモデルとを備えてよい。ガイダンスシステムは、データベース30に格納されているモデルを備えてもよいし、データベース30に格納されていないモデルを備えてもよい。精錬システム100は、精錬装置40とガイダンスシステムとを備えてよい。
【0058】
<中間排滓方法の手順例>
図4のフローチャートに戻って、ステップS3でモデルから出力された傾動パターンの各候補の損失コストに基づいて、精錬装置40が精錬炉1の傾動を制御するために用いる傾動パターンが選択される(ステップS4)。上述したように、精錬システム100又は精錬装置40を操作、制御又は管理するユーザが、損失コストに基づいて傾動パターンを選択し、選択した傾動パターンで精錬装置40を制御して精錬炉1を傾動させてよい。ユーザは、損失コストが最小となる1つの傾動パターンを選択してよい。ユーザは、精錬装置40の状態を考慮して傾動パターンの候補を絞り込み、絞り込んだ候補の中から損失コストが最小となる1つの傾動パターンを選択してもよい。ユーザは、傾動パターンの各候補の損失コストと、精錬装置40の状態とに基づいて1つの傾動パターンを選択してもよい。ユーザは、精錬装置40の状態として、精錬炉1を傾動させるクレーン設備の稼働可能範囲を考慮してよい。ユーザは、精錬装置40の状態として、精錬装置40のメンテナンス後の動作回数又は動作時間を考慮してよい。ユーザは、精錬装置40の状態として、精錬装置40の定期メンテナンスまでの期間を考慮してよい。
【0059】
算出装置50のプロセッサ52が傾動パターンを選択し、選択した傾動パターンを精錬装置40に出力してもよい。プロセッサ52は、精錬装置40の状態に基づいて傾動パターンの候補を絞り込み、絞り込んだ候補の中から損失コストが最小となる1つの傾動パターンを選択してもよい。
【0060】
ステップS4で選択された傾動パターンを用いてスラグ2の排滓が実行される(ステップS5)。精錬システム100又は精錬装置40を操作、制御又は管理するユーザがユーザ自身で選択した傾動パターンに基づいて精錬装置40を操作して精錬炉1を傾動させることによって、スラグ2の排滓が実行されてもよい。プロセッサ52が選択した傾動パターンに基づいて精錬装置40が精錬炉1を傾動させることによって、スラグ2の排滓が実行されてもよい。
【0061】
ステップS5の手順の実行後、
図4のフローチャートの手順の実行が終了される。以上述べてきたステップS4及びS5の手順は、中間排滓方法として実行されてよい。上述したように中間排滓方法は、ユーザによって実行されてよいし、プロセッサ52によって実行されてもよい。プロセッサ52が中間排滓方法を実行する場合、中間排滓方法は、プロセッサ52に実行させるスラグ排滓プログラムとして実現されてもよい。スラグ排滓プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0062】
<小括>
以上述べてきたように、本実施形態に係る精錬システム100において、算出装置50は、精錬装置40の操業条件に基づいてスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を算出する。算出装置50は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報に基づいて精錬炉1の傾動パターンを選択するための案内情報として、精錬炉1の傾動パターンの各候補の損失コストを算出する。ユーザ又は算出装置50は、損失コストを考慮して精錬炉1の傾動パターンを選択してスラグ2の排滓を実行できる。その結果、操業条件の変化を考慮しつつ安定した中間排滓が実現される。
【0063】
(モデルを生成する動作例)
上述してきたように、算出装置50は、精錬炉1の傾動パターンの各候補の損失コストを算出するために、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報をモデルに入力する。モデルは、算出装置50又は他の装置によって生成されてよい。以下、算出装置50がデータベース形式のモデルを生成する動作の一例が説明される。
【0064】
算出装置50のプロセッサ52は、
図7に例示されるフローチャートの手順を含むモデル生成方法を実行してよい。モデル生成方法は、プロセッサ52に実行させるモデル生成プログラムとして実現されてもよい。モデル生成プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0065】
プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報に基づいて、スラグ2の体積及びスラグ2の見かけの粘度を算出する(ステップS11)。言い換えれば、プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を元に、スラグ2の体積及びスラグ2の見かけの粘度を算出してよい。具体的に、プロセッサ52は、スラグ2の排滓性能を左右する、フォーミングしたスラグ2の鎮静挙動及びフォーミングしたスラグ2の見かけの粘度の定式化を実行する。フォーミングしたスラグ2の鎮静挙動は、スラグ2の体積の時間変化として表される。
【0066】
スラグ2の鎮静挙動を表すスラグ2の体積の時間変化は、以下の式(1)によって算出される。ここで、V(t)[m
3]はスラグ2の体積の時間変化を表す。m
s[kg]はスラグ2の質量を表す。μ[Pa・s]はスラグ2の粘度を表す。φ
s[%]はスラグ2の固相率を表す。Q(t)[m
3/s]は精錬炉1の中で発生するCOガス流量の時間変化を表す。つまり、スラグ2の鎮静挙動は、スラグ2の質量、粘度及び固相率、並びに、発生するCOガス流量の関数として表される。
【数1】
【0067】
スラグ2の見かけの粘度は、以下の式(2)によって算出される。ここで、μ
s[Pa・s]はスラグ2の見かけの粘度を表す。μ[Pa・s]はスラグ2の粘度を表す。φ
g[%]はフォーミングしたスラグ2に含まれる気相割合である気相率を表す。φ
s[%]はスラグ2の固相率を表す。
【数2】
【0068】
気相率を表すφ
g[%]は、スラグ2の質量、密度及び体積の関数としても表される。したがって、上述した式(2)は、以下の式(3)に変形される。ここで、μ[Pa・s]はスラグ2の粘度を表す。m
s[kg]はスラグ2の質量を表す。ρ
s[kg/m
3]はスラグ2の密度を表す。V(t)[m
3]はスラグ2の体積を表す。φ
s[%]はスラグ2の固相率を表す。
【数3】
【0069】
プロセッサ52は、上述してきた式(1)及び(3)を用いてスラグ2の体積及びスラグ2の見かけの粘度を算出してよい。
【0070】
プロセッサ52は、精錬炉1の傾動パターンの複数の候補を設定し、傾動パターンの各候補で精錬炉1を傾動した場合における排滓スラグ量又は流出溶銑量を算出する(ステップS12)。排滓スラグ量は、精錬炉1を傾動パターンで傾動させた場合に精錬炉1から排滓されるスラグ2の量である。流出溶銑量は、精錬炉1を傾動パターンで傾動させた場合に精錬炉1から流出する溶銑3の量である。
【0071】
具体的に、プロセッサ52は、傾動パターンの各候補で精錬炉1を傾動した場合における、フォーミングしたスラグ2及び溶銑3の挙動の流体解析を実行する。流体解析は、数値計算によって実行されてよい。プロセッサ52は、流体解析の結果として、傾動パターンの各候補における排滓スラグ質量[kg]及び溶銑流出量[kg]を算出する。
【0072】
プロセッサ52は、排滓スラグ量に基づいて次回の吹錬時に投入する石灰量を推定し、推定した石灰量に基づいて石灰投入コストを算出する(ステップS13)。石灰投入コストは、石灰そのものの価値及び石灰を投入するために必要なエネルギーの価値を含む。プロセッサ52は、石灰投入コストを金額ベースで算出してよい。
【0073】
具体的に、プロセッサ52は、次回の吹錬時に投入する石灰質量を、精錬工程全体における精錬炉1内の燐の量のバランスに基づいて算出できる。言い換えれば、石灰質量は、排滓スラグ質量と、精錬炉1内の初期の燐量と、精錬炉1内の目標終点における燐量とに基づいて算出される。プロセッサ52は、次回の吹錬時に投入する石灰質量を、以下の式(4)を用いて算出してよい。ここで、m
l[kg]は石灰質量を表す。m’
s[kg]はステップS12で算出された排滓スラグ質量を表す。m
P[kg]は精錬炉1内の初期の燐量を表す。m’
P[kg]は精錬炉1内の目標終点における燐量を表す。
【数4】
【0074】
プロセッサ52は、次回の吹錬時に投入する石灰質量に基づいて石灰投入コストを金額ベースで算出してよい。プロセッサ52は、次回の吹錬時に投入する石灰量のうち過剰になった石灰量に基づく石灰コストの増加分を石灰投入コストとして算出してもよい。プロセッサ52は、単位質量当たりの石灰のコストに基づいて石灰投入コストを算出してよい。
【0075】
プロセッサ52は、流出溶銑量に基づいて溶銑流出コストを算出する(ステップS14)。溶銑流出コストは、流出した溶銑3そのものの価値を含む。プロセッサ52は、溶銑流出コストを金額ベースで算出してよい。プロセッサ52は、溶銑3の流出による歩留まりの減少に基づく損失を溶銑流出コストとして算出してよい。プロセッサ52は、単位質量当たりの溶銑3のコストに基づいて溶銑流出コストを算出してよい。
【0076】
プロセッサ52は、石灰投入コスト又は溶銑流出コストの少なくとも1つに基づいてデータベース形式のモデルを生成する(ステップS15)。プロセッサ52は、石灰投入コスト若しくは溶銑流出コストのいずれか、又は、石灰投入コスト及び溶銑流出コストを合算したコストを損失コストとして算出する。プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と損失コストとを関連づけてデータベース30に格納する。
【0077】
例えば、プロセッサ52は、石灰投入コスト及び溶銑流出コストを合算したコストを、以下の式(5)を用いて算出してよい。ここで、Lは損失コストを表す。L
mは溶銑流出コストを表す。L
lは石灰投入コストを表す。ΔL
mは単位質量当たりの溶銑3のコストを表す。m’
mは流出した溶銑3の質量を表す。ΔL
lは単位質量当たりの石灰のコストを表す。m
lは次回の吹錬時に投入する石灰質量を表す。
【数5】
【0078】
プロセッサ52は、損失コストを算出するために用いたスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と、その情報に基づいて算出した損失コストとを関連づけてデータベース30に格納する。プロセッサ52は、以上述べてきたように、データベース形式のモデルを生成できる。
【0079】
プロセッサ52は、回帰分析のモデルを生成してもよい。プロセッサ52は、回帰分析のモデルを生成する場合、実際の精錬工程におけるスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と、実際の精錬工程におけるスラグ2の排滓量又は溶銑3の流出量とを取得して回帰分析を実行してよい。プロセッサ52は、回帰分析の結果に基づいて回帰式を生成し、回帰式に基づくモデルを生成できる。
【0080】
プロセッサ52は、実際の精錬工程におけるスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と、実際の精錬工程におけるスラグ2の排滓量又は溶銑3の流出量とを学習データとして用いる機械学習を実行してよい。プロセッサ52は、機械学習を実行することによって、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を入力したときに損失コストを出力する学習済みモデルを生成してもよい。
【0081】
プロセッサ52は、実際の精錬工程におけるスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報、並びに、実際の精錬工程におけるスラグ2の排滓量又は溶銑3の流出量を離散的なデータとして取得した場合に、データの補間によって中間のデータを生成してもよい。回帰分析又は機械学習のために用いられる、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報は、例えばビーカー内における実験データとして取得されてもよい。
【0082】
<精錬炉1の形状に基づく動作例>
上述してきたように、算出装置50は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報に基づいて、損失コストを小さくするように精錬炉1の傾動パターンを選択するための情報を生成する。ここで、精錬工程における損失コストに影響を及ぼすスラグ2の排滓量又は溶銑3の流出量は、精錬炉1の形状に応じて定まる。
【0083】
精錬炉1の形状は、精錬炉1で精錬を実施することによって変形することがある。例えば
図8に示されるように、精錬炉1の内壁6が損耗することによって、精錬炉1の炉体形状が変形することがある。
図8の(a)は、未使用の状態の精錬炉1の断面形状を表す。
図8の(b)は、精錬の実施によって内壁6が損耗して破線で示される未使用の状態における内壁6の位置から内壁6bの位置まで薄くなった状態の精錬炉1の断面形状を表す。
図8の(c)は、
図8の(b)よりも精錬の実施回数を増やして内壁6がさらに損耗して内壁6cの位置まで薄くなった状態の精錬炉1の断面形状を表す。精錬炉1における精錬の実施回数が増えるほど精錬炉1の内壁6の損耗が大きくなることが分かる。
【0084】
精錬炉1の内壁6の損耗が大きくなるほど、精錬炉1の内容積が大きくなる。精錬炉1の内容積が大きくなることによって、精錬炉1の中で溶銑3の液面の位置が低くなる。溶銑3の液面の位置が低くなった場合、精錬炉1が同じ傾動パターンで動作した場合であってもスラグ2が排滓されにくくなる。つまり、精錬炉1の内壁6の損耗の度合いは、損失コストを小さくするように傾動パターンを選択するための情報に影響を及ぼす。その結果、精錬炉1の炉体形状を考慮して精錬炉1の傾動パターンを選択することによって、損失コストが低減され得る。
【0085】
また、
図9及び
図10に例示されるように、精錬炉1の炉口5に地金4が付着することによって、精錬炉1の炉口形状が変形することがある。
図10は、
図9のA-A断面図である。精錬炉1の炉口5が狭くなった場合、精錬炉1が同じ傾動パターンで動作した場合であってもスラグ2が排滓されにくくなる。つまり、精錬炉1の炉口形状は、損失コストを小さくするように傾動パターンを選択するための情報に影響を及ぼす。その結果、精錬炉1の炉口形状を考慮して精錬炉1の傾動パターンを選択することによって、損失コストが低減され得る。
【0086】
算出装置50は、精錬炉1の形状に関する情報に基づいて精錬炉1の傾動パターンを選択するための情報を生成してよい。精錬炉1の形状に関する情報は、精錬炉1の炉体形状又は炉口形状の少なくとも一方に関する情報を含んでよい。以下、
図11に例示されるフローチャートの手順を精錬システム100が実行する動作例が説明される。
【0087】
算出装置50のプロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を算出する(ステップS21)。プロセッサ52は、ステップS21の手順を
図4のステップS1と同様に実行してよい。
【0088】
プロセッサ52は、精錬炉1の形状に関する情報を取得する(ステップS22)。プロセッサ52は、精錬装置40が備える測定装置、又は、外部の測定装置から、精錬炉1の形状に関する情報を取得してよい。プロセッサ52は、精錬炉1の形状に関する情報として、レーザー距離計から精錬炉1の各部までの距離の測定結果を取得し、距離の測定結果に基づいて空間を再構築することによって精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状を算出してよい。プロセッサ52は、精錬炉1の形状に関する情報として、カメラから精錬炉1を撮影した画像を取得し、精錬炉1の画像に基づいて精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状を算出してよい。測定装置が精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状の測定データを生成して出力してもよい。プロセッサ52は、測定装置から、精錬炉1の形状に関する情報として、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状の測定データを取得してよい。
【0089】
プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と精錬炉1の形状に関する情報とをモデルに入力する処理を実行する(ステップS23)。プロセッサ52は、ステップS23の手順のうちスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報をモデルに入力する処理について、
図4のステップS2と同様に実行してよい。
【0090】
プロセッサ52は、精錬炉1の形状に関する情報として、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状の測定データをモデルに入力してもよい。
【0091】
プロセッサ52は、精錬炉1の形状に関する情報として、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状の測定データのうち特徴的な事項を表すパラメータの値を抽出してモデルに入力してもよい。
【0092】
プロセッサ52は、精錬炉1の炉体形状を表すパラメータとして、例えば、精錬炉1の内容積を算出してよい。精錬炉1の内容積が大きいほど精錬炉1の中における溶銑3の液面の位置が低くなる。溶銑3の液面の位置が低くなるほど、溶銑3の上のスラグ2が排滓されにくくなる。その結果、精錬炉1の内容積は、損失コストに影響を及ぼす。
【0093】
プロセッサ52は、精錬炉1の炉体形状を表すパラメータとして、例えば、精錬炉1の内壁6の損耗量を算出してよい。プロセッサ52は、精錬炉1の内壁6のうち、精錬炉1の側部の損耗量を算出してもよいし、精錬炉1の底部の損耗量を算出してもよい。プロセッサ52は、精錬炉1の炉体形状を表すパラメータとして、精錬炉1の炉体の壁の肉厚を算出してもよい。
【0094】
精錬炉1の内壁6の損耗量が大きいほど、精錬炉1の内容積が大きくなる。また、精錬炉1の炉体の壁の肉厚が薄いほど、精錬炉1の内容積が大きくなる。そして、精錬炉1の内容積が大きいほど精錬炉1の中における溶銑3の液面の位置が低くなる。溶銑3の液面の位置が低くなるほど、溶銑3の上のスラグ2が排滓されにくくなる。その結果、精錬炉1の内壁6の損耗量又は精錬炉1の壁の肉厚は、損失コストに影響を及ぼす。
【0095】
プロセッサ52は、精錬炉1の炉口形状を表すパラメータとして、例えば、精錬炉1の炉口5の開口率を算出してよい。炉口5の開口率は、炉口5を平面視したときに、地金4の付着によって狭くなった開口の面積を、地金4が付着していない状態における炉口5の開口の面積で割った値として算出されてよい。精錬炉1の炉口5の開口率が小さいほど、スラグ2が排滓されにくくなる。その結果、炉口5の開口率は、損失コストに影響を及ぼす。
【0096】
スラグ2は、精錬炉1の炉口5のうち、精錬炉1が傾動したときに低くなる側の半円から排滓される。つまり、損失コストは、精錬炉1の炉口5のうち、精錬炉1が傾動したときに低くなる側の半円の形状から大きく影響を受ける。したがって、プロセッサ52は、精錬炉1の炉口形状を表すパラメータとして、損失コストの算出精度を高めるように、炉口5の外縁のうち精錬炉1が傾動したときに低くなる方の半円の開口率を算出してもよい。
【0097】
プロセッサ52は、精錬炉1の炉口形状を表すパラメータとして、炉口5の半径データを算出してよい。炉口5の半径データは、炉口5の中心から炉口5の外縁の各部までの距離として表される。炉口5に地金4が付着していない場合、炉口5の半径データは、各方向に一様の半径として算出される。炉口5の形状が地金4の付着によって非対称になっている場合、炉口5の半径データは、例えば、炉口5の半径の測定方向における炉口5の中心から外縁までの距離と、基準方向に対する測定方向の角度との関係として算出される。基準方向は、精錬炉1が傾動したときに炉口5の外縁が最も低くなる方向であってよい。
【0098】
精錬炉1が傾動したときに炉口5の外縁が低くなる方向の半径が小さいほど、スラグ2が排滓されにくくなる。つまり、精錬炉1が傾動したときに炉口5の外縁が低くなる方向における地金4の付着量が多いほど、スラグ2が排滓されにくくなる。その結果、炉口5の半径データは、損失コストに影響を及ぼす。
【0099】
プロセッサ52は、精錬炉1の炉口形状を表すパラメータとして、炉口5の全周の半径の平均値を算出してもよいし、炉口5のうち精錬炉1が傾動したときに低くなる側の半円の半径の平均値を算出してもよい。炉口5の半径の平均値が小さいほど、スラグ2が排滓されにくくなる。その結果、炉口5の半径の平均値は、損失コストに影響を及ぼす。
【0100】
モデルは、入力された情報に対応する損失コストを、精錬炉1の傾動パターンの候補毎に算出する。プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と精錬炉1の形状に関する情報とを入力したモデルから、傾動パターンの各候補で精錬炉1を傾動させた場合の損失コストを出力させる(ステップS24)。プロセッサ52は、ステップS24の手順を
図4のステップS3と同様に実行してよい。
【0101】
ステップS24でモデルから出力された傾動パターンの各候補の損失コストに基づいて、精錬装置40が精錬炉1の傾動を制御するために用いる傾動パターンが選択される(ステップS25)。
図4のステップS4と同様に、精錬システム100又は精錬装置40を操作、制御又は管理するユーザが、損失コストに基づいて傾動パターンを選択し、選択した傾動パターンで精錬装置40を制御して精錬炉1を傾動させてよい。プロセッサ52が傾動パターンを選択し、選択した傾動パターンを精錬装置40に出力してもよい。
【0102】
ステップS25で選択された傾動パターンを用いてスラグ2の排滓が実行される(ステップS26)。ステップS26の手順は、
図4のステップS5の手順と同様に実行されてよい。ステップS26の手順の実行後、
図11のフローチャートの手順の実行が終了される。
【0103】
上述してきたように、算出装置50は、精錬炉1の傾動パターンの各候補の損失コストを算出するために、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と精錬炉1の形状に関する情報とをモデルに入力する。したがって、モデルは、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報の他に、精錬炉1の形状に関する情報を入力できるように生成される必要がある。以下、精錬炉1の形状に関する情報を入力できるモデルを算出装置50のプロセッサ52が生成する動作例が説明される。
【0104】
プロセッサ52は、
図12に例示されるフローチャートの手順を含むモデル生成方法を実行してよい。モデル生成方法は、プロセッサ52に実行させるモデル生成プログラムとして実現されてもよい。モデル生成プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0105】
プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報に基づいて、スラグ2の体積及びスラグ2の見かけの粘度を算出する(ステップS31)。プロセッサ52は、ステップS31の手順を
図7のステップS11と同様に実行してよい。
【0106】
プロセッサ52は、精錬炉1の形状データを算出する(ステップS32)。プロセッサ52は、
図11のステップS22と同様に、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状のデータを、精錬炉1の形状データとして算出してよい。プロセッサ52は、測定装置から、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状のデータを、精錬炉1の形状データとして取得してもよい。
【0107】
プロセッサ52は、精錬炉1の傾動パターンの複数の候補を設定し、傾動パターンの各候補で精錬炉1を傾動した場合における排滓スラグ量又は流出溶銑量を算出する(ステップS33)。プロセッサ52は、ステップS31の手順を
図7のステップS12と同様に実行してよい。
【0108】
プロセッサ52は、排滓スラグ量に基づいて次回の吹錬時に投入する石灰量を推定し、推定した石灰量に基づいて石灰投入コストを算出する(ステップS34)。プロセッサ52は、流出溶銑量に基づいて溶銑流出コストを算出する(ステップS35)。プロセッサ52は、ステップS34及びS35の手順を
図7のステップS13及びS14と同様に実行してよい。
【0109】
プロセッサ52は、石灰投入コスト又は溶銑流出コストの少なくとも1つに基づいてモデルを生成する(ステップS36)。プロセッサ52は、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と精錬炉1の形状に関する情報とを損失コストに関連づけてデータベース30に格納してデータベース形式のモデルを生成してよい。プロセッサ52は、ステップS36の手順を
図7のステップS15と同様に実行してスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報を損失コストに関連づけてよい。
【0110】
プロセッサ52は、データベース形式のモデルを生成する場合、精錬炉1の形状に関する情報として、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状の測定データのうち特徴的な事項を表すパラメータの値を算出して損失コストに関連づけてよい。精錬炉1の形状に関する情報がパラメータの値で代表されることによって、データベース形式のモデルを生成するために必要とされるデータ数が削減され得る。
【0111】
プロセッサ52は、モデルとして回帰分析モデルを生成する場合、実際の精錬工程におけるスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と、実際の精錬炉1の形状に関する情報と、実際の精錬工程におけるスラグ2の排滓量又は溶銑3の流出量とを用いて回帰分析を実行してよい。プロセッサ52は、精錬炉1の形状に関する情報として、精錬炉1の炉体形状若しくは炉口形状、又は3次元形状の測定データを回帰分析に用いてよい。プロセッサ52は、回帰分析の結果に基づいて回帰式を生成し、回帰式に基づくモデルを生成できる。
【0112】
プロセッサ52は、実際の精錬工程におけるスラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と、実際の精錬炉1の形状に関する情報と、実際の精錬工程におけるスラグ2の排滓量又は溶銑3の流出量とを学習データとして用いる機械学習を実行してよい。プロセッサ52は、機械学習を実行することによって、スラグ2のフォーミング及び鎮静に関する情報と精錬炉1の形状に関する情報とを入力したときに損失コストを出力する学習済みモデルを生成してもよい。
【0113】
プロセッサ52は、実際の精錬炉1の形状に関する情報を離散的なデータとして取得した場合に、データの補間によって中間のデータを生成してもよい。
【0114】
プロセッサ52は、ステップS36の手順の実行後、
図12のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0115】
(他の実施形態)
上述してきたガイダンス方法及び中間排滓方法を実行することによって、精錬炉1からスラグ2が排滓される。精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述したガイダンス方法で生成した損失コストに基づいて選択した傾動パターンで精錬炉1を傾動させることによって精錬炉1からスラグ2を排滓してよい。精錬装置40のプロセスコンピュータは、スラグ2を排滓した後で、精錬炉1の中に副原料を添加して次の吹錬を実行してよい。精錬システム100又は精錬装置40のプロセスコンピュータは、副原料を添加した炉の中で吹錬を実行する工程と、上述した中間排滓方法を実行する工程とを含む、溶銑3の精錬方法を実行してよい。
【0116】
精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述した精錬方法を実行することによって処理した溶銑3を精錬炉1から流し出すことによって、溶鋼を製造してよい。精錬システム100又は精錬装置40のプロセスコンピュータは、上述した精錬方法を実行することによって精錬した溶銑3を流し出す工程を含む、溶鋼の製造方法を実行してよい。
【0117】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0118】
100 精錬システム
30 データベース(モデルの一例)
40 精錬装置(1:精錬炉、2:スラグ、3:溶銑、4:地金、5:炉口、6:内壁、6b、6c:損耗した状態の内壁、42:上吹きランス)
50 算出装置(52:プロセッサ、54:記憶部、56:インタフェース)